大池田劇場(小説のブログです) -4ページ目

大尉の危機

          大尉の危機
             1
 「アマンダ、昨日のあれ、お願いね。」
 休暇中の千佳大尉より連絡があった。
 「あれって、何のことですか?」
無線を受けたアマンダには覚えがなかった。
 「ほら、あれよ!あっ、ちょっと止めて!助け

て・・・。」
おかしな衝撃音とともに、無線が切れた。
 「大尉、応答してくださいよ。」
 何だろう急に連絡が取れなくなった。
 何度呼び出しても返事がない。
 とりあえず頼まれた用件だけは済ませること

とした。
 「あれって何のことだろう。」
大事な用事だったのだろう。
 「なぜ日本人って、あれだの、それだの、代

名詞で会話を済まそうとするのかしら・・・。」
 基地の同僚に聞いてみたが誰も知らないと

いう。
 「困ったわね。」
 アマンダは考えながら歩いているうちに台所

に来てしまった。
 「喉が渇いたわ。コーラでも飲もうかしら。」
 冷蔵庫を開けてみると、見慣れた人と目があ

った。
 「なんであんたこんなところに居るのよ。」 
冷蔵庫の中にパルルが潜んでいたのである。
 何か食べている様子だった。
 パルルは昆虫が進化した宇宙人で身長は二

十センチ位しかない。
「それは、おまえも主婦になったらわかるだろう

が、いろいろと家計を節約するためには、努力

が必要なのだ。」
家計を節約するために盗み食いをしているらし

い。
「私は本来肉食だが、甘い物も好物なのだ。」
ムシャムシャと箱の中に入ったケーキをむさぼ

り食っている。
 小さい体の割にはよく食べるようである。
 「そのケーキは・・・。まあ、いいか。」
アマンダは千佳大尉からの連絡が突然とぎれ

たことを話した。
「わざわざ休暇中に連絡してくるのだから仕事

のことだろう。保管している魚雷のことじゃない

のか?」
パルルはもともと優秀な軍人である。
 「そう言えば昨日点検しておくように言っていた

わ。」
忙しかったのでそのままにしてある。
 宇宙船に使う魚雷は相当な重さのものであり、

盗めるようなものでもなかった。
 ただ異常はないか定期的に見回りだけはして

いた。
 「そうか?暇だから私も手伝おう。」
パルルはフラフラと飛びながら付いてきた。
 彼女は体の大きさの割に羽の力が弱いので、

そんなに遠くまでは飛べない。
 弾薬庫にはなぜかベビーカーがおいてある。
 「実は子供も連れてきているのだ。うちの旦那が

ここに隠したのだ。」
 パルルは最近子供が生まれたのである。
 小さな卵だったはずだが、赤ちゃんは人間の子

供並みに大きくなっていた。
 「どうだ、私に似て美人だろう。」

かわいい子供だった。人間の子にそっくりである。
 目が閉じているので複眼かどうかはわからない。
 「でも?この大きさは・・・。」
パルルの何倍もある大きさである。明らかに異常

だった。
 「大きさはうちの旦那に会わせたのだ。これか

らの宇宙人は大きい方が良いと思ってな・・・。」
 機械とか、体が小さいと互換性がないので不

便なのである。
 パルルの星の科学力で遺伝子を操作したのだ

ろう。
 「よく寝てるわね。」
アマンダは気に入ったのか顔をのぞき込んでいる。
 「体が大きいので世話がたいへんなのだ。」
二人が赤ちゃんに見入っていたとき、急に部屋の

奥の方で音がした。
 「何か人影が・・・。」
アマンダがそちらの方を見た。
「ちっ見つかったか。」
 帝国の兵士が魚雷の隅から姿を現した。
 魚雷を爆破してこの輸送基地を破壊するつもり

だったようだ。
 兵士は銃を構えている。
 「しまった!何の武器も持っていない。」
点検に来ただけだから非武装である。
 「おっと、そっちのちっこいのも、逃げるんじゃな

いぞ。」
 帝国兵はパルルにももちろん気づいていた。
 二人の会話を聞いていたのだから見つかるのも

しかたない。
 「さあ、二人とも壁に向かって立つんだ。」
 二人はしぶしぶと壁に向かった。
 「赤ん坊は助けてくれるのだろうな。」
 パルルは帝国兵に吐き捨てるようにそう言った。
 「まあな、ワシもそんなに鬼ではない。」
 引き替えに二人の命はなさそうである。
 「だあ?」
 二人の会話で赤ん坊は目覚めたようである。
 「まんま!」
 次の瞬間、アマンダは恐ろしい光景を見た。
 パルルの赤ん坊がベビーカーから飛び跳ねた

のである。
 顔はたしかに人間の子供だったが、体はウジ虫

のようになっていて手足がなかった。
 まるで白い蛇のようである。
 とんでもない敏捷さで帝国軍兵士の喉をかみ切

った。
 「・・・。」
 声を出す暇もなく、兵士は倒れて息を引き取った。
 「まんま、まんま。」
 赤ん坊はそのまま血の滴る生肉をむさぼり続ける。
 「あっ、こら!そんなもの食ってはいかん!食って

はいかんと言うのに・・・。もう遅いか・・・。」
一度食べ始めると親の言うことなど聞かないようで

ある。
「性格は私に合わせているのだ。まだ子供だから、

見境なしに食べ物だと思ったら噛みついてしまう。」
 自分の親ぐらいは解るようである。
 「おそろしい、もし起きてたら私が食べられたじゃ

ない。」
 親と同じように幼虫時代から肉食だったようであ

る。
                2
もしかして大尉は帝国軍の動きを掴んでいたのでは

ないだろうか?
 それを知らせようとして・・・。
「大尉は大丈夫かしら・・・?」
 もしかしたら先手を打たれて帝国軍に襲われたの

かも知れない。
連絡をつけようと基地の隊員が大尉を捜したが、ど

こかへ出かけているのか行方がわからなかった。
 みんなが心配している中、千佳大尉はひょっこり

と翌日現れた。
「どうしたんです?急に連絡が取れなくって・・・。」
アマンダは駆け寄って大尉の手を取った。
 「実はパソコンの上に猫が乗ってしまって・・・。」
 コーヒーをこぼしてパソコンが壊れたらしい。
あの衝撃音はその音だったのか・・・。
 何も危機的な状況ではなかったようである。
 連絡があったおかげで補給基地の隊員は全員命

拾いした。
 猫に助けられたようなものである。
「よかったわ、心配したんですよ。」
 何もかも丸く収まって、アマンダが通常勤務に就い

たとき、急に千佳大尉が血相を変えて司令室まで飛

び込んできた。
「アッ、マンダ!まったくあんたの危機管理のなさって

ば・・・。」
魚雷のことを誰かに聞いて怒ったのだろうか?
 「食べられているじゃないの。私が買ったケーキ。」
カンカンになって怒っている。
 冷蔵庫に忍び込んだパルルがみんな食べてしまった

ようだ。
 よほど楽しみにしていたようである。
 無線の用件もそのことだったのだ。持って帰るのを忘

れていたので、隠しておいて欲しかったらしい。
 「一つも残ってないのよ・・・。」
 彼女は落胆したような顔をした。
大尉の危機は回避出来なかったようである。


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過去作品へ簡単に行けるブログ「豆池田」

です。(目次のブログです)

よろしければご覧になってくださいね。

http://ameblo.jp/m8511030/

(実は一つの話を完結して他の話へ行くという手法を

とっておらず、いくつかのシリーズを並行して書いてい

ますので、目次をご覧になった方がわかりやすいか

思います。きまぐれで他のシリーズへ飛びます。)


増刊号の「山池田」です。

現在、なぞの物質・「福田樹脂」載せています
よろしくお願いしますね(。・ω・)ノ゙

 http://ameblo.jp/m8511033/

(山池田は登山日記と、自分では今一つと思っている話

を載せています。掲載は不定期です。)


天使の国

              天使の国
                1
その日、私は学校を抜け出して近くの公園でお菓

子を食べていた。
私は、メープルシロップ入りのホットケーキが好

物だ。
 近くのコンビニで売っていたので迷わず購入した。
 「こんなところで何をしているのだ。」
 お菓子を食べていると見知らぬ人が声をかけて

きた。
 お葬式なのか黒い背広を着ている。
 「私の名は悪魔ベルゼバブ、悪魔の世界ではサ

タンに次ぐものと言われている者だよ。」
 悪魔?ベルゼバブ?私はおじさんが冗談を言っ

ているのだと思った。
 面白い人だ。
「みんなが陰で私の悪口を言っているのを偶然聞

いてしまって・・・。」
それで嫌になって学校を抜けてきたのだ。
 親友だと思っていた優菜が、私のことを理科室で

こう言っていたのだ。
『もう少しあの子、みんなと合わせるというか・・・。』
私は用があって教室へ行くのが少し遅れていた。
 『・・・いい恰好ばかりしないでほしいよね。』
そう言い放った優菜の顔は醜悪な魔女のように見え

た。
 みんなもうんうんと頷いている。
 そんなふうに思われていたの・・・。
 私はショックでその場を逃げ出してしまった。
「もう誰も信用できない、親友だと思っていたのに。」
特に優菜が、私のことをあんなに憎々しげに話して

いるとは今でも信じられなかった。
「その子たちはお前のことを無視したり、苛めたりし

たのか?」
ベルゼバブは私の話を聞いてそう質問した。
「そんなことまでは・・・。」
もしそんなことされたら学校なんか行かない。
 「悪口を言うことで発散して、お前との関係に折り

合いを付けようとしていただけではないのか?」
そうだろうか?だったら直接話せばいいじゃない。
 「全く人の悪口を言わないのなら、その人たちは天

使だろう。」
ベルゼバブはそう言って笑った。
「ふっ、そんな国があればいいのにね。」
私はついうっかりとそう口に出してしまった。
 人の陰口を叩かない善人ばかりの国、そんな世界

があれば行ってみたいと、その時は心底思ったので

ある。
 「天使の国はないが、お前の言うような世界は確

かにあるぞ。私がそこへお前を案内してやろう。」
そう言ってベルゼバブは懐から何かを取り出すと、

私に差し出した。
「あら、かわいい人形。」
 その人形の女の子は、虎のように黒と黄色のツート

ンになった服を着ている。
 「それを持っていれば、その国の人はおまえのこと

を受け入れてくれるだろう。」
なんだろう?そんな国あるはずないじゃない。
 でも人形は可愛かったので欲しかった。
 私は、ベルゼバブが何かのまじないの品をくれたの

だろうと思って、その人形を手にした。
                2
気が付くと、私は見知らぬ外国の町のベンチで一人

眠ってしまっていた。
 あたりは美しい女の人が忙しく動き回っている。
「あの、ここはどこですか?」
 一人の女の人が立ち止まって答えてくれた。メルル

と言うらしい。
 「ここは天使の国じゃないの。」
 女の人たちはみな同じ服を着ていた。
 知らないうちに自分も、黒と黄色のツートンのワンピ

ースに着替えている。
なぜか街は若い女の人で溢れていた。
 私は疑問に思ってメルルさんに尋ねてみた。
「男の人は?」
メルルさんは当然のことのように答えた。
 「うふふっ、この国は女の人だけの国なのよ。」
隣で聞いていたショートカットの女性が口を出した。

クルルとう名前だった。
「要らないでしょ、男なんて。争いの元になるし・・・。」
女だけで世界が成り立つとは思えない。
「それじゃ、子供出来ないのでは?」
私の質問にメルルさんは不思議な顔をして答えた。
 「子供?あれは勝手に部屋の中から生まれてくるも

のでしょ。」
街中には子供を抱いたり、背中におぶさった人もたく

さん見られた。
 「そうそう、可愛いわよね。」
二人が何を言っているのか、私に理解できなかった。
解っていることは、ここでは人間の世界の常識は通

用しないということだけだ。
 「ここは誰も老いることも、死ぬこともない理想の世

界なの。」
クルルさんはそう言って笑った。
 「あなたはどうしてここへ来たの?」
 メルルさんはそう言って逆に私に質問してきた。
 私は人に陰口を言われ、学校が嫌になって抜け出

してきたこと、ベルゼバブと言う人に人形を貰ってここ

に来たことを伝えた。
 二人はベルゼバブのことは知らないようだった。
 「人の悪口?そんなこと言うやつがいるの。」
メルルさんは憤りを覚えたような顔をした。
 いつの間にか、私の周りにこの国の人たちが集ま

ってきている。
 「ここでは考えられないわよね、みんな。」
この国の人たちは呆れたような顔をした。
 「うん、うん。そうだよね。」
 「悪口なんていけないよね。」
「そんな悪い奴、この国には居ないよね。」
この国の人たちは、みんな人の陰口を言わない善

人らしい。
 ベルゼバブが言った通りの人たちだ。
 「さあ、食べて。美味しいでしょう、いくらでもあるの

よ。」
そう言うと、メルルさんはどこからか黄色い食べ物を

持ってきた。
 何かのケーキのようだ。
 「甘いわ・・・。」
とても美味しい食べ物だった。
 いままでこんなものは口にしたことはない。
 「気に入ったのならずっと居ていいのよ。」
メルルさんは笑顔でそう言った。
 「気に入るわよね、ここは幸せの国。天国だもの。」
クルルさんもそう優しく話しかけてくれる。
 みんなとても良い人っぽかったのに、私はなぜか

薄気味悪いものを覚えた。
 自分でもこの涌き出る感情を不思議に思い、しば

らくみんなを観察しているうちに、その原因がわかっ

た。
「なぜだろ?この人たちの笑い方、何か違和感があ

る。」
 どこか笑顔に不自然なところがあるのである。
ずっと彼女たちの様子を見ていて、私は気が付いた。
この国の人は、口元は笑っているのだが、目が笑っ

ていなかったのである。
クルルさん達の瞳は、まるで何かを見透かそうと、ギ

ラギラ輝いているようにさえ見えた。
 「ちょっと、気分が・・・。」
 この人たちとちょっと距離を置こうとして、私はそう

いって誰も居ない木陰へと行こうとした。
 「きゃあ、クモが・・・。」
 休もうとしたら木の上から小さな蜘蛛が服の上に落

ちてきた。
 私は蜘蛛が嫌いなのであわてて振り払い、靴の底

でつぶしてしまった。
 「あなた何でこんなことを・・・。」
クルルさんが、ちょっと離れたところから私の様子を

しっかりと見ていて、駆け寄ってきた。
 「蜘蛛も生きているでしょう。」
彼女は蜘蛛を殺したことを咎めているようだ。
「えっ、でも気持ちが悪かったから・・・。」
 私は彼女の剣幕に驚いて、しどろもどろになってそ

う答えた。
 「蜘蛛には命はないと思っているの?」
気が付くとメルルさんも走り寄っていて私のことをそう

なじった。
「そんなことは・・・、許してください。」
 なぜこんなことでそんなに怒るのだろうか。
 気づくとこの国の人が大勢集まってきている。
 「許せることと許せないことがあるわ。」
 「蜘蛛を生き返らせなさいよ!」
 「どうやって責任をとるつもりなの!」
 口々にそう言って私のことを非難する。
やがてみんなでひそひそと相談すると、クルルさんは

こう言った。
 「この子にも蜘蛛と同じ目を・・・。」
みんなが恐ろしい目で私のことを睨んでいる。
 「蜘蛛を殺したのだからあなたも死ぬべきだわ。」
メルルさんの目が血走っている。本気らしい。
いつの間にか、みんなが手に手に鋭い武器を持ってい

た。
 槍のような細長い兵器だった。
 きっと突かれたら即死だろう。
私は身の危険を覚えた。
 「助けて、誰か!この世界は天使の世界じゃない。単

に心の狭い人たちの集まりだったんだわ。」
 みんなが、互いに誰かの落ち度を見つけようと監視し

合っているのだ。
(この国では親切は好意ではなく、義務で行う。)
心の狭い、偽善者の国だったんだ。
 私は彼女たちに取り囲まれ、もう少しで天使の槍で突

かれそうになった・・・、その時のことである。
「ちょっと、なに、何?誰が邪魔しているの。」
急に突風が私たちに降り注いだ。
 立っていられないくらいの風だった。
 「覚えてなさい。ひどい目に遭わせるから!」
 急にクルルさん達は私を置いて、背中の羽根を伸ばす

とどこかへ飛び去って行った。
                 3
 「きゃあ、きゃあ、助けて!蜂が・・・。」
気がつくと私は公園のベンチで眠っていて、近くに見知っ

た顔の人が蜂に追い回されていた。
 「何しているの、優菜。」
蜂はおとなしいミツバチだったらしく、優菜がかがむとど

こかへ飛んで行ってしまった。
 「何しているかじゃないわ。あなた何か甘いもの食べて

寝てたでしょ。口の周りに蜂がたかっていたのよ。」
 優菜は追い払おうと、ノートで扇いでくれたらしい。
 それで蜂が怒ってしまい、逆に追いかけられたのだ。
 「急に学校居なくなるから、昼休みにみんなで探してい

たのよ。」
私が無断で姿をくらましたから、クラスの何人かが手分け

して探してくれているらしかった。
 「どうして私のためにそんなことを・・・。」
優菜はにっこりと笑って答えた。
 心から笑っているように私には見えた。
 「当たり前じゃない、友達なんだから・・・。」
陽光の中で輝く彼女の黒髪はとても美しく、まるで天使が

舞い降りたようだった。
 人には醜いところもあるが、美しいところもあるものだと、

私はその時初めて気づかされた。



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私の赤ちゃん

            私の赤ちゃん
               1
軍隊を退役した私は、今は軍人だった優しい夫

と結婚し、ささやかな幸せを手にした。
 「千佳、今日も可愛いよ。」
 そう言って夫は毎日優しくキスをして仕事に出

かける。
 彼は少し身長は低かったけど、ハンサムである。
 軍人だった時は射撃の名手だった。
 「早く帰って来てね、あなた。」
 私は生まれだばかりの子を抱いて玄関まで見

送った。
 「バブー。」
 子供も夫が仕事に行くのが解るのか、行ってら

っしゃいと声を掛けてくれる。
 まだしゃべれないのに賢い子だ。
 「だああ。」
 子供が私の乳房をまさぐる。
 「おお、よしよし。食事にしましょうね。」
 お腹が空いたようだ。
 私は母乳で子供を育てることにしていた。子供

は元気よく、毎日お乳を呑んでくれる。
 「早く大きくなってね。」
 初めての子でいろんなことに戸惑うけども、可

愛くって仕方がない。
 「今日は、様子を見に来たよ。」
 玄関で懐かしい声がした。
 「ありがとう、遠いところをよく来てくれたわね。」
 今日は友達のパルルが赤ちゃんを見に来てくれ

た。
 パルルは昆虫が進化した宇宙人で、身長は15

センチ位しかない。
 私と同じように軍人だった時に現在の旦那様と

結婚し、退役したのだ。
 旦那は地球人である。
「可愛い赤ちゃんだわ。」
 パルルは小さな羽を動かして、パタパタと赤ちゃ

んの回りを飛んでみせる。
 「可愛いでしょう。」
 本当に食べちゃいたいくらい可愛い子である。
 「いつ頃、生まれたの?」
 パルルはそう質問した。
 「あれ?いつだったかな。」
 どうしたことだろう。なぜか思い出せない。
 「何か最近だったような気がするんだけど?」
 なんだろう、私はどうしてしまったのだろうか。自

分の子が生まれた日を覚えていないなんて・・。
 「後で育児日記を見てみるわね。」
 パルルはまじまじと私の顔を見た。
 「今の旦那とはどこで知り合ったの?」
 あれ、どこだっけ。聞かれるまではっきり意識し

てなかったな。
 「かなり前からの知り合いよ。忘れちゃったわ。」
 パルルは不思議そうな顔をした。
 「忘れるって・・?」
 自分でもちょっとおかしいと思った。
 「最近、物忘れがひどいのよ。」
 ちょっと焦ってそう答えた。
 「だああっ。」
 子供がまたお乳をせがんできた。最近食欲が旺

盛なのだ。
 「ちょっと失礼するわね。」
 女同士だから構わないだろう。
 私は胸を出して赤ちゃんに乳を与える。
 「地球人の育児は面白いな。」
 パルルは不思議そうな顔をして授乳を見入って

いる。
 「可愛い子だな。ちょっと触らせてもらってもいい

かな?」
 パルルはそう言って赤ちゃんの方へ向かって飛

んできた。
 「ええ、良いわよ。」
 私はにっこり笑ってそう答えた。
 パルルは子供の顔の方に近づくと、急に大きな口

を開ける。
 口元から交差した大きな牙が覗いた。
 「えい!ガブッ。」
私は目を疑った。
 いきなり彼女は、私の赤ちゃんの首元にその大き

な牙を突き立てたのだ。
「何するのよ、あたしの赤ちゃんに・・。」
 赤ちゃんは火のついたように泣き出した
私は反射的に振り払おうと、平手で彼女を叩こうとし

た。
 一瞬早く、彼女は素早く上昇し、パタパタと飛んで

照明の上に止まった。
「ふうっ、地球人の母性本能は恐ろしい。もう少しで

殺されるところだった。」
 私は目を逆立てて彼女を睨み付けた。
 「降りてきなさい。こんなことをしてただで済むと思

っているの。」
 本当に殺してやろうかとさえ思った。
 「よく見てみろ、自分の子供を・・。」
パルルはそう言って私の赤ちゃんを指さした。
 何を言っているのだろうかと、自分の抱いていた

子供を見る。
 赤ちゃんだと思ったものは黄色い枕のような袋だ

った。
 ブヨブヨと苦しそうに動いている。
 パルルが噛んだところから中身がこぼれているよ

うだった。
 「あたし、こんな奴に胸を吸われていたの。」
私は赤ちゃんをベットの上に放り出して夫を呼んだ。
 「あなた、あなた大変。赤ちゃんが・・。」
夫は仕事から帰っていたのか、台所から返事をした。
 「なんだい、おまえ。」
背広姿の夫がのそのそと出てきた。
 どこかで見た顔である。
 「あんた、アマンダじゃない。」
部下のアマンダだった。
 「あれ、千佳大尉?エプロン姿で何をやっているの

ですか?」
 よく見回してみると、ここは家ではなく、勤務してい

た宇宙船の操縦室である。
 「あんた達、女同士で何やってたの。」
パルルはそう言って呆れた顔をした。
 「こっちが聞きたいわよ。赤ちゃんが生まれて、世

話をしていたのは覚えているのだけれど・・。」
 よく考えたら結婚なんかしていないし、そんな行為

自体、何年もしていない。
 「この虫に騙されていたのよ。」
 パルルは床に転がった瀕死の黄色い物体を指さし

た。
 「何なのこれは?」
よく見るとグロテスクな生き物である。
 「地球でいうところのフクロムシね。」
 フクロムシ?そんな生き物は聞いたことがない。
 「フクロムシは寄生虫の一種で、地球では蟹に寄

生する動物なの。寄生された蟹はフクロムシを自分

の子供(卵)だと思って世話をするのよ。」
 パルルはそう説明した。
 どうやら積荷にくっついていて、私に取り憑いたらし

い。
 輸送船の連絡が途絶えたので、心配した彼女が来

てくれたのだ。
 「ひどい、人の心をもてあそんで・・。」
赤ちゃんも夫も虫が見させた幻だったのだ。
私から栄養を横取りするため、そういう幻覚をみせた

のだろう。
 彼女が来てくれなければずっとこの状態だったに違

いない。
                 2
「あいたたた、乳が張るわ。」
虫に取り憑かれていつの間にか巨乳になっていた。
 栄養状態が悪いと自分にも栄養が回ってこないので、

虫はそうなるように私を刺激したのだろう。
 このことを知ったら、変に悪用する人がいるかも知れ

ない。
「ちょっと待って、私がしぼってあげる。」
 パルルはそういって胸の上に乗っかると、ゆっくりとほ

ぐしてくれた。
 この痛みは女にしかわからない。
 「戦争が終わったら本当の赤ちゃんが欲しいわね。」
ニセの子供だったけど、この1ケ月の間は確かに幸せだ

ったように思う。
 私は大きくなった胸を眺めながら、そう独り言をつぶや

いた。
 




リアルなフクロ虫(黄色い部分)。カニの卵のふりしてい

ます。


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愚か者

            愚 か 者
               1
高瀬舟という小説がある。
 文学者でもあり、医学博士でもあった森鴎外

の作品である。
この小説では安楽死を取り扱っている。
洗練された文章、自身も医者であった森鴎外ら

しい、人情味溢れた高潔な作品だと学生のとき

は感心して読んだ覚えがあるものだ・・・。
また、彼の代表作の阿部一族は封建制の愚か

さを書いた作品で、意地や建前に生きる侍の愚

かさを知ることができ、当時はこの作品にも感銘

を受けたものであった・・・。
               2
明治3×年某日、日本海軍砲艦赤城の食堂。
 艦長である山本少佐は怒り狂っていた。
「おい、なんだこの飯は・・・!」
料理長を呼ぶとアルミの茶椀の中のご飯を指さし

た。
指示したものと違う物が出ている。
 士官と一般の兵士は出される食事が違うので、

この日まで気付かなかったのだ。
「すいません、麦飯はどうも評判が悪くて・・・。」
兵士の中には貧農出身の兵士も多く、麦飯よりも

白米を好むものが多かった。
 軍なら腹いっぱい白い飯を食べられる。
 前線の兵士のささやかな楽しみであった。
 料理長は自分の一存で、兵士たちの意向に沿う

ようにしたのである。
 「おまえ俺の言うことが聞けないのか。」
あろうことか大尉は腰から南部式拳銃を抜いて構

えた。
 「いいか今度だけは許してやろう。」
料理長の胸ぐらをつかんで締め上げる。
 「もし今度同じことをして、お前のためにわしの

優秀な部下が一人でも失うことがあったら、わし

はこの銃で必ずお前の頭を打ちぬくからな!」
大尉のあまりの権幕に、料理長はただただ首をす

くめて、平謝りに謝り続けた・・・。
               3
森鴎外は日清日露戦争に軍医として従軍し、日露

戦争当時は軍医の人事権を一手に握る要職に付

いていた。
 官僚にとって人事権とはもっとも強力な権力と言

えるであろう。
「陸軍第2軍の横井軍医部長が御面会を求めてい

ます。」
執務室のドアを叩き、森の身の回りの世話をしてい

る中村軍曹がそう取りついで来た。
 「またあいつか・・・。」
森は嫌な顔をした。
 「追い返しますか?」
 二人の関係をよく知っている中村はそう進言した。
 「いや、いい。逢うとしよう。」
居留守など大人げない対応は取るべきではないと

森は判断したようである。
 執務室へ入った横井は、非常に多弁で自説をまく

したてた。
横井は中国戦線に投入した陸軍の部隊が、病気に

より甚大な被害を受けていると報告した。
 このままでは軍隊が機能しなくなる恐れがあるとい

う。
 ロシアとの決戦を前に、貴重な戦力の減少は避け

ねばならないと力説した。
「具体的に何をせよというのだ。」
森は不機嫌そうにそう返事をした。
「ですから・・・。」と横井は怒ったような剣幕で続けた。
 もはや自身の出世とかそんなことは考えていないよ

うである。
 「麦飯禁止令を撤回してください。」
この病気にはなぜか、玄米や麦飯と言ったものが有

効であるということが経験から判っていたのである。
 海軍はそれを実行していた。
 実は江戸時代の医者でさえ、その事実を掴んでい

たのだ(蕎麦を食べさせていたらしいです)。
「君は私の言うことに逆らう気かね。」
森は暗に人事権をチラつかせて横井をけん制した。
 「では聞くが横井、玄米や麦飯のどこにこの病気を

防ぐ物質があるというのだ。具体的に言ってみたまえ

。」
実はこの当時、この病気の原因には諸説があり、まだ

科学的に証明できるまでには至っていなかったのであ

る。
 当然のことではあるが、横井はその点については沈

黙せざるを得なかった。
 「それみろ、証明できないではないか。証明できない

ことは科学ではない。」
確かにその点では森の言う通りではある。
 森は根拠のない麦飯の供給など、陸軍内で禁止す

る通達を出していた。
 海軍軍医高木の主張する麦飯優秀説は、理論が粗

雑であると当時の医学界では否定的意見が出されて

いたのである。
 「しかし海軍と陸軍では病気の羅漢率が全然違いま

す。海軍の主張にも耳を傾けるべきでは・・・?」
前線の兵士は死に続けている。
 また、死なないまでも体力を消耗し、野戦病院へ担が

れてくる兵士は後を絶たないのだ。
 兵士の命を預かる軍医としては看過できないことであ

る。
 まず命を助けること、理論は後からでも考えて証明す

ればよい、というのが現場の医師である彼の主張であ

る。
 「海軍の無知な軍医、愚か者の言うことなど聞く必要

はないのだ。やがてこの病気の感染源となる細菌を大

学の研究室が見つけることだろう。今はそれを待つしか

ない。」
 そう言うと森は横井との議論を打ち切り、彼に退出す

るよう指示した。
                 4
 日露戦争での脚気(かっけ)患者は、陸軍では25万

人(死者2万7千人)を数えたのに対し、海軍ではほとん

ど発生しなかった。
 自説にこだわる頑固な軍医のために犠牲になったの

である。
 (根底には陸軍と海軍の意地の張り合いもあったと推

測される。)
 脚気の原因であるビタミンB1が発見されるのは、これ

よりずっと後のことである。
 もちろん脚気の原因となる細菌など、見つかるはずは

なかった・・・。



よい子のみなさまへ
こんな奴、安楽死がどうとか、江戸時代の官僚制がどう

だとか、人に偉そうなことを言えるほど立派な人物だった

のでしょうか(。・ω・)ノ゙
(命の尊厳を言うのなら25万人を見殺しにはできないは

ずであるし、自分自身が陸軍という馬鹿げた官僚制に縛

られている、権力の権化だったのでは?)


ペタしてね


過去作品へ簡単に行けるブログ「豆池田」

です。(目次のブログです)

よろしければご覧になってくださいね。

http://ameblo.jp/m8511030/

(実は一つの話を完結して他の話へ行くという手法を

とっておらず、いくつかのシリーズを並行して書いて

いますので、目次をご覧になった方がわかりやすい

かと思います。きまぐれで他のシリーズへ飛びます。)


増刊号の「山池田」です。

現在、なぞの物質・「福田樹脂」載せています
よろしくお願いしますね(。・ω・)ノ゙

 http://ameblo.jp/m8511033/

(山池田は登山日記と、自分では今一つと思っている話

を載せています。掲載は不定期です。)



繭 子

            繭 子
              1
 「ちょっと、そこの君!」
 ペットショッブを歩いていたら急に誰かが私

を呼び寄せた。
 「聞こえてるんでしょう?私の声・・・・。」
 どこだろう、小さな声だ。
 「あなたの前に小さな箱があるでしょう。」
 確かに棚の上には小さな箱が並んでいる。
 「ホウネンエビ?」
 箱にはそう書いてあった。
 確か、昭和40年代にはやったシーモンキ

ーとかの仲間だ。
 田んぼとかで群れで見かける節足動物で

ある。
 卵が乾燥に強いので冬は卵のままで越年

し、田に水を張ると湧いて出てくるのである。
 人間生活には関わりのない虫であるが、姿

が面白いので男の子とかには人気がある。 
 「私を買いなさい。この箱の中に閉じこめら

ているの・・・。」
 声は確かに女性のものだ。他のお客はみ

んな知らん顔をしているので、私にしか聞こ

えてないようである。
 「確かに声はするが・・・。」
 箱が喋るとは思えない。耳がおかしくなった

のだろうか?
 「いいから買いなさいよ。千円位持っている

でしょう。私はホウネンエビじゃないの。形が

似ていたから間違って一緒に捕まっただけよ

・・・。」
にわかには信じがたいが、面白そうなので買

ってみることにした。
 声が聞こえる原因も知りたい。

 家に持って帰ると箱の中には乾燥した卵が

入ったパックと、餌が少量入っていた。
 水槽も必要なので一緒に購入した。
 「早く、早く水を入れなさい。」
 箱の中の卵は偉そうに命令する。
 どうも声ではなく、私の頭の中に直接話しか

けているようだ。
 「このままじゃ、いくら何でも乾燥して死ん

でしまうわ。」
せかされてあわてて水槽に水を入れる。
 「ふ~っ、生き返ったわ、極楽極楽。」
 水槽の中では、目にはよく見えないが、何

かの小さな生物が孵ったようである。
             2
 ホウネンエビたちは次々と孵り成長した。
 いつしか水槽の中はエビだらけになる。変

わったエビで、お腹を水面に向け、背泳ぎす

るように泳いでいる。
 「餌が足りないわよ。」
 水槽の前を通るとまた女の声がした。そう

いえば餌をやるのを忘れていた。
 「君は一体誰なのだ?」
 水槽の中に話しかけると、一匹のエビがこ

ちらに寄ってきた。よく似ているが確かにホ

ウネンエビではない。
 「こんな下等動物の仲間じゃないことは確

かね。」
 どうもエビが喋っているのでおかしな感じ

である。
 「じゃあ、テレバスで操作して本当の姿を

実体化してみせるわ。よく見てなさい。」
 急に目の前に2センチくらいの裸の女の子

が出現した。
 ショートカットの綺麗な女性で、水の中を

優雅に泳ぎ回っている。
 数秒見えただけで、すぐに消えてしまった。
 「ふ~っ、疲れたわ。体が小さいから今の

ところはこれくらいが限界ね。」
 エビは少しぐったりしたようだった。あわて

て餌を入れてやる。
 「どう?わかったでしょう。私は高等生物な

の。きちっと世話しなさいよ、あなた・・・。」
 そう言って彼女はガラスに貼り付くと、体をく

ねらせて甘えて見せた。



 

  ↑リアルなホウネンエビです。

              3
 私は彼女に繭子という名前を付けた。
 「繭子?良い名前ね。」
 繭(卵)から生まれたので繭子にしたのである。
 彼女は段々と大きくなったが、知らないうちに

他のエビが居なくなっていった。
 「繭子・・・、他の子達は・・?」
 繭子は優雅に泳ぎながら答えた。
 「知らないわよ。死んだのじゃないの。このエビ

は弱い生き物なのよ。」
 図鑑で見ると確かにホウネンエビは環境の変

化に弱く、飼育が難しいらしい。
 田んぼで取ってきても数日で死んでしまうこと

が多いようだ。  
 「そうか、仕方ないな。」
 元々、ホウネンエビを飼育するために買ったの

ではないから、どうでも良いことであるが・・・。
              4
 それからしばらくして、ある朝目覚めると、繭

子が居なくなっていた。
 代わりにどこから来たのか、小さな魚が泳い

でいる。
 「繭子、どこへ行ったの?」
 まさか魚に食べられてしまったのだろうか?
 それにしてもこの魚はどこから来たのだろう。

私は一人暮らしで、部屋には誰も出入り出来な

いはずである。
 「あなた、御飯が欲しいわ。」
 ガラス近くに魚が寄ってくると、体をくねらせて

甘えて見せた。
 「あれ、繭子?なぜ魚に・・・。」
 彼女は笑って答えた。
 「うふふ、進化したのよ。お礼に、サービス・・・、

サービス。」
 そう言って彼女はまたしばらくの間、人間の女

の子になって泳いで見せた。
 「ねえ、私一人じゃ淋しいから、仲間を買ってき

てくれないかしら・・・。」
 彼女がそう行ってねだるので、私は和金の小さ

な赤い金魚をたくさん買ってきた。
 肉食の熱帯魚に餌にするもので、結構安く売っ

ている。
 「うれしいわ、仲間が増えた・・・。」
 彼女は赤い金魚の回りを、小さな人間の女性に

なって泳いで見せた。
 沸き立つ濾過器の泡の中で、魚と戯れる彼女は

まるで妖精のようだった。
               5
 数日すると、また知らないうちに金魚が居なくな

っていた。
 だんだん数が減るのでおかしいと思っていたの

だが・・・。
 「繭子、他の子達はどうしたんだ?」
 繭子は人間の姿になって、一人で泳ぎながら

答えた。
 「知らないわよ。あなたの世界の大きな生き物

・・・。猫って言うのかな?そいつが入ってきてみ

んな食べてしまったのじゃ・・・?。」
 繭子は灯籠の下で寝ていたので知らなかったと

いう。
 「そうか・・・。」
 まあ別に金魚を飼っているわけじゃないからどう

でもいいけど・・・。
 居なくなるとまた金魚を買ってきて、放して入れ

てやった。
 繭子は知らない間に、だんだん大きくなっている

ようにも思えた。
               6
 「ちょっと、いくら何でも連絡なさ過ぎじゃないかな

・・・。」
 携帯に凉子が電話を入れてきた。
 そう言えば繭子ばかり構っていて、リアルな女の

子のことを忘れていた。
 凉子は私の彼女である。
 「ごめん、ごめん。つい忙しくてさ・・・。」
 彼女は部屋に押しかけてきて御飯を作ってくれた。
 「あれ、ウーパールーパー買ったのね。高かった

でしょう。」
 ウーパールーパー?確かピンク色したサンショウ

ウオだな。
 そんなもの買った覚えは・・・?  
「あれ、いつの間に・・・?」
 金魚は居なくなってサンショウウオになっている。
 「うふふ・・・、進化したのよ。」
 繭子は20センチくらいの大きさになって水の中を

泳いでる。
 大きくなるに連れ、美しさが増すように見えた。バ

ストとかも大きくなっている。
 「水槽が狭くなったわね。大きいの買ってよ。」
 まあ、それぐらいは構わないけど・・・。
 「あと、私一人では淋しいから仲間を買って・・・。」
 美しい彼女の要求には逆らえそうもない。
 「この子、あなたの彼女なの。」
 繭子は私のリアルな彼女に興味を持ったようだ。水

の中からしげしげと眺めていた。
 「綺麗な子じゃないの・・。やるわね。」
 彼女はクスクスと笑いながら、無邪気に狭い水槽の

中を泳ぎ回っていた。
                 7
 それから彼女はトカゲになったり、ウサギになったり

しながら段々と進化していった。
 このごろは猫になってしまって、私の傍を付きまとっ

ていた。
 猫になってからは自分一人で外へ遊びに行くように

なった。
 「ちょっと友達の所へ遊びに行くわね。」
 夜になるとよく出て行った。
 猫同士のつき合いがあるのだろう・・・。
 猫になってからも成長は止まっていないようである。
 人間の姿では1メートル近くに変身することができた。
 猫の繭子は、時々私の布団に潜り込んで一緒に寝る

ことを好んだ。
 「おまえ、正体は何なんだ。」
 段々人に近づいてくるので私は気になって尋ねた。
 「知らないわよ。宇宙人かも知れないわね。」
 彼女はそう言って屈託なく笑って見せた。
                 8
 ある日、会社から帰ると、美しい女性が玄関で待って

いて、私を出迎えてくれた。
 「あなた、お帰りなさい。」
 大きくなった繭子だった。
 「遂に最終ステージまで進化したのよ。」
 そうだったのか。遂に人間になったのだな。
 きっと彼女は本当に宇宙人だったのだろう。
 光の速度でも太陽系から他の恒星に移動するのは数

年はかかる。
 もし高等生物が宇宙を移動するならば、その悠久な期

間に耐えうるのは肉体的・精神的にも不可能に違いない。
 彼女たちはきっと、自分達の肉体をその時間に耐えうる

よう、改造する技術を持っていたのだ。
 それがホウネンエビに似た生物だったのだろう。
 きっと彼女の乗ってきた宇宙船(カプセルのようなもの

?)は大気圏に突入して爆発し、卵が拡散したのだ。
 彼女だけが水田に落ちて助かったのだと推測される。
 「私達はあなたの星のアリマキのように、単為生殖が出

来るの。」
 一定数に達するまでは、彼女が自身のクローンを生み

続けるようだ。(その子もメスを産む。)
 オスはずっと後から生まれてくるのだろう。
 地球に根付いて自分たちの仲間を増やし、失われた文

明を再興するつもりのようである。
 「おまえ、その服は・・・。」
 私は繭子の服装を、どこかで見たような覚えがあった。
 それもそのはず、彼女の着ている服は凉子のものだっ

たのだ。
 「ちょうどサイズが合ったから、いただいちゃったわ。彼

女、センス良いわね。」
 凉子が、素直にお気に入りの服を繭子に差し出すとは

思えない。
 「あなたも薄々気付いていると思うけど、私達は共食い

をする種族でもあるの・・・。」
 服の襟には血痕らしきものが付いていた。
 「安心して・・・、いくら何でも命の恩人にそんなことする

はずないから・・・。」
 私達、良い夫婦に成れそうね、そう言って彼女は、呆然

とする私の胸に抱きついてみせた。



リアルな繭子さんのブログです→

 http://ameblo.jp/mayu-cocoon/

(本当はとってもおしとやかな人なのですよ)

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第三食糧基地、応答せよ!

      第三食糧基地、応答せよ!
              1
「だいたい、あんたはね!」
 千佳大尉は久しぶりにアマンダ少尉を叱っ

ていた。
 輸送船が着陸した星の気温が低かったので、

まだ操縦席に布団を持ち込んだのである。
 「だって寒いんだもの。もう限界、冬眠する。」
 アマンダはみの虫が進化した宇宙人なので、

布団をネトネトした液で縛り付け、袋状にして

いる。
 布団に入ったまま引きずって移動していた。
 「うそおっしゃい。あなたの本星では十分活

動可能な温度だと聞いているわ。」
 アマンダは鼻水をすすりながら、「個体差が

あるのよ・・。」と言って布団から出ようとしなか

った。
 「ほら、でなさい。第三食糧基地へ行くわよ。」
 二人で搬送用のトラックを運転して基地まで

向かわなければならない。
 千佳大尉は布団ごとアマンダを台車に乗せ

ると、トラックまで引きずっていった。

              2
 「こんにちーわ、千佳大尉。私はアーシアで

す。」
第三食糧基地はオメガ星のアーシアが管理し

ていた。
 「アーシアはー、棘皮動物が進化したー、生

き物なのでーす。」
棘皮動物?具体的になんなのだろうか。
 あまり聞いたことのない動物である。
 アルマジロかヤマアラシのような動物かなと

千佳大尉は漠然と思った。
 「ずいぶん、おっとりした感じね。」
アーシアはのんびりした性格のようだ。
 「えへへ、よくそー言われますよ。」
褒めても居ないのだが、アーシアは照れて見

せた。
「千佳大尉はー、おきれいですよーね。」
そういってアーシアは大尉の美貌を褒めた。
 『きれいだけど、ちょっと年増ね。』
アーシアは小声でそうつぶやいたように聞こえ

た。
 「えっ、今なんて・・。」
びっくりして千佳大尉は聞き返した。確かに若

くはないけれど、そんなこと面と向かって言わ

れたことはない。
 「いえー、わたしーは、なーんにもー。」  
アーシアはきょとんとした顔をしている。
 「初めまして、私はアマンダ少尉です。」
 アマンダは笑ってアーシア少尉に握手を求め

た。
 『何?このチビは?』
にっこりと笑いながら、アーシアはそうつぶや

いたように聞こえた。
 「えっ?」
アマンダはいきなり変なことを言われたので驚

いて見せた。
 「どーか、しましたか?」
アーシアも驚いたような顔をした。
 「あなた今、何か言ったでしょ?」
言っていることと行動が一致していない。
 「いーえ、私は何もー。」
とぼけているようにも見えなかった。
 「ちょっと千佳大尉、この子少しおかしくないで

すか?」
アマンダは千佳大尉を部屋の隅に引っ張って連

れてくると、そう小声でささやいた。
 「二重人格かも知れないわね。未知の宇宙人

だからお互い気を付けましょう。」
アーシアは美人と言うより可愛い感じの子だった。
 地球人よりずっとスタイルもよい。
 「小さなお口・・。ウフ、可愛いわ。」
アマンダはアーシアの小さくて可愛いピンクの唇

を羨ましそうに眺めた。
 「ちーさく、ないですよ。ほら、アーン。」
アーシアの顔半分が口になった。大きな牙が何

本も見える。
 「びっくりした、食われるかと思った。」
 すごく伸び縮みするらしい。
口の中の歯はノコギリのようになっていた。
 「私達はー、そんな乱暴な生き物ではないで

ーす。」
肉食ではなさそうである。固いものでもこそぎ落

とすためのものかも知れない。
                3
 「お二人をー、歓迎するためのー、食事を用意

してたのですよ。」
 アーシアはそう言って食堂に二人を案内しよう

とした。
 「ちょっと待って・・、誰かいるのでは。」
 アマンダが気配を察してそう言ったが、遅かった。
 銃を構えた帝国兵が待ちかまえていて、千佳大

尉の頭に銃を突きつけた。
 いつの間にか基地に侵入していたスパイのよう

だ。
 「おまえ達、戻ってくるのが早かったな。まあ言

い、手間が省けたというものだ。」
 帝国兵はそう言って三人の武器を取り上げる

と、腕に手錠をかけた。
 「女ばかり三人か・・。私もずっと女性を抱いて

いない。おまえ達に慰めてもらおう。」
 帝国兵はそう言って淫靡な笑いを浮かべた。
 千佳大尉に手を掛ける。
 「助けて、誰か・・。」
 もちろん誰も助けになんか来てくれるわけはな

かった。
 「アーシアから、先におー願いするわ。たくまし

い男性は好みなの。」
彼女はそう言って可愛く笑って見せた。
 恐くないのだろうか。
 「おまえか?良いだろう。割と好きな方なのだな

・・。」
 そう言って帝国兵はアーシアの服に手を掛けよ

うとした。
 「あーせらない。まずはキスからよ。うーん。」
彼女は目をつぶって、小さな唇を突き出して見せ

た。
 つられて男も口を合わせようとする。
 その瞬間、アーシアは閉じていた口を急に大きく

開いた。
 口からはオレンジ色の光りが出る。
 「ぎゃーあ。」
帝国兵が断末魔の叫び声をあげて倒れた。
 頭を打ち抜かれて即死したようである。
 「口からレーザー光線を出したわ!」
アマンダがびっくりしてそう叫んだ。
 「すごい特技ね。怪獣みたい。」
千佳大尉は驚いてまじまじとアーシアの顔を眺め

る。
 『口からレーザー出せる生物なんか居るわけな

いでしょ。私が撃ったのよ。』
 彼女は口をつぐんだままそう返事をした。
 彼女の口から小さな手が覗いて、にょっきりと伸

びてきた。
水着一枚になった、数センチ単位の女の子がアー

シアの口から出てくる。
 ショートカットの可愛い子である。
 「私の名はソフィア。連邦軍の軍曹よ。」
 小さいながらも連邦軍兵士のようである・。
 「ソフィアはカクレガニが進化した生物。棘皮動物、

ナマコが進化した生物のアーシアに寄生してるの。」
 アーシアの正体はナマコだったようである。
 カクレガニはアサリとかに入っている蟹である。貝

のみそ汁の中に入っているのを見た人も多いだろう

と思う。ナマコにも寄生することがある。

 一生を貝の中で過ごし、貝が吸い込む餌を食べ

ている。
「それにしても、危なかったわね。」
 脱がされかけた千佳大尉は、制服の乱れを整え

ながらそうつぶやいた。
 「もう、アーシアは心臓がドキドキして・・。」
 演技をするのが恐かったようである。
 「あーもー、喉が渇いたわ。」
 アーシアはそう言って自分が用意したジュースを

ごくごくと飲み干そうとした。
 「なにこれ、喉が焼ける・・。」
 そう言って、アーシアは苦しみだした。
 「たいへん、帝国軍が飲み物に毒を入れていたみ

たいだわ!」
アマンダはそう言って青くなった。
 「アーシアが死んじゃう。」
帝国のスパイは毒で職員を皆殺しにして、基地を奪

う気だったようである。
 「早く吐きなさい。早く!」
千佳大尉はアーシアの背中を叩いた。
 「アーシア・・、吐いてもいいかな?」
虫の息になったアーシアはそう尋ねた。
 「当たり前でしょ、早く吐きなさい。」
この非常時になぜ了解を求める必要がある?
 「じゃあお言葉に甘えて、エロエロエ・・・。」
 ごぼごぼと大きな口から音がしたと思うと大量の

未消化の食物が出てきた。
 「エロエロエ・・・。」
 それだけでは終わらず、長い長い食道、胃と思わ

れるものも一緒に出てくる。
 「ちょっと、なぜ胃まで出ちゃうの?」
 更に止まらず、長い長い小腸が、続いて大腸が口

から噴き出してきた。
 「あぎゃあ・・。」
 千佳大尉が飛び退いた。
「腰が抜けたわ・・・、アマンダ助けて・・。」
内臓が全部飛び出てきたのだ。
 アーシアは助からないだろう。
 「棘皮動物のナマコは、苦しくなると消化器官を全

部吐き出してしまうのよ。」
 ソフィアはそう分析した。
 敵に襲われた時も内臓を吐き出して逃げるらしい。
 「アーシア、大丈夫?」
 小さなソフィアは駆け寄ってアーシアの頭の上に

乗ると、耳元でそうつぶやいた。
 「う~ん、ソフィア。大丈夫だけど、私すごく衰弱し

ちゃったわ・・。」
 アーシアは服を脱ぐと、よろよろと培養液の入った

カプセルに近づいて行った。
 「消化器官が再生するまで休養するわね。ソフィア、

悪いけど一人で頑張ってね。」
 彼女は元は水棲動物なので体力を回復させるため

には、水の中に入る必要があるようである。
 「あなた一人で大丈夫なの?」
こんな小さな人が一人でやっていけるのかと千佳大

尉は思った。
 「何とかなると思うわ。それより大尉、少し相談した

いことがあるの?顔を近づけて・・。」
千佳大尉はそう言われ、かがんでソフィアに顔を近づ

けてみせた。
 「こうかしら・・。」
 突然、ものすごい速さでソフィアが千佳大尉の口に

潜り込んだ。
 「ひゃ、ひゃにを(何を)」
ソフィアは大尉の舌にべったりとくっついて離れなくな

った。
 「ちょっと臭うけど、棲むのには問題なさそうね・・。」
ソフィアは大尉の口の中をじっくりと観察しているよう

である。
 「にゃにが・・、ふちゃいって・・、ひひゅれいな(何が

臭いって?失礼な。)」
慌てて吐き出そうとしても出そうになかった。
 「食べ物は大尉が食べたものを分けてもらいますか

ら、気を遣わないでください。」
ソフィアはここに住む気のようである。
 「でなひゃい、ひましゅぐに(出なさい!今すぐに!)

。」
舌を掴まれているので大尉はうまくしゃべれない。
 「あと生物ですから排泄もしますが、気付かない程

度の量です。」
千佳大尉は真っ赤になって怒った。
 「でてへー、このばきゃー。(出てけ、この馬鹿。)」
 「ソフィアは一人では生きていけない生物なのです。

お願いします。外にずっと居ると不安になって死にます

。」
嘘ではないようだった。
 「そふ言われると、ひひゃたないか・・。(そう言われる

と、仕方ないか。)」
アーシアの代わりになるのは大尉しか居ないのだろう。
 「ちゃんと奇麗に体を洗って外で用も足しますよ。」
垂れ流すというのは冗談だったようである。
 「ふあたりまえだ(当たり前だ。)」
アーシアは復活するまで一月程かかるようである。
 この光景を見ていたアマンダはニタリと笑ってこういっ

た。
 「大尉、私この星は寒くて・・・、少しの間冬眠しても良

いかな?」 
 「だふえにきまふえって(駄目に決まって・・。)」
この上、アマンダまで休まれてはかなわない。
 「えー、よく聞こえません。」
アマンダは聞こえないふりをした。
 「ああ、良いよ。好きにしたまえ、アマンダ君。」
 口の中のソフィアが代わってそう答えた。
 「わかりました、そうします。大尉。」
アマンダは布団を引っ張り出してくると、その中に籠もっ

てスヤスヤと眠り始めた。
 「ふぉらー、ふぁたしは何も(こらー、私は何も・・。)」
そう怒りながらも、なぜか大尉はもうどうでも良いように

思い始めてきた。
 「ふふぁ、何か口の中が甘く・・。」
今まで味わったことのないような、甘い感覚が舌を刺激

するのである。
 「私達は体から宿主が気持ちよくなる物質を出すので

す。人体に影響はないので心配要りません。」
 ソフィアがそう説明した。
 宿主に追い出されないよう、そう進化したのだろう。
 「ふぁあ、何か幸せな気分。ふぁたしも休もう・・。食べ物

はたくさんあるし・・・。」
 それから1月の間、第三食糧基地は連邦軍から連絡を

絶ったままの状態であったという・・・。



ペタしてね


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とっておらず、いくつかのシリーズ

を並行して書いていますので、目次をご覧になった方

がわかりやすいかと思います。きまぐれで他のシリー

ズへ飛びます。)


増刊号の「山池田」です。

現在、なぞの物質・「福田樹脂」載せています
よろしくお願いしますね(。・ω・)ノ゙

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私だけを見て!

           私だけを見て!
               1
 駅前にできたという占い師のところへ、柳田

利香が尋ねてきていた。
 利香は彼氏が浮気しているように見えてな

らないという。
 「何か根拠でもあるのか?」
 占い師はベルゼバブといい、初老の男だっ

た。
 自らを魔法使いと称している。
 「それはないけど、女の勘よ。」
 行動に不自然なところがあるという。
 頻繁に携帯に電話がかかってきて、すぐに

切ってしまうらしい。
 「ああ、また後でかけ直すから・・・。」
 利香の目の前では決して話そうとしない。
 不審に思って、トイレに立ったときに着信履

歴を盗み見て驚愕した。
 親友のはずの木下雪野の名前があったの

である。
メールの内容も随分親しそうな文面だった。
 雪野に知らん顔をして彼(二村健太)の話を

しても、全然逢っていないという。
 顔見知りだから、町で顔を会わせてたら挨拶

ぐらいはするものである。
 半年も見たことがないという。
 雪野の目は何かおどおどしていて、きちっと自

分と視線を合わそうともしなかった。
 「これは決定的だと思うの。」
 客観的に見て、二人の間に何かがあると見る

のが自然かも知れない。
 「しかしまだ、そうと決まったわけでもあるまい

。」
 ベルゼバブはそう言って気のない返事をした。
 利香の話は何も具体的な証拠がないのであ

る。
「いえ、間違いないわ。今のうちに何とかしたい

の。彼を取られたくないのよ。」
 彼氏を問いつめても良いが、きっとのらりくら

りと言い逃れるに違いない。
 親友と思っていた雪野とは口も効きたくなか

った。
「どうして欲しいのだ。」
ベルゼバブは面倒そうにそう聞いた。
 客に接する態度とは言い難い。これだけ無愛

想だからお客も利香一人なのだろう。
 「彼に、私だけを見るようにして欲しいのよ。」
利香は藁をつかむような切実な思いをベル

ゼバブに訴えた。
 他に相談する人も居ないようだ。
 ベルゼバブは難しい顔をしてしばらく考え

込んだ。
 「では、おまじないの品をあげよう。」
 彼はそう言って、トランクから緑のバンダナ

を取り出した。
「このバンダナはおまえ達二人にしか見えな

いものだ。」
 綺麗な萌葱(もえぎ)色の布でできている。
 「これを彼氏に付けさせるといい。」
 そうすればきっと願いがかなうという。
 利香は嬉しそうにそのバンダナを受け取ると、

彼氏のアパートへと向かった。
              2
「格好いいでしょ、このバンダナをあげるわ。」
利香はバンダナを綺麗な包装紙で包み直す

と、彼に差し出した。
「おおっ、綺麗な色だな・・・。」
 彼氏の二村は単純に喜んだ。
 「付けてみてよ。」
 頭に巻いてみると音楽関係者のようで格好

良い。
 「芸術家にでもなったみたいだな。」
 二村はそう言って鏡を見入っている。
利香は後ろから彼に抱きつくと、耳元で小さく

ささやいて見せた。
 「ねえ、少し聞きたいことがあるの。あなた雪

野のことどう思っているの。」
二村はぎょっとした顔をした。
 「しまった。」という顔つきが鏡に映し出される。
 逆ギレして怒りそうな表情になったとき、急に

彼は頭を押さえた。
 「あいたたた・・・。」
 頭を締め付けられるような痛みを覚えたので

ある。
 「バンダナが・・・。」
 悪事を働いた孫悟空のように頭を痛めつける。
 利香もその様子をみて仰天した。
 単なるまじないの品ではなかったのだ。
 二村はあわててバンダナを鏡で見てみた。何

か・・・、蛇でも入っているかと思ったのだ。
 「うわ、バンダナなんかじゃない。イバラの冠

じゃないか。」
 彼は自分の頭を見て悲鳴を上げた。
 毒々しい緑色のイバラの冠が頭に張り付い

ていた。
 三センチはありそうな鋭いトゲが蔓からのび

ている。
「やっぱりあなた雪野と浮気していたのね。」
 利香は全てを理解した。
 浮気するとこの冠は頭を締め付けるのだ。
 「違う、相談にのっていてあげただけだ。」
二村はそう言い訳をした。
 するとまた一段と冠のトゲが食い込み、たま

らず彼はその場に突っ伏した。
 「嘘おっしゃい。冠が締まってきているじゃな

い。」
尋常ではない苦しみ方だった。
 「いたた・・、外れない。外してくれ。」
あまりに苦しんでいるので可愛そうになり、利

香がゆるめてやろうとしたが、全然動きそうも

なかった。
 まるで鉄のバンドで締められたようだ。
 「無理よ、私がやっても無理・・・。」
二村は利香のやり方に頭がきて、右手でほほ

をはたこうとした。
 「ちきしょう、こいつめ!あっ、イタタ・・・。」
手をあげた途端に一層締め付けがきつくなる。
 「私に危害を加えようとすると冠が締まるわよ

。」
 冠は利香の味方らしい。
 忠誠を尽くすのだ。
 「助けて、もうしませんから許して・・・。」
 泣きながら二村がそう言うと、冠は少しゆる

んだようだが、依然としてそのトゲは頭に食い

込んだままであった。
 イバラの冠は非常に頑丈で、彼がナイフや

ノコギリで切ろうとしても、ビクともしなかった。
 二村は青い顔をしてその場に呆然と座り込

んだ。
 「ふん、いい気味だわ。これからあなたは私

だけのものよ。」
利香はそう言って彼氏を置いてアパートを去っ

た。
 「ふ~っ、勝ったわ。すごい爽快感。」
 これで永久に二村は浮気ができなくなり、彼

女の言いなりになることだろう。
              3
「ふっ、ふふふん。」
 彼女は帰ってから好きな歌手のミュージック

ビデオを聞いた。
 浮気者を成敗して、とってもご機嫌な様子で

ある。
 「あいたったた。」
 曲が半ばに差し掛かったとき、彼女は急に頭

に痛みを覚えた。
「痛いわ、頭が血まみれだわ。」
 頭に手をやると血が付いてきた。
 何か虫にでも刺されたのだろうか・・・。
「お母さん、私の頭に何か付いていない?頭か

ら血が出たの。」
 あわてて母親の元へと駆け寄ったが、母は怪

訝な顔をした。
 「利香・・・、何言ってるの?血なんか出ていな

いよ。」
母親は念入りに頭を見てくれたが、何も異常は

なかった。
 「おかしいな・・・。」
 ズキズキとした痛みがずっと続いている。
 部屋に戻って手鏡で自分の顔を見て驚いた。
 「こっ、これは・・・?」
 萌葱色の・・・、イバラの冠を付けた自分の姿が

あったのだ。
               4
「言い忘れていたが、この冠は2個セットになって

いるのだ。人にかぶせると自分も同じものをかぶ

ることになる。」
ベルゼバブはそう説明した。
 そんな大事なことを忘れるはずはない。
 悪魔は最初から言わなかっただけであろう。
 「おまえは、人に魔術をかけてまで行いを正そう

としているのだから、自らも厳しく律する必要があ

る。」
利香は浮気などした覚えはなかった。
 彼氏一筋である。
「私は、ただ好きな歌手のミュージックビデオを聞

いていただけよ。」
 冠に締められるようなことをした覚えはない。
「唄っている歌手を格好いいとか思ったのだろう・・

・。」
それは確かに思った・・・。
 もしかして冠はそれを咎めているのだろうか。
 「彼とは違うわよ。あいつらはデートしているのよ

。」
自分のやったことを同じように責められるのは、ど

う考えても不公平である。
 「それは単なる程度の問題に過ぎない。他の人

を良いと思うことが問題なのだ。冠に浮気だと判断

されても仕方がないだろう。」
思ってもいけないなど、そんなことができるものだ

ろうか。
 「そんなの無理よ、これ返すわ。早く外して・・・。」
ベルゼバブは受け取ろうとしなかった。
「自分でもできないことを、なぜ人に強いるのだ。」
彼に自分だけを見るように要求するのなら、自分も

彼以外の者を見てはならなかったのである。
 「無茶言わないで、助けてよ。」
利香は懇願した。耐えられないほどの頭痛である。
 悪魔の力を借りたことを今更ながらに後悔した。
 「それはできない。自分の力で外すことだ。」
ベルゼバブはそう言い放った。
「どうやったらいいの?」
せめてヒントだけでも教えてほしかった。
 「忘れていることを思い出すことだ。そうすれば冠

は取れるだろう。」
意味がわからない・・・。
 「忘れているものって・・・。」
 ベブゼバブはそれ以上利香の質問には答えず、

その場から消え去ってしまった。
                5
「おまえが人を呪うからこんなものを付けられるん

だ。」
仕方なく彼氏のアパートへ行くと、二村はそう言っ

て罵った。
 「あなたが浮気するからでしょう。」
利香は怒ってクッションを彼に投げつけた。
 原因を作ったのは二村である。
 「こいつめ!」
彼は腹がたったのか、軽く利香のほほを叩いた。
 「やったな!」
叩かれて彼女は二村の右手を噛んだ。
 「あいたたた・・・。」
二人とも頭に激痛を覚えてその場に倒れ込んだ。
 両方の冠が防衛するのだ。
 「止めましょう、不毛な争いは・・・。頭が痛くなるだ

けだわ。」
二人で身もだえするくらいに苦しんでいる。
 「これ、一生取れなかったらどうしよう?」
二村は冠を押さえて絶望的なため息をついた。
 誰にも見えないのだから、誰かに相談するわけに

もいかない。
 もちろん手術で取り除くことも・・・。
 「ごめんね、私が悪かったわ。」
利香は彼に抱きついて謝った。
 「いや、ボクがいけなかったんだ。誤解を招くような

ことをして・・・。」
二村は彼女を抱き寄せるとその髪を撫でた。
 「痛そうだね、利香。」
 二村は優しく彼女の血が滲んだ冠に触れた。
 その途端・・・、冠が急に茶色くなり、ボロボロと崩れ

ていく・・・。
 「あっ、取れたわ。」
急に利香の頭が軽くなった。
 呪いが解けたのだ。
 「ボクのは駄目だ。固くて・・・。」
彼は自らの頭に手をあてて外そうとしたが無理だった。
 「待って、もしかすると・・・。」
利香は立ち上がってイバラの冠を手にした。
 ボロボロと冠が茶色くなり崩壊していく。
自分を愛するパートナーにしか外せなかったようである。
                6
二人は無くしていたものを取り戻したようである。
 イバラの冠はそれに弱かったようだ。
 忘れていたものは、相手への信頼、・・・思いやりの心

だった。



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悪を許すな!

            悪を許すな
                1
○県ではこのところ凶悪犯罪が増え続けていた。
 暴力団組織が大きくなりすぎたからのようだ。
 クスリに関する犯罪が増加し続けた。
 外国の移民が多くなり、社会的に不安定な立場の彼

らが不況により解雇され、悪の組織へと加わるケース

も多くなった。
 事態を憂慮した知事は遂に決断した。
 「よし財政難だがやむを得ない。警察官を3割増やそ

う。」
不況で税収入は減っているが、別枠で警察官だけは増

やそうとした。
 警官が増えれば検挙率も上がり、犯罪は撲滅できる

と考えたのである。
 現場の警察本部長は喜んだ。
 組織が大きくなればそれだけ力が増すからだ。
 「職員が増えて、遂に世にはびこる悪を根絶するチ

ャンスが訪れた。」
部下の職員達を集めると訓示した。
「一層、悪人を許さないよう、勤務に励むように・・・。」
 部下の警官達も気合いが入っていた。
 全国でも下位に甘んじている、犯罪の検挙率を上げ

るチャンスである。
 「我々の実力を遂に示す時が来たのだ・・。」
 なにしろ今までは人手不足で十分に犯罪を取り締ま

ることができなかった。
 30%も職員が増えれば十分な対応が可能と考えら

れた。
 「行くぞ、みんな!」
 「おおっ、悪を許すな。」
 「徹底的にやるのだ!」
 「この世から悪を一掃しよう。」
現場にはそういったやる気のある言葉が満ちあふれた。
                2
 職員達の気合いの入った行動はすぐに結果に表れ

た。
 悪を許さない県警の意気込みは凄まじいものがあっ

た。
 おかげで・・・、
 凶悪犯の検挙率は変わらなかったが、見通しの良い

交差点で一旦停止せず徐行して通過しようとする悪い

奴や、 数十メートル離れた商店街へ買い物に行こうと

して、シートベルトをしない悪党などの犯罪者の検挙率

は、3割も上昇したという。


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方がわかりやすいかと思います。きまぐれで他のシ

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おかしな居候

         おかしな居候
             1
帝国軍との艦隊戦に破れた連邦軍は一時撤退

を余儀なくされた。
 連邦軍側の一時的な補給線上にあった、イオ

ン星の第一基地及び第二基地は放棄されること

なく、撤退する連邦軍艦隊から取り残される形と

なった。
 この基地の存在をもし帝国軍が察知すれば、

少なくない数の軍隊が奪取に来ることが予想さ

れた。
「増援部隊を至急お願いするわ。こちらは基地

を保持するだけの人員しかいないのよ。」
第二基地の隊長である高木千佳大尉は、軍隊

の増援を第三司令官に要望していた。
補給線部隊は普段は危険が少ないため、連邦

では女性の軍人を起用することが多かった。
 「悪いがそちらに余分な戦力は割けない。残っ

た人達で戦ってくれ。出来るだけ抵抗して敵に戦

略物質を与えないようにお願いする。」 
ここに駐留していたのは工作兵や輜重兵ばかり

で戦闘員は少なかった。
「持ちこたえられなくなったら逃げるわよ。」
この人数で大きな第二基地を保持するのは不可

能である。
 「それは君が判断してくれ。おとなしく脱出させ

てくれればよいのだが・・・。」
救助艇を帝国軍がおとなしく見逃してくれるとは思

えなかった。
 最初から玉砕するしかないのかもしれない。最

悪の場合は自分から基地を破壊するしかなかっ

た。
 急な撤退であったので、かなりの武器弾薬や食

糧が基地には保管されていた。
 足りないのは戦闘員だけである。
 「撤退するなということですか。あたし達に死ねと

いうことかしら・・。」
 アマンダ中尉はそう憤った。
 「残った人達でやるしかないわね。」
 残った人といっても半数以上が女性である。
 精悍な帝国軍に対してどれだけのことができるだ

ろうか・・・。
 「この基地、嫌だわ。虫が多くて・・・。」
 アマンダはそう言って顔に寄ってくる小虫を払っ

ていた。
 アマンダ自身はミノ虫のような生物から進化した

種族だったのだが・・。
 この基地は地球の熱帯性気候のようなところに

あり、周囲が乾いた砂漠のようになっていた。
 独立した建物であったので、太陽光で自家発電

し、必要な電力を得ていた。
「ウィーン、ウィーン」と低周波で唸るモーターの音

がうるさく、強い日差しと併せて余計にイライラした。
 異変が起きたのは数日後のことであった。
 「ゲジゲジみたいな変な虫が発電機の所に居ます

。」
 アマンダがそう言って司令室の所へ駆け込んでき

た。
 千佳大尉が見に行くと、体長が2メートル近いゲ

ジゲジに似た、いくつも足を持つ生物が発電機の所

に集まっていた。
「どこから入ったのかしら?」
 どうも細い足をコンクリートの微少な凸凹に引っか

けて登ってきたようだった。
 発電所の壁に何匹もこの虫が貼り付いている。
 「人に危害を加えないかな?」
 恐ろしい形態の割にはおとなしい生き物のようで、

発電所の近くでじっとしている。
 自らはキイキイと変な鳴き声を交わしていた。
 聞いた限りでは言語と言えるようなレベルではな

かったけれども。
 一応翻訳機を使ってみたけれど、やはり言葉とし

て認識はされなかった。
 「見たとこ、そんな文化もないのでしょう。」
この星は知的生命体の居ない、原生生物のみの惑

星として両軍ともに認識されていたのである。
 そのまま放置していたら、日を追うに連れて数が

増えてきた。
 なぜか発電機のある建物に集まってきているよう

に見える。
 「なぜこの発電機が好きなんでしょうね。」
アマンダはそう言って考え込んだが、その理由は解

らなかった。
 別に機械に悪戯をするわけでも、勤務する人にちょ

っかいをかけるわけでもなく、ただ黙ってそこに佇ん

で居るのである。
不思議に思って千佳大尉は少し離れた所にある第一

基地のスミス大尉に状況を尋ねてみた。
スミス大尉はエリートの軍事学校を出ており、少し尊

大な所のある人だった。
 「ああっ?虫だって・・?そう言えば変な虫がたくさ

ん集まってきたよ。火炎放射器で脅して追い出して

やった。」
 スミス大尉はそうするように助言した。
 何か悪いことをしているわけでもないが、あまりウ

ジャウジャと増えてくると確かに邪魔ではある。
 千佳大尉は、形態が気持ち悪いのでそうしようかと

迷ったけれど、外へ追い出すのも気の毒な感がして

そのまま放置することとした。
 そのうちアマンダがまた司令室へ駆け込んできた。
 「あいつら、ここで交尾しています。」
集まってきたのは、ここが繁殖場所になっていたから

かも知れない。
 「はしたない!」
薄汚い下等動物だと彼女は軽蔑した。
 虫たちはここが気に入ったようで、基地のあちこち

に巣のような物をこしらえ始めていた。
 卵を産むつもりらしい。
 「このままでは帝国軍が来る前に、この虫に基地は

占領されてしまうわ。」
 アマンダはそう言って焼き払うように進言した。
 たしかに子供ができれば凶暴になる恐れもあった。
「まあ、しばらく様子を見ましょうよ。」
千佳大尉はアマンダやパルル少尉達に度々助けられ

ていたので、虫に対して親近感があったようだ。
 昆虫出身の種族であるアマンダの方が、虫に対して

嫌悪感があるのは面白かった。
             2
 「帝国軍が攻めてきました。」
 恐れていた事態が起きた。
 この惑星にある補給基地の存在が知られたのだ。
 スミス大尉の第一基地が千人を超す帝国軍の部隊

に囲まれたという。
 スミス大尉の部隊は五十人にも満たなかった。
 「助けてくれ、千佳大尉。」
 矢のような無線連絡が何度も入ったけれど、もちろん

何もすることは出来なかった。
 第一基地が陥落すれば、すぐに第二基地が攻められ

るのは判っていた。
 こういった事態に陥ってから、やっと第三司令官は援

軍を出すと言ってきた。
 「しばらく持ちこたえてくれ。」
 やっと反撃の体制が整ったようである。もう時機を逸

したような気がしたが・・・。
 すぐに第一基地は陥落し、大爆発を起こしたのが判

った。
 スミス大尉が自爆したのである。
 敵は物資を奪取できなくても、反攻の前線基地となる

この補給基地を潰せば、戦略的

にはかなり有利になるのだ。
第二基地はびっしりと帝国軍部隊に取り囲まれた。
 もう脱出も不可能だろう。
 「いよいよこちらの番ね、アマンダ。」
千佳大尉は死を覚悟した。
 いくらアマンダの射撃が優秀でも、この人数相手に防

戦は無理であろう。
 帝国の砲弾が基地内に炸裂し、振動で建物は揺れた。
 二人が悲愴な顔をしていたとき、れいの虫たちがわら

わらと近くに寄ってきた。
 もしかして帝国軍の生物兵器だったのだろうか?
 もしそうだとしても死ぬのが早いか遅いかだけの話し

である。
 「お困りのようですね。よければご協力しましょうか。」
 虫たちの中で、ひときわ体格の良さそうな者が急に

そう言って話しかけてきた。族長のようだった。
 「会話ができるのですか?」
 千佳大尉は驚いた。今までずっと黙っていたので、

そんな知性はないと思っていたのだ。
「あなた達の言葉を聞いていて覚えたのです。」
 翻訳機などなくても会話が出来たのだ。
 すごい知性を持った生物だった。
 「私達は自然を愛する民族なのです。」
 そういって族長は続けた。
 「本来は戦いは好みません。あなた達の戦いには中

立の立場を取っていました。でも住みかを壊されたり、

危害を加えられたりしては話しが違います。」
ゲジゲジに似た生物はアマンダから銃を借りると、基

地の防壁に取り付いた。
 味方の数は急に数百人になり、動きの敏捷なその生

物の凄まじい射撃に、帝国軍はたまらず撤退していっ

た。
「ありがとうございました。おかげで助かりました。」
 予期せぬ援軍を得て連邦軍はその危機を脱した。
 火炎放射器で追い出したりしなくてよかった。
 「なぜ私達の補給基地に集まってきたのです?」
 アマンダは不思議に思ってそう尋ねた。
 「この機械の音は大地の声に似ていて、私達にはとて

も気持ちの良い周波数なのです。」
 人間にはうるさいだけの発電機の音が、この人達には

すごく良いメロディーに聞こえるらしかった。
 繁殖行為をしていたことについては、族長は特に恥ず

かしがるわけでもなく平然とこう答えた。
「ああっ、あれですか。愛は神聖な物です。なぜ隠す必

要があるのですか?」
むしろなぜ隠すのだと千佳大尉達は尋ねられ、逆に答

えに窮してしまった。
 人は見かけで判断してはいけないということを、あらた

めて知らされた今回の戦闘だった。


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女の友情

  女の友情(謎の帝国軍シリーズ第7話)
             1
 「久しぶりですね、またお会いできて光栄です。」
 佐々木軍曹は千佳大尉を見つけると声をかけた。

憧れの人である。
 今回また輸送艦の警備を任されたのだ。
 この船は重要な機械を積んでいる。惑星ペルル

が開発したものである。
 「いえこちらこそよろしくお願いします。」
 千佳大尉は輸送艦の艦長という地味な任務か

ら、急激に大尉まで出世した有名な人である。
 部下にアマンダという、ミノ虫が進化した宇宙人

が居る。彼女は射撃の名手だった。
 千佳大尉は握手を求めた。
 佐々木軍曹は急に胸を押さえる。
 「あいててて・・。」
 「どうしましたか?」
 急に苦しみだしたので千佳大尉は心配した。
 「いえ、どうも宇宙病のようでして・・。大したこと

はないのですが・・・。」
 勤務に支障はないようである。
 「ところで今回の積荷の件ですが・・。」
 警備の必要上、積荷を知っておく必要がある。
 「物質輸送機といいます。短期間で人間をよそ

の星へ送り込める装置です。」
 この機械を使えば、軍隊の移動を輸送船を使う

ことなく行うことができるのだ。
 人間単位でワープを行う機械である。
 「これで戦局は一気に連邦軍が有利となります。」
 逆に帝国軍の手に渡れば一気に形勢は逆転す

るだろう。
 帝国の強力な軍隊が直接連邦側の星々になだ

れ込んでくるのである。
 「今回は戦艦の護衛が付いているから大丈夫で

すわ。」
 物々しい警備である。
 戦艦三隻と護衛空母が一隻付いている。帝国軍

も迂闊に手を出すことなどできるはずがない。
 攻撃を受ければすぐに援軍が駆けつけることとな

っていた。
 佐々木軍曹以下数十名は輸送艦に乗り込んでい

た。
 テロ対策である。広い艦内に敵が忍び込んでいな

いか警護する任務であった。
 「アマンダ少尉もお元気そうですね。」
 小学生のような小さな女の子が大尉に付き添って

いた。
 宇宙一の美人といわれている有名な人だ。
 地球人の目から見ると千佳大尉の方が奇麗に見

えるのだが・・・。
 「ええお陰様で・・・。結婚されたそうですね。」
 佐々木軍曹は上司のパルル少尉とめでたく結婚

した。彼女は退役して家庭に入っている。
 「ええっ、まあ。体格差はありますが、何とかうまく

やっています。」
 軍曹はテレながらそう答えた。
 幸せな様子である。
            2
 今回の任務は過剰なまでの護衛が付いていたの

で、艦内の警備は楽だと思われた。 
 はっきり言って佐々木軍曹達は特にすることはな

かった。
 ビルの警備をやっているようなものである。
 このまま地球までの長い航海を終えるかと思われ

たのだが・・・。
 惑星ガンマーの上空で事件は起きた。
千佳大尉が第三司令長官に定期報告をしようとした

時である。
 司令室のテレビ画面に第三司令官が映し出された

時、急にアマンダがレーザー銃を構えた。
 「さあ、そこまでよ。私の星に進路を変更しなさい。」
 銃を突きつけられた千佳大尉が引きつった笑いを

浮かべた。
 「なあに、アマンダちゃん。冗談はやめてよ。」
 アマンダは銃口をグリグリと千佳大尉の胸に押し

当てた。
 「冗談でこんなことができますか?」
 アマンダは第三司令官に向かって叫んだ。
「私達はお馬鹿な地球人を征服する機会をずっと

狙っていたのよ。」
 彼女は帝国軍のスパイだったのだろうか。
 「第三司令官、よく聞いて!私達はこの機械を使

って連邦軍に正式に宣戦布告する。」
 大変なことになった。
 アマンダの星が帝国軍に寝返ったら連邦軍の戦力

の一割は減少する。
 おまけに最新兵器も奪われるのである。連邦の壊

滅は確実である。
 「やめてよ、アマンダ。私達、ともだちだったじゃな

い。」
 友達と聞いて、アマンダはふふっと鼻で笑った。
「あんたが私のこと、本当は大嫌いで陰で悪口を言

っていたこと、全部知っているんだからね。」
 千佳大尉は背筋に冷たい物が走るのを感じた。
 誰がアマンダに話したのだろう?
 彼女ははらわたの煮えくりかえる思いで自分のこ

とを見ていたに違いない。
「たっ、たすけで・・。誰か・・。」
 千佳大尉は小さい悲鳴をあげた。
 佐々木軍曹は目の前の光景を見ていたが何もで

きなかった。
 銃に手をかける様子を見せたらアマンダが発砲し

そうだったからである。
 アマンダは銃の名手であり、早撃ちでも敵わない

であろう。
 「さあ、進路を変える・・・。」
 アマンダがそう言いかけて急に黙った。
 眉間をレーザー光線が打ち抜いたからである。
 そのまま彼女は後ろ向きに高転びに倒れた。即

死である。
 光線は佐々木軍曹の胸元から出ていた。軍曹が

撃ったのではない。
 「ふう、危ないところだった。」
 佐々木軍曹のポケットがもぞもぞと動き、中から

妖精のような羽を生やした宇宙人が出てきた。
 「パルル少尉。」
 佐々木軍曹のポケットには妻のパルルが忍び込

んでいたのである。
「アマンダは・・。」
 千佳大尉が駆け寄ったが、彼女の息は既になか

った。
「そいつは帝国軍のカメレオン人だ。」
パルル元少尉はそう分析した。カメレオン人は何に

でも化けることができるという宇宙人である。
「ふん、うまそうな臭いがしなかったからな。」
パルルだけが臭いで彼女を見分けることができたよ

うである。
 カメレオン人が千佳大尉に化けていたので、アマ

ンダは油断して捕まったのだろう。
「どうしてこの船に・・?」
 千佳大尉はパルルを手のひらに乗せて質問した。
「妊娠中は夫が一番浮気をしやすい時期だからな。

付いてきたのだ。」
 夫が千佳大尉にちょっかいをかけないか、ヤキモ

チを妬いていたのだろう。
「まさか自分の奥さんをポケットにしまっているとは

誰も思うまい。」
パルルは背中に卵を背負っていた。
「子供ができたんだ。ねえ、どうやって作ったの?」
彼女は恥ずかしそうに赤い顔をした。
 「そこのところは想像にお任せする。夫婦でいろい

ろと工夫しているのだ。私達は二人ともとっても満足

している。」
卵は人工授精で生まれたようである。
「アマンダは無事かしら?」
 千佳大尉は本物のアマンダのことが気にかかる様

子である。
 「大丈夫だ。倉庫の前を通った時に彼女の臭いがし

た。まだ生きている。きっと宇宙一の美人だから、皇

帝への土産として、生きたまま連れて行きたかったの

だろう。」
もしパルルが潜り込んでいなければ、アマンダは大

変なことになるところであった。
 カメレオン人がアマンダに化けたのは、地球とアマ

ンダの星との仲を裂き、戦争状態にしようと画策した

のだと思われる。
 アマンダはパルルが予想したとおり、倉庫で縛られ

て転がされていた。
 「わ~ん、千佳大尉!恐かったよう。」
縄を解くと彼女は千佳大尉に抱きついた。
「寒くて動けないし、パルルの臭いがするし・・。」
 恐いのはパルルの方でしたか・・・。
 彼女は冬眠できるので、飢餓や寒さにはかえって強

かった。
 仮死状態で生きていたのである。
 「アマンダ、私のこと、本当は嫌いじゃないよね?」
 彼女の無事を確認した千佳大尉は、泣きながらアマ

ンダに抱きつくと、

ついそういう質問をしてしまった。
 「なぜ?大好きにきまっているでしょ・・・。」
アマンダはわけも分からず、キョトンとしてそう答えた。
 「ごめんね、私を許してアマンダ・・・。」
 大尉はアマンダをギュッと抱きしめると、いつまでも離

そうとはしなかった。



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