今日覚えた使えるイタリア語
朗読の響きが心地よいイタリア古典文学。白崎容子先生の「原文で読む古典の楽しみ」。ダンテ『神曲』、ペトラルカ『俗語断片詩集』に引き続き、ボッカッチョ『デカメロン』をディクテーションしました
原文で読む古典の楽しみ
黎明期からルネサンス時代のイタリア文学
Quattro passi nella letteratura classica italiana
イタリア古典文学作家6人の作品を通して、現代とは異なる黎明期からルネサンス期のイタリア語の響きを楽しみ、魅力に触れ、気に入った一篇を口ずさめるようになるのが、この講座の目的の1つ。
La letteratura italiana delle origini e del Rinascimento
黎明期からルネッサンス時代のイタリアの古典文学
白崎容子先生のセリフ
Marcoさん(斜体字)のセリフ
(スクリプトがなく答え合わせもできないのですが、学習の記録としてディクテーションに挑戦したものをそのまま載せています。途中の猫まーく()は私の感想などです)
11月10日放送分
Lezione 10 Giovanni Boccaccio ②
«Decamerone» Chichibio e la gru
ジョヴァンニ・ボッカッチョ 『デカメロン』 第6日第4話「キキビーオと鶴」(2)
今日もボッカッチョの『デカメロン』から…
Chichibio e la gru
「キキビーオと鶴」の続きを読みましょう。
調理人キキビーオはご主人に言われてお客に出す鶴を料理していましたが、村娘ブルネッタに腿肉をねだられ、惚れた弱みで片方をちぎってあげてしまいました。食卓に出された鶴には腿が1つしかありません。
早速、続きを聞いてみましょう。
Essendo poi davanti a Currado e alcun suo forestiere messa la gru senza coscia, e Currado maravigliandosene fece chiamare Chichibio, e domandollo che fosse divenuta l'altra coscia della gru. Al quale il vinizian bugiardo subitamente rispose: «Signor mio, le gru non hanno se non una coscia e una gamba.»
それでは原文に挑戦です。
センテンスが長いので、まず1つめのヴィルゴラ(コンマ)のところまで。
Essendo poi davanti a Currado e alcun suo forestiere messa la gru senza coscia,
要するに クッラードとお客の前に腿が1つ足りない鶴が出されたので
essendo と messa が離れていますが、ジェルンディオの受け身の形ですね。
alcun つまり alcuno a 。 qualche と同じで「何人かの」。
続けて…
e Currado maravigliandosene fece chiamare Chichibio,
クッラードはそれにびっくりしてキキビーオを呼んでこさせた
maravigliandosene とありますが、今のイタリア語なら、 meravigliandosene。 meravigliarsi 「驚く」ですね。再帰動詞のジェルンディオに ne がついた形です。
「それ」、つまり腿が1つしかないことに驚いて、それから…
e domandollo che fosse divenuta l'altra coscia della gru.
そして 鶴のもう一方の腿がどうなったのか 彼に問いただした
domandollo というのは、 domandare の遠過去 domandò と、目的語代名詞 lo が結びついた形です。ここも代名詞が変ですよね。「彼に尋ねた」なので、代名詞は間接目的語の gli であってほしいです。
でもこの時代には lo と gli の区別そのものが曖昧だったし、 domandare は直接、間接どちらの目的語でもとることができる動詞でした。文法は14世紀のほうが今よりずっと楽だったかもしれませんね。
では、次のセンテンス前半です。
Al quale il vinizian bugiardo subitamente rispose:
その質問に 嘘つきの そのヴェネツィア男は即座に答えた
最初がいきなり al quale と関係代名詞ですが、先行詞は前の文、「片方の腿はどうなったのか」というクッラードの質問です。
そして、キキビーオの答え。
«Signor mio, le gru non hanno se non una coscia e una gamba.»
ご主人様 鶴は1本の腿と1本の脚しか持っていません
ふるってますね。
non hanno se non 「~でなければ持っていない」=「~しか持っていない」
それにしても、もともと1本だったというキキビーオのでまかせ、見えすいているとはいえ、見事に決まりましたね。
Sì, davvero. Una risposta pronta.
ではもう一度イタリア語の朗読を聞いてみましょう。
今日のトピック
では、今日1つ目のトピックです。
La peste
疫病 ペスト
『デカメロン』といったら「艶笑譚」。エロティックな物語を想像なさる方も多いと思います。「キキビーオと鶴」は違いますが、性にまつわる物語が占める比率は確かに高いです。
『デカメロン』が書かれたのがどんな時代だったかというと?
Boccaccio l'ha scritto negli anni subito successivi la terribile epidemia di peste del 1348 che ha colpito l'europa e anche Firenze.
1348年フィレンツェの町が疫病ペストに襲われたそのすぐ後のことでした。住民の半数以上が犠牲になったと言われています。
Anche il padre di Boccaccio è morto in quell'occasione.
そうですね。ボッカッチョのお父さんもペストで亡くなった。そんなことがあった直後に『デカメロン』は書かれているんです。来る日も来る日も大勢の人が亡くなるのを目の当たりにする。そんな状況にあったら、楽しい物語でも語って、生と性、りっしんべんのない「生」とある「性」を両方とも謳歌して、現実を忘れたくなるのも当然です。
物語集『デカメロン』が生まれたいきさつは第1日目のまえがきで語られています。
最初の場面は…
La bellissima chiesa di Santa Maria Novella a Firenze. Molti di voi probabilmente ci sono stati.
フィレンツェ駅前にあるサンタ・マリア・ノヴェッラ教会。ご存知の方もきっと少なくないでしょうね。
1348年、春のある日、ペストの犠牲者を追悼をしようとこの教会を訪れた7人の若い女性が、「この惨状を自分たちにはどうすることも出来ない、むしろしばらくここから離れるほうがよいのではないか」と話していると、そこへ…
Al gruppo di fanciulle poi si aggiungono anche tre ragazzi. Sette ragazze e tre ragazzi, tutti di condizione sociale elevata.
知り合いの男性3人が教会に入ってきます。合わせて10人。いずれも教養のある貴族の男女ですが、彼らの間でしばらく郊外に難を逃れることに話がまとまります。こうして向かった丘の上の別荘で、1人が毎日1つずつ10日にわたって語ったのが『デカメロン』の100の物語というわけです。
E l'occasione da cui prende vita quest'opera è proprio epidemia di peste.
確かに、ペストが流行ったからこそ生まれた物語集なんですよね。そして、貴族とは言え若い男女が多少卑猥な物語も楽しむことが許された、あるいは口実にすることができたのかもしれませんね。
Beh, sì.
7人の女性は18歳から28歳。妙齢の女性たちが、時にはかなりどぎつい物語も楽しそうに披露してくれるのがなかなか魅力的です。3人の男性は20代後半。
Tutti nel pieno della giovinezza.
みんな若さいっぱいのお年頃ですね。
さて、トピックの2つ目は?
Novelle per un pubblico femminile
女性のための物語集
ボッカッチョは、『デカメロン』は女性のための物語集だと言っています。確かに、話を始めるとき、語り手は、 《Carissime donne》 とか 《Belle donne》 とか女性に呼びかけていますよね。
Sì, appunto.
聴き手としては男性もそこに3人いるんですけどね。
ボッカッチョは『デカメロン』を女性たちに捧げると、著者序文で宣言しています。その一部をピックアップしてご紹介しましょう。
Esse dentro a' dilicati petti, temendo e vergognando, tengono l'amorose fiamme nascose, ...
女性たちは人目を怖れ、恥じらいながら、傷つきやすい胸に恋の悩みを秘めて苦しみに堪えている。 …
(以下略)
はい、この時代、女性は大変だったんですね。
Sì, le donne non potevano uscire(...) veramente. Oggi sembra impensabile.
現代ではむしろ女性のほうが自由に出かけたり、あちこち旅行もしているみたいな気がしますけれど。
ともあれ、自由に外出することもできず、恋の悩みを抱えて男性よりもつらい思いをしている女性たちに気を紛らせてもらいたい、そのために『デカメロン』を世に送り出したというわけです。
Uno dei motivi per cui Boccaccio ha scritto il 《Decamerone》 in volgare, è certo quello di permettere alle donne che per lo più non conoscevano il latino di leggerlo.
※per lo più たいてい、概して
イタリア語で書いたのも、ラテン語を知らない女性読者を意識したためと言っています。背景にはフィレンツェの市民社会が熟成して、女性の立場への認識が高まったという事情もあったかもしれませんね。
Sì.
ともかく、こんなふうに気遣ってくれるボッカッチョさんなので、女性をどんなにかポジティブなものとみなしているのかなぁと思うと、そう単純なものでもなさそうです。
サンタ・マリア・ノヴェッラ教会で、まだ男性が合流する前に、1人がフィレンツェの町を出て難を逃れようと提案したとき、別の女性フィロメーナ Filomena に、ボッカッチョはこんなことを言わせているんです。
原文から抜粋して引用しますね。
Filomena: Ricordivi che noi siamo tutte femine,...
フィロメーナ: 私たちがみんな女だということをお忘れなく…
(以下略)
つまり女性だけではだめ、男性の存在がどうしても必要というわけです。
それを受けてもう1人、エリッサ Elissa が、
Elissa: Veramente gli uomini sono delle femine capo.
エリッサ: ほんとうに、男の方は女の頭脳ですから。
こういうネガティブな台詞を女性たち本人に言わせるところも面白いですね。
Sì, davvero.
あるいは、それがわかっている賢い女性もいるって言いたいのかもしれませんけれど。このちょっと複雑な女性観はどこから生まれたのでしょう。
ナポリでは様々な女性との恋を楽しみましたが、本命はフィアンメッタ Fiammetta という名前でボッカッチョの作品に登場する女性でした。
Sì, dietro a personaggio di Fiammetta potrebbe esserci Maria d'Aquino. Figlia naturale di Roberto d'Angiò, re di Napoli, e sposa di un gentiluomo di corte.
モデルは貴族を夫とするマリア・ダクイーノ Maria d'Aquino という宮廷女性。しかも庶子とは言えアンジュー家のロベルト王の娘だったとされています。
出会ったのはナポリに来てすでに10年になろうというころで、ボッカッチョも経験をたくさん積んでいたのでしょう。愛の詩を送るなどして、いいところまでこぎつけたようです。しかし、なんといっても彼女は王家の娘、本来ならボッカッチョには手の届かない相手です。具体的なことは彼の作品から想像するしかないのですけれど、少なくともナポリを去るときのボッカッチョは失意の底にありました。
Nel 《Decamerone》 le dame appartenenti alla classe più alta sono numerose.
『デカメロン』にも、社会的立場が高い女性に恋をする話はたくさんありますよね。
そういう恋にボッカッチョは敏感だったようです。ナポリで憧れた貴族女性が、彼の大いなる女性賛美を生み出したのはたしかですが、それと並んで見え隠れする女性への恨みがましさみたいなものの一因となったのもまた事実でしょう。
では、もう一度、キキビーオの今日の部分を聞きましょう。
鶴の脚が1本になってしまったのも、原因はブルネッタ、惚れた女性でした。鶴の脚は最初から1本と口からでまかせを言ったキキビーオは…
Chichibio dice anche a suo padrone che se lui vorrà, gli mostrerà che le gru da vive hanno davvero una gamba sola.
ご主人に向かって、なんなら生きている鶴を見せてあげますよ、なんてぬけぬけと言うんですよ。あなたは料理で出される鶴しか知らないんでしょーとでも言わんばかりです。
Chichibio non confessa la sua colpa.
全然反省してないですね。
実在の人物クッラードは、鷹揚な人柄で知られた貴族だったようですが、これじゃ頭にきますよね。
Currado però non vuole mettersi a discutere con un suo servo di fronte ai suoi ospiti.
でもお客の手前、その場はそれ以上言い合うのはやめますけれども。
Quindi dice a Chichibio che se scoprirà che lui ha detto una bugia sarà peggio per lui.
嘘だとわかったら、お前が生きているかぎり私の名前をずっと忘れることがないような目にあわせてやる、わかったな!と釘をさします。
ご主人を怒らせてしまったキキビーオ、どうなるんでしょう。続きは次回のお楽しみ!
Alla prossima puntata.
白崎容子先生とMarcoさんのセリフ(斜体)は例によりディクテーションしました (スクリプトがなく答え合わせもできないのですが、学習の記録としてディクテーションに挑戦したものをそのまま載せています)。
まいにちイタリア語2017年11月号応用編より
原文で読む古典の楽しみ
黎明期からルネサンス時代のイタリア文学
Quattro passi nella letteratura classica italiana
Lezione10 Giovanni Boccaccio②
今日の部分は 1:42 から 2:05 の部分です
Dante Alighieri①はこちら
Dante Alighieri②はこちら
Dante Alighieri③はこちら
Dante Alighieri④はこちら
Francesco Petrarca①はこちら
Francesco Petrarca②はこちら
Francesco Petrarca③はこちら
Francesco Petrarca④はこちら
Giovanni Boccaccio①はこちら
2018年1月から始まった応用編は、待ちに待った朝岡直芽さんの24chiacchierateです。お聞き逃しなく!テキスト購入もお忘れなく~。
興味のある方はぜひNHKゴガクでストリーミング
で聞いてくださいね♪
「原文で読む古典の楽しみ」2017年10月~12月号も、
白崎容子先生による和訳や、語句の詳細な説明、
こぼれ話、パラフレーズ(現代イタリア語への原文の置き換え)、
さらには略年表や関連図書の記載もあるので、
放送を聴き逃した方もテキストだけでも、ぜひお手元に!
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