Blue Stardust ( I-novel SF )・・・8 | mcode

mcode

人文のジャンル:アート・科学・哲学・文学・音楽
















    星の贈り物 ブルー スター ダスト



































   満月のクリスマスイブの夜







 



 あの偶然の出会いは必然の奇跡だった。 







 流れ星が夜空を埋め尽くした日の夢だった。



冬の寒い夜空に、あれ程のたくさんの流れ星を見たのは何年前



だったろうか。







 そして、あの流星群の夜の夢が現実に・・・・・・。



 



 雨から解放された午後だった。



雨上がりの薄く平らに拡がる雲に小さな窓ができ、陽の光がこ



ぼれてきた。



道端には、ところどころに水たまりができている。



その水たまりのひとつが、ひときわ青く、水面に雨上がりの空



を映していた。その水たまりに近付くと、不思議なことに空が



水底に沈み、光り輝き、その中央では丸いかたちを成すものが、



ウルトラマリンブルー色の光を水中ににじみ出すように広げ放



っていた。



その美しさに息を飲んだ。



しばらく、ボーっと魅入り、無意識のうちにその水たまりに手



を差しのべた。



手を水底に差し入れ、丸いかたちをしたものを取り出した。



それは、その球体は、ビー玉だった。



手の中で球面の水がみるみる消え失せると、その球面にはおび



ただしいキズが現れた。



(あっ、キズだらけのビー玉・・・・・・)



にぎりしめた手の中で、ビー玉のガラスの硬さと、冷えきった



感触が伝わってきた。



そのビー玉を空にかざして見ると、ウルトラマリンブルー色に



光り輝き、キズだらけでも綺麗だった。



水の中で、キズを隠して光り輝くビー玉よりも、手の中のキズ



だらけのビー玉の方がわたしは好きになった。



このビー玉が、川に流され、海に流され、球面いっぱいにキズ



ができたとしても、そうなったら、色付きの消しガラスのよう



に美しくなる。



ウルトラマリンブルー色に光り輝くビー玉は、わたしの本棚の



片隅の宝物になった。







 あの流星群の夜からもう何年経っただろうか・・・・・・。



数年が数十年にも感じるような長い歳月が経った。



 



 あれは去年の満月の夜の出来事だった。



静かな夜の優しい月明かりの中で、わたしは寝付けないでいた。



それで、ワインを取りにキッチンに行く途中の出来事だった。



窓辺から月の光が差し込み、本棚のビー玉が、きらっと光る気



がした。



ビー玉はウルトラマリンブルー色に光り輝いて、本棚の棚板に



青い星が輝くように光の焦点を描いていた。



(きれい!・・・・・・)



しばらく神秘的な光りの美しさに見とれていた。



どれほど時間が経っただろうか、見とれた後、手に取って満月



にかざして見た。



つぎの一瞬、月の光で輝くビー玉の球面に文字が浮かびあがっ



たように見えた。



(え、文字・・・・・・)



何度も何度も少しずつ角度を変えてゆくうちに、球面に付いた



傷が文字に見えてくるような気がした。



そして、ついに、今までビー玉に付いていた数ミリの傷のひと



つは、傷ではなく、確かに文字が刻まれていたことが分かった。



刻まれた文字は、鏡で見るように、文字の裏表が逆になってい



たためと小さ過ぎたことで、今まで気がつかないでいた。



傷にしか見えなかった。



ビー玉に刻まれた文字を反対側から見ると、レンズのように文



字が大きく見えた。



裏返しの文字が正常の文字の形に見えた。



そこには判別ができないメッセージが刻まれていた。



そして、アドレスも刻まれていた。



ほとんどの文字は傷つき脱落して判別がつかなかった。



翌日、もう一度太陽の陽差しにかざして読んで見た。



アドレスを紙に書き、判別の付かない文字もあった。



欠落し判別できない文字は想像して埋めた。



そして勇気を出してメールを送ることにした。



何度試しても送ったメールはエラー返信が戻るだけだった。



考えてみたら、なんだか、そんなに夢中になるのも変な話だ。



どんな相手なのかもしらない。ロマンチックに考えすぎていた



のかもしれないと思いはじめていた。



(わたし、何しているんだろう・・・・・・)



あきらめた。そして忘れようとした。







 クリスマスイブの病院、独りの夜は淋しい。



病院の同じ敷地内にある教会の帰りに、病院には知らせずに自



宅に戻り、無断外泊した。



そして、冬の街路樹の合間から明るく輝く満月を見て、ふと気



付いた。



ウルトラマリンブルー色のビー玉。夢の奇跡を。



今夜は、あの日と同じように満月の夜。



しかも、満月のクリスマスイブの夜だった。



忘れ去られようとしたウルトラマリンブルー色のビー玉。



ビー玉は満月の月明かりをあびて、本棚の片隅で、暗く冷たい



部屋の大気を揺り動かそうとでもするように、空間を刻み、時



を刻むために、光り輝きはじめていた。











「ごめんね、おまえも淋しかったんだ」



満月が明るく、きれいなので、あの夜と同じことをした。



ビー玉を満月にかざして見た。



ビー玉をもう一度、満月にかざして見つけた。



傷おびたメッセージは、もう一つ、別の球面にも刻まれていた。











 星の贈り物



 



 ウルトラマリンブルー色の



 



 スターダストをあなたに































  メッセージ











 翌日まり子は、もう一度ブルー・スターダストを太陽の明る



い光にかざして見た。



傷だけで何も見けられなかった。文字はあとかたもなく消えて



いた。ただの傷だった。







 ブルー・スターダストは、月の光の波長だけに反応すること



に、まり子は気がついていなかった。



ブルー・スターダストは、人工的な光でも太陽の光でも文字は



見つけることはできない。



まり子は、あれはクリスマスイブの自分の淋しさをまぎらわす



ための夢か、勝手に思い込んだのかも知れないと思った。



(夢だったのかなあ・・・・・・)



まり子はあきらめて、しばらくは科学論文と芸術論の執筆に専



念することにした。







 そして、また満月の夜を迎えた。



まり子はもう一度ブルー・スターダストを月の光にかざして見



た。



ついに、またメッセージを見つけた。



その球面に刻まれたメッセージは、以前のメッセージとは少し



違っていた。



まり子は、別の球面を見ているのだろうと勘違いした。



そこに刻まれている文字は、傷もなく、なめらかな美しい形状



をしていた。







 ブルー・スターダストにようこそ!







「そうか、あなたは、月の光にしか反応しないのね」



(それならレンズで、月の光を集めて当てればいいんだわ・・・)



レンズを引き出しの小物入れから取り出して、月の光を当てな



がらメッセージを探した。



そして、また@マークを見つけた。



でもアットマークはアットマークではなかった。



二重の円だった。



中心に小さな透明な点が見えた。



レンズで集められた月の光の焦点は、二重の円の透明な点に当



たると、球体の中心に吸い込まれ、ひとすじの光のラインにな



った。球体の中心にある小さな気泡に到達した瞬間、その小さ



な気泡はパッと光った。



しばらくレンズで月の光を当てていると、気泡が光り輝き、そ



のブルー色の光は、シャボン玉のように、ブルー・スターダス



トのガラスの外側に向かって光の球体として膨らみはじめた。



ガラスの球体はまり子の手の中で本物の小さなブルー・スター



ダスト、小さな青い星に見えた。



まり子の暗い部屋はブルー色の光にかわった。



白い壁も天井も床もブルー色の光に満ちあふれ、シャボン玉の



ような光の球体は、徐々に宙に浮かび、渦巻くように優しく回



転をはじめた。