今日覚えた使えるイタリア語
朗読の響きが心地よいイタリア古典文学。白崎容子先生の「原文で読む古典の楽しみ」。ダンテ『神曲』、ペトラルカ『俗語断片詩集』、ボッカッチョ『デカメロン』に引き続き、ロレンツォ・デ・メディチ『謝肉祭歌集』を書き起こしました
原文で読む古典の楽しみ
黎明期からルネサンス時代のイタリア文学
Quattro passi nella letteratura classica italiana
イタリア古典文学作家6人の作品を通して、現代とは異なる黎明期からルネサンス期のイタリア語の響きを楽しみ、魅力に触れ、気に入った一篇を口ずさめるようになるのが、この講座の目的の1つ。
La letteratura italiana delle origini e del Rinascimento
黎明期からルネサンス時代のイタリアの古典文学
白崎容子先生のセリフ
Marcoさん(斜体字)のセリフ
(スクリプトがなく答え合わせもできないのですが、学習の記録としてディクテーションに挑戦したものをそのまま載せています。途中の猫まーく()は私の感想などです)
11月23日放送分
Lezione 13 Lorenzo de' Medici ①
«Canti carnascialeschi» "Canzona di Bacco"
ロレンツォ・デ・メディチ 『謝肉祭歌集』 「バッコスの歌」(1)
今日は第13課、この講座も折り返し地点を過ぎましたね。
Nel mezzo del cammin di nostro corso
私たちの講座の歩みのなかばで
ダンテ『神曲』の出だし、覚えてらっしゃいますか?
Nel mezzo del cammin di nostra vita
私たちの人生の歩みのなかばで
ダンテは暗い森に迷い込んでしまったけけれど…
Noi però andiamo avanti.
私たちは迷わないようにして先に進みましょう。
これまで、ダンテ、ペトラルカ、ボッカッチョと14世紀の作品を読んできましたが、ここで時代を100年ほどくだって15世紀に以降します。時代は変わっても舞台はずっとフィレンツェ。
今日からの4回は…
Lorenzo de' Medici, lo conoscete, vero? Chiamato anche Lorenzo il Magnifico.
ロレンツォ・デ・メディチ、メディチ家のロレンツォ豪華王。ルネサンスの代名詞のような人物ですよね。
Sì, certo. In quell'epoca nella Firenze del quattrocento a controllare politicamente Firenze era la potente famiglia dei Medici.
15世紀のフィレンツェの政治を事実上の君主として動かしていたのは、力を蓄えたメディチ家でした。
ロレンツォは、父親のピエーロが亡くなった1469年に20歳でメディチ家の当主となり、祖父コジモ以来のメディチ家の体制を引き継ぎます。忙しかったはずなのに、実は詩もたくさん書いているんですよね。
Sì, ha composto tante poesie. Le prime, quando aveva appena quindici anni, anche dei sonetti come Petrarca.
10代の半ばごろから詩を書き始めたんですね。ペトラルカみたいな愛のソネットもあるんですよ。そうした中で一番有名な詩っていうと…
La più celebre è certo la "Canzona di Bacco", detto anche "Trionfo di Bacco e Arianna" che fa parte dei così detti 《Canti carnascialeschi》, cioè canti di carnevale.
「バッコスの歌」。最初は「バッコスとアリアドネの凱旋」というタイトルでした。1490年のカーニバルのために41歳のロレンツォが作った詩です。カーニバル、『謝肉祭歌集』 《Canti carnascialeschi》 という詩集に収められています。
「バッコスの歌」はイタリア語で "Canzona di Bacco"。 canzone ではなくて canzona 。このころは canzone の単数形として canzona という形が使われました。
最初の4行だけがとても有名ですが、この講座では4回で最後の60行目まで全部通して読むことにしましょう。
ところで、当時のフィレンツェのカーニバルってどんな風だったんでしょうね。
Era una festa importante con carri addobbati e un grande corteo che andava dal Ponte Vecchio al Duomo, e dove si faceva musica, e si cantavano canzoni, i canti carnascialeschi appunto.
アルノ川にかかるポンテヴェキオ(ヴェッキオ橋)からドゥオーモまでの通りを華やかな山車で練り歩く。賑やかだったでしょうね。お祭りが大好きな祝祭演出の天才ロレンツォがパレードのために作詞したこの歌をみんなで歌って…
La musica era composta da musicisti di fama.
有名な音楽家が曲をつけて演奏しました。カーニバルの最後を締めくくるのが、異教の神々の凱旋パレード。いかにもルネサンスらしい雰囲気ですね。
特に出だしが有名な「バッコスの歌」。全部で8つの詩節からなり、最初が4行詩、残る7つはすべて8行詩です。今日は最初の詩節2つを読みましょう。
まず1節目、短い4行詩です。
Quant'è bella giovinezza
che si fugge tuttavia:
Chi vuol esser lieto, sia,
di doman non c'è certezza.
あれ、どこかで聞いたことあるなって思われた方もいらっしゃるかもしれませんね。
Questa prima quartina è famosissima.
とっても有名です。
では、一緒に読んでいきましょう。
Quant'è bella giovinezza
che si fugge tuttavia:
青春はなんと美しいのだろう
どんどん逃げていくけれど
関係代名詞 che の節のある感嘆文ですね。
最後の tuttavia ですが、この時代には2通りの使い方がありました。
1つは今のイタリア語と同じ「しかしながら」「もっとも」という逆説の接続詞。もう1つは「絶え間なく」「いつでも」 sempre の意味の副詞です。ここは現代の意味と同じ、「~だけれど」の意味にとるのが自然ですね。でも同時に「絶え間なく逃げ続ける」といったニュアンスも漂っています。
tuttavia というこの言葉は、この後もそれぞれの詩節で繰り返されます。
あっという間に過ぎ去っていく青春、若さを歌い上げる詩の有名な出だしの2行でした。
続けて…
Chi vuol esser lieto, sia,
楽しくしていたい人は楽しくしていなさい
関係代名詞 chi の節が全体の主語です。
lieto は形容詞で「人が楽しい気分の」。
sia は essere の命令法3人称単数形。接続法と同じ形ですね。
そもそも命令法っていうのは、このように接続法が独立して使われるところから生まれた形です。 sia のあとに形容詞 lieto をもう一度補うとわかりやすくなりますよ。
lieto でありたい人は sia lieto でありなさい。
そして…
di doman non c'è certezza.
明日について確実なものはない
明日のことはどうなるかわからない、とにかく今を楽しもう。この2行はこの後の詩節で毎回最後にリフレインとして繰り返されます。
では、2番目の詩節、8行詩です。イタリア語と和訳を聞いてみましょう。
Quest'è Bacco e Arianna,
belli, e l'un dell'altro ardenti:
perché 'l tempo fugge e inganna,
sempre insieme stan contenti.
Queste ninfe ed altre genti
sono allegre tuttavia.
Chi vuol esser lieto, sia,
di doman non c'è certezza.
ここからはパレードの山車に乗って現れる神話の神様の紹介です。
Quest'è Bacco e Arianna,
belli, e l'un dell'altro ardenti:
こちらはバッコスとアリアドネ
美しくてお互いに燃えている
バッコスはお酒の神様
アリアンナ(アリアドネ)はその妻です。
一人がもう一人に熱く恋している。 ardenti と複数形で、2人が互いに恋しているということですね。
続けて…
perché 'l tempo fugge e inganna,
sempre insieme stan contenti.
時は逃げ人を欺くから
2人はずっと一緒で満足している
perché の節が先にきていますね。
ingannare 「欺く」。これに目的語を補うとすれば、「この世の生身の人間」といったところでしょうか。
人間の楽しみはかりそめのものだけれど、バッコスとアリアドネは神様なので、永遠に一緒にいられるから幸せだ。
そして…
Queste ninfe ed altre genti
sono allegre tuttavia.
こちらのニンフと他の人たちはずっと陽気
ニンフは若い女性の姿をした妖精です。
最後の tuttavia ですが、これは先ほどとは違って、「絶え間なく」 sempre の意味の副詞です。
そして…
Chi vuol esser lieto, sia,
di doman non c'è certezza.
前半の4行詩節と同じ言葉がリフレインとして繰り返されます。
では、もう一度通してイタリア語の朗読を聞いてみましょう。
とにかく今を楽しもう!というルネサンス的な享楽精神にあふれた詩ですね。
有名な出だしの2行、皆さんも発音してみましょう。
青春はなんと麗しい
たちまち逃げて行くけれど
Quant'è bella giovinezza
che si fugge tuttavia:
ところで、 si fugge、 fuggire 「逃げる」に代名詞 si がついていますね。この si は、そこからいなくなるという「場所」のニュアンスを強めています。「逃げ出す」の感じですね。
この形を実はボッカッチョも『デカメロン』の中で使っています。意味は「駆け落ちする」。いかにも、らしいですよね。
それから、同じくボッカッチョの«Filostrato»という別の作品にはこんな一節があります。
la giovinezza mia si fugge ogni ora
私の若さはどんどん逃げる
主人公に愛されたクリセイダという女性が、若さが休むことなく逃げ続けるのを嘆く台詞です。
主語もロレンツォの詩と同じ giovinezza。そして、ogni ora ということは、 sempre 「いつも、留まることなく」と同じ意味ですね。
ロレンツォはどうやらボッカッチョもよく読んでいたようですね。
Certo. L'aveva letto, l'aveva studiato.
今日のトピック
というわけで、今日のトピックは?
Lorenzo, il poeta
詩人ロレンツォ
Lorenzo il Magnifico ロレンツォ豪華王と言えば、フィレンツェ・ルネサンス最盛期の華やかなイメージそのものです。人間としての器の大きさはおじいさんのコジモ Cosimo 譲りでしょうか?
Sì, certo. Anche se con un carattere forse più allegro, festoso.
それにおそらく、おじいさんより明るい性格だったようですね。政治もこなしながらカーニバルにも情熱を注ぐメディチ家当主、社交的で市民の人気も絶大でした。
色ごとも好きだし、子供っぽい遊びにも夢中になる反面、思慮深さと理路整然と物事を論述する才能
もあった。一人の中に相反する2つの人格が同居しているようだったと言った人もいます。
詩の才能は?
Anche sua madre, Lucrezia, componeva poesie.
詩を書いていたお母さんのルクレツィア譲りでしょうね。ロレンツォの詩人としての顔は意外と知られていないと思いますけれど…
Era in grado di comporre belle rime. Aveva molto talento.
詩人として十分通用する豊かな才能がありました。
Rima e metrica della Canzona di Bacco
「バッコスの歌」の脚韻と韻律
ところで、今日読んだ「バッコスの歌」の rima 韻律をまだ見ていませんでしたね。チェックしておきましょう。
まず出だしの4行詩節の脚韻は、1行目から…
giovinezza
tuttavia
sia
certezza
ezza, ia, ia, ezza
Questa è una rima incrociata.
ABBAとなる交差韻です。
ただこの部分は、この後の詩節すべてと連動するので、ここはABではなく、XYYXとしておきます。
次の8行詩節は、まず前半の4行が…
Arianna
ardenti
inganna
contenti
anna, enti の繰り返し。こちらをABABとしましょう。
Questa è una rima alternata.
交代韻ですね。
その次、5行目が?
genti
Come prima "contenti".
前の4行目と同じ enti の音、つまりBの韻です。
1行目から5行目まで、ABABBとなっていますね。
そして最後の3行は?
tuttavia
sia
certezza
これは Quant'è la bella giovinezza で始まる冒頭の4行詩節の2行目から4行目と同じYYXという脚韻です。今日読んだ部分の最初と最後の3行が、XYY、YYX、シンメトリーになっていますね。
2節目8行詩の脚韻は、ABABB YYX。この同じ脚韻が最後の8節目まですべての詩節で繰り返されます。
音節の数はどうでしょうか?1行が?
È un verso ottonario.
8つの音節でできています。韻文の約束ごとも見事の果たされていますね。
Il grande Lorenzo de' Medici, signore di Firenze, è bellissimo uomo politico e notevole anche come poeta.
政治だけでなく、詩人としても一流、ロレンツォはルネサンス人の名にふさわしい万能の才人でした。
では、「バッコスの歌」の今日の部分を聞きながらお別れしましょう。
Arrivederci. Allla prossima puntata.
白崎容子先生とMarcoさんのセリフ(斜体)は例によりディクテーションしました (スクリプトがなく答え合わせもできないのですが、学習の記録としてディクテーションに挑戦したものをそのまま載せています)。
まいにちイタリア語2017年11月号応用編より
原文で読む古典の楽しみ
黎明期からルネサンス時代のイタリア文学
Quattro passi nella letteratura classica italiana
Lezione13 Lorenzo de' Medici①
今日の部分は 0:00 から 0:26 です
0:24 ~ 0:26 最後の行ですが、di doman non c'è certezza のところを
なぜかはわかりませんが di doman non v'è certezza と言ってますね。
0:38 から 1:08 が今日の部分です。
0:00 から 0:50 が今日の部分です。
Dante Alighieri①はこちら
Dante Alighieri②はこちら
Dante Alighieri③はこちら
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Francesco Petrarca①はこちら
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Giovanni Boccaccio①はこちら
Giovanni Boccaccio②はこちら
Giovanni Boccaccio③はこちら
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2018年1月から始まった応用編は、待ちに待った朝岡直芽さんの24chiacchierateです。お聞き逃しなく!テキスト購入もお忘れなく~。
興味のある方はぜひNHKゴガクでストリーミング
で聞いてくださいね♪
「原文で読む古典の楽しみ」2017年10月~12月号も、
白崎容子先生による和訳や、語句の詳細な説明、
こぼれ話、パラフレーズ(現代イタリア語への原文の置き換え)、
さらには略年表や関連図書の記載もあるので、
放送を聴き逃した方もテキストだけでも、ぜひお手元に!
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