2017年に川越でオープンしたお店の中でも、このお店の衝撃は、今年の川越の10大ニュースに入るかもしれない。
栃木県日光市と言えば、日本有数の観光スポットで、日光東照宮は言わずもがな。そして、日光を訪れる多くの人が目当てにしてルートに入れているのが、日光市今市にある天然氷の「松月氷室(しょうげつひむろ)」さん。いや、松月さんのかき氷を食べるために日光に行くという人も多いでしょう。本場の天然氷を求めて全国各地からお客さんが押し寄せ、さらに一度食べたらもう病みつき、他のかき氷が食べられなくなり、通い続けて全種類のかき氷を制覇していたなんていう人はざらにいる。一日に整理券250枚(1組2.5人で650人前後)は訪れるという大人気店。夏場だと2~3時間待つことがあり、マニアの間ではどうやって混雑を避けてあのかき氷まで辿り着くかという情報が交錯している。
(天然氷屋のオヤジ まささんのブログ
https://ameblo.jp/shogetsu-goodjob/entry-12292894492.html)
「松月氷室」
住所:栃木県日光市今市379
アクセス:今市ICより3分・JR今市駅より徒歩5分・東武下今市駅より徒歩7分
営業時間:11:00~18:00
定休日:月曜日
2017年4月、川越に衝撃の展開が待ち受けていた。
松月氷室さんの天然氷が日光に行かず川越で食べられるようになった。川越で扱えるお店が出来たという衝撃。
一体なぜ、川越であの氷を扱うことができるのか!?という疑問が湧き上がってきますが、その答えはおいおいに。
2017年4月にオープンした「日光天然氷 ちのわ」さん、お店があるのが、県道川越日高線から喜多院入口を喜多院方面へ入って行く。
右手に成田山川越別院を臨み、真っすぐ伸びる喜多院参道から左に曲がって少し進むと辿り着く。幟旗がはためいているのですぐに分かります。
通りに面したスペースに移動販売車が置かれ、休憩できる場が作られている。ここが「日光天然氷 ちのわ」さんです。
移動販売車で氷を削って提供するお店ですが、各地を移動販売しているわけではなく、ここに定住して営業しているというスタイル。
かき氷の種類は、定番メニューからオリジナルのものまで様々。
ブルーハワイ、
メロン、
とちおとめ、
ブルーベリー、
夏みかん、
パイナップル、
抹茶、
黒蜜きなこ、
ミルクきなこ、
マンゴー、
プレミアムマンゴー(果肉付き)、
トッピングにはミルク、白玉、あずき。
1000円前後の高価なかき氷が登場する今、400円からという価格も良心的。
普段食べているかき氷との違いに驚く。暑いからとりあえずかき氷という品ではなく、世のかき氷とは別次元に在るようなかき氷。
また、具材が沢山盛ってあって具を食べているようなかき氷と違って、シロップのみというシンプルさが氷の味をより引き立たせる。
例えるなら、パンの生地をしっかり感じてもらいたいか、具を食べてもらいたいかという違いで言うなら、前者がちのわさん。生地が旨くなければパンじゃない、氷が旨くなければかき氷じゃない。
そしてまた、天然氷のかき氷を求めて人がやって来る。
松月氷室さんと同じ天然氷を使用したかき氷が、ここ川越で味わえる。しかも、並ばず、注文後すぐにというあり得なさ。
(さらに言うと、松月さんのシロップも使っているという衝撃)
松月を知る人、天然氷の貴重さを知る人ほどすぐに反応し、なぜ川越で!?と驚きの表情を浮かべている。
すでにちのわさんにはリピーターが続出していて、全ての味を制覇して人も多数いるとのこと。
夏になると川越では市内中のお店でかき氷を提供していますが、ここまで、ここを目当てにして行く、という人が集まるお店というのはないかもしれない。かき氷好きはマニアというくらい好きな人がたくさんいて、ちのわさんを目当てにして来ている人の多くは、松月氷室さんの氷だと知って来ているのでしょう。
かき氷と一言で言っても、純氷や天然水氷といったかき氷には天然氷という表記は使えないのです。天然氷にしか天然氷かき氷の表記ができず、この意味を知る人がこれだけいるということに、かき氷マニアの深さが実感できるよう。
たまたま通りすがったという人より、「ああ、ここだ」と、ここを目当てにして来たという人がほとんどで、お店があるのがそんなに好立地というわけでもなく、それでも引っ切り無しに人が訪れているのは、天然氷の価値が解っているのだろう。
この場所で、オープンからわずかの間でここまで人が来るのは口コミの力が本当に大きい。
冷凍庫から取り出した松月氷室さんの美しい天然氷。
ちのわさんでは、冷凍庫で保管した天然氷を使う2~3時間前に外に出し、削りやすい柔らかさにしていく。
自然の力と人の力による途方もない手間と時間をかけた合作品。
松月さんの天然氷がここ川越にあるということがやっぱり信じられないよう。
ちのわさんのかき氷作りは、1層、2層、3層、盛りに盛って3層からなるかき氷。高さを出すため倒れないように削った氷を手で固めるお店もありますが、ちのわさんのかき氷はまったく削ったナチュラルなままで層を作っていくために、崩れないよう細心の注意を払いながら高さをだしていく。固めないということは、氷本来のふわふわ感が楽しめ、柔らかい食感が存分に感じられる。1層削ってはシロップをかけ、次の層を削り載せてはまたシロップをかけ、重心を意識しながらさらに高さを作っていき、まるで巨大建造物を造りあげるような見事さで最後の層を削ってシロップと仕上げを施したら出来上がり。
氷を固めていないので、運ぶのも神経を使う作業。
そして食べるのも流儀が必要で、大胆にスプーンを入れると崩れる心配があるので、慎重に、ゆっくりと、ふわふらの氷にさくりとスプーンを入れてください。
口の中で広がる氷は、自然の旨味が感じられて、自然の恵みを頂いている感覚になる。
日光天然氷の「松月氷室」さんは、明治27年創業。
天然氷を作っている蔵元は、現在全国で5軒しかなく、そのうちの1軒が日光にある松月氷室さん。埼玉県では長瀞の「阿佐美冷蔵」さんが有名。氷を作る氷池の規模で言ったら、日本で一番大きいのが松月氷室さんでしょう。
(松月氷室さんの氷池)
「天然氷」は、意外にも歴史が古いことを知っているでしょうか。
昔は全国各地に氷室があり(氷を作るなら天然氷という方法しかなかった)、なんと日本書紀にも氷室の記述があるのです。
日本書紀によると、仁徳天皇の弟にあたる額田大中彦皇子が闘鶏野に狩りをして野原の中にある庵を見つけ、使者に視察させたところ氷室であることを知り、関係者を呼び、その状態はどのようか、さらに何に使用するのかと、大変興味深く尋ねている様子が伺える。早速、皇子がその氷を御所に献上したところ、天皇は大変に喜ばれたと記されている。
貯蔵方法については土を一丈あまり掘り、草でその上を覆い、さらに茅・荻を厚く敷いて、氷を取ってその上に置くと記されている。夏を経ても氷は解けないということであり、その用途としては暑い季節に水や酒に浮かべて使うと記されている。
(「天然氷の歴史と今 ~究極のエコロジー産業をおって」より)
氷室、という地名が残る場所はおそらく氷室があったのだろう、山が多い日本ではごくごく自然な産業として氷室が定着していた。日光にもかつてはたくさんの天然氷に蔵元がありました。意外にも埼玉県にも昔は30軒以上の「天然氷」の蔵元があった。
今では氷製造も機械化され、手間の掛かる天然氷を作るのは限られた5軒のみになりましたが、だが、数が少なくなって逆に価値が上がることはよくあること。
天然氷の自然の旨さが再評価され、年々需要は高まる一方。
天然氷とは、一言で言うと、「天然の清水を、天然に凍らせたもの」。
天然氷を作るには、まず自然環境が整っていることが第一条件。
山間で、綺麗な湧き水が流れ出ているところで、水が溜まる場所があり、周りに木が茂って日陰があり、気温が下がる土地、雪が降り過ぎないことが必要。
さらに言えば、池の周りには住宅や工場などがない自然しかないような場所であること。(水に影響するため)
こう考えると、現在天然氷の蔵元が5軒しかないというのもある意味納得できるかもしれない。
天然氷作りは、毎年10月頃に池を綺麗にするところから始まり、ミネラルを豊富に含んだ湧き水を山間の氷池に引き込み、冬場に2週間から20日ほどかけて、自然の環境で15cmの厚さまで凍らせていく。
電気やガスで急速に水を凍らせる市販の大量生産の機械製造氷とは全く違い、自然の流れ、力で作る天然氷は、ゆっくり時間を掛けて凍っていくため水泡や不純物が抜けて硬さが増し、透き通った透明度で、まるでダイヤモンドのような美しさになっていく。
一年の間でも天然氷は12月~2月の時期しか作ることができず、期間中は自然の力をサポートするように、氷の上に塵やホコリ、落ち葉や雪を除去する作業で大勢の人が管理に気の抜けない日々を送ることになる。
凍っては切り出し、凍っては切り出し、松月氷室さんでは例年、一年に2回氷の切り出しを行っている。
自然の環境と力で凍っていく氷を、人がコントロールしながら作り上げていく。
そして出来上がる天然氷の特長は・・・氷自体が抜群に旨いのはもちろんのこと、硬くて溶けにくい、かき氷にして食べた時にキーンと頭が痛くならない、ふわふわの食感などが挙げられます。
天然氷はその年によって微妙に硬さが変わり、その年の寒さの進行具合といった自然環境そのものが形になっているのが分かる。
松月氷室の氷を扱いたいというお店は、それこそ全国に数えきれないほどある。あの氷を使うだけでドリンクの味が飛躍的に向上したり、ミネラルたっぷりの氷はドリンク・料理など全てにおいて相性良く、味を引き立たせる。
しかし、天然だからこそ、手に入らない。
天然氷を作る氷池の大きさは決まっていて、古くからの取引先があって、今以上に供給することがなかなか難しい。
氷を卸してもらえないかという問い合わせは、昨年だけで800件以上、あのかき氷に並ぶ人のように殺到していますが、そのほとんどを断っている現状で(氷の量は限られているため)、新規の取引開始はごくごく限られている。最近2~3軒新たに卸し始めた先としては、京都の超有名洋菓子店「マールブランシュ 北山本店」さんが挙げられる。そして、川越のちのわさんです。
仕事の関係としてなら、松月氷室さんとちのわさんはこうして始まっていなかったでしょう。冒頭からの問い、なぜ、川越で天然氷を扱えることになったのでしょう。
ちのわの柿澤さんは、長年アパレル関係の仕事をしていて、定年後には蕎麦屋かうどん屋かと自身のお店を開くことを秘めていた。
それが・・・2016年の11月のことだった。
以前からの知り合いである天然氷の研究家の先生と松月氷室さんの現場に見学に訪れた。手間をかけて作られている天然氷、そして食べた時の圧倒的旨さ。感動に浸っていた時に、なんと松月氷室さんが氷を卸してもいいという話しになり、
「この氷を川越で扱えるなら他の選択はない、かき氷屋でいく」
蕎麦かうどんかと想像していた進路は一気にかき氷へと舵を切った。
見学に行った11月から猪突猛進に突き進み、5ヶ月後にはお店をオープン。あっという間にここまできた。
「松月氷室の氷を新規で扱える」、これがもう全てと言っていいくらいの強み。
ちのわのある場所が商業的立地として好条件ではないと書きましたが、いや、実は一方で、こんなに物語性のある場所もないとも思うのです。
日光の天然氷が、日光所縁の喜多院の近くで食べられる、日光天然氷としてこんなにストーリー性のある場所は川越でここ以外にない。
「川越」と「日光」。
徳川家康は、1616年に没すると久能山(静岡県)に葬られましたが、翌年、遺言により日光に営まれた社殿「天照大権現」としてまつられました。この移送の途中、徳川三代の侍講であった喜多院第27代住職天海僧正により川越で法要を行いました。このことから、1633年、喜多院境内に東照宮が建立されましたが、まもなく川越大火によって類焼したため中院の地に再建されたのが現在の仙波東照宮です。
仙波東照宮の本殿、拝殿、唐門、石鳥居などが国指定重要文化財となっており、歴代川越藩主が奉納した石灯籠が社殿を囲むように建立されています。
仙波東照宮を参拝し、ちのわで日光天然氷を食べる、こんな川越ツアーが誕生したことが画期的。
さらに、日光の有名な杉並木は、川越藩主松平伊豆守信綱の義父が造ったものという繋がりもある。
2017年になって川越と日光がこうして繋がったことに、家康公もさぞや驚いていることでしょう。。。
そもそも、店名の「ちのわ」の由来も、長い歴史の中から掘り起こしたもの。
6月30日(晦日)の夏越の祓いに用いられる茅(ちがや)で作った大きな輪を「ちのわ」と言い、各地の神社に見られます。参拝人は病災の祓いとしてこれをくぐります。酷暑を乗り切る涼を届ける意味合いで、「ちのわ」と名付けられました。
(川越熊野神社の茅の輪くぐり)
深く知ることでとんでもない価値に気付いたちのわさんですが、正直に告白すると、お店をパッと見た感じではその真価が解らずにいた。
お店という割には簡素で、今流行りのかき氷と言えば、具材が豪華で華やかなものであるし、シンプルな佇まいのかき氷の価値やいかに・・・と思っていた。
人の縁がなかったらきっと取材していなかったかもしれない。いや、間違いなくしていない。。。
そして、ここまで凄いお店が出来た現実を理解するのがずっと先のことになっていただろうと思う。
柿澤さんは各方面に川越の繋がりがありますが、「異文化交流クラブ川越」の小松さんとは昔からの悪友。異文化交流サロンにも柿澤さんは参加している。
(「異文化交流クラブ川越」2016年9月22日異文化交流サロン もっこ館カフェテラス
http://ameblo.jp/korokoro0105/entry-12206120931.html)
そして、石原町の「Maple Leaf」さんの英会話教室に小松さんと一緒に参加した時にいたのが、「古民家恵比寿屋」の大家、齋藤さん。柿澤さんと知り合い、齋藤さんから「凄い美味しいかき氷のお店ができた」と教えてもらったのが、ちのわさん。
(「古民家 恵比寿屋 溝井家から留学生リーちゃんへ舞子風体験プレゼント」2017年6月3日
http://ameblo.jp/korokoro0105/entry-12283877554.html)
ちのわさんの今後の展開としては、オリジナルシロップの開発には、川越産農産物を積極的に使っていきたいと話し、川越のお野菜やフルーツを使ったシロップが登場していくかもしれません。
という意識は川越Farmer'sMarketと親和性高く、いろんな農産物の橋渡しをしていきたいところです。
さらに・・・ゆくゆくはの構想として、柿澤さんは、「自分たちで天然氷を作りたい」という夢も抱いていて、自家生産による天然氷のかき氷屋という途方もない道を進んでいきます。
川越の日光という場所で、日光の天然氷を扱う川越のお店。
かき氷という架け橋が、お互いの距離を縮めていく。
「日光天然氷 ちのわ」
川越市小仙波町1-2-7
12:00~16:00
定休日 月・木
(月・木が祝日の場合は営業します)
090-3348-2434
10月半ば頃まで営業、年明けは4月半ばオープン予定