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人文のジャンル:アート・科学・哲学・文学・音楽





   2007~8年 まり子(マリアコ)の冬 





   星の下の必然


 あたしは一度も痛いと言ったことがない。いつもポーカーフ
ェイス。時々は笑顔をつくろう。
そう・・・・・・スタートレックのスポックがお気に入り。
最後の痛み止めは大脳を麻痺させるから、冷蔵庫の小箱には、
古い日付のまま、そのまま手つかず保存。内緒よ!
 最後の痛み止めは、青色の液体、死と無限刹那の快感が同時
に得られる青い媚薬・・・・・・。
 
 新しく発見したり、斬新な創造したりしたものは、あたしだ
けのものじゃないのよ。
だって、あたしだけじゃ生きられない。人は独りじゃ存在でき
ないのよ。
素敵なものが創られる裏側には、美しいものが存在できる裏側
には、その分だけ悲しいこと、目を背けたくなるものがあるの
よ。
それって・・・・・・自然の法則なの。光と影は紙の裏と表。
夜空が美しく感じられるのは、明るい青空があるからでしょう。

 自然の摂理って美しい。でも、自然の摂理って酷い。
不平等だから物事が存在できるの。みんな幸せなら熱平衡状態
だものね。
だから、あたしは不平なんて言わない。
あたしの仕事が良いか悪いか、歴史が決めてくれるわ。
でも、その時はもういない。
あたしはもういない・・・・・・。
束の間の栄光なんて虚しいだけ・・・・・・生きている間だけよ。
生きている時だけの自己満足なのよ。
死んだら永遠じゃないの!

 今夜もワインで睡眠薬を飲み込んだ。
何錠か数えもしない。
あなたは、死んだらどうするんだ!と言う。
あたしは生きたいから、生きているんじゃない。
生きなければいけないから、生きているのよ!
あたしは生きてるのよ!
恋は空間、愛は距離。あたしのライフワークと死は・・・・・。
星の下の必然なのよ。
まだ・・・・・・。
あたしは生きてる!あたしは生きてる。
あたしは生きてるのよ・・・・・・。
あたしは・・・・・・あたしは・・・・・・。





 夜更けの独りワイン

 
 慎重だけれどもせっかち

 のんびりだけれども憂鬱

 独り好きでさびしがりや

 清純好きと刹那の耽美派

 してはいけないこと好き

 傷つくのも厭わない愚者

 頑張りやで惰眠の埋没者

 愛情不足に過剰自堕落者

 まり子と堕天使の混合体

 複雑な心模様と冬のそら

 眠れない夜更けのワイン

 そんな冬の夜に何を想う

 命と夢どちらを選択する

 美人薄命と才色兼備好き

 痛みをワインでごまかす

 それとも睡眠薬で逃げる

 堕天使の夜更けの呟き事

 誘惑の刹那の海原に惑う

 それとも聖水に焼かれる

 神さま嫌いで大天使嫌い

 でも辛苦の夜には口ぐせ

 弱虫の独り言のかなしさ

 孤独と君の誘惑の責め苦

 選ぶのは君の優しさと愛

 無垢の優しさが欲しい夜

 選択肢は夜更けのワイン

 酔える星の竪琴が欲しい

 溺れるぬくもりが欲しい・・・・・・





 青い媚薬ポワゾン 


 ポワゾンは媚薬
 堕天使の誘惑香

 ポワゾンは毒薬
 君の甘い誘惑香


 言葉は要らない
 君の香りの余韻

 香りは要らない
 欲しいのは無垢


 無垢の君の匂い
 心を麻痺させる

 匂いは要らない
 息づく君の体温


 無垢のぬくもり
 息づきは切なさ

 君は青い息づき
 ポワゾンの香り


 現実と幻想の間
 理想の美の瞬間

 夜更けの媚薬香
 ポワゾンの誘惑





 薄 灯 夜
 
 
 もう夜明けの時間帯

 頭の中はマシュマロ

 身体はセミの抜け殻

 セミの命は数日の命

 儚い命と雨の夜明け

 夜更けの雨音が好き

 このままの夜が良い

 朝が来なければ良い

 眠れる夜に出会える

 美容が気になる歳頃

 選択肢は大脳の美容

 肌には自信過剰ぎみ

 コンプレックスの塊

 自信過剰な精神状態

 二つの要素が絡まる

 ワインと睡眠薬過剰

 生卵が床でつぶれた

 キッチンは滅茶苦茶

 床にコーヒーが散乱

 香しき大気の舞踏会

 天道虫が目覚める会

 天道虫は太陽の使者

 数日前に部屋に来訪

 冬眠中は何を感じる

 成虫で眠る太陽の子

 黒い背中に赤い太陽

 赤い口元は月の使者

 つややかな唇は願望

 赤い媚薬は耽美主義

 象徴詩の言霊の香り

 欲望と願望のちがい

 あなたの線引きは何

 心と身体と頭の中身

 どれが欲しいと思う

 今は何も欲しくない

 ただ夢を見て寝たい

 眠れない夜が切ない

 ワインと自堕落な心

 堕天使の両翼は何色

 白い翼より透明の羽

 透明な夜の雨しずく

 街の明かりがにじむ

 窓ガラスに星々の雫

 人の命も儚い星の雫

 君の好きな流星の夜

 眠れない夜の君の星

 満月の夜に嫉妬する

 ボヘミアンの月の夜

 360億光年の夜空

 眠れない夜の愛と恋

 愛撫するのはどちら

 甘い香りの君の身体

 それとも心の温もり

 もう夜が終わる時間・・・・・・






 夜の息づき

 
 東京の夜更けの音

 27時と29時の

 真ん中の夜の時間

 独りの部屋に届く

 夜の息づきは3つ

 風の音と時計の音

 そして微かに届く

 車の無機質な響き

 星も見えない夜空

 眠れぬ部屋の静寂

 眠らぬ人の営みも

 自然の営みのよう

 星なき夜空に滲む

 ガラス色の青い星

 透明なガラス細工

 夜の闇は何色の光

 あなたは何色の命

 あなたの好きな色

 夜色に何色を捧ぐ

 隠微な心の息づき

 静寂と孤独の時間

 銀河系の小さな星

 不思議な命の営み

 自然の営みの抱擁

 独りの息づく夜空

 夜の星に何を願う

 一日の夜はふたつ

 今日と明日の夜空

 青空は夜のすき間

 青空は孤独の時間

 夜空は離ればなれ

 あなたの好きな空

 どちらを愛したい

 今日の愛しい星空

 明日の恋しい夜空

 それとも夜の狭間

 白い雲のうかぶ空

 愛撫したい空は何・・・・・・






 十字綺羅星

 
 夜毎 時を刻む音

 大理石の白いテーブルに 置き時計の秒針

 夜更けの音 眠れぬ夜の 刻む生命の音
  
 一秒ずつの鼓動 星空の潮騒

 孤独の息づきは 星の必然 数日の鼓動 星音

 もういいの 精一杯生きたからいいの 

 泣かないで 星の必然だから 

 運命は自分の仕業と違う 流星の必然

 自由の羽根の瞬き 忘れ得ぬ銀河に帰る鼓動 

 もういいの 星に帰るの

 白鳥の十字綺羅星 

 わたしの生きる星の瞬き わたしの星

 光翼の十字綺羅星
  
 夏の夜空の わたしの星座 星々の瞬き

 わたしの鼓動 星の鼓動 ・・・・・・





 まり子の心の記憶
 
 
 忘れ得ぬ人 

 アンナ・カレーニナ イワン・クラムスコイ 1883年作

 わたしの少女時代 白ロシアの唯一の記憶

 ずっと 忘れていた心の記憶 この肖像画しか思い出せない

 この絵を見る毎に 哀しくなる 胸が痛くなる

 理由はわからない ただただ 切なくなる

 黒いドレスの人 堕天使の黒 でも わたしの黒

 優しい光の中に気品 内に秘めた温もり 優しく冷徹な眼差し

 心の片隅に刻まれ 忘れ得ぬ人 知らない母の面影

 ロシアのモナリザ アンナ 

 アンナ・カレーニナ ・・・・・・





 ニガヨモギの星の子


 ひとりの夜が好き
 星のない夜が好き
 あたしに相応しい

 だって・・・・・・

 ニガヨモギ星の子
 ニガヨモギの川水
 遠い母国の星の子

 だもの・・・・・・

 東京の夜空は慈愛
 優しい静かな夜空
 冬の夜空は暖かい

 だけど・・・・・・

 ワインと眠れる薬
 酔いどれの堕天使
 眠れる森のセミ殻

 でもね・・・・・・

 そんなあたしが嫌
 涙の出ない瞳が嫌
 黒い森の静寂が嫌

 きっと・・・・・・

 心は束縛できない
 心はいつでも自由
 心はあたしのもの

 きっと・・・・・・

 命は星の下の必然
 運命は不平等でも
 希望は平等のはず

 いつか・・・・・・

 目覚めた朝には夢
 はかない時の旅人
 星の旅人になれる

 いつか・・・・・・

 優しい星になれる
 輝く星空になれる
 幸せになれるのよ

 だって・・・・・・





 よわむし堕天使

 
 今夜もワインと睡眠薬
 睡眠はたいせつだもの

 つよめの睡眠薬を処方
 主治医に心から感謝よ

 寝ないと生きられない
 生きるって辛いけどね

 でも生きなければだめ
 それが運命なのだから

 明るい世界と影の世界
 二つの世界は相互扶助

 自然の法則だから容認
 しかたがないと思うの

 でもきっと改善される
 ぜったいこんなの変よ

 罪のない人が傷付く事
 許せないと思うのよね

 あたしの子供のころは
 大自然が嫌いだったの

 むごい自然の法則がね
 むごい摂理が悲しくて

 でもそんな中でも慈愛
 そんな中でも生きてる

 それが生命の美しさと
 思える時が沢山あるの

 ワインと睡眠薬で堕文
 つまらない言葉の羅列

 無意味に時間が過ぎる
 夜時間が空回りしてる

 あたしは何故生まれた
 いつもそんな事を思う

 自然の世界は完璧だわ
 サイコロは振らないの

 必要だから存在するの
 不必要なものはないわ

 だから生きられる運命
 生きる必然性があるの

 不幸は自分が悪いのよ
 よわむし堕天使なのよ

 嫌いな自分が生きてる
 こんなあたしを嫌うの

 きっと明日は暖かい日
 きっと優しい日溜まり

 必要な存在で在りたい
 大切なものを残したい

 きっと生まれ変われる
 きっと白い翼になれる

 もうじき闘病生活なの
 もう戻れないのかもね・・・・・・





 なきむし堕天使 1

 
 あたしの
 主治医のいる病院は
 同じ敷地に
 教会があるのよ
 便利ねえ

 あたしは
 堕天使
 道ばたのセミの脱け殻
 入院しても
 誰も見舞いにこないわ
 こられたら
 疲れるだけよ

 あたしは
 神様なんか信じない
 大嫌いなの
 だって
 不平等だし
 ときどき意地悪だしね
 あたしなんか
 どうなってもいいのよ

 だって
 あたしは
 黒い羽根の
 堕天使だものね

 クリスマスイブの夜に
 シスターに
 文句いってやったわ

 そうしたらね
 シスターが涙ぐんで
 あたしのひたいに
 指をあてて
 小さな十字を
 かいてくれたの

 だからあたしは
 シスターに
 作り笑顔して上げたわ
 くしゃくしゃの顔で
 シスターが微笑んだ

 あたしは
 神様は信じないけど
 シスターの微笑みは
 信じようと思った
 でも
 営業スマイルかもね

 あたしは人前じゃ
 一度も
 泣いたことないのよ
 だって
 黒い羽根の
 堕天使だものね

 上から下まで黒ずくめ
 下着まで黒なのよ
 白や色ものの洋服は
 一枚もないわ

 あたしには
 黒が一番お似合い

 シスターのように
 堕ぬきの
 なきむし天使に
 なってもね・・・・・・





 なきむし堕天使とまり子 2


 あたしは
 まり子も大嫌い!
 才色兼備の女
 やさしい顔して
 理屈ばかり言う女
 自信過剰の女
 大嫌い!

 現代アートも嫌い
 科学も嫌い
 哲学も嫌い
 誰にでも
 愛されるタイプは大嫌い!

 まり子は
 あたしに
 黒ばかり着ていて
 陰気くさいわねえ
 だって

 大きなお世話よ!
 あたしはあたし
 自由でいたいのよ

 あたしは
 ダメなひとが好き
 自堕落でも
 なんでもいいの
 痛みが分かるひとが好き
 黒い羽根の痛み
 胸の痛みは
 理屈じゃ癒されない

 まり子は
 人間は独りじゃ
 生きられないのよって
 不平等だから
 明暗があるから
 物事が存在するのよって
 いつも言ってる

 それじゃ
 堕天使のあたしは
 誰が創ったのよ!

 あたしだけなら
 いつまでも
 白い翼でいられたのよ

 独りじゃないから
 堕天させられたんじゃない!





 まり子となきむし堕天使 3


 だから
 あなたは
 堕天させられたのよ

 独りで
 ぬくもりもなく
 光もない
 暗闇の中で

 あなたは
 あなた自身の翼が
 白色か黒色か
 見分けがつきますか

 傲慢は生命力の種子
 嫉妬は成長のための試練
 完全な自由は存在感が喪失
 不自由だから
 存在感が得られるのよ

 堕天して
 見捨てるのなら
 最初からあたしなんか
 創らなきゃよかったのよ

 誰も創ってくれなんて
 頼んでないわよ!
 かってに
 創ったんじゃない!

 こんな羽根じゃ
 空なんか飛べないわよ!

 だったら
 飛べるか飛べないか
 試してみてごらんなさいよ!
 もしも ダメなら
 上昇気流に乗れないのなら
 新しい自分好みの翼を
 あなた自身で
 創ればいいのよ!

 わたしは
 あなたに
 翼を創って上げることは
 できないけれども
 アドバイスはできるわよ

 シスターも
 あなたのこと
 応援しているのよ

 ん・・・・・・
 泣いているの

 なきむし天使ね・・・・・・





 なきむし堕天使の涙 4

 
 まり子は
 理解できないことがひとつあった

 どんなに
 脳医学や物理学や哲学を学んでも
 科学的に説明できない存在があった

 それは意識
 物理的な完全や絶対の裏側にあるもの

 意識には
 曖昧なものと
 完全で絶対なものがある

 大脳の自由な可塑性から育まれるもの
 意識の自由な可塑性

 自然の物理的な法則
 宇宙の物理的な法則を観測しても
 見つけることのできないもの

 五感でしか観測できないもの
 意識でしか得られないものがある

 あの日見た堕天使の涙
 あの涙は
 意識の外界にあふれ出た
 脳の神経伝達物質のようなもの
 涙の意味は
 意識の中でしか理解できないもの

 たぶん
 あの日見た堕天使の涙は
 物理的な宇宙に残された最後の
 パンドラの箱のような
 最後に残された希望なんだろうと

 まり子は
 そう考え初めていた

 現実の世界には
 自由にならない法則がある
 でも
 最後に残された自由な宇宙
 それが意識
 それが希望なんだろうと

 物理的な宇宙は
 完全で絶対の存在
 秩序と無秩序がゆらいでいる

 でも意識の中にも
 その現実世界とは次元を異にする
 完全で絶対の存在
 秩序と無秩序がゆらいでいる

 意識の自由な可塑性
 大脳の自由な可塑性
 その希望は
 絶望を超越できる存在
 進化して
 いつまでも存在したい願望
 宇宙のエネルギーの
 根元的な存在なんだろうと

 まり子は
 そう感じ初めていた

 アルベルトアインシュタインは
 「神はサイコロを振らない」
 と言った

 であるならば
 なきむし堕天使は
 神が創った反逆児になる

 なきむし堕天使
 白い翼を
 授けられなかった堕天の子
 可哀相な天使

 あなたは
 最後の希望の星なのよ

 わたしも神様は信じない
 でも
 なきむし堕天使の涙は
 信じたい・・・・・・

 



 星の雫

 あなたの瞳に 星の雫が輝く夜

 星の雫は 光の川になる

 あなたの夜空を 流れ星が埋め尽くす夜

 星の子は 光の海になる

 あなたの瞳に 光の雫が降り注ぐ夜

 光の子は 無限光年の彼方で光の輪を描く

 光の円螺旋になる

 あなたの手の中に 光の渦が開びゃくする夜

 光は 空間を溶かす熱の時間になる

 あなたの瞳に 灼熱の光の海が満ちる夜 

 あなたは 光り輝く星空になる





 なきむし堕天使のナイーブ 5


 あははは

 ご立派なご講義ありがとう!

 あたしのこと

 何も分かっていないくせして

 かってに あたしを決めつけないで!

 あたしはあたし!

 もう うんざりよ!

 それに あんたなんかに

 同情されるの嫌いなのよ

 惨めな気分だわ!

 そんなつまらない話を

 している暇があるのなら

 あたしの羽根の治療代を稼いでよ!

 それに あんたの詩って

 なんだかバカみたい!





 まり子のナイーブ 6


 ああ言えばこう言う!

 あなたの言葉って
 稚拙
 B級映画のせりふのよう
 つぎに何を言うか
 分かるわ

 それに
 講義とは
 人々に学説や書物あるいは
 物事の意味や内容を
 口頭で説明すること
 学問的な話をすること
 わたしは
 ただ文章にしただけ

 だから
 あなたに
 講義なんかしてないわよ

 それに
 あなたは堕天使じゃなく
 ただの天の邪鬼
 天ぬきの
 堕がもうひとつ付いた
 堕堕っ子ね!

 あなたは
 わたしに
 言ってはいけないことを言ったわ
 わたしの詩を
 バカみたいって
 侮辱されるのは許せるわ
 でも
 傷つけることは許せない!

 そもそも
 あなたには侮辱の意味すら
 知らないでしょう
 あなどると言う意味もあるのよ
 つまり軽視することよ
 あなたは
 わたしを軽く見ているわね

 あなたは
 わたしが創った
 影のようなものよ
 わたしの分身なのよ
 わたしがいなければ
 存在できないのよ

 これが
 人の脳の自由な可塑性なのよ
 あなたは
 わたし次第で
 わたしの一存で
 どうにでもできる存在なのよ

 わたしの詩をバカにするのなら
 あなたには
 どれほどの詩が書けるのかしら?

 やっぱりね
 優しい顔して
 優しい言葉をかけていたけど
 あんたって
 それって
 自分のただのプライドの誇示
 自分を良く見せたいだけじゃないのよ!

 あたしだって
 詩ぐらい書けるわよ





 真夏のソフトクリーム

 溶ける ぐちゃぐちゃ 溶ける
                    
 乱れ 崩れるように溶ける
                    
 ため息が漏れるように溶ける

 芯まで溶ける

 熱く感じるほどに溶ける

 動けなくなるまで溶ける

 柔らかい ぬめぬめ 柔らかい

 包まれ 絡まり付くように柔らかい

 波打つように柔らかい

 奥まで柔らかい

 切なくなるほどに柔らかい

 そっとしておいても柔らかい

 冬のソフトクリームが

 夏のアスファルトの道に恋をした

 通り雨のあと 月の光の波間に

 甘い匂いだけが かすかに残った

 月の光の底に沈む 真紅の薔薇の匂いだ

 壁の隙間から 月の光に揺れながら流されてくる

 壁の向こうには かぐわしき梵天の月


 分かったわ
 あなたの詩って
 あなたらしいデカダンスね
 退廃的!

 あんたの詩はどうなのよ!
 少女趣味よね
 うんざり!





 まり子の反撃 7


 少女趣味
 叙情詩の何がいけないの
 あなたは
 世界中の若い女性を
 敵にまわしたわよ!

 あなたは
 どうしょうもない堕堕っ子ね
 堕天されて当然よ!
 自分中心に
 世界が回っているとでも
 十七世紀の
 コペルニクスの地道説を
 無視しているようなものよ
 二世紀の遺物の性格ね
 天動説時代に帰りなさいよ!

 だって
 あたしは
 創世記に生まれた
 堕天使だもん!
 天国を中心に世界があると
 天使長に教わって育ったのよ
 あんたなんて
 宇宙の塵から生まれたのよ
 あたしたちが要らなくなって
 捨てたゴミから
 生まれたんじゃない!

 はああ
 あなたって
 なんて子なの・・・・・・

 少女は
 少女らしい時代がなければ
 大人の女性になっても
 大人らしい女性に育たないのよ
 光と影
 対称的で相対的なものがあって
 両方とも
 美しい存在になるのよ

 女性でも男性でも
 女性ホルモンと男性ホルモンの
 両方を持ち備えているでしょう
 環境に合わせて
 バランスが大切なのよ

 わたしは孤児だったのよ
 両親の顔も知らないの
 日本人の血と
 白ロシアの血が混ざってる
 ソビエト連邦が崩壊する前に
 日本に渡って来たことしか
 知らないの

 孤児院と
 里親の間をたらい回し
 傲慢で嫉妬ぶかくて
 束縛されるのが嫌いだった
 そんな少女時代だった
 学校でも
 髪の毛と目の色が違うので
 いじめられたわ

 そんな中で
 強く生きるのには
 反抗するしかなかった
 誰にでも反抗した
 でもそんなんじゃ孤立して
 淋しくてたまらなかった
 自殺未遂も何度もした

 でもね
 病院に収容されたとき
 ナースに優しくされた
 わたしは
 ナースに愛されたかった
 だからわたしは
 大人になろうとしたの
 綺麗なナース
 天使のように見えた
 ナースに憧れた

 少女でなく
 大人の女性になれば
 愛されると思った
 わたしは
 わたしの少女の心を
 心の奥にしまい込んだ
 そうして大人の女性として
 ふるまわったのよ
 少女の心を
 おしころして生きようと
 きめたのよ

 でも
 そのころ
 幸せそうな親子を見ると
 嫉妬した
 親にねだって子供が泣いて
 我が侭を言っている姿をみると
 羨ましかった
 わたしを産んだ親を憎んだ

 涙で出てきて
 しかたがなかった

 わたしが清純な詩を書くのは
 そのトラウマが原因なのよ
 空白の少女の心を
 取り戻したいのよ

 だから
 わたしは今でも
 大人の女性に
 なりきれないでいるのよ

 あなたに
 そんな気持ちが理解できるの
 刹那的で退廃的な
 堕天使のあなたに
 何がわかるっていうの!





  赤毛のシャギーボブ   入院準備


 一昨日、髪を切りました。
ベリーショートにしようか、ボブにしようか、
ヘヤーサロン、店の方に好奇心で質問。
ボブって流行してるのかしら・・・・・・
流行は嫌いで、自分流が好きなんだけれども。
ボブでも、シャギーカットしたり、パーマだったりとか・・・・・・
と店の方。

わたしのイメージは、
ロングはダ・ヴィンチのモナリザの感じ。
悩んだ結果、ショートです。
うん、いい感じ。
快活で少し若くみえるかも・・・・・・
派手で冷たい感じの顔には、
ショートは似合わないと思い込み。
そのカットの帰りに、わたしの部屋がある同じ建物の、
音楽事務所の歌手の女性と2度目のご対面。
並木道から建物の敷地に入ろうとした時の出来事。
お互いに目が合って微笑の挨拶。
お互いに名前も知らないのにね。
スマイルっていいなあ、
なんだか、嬉しかった。元気が出た感じ。

もうじき闘病生活になる・・・・・・
わたしの通う病院の食事は野菜が中心。
穀物・野菜・果物・大豆・植物性蛋白製品など。
卵乳菜食中心って、痛みを感じる小さな命に優しいから好き。
味は懐石料理のように美味しい。自分勝手に評価。
わたしの料理に比べたら、月とすっぽん。
比較するのが変・・・・・・
野菜中心の病院食でも、とても美味しい。
身体が辛くない日の唯一の幸せタイム。
ベッドごとに液晶テレビとインターネットの接続が可能。
ネットは嬉しいけど、はあ。
いまだに自分の仕事が完成していない。
未完の人生ってどんな感じなんだろう・・・・・・
そうそう、チャプレンもいっらしゃる。
わたし、神さま嫌いなのにね。
日曜日ごとに廊下からナースの賛美歌の歌声。
重い大気と薬の匂いの中で、透きとおるような歌声。
優しくて可愛らしい歌声は癒される。
複雑な心境・・・・・・
神さまじゃなく、優しい人の気持ちが好き。
たまにはロックもやって欲しい。
入院費が高くならなければ最高なのだけれども・・・・・・
あっ、ワインが飲めない!



  

  赤毛のシャギーボブ  あきらめ


おしゃれすると、
元気が出る。
でも入院生活は、
おしゃれもお化粧もむずかしいかなっ。

素顔でも、
きれいに見える時があるよね。
恋人とか、
感動できるものを見つめる時って、
輝いてる。

一番のおしゃれは、
微笑みと涙かもね。
弱いのか強いのか、
したたかな生きるすべ、
したたかな美しさ、
笑顔と涙、
胸がぎゅっとする。

スキンシップもいい。
あっ温もり、
生きてるって感じ。
束縛されて、
束縛して、
感じる幸せって、
どうなんだろう・・・・・・
ほどほどがいいかも、
バランスが大切かな。

でも未来のない幸せなら、
ないほうがいい。
今が最高に幸せなら、
未来はその分だけ悲しくなる。

普通の、
赤毛のシャギーボブだったらよかった・・・・・・





  赤毛のシャギーボブ  無断外泊


パジャマにコートをかけて

歩いて十分

自宅に戻れる距離

病院の薬をワインで飲み込む

久しぶりの酔いどれ堕天使

自堕落

痛みがなかったら幸せ

痛みって

生きるために必要な機能

心の痛み

身体の痛み

身体の痛みは心を麻痺

心の痛みは

脳を麻痺

脳を麻痺させると

身体と心は痛みを感じない

そうなると

もう人間じゃない

生ける屍・・・・・・

愛も恋もつくれなかった

平凡な幸せって何だろう・・・・・・

あれば悲しみが生まれるだけ

もういい

終わりにしたい

優しくしてくれたひと

優しい眼差しのあなたに

心から感謝

あなたがいたから生きられた

ありがとう・・・・・・

もう少し

まだ生きられる

もう少し・・・・・・ 

普通の幸せ

優しい部屋のぬくもり

でも望んでも叶わない幸せもある

未来の無い幸せがある

絶対に叶わないことなら

最初から望まないほうが辛くならないのよ

何も望まない方がいいのよ

望まないほうが悲しくならないのよ

絶望じゃない

希望は考え方しだいで無限にある

生命は肉体だけじゃない

心は永遠に生き続ける・・・・・・

東京の空の下

日溜まりの白い雪は儚い

木陰の白い雪は長らえる

ベッドでじっと待つのは嫌なのよ

幸せって・・・・・・

あなたならどちらを選択する・・・・・・





  ミルフィーユのそよ風


 青空に 街路樹の並木道に
 暖かな日溜まりに ふきわたる爽やかな風

 わたしはミルフィーユのそよ風

 哀しみを 優しいクリームで包み込み
 時々香るコアントロー リキュール40度の大人の香り
 ミルフィーユのサクサクとした清涼感は
 すがすがしい軽やかな風

 わたしはミルフィーユのそよ風

 きつく抱きしめても 
 指の隙間から するりと通り抜けてしまう 無邪気な風
 やわらかな白い雲にのって 遠い空を旅してる 

 わたしはミルフィーユのそよ風

 そっと 頬を撫でて通り過ぎる 優しい風
 ケーキの小さな小箱には 納まらない 

 わたしはミルフィーユのそよ風

 あなたが頬に涙する時 
 わたしはそよ風になって
 あなたの空に 街路樹の小枝に 暖かな木漏れ日に
 そよぐ風になる

 わたしはミルフィーユのそよ風

 泣かないで 
 わたしは 青い海原の波間をくぐりぬけ 
 優しいわた雲とともに 世界中を旅してる 
 
 わたしはミルフィーユのそよ風











 



























    星の贈り物 ブルー スター ダスト



































   満月のクリスマスイブの夜







 



 あの偶然の出会いは必然の奇跡だった。 







 流れ星が夜空を埋め尽くした日の夢だった。



冬の寒い夜空に、あれ程のたくさんの流れ星を見たのは何年前



だったろうか。







 そして、あの流星群の夜の夢が現実に・・・・・・。



 



 雨から解放された午後だった。



雨上がりの薄く平らに拡がる雲に小さな窓ができ、陽の光がこ



ぼれてきた。



道端には、ところどころに水たまりができている。



その水たまりのひとつが、ひときわ青く、水面に雨上がりの空



を映していた。その水たまりに近付くと、不思議なことに空が



水底に沈み、光り輝き、その中央では丸いかたちを成すものが、



ウルトラマリンブルー色の光を水中ににじみ出すように広げ放



っていた。



その美しさに息を飲んだ。



しばらく、ボーっと魅入り、無意識のうちにその水たまりに手



を差しのべた。



手を水底に差し入れ、丸いかたちをしたものを取り出した。



それは、その球体は、ビー玉だった。



手の中で球面の水がみるみる消え失せると、その球面にはおび



ただしいキズが現れた。



(あっ、キズだらけのビー玉・・・・・・)



にぎりしめた手の中で、ビー玉のガラスの硬さと、冷えきった



感触が伝わってきた。



そのビー玉を空にかざして見ると、ウルトラマリンブルー色に



光り輝き、キズだらけでも綺麗だった。



水の中で、キズを隠して光り輝くビー玉よりも、手の中のキズ



だらけのビー玉の方がわたしは好きになった。



このビー玉が、川に流され、海に流され、球面いっぱいにキズ



ができたとしても、そうなったら、色付きの消しガラスのよう



に美しくなる。



ウルトラマリンブルー色に光り輝くビー玉は、わたしの本棚の



片隅の宝物になった。







 あの流星群の夜からもう何年経っただろうか・・・・・・。



数年が数十年にも感じるような長い歳月が経った。



 



 あれは去年の満月の夜の出来事だった。



静かな夜の優しい月明かりの中で、わたしは寝付けないでいた。



それで、ワインを取りにキッチンに行く途中の出来事だった。



窓辺から月の光が差し込み、本棚のビー玉が、きらっと光る気



がした。



ビー玉はウルトラマリンブルー色に光り輝いて、本棚の棚板に



青い星が輝くように光の焦点を描いていた。



(きれい!・・・・・・)



しばらく神秘的な光りの美しさに見とれていた。



どれほど時間が経っただろうか、見とれた後、手に取って満月



にかざして見た。



つぎの一瞬、月の光で輝くビー玉の球面に文字が浮かびあがっ



たように見えた。



(え、文字・・・・・・)



何度も何度も少しずつ角度を変えてゆくうちに、球面に付いた



傷が文字に見えてくるような気がした。



そして、ついに、今までビー玉に付いていた数ミリの傷のひと



つは、傷ではなく、確かに文字が刻まれていたことが分かった。



刻まれた文字は、鏡で見るように、文字の裏表が逆になってい



たためと小さ過ぎたことで、今まで気がつかないでいた。



傷にしか見えなかった。



ビー玉に刻まれた文字を反対側から見ると、レンズのように文



字が大きく見えた。



裏返しの文字が正常の文字の形に見えた。



そこには判別ができないメッセージが刻まれていた。



そして、アドレスも刻まれていた。



ほとんどの文字は傷つき脱落して判別がつかなかった。



翌日、もう一度太陽の陽差しにかざして読んで見た。



アドレスを紙に書き、判別の付かない文字もあった。



欠落し判別できない文字は想像して埋めた。



そして勇気を出してメールを送ることにした。



何度試しても送ったメールはエラー返信が戻るだけだった。



考えてみたら、なんだか、そんなに夢中になるのも変な話だ。



どんな相手なのかもしらない。ロマンチックに考えすぎていた



のかもしれないと思いはじめていた。



(わたし、何しているんだろう・・・・・・)



あきらめた。そして忘れようとした。







 クリスマスイブの病院、独りの夜は淋しい。



病院の同じ敷地内にある教会の帰りに、病院には知らせずに自



宅に戻り、無断外泊した。



そして、冬の街路樹の合間から明るく輝く満月を見て、ふと気



付いた。



ウルトラマリンブルー色のビー玉。夢の奇跡を。



今夜は、あの日と同じように満月の夜。



しかも、満月のクリスマスイブの夜だった。



忘れ去られようとしたウルトラマリンブルー色のビー玉。



ビー玉は満月の月明かりをあびて、本棚の片隅で、暗く冷たい



部屋の大気を揺り動かそうとでもするように、空間を刻み、時



を刻むために、光り輝きはじめていた。











「ごめんね、おまえも淋しかったんだ」



満月が明るく、きれいなので、あの夜と同じことをした。



ビー玉を満月にかざして見た。



ビー玉をもう一度、満月にかざして見つけた。



傷おびたメッセージは、もう一つ、別の球面にも刻まれていた。











 星の贈り物



 



 ウルトラマリンブルー色の



 



 スターダストをあなたに































  メッセージ











 翌日まり子は、もう一度ブルー・スターダストを太陽の明る



い光にかざして見た。



傷だけで何も見けられなかった。文字はあとかたもなく消えて



いた。ただの傷だった。







 ブルー・スターダストは、月の光の波長だけに反応すること



に、まり子は気がついていなかった。



ブルー・スターダストは、人工的な光でも太陽の光でも文字は



見つけることはできない。



まり子は、あれはクリスマスイブの自分の淋しさをまぎらわす



ための夢か、勝手に思い込んだのかも知れないと思った。



(夢だったのかなあ・・・・・・)



まり子はあきらめて、しばらくは科学論文と芸術論の執筆に専



念することにした。







 そして、また満月の夜を迎えた。



まり子はもう一度ブルー・スターダストを月の光にかざして見



た。



ついに、またメッセージを見つけた。



その球面に刻まれたメッセージは、以前のメッセージとは少し



違っていた。



まり子は、別の球面を見ているのだろうと勘違いした。



そこに刻まれている文字は、傷もなく、なめらかな美しい形状



をしていた。







 ブルー・スターダストにようこそ!







「そうか、あなたは、月の光にしか反応しないのね」



(それならレンズで、月の光を集めて当てればいいんだわ・・・)



レンズを引き出しの小物入れから取り出して、月の光を当てな



がらメッセージを探した。



そして、また@マークを見つけた。



でもアットマークはアットマークではなかった。



二重の円だった。



中心に小さな透明な点が見えた。



レンズで集められた月の光の焦点は、二重の円の透明な点に当



たると、球体の中心に吸い込まれ、ひとすじの光のラインにな



った。球体の中心にある小さな気泡に到達した瞬間、その小さ



な気泡はパッと光った。



しばらくレンズで月の光を当てていると、気泡が光り輝き、そ



のブルー色の光は、シャボン玉のように、ブルー・スターダス



トのガラスの外側に向かって光の球体として膨らみはじめた。



ガラスの球体はまり子の手の中で本物の小さなブルー・スター



ダスト、小さな青い星に見えた。



まり子の暗い部屋はブルー色の光にかわった。



白い壁も天井も床もブルー色の光に満ちあふれ、シャボン玉の



ような光の球体は、徐々に宙に浮かび、渦巻くように優しく回



転をはじめた。



























   コンタクト
 
 
 ブルー色の光が宙にうかんでいた。
 
 光の泡のように

 青い小さな星のように
 
 まり子の手の中で・・・・・・
 
 まり子は「はあ」と声を肺に吸い込みフリーズした。

 ・・・・・・


「うふふっ」
「いつまでフリーズしているの」
「息しないと死んじゃうわよ!」
「あなたの場合は、フリーズドライじゃなくて、才女だから、
フリーズウイットね!」
光の球体、ブルー・スターダストから、まり子の頭の中で反
響するようにきこえてきた。
まり子は今度は息を吐き出しながら声を肺から押し戻した。
目を大きく見開き身動きができないでいた。
「あら、らあ こんどはバービー人形・・・・・・」
「ああ・・・・・・あなたは何なの」まり子はフリーズ状態で息もせ
ず声だけ出した。

 しばらく沈黙が続いた。
まり子は、まるで銀河系のまっただ中にいるような感じだった。
少しずつ、まり子は冷静になりかけていた。

「まり子さんらしくないわよう」
「解凍されて、あなたの身体が溶けてきたようね!」
「ホットウイットになったかしらあ」
「あ、あなたは、なにっ、なんなのっ」
「どうしてわたしのところに来たの」
「どうしてわたしなの」
「なぜ来たの」
「あららあ、こんどは質問攻めねっ、うふふ」
「あなたらしいわね」
「どうして言葉が分かるの」
「あなたの意識、認知機能に直接コンタクトしているのよ」
「わたしは360億光年の彼方のブルー」
「わたしは個であり全体なの、悠久の時間と空間の全体、意識
パルスの慣性連鎖体なのよ」
「だからわたしは同時にわたしたちでもあるの」

「どうしてブルー・スターダストは浮くことができるの」
「推進力は何なの・・・・・・動力源は何をつかっているの」
「下でなく上が問題なの」
「人類は、物体を浮かせるために、下ばかり気にしているでし
ょう」
「すごく簡単な原理なの、簡単な気体の流体力学と同じよ」
「飛行機の翼といっしょなのよ」
「翼の上部の気体の圧力を低くして下の圧力を高くすれば、揚
力が生まれるでしょう」
「だからわたしたちは、物体を宙に浮かす場合は、下に正エネ
ルギーを増幅させるだけではなくて、上に負エネルギーをつく
っているの」
「球体の真上や推進方向の斥力を下や後方に排除して、推進方
向に超伝導空間、完全真空状態をつくっているだけ」
「約1000分の1ミリの特殊な空間を超光速でつくり続けて
いるのよ」
「するとね、上部の圧力が低くなるのと同時に、完全真空空間
と外側の正エネルギーの間に重力もうまれるのよ」
「この特殊な空間をつくる速さは光の速度ではだめ、ゆらぎが
ゼロの超光速回転運動と位置が重要なの、そうしないと、空間
の斥力や光や粒子の、乱雑波動の振動エネルギーが勝ってしま
うのね」
「簡潔に言うならば、下の重力を消すのではなく、上や推進方
向に重力空間、ミニブラックホールをつくり続けて推進力と浮
力をつくっているの」
「動力源はその特殊な空間をつくる前にあったもの、そこの質
量と斥力を動力源にしているのよ」
「完全な時空のリサイクルシステムね」
「月の光エネルギーは、システムの起動前のスターターエネル
ギーなのよ」

「それでねっ」
「ブルー・スターダストの@マークのような、二重の円の中心
にある透明な点は、月の光の波長の取り入れ口と、生体エネル
ギーの波動・意識パルスのキーワードチエックとスイッチなの」
「三つの機能を備えてるのよ」
「ブルー色の発光ボイドに包まれたガラスのようなブルーの球
体は、中央部の気泡のように見える部分を保護するためのボデ
ィーなのよ」
「その気泡のような空間には、悠久の時の彼方の、知性体の創
り出した知能が埋め込まれているの」
「消滅と創造を繰り返した宇宙の歴史と、生命の意識の情報が
記憶されているわ」

「どうしてわたしのところに来たの」
「あなたは、わたしたちのDNA、意識を引き継ぐ者なの」
「あなたの生体エネルギー波動、意識パルスがキーワード」
「あなたの意識パルスは、わたしたちと同じパルスなのよ」
「わたしたちは、わたしたちの意識パルスのDNAを宇宙中に
ばらまいたの」
「その内のひとつがあなた、まり子さんなのよ」
「それにあなたは苦しい時、いつも人でもなく神様でもなく、
星空を心に想い、助けて助けて助けてって、祈っていたでしょ
う」
「ちゃんと見護っていたのよ」

「あなたが寝ている時間帯に、わたしたちの知識をあなたにイ
ンプット」
「あなた、朝のシャワーしている時に毎回バスルームから全裸
で書斎にかけてゆき、インスピレーションをメモしていたでし
ょう」
「うっ」
まり子は顔を真っ赤にした。
時々まり子はバスルームで身体の火照りをさましていた。
「ああ いけなあいっ」
「ごめんねっ その時は目をつぶっていたわよっ、うふふ」
「でもその後で、ドーパミンがたくさん出るのよねえ」
「誤解しないでっ!」
「冷たいお水の朝シャンなのよ!」
「インスピレーションの後にはドーパミンがでるのよ!」
まり子は青くなったり赤くなったり、せわしい生理現象に落ち
込んだ。
「あら、らあ 今度はヒートウイットねっ」
まり子はむすっと、口をへの字にしてだんまりに突入した。
「でもう、あなたは、わたしの一部でもあるのよ」
「わたしのプライバシー侵害だわ!」
「失礼よ!」
「自然の法則はいけない事といい事が一対になっているのって」
「あなたの口癖でしょう」
「ああん、もうきらいっ」
「ああ言えばこういう」
「あれれえそれもあなたの口癖ねっ」
まり子はこの場は話題をそらす戦術に出た。
「ところで、流星群の夜に飛来したのはなぜなの」

「ブルー・スターダストのカモフラージュだったの」
「あなたは、流れ星を見つける毎に、毎回、願い事していたで
しょう」

「そして、あなたは、もうひとつ・・・・・・」
「願ってはいけない願い事をした」





   360億光年の彼方のブルー


 光の気泡は徐々に膨脹をはじめた。まり子をのみこむように。
 
 光の気泡は部屋全体に膨脹しきると、まり子を中心に光の柱
がレーザー光のように夜空に放射された。
光速を超える速度で一瞬の出来事だった。光速を超える出来事
は人の網膜には映らない。一瞬、まり子は光の衝撃で、全身が
感電するような衝撃を受け、まり子の意識はまったく影の無い
光の空間に閉ざされた。
 
 まり子の肉体は透明な光の輪郭だけを残し、光り輝くブルー
ボイドに包まれたブルー・スターダストの中央部、光の気泡の
中に浮いていた。
胎児が母の羊水に浮かぶように、360億光年の彼方の意識の
次元に浮遊していた。
「まり子さん・・・・・・まり子さん・・・・・・」
まり子は頭の中でこだまするような声に意識を取り戻した。
まり子をとりまく空間は、全天の星々の光を凌駕するほどの明
るい光だけが存在していた。
まり子は、まばゆい光の空間に目がなれてくると、自分のまわ
りに、たくさんの小さな光の粒子が浮遊して飛び交っているの
が見えた。
目蛍のように白い光の粒子は光の空間を浮遊していた。
「ブルー」
まり子は無意識にその名を呼んだ。
ブルー・スターダストには名前などどうでもよかった。
個であり全体の存在には、個の名称は小さな時間と空間を独占し、
自由を束縛する存在でもあった。
人は束縛と自由のゆらぎの中に生きる存在。
外界のいっさいに束縛されない自由は自己否定になる。
人は意識的にも物質的にも束縛の中でしか生きられない存在だっ
た。
「まり子さん、ごめんね!」
「ちょっと刺激的だったかしらあ」
「ブルー・・・・・・」まり子はもう一度呼んでみた。
「そうよ!」
声と同時に光の輪郭だけの人の像がかたどられはじめた。
「あなたって本当はどんな姿なの」
まり子はブルーに尋ねた。
「自由自在よ、何にでもなれるのよ、だから自分が無いのと同
じ」
「自分を束縛できるルールーブックが必要になるわね」
「あたしは、あなたが羨ましいわ」
 と、ブルーは言って、にこっと微笑んだ。
「ところでブルーが言っていた、願ってはいけない願い事って
何なの」
「あなたは、立ち入ってはいけない領域に踏み入ろうとしてい
る」
「物理的世界と意識だけの世界とは別次元の存在なの」
「あなたは、わたしたちのいる領域に来てはだめ!まだ早いの」
「あなたもわたしを見捨てるの」まり子は泣き出したくなる顔
をこらえてブルーに訴えた。
 沈黙の時間がしばらく続いた。
しばらくしてもう一度、ブルーの声が、遠のく音の響きが微か
にきこえてきた。
 
 それから・・・・・・
 
 青い媚薬は 堕天使の誘惑

 赤い媚薬はいい
  
 でも 

 青いポワゾンには 手を出さないで
 
 最後の警告よ・・・・・・
 
 わすれ・ない・で・・・・・・

 ブルーの声が光の波間をゆれるように遠のいていった。
 
「わたしは自然の摂理が嫌いなの」
「自然の摂理は美しい、でも自然の摂理は酷い」
「なぜ、罪のない人を傷つけるの」
「ブルー、ブルー・・・・・・」
 
 やがて、まり子を取り巻く浮遊する光の粒子は徐々に明るさ
を増し、空間全体がまばゆい光の大気に満ち溢れはじめた。
まり子はあまりのまばゆさに目を開けていられなくなった。
  
 時間がどれほど経っただろうか、まり子はやさしい光の中で、
ゆっくりと、まぶたを開いた。
意識が目覚めるように・・・・・・。
目覚めると、まり子はベッドの朝の陽差しの中にいた。
まり子の握りしめた左手の中には、ブルー色の透明色のガラス
玉があった。
球面の傷は消えていた。
 




































   青い媚薬 ポワゾン
 

 アア アッ・・・・・・
 
 オ・ハ・ヨ

 キャーーーー

「朝シャン中なのよっ」
「出ていってっ!」
「ああ、行かないで!」
「どっちなの」
「いていいの、 いなくていいの」
「今は 出ていって!」
「ねえ、お願い、わたしのプライバシーを侵害しないで!」

 まり子は、湯沸かし器の温度設定をキッチン仕様のままで、
シャワー用に温度を下げるのを忘れていた。まり子はシャワー
で、赤く火照った豊満なラインにバスタオルを巻き、濡れ髪
でバスルームを出た。
「ブルー、ブルー、いるの・・・・・・」
「なあーに」
「ブルー・スターダストが、ただのガラス玉になっちゃったの」
「うふふ」
「おばかさんねっ」
「もう、ブルー・スターダストは永久 ログイン中なのよ」
「不朽の名作って感じね!」
「まり子さんの名作はどんな感じ」
「あたし、もう、疲れちゃった」 
「あなたは自分の肉体を疎ましく感じているでしょう・・・・・・」
「こんな身体なんて、地上から消えてしまえばいいんだって」
「いっそ流れ星になればいいってね」
「セクシーなボディーなのにねっ」
「流れ星は大気に突入して、無限煉獄の炎の中で光り輝いてい
るのよ」
「青い星、地球は宇宙のパンドラの箱なのよ」
「でもほんとうは、パンドラの箱の中に最後に残されたものは、
希望じゃない」
「涙なの・・・・・・」
「絶望から湧き上がる悲哀なのよ」
「悲しみを感じる無垢の心」
「悲しみから優しさがはぐくまれる」
「優しい無垢の心からは、強靱な意志と英知が生まれるのよ」
「青い星に残された最後の希望は、涙する心なの」
「心は五感を束ねる自由な意識」
「五感の裏側にあるもうひとつの感覚器」
「直観とも言うのよ」
「胸の痛みと歓び、心臓の鼓動は、生命が太古の海で最初に獲
得した 1/ f ゆらぎのバイオリズム」
「潮の満ち引きがきっかけなの」
「生命の細胞の起源は、浜辺の気泡の中で育まれたのよ」
「悠久の浜辺に漂う光の気泡、ブルー・スターダストの気泡の
ようなもの」
「でも、もう、あたし疲れちゃった」

 ブルーはまり子の部屋のテラスで、外の景色を見ながら喋り
続けた。
「意識は、完全で絶対な自由の存在、そして不自由な外界と、
自由な意識の中間でゆらいでいる存在なの・・・・・・」
「宇宙も、完全で絶対な存在、そして、正エネルギーと負エ
ネルギーの中間でゆらいでいる存在」
「意識と宇宙、その共通項は、お互いにお互いが存在できるた
めに、お互いに必要な存在なのよ」
「共進化して永遠に存在し続けるのよ」

 ガシャーッー 

 青い媚薬、ポワゾンの毒薬の、からのガラス瓶が床に落ちて
割れる音だった。
限りなく透明に近い青色の、こまやかな粒子がキラキラと宙に
舞っていた。
 




   時の鼓動 デジャヴ
 

 まり子の病室の窓辺にはコスモスの咲く裏庭が広がっていた。
 
 コスモスの花は秋の優しい風にそよぎ、青い海原のように波
うち、花壇のそばの黄色く色付いた銀杏の葉は、やわらかな日
差しでキラキラと輝いていた。
夕暮れになると、銀杏の黄色い葉は、ときおり吹く強めの風で、
コスモスの海原にさらさらと舞い降り、薄紅色のコスモスの花
は夕陽で黄色く色付き、月の小舟のように青い海原に漂いはじ
めた。
でも、翌日になると、散ったはずの銀杏の葉は、もとの小枝に、
コスモスの花びらは同じところで秋風にそよいでいた。
毎日毎日同じことが繰り返されていた。

 まり子は特殊病理病棟のベッドに横たわっていた。
まり子の肉体は37年間の仮死状態のままで、老化せず若さを
維持し続けていることが最新医学にも解明できない謎であった
ため、特殊病理病棟で大切に保護されていた。
しかし、蘇生されたとしても、肉体は数日の運命のはずだった。

「まり子さん、お早う!」
ナースの和代がまり子の看護を買って出たのだった。
和代は、孤児のまり子の子供時代から、我が子のように優しく
接していた。
「今日もだめかしら、意識は戻らないのかなあ」
和代は口をつぼめて呟いた。
「脳波オッケー、心電図も正常ね」
和代はまり子に話し掛けるように言った。
「体温は33度・・・・・・もうちょっと欲しいわね」
「和代さん、おはよう」主治医の高田医師が扉を開けるのと同
時に和代に声をかけた。
「お・は・よ・・・・・・」
高田と和代は見つめあった。
「君・・・・・・ じゃない!」
高田と和代は同時にゆっくりと、まり子のベッドを振り向いた。
永遠とも思われる時間のひずみから、儚い命の灯が、かげろう
のように立ちのぼった瞬間であった。
頬にほんのりと赤味を蘇らせたまり子は、主治医の高田に数日
の運命であることを知らされた。
「わたし・・・・・・会いたい人がいるの・・・・・・」
まり子は高田と和代を交互に見つめて懇願した。 

 まり子は病院の手続きを済ませ、教会通りに出て、中央線の
荻窪駅に向かって歩いた。
まり子は大通りを抜け、駅前の緑の広場に出た。
まり子は街並を見て青ざめた。
あたたかな血液が凍り付き、全身の力が抜けてゆくようだった。
そこには、まり子の知る荻窪の町並みはなく、見知らぬ外国に
迷い込んだような感覚だった。
まり子は37年間の哀しみと孤独が、一気に溢れ出てくるのを
感じた。
まり子はそれでも、自宅があった方角にむかって歩こうとした。
地に足が付いていないような脱力感を必死にこらえて歩いた。
駅前の街並はドームシティーのようになっており、看板も電柱
もなく、都市整備されていた。
書籍の店鋪に並ぶ保存本はデジタル化されており、昔ながらの
紙の雑誌書籍は骨董品扱いされ、貴重品になっていた。
まり子はドームの街並を抜けて川に出た。
「善福寺川・・・・・・善福寺川だわ!」失われた37年の時を超え、
数ヶ月前の想い出のように、まり子の心の記憶を蘇らせた。
川の水は昔の善福寺川よりも綺麗で、澄んでいるように見えた。
まり子は川上に歩き、おぼろげな記憶に残る橋を探すことにし
た。
昔、あの時代、自宅は橋のそばにあった。
途中、ブックオフの書籍店の上部外壁に設置したデジタル画面
に懐かしい映像が見えた。
(シルバーピンクの三日月だわ!)
デジタル書籍の装丁のデザインだった。
まり子は書籍店の店頭に目を落とした。
そこの棚に並ぶ古びた紙本の背には、[ セーシェルの月の小舟 ]
の文字が印刷されていた。
セーシェルの月の小舟は、まり子が三十歳のころに出版した詩
集であった。
まり子は棚から本を取りだすと、丁寧に1ページずつめくり、
後半のページをひらき、忘れていた過去の記憶の私小説SF、
「ブルー・スターダスト」を見つけた。
巻末にブルーのメッセージが刻まれていた・・・・・・。

  コスモスの丘
 
  ブルーの海原
 
  三日月の石碑

  十字綺羅星座





   ムーン・ウエーブの雫
  
 
 まり子は「セーシェルの月の小舟」の詩集を小脇にかかえ、
コスモスの丘に呆然と立ちつくしていた。
三日月の石碑はまり子の墓でもあった。

 まり子の墓は横浜の海の見える高台にあった。すでに墓石
は苔生し風化していた。
墓石のまわりにはコスモスの花が初秋の風にそよいでいた。
その高台からは、ターコイズブルーの海と、横に長く白いラ
インを描く太平洋の波が岸に打ち寄せていた。

  M a r i k o 碑

  わたしのお墓の前で
  風にそよぐコスモスの花の中で
  佇み泣かないでください
  わたしはそこにはいません
  わたしは今も生きています
  わたしは向日葵畑をふきわたるそよ風
  わたしは秋の大地に舞う枯葉
  わたしは冬の空にきらめき乱舞するダイヤモンドダスト
  わたしは春の暖かな日溜まり
  わたしは夏の木漏れ日
  わたしは光り輝くスターダスト
  あなたが夜の静けさの中で涙する時
  わたしは夜空に翔けめぐる星となって
  弧を描き光り輝く流れ星になります
  わたしは夜に輝くやさしい星々たちとともにいます
  わたしのお墓の前で佇み嘆かないでください
  わたしはそこにはいません
  わたしは今も生き続けています
 

「なぜ・・・・・・」

「どうして」
「あたしのお墓があるの」
「あたしは、あたしは・・・・・・」

「ブルー、ブルー、ブルー・・・・・・」


「まり子さん、お早う!」
ナースの和代が、まり子の看護を買って出たのだった。
和代は、孤児のまり子の子供時代から、我が子のように優しく
接していた。
「今日もだめかしら、意識は戻らないのかなあ」
和代は口をつぼめて呟いた。

 まり子は時の狭間に、時の鼓動デジャヴの世界に漂っていた。

「和代さん、おはよう」主治医の高田医師が扉を開けるのと同
時に和代に声をかけた。
「お・は・よ・・・・・・」
高田と和代は見つめあった。
「君・・・・・・じゃない!」
高田と和代は同時にゆっくりと、まり子のベッドを振り向いた。
まり子に時間のひずみの2度目の朝がおとずれた。
頬にほんのりと赤味を蘇らせたまり子は、主治医の高田に、ま
り子の身体が老化せず、肉
体の衰えが全くないことを告げられた。
「わたし、わたし・・・・・・」
「ずっと寝ていたの・・・・・・ずっと寝たきりだったの・・・・・」
まり子は高田と和代を交互に見つめて尋ねた。
「そうよ」
「まり子さん、分かる・・・・・・ナースの和代よ」
「えっ、和代さん・・・・・・ナースの・・・・・・」
まり子は、和代の昔の面影を想い起こし、白い髪の混ざる和代
の姿に永い空白の歳月を実感した。
まり子は主治医の高田に精密検査された後、病室に戻ると、朝
食がベッドのサイドテーブルに置かれていることに気付いた。
(違う、昨日と違ってる)
まり子は昨日の出来事が、夢なのか現実なのか確かめたい衝動
に駆られた。
まり子は朝食を済ませ、ナースの和代に少し散歩したいと懇願
した。
「うん、分かった、先生に訊いてくるね」
1時間ほどして和代は微笑みながら病室に戻ってきた。
「うん、オッケーよ」
「ああ、ありがとう、和代さん」

 まり子は病院の手続きを済ませ、教会通りに出て、中央線の
荻窪駅にむかって歩いた。
まり子は大通りを抜け、駅前の緑の広場に出た。
まり子は今度は二度目なので、街並の変化には驚かなかった。
「やっぱり、昨日の記憶と同じだわ」
「夢なんかじゃなかった、現実だったんだわ」
まり子は自宅があった方角にむかって歩いた。
昨日と同じように、地に足が付いていないような脱力感を必死
にこらえて歩いた。
(善福寺川だわ・・・・・・)
川の水は昔の善福寺川よりも綺麗で、澄んでいるように見える
のも昨日と同じだった。
まり子は川上に歩き、記憶に残る橋を探し、昨日のブックオフ
の書籍店をさがした。
三日月のデジタル書籍の装丁のデザインを探した。
まり子は書籍店の前までたどりついた。
棚には古びた紙本の [ セーシェルの月の小舟 ] の詩集が昨日と
同じ位置に並べられていた。
「あった、あったわ」
まり子は棚から本を取りだすと、もう一度、丁寧に1ページず
つめくり、後半のページをひらき、私小説SF「ブルー・スター
ダスト」を見つけた。
巻末にブルーのメッセージも刻まれていた。
まり子は本屋の店員に、昨日と同じように気付かれないように
ブラウスの裾で本を隠し持ち帰ろうとした。
しかし昨日のようにはうまくいかなかった。
「お客さん、支払いはお済みですか・・・・・・」
「えっ・・・・・・これ、この本はわたしの本なの」
「わたしが書いた本」
「ちょ、ちよっと待ってよ」
店員は、まり子から本を取り上げ、無造作に本の裏表紙をめく
った。まり子の写真と経歴が印刷されていた。
店員の視線は写真とまり子の顔を何度も往復して、まり子の若
さと美貌に目を丸くして言った。
「ああ、僕、あなたのファンだったんです」
「これ贈呈します、僕のアルバイト代で代金は払っておきます」
まり子は、にこっとして、丁寧に頭を下げてお礼を言った。
まり子は胸の中で呟いた。
(ファンだった、って・・・・・・今はどうなのよ・・・・・・」
相変わらず、気性は昔のままだった。
人の性格は永い歳月が経っても変わらないようだ。
まり子は病院に戻ると、ベッドの中で、デジャヴの時空から抜
け出す方法を考えていた。
まり子は、ブルーが「セーシェルの月の小舟」の詩集の巻末に
残してくれたメッセージをもう一度考え直した。

  コスモスの丘
 
  ブルーの海原
 
  三日月の石碑
  
  十字綺羅星座

(最後の言葉、十字綺羅星座は天の川にかかる白鳥座だわ)
(夏の夜空の真ん中に位置する星座)
(わたしの十字綺羅星)
(昼間じゃいけないんだわ)

夏が終わった初秋は、まだ夏の名残日を残していた。
星空もまり子の最後のチャンスを叶えようとしていた。
まり子は病院の消灯時間を待ち、病院の外出許可をとらず、和
代にも内緒にして夜の教会通りを荻窪駅にむかって走った。

 まり子はコスモスの丘の墓の前に佇み夜空を見上げた。
まり子の悲哀と孤独を星の光がやさしく包み込むように、眼下
の太平洋の彼方からスターライト・セレナーデが、潮騒のはざ
まをくぐりぬけ、月の光できらきらと輝く海の波間から、まり
子の耳もとに微かにきこえてきた。

 瞳に星降る夜 
 夜空を 
 流れ星が埋め尽くす

            異国の海を渡りきたる 
            ソナタの風よ


 碧き海に漂う 
 ボヘミアンの月よ

            真紅に燃える 
            狂おしき幻想よ
 
 淡き桜貝を抱き 
 未だ目覚めぬ白き砂浜よ

            まどろみ惑う 
            星の息づきよ
 
 海よりも碧き
 無垢の月の光よ
 
            悠久の夜空に 
            届けよ

 君の瞳に星降る夜
 君の夜空を
 流れ星が埋め尽くす

 まり子は石碑に佇み、かすかに聞こえてくる憂愁なセレナー
デに涙した。
すると、まり子の涙の一粒が、石碑の表面に刻まれたMarikoの
aに降り注がれ、奇跡が起きた。
涙でaが@マークの二重円のようになり、涙の球面が月の光で
青く光り輝きはじめた。
小さな青い星のように。
そして初秋の夜空は、白鳥座の十字綺羅星と満月と地球が直線
上に位置していた。


















   



   タイム・ウエーブのひずみ


 墓石のMarikoの文字はNorikoの文字にいれかわ
っていた。
 墓石の裏側には「1996年没・インド洋セーシェル諸島・
海洋生物調査中海難事故」と刻まれていた。49年前の倫子の
墓であった。

 まり子の身体は碧い海に没し、こまやかな白い泡が、赤く褐
色に火照った身体を包み込むように取り巻いていた。

「ブルー、ブルー、ブルー・・・・・・」


 セーシェルの月の小舟 

 180平方センチメートルのターコイズブルーの水面がゆら
ゆら揺れていた。
セーシェル諸島の海面だけを写した写真が、透明な水を満たし
た水槽の向こう側にあり、それがシルバーピンクが泳ぐたびに
かげろうのように揺れていた。
それはシルビーと呼ばれていた。
シルビーを見つけたのは去年の真夏、セーシェル諸島の取材旅
行の時であった。
セーシェルの南端にある小さな島、もちろん小さすぎて地図な
どには載っていないが、島の長老はその島を擬態の島と呼んで
いた。

 カイメン(海綿動物)が群生する海、セーシェル諸島、擬態
の島。
カイメンは約40億年前の太古の海に最初に発生した生物。
生きた化石。
その生態は近年ようやく知られるようになった。カイメンの細
胞ひとつひとつは自律し、自由に動くことのできる共生体であ
る。ふだんは一体の複合体として活動する。
 
 あれから20年以上経った。葉太はすでに初老をむかえよう
としていた。
あのころ、葉太と倫子は顔を会わせるとしょっちゅう喧嘩をし
ていた。そのせいか、倫子は葉太にまともに自分の素直な気持
ちを打ち明けられないでいた。
「バカ、バカバカ」・・・・・・ガッタッ。倫子が勢いよく立ったせ
いで椅子が倒れた。
それ以後二人は会わずして、倫子は夏のセーシェル諸島に生物
学の仕事で旅だった。
葉太の暮らす東京は、かげろうが揺らめく熱い夏が終わろうと
していた。
カナカナ・・・・・ひぐらしが葉太の耳には悲痛にきこえた。
ルルル・・・・・・ルル・・・・・・電話のベルでひぐらしのなき声が一瞬
やんだ。
透明でいて限りなく碧い海の中で、細やかな白い泡が倫子の微
かにあかく褐色に火照った身体を、包み込むように取り巻いて
いた。
葉太は見とれていた。
ルル・・・・・・ルルル・・・・・・
葉太は白日夢を見ていた。
もしもし、もしもし・・・・・・

 倫子の墓は横浜の海の見える高台にあった。
すでに墓石には苔が付き風化していた。
まわりには薄紫色のアザミの花が、夏の終わりを告げる風にそ
よいでいた。
葉太は毎年夏が終わるころ自然にこの高台に足が向くのだった。
葉太はその高台から、ターコイズブルーの海と、横に長く白い
ラインを描き岸に打ち寄せる波を見ていた。
(セーシェル諸島か・・・・・・おれも一度、行ってみようかなあ、
取材旅行を兼ねて・・・・・・)


 セーシェル諸島の倫子
 
 海洋生物調査は最南端の小島ひとつを残し、倫子は久々に休
暇をとっていた。
カイメンが最も多く棲息する海域、そして不思議さをひっそり
と抱き、ただ美しさだけをたたえるかのような海域。
セーシェル諸島。
しかし、自然の美しさは美しいほど、それと同等に人間の意の
ままにならない脅威もはらんでいる。
 
 夕凪の紺碧の海原に、島の漁師が70年代から愛用してきた
旧式の小さな帆船。珊瑚が白く石灰化したようなその船艙に、
紺碧のウォーターベットにもぐり込もうとする太陽の光りが当
たり、照り返しで甲板までサーモンピンクに色付いていた。
50海里ほど先の海上では閃光が瞬いていた。
海洋の嵐は瞬時にやってくる。
船室でうたた寝をする倫子は嵐の気配に気付かずにいた。
都会育ちの倫子は生物には明るいが、自然の脅威には疎かった。
 
 クアーン、クアーン、ギィギィー、船室が水圧できしむ音で
倫子は目をさました。
倫子は暗く冷たい空気の中で、夢まどろみと引き換えに驚きと
恐怖に襲われ、また意識が遠のくのを感じた。力の限り声をあ
らげ、かろうじて意識を保った。
海の底に沈んでからすでに数日が経過していた。
倫子の横たわった身体のほとんどは、数種類の白い斑点を点在
させたエンジ色のカイメンにおおわれていた。
カイメンは二酸化炭素呼吸の生物で、絶望の闇の中に酸素を吐
き出していた。
倫子は闇に目が慣れると、幽かな青白い光りの波紋が船室の壁
を揺らしているのが見えた。それが倫子には勇気付けられるよ
うに思えた。
倫子の身体はしびれてはいたが、おおわれたカイメンから抜け
出すことができた。
そして、震える力さえも消え失せた身体で、海中ライトを手探
りで探した。見つけることが容易でないことを悟るのにはさほ
ど時間はいらなかった。
あきらめうつ伏せになった。その脇腹にかたいものが当たった。
はらいのけようと手を差し入れ、それが海中ライトであること
に気が付いた。
「ああ、神様」無意識に声がでた。海中ライトに微かな明かり
が点った。
倫子は出しうる限りの声で叫んだ。
「生きてるのよ・・・・・・」
「ここよ・・・・・・」
むなしく船室の壁に当たり反響するだけだった。 
さらに水圧のきしみは激しさを増していた。
ギィギィーと、きしむ音に倫子の声は打ち消されていた。

 ライフワーク・・・・・死・・・・・星の下の必然・・・・・・・・。
 恋は・・・空間・・・・・・。愛・・・距離・・・・・・・だった・・・・・・・。
 まだ・・・・・・。
 あたしは生きてる・・・・・・あたしは生きてる。
 あたしは生きてるのよ・・・・・・。
 あたしは・・・・・・あたしは・・・・・・。

「神さま、神さま、神さま、助けて」
「葉太・・・・・・」
倫子は再び意識がかすれてゆくのを感じた。
かすれる意識の中で、カイメンの種類には一生の間で擬態を数
回くりかえし、最後に形成された擬態が、100年以上の時を
経ても変わらずにいる自律型のカイメンもいることを思い起こ
した。
倫子は最後の力を振り絞り、カイメンの中に葉太が呉れたシル
バーピンクの三日月形のペンダントを投げ入れた。


 セーシェルの月の小舟  詩集 序詩  

 時の流れは 

 月の小舟の掛け橋  
 
 月の小舟を導く航路 
 
 時の狭間に 

 紺碧の波間に

 月の想い出を託して
 
 悠久の思いを刻む・・・・・・
 
 
 時が止めどもなく流れ、
 セピア色に変わりゆく一枚の写真。
 セピア色の向こう側に、押しやられた想い出。
 
 歳月が朽ちても、いつまでも変わらない微笑みがある。
 
 季節が巡り、枯葉が舞うように、
 風に吹かれ、紺碧の波間に、大地に朽ちゆくセピア色の写真。
 名前も知らない一枚の写真。
 
 幸せだったのか、不幸せだったのかも知らない。
 朽ちかけたセピア色の写真は、
 ただただ、いつまでも微笑んでいる。

 川の流れののように、時の川面に浮かぶセピア色の写真。
 海に流され、波間に漂うセピア色の写真。
 月の小舟のように、星々の輝く紺碧の大海を、
 旅をするのだろうか。
  
 もしも、
 ほんの一瞬、お互いの時間が、すれ違ったとしたら、
 君は、微かに光る、ひとすじの流星に気が付くだろうか。
 月の小舟に気が付くだろうか。
 
 もしも、
 共通する美しい海の想い出が育まれ、
 それが、紺碧の深海に、沈んでしまったとしたら、
 月の小舟を、悠久の時の流れの中に、
 再び、見付けることができるだろうか。
 隣り合せの時間に、気が付くだろうか。
 セピア色の彼方に、想いを馳せて・・・・・・


 シルバーピンクの三日月型のカイメン
 
 大地は満月の夜をいくたび迎えたろうか。
人の歴史がめくるめくように変わりゆく中に、悠久の時の狭間
に、昔も今も変わらない光り輝く満月があった。
 
 歳月は流れ倫子の海難事故から120年余りが経過していた。  
 南海大学の生物学部の研究室の保管棚には、ホロマリン漬け
の葉太のカイメンが保存されていた。
「教授、このカイメンは変わった形をしていますね」
「それに、なぜホロマリンで保存ですか」
研究生は訝し気な面持ちで尋ねた。
「ん、それはだ、生きた化石のわりには、原始的なコラーゲン
を既に有していて、自律型でね、つい最近まで水槽で動き回っ
ていたんだよ」
教授は高田に背を向けたまま顕微鏡から顔を離さず答えた。
「それにしても、変わった形をしていますね!」
「解剖もしていない様子ですし」
研究生は、カイメンの入ったビンを手にして言った。
「CTスキャンには掛けたがね、何も出なかったよ」
「では、解剖はまだなんですね、してよろしいでしょうか」
好奇の目をして研究生は訊ねた。
 数日後、解剖されたカイメンの内部から、数ミリの長さの髪
の毛が発見された。
(なぜ髪の毛が・・・・・・カイメンの特異形体と因果関係があるの
だろうか・・・・・・)
研究生は腕組みをして考えあぐねた。
 2120年代では、男性のY染色体の遺伝学的必然性コピー
エラーと異常気象によって、世界の人工は激減しており、国を
あげて国民のDNA保存が施行されていた。
したがって、国民の全てはDNA登録がされていた。公的機関
以外には生物学研究所のみDNAで過去を溯ること、家系をコ
ンピューター走査から調べることは可能であった。
(そうか!あの髪の毛は海洋生物を研究をしていた女性のもの
なのか・・・・・・)
 デジタル画面には、1996年、インド洋、セーシェル諸島
沖で海難事故。消息は不明と表示されていた。
黄昏れる夏の日差しの中、大学のキャンバスの木々の合間から、
ひぐらしのカナカナのなき声が微かに聴こえてきた。
(ああ、ひぐらしか・・・・・・)
研究生の高田は子供時代に数度だけ耳にしただけだった。
最近では珍しかった。
八月下旬、夏休みでも研究室は開放されていた。
「教授、来週からセーシェル諸島に旅行に行ってきますう」
 
 夏のインド洋は連日摂氏40度を越えていた。
(あつう、あともう少し、探すか・・・・・・)
研究生の高田の顔は、メラミン色素の皮膚が斑にはげて、みす
ぼらしくも逞しく変貌していた。
高田は、ヤシの葉のそよぐ白い珊瑚の浜辺に腰を据えて、夕陽
で赤く染まったインド洋のセーシェルの最南端の小島を見つめ
ていた。
夕陽が小島をダークブルーの影絵に変えていた。
人魚が上半身を海面から出し、両腕を広げているような島影で
あった。
(影の擬態、人魚の島かあ・・・・・・)
高田はうっとりとして呟いた。
夕陽は既にダークブルーの海に没していた。そして上弦の月が
穏やかなインド洋の水面に浮いていた。
涼やかなそよ風が波間をくぐり抜け、潮騒と共に悠久の時の彼
方から囁いてくるようであった。
(月、月・・・・・・月の海面・・・・・・月のカイメン・・・・・・)
高田は目をまるくして呟いた。
(そうだ!三日月型のカイメンを探したら、手がかりがあるの
では・・・・・・海難事故から120年も経っている・・・・・・)
(今も存在するだろうか、その形の擬態を維持している・・・・・・
ありえない!)
高田は、ため息をつきながら肩を落とした。
(明日は、セーシェル最南端、あの小島に行ってみよう)

 地図に記載されていない小さな島であった。
高田は太陽が頭上にギラギラと輝くころ、砂浜らしき砂浜もな
い小島を半分以上ボートで回遊し、かろうじてボートを横付け
できる岩場を見付けた。
岩と岩の隙間は深い海を成し、限りなく透明に近いウルトラマ
リンブルー色をしていた。
その小さな入り江にボートを停泊させて岩場に上陸した。
数歩前進して、植物の生えたところまで辿り着いた。植物の茎
の根元には白く朽ちかけた珊瑚が散乱していた。
(チェッ!珊瑚だけか!・・・・・・)
数時間かけ、島を一周して岩の入り江に戻った。
高田の半ズボンのすねはツル草で血がにじんでいた。
岩場のボートのロープをほどこうとした。その時、海面に三日
月形の影が見えた。
高田は歓喜した。
確かに三日月型である。しかも、深場の海中には無数に泳いで
いるように見えた。
それは沖に向っていた。
インド洋は紺碧の海からダークブルー色に変わろうとしていた。
日没が迫っていた。
(ヤバい!戻らなければ・・・・・・)
(あれは、沖の何処に向っているんだろう・・・・・・)
(明日、もう一度来よう!)

 翌日、高田はシルバーピンクの三日月形のカイメンに導かれ、
120年前に海中に没した倫子の船を発見した。
船の回り一帯の紺碧の海面は光り輝き、海底は光の波紋がゆら
ゆらと揺れていた。
海藻の波打つ間に船は天地が逆になり、船底が上に反り上がっ
て下弦の月の形をしていた。高田はボンベを付け陥没した船底
を覗いた。光のない黒い穴が開口していた。海中ライトを点し
た。
鮮やかなシルバーピンクのカイメンが船室の中央で隆起してい
た。(あの中に・・・・・・)
高田はその日の内に地元の海上保安局に出向き、海難事故現場
の捜索を依頼した。
日本の生物学研究所にも電話を入れた。
数週間後、地元の海上保安局と日本の生物学研究所のチームが
結成され、倫子の船は引き上げられた。
船室にはひとかたまりの共生体のカイメンが棲息していた。
倫子の遺体は発見されなかった。
120年の歳月は倫子の想い出だけを残し、跡形もなく紺碧の
時の彼方に封じ込められてしまったのだろうか。
ひとかたまりの共生体のカイメンは日本の海洋生物研究のため、
高田の功績を尊重して南海大学の生物学部に搬送された。
日本はかげろうが揺らめく熱い夏が終わり、初秋を迎えていた。

 
 10月26日、満月の夜

 高田はいまだに時差ぼけをしていた。
大学の研究室に入るのは、連日、昼過ぎであった。
高田は今日も遅れた分を取り戻そうと、遅くまで研究室にいた。
「高田くん、また遅いの」
同僚の和代であった。
和代は高田よりも年下にもかかわらず、高田を呼ぶ時はくん付
けなのだ。
大学では高田は和代よりも後輩であった。
「ああ、うん・・・・・・まあ、そんなとこ」
気のない返事だ。
高田は和代を密かに気にかけていた。恋に臆病な高田は好きに
なればなるほど態度に出せないでいた。 
(才色兼備は、君のために発明された言葉だな・・・・・・ふっ)
高田は和代の後ろ姿を見送り、ため息をつきながら呟いた。
今夜は十五夜であった。
地平線に近い満月はひときわ大きく輝き、研究室の窓ガラスの
フレームを妖しく光らせていた。
月の光は、やがて、カイメンを入れた水槽の水面まで達し、鏡
のように光り輝かせ始めた。満月の夜、カイメンは活性化する
性質があった。カイメンからは細やかな幾つもの気泡が左右に
ゆらめきながら浮上して、水槽の水面に波紋を描いていた。
カイメンは二酸化酸素を吸収して、酸素を吐き出していた。
高田は水槽を見つめ神秘的な海の世界が研究室にあると思った。
(サンプルを少し頂いてみようか・・・・・・)
高田は自宅に持ち帰るつもりだった。
解剖用メスでカイメンを少し削り始めた。
意外に硬かった。ハンマーで解剖メスの頭を叩くとカイメンか
らは乾いた音がした。
(中は一部空洞か・・・・・・)
続いてもう一撃を加えた。外殻が陥没した。
そして、破片を取り除いた。
すると、中から白く柔らかな組織が月明りに照らし出された。
さらに外殻を開くと、白い陶器のような美しい流線形が現れた。
高田は全身が鳥肌立ち、呆然とした。そして震えた。
(ああっ・・・・・・)
声を出したはずが音にならなかった。息だけで叫んだ。
全裸の女性がカイメンに守られ仮死状態で保存されていたのだ。
酸素と養分はカイメンにより補給されていたのだった。
 数日後、倫子は、特殊病理学研究病棟のベットに横たわって
いた。
三十歳代の若さのまま蘇生したのだった。
しかし、その生命は、数日しか生きられない。蘇生された肉体
は数日で老化する運命なのだった。
「倫子さん、お早う!」
和代が倫子の世話係を買って出たのだった。
「今日もだめかしら、意識は戻らないのかなー」和代は口をつ
ぼめて呟いた。
「脳波オッケー、心電図も正常ね」和代は倫子に話し掛けるよ
うに言った。
「体温は33度かあ・・・・・・もうちょっと欲しいわね」
「和代さん、おはよー」
高田が扉を開けるのと同時に和代に声をかけた。
「お・は・よ・・・・・・」
 高田と和代は見つめ合った。
「君・・・・・・じゃない!」
高田と和代は同時に、ゆっくりと、倫子のベッドを振り向いた。
永遠とも思われる時間の歪みから、儚い命の灯が陽炎のように
立ち上った瞬間であった。

 頬にほんのりと赤味を蘇らせた倫子は、教授から120年間
の出来事の説明を受けた。そして、数日の運命であることも。
「わたし、わたしの家族は何処? 逢いたい!」
倫子は教授と高田を交互に見つめて言った。 
「残念ですが、現在は不明です。きっと、あなたの家族の子孫
の方は・・・・・・」教授は優しく静かに答えた。

 倫子の病室の窓辺にはコスモスの咲く裏庭が広がっていた。
コスモスの花は秋の優しい風にそよぎ、青い海原のように波う
ち、花壇のそばの黄色く色付いた銀杏の葉は、やわらかな日差
しでキラキラと輝いていた。
夕暮れになると、銀杏の黄色い葉はときおり吹く強めの風で、
コスモスの海原にさらさらと舞い降り、薄紅色のコスモスの花
は夕陽で黄色く色付き、月の小舟のように青い海原に漂いはじ
めた。
でも、翌日になると散ったはずの銀杏の葉は、もとの小枝に、
コスモスの花びらは同じところで秋風にそよいでいた。
毎日毎日同じことが繰り返されていた。
そんなある日、夜も昼もない120年間の紺碧の海原にとつぜ
ん異変が起きた。
満月の輝く夜がやってきた。
紺碧の波間に漂う月の小舟は、砂浜に輝き、そして、葉太の両
手を合せ広げた中には月の小舟があり、微笑みながら、倫子に
見せて、見付けたよ!
倫子の月の小舟・・・・・・倫子・・・・・・
「倫子さん!・・・・・・倫子さん、おはよう!」
倫子は高田の声で目が覚めた。
 倫子の集中治療とリハビリは順調にすすみ、数週間もすると
倫子は奇跡的に予想外に若さを維持したまま生気を取り戻した。
数日の運命は数カ月に延命された。
それはカイメンが吐き出す酸素を採集して、夜の睡眠時に人工
呼吸の処置をしていることが成功していた。
カイメンの吐き出す酸素は、人間のDNAを破壊する有毒な活
性酸素を発生させない不思議な働きがあった。倫子の吐き出す
二酸化炭素はカイメンが吸収して酸素に変え、倫子に供給する
といった循環型の共生関係が形成されていた。
驚くべき120年間の生態系進化である。
体力が回復した倫子は半日ぐらいなら外出が許可された。


 善福寺川

 倫子は高田の自動操縦の車で横浜に案内された。
高田が中華街の軽いランチと横浜の港の散歩に誘ったのだった。
赤レンガの倉庫は博物館のドームに納まっていた。
昔の風情は一変していた。
ただ、中華街はさほど変わっていないように見えた。
でも配膳するウエートレスはロボットのようであった。
表向きには取り立てて、そんなことは公表されていないらしか
った。
もう人間に似せたライフロボットは珍しくなかったのだった。
ランチを済ませた高田と倫子は、中華街から港までは歩いてゆ
くことにした。
港を目前にして倫子は思い出したように立ち止まった。
「高田さん、わたし、独りで荻窪に行ってみたい!」
倫子は高田に懇願した。
「海はいいの・・・・君は自由だけれど、ただ、夜には病院に戻ら
ないと、身体に異変が起きるといけないから、いいね約束だよ」
高田は深刻な眼差しで倫子を見つめた。
高田はいざという時のために、自分のマネーカードを倫子に渡
し横浜駅まで送った。

 電車は全てリニヤモーター化され全線乗車賃は無料であった。
中央線には荻窪の駅は無かった。
駅名は符号化されていたのだった。
倫子は新宿から通過する駅を数えて、おおよその検討を付けて
荻窪駅らしきホームで下車した。
荻窪は昔、葉太が暮らしていた。
倫子は改札を出て緑の広場に出た。
倫子は街並を見て青ざめた。
温かな血液が凍り付き、全身の力が抜けてゆくようだった。
まったく昔の面影はなく、見知らぬ外国におりたったような感
覚だった。
葉太もすでに居るはずがないことは理解していたが、あんまり
だった。
涙が120年の時を駆け巡り、120年間の哀しみと孤独が一
気に溢れ出てくるのを感じた。
倫子はそれでも、葉太の工房があった方角に歩こうとした。
地に足が付いていないような脱力感を必死にこらえて歩いた。
駅前の街並はドームシティーのようになっており、看板も電柱
も無く、都市整備されていた。
書籍の店鋪に並ぶ保存本はデジタル化されており、昔ながらの
紙の雑誌書籍は骨董品扱いされ、貴重品になっていた。
倫子はドームの街並を抜けて川に出た。
(善福寺川・・・・・・善福寺川だわ!)
失われた120年の時を超え、数ヶ月前の想い出のように倫子
の心の記憶を蘇らせた。
川の水は昔の善福寺川よりも綺麗で、澄んでいるように見えた。
倫子は川上に歩き、おぼろげな記憶に残る橋を探すことにした。
昔、あの時代、葉太の工房は橋の傍にあった。
途中、ブックオフの書籍店の上部外壁に設置したデジタル画面
に懐かしい映像が見えた。
(シルバーピンクの三日月だわ!)
デジタル書籍の装丁のデザインだった。
倫子は書籍店の店頭に目を落とした。
そこの棚に並ぶ古びた紙本の背には、[ セーシェルの月の小舟 ]
の文字が印刷されていた・・・・・・。 

「倫子さん、お早う!」
和代が倫子の世話係を買って出たのだった。
「今日もだめかしら、意識は戻らないのかなあ」
和代は口をつぼめて呟いた。

 まり子は、時の鼓動、時空のひずみに漂っていた。

「和代さん、おはよう」
高田が扉を開けるのと同時に和代に声をかけた。
「お・は・よ・・・・・・」
高田と和代は見つめあった。
「君・・・・・・じゃない」
高田と和代は同時にゆっくりと、まり子のベッドを振り向いた。
まり子は、時間のひずみの3度目の朝をむかえたのだった。
頬にほんのりと赤味を蘇らせたまり子は、高田に「あなたの身
体は、老化せず、肉体の衰えが全くありません」と告げられた。
「わたし、わたし・・・・・・」
「ずっと寝ていたの・・・・・・ずっと寝たきりだったの・・・・・・」
まり子は高田と和代を交互に見つめて尋ねた。
「そうよ、倫子さん」研究生の和代が優しい眼差しでこたえた。
「え・・・・・・倫子さん・・・・・・」まり子は愕然とした。
まり子は和代をみつめて、全身の温かな血液が凍り付くような
衝撃に襲われた。
目の前に立つ白い研究衣の和代は、まり子の見覚えのない若い
女性だった。
まり子は高田に精密検査された後、病室に戻ると、ベッドのサ
イドテーブルに「セーシェルの月の小舟」の本が置かれている
ことに気付いた。
(違う、また昨日と違ってる・・・・・・)
研究生の和代が朝食をもって、まり子の病室に戻ってきた。
「今朝は特別に、横浜の中華街から美味しいお粥を出前したの
よ」トレイをサイドテーブルに置き、笑みをうかべて言った。
「ありがとう、ところで今は何年なの」
「2116年、10月30日よ」
まり子とブルーがいた時代の2007年から109年以上も経
過していた。  



  

   スペース・トラベラー 星の旅人
   

(デジャヴは時間の輪、タイムループ)
(そして未来に跳躍はタイムトラベル)
(でも科学的には、タイムループはSFや既視感、時間旅行も
不可能だわ)
(タイム・ウエーブのひずみがあるのみね)
(時間は直線上に前進あるのみ)
(わたしの理論どおりに、宇宙の時間がインフレーション加速
しているんだわ)
(しかも、らせん状で、ひとつの方向に前進している)
(らせん状の変化が、デジャヴと錯覚したんだわ)
(わたしだけが、わたしの時間と身体だけが、現実の宇宙、加
速する宇宙から、はみ出てしまっているのね)
(今は、わたしの1日が約100年に相当する)
(わたしが、老化も肉体の衰えもないのは、見えない力で護ら
れているんだわ)
(わたしの故郷の白ロシア、ベラルーシの南の、チェルノブイ
リ原発事故が1986年)
(わたしの少女時代の空白の時間も関係してる)

 1986年 チェルノブイリ原発事故。
 1996年 倫子の海難事故。
 2007年 ブルーに出会った年。
 2045年 わたしが最初に目覚めた年。 
 ・・・・年 2度目は乱雑なゆらぎと波動現象の中の目覚め。
 2116年 そして3度目の目覚め。

(時間の波動は、空間の波動、乱雑なゆらぎや波動の系は、イ
ンフレーション的に質量が減少するのと同時に、時間は反比例
して加速する)
(絶対零度系、超伝導空間系の方向に、わたし以外の外界が加
速して進行しているんだわ)
(わたしが加速して遠い宇宙に行くのではなく、わたし自身が
変化しないで、加速する時空にいるだけでいいんだわ)
(相対性の時間のひずみに、わたしがいるんだわ)
(ブルー・スターダストがわたしを護ってくれているんだわ)
まり子は病院のバスルームで朝シャンをしながら考えていた。
いつも、インスピレーションと・・・・・・はバスタイムだった。
(ん・・・・・・は独り泣きよ、あたしは人前で泣くの嫌い」
 
 マ・リ・コー

「キャー」

「うふふっ ごめんねえ、プライバシー侵害だったあ」
ブルーであった。
「もうう、とつぜん。出てこないでっ」

「ん・・・・・・あれ、れれ」
「ロッカーのハナコさんじゃーないのよねっ、あたし」

「まり子さんの考え、ちょっと違うかなあ」
「あなたはもう肉体がないのよ、意識だけ」
「だから壊れないの、女性の大敵、老化もねっ」
「セクシーなボディーだったのにねえ」
「もう、できなくなっちゃうわねっ」

「なな、なによー、それ、失礼ねっ」

「わたしたちは、あと数ヶ月もすれば、360億光年の彼方、
わたしの次元に到達できるわよう、うふっ」
ブルーは小首をかしげてにっこり。


  夏の夜 
  天空の川に 
  十字綺羅星の光翼が
  飛翔する夜
 
  月は 
  白鳥座と青い星の
  狭間に光り輝く
 
  月が
  星の光を凌駕する夜
 
  宇宙の彼方で 
  流星が光り輝き
  流星は
  月の光を凌駕する




   ブルー・スターダストの旅立ち
  

 バスルームのシァワーが光のシァワーになり、まり子に降り
注がれた。
光の粒子はらせん状に渦をまき、まり子の全裸の身体を包みこ
むように光のコクーン(まゆ)になった。
コクーンは球体になり、パッと膨脹して消えた。
後には、オーロラの光のカーテンが波うち徐々に消えていった。
バスルームにはシャワーの水滴だけが降り注いでいた。
地上の涙のように降り注いでいた。

 宇宙は2度目のインフレーション膨脹を完了させ、最後のイ
ンフレーション膨脹に突入しようとしていた。

 まり子は、ブルー・スターダストの光の気泡に浮遊していた。

まり子は意識が覚醒するなかで、透きとおるような眼差しで、
しっかりと目の前の空間を見据えようとした。
光が満ちあふれ、全体のサイズは分からなかった。

「まり子さん、ごめんねえ、またまたとつぜんで」
ブルーが今度は、光の輪郭ではなく、可愛らしい女性の姿にな
って現れた。

「あらーらー、可愛らしいのらしいの曖昧な表現は何よ!」
ブルーが凛とした態度で、時間のひずみに存在するまり子の意
識に噛みついた。
(あっ、えっ・・・・・・)と、まり子。
 
「まり子さん、これから起こること、驚かないでねっ」
ブルーは小首をかしげて可愛らしく微笑んだ。

「のりこー」
またまた、とつぜんの出来事、倫子の彼が登場した。
縁日の待ち合わせをすっぽかした葉太だった。
「キャー」
「あたし、あたし全裸なのよっ、シャワータイムじゃないけど」
「ブルー、何とかしてっ!」
肉体とは不便なもの、それとも羞恥心が不便なのか・・・・・・。
見せたいけど、隠したい気持ちが勝っているまり子であった。
まり子は両手で胸だけは隠した。
(だって、同時にぜんぶ両手で隠せないでしょう・・・・・・)と、
まり子は真空の中で呟いた。
女の心理は、自信があるところは隠したくなるようだ。

(時々ね、ほんとうは、自信あるところは見せたいの・・・・・・)
セクシー過ぎるのだった。
嫌いなタイプと、同姓の軽視する視線が気にかかるらしい。
(ん・・・・・・ヒップラインも自信あるわよ)
(足も追加申告するわ、足が一番いいみたいよ)
(でも、ないしょよ、だって、同性に嫌われたくないの)
(言い訳じゃなくて、女のセクシーさって、ファッションで、
お洒落なのよね・・・・・・)
どうやら、まり子の深層意識のつぶやきのようである・・・・・・。
(もう、そこまであたしのプライバシーを公開しないで!)

まり子が気が付くと、ちゃんと洋服を着た葉太が手の届くと
ころに立っていた。
「倫子、髪の毛、染めたの・・・・・・」
「瞳の色も違うし、青色のコンタクトしてるの・・・・・・」
葉太は、まり子の顔をのぞき込むようにして尋ねた。
(なによ・・・・・・本物の元カノなら、久しぶりにご対面なのに
・・・・・・その態度・・・・・・ああ、会いたかったよう、とか、なん
とか、さっ・・・・・・)

「全裸の、この人だれよー」
まり子の背後から女の声がした。
まり子が振り向くと、赤毛で真紅の瞳の倫子が立っていた。
二人はハッと息をのんだ。
瞳孔を大きく見開き見つめ合った。
二人とも、髪と瞳以外は全く同じで、一卵性双生児のようであ
った。
「ああ、あなただれよ!」
ふたりの声がダブった。
「ダメッ!」ブルーが叫んだ。
「二人ともそれ以上に近づかないでっ!」
「あなたたちは、スピンとアイソスピンの関係にあるの」
「お互いに触れあったら、光の粒子になってしまうわ!」
「意識までも、消滅してしまうのよ・・・・・・」

「ところで、あたしたち、いま、どの辺にいるの」
まり子が冷静な眼差しでブルーに尋ねた。
「ごめんねえ 360億光年の宇宙・・・・・・超えちゃったの」
「うふふ」
「えっ、うっ、あーあ」
相変わらず葉太はアホっぽい。

「ブルー、あたしたちは、どこに向かっているの」
「宇宙の深淵よー、うふ」
またしても、小首をかしげ、笑って誤魔化すブルーであった。
 解説
 OUF(ウフ、仏語では、やれやれ、うざったいの意)

「宇宙の深淵はね、宇宙の終わりであり、初まりなのよ」
まり子が自信たっぷりに解説をはじめた。
「そこは、負のエネルギーホールなのね」
「その外側は、正エネルギーボイドの、電子素子ボイドと、
そのボイドを包みこむように、外側に陽電子素子ボイドの次元」
「物質的次元はスピン、意識的次元はアイソスピン」
「光子的なエネルギーは中間の次元なのね」
「ピンポーン 正解!さすが、まり子さんね」
「才色兼備、美人薄命」にこっとブルー。
「ちょっ、ちょって待ってよ、最後の美人薄命はやめて!」
「それにブルーのピンポーンって、死語よ」とまり子。
「だって、わたしたち、死後の存在みたいよー」とブルー。
「ブルーって、ロッカーのハナコさんみたいねえ」と、まり子。
「もう、それ言ったら許さないんだから!」
口を尖らせるブルー。
「あたしは物理的な宇宙を超越した存在、知的生命体よ」 
「生きてるの、あたし、生きているのよ」
「あれれえ、このせりふ、まり子の口癖よねえ」
「もう、ブルーたら」


  


 スペース・ファンタジー♪
    オペラ・トゥーランドットの曲に乗って♪♪


 ブルーが全員に伝えた。
「もうじき膨脹宇宙ボイドの外側に出るわ」
「3回目の、インフレーション膨脹が起きる前に、この宇宙ボ
イドから脱出よ」
「膨脹する細胞膜のような、この宇宙ボイドから脱出よー」
「外側の絶対真空の外宇宙に出るわ」
「出たら、斥力波の第3波がやって来るわよー」
「さあーみんな覚悟していてねえ」
「絶対真空の外宇宙だから、振動がゼロ、抵抗がゼロ」
「光の速さを超え、無限速度に到達するのよーーー」

「ヒャッ ホーーーーーー」全員が歓喜の声をあげた。

  トゥ ララー ♪ 
          ル ラ ラー ♪♪
 
  ツゥーウ ラ ラー ♪  
            ルウ ラ ラー  ♪♪

「こらがドップラー効果ねえ」まり子は目を輝かして言った。
「宇宙の中心が、まるで真紅のバラのようね」
「やがて光の波長は、直線になるんだわ」
「そして、光のない暗黒の視界が広がる」
「過去は、暗黒の空間に覆われるのね」
星と星の空間が大きくなればなるほど、遠ざかれば遠ざかるほ
ど、ブルー・スターダストは外宇宙にむかって速度を上げてい
った。
「深淵の宇宙は光速をはるかに超えるわよ」とブルーが言った。
前進する方向からは、さまざまな色彩の波動が襲来して、幾重
もの層になり、網膜に飛び込んでは通りぬけ、消えていった。
バイオレットからパープルに、そしてブルー系の色に変わりは
じめた。
全員の身体も透明の光に変わりはじめていた。
ブルー・スターダストは、限りなくゼロに近い微粒子、光の点
に変わろうとしていた。
やがて、前方の色彩の光が消え、透明な光になり、ブルー・ス
ターダストは暗黒の闇に閉ざされた。
つぎの瞬間、インフレーション膨脹の第3波の衝撃波に襲われ
た。
全員の意識は、苦痛よりも、窒息するような恍惚感、エクスタ
シーの時間に漂った。
時空に浮かぶ小舟のような空白のひずみに漂った。
 
 永遠とも感じられる時間がおわり、前進する方向に光のピン
ホールが出現した。
そして、いっきに光の点は透明な光の球面に変わり、光球の中
側にはリングがふわふわと浮遊し、そしてまた、小さな光の気
泡のようなものが、さまざまな形や大きさに変化しては、オー
ロラのように波うっては消えていった。
そしてまた、虹のような光のリングは三重の光の球体になって
は、リングに散乱していた。
無限の空間の光球と永遠の時間の狭間で、なんども、なんども、
あれゆる空間で同じことが繰り返されていた。
意識がイメージするだけで、目の前に地球の光景が全天を覆い
尽くすように立体映像が出現した。
ブルーが説明した。
「本物よ!」
まり子の潜在意識の中に眠る記憶、白ロシアの故郷の風景であ
った。
ベラルーシの受難、白ロシアの悲劇の光景であった。



  









 













  

    白ロシアの無垢の涙
 

 少女時代のまり子は、ウクライナの国境に近い地区の村で家
族と幸せに暮らしていた。
そして、1986年のチェルノブイリ原発事故。
原発技師のまり子の父は、事故現場に慌ただしく出かけた。
あとに残されたまり子と母は、連絡の途絶えた父を捜しに国境
を越え、チェルノブイリに向かった。途中、避難のために無人
なった村は、まるで1943年のナチスドイツの侵攻で、
廃墟になった村のようであった。
ふたりが父のいる現場にたどりついた時に、あの悲劇が起きた。

 まり子には少女時代の白ロシアの記憶がなかった。
幸せな思い出すら、記憶の片隅に追いやられてしまっていた。
「ブルーわたしの少女時代って幸せだったの・・・・・・?」

「いいわ、わたしがあなたの忘れた記憶を代弁するわ」と、ブ
ルーが言った。
「あなたのお父さんは、事故現場に近づいて来るあなたたちを
目ざとく見つけたのよ。放射能で汚染されたゾーンから、あな
たたちを急いで追い返そうと、持ち場から離脱してあなたたち
に駆け寄ろうとした。でも現場の兵士は、それを逃走と勘違い
して、後ろから銃撃したのよ。あなたの目の前で両親が銃殺さ
れたのよ」
「銃弾は、あなたを守ろうとしたお母さんの身体を貫通して、
あなたの胸に達しようとした。あなたのブラウスは、お母さん
の血で赤く染まった。お母さんが、銃弾の勢いを弱めてくれた
お陰で、お母さんの身体を貫通した銃弾は、あなたの胸に衝撃
を与えただけだった」
「でも、そのショックで、あなたはその日以来、少女時代の白
ロシアの記憶が失われてしまった・・・・・・」
「あなたは、村に独りで帰ったあとは、放射能で汚染されてな
い村の子供たちに、汚い子、チェルノブイリの針ねずみ、と言
われ、いじめられ遠ざけられた」
「放射能を浴びた針ねずみは、体毛が抜け落ちた汚い団子、と
言われ蔑まられた。それは汚染地の子供に対する差別語だった
の」
「村の子供たちに、ニガヨモギの星をつくった悪魔の子と罵ら
れ、石を投げつけられた・・・・・・」
「あなたはその日以来、どれ程の悲しみに出会っても、人前で
泣くのが嫌いじゃなくて、泣けなくなったのよ。独りでいる時
でも、涙が出なくなったのよ・・・・・」
「兵士も、まり子のお父さんもお母さんも、人を愛するがゆえ
の悲劇だった。幼いあなたの悲しみと怒りは、自然の運命に、
むごすぎる摂理に向けるしか仕方がなかた・・・・・・」

 まり子は、あの日以来、初めて涙が止めどもなくあふれ出た。
白ロシアの無垢の涙が止めどもなくあふれ出た。
まり子の嗚咽の声は、悲しいセレナーデの歌声ように、全天に
響きわたった。
まり子の光の涙は、まり子の個の意識と悲しみは、無限の宇宙
と永遠の時間の、全体の意識に融合され共有された。
無限の空間の光球の中の、光のリングも光の気泡のような存在
も、まり子の光の涙をかたどった。

  涙は幸せ
 
  涙の出ない瞳は
  煉獄の悲しみ
  
  むごすぎる悲しみの中では
  涙はでない

  むごすぎる運命の中では
  泣くことすら許されない

  むごすぎる摂理の中では
  無垢の涙すら許されない・・・・


  あたしは神を許さない

  むごい自然の摂理を許さない
  むごい物理法則を許さない

  神さまには意思はない
  心もない
  あるのは物理法則だけ

  ひとには
  完全な自由意思がない
  ひとは罪もないのに
  悲しい運命に翻弄される
  心をふみにじられる
  自由な心さえも
  許されていないように感じる

  でもひとは
  心に痛みを感じる
  もちろん
  心地良さも

  物事が存在できるのは
  自然界が
  人間社会が
  物理法則が不平等だから
  幸せも不幸せも存在する

  全てが平等なら
  熱力学的平衡宇宙になる
  生命も物事も
  幸せも不幸せも存在できない
  何も存在できない

  世界中一年間で
  数百万人以上が
  不遇死や
  自殺に追い込まれている
  酷すぎる

  あたしは神を永遠に許さない

  むごい自然の摂理を永遠に許さない
  むごい物理法則を永遠に許さない

  そんなむごい神なら
  あたしは死んでも堕天使でいい
  永遠に堕天使でいい
  永遠に堕天使として神に反逆する

  時間がかかるかも知れない
  でも未来は明るくできる

  人間の心が
  神さまなのだから・・・・・・





   宇宙開闢


「あたしは、ニガヨモギの星の子なのね、両親を死なせた罪深
い子だったのね・・・・・・」
「あの日、あたしが母に、お父さんを捜しに行こうって、言わ
なければよかったのよ」
まり子は顔をくしゃくしゃにして、肩を落とし、見上げるよう
にブルーを見つめた。

 ブルーは慈しむようにまり子を見つめかえした。
「ブルー、あたし、何度も泣いていたわよ」
「涙が出てきて、しかたがなかった夜もあったのよ」
「あなたは、自分でそんなふうに思いこんでいただけよ、意識
のなかで」
ブルーは優しくさとすように言った。
「あなたは涙を出して泣きたかったのよ」
「でも、涙を流すことで、自分の罪を償い、自分を癒そうとす
ることは、さらに罪深いことだって思いこんでいたの」
「あなたの心の黒い森の中は、空白の少女時代から、ずっと、
どしゃ降りの雨を降らしていたのよ」
「それも毎晩、バスタブでね」
ブルーは、まり子の出口のない黒い森に、優しい陽差しを注ご
うとした。
「うっ」
まり子はゆで卵を、丸ごとのみ込んだ感じになった。
「ってことは・・・・・・バスルームの・・・・・・」
「カエルみたいなヒッピアップ体操の場面も・・・・・・」
「ごめんね!」
「プライバシーは尊重して、見て見ないふりをしてたわよう」
「うふっ」
 ブルーは小首をかしげてにっこり。
「ふ、ふりって!」
「じゃあ、見ていたんじゃなあい!」
「ウフ」(OUF、仏語でやれやれの意味)
「トゥ ララー ♪ 
          ル ラ ラー ♪」
「あたしの大好きなトゥーランドットで、はぐらかさないでっ、
ナイスバディーを維持するのって、涙ぐましい努力が必要なの
よ!」

「ところでブルー、あたしがこうなったのは青い媚薬がきっか
けだったんでしょう・・・・・・クリスマスの夜に、ブルーがあたし
にプレゼントしてくれた二つの媚薬、あの液体は本当は何だっ
たの・・・・・・青いポワゾンには、手を出さないでって、ブルーが
警告したでしょう」
「青い媚薬は堕天使の涙、赤い媚薬は大天使の涙と云い伝えら
れていてね。青い媚薬は時間のひずみに誘惑するポワゾンなの」
と、ブルー。
「それじゃ赤い媚薬は何なの・・・・・・」
まり子は小首をかしげて訊ねた。
「赤い媚薬は希望という涙」
「いつも赤と青はペアでなければ存在できないの・・・・・・粒子と
反粒子のようなもの」
「それじゃ、赤い媚薬を使えば、あたしの願い事は叶えられる
の・・・・・・」
まり子は目をらんらんと輝かせて訊いた。
「そうよ!」にこっとブルー。
「ただし三度だったけれどもね、あと、一度だけになったわね」
「どうして」
「あなたは、すでに二度、願い事をしてしまったの。初めの一
度目の願い事は、セーシェルの月の小舟の詩集を見つける事、
二度目は横浜のお墓で、時間のひずみから抜け出したいと願っ
た事。あなたの、セーシェルの月の小舟の詩集があったから、
あなたにわたしのメッセージを伝えることができたのよ。横浜
の倫子さんの、コスモスの丘にある三日月型のお墓まで導くこ
とができたのよ・・・・・・」
「NorikoのoとMarikoのaを組み合わせると、@マーク、二
重リングができるでしょう。あそこに、あなたの意識パルスを
増幅させる青い粒子を埋め込んでおいたのよ。それで、あなた
の意識を時間のひずみから救い出すことができたの」
ブルーの優しさが愛らしく感じられたまり子であった。
「それじゃ、あたしの肉体は・・・・・・」と、まり子。
「物理的な問題はどうにもなるわ」
ブルーの優しさの中に凛とした言葉がしのばれた。
「人の身体は意識を入れる器なのよ。せっかく、星の旅人にな
れたのだから、もっとこの次元を楽しめばいいのよ。わたした
ちは、もうスペース・プレーヤーなのよ。意識には完全で絶対
の自由があるの、質量粒子や波動に束縛されない限りね。でも、
束縛されないと、自分の存在感が消えちゃうのよ。だから・・・・
自分で自分を束縛するルールを創ってね」
「大丈夫、意識同士の連携プレーよ。助け合って進化し続ける
の。新しいイメージができたら共有しあうのよ。そうしなけれ
ば宇宙は創造できないし、進化も停滞してしまう・・・・・」
「大丈夫、みんな優しいわよ」

「さあ、暗黒の空間を、希望の暖かい光に満ちた宇宙に創りか
えるのよ、レッツゴー」
「もう、ブルーたら、一人で熱くならないで」
「ウフ」と、ブルー。

 まり子たちのブルー・スターダストは、膨脹しきった宇宙ボ
イドの透明な光の表面に浮かんでいた。
ちょうど、一円玉がコップの水の表面張力で浮かぶように。そ
してブルー・スターダストのまわりでは、涙をかたどったよう
な透明な光の雫が、宇宙ボイドの光の海面に落ち、波紋がひろ
がりはじめていた。
宇宙ボイドは、真空分離を完了させ、真空相転移と宇宙開闢の
時をむかえていた。
砂時計を逆さまにしたように、透明な光の砂粒が反時計まわり
に渦巻きはじめた。
負のエネルギーホールの静かな透明の光・重力子素子と、外界
の電子素子と陽電子素子を巻きこみながら・・・・・・。
その反時計まわりに渦巻く、うねる細長い筒型の中心は、絶対
真空の領域、重力子のストリング・ホールに変換された。
まり子たちのブルー・スターダストは、そのストリング・ホー
ルにのみ込まれ、暗黒の膨脹しきった宇宙ボイドの中心にむか
って落ち込んでいった。







  











  

   存在しない一日
 

 病室のサイドテーブルの上には、限りなく透明に近い青色の
ガラス玉が、冬の日溜まりの中で輝いていた。

「まり子さん、おはよう!」
ナースの和代がまり子の介護を買って出たのだった。
「今日もだめかしら、意識は戻らないのかなあ」
和代は、まり子の透きとおるような頬を見つめて言った。
「和代さん、おはよう」まり子の主治医が扉を開けるのと同時
に和代に声をかけた。
「お・は・よ・・・・・・」
「まり子さん、まり子さん・・・・・・良かった、意識がもどったの
ね。いっとき心拍停止状態だったのよ」
「あたし、いつからここに・・・・・・」まり子はかすれた小声で訪
ねた。
「数日前よ」和代は優しく微笑んで言った。
「和代さん、いま、何年」
「え、忘れちゃったの。一時的な記憶喪失かな・・・・・・」
「2007年、今日は2月29日よ」
「ああ、そうそう、お見舞いに来られた女性がいたのよ。良か
ったわね。お見舞いに来てくれる人ができて・・・・・・まり子さん
にとっては初めてね。わたしも嬉しかったわ。せっかく、お見
舞いに来たのに、まり子さんは集中治療室にいたから面会でき
なかったの。それで、お見舞いの包みを置いて帰られたのよ。
預かっているわ。お見舞いに来られた人、可愛らしい女性だっ
たわよ。まり子さんに凄くよく似ていてね、びっくりしたわよ。
髪と瞳の色が違うぐらいかな。ええと、たしか、名前は・・・・・・
あっ、そうそう、ノリコって言っていたわ」

 和代がまり子に手渡したお見舞いの包みは「セーシェルの月
の小舟」の詩集と、真紅の液体が入った小瓶であった。
まり子は主治医に精密検査された後、病室にもどりベッドに入
ると、サイドテーブルに置かれている詩集を手にとった。
まり子は詩集を丁寧に1ページずつめくり、後半のページをひ
らき、私小説SF「ブルー・スターダスト」を見つけた。
巻末にブルーのメッセージも刻まれていた。


 三度目の願い事
 

 地上に存在しない1日をプレゼント

 2007年2月29日は
 カレンダーに存在しない1日
 2月28日と3月1日のはざまの1日

 閏年は地球時間のひずみ

 この詩集もまだ存在していない
 わたしも2007年12月24日まで存在しない

 存在しない今日を存在する未来のために・・・・・・
 

 ブルー



 備考:三度まで可能な働きをもつシステムとは:

 ( 0.1s × dπ3 × 1/f ゆらぎ・Tec )
 = 0.1秒 × 次元円周率3 × 1/f ゆらぎ のテクノロジー
 (Mの幾何学数理3の位相幾何学を参照)





   アイソスピン時間
 

 まり子と存在しない1日は宇宙ボイドの中心に漂っていた。
 ブルー・スターダストは、負のエネルギーホールの重力子素
子が臨界密度を超える直前で、そのホールから脱出したのだっ
た。
宇宙開闢時の負エネルギーと正エネルギーの相転移、ビックバ
ンの脅威を回避するためであった。

 まり子の意識は、粒子的地平面の果てから、360億光年隔
てた宇宙ボイドの中心の高次元にいた。
それは新しいブルーの次元、360億光年の彼方のブルーの次
元でもあった。
まり子は、ブルーの第二世代として蘇生しようとしていたのだ
った。
ブルーの次元では、他にも外宇宙からあらゆるアイソスピン体
が集合していた。
高次元の意識体は、高次元の知性体でもあった。
生命は、1/ f ゆらぎの粒子体的な肉体を持たなければ、生命体
としては成り立たない。
しかし物理的な存在になることは、意識の自由を束縛し、自然
の摂理を受けいれることでもあった。
意識は、自身の存在感を得るためには、不自由を受け入れるこ
とでもあった。
まり子は、感情や理性をつかさどる想像的な直観の役割を担っ
ていた。それは五感を指揮するための、オーケストラの指揮者
の役割のような存在でもあった。
しかし、まり子に与えられた時間の歪み、タイムウエーブの歪
みは24時間、もうすでに数時間を経過していた。

「まり子さん朝食よ」
ナースの和代が笑みをうかべて病室にもどってきた。
「ねえ、和代さん、あたし、退院できるかしら・・・・・・」
「そうね、先生に訊いてくるわね、少しまっててね」
 まり子はこの先、自分が何をしなければならないか理解はし
ていたが、存在しない今日1日が、これから存在する未来にどの
ように影響するのかは、予想できないでいた・・・・・・。

 おばかさんね
 アイソスピン時間よ・・・・・・。

 (うっ・・・・・・)
 


 閏 年
 
 地球の自転周期はしだいに遅くなっていく傾向にある。

 地球が太陽の周りを1周するのにかかる日数は、
 365日ではなく、平均回帰年365・242199日。

 1年で約0・2422日の誤差なので、
 4年では約0・9688日の誤差がでてしまう。
 この誤差を補正するためには、
 4年に1回だけ閏年の1年を366日にしなければならない。

 それでも原子の放射振動数と地球時間の誤差はうまれる。
 




   キーワード タイムアイソスピン

 
 言葉の余韻がまり子の頭のなかで、意識の中で反響していた。 

その音の余韻は一瞬の出来事であったが、まり子の意識に希望
をあたえるかのようであった。
(存在しない今日を、存在する未来に繋ぐには、どうしたらい
いんだろう・・・・・・)
時間は不可逆反応、熱の無秩序系は修復できないわ・・・・・・時間
のひずみから抜け出すには・・・・・・)
(そうだ!わたしは意識だけ存在しているのね。意識だけは存
在している。わたし自身の意識の記憶、言葉の中にヒントがあ
るはずだわ。わたし自身がアイソスピン・・・・・・)

(アイソスピン時間・・・・・物理的に直接的に観測できない意識)

 存在する未来
 生存
 生存競争
 性欲と闘争本能は同じ脳の部位
 生殖本能
 装飾
 パフォーマンス
 突然変異
 アートの起源
 天才的インスピレーション
 想像力
 直観
 偶然
 共進化

 タイムウエーブ
 ストリング・ホールの次元
 ストリング・ループ
 真空分離
 真空相転移
 重力子素子
 電子素子
 陽電子素子
 電気力線ループ
 磁力線ループ
 ループの超光速回転運動
 光子の粒子性波動と空間の拡張
 四つの力以外に五つ目の力の斥力
 重力
 粒子時間系
 絶対零度系
 絶対真空系
 超伝導系
 絶対時間系

 エネルギー保存の法則と不可逆反応
 重力保存の法則
 エネルギー慣性連鎖体

 スピン時間系
 アイソスピン時間系
 中間の時間系

 時間の歪み
 空間の歪み

 物質宇宙
 エネルギー宇宙
 意識宇宙

 知識や情報や記憶は物理的事象
 意識は非物理的脳内事象
 
 宇宙の事象は三つに大別・・・・・・
・物質系の事象
・エネルギー系の事象
・意識系の事象

 知識や情報や記憶は物理的事象。
 想像・インスピレーションや意識は非物理的脳内事象

 意識は非物理的脳内事象・・・・・・
・五感の認知は非物理的脳内事象
・感情は非物理的脳内事象
・理性は非物理的脳内事象
・直観は非物理的脳内事象

(物理的事象と非物理的事象は相互扶助、共存して存在)
(問題は物事の本質はどこに在るか・・・・・・)

(現象学的に考えると、すべてが曖昧になりそうだが、意識の
イデア存在だけは、脳内事象としての『見られたもの、知られ
たもの、姿、形』は、時空を超越した非物体的・非物理的、絶
対的な永遠の実在。感覚的世界の個物の原型とされ、純粋な理
性的思考によって実在認識できる)
(物事の本質を見極めるためには、想像的な直観力を養うこと
も大切だが、最終的には、客観的な観測情報と哲学的な主観の
論理が、矛盾なく統一されなければならない)

 負エネルギーと負のエネルギーホール
 正エネルギー

 意識イデア
 五感対象の脳内具現化イデア
 感情イデア
 理性イデア
 想像イデア

 粒子性ストリング・ループウエーブ
 知性ループウエーブ
 記憶ループウエーブ
 情報バンクの電子素子の磁力線ストリング・ループ

 1/ f ゆらぎ
 意識の自由な可塑性
 意識の不自由な可塑性

(宇宙を大別すると、物質とエネルギーと意識になる・・・・・・)

(非物理的な意識は、アイソスピンとタイムアイソスピン。物
理的な宇宙は、スピンとタイムスピン。両者は相互扶助して、
共進化しなければ存在できない)
(中間と一番端は・・・・・・)
(重力子はスピンとアイソスピン)
(そして重力は負エネルギー(大)と正エネルギー(小)の2性質の
循環)
(光子はスピンとアイソスピン)
(そして光子は正エネルギー(大)と負エネルギー(小)の2性質の
循環)
(個の生命は物理的な空間を肉体分だけ独占すること。そして
生命のリレー。エネルギー保存の法則と不可逆反応。エネルギー
慣性連鎖反応体)
(意識は、物理的な粒子性波動や情報バンクの電磁力線ストリ
ング・ループと共存)
(宇宙を大別すると、物質とエネルギーと意識の3つになる。
物質をスピンとして考えれば、意識はアイソスピンになるわ)
(イデアは実在するのよ!)
(イデアの意識は完璧で絶対意識になるわ。むしろ、外界は曖
昧な存在になる。物理的宇宙は、数学のようなご都合主義なの
よ。であるならば、タイムアイソスピンで時間のひずみを制御
できるわ・・・・・・)
(タイムアイソスピンは意識自体であり、物理的な空間スピン
ではないわ。時空を具現化する粒子性波動は、反粒子性波動で
制御できる。反粒子性波動は絶対意識と等価よね)
(そうか、分かったわ!)

(乱雑なゆらぎのない絶対イメージを創り出すことだわ。意識
イデアがわたしの望む時空に導いてくれる。過去に時間旅行す
るのではなく、意識の記憶が過去を再構成する)
(そもそも、意識が外界を認知した時点で、進行形の外界は、
認知対象は過去の事象になってしまうわ。いつも意識は五感か
ら認知するまで、約0.1秒かかる。いつも約0.1秒の過去を
認知してる)

(イメージは言葉から生まれる。言葉はイメージから生まれる。
イメージはイデアから生まれる。イデアはイメージから生まれ
る・・・・・・)
(イメージは未来を創り、同時に過去を創る。過去を創ること
により、未来を創る・・・・・・)
(そして、現在を生きることができる)

(わたしは、0.1秒の時間のタイムアイソスピン、ストリング
ホールの中で存在しているようなものね)
(きっと、時間のひずみから脱出できるんだわ。でも、存在し
ない今日1日で何ができるの・・・・・・あたしの意識は時間のひず
みにいる・・・・・・)

(おばかさん、イメージを書き残すのよ)
(うふふ・・・・・)

「ブルー、ブルーなの・・・・・・」

(そうよ!って、言って上げたいけどさ、あんたの嫌いな堕天
使よ。ブルーがいないからさ、出てきたんじゃん・・・・・・)
(あんた、相変わらずお人好しね。ばかみたい。理屈ばかりで
さあ)
(あんたがいなきゃ、あたいも存在できないのさ。ささっと、
セーシェルの月の小舟の詩集とブルー・スターダストを適当に
書き上げてさあ、自分で手作り本を残せばいいじゃん)
(だーれも、あんたの私小説だかSFだか、うじうじとつまら
ない書き物なんてさあ、読むお人好しはいないわよ)

「なによー、 ええっ、そうですとも!」
「でもね、宇宙が存在する以上、不必要なものは存在しないの
よ!」

 2007年の2月29日は黄昏れようとしていた。

 暗黒の時間のひずみに、のみ込まれる時間が迫っていた。
ビッグバンのインフレーション膨脹により、光と灼熱の空間は、
らせん状に渦巻き、負エネルギーの反暗黒物質に相転移をはじ
めていた。











 


















 マリコ・・・・・・ストリング・ホールを修復して・・・・・・・・
 

  宇宙には・・・・・・・・・・・・・・・・
   不完全な可塑性があるのよ

     物理的には完全の存在・・・・・
      物理的には絶対の存在・・・・・・
       無限の宇宙と永遠の時間の存在

         でも 未完成なのよ・・・・・・・・・・・・




 未完成だからこそ ブルー・スターダストは 
 その中に小さな小さな 小さな希望を残すことができた・・・

 銀河系を創り終える最後に
 希望という星を・・・・・・・・・・・・・ 
              
 真っ暗な空間に 青く光り輝く星
 夜には 人工の明かりで光り輝く星
 涙をはぐくみ その意味を理解できる星
 
 こんな星って あなたたちの星以外に宇宙にはなかったのよ
 今はもう過去の存在 太陽系第三惑星・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  

  希望という存在   
   宇宙のDNA
    宇宙のメモリーバンク
     それは 人類の意識  
      五感とイデアと心の存在
       それは 反粒子意識体・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  

 
 人類の 意識 記憶 存在したエネルギーは 進化し続ける
  
 エネルギー保存の法則は 不可逆反応保存の法則でもあるの
 意識とエネルギー保存の法則は 等価原理なのよ・・・・・・

 あなたたちの銀河が消滅しても・・・・・・・・・・・・・・・・・
 あなたたちの生きた証しは 永遠に存在する
 進化し続けて 永遠に存在するのよ


 反粒子意識体には 大脳機能のように 自由な加塑性がある
  
  時間と位置は問題ではない 
    何を意識して何を求めるかで
      新しいあなたと新しい宇宙が生成される・・・・・・・      

   



   Cygnus X-1 & Blue Star


 人類が最初に発見した不思議なブラックホール。
そして、地球に一番近いブラックホール ( 3000光年の距離)は、
マリアコが愛した三つ星と青い星を有する白鳥座にある。

 なぜ不思議なブラックホールか・・・・・・。
普通のブラックホールと違うところは、CYGNUS X-1 方向か
ら放射されるX線は、規則的で特徴的な構造がある。

 そして・・・・・・。
白鳥座 X1番星のX線源と同じ位置には、太陽の約30倍の質量
の大きな青い星がある。
今も、この地球のように光り輝く青い星は、見えない天体 (太陽
の10倍の質量・ブラックホール)に吸収されている。



   X-1 ( Cygnus X-1) & Blue Star Signal

Time Variation of the X-rays from Cygnus X-1
Hard X-ray Time Lag 0.1・3・10 seconds
CYGNUS X-1 方向からの硬いX線の時間変動・遅れ 0.1・3・
10 秒



    Mary co de M Timetable

7/22 2009 
Mの誕生日 黒い月

7/22 2009
29。31' 60" N 129。31' 60" E AM 10 : 56 : 13 ~ 16
最大皆既日食

7/22 ~ 12/24 2009
千年紀進化シフト ハイパー・パラダイムシフト 事象周期化

7/22 2008 
旅立ちの準備

2/29 2008
閏年 

12/24 2007 
満月の夜

2/29 2007
実在模擬現実の閏年=意識内実在現実+模擬現実

  

                                            

つづく