神の大型免許(奥様は女神シリーズ第3話) | 大池田劇場(小説のブログです)

神の大型免許(奥様は女神シリーズ第3話)

            神の大型免許
                1
 「あたしの神の免許は実は小型免許なの。小型免許

だと使える魔法は限られるのよ。」
 うちの妻はなぜか女神である。本当の愛を勉強する

ため下界に使わされているそうである。
 神の免許も自動二輪のように小型・中型・大型免許

とかあるのだろうか。
 「小型免許は○×式でペーパーテストだけで貰える

のよ。」
 原付免許か、それは?なんか値打ちなさそうである。
 「それで新聞の広告を見ていたら、面白い記事を見

つけたのよ。」
 妻の真由は女神新聞と書かれた新聞を持ってきた。
 いつの間にこんな新聞を取っていたのだろう?
 「あなたも大型免許が取れます!」と書いてある。
 通信教育のパンフレッドのような感じである。
 「私も自己啓発のため、資格ぐらいは取っておきた

いじゃない・・。」
 それで神の世界の通信教育を受ける気になったよ

うである。
 「おいおい、でもこの資格、ちょっと怪しくないか。」
 よく見ると大型免許じゃなく、大型検定資格合格と

か書いてある。
 「免許と検定は違うのじゃないか?」
 神の世界の資格などまるで解らないが・・・。
 「大型なんだから同じようなものでしょう。」
 妻は物をネズミに変える魔法しか使えない。
 最近ネズミになったものを元に戻す魔法もやっと覚

えたようであるが・・・。
 いずれにしても日常生活に全く役に立たない魔法で

ある。
 「もしかして神の世界でも資格商法とかあるのじゃな

いか・・。」
 多少不安は覚えたが、本人は大いにやる気になって

いるようなので、これ以上口を出すのは控えた。
               2
 最近助けた赤ちゃんの里親になったため(「本当の

愛」の巻参照)、妻は毎日忙しそうであったが、寝る間

を惜しんで神の大型免許の資格を取ろうと頑張ってい

る様子であった。
 彼女の魔法はネズミから少しも進んでいない。
 夫の立場としてはそんなもの使えなくてもいいと思う

のだが・・・。
但し、資格の勉強をするようになってからも、彼女は

一向に進歩しているようには見えなかった。
 「犬になれ!」
 「猫になれ!」
 一生懸命魔法を唱えているようであるが何も変化は

なかった。
 「まあ、いいか。効果がないと思えば諦めるだろう。」
 本人に才能がないのなら無理をしても仕方ないだろ

う。
 体さえ壊さなければいいのだが・・・。
 しばらくの間、夢を見させるのも良いと思って暖かく

見守っていた。
 「あなた合格したわ。大型免許よ!」
 妻は嬉しそうに修了証書を持っていた。
 実力の方は全然変わらないようだったが・・・。
 「やっぱり資格商法だったみたいだな。」
 何の意味もないペーパー資格を取らせる商法だった

ようである。
 本人は喜んでいる様子なので黙っていることにした。
 不思議なことに、あまりお金を取られたような形跡も

ないようである。
 「神の世界でもあくどいことをする奴はいるものなの

だな。」
 悪質ではないにしても、彼女の無邪気に喜ぶ顔を見

ていると許せない思いがわき出てくる。
               3
 その日私達は子供を連れて池のある公園に来ていた。
 最近は育児にも随分なれてきた。

 時々は不幸なこの子の両親にために時々花を捧げ

るのである。
 この子の親は多額の借金を抱えその命を絶った。
 「あなた、あのお婆さん危ないわ。」
 かなり高齢の方がフラフラと公園横の国道を歩いて

いたが、そのまま倒れようとしていた。
 どうも立ちくらみのようなものを起こしたようである。
 このままでは車道の方へ倒れ込む形になる。
 妻はいつものように高速で走って近づくと、お婆さん

を抱き起こそうとしていた。
 「待って、俺も手伝うよ。」
 私は子供を置いて妻の方へ走っていった。
 一人では辛そうだったからである。
 それがとんでも無いことになるとは、その時は気付

かなかった。
 「あなた赤ちゃんが・・、赤ちゃんが・・・。」
 振り向くと、ベビーカーがゆっくりと池に向かって落

ちていくのが見えた。
 「池に、池に落ちるわ。」
 背筋が寒くなったが、もうどうにもならない間に合わ

ない。
 「ブレーキを、ブレーキをかけ忘れたんだ。」
 お婆さんに気を取られて、ベビーカーのブレーキを止

めるのを忘れたのだ。
 ぼちゃんという音と泣き叫ぶ我が子の声が聞こえた。
 「魚になれ、水鳥になれ!」
 彼女は腰を抜かして魔法を唱え続けた、
 もちろん子供には何の変化もない。
 「なぜならないの?通信教育の嘘つき!」
 妻は泣きながら唯一使える魔法を唱えた。
 「ネズミになれ。」
 赤ちゃんの泣き声は止んだが、そのままベビーカー

は沈んでしまった。
 「遅かったか!」

 あわてて池に飛び込んだが、赤ちゃんはもう見えなく

なってしまっている。
 真由は池の端で泣きじゃくった。
 この池は深くて一度沈むと助からないのである。
 「エーい、一か八かだ!」
 私が潜ろうとしたら、なぜか彼女が腕を引いて止めた。
 なぜ止めるのかと後ろを振り向くと、彼女は水面を指

さしている。
 「あれを!」 

 一匹のヌートリアがこっちに向かって泳いできている。
 「ヌートリアだ!」
 もしかして・・・。
 ご存じの方も居るかと思うが、齧歯目(ネズミ目)最大

級のこのネズミは、生まれてすぐから泳ぐことができる。
「無事だったのね、私の赤ちゃん。」
 妻がヌートリアを抱きかかえ、解除の呪文を唱えると

元の私達の赤ちゃんに戻った。
 「もしかして大型検定って・・・。」
 通信教育の成果は出ていたのだ。
 この検定は魔法の範囲を広げる検定ではなく、自分

の持っている魔法の成果品を、単純に大型化する検定

だったのである。
 それにしても誰がこの検定を妻に受けさせるようにし

向けたのだろう。
 私は家に帰ってから妻が使っていた教科書を見てみ

た。
 「おい、このベルゼバブ商会って、もしかしてあのベブ

ゼバブじゃ?」
 テキストに書かれた発行元には確かにその名前があ

った。
 「まさか、単なる偶然でしょ。悪魔が神を助けるはずが

ないじゃない。」
 彼女は無邪気に笑ってそう答えた。



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