今日覚えた使えるイタリア語
朗読の響きが心地よいイタリア古典文学。白崎容子先生の「原文で読む古典の楽しみ」。ダンテ『神曲』に引き続き、ペトラルカ『俗語断片詩集』をディクテーションしました
原文で読む古典の楽しみ
黎明期からルネサンス時代のイタリア文学
Quattro passi nella letteratura classica italiana
イタリア古典文学作家6人の作品を通して、現代とは異なる黎明期からルネサンス期のイタリア語の響きを楽しみ、魅力に触れ、気に入った一篇を口ずさめるようになるのが、この講座の目的の1つ。
La letteratura italiana delle origini e del Rinascimento
黎明期からルネッサンス時代のイタリアの古典文学
白崎容子先生のセリフ
Marcoさん(斜体字)のセリフ
(スクリプトがなく答え合わせもできないのですが、学習の記録としてディクテーションに挑戦したものをそのまま載せています。途中の猫まーく()は私の感想です)
10月20日放送分
Lezione 6 Francesco Petrarca②
«Canzoniere» Canzone 126
フランチェスコ・ペトラルカ『俗語断片詩集』カンツォーネ 126
今日はペトラルカの2回目。
Oggi leggeremo un'altra famosissima poesia del 《Canzoniere》.
はい。今日読むのもかなり有名な詩です。
詩集《Canzoniere》に収められた中で、形式として一番多いのは前回読んだ<sonetto ソネット>14行詩で、全体の85%以上を占めます。次に多いのが<Canzone カンツォーネ>という形式です。
これから読むカンツォーネ126番は68行。13行の詩節が5つ、最後に短い3行の詩節が1つという形をとっています。ソネットよりだいぶ長いですね。
今日はその最初の詩節、13行を読んでみることにしましょう。
詩の舞台となった場所はフランス、プロヴァンス地方、ヴォークリューズのソルグ川のほとり。そこで目にしたラウラの姿を謳ったものです。
早速聞いてみましょう。
Chiare, fresche et dolci acque,
ove le belle membra
pose colei che sola a me par donna;
(以下略)
涼しげで爽やかな感じの詩ですが、ラウラという名前は今日も出てきませんでしたね。
では、少しずつ一緒に見ていきましょう。出だしは?
Chiare, fresche et dolci acque,
澄みきった爽やかで穏やかな川の流れよ
今日も形容詞 dolce が早速登場しました。ここでは川の流れについて「穏やかな」の意味です。
chiare、fresche、dolci、音も意味も軽やかな形容詞が3つ、それが名詞より前に並んでいる語順のせいもあって、さらさら流れるイメージが印象的です。
acque 川の流れへの呼びかけですが、これを先行詞として次に ove、すなわち dove に導かれる関係副詞節が続きます。
ove le belle membra
pose colei che sola a me par donna;
ove のあと、目的語のほうが主語より先に来ているが、置き換えると、
ove colei che a me pare sola donna pose le belle membra
私には唯一の女性と思えるその彼女が美しい手足(すなわち体)を置いたそのせせらぎよ
sola 「ただ一人の」女性と思える彼女
すなわち詩人にとって彼女のほかに女性は存在しないということですね。
pose は動詞 porre の遠過去。
acque 「せせらぎ」に体を置いた、体をあずけた。つまり水に浸かった、水浴びした、と取りましょう。水辺に腰を下ろしたとする解釈もあるようです。
次ですが、途中、5行目はとりあえず後回しにして、まずは4行目と6行目。
gentil ramo ove piacque
a lei di fare al bel fiancho colonna;
ove 以下、関係副詞節の語順を整理しましょう。
ove a lei piacque di fare colonna al bel fiancho
高貴な樹木を体の支えにすることを彼女が好んだその枝よ
呼びかけの対象である gentil ramo 「高貴な枝」というのは、
Immagine poetica che si riferisce al lauro, all'alloro.
lauro 「月桂樹」のことなんですね。今のイタリア語では alloro って言いますけれど。
Lauro から Laura という名前が連想されること、月桂樹がペトラルカの桂冠詩人としての栄誉を暗示していることは前にお話したとおりです。
そして5行目に戻ると?
(con sospir' mi rimembra)
私はため息とともに思い出す
ここまで、せせらぎとたわむれ、月桂樹に寄りかかるラウラの美しい姿を思い出すとため息が漏れる。これをせせらぎと月桂樹そのものに訴えています。せせらぎと月桂樹を羨ましがってるみたいですね。
次の7行目から9行目、今度は草花への呼びかけです。
herba et fior' che la gonna
leggiadra ricoverse
co l'angelico seno;
軽やかな衣が
天使のような胸とともに覆い隠した草花よ
関係代名詞 che の節の主語 gonna は、スカートというより「上半身を覆う衣」と取りましょう。
天使のような胸をおさめた軽やかな衣が草花を覆い隠した。衣に身をくるんだラウラが草花の上に覆いかぶさるような姿を思い浮かべましょう。
では、10行目と11行目です。
aere sacro, sereno,
ove Amor co' begli occhi il cor m'aperse:
そこで 「アモール(愛の神)」が美しい目で私の心を開いた(つまり愛の矢を放った)神聖で穏やかな大気よ
今度は aere 「大気」というか「天空」への呼びかけです。最後に呼びかけたのは、愛の矢に射抜かれた自分を包んでいた大気。天空。
ラウラを知っているこうした自然のものたちに告げたいことは最後の2行。命令法です。
date udïenzia insieme
a le dolenti mie parole extreme.
一緒に耳を傾けてほしい
私の最後の悲痛な言葉に
extreme 「最後の」、つまり アモール(キューピッドの矢)に射抜かれて今にも死にそうな、瀕死の状態のようですね。もちろんそれは愛のせいなんですけれど。
11行目までせせらぎ、月桂樹、草花、大気、それぞれにまつわる回想を ove や che の関係詞節の中で語る同じ形をリズミカルに繰り返し、最後はうって変わって悲痛な愛の叫びでしめています。
詩人に死にそうな思いをさせるラウラってどんな女性なのか気になりますけれど、具体的な顔立ちとか、体つきなどはヴェールに包まれたままですよね。
In questi versi per descri(ve...ci?) la bellezza di Laura, Pertrarca usa gli aggettivi ”bello” e "angelico".
ラウラの容姿を表す言葉と言ったら bello と angelico だけ。具体的な言葉や生々しい表現は使わないで、わざと曖昧に描く、これがペトラルカの世界なんですね。
さて、脚韻はどうでしょう。
13行のまず前半6行を見てみると、1行目と4行目が
acque
piacque
2行目と5行目は
membra
rimembra
3行目と6行目は
donna
colonna
ABCABCという脚韻です。
そして次の7行目が
gonna
3行目の donna、6行目の colonna と韻を踏んでいます。
13行のちょうど真ん中で、前半のフォローをしつつ中締めをしている感じですね。
後半は8行目と11行目が
ricoverse
m'aperse
9行目と10行目が
seno
sereno
そして12行目と13行目が
insieme
extreme
DEEDFFという脚韻です。
全体で、ABCABCCDEEDFF。このカンツォーネは全部で68行ありますけれども、最後の短い3行詩節を別にして、すべて完璧にこれと同じ脚韻を踏んでいます。
音節はどうでしょう。ところどころに長目の行がありますよね。
Sì, sono versi misti, settenari e endecasillabo.
settenario7音節と、ダンテの『神曲』と同じ endecasillabo 11音節が混ざっているんですね。
11音節は3行目、6行目、11行目、13行目の4行。あとの9行はすべて7音節です。
Da questa combinazione nasce un ritmo molto piacevole.
はい。こうした組み合わせによって、心地よい強弱のリズムが生まれているんです。このカンツォーネの残る4つの詩節ももちろん全部同じです。
Molte delle rime usate da Petrarca sono veramente stupende.
はい。本当にこの完成度の高さ、ため息が出ますよね。
では、もう一度聞いてみましょう。
さらさらと流れる水みたいに心地よいこのカンツォーネ、1行目がとても有名です。
Chiare, fresche et dolci acque,
さわやかに澄みきった穏やかなせせらぎよ
みなさんも一緒に発音しましょう。
et って言いにくいと思うので、 e で発音しましょう。
他にも気に入ったところがあったら、ぜひご自分で発音してみてくださいね。
今日のトピック
さて、今日のトピックは?
Padre dell'Umanesimo
ウマネジモ(人文主義)の父
ペトラルカはウマネジモ(人文主義)の父とも呼ばれています。子どものころから古代ローマのキケロが好きだったようですが、内容を理解したっていうより、まず言葉の響きの美しさに魅せられたんでしょうね、きっと。
La bellezza delle parole è una delle caratteristiche della poesia di Petrarca.
言葉の美しさこそ、ペトラルカの詩の真髄ですものね。
人文主義っていうのは、中世の神学から離れて人間性を尊重しようとするルネサンス初期の思想です。人間尊重とあわせて人文主義が目指したのは、古代ギリシャ、特に古代ローマの古典から美しい文体を学んで、そこから雄弁を身につけることだったようです。
Petrarca è attirato dalla bellezza dell'espressioni alcaiche che vengono dal mondo classico.
ペトラルカは古典文学の表現の素晴らしさに魅せられていました。古代ローマの政治家であり哲学者でもあったキケロ、この人は雄弁で知られていますけれども、そのキケロの演説文を旅行中に発見したというエピソードは、なんだかできすぎっていうくらいペトラルラにぴったりですね。
Da Petrarca si può iniziare a parlare di Umanesimo.
そう。ウマネジモはペトラルカとともに始まったといえるんですよね。ラテン語で書いた対話体の著作では、まさに雄弁を実践しているし、人文主義のその後の発展と浸透に果たした役割もとても大きなものでした。特にフィレンツェでは、ウマネジモの雄弁が説得力のある外交文書や演説文の作成といった実用的なものと結びついて、のちのマキャヴェリの時代にも大きな意味を持っていたようです。
では、最後にもう一度、イタリア語の朗読を聞いてみましょう。
ところでマルコさんは今日の詩の舞台、ヴォークリューズにいらしたことあるんですよね。
Sì, sono stato in Valchiusa(※), Fontaine de Vaucluse con la mia bella.
※ Vaucluse ヴォークリューズは、イタリア語では Valchiusa ヴァルキューザ
マルコさんにとってたった一人の女性と思える彼女と一緒に。
Abbiamo anche messo i piedi nudi nel torrente dove si è bagnata Laura.
ラウラが水浴びしたせせらぎで、足湯じゃなくて足水なんかしちゃったりして。
E in un ristorantino lì vicino abbiamo mangiato delle trote alla mugnaia con le mandorle, davvero eccezionali
マスのムニエル、最高ですね。観光地じゃないですよね。静かなところなんでしょ?
Beh sì, quel giorno non c'era quasi nessuno.
2人だけ。まさしくこの詩の世界ですね。
Beh sì.
この詩を書いたころ、ペトラルカは人里離れてひっそりヴォークリューズにこもっていたんですよね。新しいもの好きで後世に多大な影響を及ぼしながら、孤独と瞑想を愛した詩人でした。
次回も引き続きペトラルカです。
白崎容子先生とMarcoさんのセリフ(斜体)は例によりディクテーションしました (スクリプトがなく答え合わせもできないのですが、学習の記録としてディクテーションに挑戦したものをそのまま載せています)。
まいにちイタリア語2017年10月号応用編より
原文で読む古典の楽しみ
黎明期からルネサンス時代のイタリア文学
Quattro passi nella letteratura classica italiana
Lezione6 Francesco Petrarca②
Dante Alighieri①はこちら
Dante Alighieri②はこちら
Dante Alighieri③はこちら
Dante Alighieri④はこちら
Francesco Petrarca①はこちら
動画を見つけたので、3パターンの朗読でお楽しみくださいませ♪
今回の《Canzone 126》は0:00~0:35の部分です。
今回の《Canzone 126》は0:00~1:00の部分です。
お好みのものをどうぞ♪
原文で読む古典の楽しみも残すところあと2回。
今週と来週はストリーミングでLudovico Ariosto『狂乱のオルランドOrlando furioso』③④(最終回)を聞くことができます。
興味のある方はぜひNHKゴガクでストリーミング
で聞いてくださいね♪
番組テキストには、白崎容子先生による和訳や、語句の詳細な説明、
こぼれ話、パラフレーズ(現代イタリア語への原文の置き換え)、
さらには略年表や関連図書の記載もあるので、ぜひお手元に!
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