今日覚えた使えるイタリア語
朗読の響きが心地よいイタリア古典文学。白崎容子先生の「原文で読む古典の楽しみ」。ダンテ『神曲』、ペトラルカ『俗語断片詩集』、ボッカッチョ『デカメロン』に引き続き、ロレンツォ・デ・メディチ『謝肉祭歌集』 を書き起こしました
原文で読む古典の楽しみ
黎明期からルネサンス時代のイタリア文学
Quattro passi nella letteratura classica italiana
イタリア古典文学作家6人の作品を通して、現代とは異なる黎明期からルネサンス期のイタリア語の響きを楽しみ、魅力に触れ、気に入った一篇を口ずさめるようになるのが、この講座の目的の1つ。
La letteratura italiana delle origini e del Rinascimento
黎明期からルネサンス時代のイタリアの古典文学
白崎容子先生のセリフ
Marcoさん(斜体字)のセリフ
(スクリプトがなく答え合わせもできないのですが、学習の記録としてディクテーションに挑戦したものをそのまま載せています。途中の猫まーく()は私の感想などです)
11月24日放送分
Lezione 14 Lorenzo de' Medici ②
«Canti carnascialeschi» "Canzona di Bacco"
ロレンツォ・デ・メディチ 『謝肉祭歌集』 「バッコスの歌」(2)
今日は ロレンツォ・デ・メディチ Lorenzo de' Medici の2回目です。
Oggi continuiamo a leggere la ”Canzona di Bacco”. Vi ricordate? Cominciava così.
Quant'è bella giovinezza
はい。 Quant'è bella giovinezza で始まる「バッコスの歌」。賑やかなカーニバルのパレードを謳った詩の、今日は8行詩節、3番目と4番目です。
ではまず前半から、イタリア語と和訳を聞いてみましょう。
Questi lieti satiretti,
delle ninfe innamorati,
per caverne e per boschetti
han lor posto cento agguati;
or da Bacco riscaldati,
ballon, salton tuttavia.
Chi vuol esser lieto, sia,
di doman non c'è certezza.
前回と同じ最後のフレーズのリフレインが楽しいリズムを作っていますね。
次は誰が登場するのか、一緒に見ていきましょう。
1行目は?
Questi lieti satiretti,
delle ninfe innamorati,
ニンフたちに恋するこちらの陽気なサテュロスたちは
satiretto は satiro ギリシャ神話の「サテュロス」。山羊の足をして、頭に角があるほかは人間の姿をしています。 satiretto と小ささを表す -etto (縮小辞)がついていますね。小柄で、きっとかわゆい感じなんでしょう。バッコスの従者で、お酒と若い女性が大好きな野山の精です。
innamorati delle ninfe となるべきところを、 delle ninfe が前に出ていますね。
このサテュロスたちが?
per caverne e per boschetti
han lor posto cento agguati;
洞穴と茂みのいたるところで待ち伏せて
彼女たちにたくさんの襲撃をかける
つまり大勢で襲いかかる。
porre agguato a ~ 待ち伏せて襲いかかる
次も、このサテュロスたちについて…
or da Bacco riscaldati,
ballon, salton tuttavia.
今ではバッコスに温められて
ずっと踊って跳ね回っている
da Bacco Baccoはお酒の神様「バッコス」ですね。それに温められてということは「酔いが回って」。
ballon は ballano 「踊る」
salton は saltano 「跳びはねる」
-are 動詞なのに、-ere 動詞か -ire 動詞みたいですね。活用形もこの時代はかなり自由です。
ここまで6行がひと続きの文でした。
主語 satiretti の動詞は、まず4行目の han posto つまり han[no] posto、それと今の ballon と salton です。
最後は tuttavia、sempre の意味で「休むことなく」。
これがきたら、あとはお馴染みのリフレインです。
Chi vuol esser lieto, sia,
di doman non c'è certezza.
愉快でいたい人は楽しむがよい
明日に確かなものはないから
では、後半です。イタリア語と和訳を聞きましょう。
Queste ninfe anche hanno caro
da lor essere ingannate:
non può fare a Amor riparo,
se non gente rozze e ingrate;
ora insieme mescolate
suonon, canton tuttavia.
Chi vuol esser lieto, sia,
di doman non c'è certezza.
では一緒に見ていきましょう。
1行目は?
Queste ninfe anche hanno caro
da lor essere ingannate:
こちらのニンフたちもまた
彼らに騙されるのを歓迎している
avere caro~ 「~を歓迎する」。何を歓迎するかというと、 essere ingannate da loro 「サテュロスたちにだまし討にされること」を。
そして?
non può fare a Amor riparo,
se non gente rozze e ingrate;
粗野で鈍感な人でなければ
アモールを避けることはできない
fare riparo a ~ 「~から身を守る、~を避ける」。 riparo が目的語の後に来て語順が変わっていますね。
non può の主語は「粗野でも鈍感でもない人」ということになりますね。
そして、次の2行の主語は、1行目の Queste ninfe、このニンフたちが?
ora insieme mescolate
suonon, canton tuttavia.
今ではサテュロスたちと一緒に混ざりあって
休みなく楽器を奏で歌っている
動詞 suonon は suonano、 canton は cantano。サテュロスとニンフたちのわいわい騒ぐ声が聞こえてきそうですね。
そして、tuttavia は sempre、「休むことなく、立て続けに」。
Chi vuol esser lieto, sia,
di doman non c'è certezza.
最後はリフレインの2行でした。
では、前半と後半のイタリア語の朗読を通して聞きましょう。
描写が生き生きしていますね。
Sì, Lorenzo rende benissimo questo senso di gioia e di godimento dei piaceri terreni. Sembra anche a noi di essere lì a ballare con loro.
そうですね。この世の今を楽しもうという精神そのものがなんだか踊ったり跳ねたりしてるみたいで臨場感がありますよね。
今日はリフレインとして繰り返される2行を一緒に発音しましょう。
愉快でいたければ楽しむがよい
明日のことなどわからないから
2回続けてどうぞ。
Chi vuol esser lieto, sia,
di doman non c'è certezza.
いかがでしたか?
形容詞 lieto は冒頭のサテュロスの描写にも使われていましたね。
なんでこんなに今、今日を楽しむのか、それは明日が信じられないから。これはヨーロッパに古代からある考え方ですよね。
Sì, certo. La filosofia del "Carpe diem."
「カルペ ディエム」
Carpe diem, quam minimum credula postero.
「今日のその日を摘め」
「カルペ」 Carpe は花などを摘むという意味の動詞です。
「明日を信じるな」「今日のうちに楽しんでおこう」古代ローマの詩人ホラティウスの言葉です。
この詩のエッセンスは、リフレインのこの2行に凝縮していますね。前回のフレーズと合わせると、詩の冒頭の4行になります。
Quant'è bella giovinezza
che si fugge tuttavia.
Chi vuol esser lieto, sia,
di doman non c'è certezza.
できればこの4行をまとめて暗唱できるようになるといいですよね。
ところでマルコさん、日本の歌で「いのち短し、恋せよ、乙女」ってありますよね。黒澤明の『生きる』っていう映画にも出てきますけど。
Sì, è vero. Che bel film. La scena dell'altalena quando lui canta la canzone meravigliosa.
マルコさん、日本の映画にも詳しいですね。主人公がブランコに乗って「いのち短し」って歌うんですよね。この歌、もとはと言うと、大正時代に東京で上演されたロシアの作家ツルゲーネフの芝居『その前夜』の中で、ヴェネツィアにいるヒロインが口ずさむんですよね。「ゴンドラの唄」というこの日本の歌と、ロレンツォの「バッコスの歌」の歌詞が似ているってよく言われます。
それに、作詞した吉井勇が、この歌詞の脇に「この一節を、イタリアの俗謡の調べによってうたふ」っていうメモをつけてるんです。
Chissà se conosceva questa poesia di Lorenzo.
ほんと、もし吉井勇がロレンツォのこの詩を知っていたとしたら、すごく楽しいなぁって私も思ったんですけれどね。この歌詞を思いついたのは、残念ながらロレンツォからではなくて、アンデルセンの『即興詩人』の森鴎外の翻訳からなんだそうです。
Andersen però certamente conosceva questa poesia. Lì aveva anche soggiornato in Italia e anche a Firenze.
そうですね。アンデルセンはイタリア滞在も長いし、絶対知っていたはずですよね。『即興詩人』の中にフィレンツェのカーニバルのバッコスとアリアドネの描写もありますしね。
2つの詩の最後の1行を比べてみると、ロレンツォは?
di doman non c'è certezza
「ゴンドラの唄」は
明日の月日はないものを
同じです。
でも、「ゴンドラの唄」は若い女性への恋のすすめ、ロレンツォは歌って踊ってとにかく楽しもう、それに次回読むところでは、若者だけでなく老人も今を楽しめっていうので、内実が同じとはちょっと言えないんですけれどもね。
ともかくロレンツォの出だしの4行を「ゴンドラの唄」と合わせて口ずさむと、なかなか心地よいものがありますよ。みなさんもぜひお試しくださいね。
今日のトピック
さて、今日のトピックは?
Opere letterarie di Lorenzo
ロレンツォの著作
詩をはじめとする彼の著作は膨大です。ペトラルカと同じ«Canzoniere»というタイトルの詩集もあるんですが…
Le sue non sono però solo poesie d'amore.
ジャンルは恋愛詩にとどまらず幅広いんです。たとえば、狩猟の楽しみ、牧歌風の田園詩、古代の神話、宗教的な題材、風俗の風刺など。ちなみに、「バッコスの歌」が収められた『謝肉祭歌集』には、他にどんな詩が入っているかというと、たとえば…
Ha composto per esempio una "Canzona de' fornai".
若いパン職人たちがこんなパンを焼きますよと呼びかける「パン屋の歌」
Una "Canzona de' forese”
フィレンツェのカーニバルに来て夫とはぐれてしまった農家の妻たちの歌。
こうした詩に庶民の姿を生き生きと描き出しています。
事実上の君主でありながら、街中の市民に寄り添うロレンツォの姿勢は、こうした詩の中にも読み取ることができますね。
Fra le sue opere interessanti anche "Simposio" dove appare anche il nome del pittore Botticelli.
そう、Simposio 「シンポジウム」という詩集は、タイトルそのものが真面目な論集をもじったパロディなんですけれど、その中に、画家のボッティチェッリらしき人物の、あまり上品でない姿が描かれていたりします。ボッティチェッリって食いしん坊だったんですかね。
Non so se Botticelli fosse davvero un ghiottone, ma in quest'opera molto ironica. Lorenzo ci dice che faceva parte di un gruppo di fiorentini "beoni" cioè "ubriaconi", e che era anche un mangione.
大食いだったかどうかはわからないけれど、ロレンツォの皮肉っぽいこの詩によれば、フィレンツェの飲ん兵衛仲間「ベオ―二」っていうそうですけれども、「ベオー二」との付き合いはあったようですね。
そして、ロレンツォは詩の他にも…
Ha scritto anche novelle.
若いころにはボッカッチョのような物語も書いています。言葉はフィレンツェの俗語でした。ロレンツォはダンテ、ペトラルカ、ボッカッチョを子供のころから読んでいましたから、彼らが築き上げた俗語文学の伝統を受け継いで、そこに新しい思想を重ね合わせながら、ときには模倣したりパロディー化もして、バラエティー豊かな作品を生み出していったのですね。
中にはロレンツォの文学活動を君主の気晴らし、単なる趣味とみなす人もいるようですけれど…
La sua opera letteraria non è secondaria. Lorenzo è stato, lo sappiamo, un grande statista, probabilmente il più grande signore del rinascimento, ma anche un apassionato uomo di cultura, un letterato, un umanista.
そうですよね。政治的に責任ある立場にあって、ルネサンスを代表する存在だったけれど、文学者、人文学者としても一流です。しかも43歳で亡くなったことを考えたら、本気で取り組んでいなければ、これだけの作品はとても書けなかったでしょうね。
Sì, appunto.
では、バッコスの歌の今日の部分をもう一度聞きながらお別れしましょう。
Alla prossima puntata.
白崎容子先生とMarcoさんのセリフ(斜体)は例によりディクテーションしました (スクリプトがなく答え合わせもできないのですが、学習の記録としてディクテーションに挑戦したものをそのまま載せています)。
まいにちイタリア語2017年11月号応用編より
原文で読む古典の楽しみ
黎明期からルネサンス時代のイタリア文学
Quattro passi nella letteratura classica italiana
Lezione14 Lorenzo de' Medici②
今日の部分は 0:27 から 0:54 です
Dante Alighieri①はこちら
Dante Alighieri②はこちら
Dante Alighieri③はこちら
Dante Alighieri④はこちら
Francesco Petrarca①はこちら
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Giovanni Boccaccio②はこちら
Giovanni Boccaccio③はこちら
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Lorenzo de' Medici①はこちら
2018年1月から始まった応用編は、待ちに待った朝岡直芽さんの24chiacchierateです。お聞き逃しなく!テキスト購入もお忘れなく~。
興味のある方はぜひNHKゴガクでストリーミング
で聞いてくださいね♪
「原文で読む古典の楽しみ」2017年10月~12月号も、
白崎容子先生による和訳や、語句の詳細な説明、
こぼれ話、パラフレーズ(現代イタリア語への原文の置き換え)、
さらには略年表や関連図書の記載もあるので、
放送を聴き逃した方もテキストだけでも、ぜひお手元に!
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