大池田劇場(小説のブログです) -2ページ目

ペットショップにて

        ペットショップにて
              1
「奥様、ご注文の子達入りましたよ。気に入ったのが

ありますか?」
ペットショップの女子店員は、お金を持っていそうな中

年の婦人に声をかけた。
 旦那が最近亡くなり、一人で淋しい生活を送っている

らしい。
「この品種は、今大人気ですのよ。小さくて大人しいの。

それに臭いがほとんどしない子なんです。」
店員は檻の中で大人しく遊んでいるいる子達を指さし

てそう説明した。
 「この子、良さそうね。メスなの?」
婦人はそのうちの一匹が気に入ったようだ。
 「さすがにお目が高いですね。この子は今回入荷した

中で、一番値段が張った子なのです。」
店員は檻の中に手を入れてその子をつまみ上げた。
 「でも、メスだと増えると困るわね。ある程度自由にさ

せてあげたいし・・。」
 メスと聞いてちょっと迷っているようであった。
 「大丈夫ですよ。うちの店ではちゃんと手術して出荷

しますから・・。」
知り合いの動物病院へ頼んでくれるようである。
 「そう、お願いできるのね。自分で病院へ連れて行く

のはやっぱりちょっと可愛そうだし・・。」
病院で騒がれるのも嫌だし、終わった後のぐったりし

た様子を見るのはつらいものである。
 「値段の方は両手ぐらいかな?」
婦人は両手を広げて合図した。
 「そうです、そんなものですね。少しおまけしますよ。」
結構な値がするようである。
「毛並みの良い子ね。」
婦人は愛おしそうに顎の下を撫でた。
 「そうでしょう、黒い毛に艶があるでしょう。これほどの

子はあまり居ないのですよ。」
自分も抱いてみたくなったのだろう。
 店員の手から受け取ろうとした。
 「抱くと暴れるのね。爪を立てたわ、おお痛い。」
 大人しく抱かせてはくれないようである。
 扱いの慣れた店員のようにはいかない。
 「抱くのを嫌がる子が居るのです。徐々に慣れていくと

思いますけどね。」
しばらく家に置いて、ペットとの信頼関係を築いてから

のことになりそうである。
「大きな瞳が可愛いわね。」
婦人は顔をのぞき込んだ。
 動物は怖がって目を背ける。
 「そうでしょう?緑とか青とかありますけど、やっぱり黒

いのが一番ですよ。見ているとすいこまれそうです。」
中年の婦人は購入を決めたようである。
 店員に紙幣を十枚渡した。
「首輪は女の子だし、赤かピンクがいいかな。」
 次に、動物の装飾品に目が行っているようである。
 「そうですね、やはりピンクがお似合いだと思いますよ。

あまり首輪を付けない人が多いですけど、つけないと役

所に捕まっても助けてあげられないですからね。」
首輪なしで自由にさせていると、戻して貰うのが難しく

なる。
 ちゃんと首輪に持ち主の名前を書いておいた方が無

難である。
 「こんにちわ、私が新しいお母さんですよ・・。」
婦人は動物に話しかけた。
 「・・・・。」
怖がっているのか知らん顔をして横を向いている。
 「もし、言葉が分かったらといつも思うわ。」
婦人はつれなくされて淋しそうである。
 「それは無理ですよ。鳴き声からかなり感情の理解は

出来ますけどね。」
「それじゃ、この子をもらうわよ。」
動物にはかわいいピンクの首輪が付けられた。
 売約済みとなったので別のカゴに入れられる。
「ちょっと暴れているわね。」
 カゴに入れられるのを嫌がっているようだ。
 どこかへ連れて行かれるのがわかるのだろう。
 「環境が変わるので怖がっているのでしょう。すぐにな

れますよ。」
 店員は笑ってそう言った。
 よいご主人に貰われて幸せになることだろう。
            2
 『やめて、出してよ。私をどこへ連れて行くつもりなの

?』
 女の子は必死で檻を叩いた。
 『出して、助けて!私は地球へ帰りたいの・・・。』
 今、アルファ星のカエル人の間では、ペットとしての日

本人女性が大人気である。


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(実は一つの話を完結して他の話へ行くという手法

をとっておらず、いくつかのシリーズを並行して書い

ていますので、目次をご覧になった方がわかりやす

いかと思います。きまぐれで他のシリーズへ飛びま

す。)


増刊号の「山池田」です。

現在、なぞの物質・「福田樹脂」載せています
よろしくお願いしますね(。・ω・)ノ゙

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(山池田は登山日記と、自分では今一つと思っている

話を載せています。掲載は不定期です。)


名君

            名  君
             1
 現在の茨城県に藤井紋太夫という武士が居た。
 藩の重責を担う家老の地位である。
 「殿の所業には困ったものよの。」
 それが彼の口癖だった。
 小姓の時から藩主に仕え、ずっと側近として支え

続けていたが、その一生は彼に振り回され続ける

ものだった。 

 若いときには、刀の試し切りと称して街頭で辻斬

りを行った。
 神社の縁の下に住んでいた何の罪もない被差別

民を、引き出して切ったりもした。
 もちろん相手は無抵抗である。
 藩主は、いわゆる傾奇者(かぶきもの)と言われ

た当時の不良だったのだ。
 家格が高いので誰も意見を言うものなく、金に飽

かせて屈強な武士を雇い、女物の服を着て遊郭を

練り歩いていたのであるから始末が悪い。
 若くして藩主になってからは、さすがに街中での

狼藉は控えるようになったが、今度は道楽に凝る

ようになった。
亡命してきた明国の学者を雇い、その言いなりに

なって国史の研究に湯水のようにお金を使ったの

である。
 「殿、このままでは藩の財政は・・・。」
 側近の者が意見しても聞く耳を持たない。
 良い書物があると聞くとお抱えの学者を派遣し、

写本を作らせたり、買い付けさせたりした。
 本来は国家事業で行うべき様なことを、現在の

県が行っていたのである。
 おまけに学者の言うままに大陸風の庭作りに没

頭した。
 こういった庭園の造成にも金がかかる。
 名工を呼び寄せ、珍しい高価な石、庭木を集め

た。国元だけでは飽き足らず、江戸屋敷に造った

りもした。
 自然、藩の財政はひっ迫する。
 紋太夫が調べたところ、国史の編纂事業に藩財

政の三分の一が費やされていた。
 「収入が足りません。」
 藩の勘定役がそう訴えても、聞く耳を持たなかっ

た。
 「足りなければ百姓から取ればいいではないか。」
 元々家格の割に石高の少ない藩であったので、多

額の交際費を要していた。
 それに庭造りだの国史編纂事業だのの文化事業

が上乗せとなったのである。
 領民の苦しみは並大抵のことではなかったのだ

が、根っからの殿様であり貴族であった藩主はそ

んなことを考慮するような人ではなかった。
 元々若いときの辻斬りに見られるように、百姓な

ど人間だとは思っていなかったのである。
           2
 「紋太夫さま、助けてください。」
 そう言って藩の庄屋などがひっきりなしに藤井紋

太夫の元を訪れた。
 しかし彼はどうすることもできない。
 藩主の性格を知っているからだ。彼は誰の言うこ

とも聞かない人だった。
 中途半端に頭が良いので、迂闊なことを言うと言

いくるめられてしまう。
 「わかった、わかった。良く伝えておくから・・・。」
 そう空返事をして返すのがやっとだった。
「金がないのであれば、これからは交易で儲けよ

うと思う。」
 そう言って巨船を建造するよう紋太夫に言いつけ

た。
 船を建造する多額の費用とかは、配下の武士が

捻出するのであるから、考えなくてよい。
 何を交易するのか、販路はどうするのか、採算は

取れるのかとかも考える必要がなかった。
 藩主は世間知らずのお坊ちゃんだったのである。
 当然こういった費用は農民に負わされることとな

った。
 やがて領内は年貢が納められなくなり、逃散する

農家が続出した。
 今日でいうところの夜逃げであるが、これは封建

社会では許されることではない。
 当時はどんな職業に就くにも身元保証を要したか

ら、土地を放棄して無宿人になる人はまともな職業

に就けないのである。 
どうにもならない最後の手段だっただろう。残るも

地獄、去るも地獄だった。
 藩主は色ごとにふける人で領民の苦労を尻目に、

御殿に上がった女中に手を付けることに余念がな

かった。
 子ができると、「水にせよ。」と言った。
 子供に対してあまり愛情を持たない人だったのだ

ろう。自身の親もそう言う人だった。
 彼は父親に殺されるところを、家臣が匿って密か

に養育したのである。
 女子供などそういったものだと思っていたのかもし

れない。
 さすがに老境に入ってくるとそれは控えられたが(

その結果が自分に帰ってきて藩財政を更に悪化さ

せることに気付いたのだろう)、今度は遊郭通いをす

るようになり、それは死ぬまで止まらなかった。
 安い女郎など買うはずがなかったであろうから、そ

れはそれで負担になったに違いない。
 自身の領内に自分で遊郭を作ったという噂さえあ

るくらいである。
 やがて藩財政は完全に破たんし、武士に対しても

借り上げと称して給与の一部を上納するよう要求す

る始末だった。
             3
 「お主の藩のことだが・・・。」
 ある日、藤井紋太夫は幕府の高官に呼ばれた。
 「農民の逃散が相次いでいると言うではないか。」
 当然のことながら、藩財政がひっ迫してとんでもな

いことになっているのは、幕府の耳にも届いていた。
大規模な一揆でも起これば大変なことになる。
 中央政府は内乱など望んではいなかった。
 「どうだ、藩主の子はもう立派に成長しているという

ではないか?そろそろご隠居を薦めてみては・・・。」
 そう提案したのは柳沢吉保だった。
 この人は講談の世界では綱吉に悪事をそそのかす

陰謀家と言われているが、実際はそんな人ではなか

った。
 ほとんど自分の意見など言わないイエスマンである。
 江戸幕府は高官の合議制を取っていたので幕府の

総意だったのだろう。
 江戸時代の藩は現在の県と違って、完全な自治権

を持った国家である。
現代の国が、県に命令するようなわけにはいかない。
 だから自主的に改革(この場合は藩主の引退)をす

るよう迫ったのである。
 藤井紋太夫は大変な役を仰せつかったが、これは

家老である彼にしかできなかったことだった。
 幕府の威光を盾に、なんとか藩主に隠居を認めさ

せたのである。
             4
 藩主が引退してから紋太夫は藩財政の立て直しを

図ることとした。
 当面やらねばならないこと、それは領民を苦しめて

いる文化事業の抑制だった。
 しかし、これは思った以上になかなか進展しなかっ

た。
長い間、たくさんの金が動いていたので、そこに利

権が生じていたのであろう。
 方針の転換はお抱えの学者たちの収入を切ること

となる。
 当然そこに反対が生じたに違いない。
 民主国家ではないので、苦しめられていた百姓に意

見を言う場はない。
 文句を言うのは一部の特権階級だけだった。
 一見すると不満が領内に蔓延しているように見えた

であろう。
 藩主は城内のことしか知らない貴族なのだから・・・。
             5
 その日、江戸屋敷では前藩主が親しかった大名、

旗本を招いて能楽の遊宴が開かれていた。
 文化人だった藩主は自らも「千手」とう舞を披露し、

舞い終えて平服に着替えると控えの間で休んでいた。
 「もし暇があれば私のところへ来てくれないか、何か

重大な用事があればかまわないが・・・。」
医師玄桐が、藩主がそう言って呼んでいると紋太夫

に知らせに来た。
 「なにごとか?」
 そう思ったが藩主の命令であるので、断るわけにも

いかない。
 行くと藩主は部屋の障子を閉め、衝立をたてた向こ

うに正座していた。
 紋太夫の顔を見ると、そこに座るように言った。
 かしこまり頭を下げる紋太夫。
 「そこ元のこのごろの専横、目に余るものがある。」
 そう藩主は静かに小声で言うと、いきなり紋太夫の

頭を押さえつけた。
 「殿、何をなさるのですか・・・。」
 紋太夫は、藩主に押さえつけられた首筋が、急に火

のように熱くなるのを感じた。
 小刀を突き刺されたのである。
 『そうか、国史編纂を止めようとしたのが気に入らな

かったのか・・・。』
 わしが犠牲になってことが収まるのならそれでよしと

すべきか。
 紋太夫はそう思って特に抵抗もしなかった。
 (その場を見ていた医師玄桐がそう証言している。)

元禄七年十一月二十三日、徳川光圀は小石川の水

戸藩邸において、家老藤井紋太夫を手打ちにした。
 彼は講談の世界では天下の副将軍と言われ、名君と

称された人である。
 別名を水戸黄門というらしい・・・。



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みにくいアタシ

           みにくいアタシ
             1
「また、テンポがずれている・・・。」
母親の京子が楽譜で激しく私の頭を叩いた。
「何度言ったらわかるのだ。私の言うとおりにしろ!」
横で見ていた父親が激しく恫喝する。
 「本当に・・・、音楽一家に生まれたのに、なぜおまえ

だけが落ちこぼれなの?」
母親が憐れむようにそうこぼした。
 うちの家は父も母も高校の音楽教師だった。二人と

も絶対音感を持っている。
私にだけ絶対音感がなかった。
これはピアノを弾く時にはひどく不利なのである。
どうしても少し指さばきなどが遅れるらしく、それが父

母には我慢できないようであった。
 「私、もうピアノなんかやらないからね!」
中学くらいになると、私は両親の指導にひどく反発す

るようになっていた。
 父母ともに音楽教師として、ピアノが専門だったから、

どうしても私にその技を身に着けてほしかったのだろ

う。
 姉は優秀な人で、どんな演奏もそつなくこなした。
 絶対音感を持っていたので、一度聞いた音楽は、ス

ラスラと頭の中に音符がイメージされるらしい。
 だから指の出方がスムーズなのだ。
 どうやってみても、姉の真似はできなかった。
うちの父親は口うるさく、厳しい人だった。
 祖父はとても有名な音楽家で、ピアノでは日本で右に

出るものがいないといわれた人だったらしい。
 今は外国に行ってしまって、もう何年も日本には帰っ

ていないけれど・・・。
 父親も、天才の祖父に厳しく躾けられたようである。
「なんで成績悪いのに、化粧なんかしている。」
生活面でも口うるさく、薄くルージュなど引いているの

を見つけると、さんざんに殴られた。
 洗面器の水に顔をつけられ、窒息しそうな位にまで

許してくれなかったこともある。
 他にも何度も何度も虐待を受けた。
 「お前なんか生まれてこなければよかったのに・・

・。」
両親は自分の理想像を私に押しつけたかったようで

ある。
 有名な音楽大学に通う、躾の良い淑女。それを私に

求めたのだ。
 私はいつしか自分の存在価値が見いだせなくなり、

自傷行為を繰り返すようになった。
 「生まれてきて済みません。」
 口には出さなくなかったが、それが私の両親に対する

思いで、全てだった・・・。
             2
高校になってから、私は家を飛出し、一人暮らしをす

るようになった。
 初めて自由になったが、心の傷は消えず、相変わら

ず自傷行為を繰り返した。
 手を切っているとき、すなわち死を目の前に感じた時

が、一番自分の存在を確かめることができる。
 「ああっ、生きているんだ。」という、実感が沸くのだ。
 これは止めようと思っても、止められるものではなか

った
ピアノを諦めた私だったが、社会人になってからサッ

クスをするようになった。
 女性では珍しいので、かなり注目を集めるようである。
 「素晴らしい演奏でしたよ。志穂さん。」
時折、演奏が終わるとそんなことを言ってくれる人が

居る。
 「いえ、そんなこと・・・。私なんか素人ですから・・・。」
私のサックスは、上手い人の見よう見まねで、我流で

やっている。
 一度も人の指導など受けたことはなかった。
「あっはは。何を馬鹿な、ご謙遜を・・・。」
そういって褒める人が居るけども、そんな人は音楽に

対して素人だと思う。
 もしくは、若い私の気を引こうと、白々しいお世辞を言

っているように思えた。
 音楽を通じていろんな仲間ができたけど、誰も私の苦

しみを理解する人が居なくて、心は空虚なままだった。
               3
 そんなある日のこと、フランス料理店の余興として演奏

している私の前に、意外な人物が現れた。
 小森一誠という人だ。
 一番前の上等な席で一人で座っている。料理には手も

付けていないようだ。
サックスでは、日本で一番といわれている名手である。
 どうしてこんなとこへ来たのだろうか?
難しい顔をして、一番前の席で私の演奏を聴いている。

はっきり言ってやりにくい。
 「ダメよ、気にしては・・・。自分の演奏に集中しなけれ

ば・・・。」
 氏の口元には笑みが浮かんでいた。おそらく嘲笑して

のことだろう。
地獄のような30分間が終わった。
 緊張で喉がカラカラである。
 でも、失敗なくやり終えた後には、心地よい疲労が残っ

た。
「いや、この目で確認して良かった。素晴らしい演奏で

す。」
演奏が終わると、小森一誠氏は握手を求めてきた。
 「失礼ですが・・・、指導者は誰ですが?」
妙なことを聞くなと思った。
 「誰にも・・・、我流でやっています。」
自分一人でこれまでやってきたから、自分の曲というの

にまったく自信がなかった。
 「誰にも・・・?、いや驚いた。それでこのレベルにまで

達するとは・・・。」
小森氏は大げさに驚いて見せた。
 嘘を言っているようには見えなかった。
 「お恥ずかしいですわ。」
小森氏は私の肩を軽く叩いて励ました。
 「たしかに私の目から見れば、直した方がよいところは

ある。でもあなたはそれを直してはいけない。」
悪いところをあえて直さない?
 「無理に直すと小さく固まってしまって、あなたの良いと

ころが死んでしまう。」
初めて自分を認めてくれる人を知って、目の奥が熱くな

った。
 「大丈夫です、自分に自信を持って・・・。剣術で言えば、

あなたは我流で一流派を築いているようなものだ。
 余程の腕に覚えのあるものでなければ、あなたと勝負

して一本を取ることは難しい。おそらく、そんな人は私を

含めて日本には5人もいないでしょう。」
そう言って、私を褒め称えた。
 「しつこいようですが、あなたはわが道を究めてくださ

い。」
私は両目から涙が零れ落ちるのを感じた・・・。
 「いえ、駄目です。私なんか・・・。私なんか・・

・。」
 言葉にならない声で、そう答えるのがやっとだった。
              4
それからしばらくして、私は小森氏のつてを通じ、演奏

者としてデビューすることになった。
 いくらか人気も出始めたころ、急に行方不明だった祖

父が、私に会いたいとメールを送ってきた。
 祖父は自由人で、父母とはずっと連絡がつかなかった

らしい。
 自由気ままに生きたい人だったのだ。
「さすがは、わが孫だ。いい音をさせている。」
祖父はパソコンで私の演奏を聴いたらしい。
 「良い時代になったものだ。アメリカに居ながら日本の

音楽が聞ける。」
私のことを見つけた祖父は、一度顔を見たくなったよう

である。
 「でも、私にはお父さんやお母さん達と違って、絶対音

感がないです・・・。」
 それで小さいときは苦労した。
 自分には才能がないと思った。
 お父さん達のような天才にはなれないのだと・・・。
 「はっはは、絶対音感?そんなものは技術論だ。芸術

とは技術を超えたところにあるものだよ。」
 祖父はそう言って笑い飛ばした。
 実は祖父にも絶対音感などなかったのである。
「おまえの父親はろくでもない男だったな。何度教えて

も芸術というものを理解しない。」
連絡がつかなかったのは、祖父と父があまり仲が良く

なかったからかもしれない・・・。
 「ピアノを単なる技術論として捉えている。だから音に

広がりがないんだ。」
祖父は、父母を面白みのない、凡庸な一演奏者ととら

えているようだ。
幼い時に絶対的に感じた父母の権威とは、本当はそん

なものだったのかもしれない。
 空を飛べないみにくいアヒルは、私ではなく、私の両親

だったようである。



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闇からの誘い

           闇からの誘い
              1
今のアパートに住むようになってから、夫は書斎に籠も

ることが多くなった。
 部屋の電気を消してパソコンで何かやっていることが多

いのだ。
真っ暗闇の中で何をやっているのだろうか?気になって

仕方がないのだけれど・・・。
「・・・、うん、うん。そのとおりだよ。」
 ある日、書斎の前を掃除していると夫が誰かと話をして

いる声がした。
「あなた、一体誰と話をしていたの?」
私は気になって、夕食の時にそのことを聞いてみた。
 「あっ、いや。仕事の関係の人と・・・。」
夫は急にドギマギしたような声でそう答えた。
 何か怪しい・・・。
 きっと何か隠し事をしている。女の勘でそう思った。
 夫は大手商社に勤めて、背が高く、男前の部類に入る

人だと思う。
 一緒に外出すると、町を歩く女の視線をビシバシと感じ

る。夫は鈍いのか気づいて無いみたいだが・・・。
 だから私はいつも気が気ではないのだ。
「ちょっとごめんね。」
 夫が何か買い物に行ったときに、あわてて部屋に入って

みた。
 浮気していないか調べることは、妻として当然の権利だ

と思う。
 「何もないわ・・・。」
 夫の携帯電話をチェックしてみたが、それらしい人はい

なかった。
 「それどころか、仕事の着信履歴もないじゃない・・・。」
 この人、一体何のために高いスマートフォン持ち歩いて

いるのだろう?
 アドレスには私しか入っていないようだ。
 でも、見られることを前提に、マメに消しているというこ

とも考えられないこともない。
実は夫は、私と結婚する前に、誰か付き合っていた人

が居たらしい。
そのことは、ずっと以前に聞いて知っている。
 「前の恋人は死んだって聞いたけど・・・。」
もしかして、このアパートではだれか女の人が自殺した

りして、その霊が夫を誘っているのだろうか?
それがまさか偶然に前カノだったとか・・・。
 いろんな妄想が頭の中で膨らんでいく。
 ある晩のこと、寝返りをうった夫はおかしな寝言を口に

した。
 「う~ん、京子。こいつめ・・・。」
 えっ、誰よ。京子って・・。
 私の名前は静恵である。京子という名前はこの人の親

戚の中にも居ない。
 夫は嬉しそうな顔でニタニタと笑って眠り続けている。
 気になってそれから夫が部屋で何をしているのか、時

々見張っていたら、ある日夫がこんなことを言っている

のがドアの中から聞こえた。
 「うふ、京子。今日のワンピースはとても可愛いね。似

合っているよ。」
浮気!あの寝言の子だ。
 私はあわててドアを開けて中に入ってみた。
 中では夫が一人、机に座って何かしている。
 電話をかけていた形跡もないようだ。
「おかしい、急にドアを開けたのだから、出て行く暇な

どなかったはず・・・。」
 窓を見てみると、鍵がかかっていた。
 「何だよ、いきなり!」
 夫は急に戸を開けたので少しムッとしている。
 「ほら、美味しいケーキを買ったから食べない?」
 私はそう言って誤魔化した。
 何の証拠もないのだから問いつめるわけにはいかな

い。
 下手に切り出したら言い逃れられてしまう。
 夫も、もし居たなら浮気相手の女も、警戒して尻尾を

出さなくなるだろう。
 そう考えて、もう少し夫の行動を観察することにした。
              2
 次の日、近所のショッピングセンターへ買い物に行っ

た。
 うちの家では、どんなものを買う場合でも、基本は二

人で行くことになっている。
 優しい夫は運転手と荷物持ちの仕事も嫌がらずにや

ってくれる。
 その日の荷物は特に重そうだった。(私は手ぶらに近

い・・・。)
 「あっ、たこ焼き売ってる!」
 スーパーの駐車場に出店が出ていた。
 私はたこ焼きには目がないので、吸い寄せられるよう

にフラフラとそっちへ進路を変更した。
 後ろから自動車が接近しているのにも気づかずに・・・。
 「あぶない!京子。」
 後ろから来た車は、急に私が歩く方向を変えたので対

応できなかったようだ。
 夫があわてて腕を掴んで引っ張ってくれたので、私は

自動車に轢かれずに済んだ。
 「えっ、京子って・・・?」
 その名は知っていたけど、私は初めて聞いたようなふ

りをした。
 問いつめるより、夫から話させた方がいいと思ったの

だ。
「ああっ、咄嗟のことでつい口に出てしまったんだ。昔

の恋人だった人だよ。」
夫はすんなりと前カノであることを認めた。
 「ほら、君だって、私と初めてデートして結婚したわけじ

ゃないだろう?誰だってそんな人は居るんだよ。」
夫はそう言い訳をした。
 確かに私にもそんな人は数人いたから、そのことで夫

を責めるわけにはいかない。
 でも、そうだろうか?
 こんな時に間違うなんて・・・、今でもよほど親しく

している人じゃないと無理じゃないだろうか。
 昔の・・・、もう過ぎ去った人のことなど、急に名前が出

てくるはずがない。
 助けてもらって悪いけれど、何か気分が悪かった。
              3
 それからも夫はずっと真っ暗な部屋で何かしているこ

とが多かった。
 ドアに耳を近づけて聞くと、やはり女の声がする。
 菓子とかもって無理に部屋へ入ってみるのだが、やは

り誰も居た形跡はないのである。
 「やはり夫は霊と話しているのでは・・・。」
 このままでは耳なし坊一のようにどこかへ連れて行か

れるのでないのだろうか。
 私はある日、ドアにガラスのコップをくっつけて中の会

話を盗聴してみた。
 夫の嬉しそうな笑い声が聞こえる。私と話しているとき

よりも楽しそうだ。
私と話しているときは、「うん」とか「そう」としか返事を

しないくせに・・・。
 「京子ちゃんはいつみても可愛いね。」
 「うふふ、うれしいわ。」
 また、京子だ。
 間違いない、夫は前カノと浮気しているのだわ。
 そう考えると私は居ても立っても居られなくなり、素早く

ドアを開けて書斎の中へ飛び込んだ。
 「こんにちわ、私は泉京子。よろしくね。」
すごく綺麗でスタイルの良い人が部屋の中に来ていた。
 ふてぶてしくも、私の顔を見てにっこりと笑う。
「ついに見つけたわ!浮気相手・・・。」
夫は私の顔を見て固まってしまった。何を話したらいい

のか思いつかないようだ。
「ねえ、ねえ。早くしようよ・・・。」
 女は、私の目の前で夫にセックスをせがんでいる。

 何という奴だろう!
 「あたしというものがありながら、こんな女と・・・。」
私は怒ってパソコンのスイッチを切った。
 浮気相手はディスプレイの中に居たのだ。
 「やめろ、データーが飛んでしまう。」
 夫は情けない声をしてパソコンをかばった。
 「何のデーターよ!それは!」
どうやら、夫は引っ越しの時、昔使っていたエロゲーム

をみつけたらしい。
 それ以来、ずっと二次元人と話をしていたようだ。
 これは・・・?浮気になるのだろうか・・・?






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神の目覚め

         神の目覚め
             1
「地に下った者の数は?」
戦いに敗れた反乱分子どもは地上へ逃げたようだ。
 「正確な数は解りませんが、主な者だけで72人。」
 望遠鏡を覗いていたベルゼバブはそう答えた
 皆、ユダヤの地に舞い降りたようだ。
 「愚か者ともめ。神に近い力を持っていると思って自惚

れおって・・・。」
神に刃向かうとは恐れを知らない者どもである。
 「全滅させるのはたやすいが、人間も犠牲になってしま

います。」
ミカエルはそう言って考え込んだ。
 ちょっと厄介なことになってしまった。
 「サタンは人間を盾にするつもりなのだろう。」
首謀者は狡猾な天使である。
 「どうします?」
ミカエルは困った顔をした。
 「放っておけ、どうせ繁殖能力のない者達だ。寿命が尽

きれば全滅する。」
 「でも人間に悪影響を与えたら・・・。」
悪が世界を支配することとなる。
 「それは困るな・・・。」
黙って聞いていたベルゼバブが口を開いた。
 彼も天界では高位の天使である。
 「私が直接行って人間を指導してきましょう。」
サタンに対抗して善を説こうというのである。
 「それはいかん、ベルゼバブ。」
 おまえまで去られたら天界が維持出来なくなるではない

か。
 しかし、ベルゼバブは私の制止を聞かず、ある晩、数人

の仲間を連れて出て行ってしまった。
 反乱分子の説得を試みたようである。
 それができないなら自分が人を導こうとしたのだろう。
              2
 「何という愚かで弱い生き物なのだ。なぜ我々天使はこ

んな奴らに尽くす必要がある・・・。」
サタンは以前から人間どもの行動を天から眺め、嘆い

ていた。
 「神は、なぜ人間ばかりを優先するのですか・・・。」
私達の方がずっと優秀ですと、憤った。
 「その質問には答えられない、サタンよ。」
 おまえ達では駄目なのだ。
 おまえ達は私の細胞の一部を使って作り出した者だ。
 いわば私自身なのだ。
 だから生殖機能を与えていない。
 もし生殖できたとしても近親婚により絶滅する運命なの

だ。
 男女の違いも見かけだけのもの。
 遺伝子をいじって私が作り出したのだ。
 「ここは神の理想を実現するための実験場なのだ。神

のクローンを作るところではない。」
サタンは頑固に私の言うことを聞こうとしなかった。
 サタンは私の一部なのだから、その愚かさは私の責任

でもある。
 私の愚かさをサタンは具現しているだけなのだから。
 「おまえ達は裏方なのだ、ステージに立とうとしてはい

けない。」
 既にサタンは私の言葉にさえ耳を傾けなくなっていた。
 私の部下の中で最も優秀だった人・・・。
 その優秀さゆえに神をも凌駕出来ると自惚れたのだろ

う。
 やがてサタンは反乱軍の指導者になり、たくさんの部

下をつれて天界を出て行った。
                3
 「ベルゼバブの言うことも一理あると思います。私が人

間に化けて人を導いて見せましょう。」
 このままでは地上は混沌に満ちた狂気の世界になっ

てしまう。
 ミカエルはそう言ってエルサレムに赴いた。
無名の大工の男に化けたようである。
 人々を集めて説法をした。
 やがてその国の王と対立し、人としての生涯を終える

こととなったが・・・。
 「どうだった、ミカエル。」
ゴルゴダの丘の十字架より抜け出たミカエルはニッコリ

と笑って見せた。
 「思いの外に効果がありました。」
少しは希望が持てるようになったか・・・。
「私はしばらく眠るよ。もう年だ・・・。人の進化の行く末

をずっと見守ることなどできない。」
長い年月をここで過ごすには私は少し老いすぎた。
 冷凍睡眠に入ることとしたのである。
 「安心してください。私が人間どもを見張っています。」
ミカエルはそう言って胸を張った。
 「ありがとう、ミカエルよ。」
彼に任せておけば安心だろう。
 「目覚めた時に悪の力が満ちあふれていたらどうしま

す?」
カプセルに入る時に彼はそう聞いた。
 「そのときは人間どもも併せて悪魔を葬り去るのみ・・

・。」
優しい彼は少し憂いに満ちた顔になった。
 私は最後に彼の手を握ってしばしの別れを告げた。
 「おまえは優等生だな、ミカエル。」
高位の天使が皆私の元を離れたなかで、彼だけは忠

誠を尽くしてくれた。
 「ただ事なかれ主義なだけですよ。」
ミカエルはそういって照れて見せた。
 ありがとう、ミカエル。私は安心して眠りにつけるよ・・・。
            4
それからどれだけの年月が流れたのだろうか。
 ある日私は目が覚めた。
 ミカエルが実験の結果を報告するために起こしたのだ

ろう・・・。
カプセルの扉を開ける。
 夢から覚めてあたりを見回すと、地上を見下ろす、ミカ

エルの後ろ姿が目に入った。
 たくさんの白い羽が美しい。
 良かった、まだ人間どもは生きているようだ。
 「ミカエル・・・。」
 声をかけようとしてためらった。
 振り向いた時の彼の顔は、泣き顔なのだろうか

・・・?
 それとも笑っているのだろうか?


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過去作品へ簡単に行けるブログ「豆池田」

です。(目次のブログです)

よろしければご覧になってくださいね。

http://ameblo.jp/m8511030/

(実は一つの話を完結して他の話へ行くという手法

をとっておらず、いくつかのシリーズを並行して書い

ていますので、目次をご覧になった方がわかりやす

いかと思います。きまぐれで他のシリーズへ飛びま

す。)


増刊号の「山池田」です。

現在、なぞの物質・「福田樹脂」載せています
よろしくお願いしますね(。・ω・)ノ゙

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(山池田は登山日記と、自分では今一つと思っている

話を載せています。掲載は不定期です。)

勇者の旅立ち

      勇者の旅立ち
             1
「もうお前達に教えることは何もないわ。」
お母さんはそう言って四人の子供達を一人一人抱き

しめた。
 「大きくなったわね、ジョン。」
 ジョンは青い目の色をした長身の戦士になっていた。
 「ありがとう、お母さん。」
 この子は父親に似ている。父は子供が生まれてから

家に寄りつかなくなったろくでなしだが、ジョンは優しい

子だった。
 「きれいだわ、ハル。」
 ハルは体が弱くて心配したけど、活発な娘になった。
 「元気でね、サム。」
 サムはがっちりとした物静かな戦士。
 「気を付けてねユカック、あなたはおっちょこちょいだ

から・・。」
 そう言って、お母さんは私を抱きしめた。末っ子の私

は悪戯好きで手を焼いたと、お母さんはいつも小さい

ときの話をしてくれた。
 「○×△。○○・・・。」
 お母さんの使い魔のゴーレムが何かつぶやいた。
 誰もゴーレムの言うことは理解できない。
 お母さんの言うことには絶対服従する怪物だった。
 恐ろしい力を持ってはいるが、頭が少し弱いらしく、動

きも遅かった。
 小さいときはよく遊び相手にからかってやったものだ。
「お母さんは一緒に行かないの?」
 ハルが淋しそうに聞いた。
 「私はこの神殿で生まれ育ったの。ここを離れて生活

はできないわ。これからもゴーレム達と一緒に過ごすつ

もり。でもあなた達は違うわ。広い世界に出て、いろん

な冒険して人生を楽しんでらっしゃい。」
 四人の子供達はもう一度お母さんに抱きついて頬ず

りをした。
 「今までありがとう、お母さん。きっと立派な戦士になっ

てこの神殿に帰ってくるわ。」
 そう言って私達はゴーレムの操る乗り物に乗り込んだ。
 「元気でね、子供達。立派な戦士になるのよ。」
 お母さんはそう言って、いつまでも私達の乗り物を見

送っていた。
              2
 「○×△。○△○△・・・。」
 ゴーレムはそう言って、私達を古びた建物に案内した。
 「なんだろう、立派な建物だ。」
 ジョンは慎重にあたりを見渡す。
 「何かの城じゃないかな。」
 サムはそう言って早くも偵察に出てしまった。
 「気を付けてサム。どんな化け物が住んでいるかわか

らないわ。」
 私も周りを注意深く観察する。
 「私達の基地としては最適な場所ね。」
 ハルは気に入ったようだ。
 近くには大きな湖があり、飲み物にも困りそうにない。
 「誰もこの城には住んでいないようだよ。」
 サムは帰ってきてそう言った。でも油断はならない。持

ち主が留守にしているだけかもしれないのだ。
 「○×■△。○■○・・・。」
 ゴーレムがまた何か独り言を言って、金属の容器に

何かを残していった。
 やってきた乗り物で帰るようだ。
 お母さんの使い魔だから、用件が終わればお母さん

の元へ帰るのだろう。
 「これからの冒険が楽しみね。」
 四人は未知なる世界での生活に期待を膨らませた。
             3
 「ここがいいかな。」
 ダムの湖畔の廃村。
 過疎化で住民は居なくなり、窓ガラスの割れた小学校

が不気味にそびえ立っている。
 「元気に暮らすんだよ。」
 しばらく餌に困らないように、キャットフードをバケツ一

杯に入れておいた。
 ここなら十分に雨露は防げる。
 戦士達は早くも建物の偵察に出たようである。
 これからはいろいろな冒険が彼らを待っていることで

あろう。
 四人の勇者達は旅立った。
 決して私は、廃ビルに子猫を捨ててきたわけではない

のだ。



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はずれな人生

           はずれな人生
             1
小さいときから私は運の悪い子だと言われていた。
懸賞と言われるものには一度も当たったことがなかっ

た。
 宝くじも最低の金額以上はなし。
 駄菓子屋のくじだって、一等にはあたったことはない

のである。
 振り返って考えてみると、いつも外ればかり引いてい

たのだ。
 だから、同僚の友里が結婚して退職するという話を聞

いたとき、私は少し悔しい思いをした。
 友里の彼は関係会社の御曹司でお金持ちである。
「くうっ、友里の奴、私よりブスで仕事もできなくて、頭も

悪いのに、どうしてあんな素敵な人と・・・。」
私も憧れていた人だったが、経理をやっていた私は、

彼の会社へ行くことなどない。
 営業畑だった友里の方が有利だったのである。
              2
実は友里を羨ましく思うまでもなく、私も結婚が決まっ

ていたのだ。
 相手は会社の先輩である。
 入社した時から、私に目を付けていたらしい・・・。
「もうプロポーズ受けちゃったけど、あんな人で良かっ

たのかしら。」
それまではそう思っていなかったのだけれど、友里の

結婚話を聞いてから急にそう考えるようになった。
 幸せの絶頂のつもりだったけど、選択肢を間違ったの

だろうか?
彼は会社では普通の成績で、特に出世するようには見

えなかった。
 (リストラされる程でもなかった。)  
 今更、約束を解消するのは難しいだろうけど・・・。
「お前、何か悩んでいるのか?」
 そう考えてぼうっと歩いていた私に、声をかける者がい

た。
 公園の中で「易」と書かれた看板を出し、小さな机に座

っている老人だった。
 ひどくしわがれた声をしている。
 「私の名は悪魔アガレス。未来を見通す能力を持ってい

る。」
悪魔・・・?
 自分に箔をつけるため、そんなことを名乗っているのだ

ろうか?
「おまえ、婚約のことで迷っているな。」
悪魔はそう言って、何も聞かずに私の考えを言い当て

た。
「その結婚は止めた方がいいだろう。」
 えっ、何ですって?なんであんたにそんなこと言われな

いといけないのよ。
 通りすがりの人にそんなことを言われるとは、思っても

見なかった。
「今、私は幸せの絶頂なのよ。」
私はむきになってそう言いかえした。
 少なくとも数日前まではそう思っていたのだ。
 「ふふっ、確かにそうだろう。何しろこれからは落ちるば

かりなのだから・・・。」
悪魔はそう言って含み笑いをした。
 何かを知っているような口ぶりである。
「何と言っても、おまえの人生はスカばかりなのだ。」
アガレスはそう言って楽しそうに笑った。
「スカ・・・。」
 何よそれ。たしかにそうは思っていたけど・・・。
 人から言われると無性に腹が立った。
 「そんなことないわ。」
 私がそう言いかえすとアガレスは懐から水晶玉を取り出

して見せた。
「嘘だと思うなら、未来のお前をここへ呼んであげようじ

ゃないか。」
そう言うと、悪魔は何かの呪文を唱え始めた。
 一瞬水晶玉が金色に光ったかと思えば、小さな机の上

には一人の女性が立っていた。
 よく見ると私である。少し老けているようだ。
 「どうだ、未来のお前だ。幸せかどうか、未来のお前に

聞いてやろう。」
悪魔はそう言うと、10センチくらいの私に幸せかどうか

問いかけた。
 未来の私は、問いかけに対して首を横に振ってみせた。
「私、性病になってしまって・・・。」
 彼女は暗い顔をしてそう答えた。
 そんなバカな。彼は浮気なんかする人じゃない。
「こんなことになったら、私すぐに別れます。誰かほかの

人探しますから・・・。」
私が怒ってそう言うと、悪魔は笑ってまた水晶玉に呪文

を掛けた。
 「では、その新しい人と結婚した場合の、未来のお前を

呼んでやろう。」
すると、またくたびれた感じの私が現れた。
 さっきの私と比べても、ずっと歳を取っていて元気がない。
「今度の旦那は酒乱だし、暴力振るうし・・・。」
未来のあたしはやつれてアザだらけになっていた。
 お金も満足にもらっていないらしい。
 「こんな男に我慢などするものですか。」
私だったらすぐに離婚してやる。
「そうか?なら他のお前を出してやろう。」
すると、五十歳くらいに老けた私が現れた。
 「旦那が倒れて、ずっと介護をしているのよ。」
 生活が苦しくて死にたいくらいだわと、未来の私は訴え

た。
「どうだ?これでも結婚したいか。」
悪魔はそういうと大きな口を開けて笑った。。
「よく考えることだな。私は人の不幸を見るのが楽しみな

のだ。」
 そう言うとアガレスはこつ然と姿を消してしまった。
 幻でも見たのだろうか?
「ふっ、悪魔の言うことなんか誰が信用したりするもの

ですか。」
 私はそう言って、逆に今の彼と結婚する意志を固めた。
きっとアガレスは、私をからかうために嘘をついている

に違いないと思ったのだ。
 悪魔が見せた未来の私・・・。
なぜか新しい男と結婚するたびに、状況はずっと悪くな

って行くように見えて、気にはなったのだけれど・・・。
               3
結婚後、私達二人は幸せに暮らし、三人もの子供に恵ま

れた。
 経済的には何も問題はないし、何不自由なく暮らしてい

たのだが・・・。
 あるとき、私は急に体調が悪くなり、近くの病院を受診

した。
腰に重い痛みと、水泡を生じたのである。
 「性器ヘルペスですね。」
 医師は検査の結果を見てそう宣告した。
 「それって、性病では・・・。」
私はその病名に顔面蒼白となった。
 「ええっ、そうなりますね。抗生物質処方しますから飲ん

でください。それと、パートナーも受診するように言ってく

ださいね。」
三十年近く生きてきて、これほど恥ずかしい思いをした

ことはなかった。
 「この馬鹿!どこでこんな病気をもらってきた。」
旦那は土下座をして謝ったが、私は許せずにその頭を

踏みつけた。
 「離婚します。あなたとはやっていけません。」
夫はわけのわからない言い訳をしたが、聞く耳は持たな

かった。
 「ううっ、やっぱり浮気されたのね・・・。」
 悪魔はなんでも御見通しのようで、未来の私が言ってい

た通りになったのだ。
               4
 一人になって、まだ小さい子供たちと一緒に暮らすように

なると、経済的には極端に苦しくなってしまった。
 私一人がパートで働いても、生きていくのがやっとだった

のだ。
 市役所からは児童扶養手当をもらえたが、そんなもので

三人の子供を養えるわけがない。
 「だれか新しい人と再婚して・・・、駄目だわきっと結果は

悪くなる。」
悪魔の言うことが本当だとしたら、今度の男は暴力を振

るうはずなのだ。
 仕方なく私は一人で生きていくことにした。
 パートで疲れても、家に帰ると家事が溜まっていて大変

だった。
 子供たちは男の子で頼りにはならなかったし・・・。
 「なんで男の子ってこんなに食べるの!」
子供たちが成長するにつれ食費が重んでいった。私より

ずっと食べる量が多い。
「服を汚すな、馬鹿。」
家に帰ると子供たちは泥だらけになって帰ってきている。
もう勘弁してほしい。
 「やかましい、私仕事しているのよ。喧嘩しないで!」 
 子供たちは年が近いのでよく喧嘩をした。
私が仕事を持ち帰って机に座っていても、そんなことには

まるで気を使わない。
 アパートに他の住人からはよく苦情をもらったものである。
               5
 生活に疲れ、やつれていた私は、ある日街で偶然に、以

前の会社の同僚の友里に出会った。
 「久しぶりね、お茶しない?」
 友里はそう言って私を誘った。
 彼女がお金を出してくれるというので、付いていくことにし

た。
 友里はブランド物のバックや、ルビーやダイヤを散りばめ

た宝石を身に着けていた。
 真っ赤なドレスがとてもよくお似合いで綺麗だった。
 とても私と同い年には見えない。
彼女は子供が居ないようだったが、旦那には大事に扱わ

れているのだろう。
 私は結婚してからの苦労や、子育ての大変さを友里に話

してみた。
 彼女はずっと笑顔で私の話を聞いていたが、急にぽつり

とつぶやいて見せた。
「いいわね、綾香は・・・。」
心底、そう思っているような口ぶりだった。
 「えっ、なんて言ったの。」
私の生活のどこがいいのだろうか?訳が分からない。
「うらやましいわ・・・、子供たちがたくさん居て・・・。」
 私は耳を疑った。
 「あんた、そんな綺麗な服着て・・・。宝石もたくさん持って

いるのに・・・。」
なぜ、こんな貧乏な私をうらやましがるのだろう
「宝石やお金なんか、あなたの持っている宝物に比べれ

ばくだらないものだわ。」
 そう言って友里は寂しそうに笑った。
 「私の旦那は忙しくてほとんど家に居ないし、わたし大き

な家で一人ぼっちで暮らしているの。」
 さびしくて、死にたいと思うことも多いという。
私は・・・、自分が人に羨ましがられるとは思ってもみなか

った。
 友里の人生は、実は私よりずっと不幸だったのだ。
               6
 「そうか、自分ではずれだと思うからはずれになるんだ。」
喫茶店からの帰り道、友里の愚痴を聞いていて、急に頭

の中に閃くものがあった。
私は初めて悪魔の呪縛から逃れることができたのだ。
 当たりとか外れとか、気の持ちようでどうにでもなるので

ある。
 完璧な人生を送れる人など、この世の中には居ないのだ。
 不幸は・・・、不幸と思うから不幸なのである
              *
 その後、息子たちは立派に成長し、自らの道を見つけ巣

立って行った。
 今は、みんなひとかどの人物になっている、自慢の子達

だ。
 私の人生は・・・、決してはずれなんかじゃなかったよ

うである。


悪魔アガレス → http://izfact.net/solomon/02_agares.html

(悪魔のイラストを描いている人のホームページの飛びます)


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許しがたい風習

        許しがたい風習
              1
その日、栄太は自分の彼女である恵子を自宅に

招いていた。
 恵子とは2年間の付き合いで結婚の約束をしてい

た。
 両親に紹介したかったのである。
 「はじめまして、須藤恵子と申します。」
彼女はそつなく挨拶をして、持ってきたお菓子を両

親に差し出した。
 恵子は一流大学を出ており、社内でも仕事のでき

る女性として評判が高い。
 性格もやさしく、顔立ちも美人だった。
「礼儀正しいわ。」
母親の美登利は好感を持ったようである。
 「何て賢そうな人。」
妹の葵はうっとりとした顔をして彼女を眺めた。
 「モデル並みに美しい。柴崎コウより美人だ。」
父親の健二はその美しさに目を見張った。
 「お兄ちゃんにはもったいない人だわ。」
 大学生の葵はそう言って彼女を褒めた。
 栄太は一流企業に勤めてはいたが、風貌はさえ

ず、会社でもあまり業績を上げていない。
 「うん、栄太の嫁には申し分はない。」
 健二はそう言って彼女を褒めたてた。
 結婚は時間の問題、誰もがそう思っていたのだが

・・・。
              2
 その日は遅くなったので、恵子に夕食を食べていく

ように美登利は薦めた。
 恵子の家は電車で1時間以上かかる遠くにあるの

で、彼女はお言葉にあまえることとなった。
 「マヨネーズないでしょうか?」
 出された料理を前にして、彼女は美登利にそう尋ね

た。
 「えっ?ああっ、マヨネーズね。」
 マヨネーズをかけるような料理、生野菜とかは出さ

なかったのだが・・・。
 「とても美味しそうだわ。」
彼女は出されたマグロの刺身に醤油を付けようとせ

ず、上からマヨネーズをかけた。
 皆がその光景を呆然と眺めている。
 「美味しい、美味しい。」
そう言いながら、彼女は次に豚の生姜焼きにマヨネ

ーズをかけてパクパクと食べ始めた。
 「美味しいお肉だわ。」
次にエビの天ぷらを掴むと、天つゆに見向きもせず、

また上からマヨネーズをかけた。
そのうち、赤出汁の味噌汁の中にもマヨネーズを入

れ始めた。
 どうも何を食べるのにも、マヨネーズをかけないと食

べられないようなのだ。
 家族のみんなはその光景に気持ちが悪くなって、だ

れも料理に手を付けなくなった。
 彼女が帰ってから、父親の健二は呆れたようにつぶ

やいた。
 「こいつは駄目だよ。」
妹の葵も軽蔑したように続ける。
 「マヨネーズに味噌汁なんて・・・。」
母親の美登利は目を逆立てて怒った。自分の作った

料理を台無しにされたと思ったのだ。
「人前でなんでもマヨネーズつけて食べるという、神

経が分からないわ。」
ご飯を食べられなくなった葵も怒っている。
 「他人を不快にすることを考えられないのかしら?配

慮に欠ける人よ。」
確かに彼女一人だけがご飯を食べていた。ちょっと

無神経な態度である。
「他は完璧なんだよ。」
雲行きが怪しくなったので、栄太はそう弁護をした。
 実は、どこへ行くにも彼女はマイ・マヨネーズを持参す

るので、その嗜好は知ってはいたのである。
「結婚というものは家同士がするものなのよ。彼女が

マヨラーだということは、それを注意しようとしない母親

が居るということなの。そんな非常識な人達との付き合

いはお母さんはちょっと・・・。」
 一事が万事というものだろう。
 相手の両親がどういう人たちなのか、彼女の行動

から推測できる。
 栄太の家はお金持ちで厳格な家柄だった。
 家族のあまりの反対ぶりに、栄太も無理に彼女を

推すことはできなくなった。
 「しょうがない・・・。お母さんがそういうなら彼女

との結婚は、もう一度考え直してみるよ・・・。」
 それからしばらくして、栄太はマヨラーの恵子とは別

れてしまった
              3
彼女と別れて気落ちした栄太を励まそうと、健二は

近くの食堂へみんなを誘って食事にいくことにした。
 大衆食堂ではあるが、料理の本に何度も紹介され

るほどの有名な店である。
 飾らない料理が売りなのだ。
「私は天丼にするわ。」
 「うむ、わしはかつ丼だな。」
「私は台湾ラーメン!」
皆がバラバラなものを頼んだ。
 美味しそうなかつ丼が運ばれてきた。
 柔らかい肉と、半熟になった卵が美味しそうである。
 健二は醤油を取ると、出てきたかつ丼の上に醤油を

たっぷりとふりかけた。
 「前から思っていたけど、なんであなた、かつ丼に醤

油かけて食うの?」
妻の美登利が不思議そうにそう尋ねる。
 「醤油は日本古来の調味料だ。別におかしいことで

はあるまい。」
そう言われればそうかもしれない。
 「そういうおまえこそ、なぜ天丼にソースかけてたべ

るのだ。漬物も・・・。」
妻の美登利は出てきた天丼にウスターソースをべっ

たりとかけていた。
 「知らないわ。うちの実家はずっとこうだったのよ。」
あたりにソースのツーンとした匂いが漂う。
「あっ、あのおばちゃん、漬物にソースかけているよ。」
隣のテーブルの小さな男の子が目ざとく見つけて指

さしした。
 「しーっ・・・、見ちゃいけません!」
若いお母さんはあわてて子供を叱って、手を引込め

させた。、
 「ふっ、私を見なさい。なにもかけないから。」
 娘の葵はそう言って美味しそうに台湾ラーメンを口に

した。
 「葵は毎日辛いラーメンばっかり食べているじゃない

か。小池さんか、お前は?」
何度注意されても止めないのである。
 彼女の主食はラーメンだった。
 「ふん、台湾ラーメンは中国4千年の歴史があるのよ

(注・台湾ラーメンは日本で考えだされたものです)。」
葵は何を言われても動じない性格だった。
「そんなに辛い物ばかり食っていたら味がわからなく

なるだろう。」
 「唐辛子は体にいいのよ。全てのものに入れなくては

・・・。」
 そういいながら葵は、辛みが物足りなかったのか、大

量の七味唐辛子を台湾ラーメンに入れていた。
            4
 『人の振り見て我が振り直せ』ということわざは・・・、

この家の辞書には存在しないようである。


良いこの子の皆様へ
 実は大池田も、ややマヨラーです(。・ω・)ノ゙
(昔はご飯にマヨネーズと醤油かけて食べてました。)


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相対的ダイエット法

          相対的ダイエット法
               1
 滝沢幸代はちょっと太めの美人だった。
 会社の健康診断で引っ掛かったというので、私のところ

へ来た患者である。
 こういった女性は胸も大きく、お尻も肉厚な人が多い。
 案外男性には人気のある体形だ。
 「少しダイエットした方がいいかも知れませんね。」
少しお腹がせり出しているように見えた。
 それは別に良いのだが、血糖値が僅かに高い。
 糖尿病の疑いがあった。
 「食生活を改善するように・・・。」
 まだ結婚前の若い女性である。
 「それが甘いものがなかなか止められなくて・・。」
 夜中にお菓子やアイスを食べるようだ。
 一番太りやすい食生活である。
 「朝ご飯をきちっと取って夜中にあまり食べないように。そ

れと適度に運動を・・。ウォーキングとかが良いでしょう。」
彼女は「はぁ。」と気のない返事をした。あまり痩せる気は

ないらしい。
それから数回通院したが痩せる気配は一向になく、その

まま通院も止めてしまった。
               2
 滝沢幸代が通院しなくなってからしばらくぶりに近所のス

ーパーで出会った。
 彼女はちょっと太めだが美人なので目立つのである。
 一度見たら忘れられない顔をしている。
 「やあ、幸代さんですね。」
 彼女は彼氏と一緒に来ていた。
 恰幅のよい男前の人である。
 「先生、ご無沙汰しています。」
 通院を怠っているのでばつが悪そうである。
 しばらくぶりに見ると彼女はずいぶんスマートになってい

るように見えた。
「ずいぶんお痩せになったようですが・・。」
何かダイエットでもしたのだろうか。
 「いえ、そんなことはありませんわ。全然変わりがないん

ですよ。」
どう見てもそんな風には見えない。謙遜しているのだろう。
 「おかしいな、そう見えるけど・・。」
 彼女はちらっと彼氏の方を見た。
 「彼氏ができたからかな。」
なるほど、好きな男ができると女は奇麗になって見えると

いうことか・・。
 彼氏の目線を気にして痩せもするだろう。
 幸せそうな彼女を見て、私も気持ちが暖かくなった。
 もう病院へ来ることもないだろう。
              3
 「また健康診断に引っ掛かって・・。」
 前回の通院から1年くらいしてまた彼女は私の病院へや

ってきた。
 やはり少し血糖値が高い。
 基準より少し高いだけなので食事療法で何とかなりそう

なのだが・・。
 体重を量ってみると以前と変わりがなかった。
 「以前と変わりないですね。前に会ったときはずいぶんと

痩せられていたのに・・。」
 随分と太ったように見える。
 「彼氏と別れたからかも・・。」
 男の目線を気にしなくなってリバウンドしてしまったのだろ

う。
 前回と同じように食事療法と歩くことを進めた。
              4
 しばらくして幸代はまた通院しなくなってしまったが、今度

は映画館でデートしている彼女と出会った。
 前の彼とは違った人と一緒に来ていた。
 恰幅の良い人だった。彼女は頼れる感じの男が好きな

のだろう。
 「久しぶり、また随分と痩せたみたいですね。」
 彼女は幸せそうに笑った。
 「いやですわ、先生。全然変わらないんですよ。」
 痩せたと言われて喜ばない女性は居ないだろうが、お世

辞抜きで痩せている。
 私は女性に追従をこくのは嫌いな男である。
 「大丈夫だとは思いますが、一度病院へ来てください。検

査をしてみたいから・・。」
 それから数ケ月して彼女が来院したが、やはり体重は変

わってなかった。
 おかしなこともあるものだと、首を傾げざるを得なかった。
 また彼氏と別れたのだろうか?
              5
それからしばらくして、免許の切り替えのため自動車の

教習に行かねばならなくなった。
いつも思うのだが、警察署で行う講習ほどつまらないも

のはない。
 おまけにちょっとした違反があったため時間が長くなって

しまった。
 元警察官の退屈な話を聞いた後、ビデオを見た。
 あたりが田んぼの道路で、見通しが効くのに交差点で追

突する事故のことに触れていた。
 互いに相手が見えているのにぶつかる場合である。
 結構田舎道では多いらしい。
「見通しの良い道路での接触は、目の錯覚によるものが

多いです。」
交差点の距離を見誤ってしまうようだ。
 自分の走っている道路の方が近く見えてしまうのである。
「このように二つの同じ広さの道でも、自分の走っている

路線は広く感じてしまうものなのです。」
近くの道の方が当然に大きく見えるので、優先道路と勘

違いしてしまうようである。
 「目の錯覚か・・。」
 何に気なしにそう呟いてみて、何かがひらめいた。
「そうか、解った。彼女のダイエット法が・・。」
 私が急に声を出して立ち上がったので、半分寝ていた人

達が驚いて飛び上がった。
 それほどの大発見だったのだ。
 彼女のダイエット法は目の錯覚を利用したものだった。
             6
 私はこれを相対的ダイエット法と名付けた
相対的ダイエット法は誰にもすぐに実施できる方法であ

る。
大きなものの近くに居ると、目の錯覚により、それより小

さいものはより小さく見えるという現象なのだ。
すなわち自分よりより太った人の近くにいると、相対的

に痩せて見えるのである。
 (実際には1グラムも減っていない。)
 彼女はそのことを知っていて、常に自分より大きくて太っ

た人を彼氏にしていたのだろう。
 実際に、彼氏がかなりのデブだと目はそっちの方へいっ

てしまう。
 弱点としては、自分より太った人と常に一緒に行動しな

ければ効果がないことである。
 これを読んでいる読者の方もぜひ実践してみると良いと

思う。 


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です。(目次のブログです)

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(実は一つの話を完結して他の話へ行くという手法

をとっておらず、いくつかのシリーズを並行して書い

ていますので、目次をご覧になった方がわかりやす

いかと思います。きまぐれで他のシリーズへ飛びま

す。)


増刊号の「山池田」です。

現在、なぞの物質・「福田樹脂」載せています
よろしくお願いしますね(。・ω・)ノ゙

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(山池田は登山日記と、自分では今一つと思っている

話を載せています。掲載は不定期です。)

嘘つきゼミ

            嘘つきゼミ
               1
「絶対、彼は嘘をついているわ。」
恵理は駅前にできたという人生相談のお店に来てい

た。
 店の主はベルゼバブと言う人で、自らのことを悪魔だ

と言う変な人である。
 なぜか評判は良いらしい。
「お前の思い込みということはないのか?」
ベルゼバブはそう言って難しい顔をした。
 「私に隠していることがあるのよ。」
恵理は彼が浮気をしていると思っているらしい。
 どこかで彼が見知らぬ女と一緒にいるところを見たと

いうのだ。
 彼氏に尋ねたらいいと思うのだが、きっと嘘をついて

言い逃れるだろうと言って、人の話を聞かない。
ベルゼバブはしばらく黙って考え込んだ。
 やがて立ち上がると、店の奥にある木の棚から一つ

の人形を手にしてきた。
 木でできた人形のようだ。
 虫の形をしている。見たところ、蝉のようだった。
「では、この蝉を貸してあげよう。これは嘘つきゼミと

言って、話し相手が嘘をつくと鳴き始めるのだ。」
木の人形が・・・?
 俄かには信じがたかった。
 「この蝉の姿はお前にしか見えず、鳴き声はお前にし

か聞こえない。」
 一種の嘘発見器だろうか?
「相手がもし黙っていたら?」
相手が返事をせずに黙りこくったら意味がないはずで

ある。
 答えなければ嘘かどうかはわからない。
 「心配するな。質問されたら、どうしても答えを言わな

ければならないという、魔法がかかっている。」
ベルゼバブは笑ってその人形を差し出した。
 人形には別に、耳に取り付ける金具も接着剤もつい

ていないようだったが、耳たぶの後ろにあてると落ちも

せずにくっついたままの状態になった。重さも感じない。
 「ありがとう。」
 そう言って恵理はこの不思議な店を出た。
 別にベルゼバブの言うことを信じたわけではないが、

珍しいお守りを貰って嬉しかった。
 きっとこのお守りが自分たちの愛を守ってくれるよう

に思ったのである。
              2
 「待った?」
その日は彼氏の卓也とデートだった。
 駅前の噴水で待ち合わせていた。すでに彼氏は待っ

ていた。
 「いや、今来たところだよ。」
恵理は待ち合わせ時間からかなり遅れていた。
 『嘘だ!嘘だ!2時間前から来ているぞ。』
急にベルゼバブのくれた嘘つきゼミがけたたましく鳴

き出し、恵理はあわてて耳を押さえた。。
 彼の言うことは本当だったのだ。
 かなりうるさい声だったが、道行く人は知らない顔を

して通り過ぎていく。
 鳴き声は悪魔の言った通り、恵理にしか聞こえない

ようだった。
 「もしかして怒っている?」
おそる、おそる、恵理は卓也に尋ねた。
 こんなに待たせれば普通は気分を悪くするだろう。
 『・・・・。』
恵理の質問に対し、蝉は沈黙したままだった。
 よかった、怒ってはいないようである。彼女は胸をな

でおろした。
「じゃあ、映画館へ。」
 卓也はそう言うと恵理の手を取った。
 今人気の映画を二人で見る約束だったのである。
映画館はひどく混んでいた。恵理は人に押され、よろ

めいて卓也の足をかかとで踏んでしまった。
 彼女はハイヒールを履いている。
「ごめんなさい、痛かったでしょう?」
恵理は彼の胸の下から見上げるように、彼の顔を伺

った。怒られると思ったのだ。
 「うん?そんなことないよ。」
卓也は平然とした顔をしている。
 『嘘だ!嘘だ!死ぬほど痛いと思っているぞ。』
蝉がけたたましく鳴いて彼女はギョッとした。
「無理してくれているんだ・・・。」
恵理は嬉しくなって彼の手をギュッと強く握った。
           3
「ごめんなさい、退屈だったでしょう?」
恵理の選んだ映画は恋愛ものだった。男性には少し

面白くなかったかもしれない。
 「いや、楽しかったよ。」
卓也はそう言って笑った。
 『嘘だ!嘘だ!居眠りしてたぞ!』
 また、蝉はけたたましく鳴きだす・・・。
 つまらなくても、文句ひとつ言わずに我慢してみてくれ

ていたのである。
 恵理は卓也の優しさに触れて幸せな気持ちになった。
 「今しかない。聞いてみよう。」
恵理は意を決してこの前からの疑問を彼に聞いてみ

ることにした。
 「この前の土曜日、駅前であなたをみかけたわ。」
ちょっとした買い物に出たとき、偶然に卓也を見たの

である。
「ああっ、そういえば駅の方へ行っていたな。」
恵理はその時、声をかけようとしてためらってしまった。
 「あの時、綺麗な女の人と一緒に歩いていたのだけど、

あれはだれ?」
 女の子は彼の腕に手をまわして随分と親しげだった。
 「あっ、あれか。あれは妹だよ。いくつになっても甘えん

坊な奴で・・・。」
妹だと誤魔化そうというのだろうか?よくある言い訳で

ある。
 『・・・・・。』
 嘘つきゼミが騒がない。本当に妹だったようである。
 思い切って聞いてよかった、彼女は一人そう思って目

をつぶると小さなため息をついた。
 二人の愛はこれからも万全だろう。
 蝉を借りたおかげで彼の優しい心も知ることができて

本当に良かった。
 彼女がそう思った時である。顔見知りの中年男がこっ

ちに向かって歩いてくるのが見えた。
 「あっ、あれは・・・。」
 忘れもしない、恵理の前カレだった。
 不倫相手の男だ。
 さんざん恵理をおもちゃにして、会社を辞めてから姿を

消した人。
 横領とかに関わっていたという噂がある。
 今から考えると、異常に金回りがよかった。奥さんがい

るくせに・・・。
 「よう、恵理じゃないか。」
 彼女は声をかけられて凍りついた。
 『なんで、こんなところで声をかけるの?』
 彼氏と一緒に歩いているのに気が付いているはずであ

る。
 『私たちの、まだ幼い愛を壊す気なんだ。』
 恵理はそう思って、この男が何を言い出すか、ビクビク

した。
 「お久しぶりですね、斉藤課長。」
 同じ会社だったから、彼も挨拶する。
 上司で恋人だった斉藤課長は、「ふふん。」といった顔

で恵理を見ると、それ以上何も口に出さずにどこかへ行

ってしまった。
 「斉藤課長とは親しかったの?」
 彼は何の気なしにそう聞いてきた。
 うまく誤魔化して答えようとして、恵理は卓也の顔を見

ると息をのんだ。
 『嘘つきゼミが・・・。』
 いつの間にか彼の肩にとまっていたのだ。
 『私の蝉が向こうに・・・。いや、たしかに私の肩にも止

まっている。』
 蝉は最初から二匹いたのだ。
 『くそう、悪魔め。騙された・・・。』
 どうやって答えよう?彼女は錯乱した。
 何と言い訳しても嘘になってしまいそうである。
 いっそ正直に・・・。
 駄目だ、そんなこと言ったら終わってしまう。
別れたくない、どうしたら?
 でもだめ、黙っていることはできない。口が勝手に開

いてしまう。
 「いえ、そんなに・・・?前の上司だっただけよ。」
 やってしまった。彼女は頭をかかえた。
 嘘をついてしまった。
 きっと、彼の肩にとまった嘘つきゼミが騒ぎ出すことだ

ろう。
 『・・・・。』
 蝉は鳴かなかったようである。
 卓也は平然とした顔をしている。
 『なぜ・・・?どうして・・・?蝉が見逃してくれたの?』
 助かった、別れなくて済む。
 そう思って恵理は彼の腕を両腕で握りしめ、ぎゅっと抱

きついて甘えてみせた。
             4
 「彼にも蝉が付くなんて聞いてないわ。」
翌日、恵理は血相を変えてベルゼバブの店へ乗り込ん

できた。
 もう少しで二人は破滅するところだったのだ。
 「この蝉は夫婦なのだ。片方は術をかけた方に、もう片

方は術をかけられた方に付く。」
ベルゼバブは笑ってそう答えると、知らん顔を決め込ん

だ。
「でも、彼の蝉は鳴かなかった。とんだインチキ魔法ね。」
魔法が効かなかったおかげで、破局にいたらずにすんだ

のである。
 「ああっ、この嘘つきゼミには弱点があって、相手が嘘を

見透かしているときは反応しないんだ。」
 ベルゼバブは返された木のセミを手にすると平然とそう

答えた。
「一体、どういうこと?」
良くわからない話である。
「ふっ、相手が嘘だとあらかじめ知っている答えでは、騙

したことにはならないだろう?」
 だから蝉は鳴かなかったのだ。
「彼は騙されたふりをしてくれていたのね。」
 きっと、恵理と前カレの関係を誰かに聞いていたのだろう。
 恵理は彼の心の広さと、自らの心の狭さを初めて知って、

涙した・・・。


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