今日覚えた使えるイタリア語
朗読の響きが心地よいイタリア古典文学。白崎容子先生の「原文で読む古典の楽しみ」。ダンテ『神曲』に引き続き、ペトラルカ『俗語断片詩集』をディクテーションしました
原文で読む古典の楽しみ
黎明期からルネサンス時代のイタリア文学
Quattro passi nella letteratura classica italiana
イタリア古典文学作家6人の作品を通して、現代とは異なる黎明期からルネサンス期のイタリア語の響きを楽しみ、魅力に触れ、気に入った一篇を口ずさめるようになるのが、この講座の目的の1つ。
La letteratura italiana delle origini e del Rinascimento
黎明期からルネッサンス時代のイタリアの古典文学
白崎容子先生のセリフ
Marcoさん(斜体字)のセリフ
(スクリプトがなく答え合わせもできないのですが、学習の記録としてディクテーションに挑戦したものをそのまま載せています。途中の猫まーく()は私の感想などです)
10月26日放送分
Lezione 7 Francesco Petrarca③
«Canzoniere» Sonetto 310
フランチェスコ・ペトラルカ『俗語断片詩集』ソネット 310
今日はペトラルカの3回目ですね。
Abbiamo già letto due poesie dedicate a Laura.
第5課
では年を重ねたラウラへの変わらぬ愛を歌ったソネット、第6課
では川のほとりのラウラの優美な姿を描いたカンツォーネを読んできました。
今日もテーマは「ラウラ」。詩集「カンツォニエーレ」から310番のソネットを読んでみましょう。
春の訪れとともに自然が息を吹き返す中、詩人はひとり悲しみに沈みます。1352年頃の作品ですが…
Laura è morta nel 1348.
ラウラはこの詩が書かれる4年ほど前、1348年にペストで亡くなっているんですよね。
では、さっそく聞いてみましょう。
Zephiro torna, e 'l bel tempo rimena,
e i fiori et l'erbe, sua dolce famiglia,
et garrir Progne et pianger Philomena,
et primavera candida et vermiglia.
(以下略)
幕開けはギリシャ、ローマ神話ゆかりの名前が連なって賑やかでカラフルな世界。そして最後は暗い。これまでの詩もこのパターンが多かったですよね。
では、一緒に見ていきましょう。
最初の4行、まずは前半です。
Zephiro torna, e 'l bel tempo rimena,
e i fiori et l'erbe, sua dolce famiglia,
ゼフィロスが心地よい気候と彼のいとしい家族である花や草たちを連れて戻ってくる
Zephiro 「ゼフィロス」は西風、春のシンボルです。
動詞 rimenare 「連れて返ってくる」の目的語が il bel tempo 「よい気候」と、 i fiori e l'erbe 「草花」。草花は sua dolce famiglia、「彼のいとしい家族」と同格です。
今回も早速 dolce が出てきました。ここでは、「愛しい、愛すべき」といった意味ですね。
西風が連れてくるものは、まだあります。
et garrir Progne et pianger Philomena,
et primavera candida et vermiglia.
そしてプローニェのさえずりとフィロメーナのあげる鳴き声、真っ白で真っ赤な春。
これも1行目の動詞 rimena の目的語です。
Progne と Philomena は古代ローマの詩人。オウィディウスの『変身物語』に登場する姉妹で、日本ではプロクネ、ピロメーラと言うようです。プロクネはツバメに、ピロメーラはナイチンゲールに、それぞれ変身しました。
garrir は鳥がさえずること。次の pianger 鳴き声をあげること。どちらも不定詞の名詞的用法です。
その後にもう1つ、ゼフィロスが連れてきたものとして、「真っ白で真っ赤な春」。明るい春の日差しと、咲き誇る花々のイメージを白と赤という色でシンプルに表現してるんですね。
3行目から4行目にかけて、名詞が連続します。静止したイメージで、なんだか1枚の絵を見ているみたいですね。
次の4行詩節、前半です。
Ridono i prati, e 'l ciel si rasserena;
Giove s'allegra sua figlia;
野辺は笑い、空は晴れわたる
ユピテルは自分の娘にじっとみとれて喜んでいる
Giove ユピテルは「木星」。その娘とは「金星」 Venere、 春と愛の女神、ヴィーナスでもあります。
日が長くなる春、太陽が沈んだあと、木星と金星が接近して輝く夕空。黄昏の薄明かりがまだ残る中に、野の花が咲き誇る。そんな情景が目に浮かびますね。
それに、ユピテルが自分の娘にうっとり見とれるなんて、この擬人化、なかなかいいじゃないですか。
そして、テンションが上がります。
l'aria et l'acqua et la terra è d'amor piena;
ogni animal d'amar si riconsiglia.
空気も水も大地も愛に満たされ
命あるものはすべて恋に胸をときめかせる
名詞 aria, acqua, terra を3つともテンポ良く接続詞の e でつないでいます。3つまとめて単数扱い、動詞も è と単数形ですね。
ここまでの8行、比喩と神話のイメージ満載のウキウキする雰囲気でした。でも、このあとの6行はがらりと様子が変わります。
Ma per me, lasso, tornano i piu gravi
sospiri,
しかし惨めな私には、何より重いため息がよみがえる
周りには春が戻ってくるけれど、私に戻ってくるのは sospiri ため息。
どのようなため息かというと…
che del cor profondo tragge
quella ch'al ciel se ne potrò le chiavi;
関係代名詞 che の節ですが、先行詞 sospiri から語順を整理してみましょう。
sospiri che tragge del cor profondo
quella che se ne portò le chiavi al ciel
(心の)鍵を天に持ち去った女性が
心の深い底から引き出すため息
quella che 以下、「鍵を持っていってしまった女性」が、動詞 tragge 「引き出す」の主語になっています。
tragge は今のイタリア語なら trae となります。
それにしても、心の鍵を天国に持ち去ったとは、大切な人が亡くなったことをなんともきれいに表現していますね。
そして、最後の3行です。
et cantar augelletti, et fiorir piagge,
e 'n belle donne honeste atti soavi
sono un deserto, et fere aspre et selvagge.
小鳥たちがさえずることも 野辺に花が咲くことも
美しく気高い女性たちの優美なしぐさも
私にとっては荒野であり むごく不快な獣だ
最初の2行、12行目と13行目が最後の14行目の主語になっています。
12行目では、不定詞 cantare、 fiorire が名詞の働きをしていますけれど、最初から3行目でも、不定詞garrir と pianger、鳥がなくことが名詞として使われていました。
最初から3行目と、最後から3行目がどちらも不定詞の名詞的用法、シンメトリーをなしていますね。
最初の8行にみなぎる解放感と躍動感が後半6行の悲しみをひとしお重く感じさせる、そこにこのシンメトリーも一役買っているのかもしれませんね。
È vero c'è un contrasto netto tra la primavera gioiosa che porta con sé l'amore e la tristezza del poeta piena di rimpianto per la morte della sua amata.
春の喜びと愛する人の死の悲しみのコントラストがくっきり、バランスのとれた完成度の高いソネットでした。
脚韻はどうでしょうか?
最初の2行が?
rimena
famiglia
ena、ia という2つの音を8行目までずっと繰り返して、ABABABAB。
これは rima alternata 「交代韻」と呼びます。
そして9行目から
gravi
tragge
こちらも avi と agge という2つの音を6行繰り返して、CDCDCDとしています。
前半と後半で音の種類だけを変えて、すべて rima alternata で揃えたすっきりした脚韻ですね。
では、もう一度聞いてみましょう。
今日のトピック
さて、今日のトピックです?
Che era Laura per il poeta?
ラウラとは?
詩人ペトラルカにとってどういう存在だったのでしょう?
ラウラにまつわる詩はこれで3つ目ですけれど…
Laura, che cosa (ha rappresentato?) realmente per il poeta? Che rapporto c'è stato fra loro due. Questo non è possibile dirlo con sicurezza.
ラウラとペトラルカがどういう関係だったのかいまひとつはっきりしません。気になりますよね。彼女が何を言ったとか、具体的なことは何もわからないし、ペトラルカの一方的な片思いみたいだし、中にはため息をつき涙を流し、哀れな私は深い傷を受けたなんていうソネットもあって、そんな風に言われるとなんだか気の毒になってしまうんですけれど、でも具体的な言葉や態度でラウラにすげなくされているっていうことではどうもないようなので、私たちは心配しなくて大丈夫そうですね。
手にいれることのできない「高嶺の花」
Sì、ma Petrarca che (cosa e?) chi amava Laura? (←この部分、まったく聞き取れず)
ペトラルカはラウラの何を愛していたんでしょう?
平たく言ってしまうと、やすやすと自分のものにはできない存在であること。そこが良かったんですね。貞淑な人妻で、ペトラルカがいくら思いを寄せたところで、おいそれとは応じたりしない、徳の高い女性、ペトラルカには手の届かない憧れの対象です。この世における「完璧な善と美」、これが凝縮した存在といったところでしょうか。
「この世の善きこと」の中には、もちろん桂冠詩人としての名誉も含まれていたはずです。そういう抽象的な存在だから、臨んだところで簡単に手に入るものではないし、追い求めれば追い求めるほど焦燥感は募るばかり。喜びの源であると同時に、心の平静をかき乱す存在でもあるんですね。
そうしたラウラ賛歌なので、どうしてもちょっと湿っぽい哀歌みたいになりがちなんですけれど…
In ogni caso resistenza di Laura, l'idea di Laura, gli ha permesso di scrivere poesie bellissime.
ため息をつきながらラウラを思うことが、ペトラルカにとって美しい恋愛詩をたくさん創作する原動力になったんですね。
In italiano si dice che Laura è la musa ispiratrice del poeta.
詩人にとっての「ムーサ」、豊かなインスピレーションの尽きることのない泉としての「ミューズ」、これがラウラです。その点ではダンテにおけるベアトリーチェと共通するところがありますね。
ラウラとの出会い、そしてその後のラウラ体験は、ペトラルカにとって少年時代にキケロの書物に出会ったのとほとんど同じ意味を持っていたはずです。ペトラルカの心の中にだけ生きてるみたいな存在なので、当時、ペトラルカの友人の中にも、本当にそんな女性がいるのかどうか疑う人もいたというくらいです。
もちろんモデルになった女性は実在しました。フランス、アヴィニョンの名家サド家に嫁いだ人妻で、出会ったのは1327年の4月「キリスト受難の日」ってところがまたなんとも思わせぶりなんですけども、アヴィニョンの聖クレ―ル教会でのことでした。
そして…
È morta durante la terribile epidemia di peste del 1348.
ペストが流行った年に亡くなった具体的な存在としてペトラルカは彼女のことを歌っています。
では、今日のソネットをもう一度聞いてみましょう。
ペトラルカの詩のテーマは実はラウラだけではありません。
Ha scritto anche poesie d'argomento politico, religioso.
政治や宗教も題材にしているんですね。
次回はちょっとちがった趣のペトラルカが登場しますよ。
Alla proossima volta!
白崎容子先生とMarcoさんのセリフ(斜体)は例によりディクテーションしました (スクリプトがなく答え合わせもできないのですが、学習の記録としてディクテーションに挑戦したものをそのまま載せています)。
まいにちイタリア語2017年10月号応用編より
原文で読む古典の楽しみ
黎明期からルネサンス時代のイタリア文学
Quattro passi nella letteratura classica italiana
Lezione7 Francesco Petrarca③
Dante Alighieri①はこちら
Dante Alighieri②はこちら
Dante Alighieri③はこちら
Dante Alighieri④はこちら
Francesco Petrarca①はこちら
Francesco Petrarca②はこちら
「原文で読む古典の楽しみ」…ついに終了してしまいましたね。どれもこれも面白くて、朗読も素敵だったので、今から再放送が楽しみです。
2018年1月から始まった応用編は、待ちに待った朝岡直芽さんの24chiacchierateです!2015年の放送を聴き逃した方は今度こそお聞き逃しなく!テキスト購入もお忘れなく!!(と力が入ってしまうのは、私こそが、放送を聴き逃しテキストもCDもなかなか入手できず、苦労した張本人だからです)
興味のある方はぜひNHKゴガクでストリーミング
で聞いてくださいね♪
「原文で読む古典の楽しみ」2017年10月~12月号も、
白崎容子先生による和訳や、語句の詳細な説明、
こぼれ話、パラフレーズ(現代イタリア語への原文の置き換え)、
さらには略年表や関連図書の記載もあるので、
放送を聴き逃した方もテキストだけでも、ぜひお手元に!
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