恋人の秘密(商標権に気を付けろシリーズ最終話) | 大池田劇場(小説のブログです)

恋人の秘密(商標権に気を付けろシリーズ最終話)

          恋人の秘密
            1
「いいですか、ここで切符を買って、改札を通っ

て・・・。」
 町に出たことがないというウェパルさんを連れ

て、初めて駅へと来た。
 「うわっ、これが電車なのね。大きいわ。」
変なところで感動して大声を上げるのでちょっ

と恥ずかしい。
 みんながクスクスと笑っている。
「なに?このおいしい食べ物は・・・。」
電車の中でおにぎりを出すとおいしそうに頬張

った。
 「ただのコンビニのおにぎりですよ。」
見るものすべてが目新しくて興味を引くらしい。
 「持って帰って成分を分析しないと・・・。」
魔法で作るときに必要らしい。
 イメージしたものを、すべて完璧に再現できる

わけではないようだ。
道内のいろんな観光地を回ると、子供のように

喜んでくれて可愛かった。
大きな町を見下ろす小高い丘。
 一面が芝生に覆われた美術館の上に私たち

は来ていた。
「可愛いなオブジェね。」
前衛的な作風の彫刻家が作成したものだ。5

メートル位の大きさがあった。
 「これ、こんなところに落ちてるのなら、拾って

持って帰ってもいいかな?」
 「ダメですよ、これは屋外展示で置いてあるだ

けなんですから。」
こんな重たそうなもの、どうやって持って行く気

なのだろう。
 彼女に常識は通用しないのだけれど・・・。
 お昼になったので池の近くで昼食をとる。
 私は、ずっと会社に出て居なくてお金がないの

で、ハンバーガーを買ってきた。
「こんなおいしいもの食べたことない・・・。」
 人間の女の子に、こんなもの御馳走したら怒り

出すかも知れないが、嬉しそうに食べてくれる。
「ただのチーズバーガーです。」
 「持って帰って、コーヒーに入れてもいいかも。」
彼女は、パンはコーヒーに入れて食べるものと

思っている。
 「馬鹿なこと言わないでくださいよ。」
インターネットで調べたところ、中世のヨーロッパ

では、パンはスープや飲み物に入れてふやかして

食べるのが一般的だったらしい。
(雷麦や燕麦で作った当時の黒パンは、長く置く

と固くて食べられなくなった。)
古から生きている魔女には、ごく普通の習慣なの

かも知れない。
二人で食事をしていると、池の方で大きな水音が

した。
「子供が・・・。」
親と離れて一人で遊んでいる女の子が池に落ち

たらしい。
 私はそのまま飛び込んで子供を助けようとした。
 なんとか子供の傍まで行ったが、しがみ付かれ

て泳げない。
 「助けてください。実は私は、あまり泳げない。」
 学生のころは平泳ぎで100メートル位が必死だ

った。
 こんなの泳げるうちに入らない。
 このままでは二人とも溺れてしまいそうだ。
 「世話のやけるやつだ。」
そう言うとウェパルさんは水の中に飛び込み、信

じられないような速度で、私達の方へと突進してき

た。
「あれっ、ゴポっ。」
 沈みかけた私は、池の水の中で、泳いでいる彼

女の姿を見た。
 水中の彼女は、白い大きな尾びれをつけた魚のよ

うに優雅に、しかし敏捷に泳いでる。
 私達二人を見つけると、すぐに抱え込んで水上へ

と向かった。
 「ゲホ、ゲホッ!ウェパルさん、下半身が・・・。」
美しい二本の足が喪失している。
 「遂に私の秘密を見てしまったのだな。」
彼女は岸辺に向かって泳ぎながら悲しそうにそう

言った。
             2
 遠い昔、まだ人類が何の文明も持っていない時代。
 神と悪魔は人間の処遇を巡って、天界を二分する

大きな戦争を起こした。
 やがて敗れた悪魔たちは地に下り、各地に散って

天界に抵抗を繰り返すことになったという。
 「私は神と悪魔、人間は共存できると思っていた。

だから戦いには加わらず中立を保ったのだ。」
ウェパルさんの妥協論は、両方の軍隊に受け入れ

られなかったらしい。
 「どちらの陣営にも属さないということは、どちらか

らも攻撃を受けるということになる。だから山の中に
隠れたんだ。まさか人魚が山の中に居るとは思わな

いだろう。」
 知っているのは親友のグレモリーさんだけだったよ

うである。
 「見るもの、聞くものが水の中の生活と違って目新し

く、私は地上にあるものがなんでも愛しく見えた。」
 それでガラクタを集めていたらしい。
 「ただ、ずっと一人で生きていくのは正直淋しかった

んだ。でも、おまえに私と同じ境遇を強いるのは

・・・。」
不憫だったので言い出せなかったようである。
「いいですよ、私はあなたの使い魔なのだから。」
彼女のように優しくきれいな人と一緒に暮らせるの

なら、こんな幸せなことはない。
 「本当か?一緒に居てくれるのか。」
ウェパルさんの目から一筋の涙が流れ落ちるのが

見えた。
 「だったら、私の使い魔らしくなってくれるか

・・・。」
彼女はにっこり笑ってそう頼んだ。
 「ええっ、ウェパルさんが望むなら・・・。」
ウェパルさんは目をつぶって瞑想すると、何かの呪

文を唱えた。
 やがて私の体が金色の光に包まれていく・・・。
 「どうだ・・・、気分は?」
魔法をかけられた私の体はとんでもないものに変化

していた。
 腰から下が魚の、人魚になっていたのである。
 「どうもこうも・・・、身動きできません。」
足が無くなったので、動こうとしても尾びれがむなし

く宙を切るだけである。
 この体型では、陸の生活は不可能だろう。
 「やはり上半身が男だと気色悪いな。」
 ウェパルさんはそう言うと追加の魔法をかけた。
 「きゃあ、乳房が大きく・・・、乳首も・・・。」
 あれ、なんで「きゃあ。」とか口をついて出たのかな。
 「どう?、身も心も女になった気分は?」
 心まで・・・。
 ううぅ、何かおかしな気分です。
 「あの~っ、一部分が男のままなんですけど・・・。

しかも立派になって・・・。」
下半身には魚にはないものが直立している。
 「ふふっ、私の好みに合わせたのよ。もう我慢できな

い・・・。」
そう言うとウェパルさんは人魚の姿になって、私に体

を寄せてきた。
 「あっ、ちょっと・・・、そんな趣味だったなんで

・・・。だめ、逃げられないわ。いや~ん、せめて先

にお風呂を・・・。」

 この二人、仲がよさそうなのでこの辺でお話を終わり

ますね。


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です。(目次のブログです)

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(実は一つの話を完結して他の話へ行くという手法

をとっておらず、いくつかのシリーズを並行して書い

ていますので、目次をご覧になった方がわかりやす

いかと思います。きまぐれで他のシリーズへ飛びま

す。)


増刊号の「山池田」です。

現在、なぞの物質・「福田樹脂」載せています
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(山池田は登山日記と、自分では今一つと思っている

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