大池田劇場(小説のブログです) -5ページ目

悪の栄えた例なし(進撃の巨人・後編)

  悪の栄えた例なし(進撃の巨人その2)
              1
突然、東京ドームで練習中のジャイアンツが、元11

球団に所属していた巨人たちに囲まれた。
 村山実(阪神)、稲生和久(西鉄)、大杉勝男(ヤク

ルト)等、ジャイアンツを除くチームの選手である。
 冥界からジャイアンツに復讐に来たようだ。
「みんなで寄ってたかって復讐に来たのか?汚い奴

らだ。」
 原監督は巨人たちの顔ぶれを見ながらそう苦々し

げにつぶやいた、
 (注・どっちが先に仕掛けたとか、ジャイアンツの原

監督は考えない人です。)
なぜか、巨人の中でもひときわ大きな三人が居た。

他の巨人を圧倒するような巨大さだった。

 三倍以上の大きさの違いがある。
 「おう、あれは四百勝投手の金田正一(国鉄)だ。(

まだ生きているのでは?)」
ジャイアンツの選手たちはその顔を見て驚きの声を

上げた。
 なぜか球場の周りを走り回っている。
 「前人未到の三千本安打の張本勲(日本ハム)だ(

死んだの?)。」
広いスタンスでブンブンとバットを振り回している。
 「三回も三冠王を達成した、落合博満(ロッテ)だ(こ

のまえ、テレビで見たような・・・?)。」
隣で怖い顔をした女の人が何か指図している。
 たぶん奥さんだろう・・・。
「あそこで大した巨人でもないのに偉そうにしているの

は?」
ちょっと背の高いだけの巨人が、ふんぞり返った態度

で、偉そうに周りの巨人達に何か怒鳴っていた。
 「ああっ、あれは清原(西武)だ。」
とんでもない奴らに包囲されてしまった。
 このままでは選手全員の命はないだろう。
「ふっ、こんなこともあろうかと、こちらも巨人を用意し

てある。」
 原監督はそう言って不敵に笑うと、ポケットから薬の

アンプルのような瓶を三つ取り出した。
 「行け、元木、河埜、宮本(和)!」
あらかじめ監督は護身用に巨人を持ち歩いていたよう

である。
 「身長2メートルぐらいじゃないか。」
監督が呼びだした巨人たちは普通の人より少し大きい

くらいの人たちだった。
 「ジャイアンツではあれでも巨人なんだよ。」
 三人はバットを振りかざして11球団の巨人たちに向

かっていったが、瞬く間に、落合のキックでぺちゃんに

踏みつぶされてしまった。
              2
 「こんなやつらで私たちに勝つつもりだったのか。死

にたくなければまっ裸になってソーラン節を踊りながら

東京駅まで行進しろ。それで許してやろう。」
 身長五十メートルの村山実はそう原監督を恫喝した。
「ふん、それで勝ったつもりか!うすら馬鹿の巨人ど

も。」
原監督は脅迫に対して、気丈にそう言い放って応じた。
 死ぬつもりなのだろうか?
 「ジャイアンツには、どんな巨人にも対抗できる魔法

の道具があるのだ。」
 そう言うと、原監督はマネージャに耳打ちして四角い

銀色の箱を持ってこさせた。
奥の手があったらしい。
 監督はこれ見よがしに箱を開けて、中身を巨人どもに

見せた。
 「なんだそれは、そんなもの、死んだ我々に通用する

と思っているのか・・・?なあ、みんな・・・。」
 村山実はそう言って高笑いすると、後ろを振り向いて

見せた。
 なぜか金田たちの顔色が変わっている。
 急にバットを振りかざすと周りの巨人どもに殴り掛か

った。
 「しまった!金田と張本、落合が裏切ったぞ!」
村山実はそう言って青い顔をした。
 「ついでに清原も・・・。」
鉄腕・稲生和久はそう言いながら頭を抱えて逃げ回る。
三人の巨人の前に差し出されたもの・・・、それは・・・、

ジュラルミンの箱に入った札束だった。


 よい子のみなさまへ
 いかに強大な巨人であっても、ジャイアンツの魔法の

前には無力です(。・ω・)ノ゙。
本当に・・・、悪の栄えた例(ためし)はありませんよね。



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過去作品へ簡単に行けるブログ「豆池田」

です。(目次のブログです)

よろしければご覧になってくださいね。

http://ameblo.jp/m8511030/

(実は一つの話を完結して他の話へ行くという手法を

とっておらず、いくつかのシリーズを並行して書いて

いますので、目次をご覧になった方がわかりやすい

かと思います。きまぐれで他のシリーズへ飛びます

。)


増刊号の「山池田」です。

現在、なぞの物質・「福田樹脂」載せています
よろしくお願いしますね(。・ω・)ノ゙

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(山池田は登山日記と、自分では今一つと思っている話

を載せています。掲載は不定期です。)

進撃の巨人

         進撃の巨人
              1
突然、名古屋港の沖合10kmの海上に、身長50メ

ートルを超える巨人の一団が出現した。
 巨人たちはなぜか頭からすっぽり覆われている黒

マントに身を包んでいる。
 右手にはなぜか巨大な木の棒なようなものを下げ

ていた。
「あなたたちは何者です。どこへ行こうとしているの

ですか?」
 人々の問いかけに対しても巨人たちは無言を貫き、

やがて名古屋港に上陸した。
「停止してください!あなたたちのような巨大な人々

が町の中を歩けば、たくさんの死者が出ます。」
 愛知県警は拡声器を使ってそう呼びかけたが、彼

らには日本語が通じないのか、一向に意に介さない

ようだった。
 「やむを得ない!撃て。」
 警察署長の合図の元、一斉に警官たちが発砲した

が、なぜか銃弾は彼らを突き抜け後方へと飛んで行

ってしまう。
 「化け物だ。」
 呆然とする群衆を尻目に、巨人たちはゆっくりと名

古屋の市街地へと歩みを進めて行った。
              2
 やがて彼らは名古屋城のお堀近くに立てられた、1

つの大きなビルを見つけると、なぜ

か進撃を中止した。
「行くぞ!」
 黒マントの一団はそのビルを取り囲むと、一斉に棍

棒のようなものを振り上げた。
 「ぬん!」
 大きなビルが圧倒的な圧力に耐えかねて悲鳴を上

げる。
 一撃!
 二撃!
 三撃!
 ビルがガラガラと崩れ落ちて行った。
 逃げようと我先に中の社員が出口へと殺到する。
 「むん!」
 巨人たちはそう雄たけびをあげると、逃げようとした

人々の頭の上に棍棒の柄の部分

を振り落した。
 「きゃあ、なんでこんなことを・・・。」
 「私たちが何をしたというの。」
巨人は黒マスクを脱ぎ捨てると、こう言い捨てた。
 「正義の鉄槌だ。」
 「お前たちに恨みはないが、悪に加担した罪は大き

い!」
 巨人たちの顔はどこか見覚えがある懐かしいもの

だった。
 「おっ、スタルヒンだ。」
 「青田昇が居るぞ。」
 「この顔は別所毅彦だぞ。」
 「沢村栄治も居る。」
 「長嶋茂雄も・・・。」
 どうやら巨人たちは、死者の国から舞い戻ってライ

バル球団に復讐に来たようだった。
 (長嶋茂雄はまだ生きているのでは・・・?)
 かくして中日新聞本社は、巨人たちのバットによりも

ろくも木端微塵に打ち壊された。
 「次はCBC(中部日本放送)と東海テレビに行くぞ!


 巨人たちはそう言い残すと、新たな獲物を求めて進

撃していった・・・。



 よい子のみなさまへ
 こんなこと本当にあったら、さぞすっきりするでしょう

ね(。・ω・)ノ゙。
 あと、「相手チームが居なくなれば巨人も試合できな

いじゃん。」とか、考えてはいけませんよ。


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悪魔の眼鏡

         悪魔の眼鏡
             1
「やっぱりアイツ、他に彼女が居たんだ。」
 私はつい最近、彼氏と別れたばかりだった。
 三ケ月前、友達の慶子が止めるのも聞かず、隣

のクラスの健一と付き合い始めたのである。
 彼はもともと悪い噂があった。
 でもとても格好良かったし、最初は優しかったか

ら気を許したのである。
付き合い始めてすぐに、他に好きな人がいることが

わかった。
 頻繁に彼女らしき人から電話やメールが来る。
 その都度、私は居ないものとして息を潜めていな

ければならなかった。
 「ひどい、一生懸命尽くしたのに・・。」
 身も心も全て捧げたつもりだった。
 「うん、本当に悪いやつだね。」
 慶子は一生懸命、私の話に耳を傾けてくれる。
 「許せないよね。女の敵だ。」
彼女は、いやな顔ひとつしない。
 優しく受け入れてくれるのだ。
 そして親身になって相談に答えてくれる。
彼女が不満のはけ口になってくれるから、私はいつ

も最悪の事態を免れることができた。
「結局、私はずっと二番目だったんだよね。」
 今回のことはさすがにむかついた。
 健一は私が問いつめると開き直って暴力さえふる

ったのである。
 「ああっ、もう誰か他にいい人居ないかな・・・。私、

何か悪いものでも憑いているのかしら・・・。」
 慶子は少し考えたあと、急に何か思いついたのか、

私に思いもかけない提案をした。
「駅前によく当たる占い師いるらしいよ。そこへ行って

みては・・・。」
 慶子はにこやかに笑ってそういった。
 彼女は美人で明るく、私はうらやましかった。
 悩みなんか何もなさそうだ。
 できれば彼女にように生きてみたい。
 まさに天真爛漫を絵に描いたような人だった。
 こんな人が親友なのだから、私は幸せである。
 その後もさんさん元カレの悪口を言ってから、私は

慶子の言うとおり駅前に行ってみることにした。
               2
「なんだ、おまえは傷だらけじゃないか。」
その男は悪魔ベルゼバブと名乗った。
 どこかのロックグループのように悪魔を語っている

のだろう。
 自分を仰々しく見せるための演出に違いない。
「どこに傷が・・・?どこにもないよ。」
 半袖シャツからでた腕を裏側まで眺めて見たけど、

かすり傷一つなかった。
 それどころか、ほくろ一つない白い肌が私の自慢な

のだ。
 「おまえの目に見えないだけだ。」
 ベルゼバブはそう言って黒縁の眼鏡を差し出した。
 「その眼鏡をおまえに貸そう。」
 おじさんがするような無骨な眼鏡だった。
 ツルが黒くて、とても太い。
「それは悪魔の眼鏡と言って、心の傷を見ることがで

きるのだ。」
いわれたままにその眼鏡をかけてみる。
 「何これ?」
 何度もリストカットしたように、私の両腕は傷だらけ

になっていた。
 血がにじんでいるものもある。
 「周りを見てみろ。」
 ベルゼバブに言われて通行人の人達に目をやった。
 「うっ、何これ?」
その眼鏡をかけて通行人を見てみると、ほとんどの人

が傷だらけだった。
 中には腕が落ちそうになっている人、片足で歩いて

いる人、
 首がちぎれて持って歩いている人までいた。
「みんな傷だらけなんだな・・・。」
 瀕死の重傷になっている人もいる
おかしなことに眼鏡をはずして見てみると、何の問題

もない健康な人に見えた。
 「心の傷は目に見えないからたちが悪いのね。」
私の傷も眼鏡を外すと綺麗になくなっていた。
「どうすればこの傷口は塞がるの・・・。」
このまま放っておいたら傷口が化膿して死んでしまう

かもしれない。
 「そうだな、いろいろなやり方があるだろうが、まずは

ストレスを貯めないことだな。」
過ぎ去ったことは忘れることなのだろう。
「あとは自分にとって楽しいことをすること・・・。」
 なかなか実践することは難しそうだったが、意識して

やってみることにした。
              3
 それから2ケ月後、私の傷はみるみるうちに回復し、

もはや眼鏡をはめても外しているときと違いがわからな

い位に回復した。
 不思議なことに悩みもすっかり消え、とても充実した

日々を送るようになった。
 「ありがとう、おかげですっかり良くなったわ。」
傷がすっかり癒えたので、駅前に行ってベルゼバブに

眼鏡を返すことにした。
 「まだ眼鏡を受け取るわけにはいかない。おまえには

まだやることが残っているだろう?」
 意外なことに、ベルゼバブはそう言って、眼鏡を受け

取ろうとしなかった。
 「私がやること?」
 何のことだろうか。
 まだ私には悪いところがあるのだろうか?
 家で裸になって見てみたけど、何の傷も見つからなか

ったのだけれども・・・。
 「その眼鏡をかけたままうちへ帰るのだ。そうすれば自

分のやるべきことがわかるはずだ。」
ベルゼバブはそう謎めいた言葉を私に発し、以後は黙

って何の質問にも答えてくれなかった。
 仕方なく、私はその眼鏡をかけたまま家に帰った。
 ひどく格好悪いデザインなので、今まで人前でかけた

ことなどなかったのである。
相変わらず傷ついた人は何人も見かけたけれど、特に

なんということも起こらなかった。
家の前まで来ると慶子が待っていた。
私が出かけていたので、帰るまで待ってくれていたのだ

ろう。
 「ごめん、ごめん。来てくれてたんだね。」
 慶子はひどく疲れた様子に見えた。
 「どうしたの慶子、傷だらけじゃない。」
 私は眼鏡をはめて初めて慶子の姿を見て、全身が傷だ

らけになっているのに気づいた。
 まるで漫画の北斗の拳に出てくるキャラのようになって

いる。
 「そんなわけないでしょ。」
 彼女は私がやったように自分の体を見回して、無邪気

に否定して見せた。
 私は自分の病気が治ったことを彼女に報告した。 
 「恵美よかったわね。」
 彼女は随分やつれた顔をしていたが、そう言ってにっ

こりと笑ってみせた。
 その瞬間、私は見た。
 慶子の顔にカミソリで切ったような細い傷がスーッとの

びて血が滲んでいくのを・・・。
 「慶子!」
 私はその時すべてがわかった。
 今までわがままを言ったり、難しい悩みごとを打ち明け

たり、一方的に彼女に甘えて、自分の言いたいことだけ

を言ってきた。
 それを受け入れる度に慶子は自分を傷つけていたのだ

ろう。
 だから、いつのまにかこんなに痛々しい姿になってしま

ったに違いない。
 人の悩みを受け入れるということは、こういうことなのだ。
 全部私がやったことなのである。
 「ごめんね、気づいてあげられなくてごめんね。」
彼女は人の痛みを自ら負うことで、私を助けてくれていた

のである。
 私は彼女を抱きしめた。
 慶子はわけもわからず、キョトンとした顔をしている。
 「何なの急に・・、おかしいな。」
 笑った彼女の傷はさらに大きく、顔の端へと伸びてい

った。
 「笑わないで、無理に笑わないで・・・。」
私の瞳に涙があふれ出た。
 彼女も私と同じように悩んでいたことに、なぜ気づいて

あげられなかったのだろう。
 これからは、私が彼女を救う番なんだ・・・。 



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隣の兆治

         隣の兆冶
             1
 「このやろう、ふざけんじゃねえ。」
 すごい罵声が親父に向かって浴びせられた。
 近くの神社の祭りでの出来事だった。
 「どうすんだよ、この服を・・。」
 怒鳴っているのは隣の兆冶さんだった。
 着ている浴衣にりんご飴がくっついたのであ

る。
 リンゴ飴は幼い私が手に持っていたものだ。
 水飴のようなネトネトした飴がリンゴに付いて

いて、注意しないとよく服にくっついた。
 私は出店に気を取られて飴の方をみていな

かったのだ。
 「ごめんなさい、許してください。」
 親父は怯えた声で何度も謝った。
 その光景ははっきりと覚えている。大の男が

こんなにまで卑屈になるのかという情けない有

様だった。
 「クリーニング代は出しますから・・。」
 親父は壱万円をおそるおそる差し出した。
 兆冶は受け取ったが、怒りは収まらないようだ

った。
 「クリーニング代だと・・、きちっとけじめ付けろ

、けじめ。」
 親父は神社の玉砂利の上に正座して、土下

座をして見せた。
 「許してください、子供のしたことですし・・。」
 祭りを見に来た人が遠巻きで見ていたが、み

んな兆冶を恐れて中に割ってはいる人は居な

かった。
 「あんた、お隣さんだし・・。」
 見かねて兆冶の連れの若い奇麗な人が口を

挟んでくれた。
 袖を引っ張って向こうへ行こうとする。
 「けっ、許してやるよ。」
 そう言って兆冶は神社の奧へと歩いていった。
 親父はガタガタ震えながらその場に座り込ん

でいた。
 子供心にもみっともないと思えた。尊敬のでき

ない人だった。
             2
 兆冶は隣に住んでいるヤクザだった。
 建物は前は誰か他の人が住んでいたらしいが、

借金のカタか何かで取られたようである。
 兆冶は組に頼まれて占有していたのだろう。
 条件の悪いところだったせいか、なかなか売れ

なかったようだ。
 それで兆冶はその家に居座り続けることとなっ

た。
 兆冶は独身らしかったが、時々女の人が家に

居ついていることがあった。
派手な化粧をした人たちで、美しかったがくずれ

た感じの人達だった。
 水商売の人のようである。
 何年かは一緒に居ることが多かったが、いず

れ知らないうちに居なくなっていた。
 夜になるといつも男女の罵声が飛び交い、痴

話げんかをしていた。
 働かない兆冶に付いていけなかったのだろう。
 兆冶はいつも縞の背広を着て、サングラスをし

て肩で風を切って歩いていた。
 時々サングラスを外した時に見せる眼光は鋭く、

人を寄せ付けぬものがあった。
 だから近所ではだれも彼と話をする者は居なか

った。
 関わり合いになりたくなかったのである。
 私も祭りの一件から兆冶の顔を見ると逃げるよう

にしていた。
 隣にはとても嫌な奴であった。
              3
 親父は中小企業のサラリーマンをしていた人で、

あまり冴えない人だった。
 格別仕事ができたわけでもない。
 だから人より出世したわけでも、給料が多いわけ

でもなかった。
 まじめなだけが取り柄の人だったろう。
 体も小さくてとても男らしい人ではなかった。
 定時に会社に出て行き、大体は夜遅くに帰った。
 酒を飲んだりタバコを吸ったりもしなかった。
 毒にも薬にもならない人だと、母親はよく笑ってそ

う言っていた。
 但し人当たりはよかったようで、近所の人には受け

はよかったようである。
 子供にも優しかった。
 私も親父に似たのか、学校の成績とかはあまり良

い方でもなかった。
 中よりちょっと上くらいである。
 運動の方はからっきしで、学生時代はよく不良とか

に脅されていた。
 親父とよく似た性質なのだろう。
 コピーしたように似ていた。
 自分でもこの親父に似た性格は嫌だったが、持っ

て生まれたものは換えようがない。
 但し、人に警戒心を懐かせないようで、友達はたく

さんできた。
 それだけは良かったと思う。
 やがて私は凡庸な高校時代を送り、三流大学へと

進学した。
 家計は苦しかっただろうが、親父は愚痴一つ言わず

働き続け、十分な仕送りをしてくれた。
 景気は悪かったので三流大学ではろくな就職先は

見つからず、地元に帰って親父のつてで今の中小企

業に就職した。
 会社はあまり儲かっていないようだったが、堅実な

経営で潰れることもなかった。
 やがて、その会社で事務をしていた今の妻と知り合

い、平凡な家庭を築いた。
 娘も二人できた。
 お世辞にも美人とは言えず、成績も中くらいだった。
 「トンビの子はトンビだな。」
 タカを産むことはなかったようである。
              4
 早いもので上の娘も高校生になったいた。
 両親共に去年、一昨年と相次いで無くなり、この家

は自分の持ち家となった。
 隣の兆冶はと言えば、相変わらず建物に居すわっ

ているようである。
 人目を避けるように夜中に外出するので、あまり姿

を見ることはなかった。
 親父と同年代なのでかなりの歳であろう。
 いつも引き連れていた派手な女性も、かなり前から

見なくなっていた。
 歳には勝てず老いぼれてきたのだろう。
 ずっとこの家に住んでいると言うことは、あまりヤク

ザの世界では出世できなかったようである。
 何の保証も無い社会では自身の才覚だけが頼りな

のだ。
 才能のない物は上に行くことはできない。
 博徒の世界でも一般の企業とその点は同じだろう。

いや、そんな世界だからこそよけいに厳しいように見

えた。
 ヘマを踏んだのか、両方の小指が無くなっていると

誰かが言っていた。
 数年姿を見せなかったこともあったので、刑務所に

入っていたこともあったのだろう。
 「お父さん、犬飼っても良い?」
 ある時、中学生になる下の娘が子犬を連れてきた。
 白くてかわいい子犬だった。 
 既に連れてきているのだから、良いも何もないだろう。
 事後承諾を求めているだけである。
 犬はスピッツらしかった。昭和四十年代くらいにはど

この家でも買っていた犬種だが、現在は珍しい。
 キャンキャン吠える犬である。
 「隣、大丈夫かな?」
 犬の声がやかましいと兆冶が乗り込んでこないか心

配だったが、とりあえず許可した。
 兆冶は以前よりおとなしくなったのか、怒鳴り込んで

くることはなかった。
 家はひっそりとしていたが、時々役所の人とかが来

ていて、彼の怒鳴り声が聞こえたりした。
 生活保護でも受けていたのだろうか?
 しかしずっと受け続けることもできなかったようで、役

所の人の訪問もある時期からぴったりと途絶えた。
 蓄えもなく、年金もない生活だったろう。
 何で食べていたのかも解らない。
 組の掃除とかしていると聞いたことがある。若い組員

に使われていたようだ。
              5
 上の娘は三流大学へ行き、授業料だの、生活費だの、

小遣いだのの仕送りで生活は厳しくなった。
 十分に送らないと、女の子だからどんな危ないアル

バイトを始めるか解らない。
 そんなことになったら一生の失敗に繋がる。
 下の娘も進学したいらしく、我が家の家計はいよいよ

危機である。
 「蓄えがあるから大丈夫。」
 妻はそう言って笑っている。どこかにへそくりがあるの

だろう。
 仕事は年齢的に辛くなってきたが、ここがふんばりど

ころといった感じである。
 そんなとき、下の娘が近所の人から聞いてきたという、

意外な情報を耳にした。
 兆冶が死んだという。
 死因はよく解らないが衰弱死らしい。
 晩年はほとんど食うや食わずの生活だった。
 家族もなく、友達もなく、近所の人とのつき合いもなか

った孤独死だったらしい。
 「死んで良かったわ。あいつ、私のことをいやらしい目

で見るのよ。」 
 娘はせいせいしたというような顔をした。
 近頃はやりの短いスカートは止めさせなければなら

ないな・・。
 通りをとおる人に向かって、うちのスピッツはキャン

キャンと甲高い声で飽きもせず吠え続ける。
 「そんなことを言ってはいけないよ。」
 私は娘をなだめ、キャンキャン吠える犬を抱き上げた。
 「なぜなら、兆冶さんはとても弱い人だったから・・。」
 この犬のように、弱いから人に吠えたり噛みついたり

していたのだ。
 長い人生を歩んできて、そのことをやっと理解できる

ようになった。
 あのとき格好悪いと思った、うちの親父の方がずっと

強い人だったのである。



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怯えた勇者

          怯えた勇者
             1
その悪魔はたくさんの従者をひきつれてファンフ

ァーレとともに現れた。
 「私を呼んだのはお前か!」
 グリフォンにまたがった甲冑姿の騎士、悪魔ム

ルムルである。
「ええっ、私です。」
 月奈はビクビクしながらそう答えた。
 悪魔の召還が成功するとは思わなかったので

ある。
「女、何を怯えている?」
 「こんな派手に出現するとは思わなかったので

・・・。あと、私の名前は月奈です。」
悪魔はグリフォンから飛び降りると、彼女の近くへ

と近づいてくる。
 召還は廃ビルの地下室で行われたため、あたり

は暗かった。
「魔界一の勇者、悪魔ムルムルは、いつもファン

ファーレとともに訪れるのだよ。」
そう言って、握手を求めようとした悪魔の前を小さ

な動物が通った。
 「ぎゃああ、何かの動物が・・・。」
 ムルムルはそう言ってグリフォンに抱きつくと助

けを求めた。
「うふふっ、悪魔のくせにネズミなんかこわいの?」
先ほどまでの威厳はどうしたのだろうか。
「この人、昔は勇者だったけど、今は腰抜けなん

ですよ。」
旗指物を持った、悪魔カイムがそう小声でつぶや

いた。
 天界との戦いで重傷を負い、それからすっかり

臆病になってしまったらしい。
 「こらっ、余計なことを・・・。」
 ムルムルはツグミの顔をしたカイムにそう注意す

る。
 これを聞いていた悪魔たちがてんでバラバラに

話し始めた。
 「私達、あなたの部下じゃないんですよ。」
 「そうそう、指図しないでほしいな。」
 「ムルムルさん、ちゃんと給料払ってくださいよ。」
 「おいら達、慈善事業でやっているんじゃないん

ですからね。」
背後の人たちは雇われた悪魔たちだったようだ。
 「私は失われた栄光を取り戻したいのだよ、カ

イム。」
 協力してくれというように、ムルムルは哀願した。
 「すでに堕天して数千年も経っているのに、まだ

そんなことを考えているのですか・・・。」

 根っからの悪魔であるカイムには、ムルムル

の心境はわからない。
「悪魔ムルムルは、天界にあっては座天使とし

て・・・。」
 ムルムルが話し始めると悪魔たちは各自勝手

なことを言って騒ぎ始める。
 「また、その話が始まった・・・。」
 「帰ろう、帰ろう、長くなるぞ。」
 「給料分の仕事はしたし・・・。」 
カイム以下、すべての悪魔がその場からスーっ

と消えてしまった。
「くす、くす、いいんですか?みんな帰っちゃった

けど・・・。」
 月奈はこの滑稽な悪魔に好感を抱いた。
 全然怖くない、気さくな人のようだ。
「よいのだ、労働基準法が確立されてから悪魔の

世界も難しくなった・・・。」
 ムルムルは、そうわけの解らない言い訳をした。
 「私を呼びだしたのはなぜだ。要件を承ろう。」
「私、実は死んだ人の霊を呼びだしてもらいたい

のよ。」
 月奈はそう言って古いCDを見せた。
 「この人は有名な歌手だったんだけど、心臓病

で急死したの。私、彼が書きかけていた歌のメモ

を手に入れて・・・。」
 月奈はシンガーソングライターとして何曲かC

Dを出していたが、ヒット曲に恵まれない売れな

い歌い手だった。
 「できればその曲を教えてもらって歌いたいの。」
 彼女の申し出にムルムルは驚いたような顔をした。
 「おまえ、それは盗作じゃないのか?悪魔の私

が言うのもおかしいが、そんな嘘をついても長続

きはしないぞ。」
一曲目はそれでいいかもしれないが、次からは彼

女の実力の勝負になる。すぐに化けの皮が剥が

れるだろう。
「いいのよ、一曲だけでも。それ以上やって駄目だ

ったら諦める。今のままでは一生かかっても私の

曲は人の目には触れないわ。」
月奈の熱心な求めに応じ、悪魔ムルムルは承諾

した。
 しかし、なぜか彼女の希望によりその日のうちに

降霊術は行われず、一週間後に儀式が実行され

ることとなった。
            2
「魔界一の勇者、悪魔ムルムル見参!」
 月奈が悪魔を召還するとムルムルはそう言って

一人で現れた。
 「あれっ、今日はお一人なんですか?」
 「うむっ、給料を払えとか、いろいろあってな・・・。

それよりお前の方こそ、後ろの男たちは何者なの

だ。」
 月奈の後ろには目つきの良くない男たちが数人、

怖い顔をして立っていた。
「えへへっ、ちょっとした知り合いなの。気にしない

で・・・。」
 元より悪魔が人間の不良など気にするはずがな

い。
 「よしわかった。降霊を始めよう、中崎豊の霊よ、

ここへ来たれ。」
 ムルムルが剣を抜いて地面を指さすとルーン文

字の魔方陣が現れ、半透明の男が姿を現した。
 「おおっ、中崎だ。」
 後ろに居たヤクザっぽい男たちが驚きの声をあ

げた。
 「本当にこんなことができるのだな。」
 半信半疑、手品を見るつもりで集まった輩である。
 まさか本当にできるとは思ってもみなかったのだ

ろう。
 「中崎さん、あなたネット銀行にかなりの口座残

高を残していますよね。」
 後ろの男の中の一人がこう切り出した。
 どうも彼らの組織が何らかの方法でその情報を

知ったようである。
「よければ、預金の暗証番号を教えてくれませんか

。」
中崎は無表情な顔でこう答えた。
「いいだろう、私にはもう必要のないものだ。」
どうも降霊術で呼び出された幽霊は、生前のような

意思能力を備えていないようだ。
 相手の言いなりになってしまうようである。
また、死んでしまった彼には使えない預金でもある。

彼は独り者で相続すべき妻子もいなかった。
 ネットの口座はその存在を知られることもなく、休

眠口座として処分されるべきものだった。
「おいちょっと待て・・・、話がちがうのでは。」
悪魔はそういって右手を挙げて制止しようとした。
 「そうよ、この人が作曲した未発表の歌を教えても

らうのじゃなかったの。」
月奈もそう言って抗議した。
 男たちは月奈が所属する芸能事務所の、陰のス

ポンサー達である。
 「歌を作って収益を得る・・・。そんな悠長なことを

しなくても、目の前に現金が転がっているじゃない

か。しかも、親族さえ知らないから誰も困らないし、

訴えられもしない。」
 年配の男がそう説明した。みんなの中で若頭と呼

ばれている者だ。
 金に困った者を引き出し役にして、さっさと現金化

して高跳びさせれば、銀行から足が付くこともないだ

ろう。
「月奈、おまえにもたっぷりと分け前をやるから心配

するな。」
その話を聞いて月奈もぐっと言葉を飲み込んだ。彼

女も金に困っている。
悪事はそのまま成し遂げられるかと思われた・・・。
地下室の天井・・・。
 むき出しの、コンクリート打ちっぱなしの天井壁。
 そこが急に黄金の光に照らされ、ぽっかりと穴が開

いた。
 「なんだこれは・・・。」
 光の中からは、たくさんの白鳥のような羽を背中に

つけた天使が舞い降りてくる。
「まて、この極悪人!」
悪魔ムルムルは小さな声で「ケルビム。」とつぶやい

た。
 知り合いのようだった。
 「天界はお前らの悪事を許さんからな。」
天使ケルビムはそう言うと、長い槍を突き出して年長

の若頭の心臓を突いた。
 「うわ!悪魔だ。」
 男たちはあわてて銃を引出し、発砲する者もあった

が、その弾はケルビムの体を通り抜け、空しく壁を撃

った。
 「逃げろ!殺されるぞ。」
 口々に悲鳴をあげて逃げ出そうとしたが、ケルビム

の突き出す槍は鋭く、的確に悪党どもを殺害してい

く。
 「こいつらは、いろんな悪どい手で人のお金を巻き

上げてきたヤクザどもだ。」
ケルビムはそうムルムルに説明した。
 「神が許してもこの天使ケルビムは許さん!」
そう言って天使は誇らしげに胸を張った。
 その彼の眼の端に、この場からこっそりと逃げよう

としている少女の姿が目に入る。
「ふふっ、もう一匹、地獄へ送らねばならない奴がい

るな。」
彼は月奈の姿を見てニタリと笑った。
 「ちょ・・・、私のこと?私、なにもしてないじゃん。」
月奈は恐怖の顔を浮かべてその場で腰を抜かした。
 「ふん!お前が手引きしなければ、こいつらもこんな

ことできなかっただろう。」
ケルビムは黄金の槍の穂先を彼女の胸に突き出して

みせた。
 「ケルビム!ちょっと厳しすぎるのではないか?その

子は利用されただけだ。」
黙って見ていたムルムルがやっと重い口を開いた。
「悪い奴らと知っていて、悪に加担したのに間違いあ

るまい。それに、この子もお金を貰おうとしていたでは

ないか!」
たしかに、あの場でお金を受け取ろうという欲も出た

ことは確かである。
「そんな0か100かといった判断は間違っている。多

くの人間は中間に位置するものだ。」
ムルムルはそう言って月奈の命乞いをした。
 「やかましい下等な悪魔め!これが天界のやり方

だ。」
そう言ってケルビムは槍を振り上げた。
 「ムルムルさん、助けて!」
月奈は恐怖に駆られて悪魔に助けを求める。
 「こんな腰抜けに何が出きるか。」
天界でもムルムルの臆病ぶりは評判になっているよ

うだ。
「きゃああ、ムルムルさん!」
今にも月奈の心臓は一突きにされようとしている。恐

怖に駆られた彼女は身動きできない。
 「まてケルビム!」
ムルムルは剣を抜いてケルビムの前に立ちはだかっ

た。
 「天界では、剣をとっては右に出る者は居ないと言わ

れた、勇者ムルムル。その実力をお見せしよう!」
 そう宣言すると、彼はケルビムに襲いかかった。
 「おまえ、天界の智天使(天界二位の階級)ケルビム

に逆らう気か!」
 暗い地下室で天使と悪魔、二人の使う得物が交錯し、

金属音が鳴り響いた。
              3
 「あたしのためにこんなに傷だらけになって・・・。」
傷ついたムルムルの傍らに月奈が座っている。
 ケルビムはすでにこと切れていた。
 「どうだ?わしは勇者だっただろう・・・。」
ムルムルは苦しい息の中、月奈にそう自慢して見せた。
「ええっ、勇者だったわ。とっても格好良かった。」
 月奈はムルムルの手を泣きながら強く握りしめた。
 「しっかりして・・・。」
 ムルムルは兜の庇を上にあげると、月奈の顔を覗き

込む。
 「ははっ、もう駄目かもしれんな。最後に一つ、おまえ

にお願いがある。」
どんな、お願いと彼女は尋ねた。
 「お前の作った歌で、私を送ってくれないか・・・。」
月奈は涙を吹くとコクリとうなずいた。
「ええっ、わかったわ。ムルムルさん・・・。」
地下室には彼女の透き通った声が響き渡り、観客が一

人だけのライブが開かれた。
「いい歌だ・・・、とてもいい歌だ。」
ムルムルはそうつぶやくと満足そうに笑い、静かに目を

閉じた・・・。



悪魔ムルムルのイラスト、書いている人居るのでリンク

貼っておきますね。

http://izfact.net/solomon/54_murmur.html



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です。(目次のブログです)

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(実は一つの話を完結して他の話へ行くという手法を

とっておらず、いくつかのシリーズを並行して書いて

いますので、目次をご覧になった方がわかりやすい

かと思います。きまぐれで他のシリーズへ飛びます。)


増刊号の「山池田」です。

現在、なぞの物質・「福田樹脂」載せています
よろしくお願いしますね(。・ω・)ノ゙

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(山池田は登山日記と、自分では今一つと思っている話を

載せています。掲載は不定期です。)



愛のキャンドル

           愛のキャンドル
             1
「お嬢さん、何か憂鬱そうな顔をしているが、悩み事

でもあるのかな。」
 駅前で黒い背広を着た男がパイプ椅子に座ってい

た。
 「易」・「人生相談」という看板を掲げている。
 普段なら里奈はこんな奴は相手にしないのだが、余

程落ち込んでいたのだろう。話しを聞いて貰うことにし

た。
 「ちょっと恋愛のことで悩みが・・。」
 初老の男はにっこりと笑った。
 「そんな話しなら大歓迎だ。人に聞いて貰えば悩み

は半減するものだよ。ぜひ話してくれたまえ。」
 男の名はベルゼバブというらしかった。
 人生経験が豊富なようである。
 「彼は私のことを好きだといっているの。でも、あまり

にもてすぎて・・。」
 それが悩みの種のようだ。
 里奈はみんなに羨ましがられる存在なのだが、そん

な人はそんな人で悩みがあるものなのである。
「彼はとても気が多くて、はっきり言って浮気者なの。」
いろんな可愛い女の子が寄ってくるので取られないか

心配な様子である。
 彼氏は大学の野球部でピッチャーをしているようで

ある。
 プロからも将来を嘱望されている存在らしい。
 「それはお困りだろう。」
 男は笑いながら太いローソクを出してきた。
 「これは愛のキャンドルという魔法の品だ。」
 ローソクは専用の黒いカンテラの中に据えられてい

る。
 「このローソクがあれば、いつでも彼の愛情を確かめ

ることができるだろう。」
 ベルゼバブはその妙な赤いローソクを差し出した。
 不思議な、まるで血のような色をしている。
 「このカンテラはおまえ以外には見えないものだ。」
 うまく使うようにと男は笑った。
 「あの~、代金は・・。」
 彼女は学生であまりお金は持っていない。
 「ははっ、私は霊感商法をやっているのではない。た

だでもいいのだが、千円にしておいてやろう。」
 千円でお守りが買えるならそう悪い話しではない、
 里奈は深く考えず、そのローソクを購入することにし

た。
             2
 「それで愛のローソクというのを買ったんだって・・?」
栄樹は不思議そうな顔をした。
 里奈はカンテラを差し出しているのだろうが、そのロー

ソクを見ることはできない。
 童話の裸の王様のようである。
 どう考えても騙されているように思えるのだが、彼女

はまじめだった。
 「でも、ただ火を付けるだけではだめだというの。」
 ある行為が必要なのだそうだ。
 「そのためにボクが選ばれたというわけか。」
男の子の協力が必要なのである。
 「ごめんなさい、あなたしか思いつかなくて・・。」
 こんなことを頼めるのは、幼なじみの栄樹しかいなか

ったようである。
「いいよ、付き合ってあげるから・・。」
 栄樹は優しい子だったので、里奈が変なことを言って

も聞いてくれた。
 ずっと小さい頃からそうしてきたのである。
 「じゃあ、早速お願いね。」
 野球部のグラウンドに行くと、里奈の彼氏が練習して

いた。
 彼は長身で二枚目の上、学校では有名人だったので、

当然取り巻きの女の子が見学に来ている。

 里奈が彼女なのは今まで内緒だったのだが・・。
 彼女はバックから何かを取り出して火を付ける仕草を

して見せた。
 カンテラには専用のマッチか何かが備えられているら

しいが、それも里奈以外には誰も見えないようである。
 「火がついたわ。奇麗・・。」
 彼女はそう言って、ローソクをかざしてみるような行動

を取った。
 変化はすぐに訪れた。
 「おまえ、里奈となに話しているんだよ。」
 里奈に気付いた彼氏は血相を変えてマウンドから降り

てきた。
「いえ、別に大したことでは・・・。」
 女の子達の悲鳴が上がった。
 ヒソヒソと話しをして里奈の方を見ている。
 「嘘言え、随分気安そうにしていたぞ。」
 栄樹は胸ぐらを掴まれて苦しそうだった。
 「気を付けろ!」
 突き飛ばされて栄樹はその場に転んだ。腕力ではとて

もかなわない。
 「大丈夫よ、英治。早くグランドに戻って・・。」
 彼女はそう言いながらも、嬉しそうだった。
 こんなにヤキモチを妬いてくれるとは思わなかった。
 今まで彼氏の英治は人前では冷たくて、随分悔しい思

いをしたのだが・・・。
 「ふー、満足、満足。やっぱり彼は私のことが大好きな

のね。」
 栄樹にしてみてはたまったものではない。
 単なる恋の当て馬にされているだけである。
 「もしかして、これをずっと続ける気なの?」
 「うん!」と彼女はにっこりと笑って答えた。
             3
 それからも彼女は彼氏の英治が他の女の子と少しでも

話しをしたり、チヤホヤされているのを見ると遠慮なくロー

ソクに火を付けた。
 そのたびに英治は血相を変えて飛んでくる。
「おまえ、なに手をつないでるんだよ。」
里奈が勝手に栄樹の手を取ったのだが、そんなことは関

係ない。
 「ごめんなさい、幼なじみだと思って油断していたわ。早

くマウンドへ戻って・・。」
 英治は渋々練習を再開する。
 今にも殴りかかりそうな目で栄樹を睨み付けた。
 「ひええっ、ボクもうこんな役、嫌だよ。」
 そう言いながらも、幼なじみに頼まれると断り切れない

栄樹であった。
  里奈はずっとそのローソクに火を灯し続けた。
 「幼なじみだからって馴れ馴れしくするなよ。」
 「俺の女と口きくなよ。」
英治は恐ろしい形相で栄樹を脅しつける。
 いつ殴られてもおかしくない状況だったが、暴力事件を

起こすと問題になるので自制してくれているようである。
 里奈は火を付けるたびに、彼の愛を確かめられて幸せ

を感じるようである。
 「こんなやり方しなくても、はっきりと不満を口にしたら

・・・。」
栄樹はそう彼女に助言した。いつか大変なことが起こら

ないか、彼の方が心配になったのである。
 「そんな恥ずかしいこと・・・、できるわけないじゃない。」
 里奈はプライドの高い子だった。
自分からそんなことを口に出して言うことはできないの

である。
               4
 そんなことをしているうちに、遂にローソクが燃え尽きる

日が来てしまった。
 もう英治は彼女が栄樹と話しをしても、手を繋いでも何

の反応も示さなくなってしまった。
 メールしても、電話しても上の空である。
 「彼はもう、私には振り向いてくれないわ。」
 彼女は自分たちの恋が終わってしまったのだと悟った。
実は、愛のローソクは嫉妬の炎で燃えるモノだったのだ。
 嫉妬の心で使い切れば、愛がなくなるのである。
 大事な愛を、つまらないもので消費してしまった。
「私は馬鹿だった。こんなもので愛を確かめようとして・・・、

大切な物を失ってしまった。」
 彼女は見えないカンテラをどぶ川に投げ捨てて泣いた。
 悔やんでも悔やみきれない。
 栄樹は泣きじゃくる彼女をただ呆然と眺めていた。
 彼はしばらく考え込んでいたが、やがて意を決したよう

に優しく彼女の手を握り、初めて自分の気持ちを伝えて

みせた。
 「えーとね、里奈ちゃん。君には気の毒だと思うけど、

ボクは競争相手がいなくなって幸せだよ。」
恥ずかしがり屋の彼は、横を向きながらそうつぶやいて

見せた。
 「まあっ!」
彼女は目に涙を貯めながら、彼の手を優しく握りかえし

た。
 きっと彼女は、今度はなくならないろうそくを作ることだ

ろう。


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要領の悪い男

       要領の悪い男
          1
 大村健一は生まれながらに要領の悪い男

だった。
 学校の成績は中くらいであったが、いつも

大事な試験ではミスをして実力を発揮でき

なかった。

対して同期の米田は小さい時から要領が良

く、学生時代は先生や先輩に可愛がられた。
二人は帝国陸軍に入ったが、軍隊に入って

も要領の良い米田はどんどん出世していっ

た。
 エリートではなかったが、二等兵からの叩

き上げで少尉にまでなれた。
 大村はあまり人が希望しない輜重部隊に

配属された。
 軍隊内部での成績が不振だったせいもあ

る。
 この当時の日本では、能力の優れた者は

軍隊を希望する者が多かった。
 金持ちの子息でなくても、軍隊ならば人も

うらやむ出世の道が開かれていたからであ

る。
 封建制が根強く残った日本の社会では、

能力次第で運が開ける軍隊は魅力的に見

えたのだ。
 だか、大村の配属された輜重部隊とは輸

送を担当する役目を負うのであるが、日本

陸軍は歩兵や騎兵部隊は重視していたが、

この戦争を遂行する上で欠かせない部隊を

軽視するようなところがあった。
「輜重輸卒が兵隊ならば、蝶々トンボも鳥の

うち、焼いた魚が泳ぎだし、絵に描くダルマ

にゃ手足出て、電信柱に花が咲く」などと陸

軍内部で馬鹿にした詩があったくらいである。
実際にこの部隊に配属されると後の出世に

希望は持てなかった。
 大村は運動も苦手で、機敏に動けず要領

も悪かったから、誰も希望しないような輜重

兵に配属されたのである。
          2
 太平洋戦争が始まって、日本軍は真珠湾

攻撃の成功により、破竹の勢いでアメリカの

支配するフィリピンやイギリスの支配するシ

ンガポール、オランダの支配するインドネシア

などを次々に征服していった。
 大村や米田の所属する部隊はビルマの攻

撃を担当した。
 アメリカ海軍は初戦で大打撃を受けて活動

を制約されていたし、ドイツとがっぷり四つに

組んでいるイギリスはこの地方に有力な部隊

を派遣することはできなかった。
 日本軍は割とやすやすとビルマを手中に収

めることができた。
 ガタルカナルの敗戦により日本は守勢に回

り、そのままずるずると敗北を重ねていくが、

大村達が配属されたビルマはこれといって大

きな戦いはなく、兵力は温存された。
 アメリカは太平洋の島々を攻略して一直

線に日本を目指すという戦略を取っていて、

こんな所へ軍隊を派遣する気持ちは爪の先

ほどもなかった。
 日本からの輸送が途切れたら、孤立した日

本軍は降伏するしかないのを知っていたから

である。
 かっての支配者のイギリスは、こんな所ま

で軍隊を派遣する余裕はなかった。
 ただ隣接するインドには強力なイギリス軍

が進駐していた。
 インドはイギリスにとって重要な戦略拠点

だったからである。
 インドとビルマの間には巨大な山塊があっ

て自然の防壁となっており、どちらの国も攻

めるのは容易ではなかった。
 日本軍が何もしなければ、そのまま平和に

終戦を迎えることができたはずなのである。
           3
 牟田口廉也という男が居た。
 学校の成績は良かったらしい。陸軍のエリー

トである。但し戦略的にはまったく無能な

人物だった。
 部下にも相当嫌われていた。簡単に言えば

頭でっかちの屁理屈馬鹿だった。
 一般の企業ならこんな奴は出世などせず、

辞めさせられるか、左遷されるような人物であ

る。
 ただ軍隊は官僚制である。エリートの試験に

受かりさえすれば、後は年功序列で出世して

いく。
 この男が不幸にも、中将としてビルマに派遣

されていた。
 彼はとんでもない妄想に取り憑かれた。
 当時インドは援蒋ルートと称して、中国への

物資援助の中継基地になっていた。
 日本は15年も中国と戦争をしていて、もとも

と太平洋戦争が始まったのも中国との戦いの

ためである。
 インド北部にインパールという街があるが、物

資はこの街を通って中国へ運ばれていた。
 彼はこの街を征服して中国への物資援助を

絶とうとしたのである。
 彼の部下の参謀は一斉に反対した。
 制空権はイギリス側にあり、機械化されてい

ない日本軍は物資の補給が貧弱で、とても巨

大な山脈を歩いて越えて、インドに攻め込むな

ど無謀だと考えたのである。
 たとえ占領できたとしても街を保持することな

ど不可能である。
 兵力も、この地方の日本軍9万に対して英国

軍は15万だった。
しかも日本軍の暗号は連合軍に解読されていて

、日本軍の作戦行動はまったく敵に筒抜けにな

っていたのである。
 陸軍航空隊は優勢な連合国空軍と敵対する

ことの不利を説くと、牟田口はそれならおまえら

は来なくて良いと、その援助すら断ってしまった。
 更に、反対した部下はみんな左遷されたので

誰も意見が言えなくなった。
 このような状況の中で作戦は強行されたので

ある。
          4
大村伍長はインパール作戦の輸送部隊の中に

いた。
 日本軍の兵糧が不足することは最初から予想

された。
 特に山岳地帯に入るとてもトラックの輸送は不

可能であり、補給は困難である。
これに対して牟田口は「ジンギスカン作戦」という

机上の作戦を計画した。
 すなわちビルマの農民が飼育する家畜を奪って、

それを食糧にするというものである。
 ビルマの民が農耕用の牛を取られてどうなるか

など、彼の知ったことではなかった。
 家畜を連れて行って食糧がなくなったら食べる

というものである。
 牛という生き物は一日に大量の食糧を必要と

する生き物である。与えなければ飢えて死ぬ。
 この作戦に従事する日本軍は、牛飼いをしな

がら進むことになる。
 敵のイギリス軍は紳士的だから悠長に進軍す

る日本軍を待っていてくれるだろう・・?
 まことに愚かな思考方法である。
 実際に進軍すると川で溺れたり飢えて死んだり

して、食糧にするまでに家畜のほとんどを失って

しまった。
 それに、イギリス軍は家畜を従えて進軍する日

本軍を、上空から激しく攻撃した。
 大村の部隊は爆撃で逃げまどう牛をどうするこ

ともできなかった。
 牛に荷物を積んでいたので、暴走により逆に大

量の物資を失うことになったのである。
 「大村、牛を捕まえてこい。」
 山砲とかは分解して載せていたので、部品など

足りなくなると使い物にならない。
 彼は付近を探したが当然見つかるわけはなかっ

た。
 帰ると上官の平手打ちが待っていた。
 要領の悪い彼は言い訳すらせず、黙ってその理

不尽な制裁に耐えた。
 食糧に困った日本軍は必死の進軍で、それでも

インパールまで来た。
 英軍は日本軍の作戦を知っていたので、日本軍

の補給が伸びきるまで待ち伏せしていたのである。
 待っていたのは強力な重機関銃陣地と野砲であ

る。
 英軍は物資を空輸してパラシュートで落としたの

で、物資が不足することなどなかった。
 日本軍は必死に戦ったが食糧が不足し、体力を

落とした兵隊は次々にマラリヤにかかってバタバ

タと倒れた。
 雨期になって雨が塹壕に入り、水の中に長時間

使ったために皮膚が腐って死ぬ者も多かった。
 それでも牟田口は退却するなと命令した。
 この作戦は彼の名誉欲のために実行されたよう

なものである。
 現地の司令官はこのままでは全滅し、部下を皆

殺しにしてしまうのでやむなくビルマに戻り始めた。
 すると彼は作戦の失敗は部下の臆病によるもの

だと決めつけた。
 自分自身は前線に行きもしなかったくせにである。
 帰還すると9万近くいた日本軍は僅か1万6千人

になっていた。
 明らかに無謀な作戦を強行した報いである。
 それでも牟田口は責任を取ろうとせず、自殺もせ

ずに生き続けた。
 戦後も機会があれば自己弁護に終始したというの

であるから、呆れたものである。
 こんな、学校の成績がよかっただけのアホボンに

使われて、死んだ兵隊は気の毒だったであろう。 
            5
 大村は爆撃で足を折ったらしく、ジャングルの中で

動けなくなっていた。
 部隊は彼を路傍にすてて退却していった。
 みんな自分が生きるのに必死で、そんな余裕など

なかったのである。
 彼をかついで進めばそれだけ自分の体力を失って

死が近づくことになる。
 銃を抱いて彼が苦しんでいると顔見知りの人物が

その前を通った。
 「米田じゃないか。」
 10人ほどに減った自分の部隊を率いていたのは

同郷の米田少尉であった。
 「大村か。」
 彼は立ち止まって、昔のクラスメートがどういう状

態になっているのか理解した。
 「悪いが、つれていけんよ。」
 大村は笑った。
 「あたりまえだ。俺がおまえの立場でもそうしただ

ろう。」
 大村は、自分の最後の様を米田が家族に伝えて

くれるよう頼んだ。
 「それと、もし良かったら・・。」
 大村は自分の銃を差し出した。
 「良かったら使ってくれ。あまり使わなかったから

状態が良い。予備にでも・・。」
 日本の三八式歩兵銃は製品にばらつきがあり、一

個一個の調整は職人が手作業で行っていた。
 そのため故障すると部品の交換がききにくい。同じ

銃が二つあっても部品取りができないのである。

 「いいのか?丸腰になるぞ。」
 「ああっ、俺には必要のないものだ。」
 「済まない、ありがたく貰っておくよ。」
 大村はふふっと笑って見せた。
 「最後の輜重だったな。」
 米田少尉は申し訳なさそうにしていた。
 「連れて行けなくて本当にすまん。」
 大村は早く行くように米田を促した。
 「俺は運ぶ側の人間だぞ、運ばれてどうする。」
米田の小隊は大村を置いて、そのままビルマの方角

へと遁走していった。
 しばらくして、大村は激しい銃撃を聴いた。
 米田の部隊がイギリス軍の待ち伏せを受けたよう

である。
 日本軍の銃はボルトアクションで、一度撃つたびに

薬莢を飛ばして次の弾を装填しなければならなかっ

たが、イギリス軍は自動装填式の銃を使っておりそ

の作業は不要である。
 接近戦では勝負にならない。
 米田の小隊は全滅したようである。
 やがてイギリス軍の部隊は倒れている大村を見つ

けた。
 『マイク少尉、このジャップはまだ生きているようで

す。』
イギリス軍兵士は大村のこめかみに銃口を押しつけ

た。
 『どうやら負傷して置いてけぼりにされたようですね

。』
 彼の上官とおぼしき人物が大村の前に立った。
 『ふん!』
 憎々しげな顔で彼の顔を睨む。
 『私の友人であるジョージは、パターン死の行進で

亡くなったと聞いている。』
彼は軍靴で思いっきり大村の腹を蹴った。激痛で顔

が歪む。
 『撃ちますか?』
 銃口を押しつけている部下が尋ねた。
 マイク少尉はしばらく考え後、吐き捨てるようにこう

言った。
 『助けてやれ。』
 彼は部下の二等兵を呼んだ。
 『チャールズ、マック。コイツを連れて後方へ下がれ

。』
 チャールズと呼ばれた二等兵は笑って大村の肩を

叩いた。
 『よかったな、ジャップ。助かったぞ。』
 マイク少尉はとても気むずかしい人のようだった。
 『本当に要領の良い男だよ、おまえは。』
 大村が武器を持っていなかったのが幸いしたようで

ある。
 


良い子のみなさまへ
 実はこの物語、本当の主人公はマイク少尉でした

(。・ω・)ノ゙。
 彼はなぜ一瞬考えた後、決断したのでしょうか?

 マイク少尉の頭の中には、死んだ友人のジョージの

顔が浮かんだのです。
 ジョージは彼にこう言いました。
 「マイク・・・、その男を助けてあげなよ。君は、ジャッ

プと同じことをしてはいけない。」
少尉は友人を殺されていたからこそ、大村を助けたの

でした・・・。
 (注:捕虜を殺すのは戦闘ではなく殺人になります。)


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最後の戦闘

            最後の戦闘
              1
「輸送艦が来たようだな、軍曹。」
先の輸送艦救出戦で手柄を立てた佐々木軍曹は、その

ままパルル少尉の指揮下に入った。
 パルル少尉は地球でいうところのハンミョウという虫

が進化した宇宙人であり、大きさが10センチ程しかな

い女性である。
 なかなかの美人であった。小さい羽でゆっくりと飛ぶ

ことは出来るが、長距離は飛べない。
輸送艦からは見慣れた顔の人が姿を見せた。
 千佳大尉である。
「補給ありがとうございます、大尉。頼んでいた物は届

きましたか?」
 大尉は右手の親指を突き出して見せた。
特注品は今回の補給に間に合ったようである。
「うまそうな奴はどうしています?。」
みの虫が進化したアマンダ少尉である。
 「パルル少尉が恐くて倉庫に籠もって震えていますよ

。」
パルルは残念そうな顔をした。
 「ちぇ、からかってやろうと思っていたのに・・。」
佐々木軍曹は千佳大尉を見るとなぜかそわそわした

様子を見せた。
 「あの、佐々木です。覚えておいででしょうか?」
 「ええ、覚えていますよ。助けてくれた人の顔を忘れ

るもんですか。」
 佐々木軍曹は右手を突き出して握手を求めた。
 千佳大尉が応じる。
 その光景を見ていたパルル少尉はなぜか機嫌が悪

そうである。
「嫌らしい、触るな!離れろ!」
 つつーっと音もなく飛んできて佐々木軍曹の手を噛

んだ。
 「まあ!」
 千佳大尉は笑って手を引いた。
 「ひどいじゃないですか。」
 パルル少尉の牙は強力なので血がにじんでいる。
 「デレデレするからだ。馬鹿者!」
 まだ未練がありそうな佐々木軍曹を尻目に、輸送艦

は大量の物資を置いて去っていった。
 今回の作戦は二人だけで行うこととなっていた。
帝国軍はこの衛星に拠点を作ろうとキャンプを貼って

いる。
 50名のロボット兵を指揮して奇襲するという作戦で

ある。
 「来た来た、ロボットスーツが・・・。」
パルル少尉は嬉しそうです。
 「これで戦車の装甲がアップするぞ。」
 スーツは二メートル近くあった。どう見えても少尉に

は大きすぎる。
 「これ、誰が着るのですか。」
佐々木軍曹は嫌な予感がした。
 「もちろんお前だ。軍曹。」
やはり的中した。
「あなた、私のことを乗り物だと思っていませんか?」
少尉は妙な顔をした。
 「不服か・・・?」
 「いえ、なんでもありません。」
 この人に何か言っても無駄な気がした。
 人間戦車の出撃のようである。
              2
「やったぞ、敵が逃げていく!」
 作戦は成功し、帝国軍の宇宙船は退却していった。
 もともとロボット兵ばかりだったので人的損害はな

かった。
 科学力の勝利である。
 指揮は以前の通り、佐々木軍曹の頭の上に乗った

パルル少尉が行った。
 遠方の敵は佐々木軍曹が、近くに来た兵隊はパル

ル少尉が複眼で捕捉して撃滅する。
 二人の連携は戦闘を重ねるごとに良くなっている。
 このままずっと戦いたいと思った軍曹であったが、

戦いが終わるとパルル少尉は

意外な話しを切り出してきた。
「この戦いが終わったら軍を退役しようと思っていた。

結婚するのだ。」
唐突なことで驚いた。
 誰と結婚するのであろうか。
 「実は輸送船の戦いの時に私のことを抱き上げた

だろう・・。女性の体に触れることは私の星では求愛

を意味するのだ。」
もしかして自分と結婚する気なのかと、軍曹は慌て

た。
 「あれは事故ですよ。」
頭から落ちそうになったパルルを受け止めただけで

ある。
 「もう既に結婚の手続きを外交筋を通じて地球へ

申し出ている。断れば戦争になるぞ。」
そんな話しは何も聞いていない。
 「脅迫ですか。」
軍曹は小さくそうつぶやいた。
 「そう取ってくれても良い。私は必死なのだ。恥を

掻かせるな。」
頭の上に居る軍曹の姿は見えないが、真剣に思っ

てくれているのは理解できた。
 「私のこと嫌いか?生意気な女は・・・。」
哀願したように軍曹に訴える。
 「いえ、そんなことないです。尊敬していました。」
佐々木軍曹は静かにそう答えた。
 「尊敬とか聞いてない。好きなのか?」
少尉は頭の上であたふたしているようである。
 「どちらかといえば・・・、好きです。」
パルルは安心したように「ふ~っ。」と大きなため息

を漏らした。
 「異存はないか?」
 軍曹は笑みを浮かべながら答えた。
 「はい、ないですよ。少尉。」
 「じゃあこれからお前のことをあなたと読んでも良

いか。」
 「私もパルルさんと呼ばせてもらいます。」
 「・・・さんは余計だ。」
「わかりました、パルル・・・。」
 「子供のこととか心配しなくて良いよ。私達の科学

力で何とかするから・・・。」
「はい、はい、わかりましたよ。」
 二人は話しに夢中になっていたため、帝国軍の兵

士がこっちを狙っているのに

気付かなかった。
「ダーン!」
 銃声がして、軍曹は頭に強い衝撃を覚え、跪いた。
 丈夫なペトム合金で作られたヘルメットは貫通し

なかったようだ。
 「大丈夫ですか?少尉。」
返事がないので取り外して見てみると、少尉はヘル

メットの中で横になっていた。
 目が開いたままで、体が膠着している。
 「うわ、どうして・・?死んでる!」
触ってもまったく動かない。
「帝国の狙撃兵だ。不用意に立っていた自分のミス

だ。」
 帝国軍は狙撃兵を置いていったようだ。
 こちらの指揮官を最初から狙っていたのだろう。
 手元が狂って軍曹の頭を射抜くことができず、ヘ

ルメットの上部に当たったのである。
小さいパルル少尉が指揮しているとは思っていなか

ったのだろうが・・・。
「あの木陰だな。」
佐々木軍曹は銃を構えた。帝国軍兵士が逃げようと

しているのがスコープの中に見える。
 「下手くそめ!狙撃というのはこうやるのだ!」
 佐々木軍曹は怒りの銃弾を発射した。
弾は帝国軍兵士の眉間に命中したようだ。
 即死である。
 軍曹は地面を叩いて泣いた。
 狙撃兵を殺したからといってパルル少尉が戻って

くるわけではない。
 「ちくしょう、畜生。帝国軍め。パルルを返せ。」
どうして油断して、何もない平原にボーと突っ立っ

てしまったのだろう。
 悔やんでも悔やみきれない。
 「ふむ、やはり腕はいいようだな。私が見込んだ

だけのことはある。」
泣いている軍曹の前を、いつのものように音もなく、

つつっ~とパルル少尉が寄ってきた。
 「生きていたのですか?」
軍曹は涙を拭いて彼女の顔を見た。
 元気そうである。
 「虫の中には、唐突に激しい刺激を受けると、体

が膠着して動けなくなるものがあるのだ。よく死ん

だふりするとか言われているが、意識してやって

いるものではない。」
 数十秒すると自然に回復し、手足の先から動け

るようになる。
それよりも・・、と彼女は小さく言って軍曹の傍へ

と飛んできた。
 「伏せた状態だと、やりやすそうだ。」
彼女は軍曹の顔先へと移動した。
 「なにがですか?」 
軍曹が不思議に思って尋ねる。
 「心配してくれてありがとう、あなた。」
 そう言って彼女は、オモチャのような小さな唇を

軍曹の唇へと合わせてきた。 



良い子のみなさまへ

紛らわしいタイトルですが、最後の戦闘はパルル

少尉の最後の戦いでした。

帝国軍シリーズはまだ始まったばかりですので、

よろしくお願いしますね(。・ω・)ノ゙。


ペタしてね



過去作品へ簡単に行けるブログ「豆池田」

です。(目次のブログです)

よろしければご覧になってくださいね。

http://ameblo.jp/m8511030/

(実は一つの話を完結して他の話へ行くという手法を

とっておらず、いくつかのシリーズ

を並行して書いていますので、目次をご覧になった方

がわかりやすいかと思います。きまぐれで他のシリー

ズへ飛びます。)


増刊号の「山池田」です。

現在、なぞの物質・「福田樹脂」載せています
よろしくお願いしますね(。・ω・)ノ゙

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(山池田は登山日記と、自分では今一つと思っている話を

載せています。掲載は不定期です。)

 





人間戦車

           人間戦車
            1
「あなたね、連邦軍から派遣された佐々木軍曹と

いうのは・・・。」
警備艇の司令室には人間の姿がなかった。甲高

い女性の声だけが響いている。
 「どこを見ているの?机よ、机の上。」
 言われて軍曹が机の上を見ると十センチほどの

人形が立っている。
 「私の名はパルルというの。」
 聞いていたタイタン星の少尉の名前だった。
 こんなに小さい人だったとは・・。
 「私達の生態は、あなた達の星のハンミョウとい

う虫に似ているのよ。」
 昆虫が進化した宇宙人らしい。だからこんなに

小さいのだ。
 「じゃあ、よろしくお願いしますね。」
佐々木軍曹は右手を差し出して握手をしようとした。
つつーっと、少尉は背中の羽を動かして静かに跳

び去り、数十センチ後ろに着地した。
 「よろしくお願いします。」
 追いかけるように軍曹は手を伸ばす。
 するとまた、つつーっと羽を動かして後ろへと跳

び去った。
 「どうして逃げるのですか?」
小馬鹿にされているようで気分が悪い。
 「だって、あなた達だってクマが近寄って来たら

逃げるでしょ。それと同じ理由よ。」
 防衛本能が働いてしまうのだろう。
 体が小さいから無理もないか。
 「私達は体の重さに比べて羽の力が弱いから、

そんなに遠くへは飛べないのよ。」
だから手の届きそうな所へと逃げるのである。
 「そんなことより、急いで。もう時間がないの。輸

送艦のエンジンが故障して不時着した所を帝国軍

に囲まれたらしいの。」
救助信号をタイタンの警備艇がキャッチしたのだ。
 「あなたは機械に詳しいし、優秀な狙撃手と聞い

ているわ。だから助っ人をお願いしたのよ。」
 帝国軍の囲みを突破し、輸送艦を救助するので

ある。
「さあ、このヘルメットを被るのよ。ペトム合金製だ

から丈夫なの。」
 用意された銀色のヘルメットは、上部にバケツの

ような物が付いている。
 「これは?もしかして・・・。」
 かぶると、つつ~と少尉が飛んできて上に乗っか

った。
 ヘルメットの上に乗って指揮するつもりだろうか。
「ほら私達の目は複眼でしょ。近くにあるものはよく

わかるけど、遠くは全く見えないのよ。」
 だから遠方から攻撃されると防ぎようがないので

ある。
 二人で死角を補い合って攻め込もうという作戦の

ようである。
「少尉は自分のこと乗り物だと思ってないですか?」
 なんか、人間を運ぶ象のような感じである。
 「仕方ないじゃない。私達の科学力の方があなた

達よりずっと進んでいるのだから。」
少尉は小さな銃でカンカンとヘルメットを叩いた。
 「いくよ、人間戦車。」
動物に向かって合図しているような感じである。
 「その言い方止めてくださいよ。」
「戦車は文句言わないの。」
二人は警備艇を出ると、輸送艦に向かってこっそり

と接近していった。
             2
 「見つかったわね。」
 あと少しのところで帝国軍の兵士に見つかった。
 数十人の兵士が接近してくる。
 「遠くの方、お願いね。」
 パルル少尉は複眼なので近距離は死角がない。
 近づく兵士はみんな急所を射抜かれた。
 「ちょっと、遅いわよ!接近されすぎ、もっと頑張っ

て。」
 佐々木軍曹は人間なので、あまりに敵の数が多す

ぎて動きについていけなかった。
 遂に一人の兵士が弾幕を突破して二人に襲いかか

ってきた。
 肉弾戦では彼らにはかなわない。
 体当たりされて、軍曹は吹き飛ぶ。
 少尉は飛ぶ暇もなく、ヘルメットから振り落とされそ

うになった。
 あわてて軍曹が両手を使って受け止める。
「触ったわね。いやらしい。」
いきなり少尉はその手に噛みついた。
 攻撃すべき敵を間違えている。
 「あいたたた!助けてもらってそれはないだろう。」
 帝国兵は?と軍曹が振り返ると、急所を射抜かれ

て既に死んでいた。
 「輸送艦から狙撃したのね。かなりの腕前の人が乗

っている。」
 輸送艦と人間戦車に挟撃されて帝国軍は撤退した

ようである。
            3
 「良いにおいがするわ。」
輸送艦のハッチを開けるとパルル少尉はそうつぶや

いた。
 「そうですか?防虫剤の臭いがしますけど・・・。」
髪の長い、美しい人がこちらに向かって歩いてきた。
「救助は間に合ったみたいね。ほら、あなた達のメス

がいるわよ。」
パルル少尉はヘルメットの上から指をさしてそう言っ


 「ちょっと、その言い方は・・・。」
聞こえたら気分を悪くしないか、軍曹は気が気ではな

かった。
 「ありがとう、助かったわ。」
 あこがれの千佳大尉(何度も手柄を立てているので

軍曹から昇進した)である。
 輸送艦で何度も重要な作戦に従事した有名な方だ。
 部下にアマンダ少尉という、優秀な宇宙一の美人が

居るはずである。
 「居た、居た。コイツだ、良いにおいがする奴。」
廊下の柱に隠れているアマンダ少尉を見つけ、パル

ル少尉は嬉しそうにそう叫んだ。
 「ちょっと少尉、その物言いは失礼ですよ。」
アマンダはなぜかビクビクしている。
 「ねえアマンダさん、良かったらお友達になれない

かしら?」
パルル少尉はつつーっとゆっくり飛びながら彼女に

近づく。
 「嫌ですよ。何考えているの。」

なぜか頑なに拒否する。
 「どうして、アマンダ?友達になってあげなよ。せっか

くの申し出なのに・・。」
千佳大尉は、人形みたいに可愛いパルルが気に入っ

たようである。
 「ううっ、何か嫌なの。私の本能がこの人を拒絶する

の。」
生理的に受け付けないものがあるらしい。
 「こんな小さな人が危険なわけないじゃない。」
 そう言われると確かにそうである。
 断る理由もなかったのでアマンダは渋々コクリと頷い

た。
 パルルはアマンダの肩に乗ると小さな声でささやいた。
 「じゃあ、せっかく友達になったのだから、あなたのこ

と舐めたり噛んだりしてもいいよね。女同士だし・・。」
それが彼女たちの挨拶なのだろうか。
 「いやよ、絶対何か企んでいる。」
アマンダは急にパルルを置いて駆けだして逃げた。
 「ちょっと待ちなさい、私のご馳走!」
パルル少尉は、隠していた大きな牙をむき出しにして、

みの虫が進化した宇宙人であるアマンダを追いかけ回

した。



 ハンミョウは道走りとも言われる虫で、美しい姿で炎天

下の川原などでじっとしていることが多い。
 小さな甲虫であるが敏捷で、人が近づくと前方へと数

メートル逃げる。更に進むとまた数メートル逃げて立ち

止まる、という不思議な動作を繰り返す。
 その美しい姿の割に凶暴で、口には交差した大きな牙

があり、優秀なハンターでもある。


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大池田劇場(小説のブログです)


宇宙一の美人

         宇宙一の美人
             1
 「千佳軍曹、あの樟脳(しょうのう)臭い子は・・。」
基地に輸送船が停泊すると、男の兵士達はアマ

ンダのことをそう呼んだ。
 アマンダはミノ虫のような生物が進化した宇宙

人である。
「そばかすの、ちっちゃい臭い子は・・。」
 「あの防虫剤みたいな子は?」
 「ナフタリンみたいな子は?」
 みんな彼女のことを名前で呼ばずにそんな言

い方をした。
 体形が地球人よりずっと小さいため、女性とし

て見てくれないのだろう。
 それにお世辞にも美人とは言えなかった。目

も細かったし、肌もカサカサしていたのだ。
「ちょっと止めなさいよ。可愛そうでしょ、そんな

言い方したら・・・。」
アマンダの星では雌は雄を呼ぶために特別なフ

ェロモンを出すらしい。それが防虫剤の臭いに似

ているのだ。
彼女にも聞こえるらしく、少し傷ついているようで

ある。
 宇宙人といえども女の子である。
 「あたしはこれでも地球のメートル法で身長140

センチもあるし、バストだって77センチもあるんで

すからね。自分の星ではグラマーで通っているん

ですよ。」

 彼女はむきになってそう軍曹にこぼした。
 『なんだろう、そのサイズ・・?小学生みたい。』
 軍曹はそう思ったけど、本人は傷ついているみ

たいなので口には出さないでいた。
           2
「もう、用もないのに見に来るんじゃないわよ。

このスケベども!」
アマンダが怒って男の兵隊達を追いかけ回し

ている。
 今度の積荷は少し変わっていた。
 積荷が人間だったのだ。
 しかも各星雲の美人女性ばかりである。
 これには少し理由があった。
 帝国軍との戦いのため、各星の古代文明を調

査していた仲間は、遂に素晴らしい物質を見つけ

たのだ。
 惑星バランの紫ルビーという宝石を使用すれ

ば、現在の光学兵器は十倍の威力になるらしい。
 惑星バランは既に滅んで知的生命体は存在し

ないが、今回見つかった遺跡の中に大量にその

物質が隠されていることが判ったのだ。
 この物質を確保できれば、劣勢だった戦線を一

気に挽回することが可能である。
ところが遺跡の中に入ろうとすると、古代の呪い

が邪魔をするというのである。
 「この扉を開けられる者は宇宙一の美人でなけ

ればならない。」
 扉の前に立つとそういう声がするのである。
 なぜか判らないが、今でもそのセキュリティは

有効らしい。
 遺跡を作った当時は宇宙一の美人がバラン星

に居たようである。
 伝説ではバラン星は美男・美女が暮らす楽園と

言うことになっていた。
 連邦軍は、何度も各星の美人と思われる人達

を選抜して扉の前に立たせたが、いずれも空しい

結果に終わった。
 扉を破壊すれば良さそうなものなのだが、それ

だと自爆装置が働いて遺跡そのものを壊れてし

まうようである。もちろん、紫ルビーも粉々に砕け

散るだろう。
 千佳軍曹とアマンダ伍長が惑星バラン星に付く

と、遺跡の重々しい扉には気難しそうな老人の顔

がレリーフされていた。
 この像が判断を下すようである。
 扉には重々しい金属の取っ手が付いており、宇

宙一の美人だけが回すことができるという。
 今回、連邦軍は数百人もの美人を引き連れてい

た。
 予想ではこれで開かないはずはなかった。
 「こんなものじゃ駄目だ。宇宙一の美人でないと

この扉は開けられない。」
 一人一人扉の前に立たせたが、レリーフの老人

は気難しい顔をして「うん。」とは言わなかった。
 最後の一人が終わっても駄目だった。
 関係者の間で落胆のため息が漏れた。
 もしかしたら永久に扉は開かないのかも知れない。
 また、伝説の美人を捜して次の機会を待つしかな

かった。
 「もしかして、私がひねると開いたりして・・・。」
 千佳軍曹もなかなかの美人だったので、少なか

らず自分に自信があった。
 ちょっとした悪戯のつもりで扉に触れてみた。
 これで開かればしめたものである。
 彼女が扉に触れるか触れないかという瞬間、急に

凄まじい電撃が走り、青白くスパークした。
 「馬鹿にするな。こいつのどこが美人なのだ。」
老人は凄まじい形相で怒り出し、一喝した。
 美人でない者が触れるのは、ひどく無礼な行為だ

ったようだ。
 「わしを馬鹿にするにも程がある。お前らみんな生

きて返さんからそう思え。」
えらい言われようである。
 扉の横の壁が急に左右に開くと、中から青銅でで

きたような巨人が出現した。
 手には大きな剣を持っている。
 ずしん、ずしんとこちらに向かってゆっくりと歩い

てきた。
 本当に生きて返さないつもりのようだ。
 「ひいっ、とんでもないことになってしまった。」
 千佳軍曹はその場に泣き崩れた。
 「大丈夫ですか?軍曹。」
 アマンダが駆け寄って、軍曹を立たそうとした。
 「ひどいやつだ、女をなんだと思っているの。こん

なもの・・・、こうしてやる!」
 彼女は扉を睨み付けると、乱暴にひねってこじ開

けようとした。
 もうルビーなんかどうでも良いように思えた。
「あれえ?」
 アマンダが取っ手をひねると、なぜかするりと難な

く回ってしまった。
 開けた本人もびっくりしている。
 「なんという素晴らしい香り・・。完璧な肉体・・・。美

しいマスク。間違いない、あなた様こそ宇宙一の美

人です。」
 扉はそう言って感動にうち震えたような声を出して

いる。
 「ええっ、ちょっと・・・。どんな基準で決めているの

よ。」
 その場に居た誰もが驚きの声を上げた。
「扉になんか裏工作でもしているんじゃないの。」
「ぜったい、変だわ。」
 「呆けてるんじゃないの、この扉じじい。」
 各星を代表する美人達が口々に不満を漏らした。
 「えっ、やっぱり?えへへ、ちょっと自信あったかな

・・・。」
 アマンダは頭を掻いて照れ笑いをした。
 連邦軍の危機は、思いも寄らない結果で去ったよ

うである。
             3
それから千佳軍曹の輸送船は、各星の男の兵士が

ひっきりなしに見物に来るようになった。
 何か近くに来る用事を見つけてか、あるいはわざと

作って立ち寄るのだ。
 「この船か?宇宙一の美人が居るというのは・・。」
 「たしかに良い臭いがするぞ・・・。」
 「おおっ、すごく小さくて可愛いぞ。」
いつのまにかアマンダは連邦軍のアイドルになってい

た。
 「もう、あんまり見つめられたら仕事になりませんわ。

軍曹、何か言ってくださいまし・・・。」
 アマンダは満更でもないらしく、目がニタニタと笑っ

ている。
 すっかりタレント気取りである。
「男って、どうしてミス何々とか、肩書きや権威に弱い

んだろうね。」
軍曹は黒山の人だかりを見ながら、男達の変わりよう

に呆れたようにそうつぶやいてみせた。


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