竹中平蔵パソナ会長「8時間労働なんてあり得ない話」「高プロは残業概念なくなるから残業代払わない」 | すくらむ

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 前回の記事「竹中平蔵パソナ会長「残業代を出すのは一般論としておかしい」「労働者でなく私のニーズで高プロ提唱」」の続編を、というリクエストがあったので、竹中平蔵パソナ会長の直近の書籍の言説をいくつか見ていきたいと思います。

 まず、数日前の6月21日に発行されたばかりの竹中平蔵パソナ会長著『この制御不能な時代を生き抜く経済学』(講談社+α新書)からです。

 

 私は東大が復活するには民営化するのが手っ取り早いと考えている。

 日本の有力大学は膨大な遊休資産を持っている。とくに東京大学や京都大学は不動産を含め、莫大な資産を保有する。しかし、こうした資産の使い道がこれまで限られていた。教育や研究目的以外に使用することができなかったのである。私は各大学が持つ資産をもっと自由に活用させるべきだと思う。たとえば、民間企業に土地を貸し、ショッピングセンターでも老人ホームでも運営させればいい。極端な話、貸しビル業をしてもいいかもしれない。そこで生まれた収益を教育や研究開発費に回せばいいのである。
竹中平蔵パソナ会長著『この制御不能な時代を生き抜く経済学』(講談社+α新書)


 さすが竹中パソナ会長です。国立大学は民営化すれば復活するんだけど、とりあえず大学は広大な土地とか切り売りしたり、ショッピングセンターを運営して稼いだお金を教育や研究開発費に回せばうまくいくとのこと。わかります。大学が運営するショッピングセンターや、民営化された大学で、パソナの派遣労働者が多く働くことができるというわけですね。

 この話、冗談なのかと思っていたら、安倍政権の未来投資会議なるものの議員にしっかり入っている竹中パソナ会長が、「第四次産業革命推進に不可欠な4つの政策」のうちの1つとして「研究開発のための大学資産活用」をあげて、すでに安倍政権下で実際の政策として推進しています。残業代ゼロ=高度プロフェッショナル制度も竹中パソナ会長のニーズでしたが、「未来投資会議」での国立大学資産の活用も竹中パソナ会長のニーズで推進されているのですね。竹中パソナ会長のニーズでいろいろな政策を展開する安倍政権、さすがです。

 さらに突っ込むと、安倍政権は軍事費や軍事研究予算は毎年増やしていますが、国立大学法人の基盤的経費(運営費交付金)は毎年削減しています。必然的に研究環境は悪化して論文数や「論文の質の高さを示す指標の一つである被引用数Top10%補正論文数ランキングについては大きく低下」と日本の科学技術力が大きく衰退しているとする「科学技術白書」(下の表)を安倍政権自ら6月12日に閣議決定するなど認めざるを得なくなっているのです。安倍政権が研究の基盤的経費を毎年削減して日本の研究環境を悪化させておいて、国立大学はもうダメだから民営化するしかないとか、ショッピングセンターを運営しろとか、さすが竹中パソナ会長としか言いようがありませんね。

 



 それからこの出版されたばかりの竹中パソナ会長の本にはこんなことも書いてあります。

 日本の消費税が景気に打撃を与えるのは、高額商品に対する軽減税率がないことが大きい。

 年収400万~800万円程度の中間所得層に対する税率を引き上げるべきである。「普通の人」にもっと税負担をしてもらわないと、日本の税制度は成り立たない。
竹中平蔵パソナ会長著『この制御不能な時代を生き抜く経済学』(講談社+α新書)

 さすが富裕層の代弁者、新自由主義者の竹中パソナ会長です。消費税が富裕層に打撃を与えたり、中間層こそ税負担せよなどと現実とは真逆のことを平然と主張するなんて普通の人間は真似できません。

 



 あの日本経済新聞社でさえ「低所得者ほど負担割合高く」としたグラフ(上記)を示し、現状の消費税率8%の負担割合は、年収200万年未満7.2%で年収1,500万円以上は1.6%と4.5倍も低所得層の方が負担が重いことを指摘しています。この最悪の逆進税の消費税を増税して安倍首相は教育や社会保障を充実するとしていますが、そもそも高所得層より低所得層から4.5倍も収奪する消費税の増税を先行させてしまうと富の再分配が逆方向になり生活破壊が進むだけです。

 

 



 また、上のグラフにあるように、所得税は年所得1億円を超えると軽くなるという異常な状況にあります。さらに、消費税と住民税と社会保険料を積み上げると年所得100億円超の富裕層の負担は、下のグラフにあるように年所得100万円の貧困層の負担より軽くなります。中間層が税負担をしていないなどと言う竹中パソナ会長の主張は事実と違います。富裕層が税負担をしていないことが問題なのです。そもそも、竹中パソナ会長のニーズで労働者派遣法など労働法制が改悪され、雇用破壊が進み、中間層が細っていくことで貧困と格差が拡大しているのに、さらに中間層を細らせて貧困を増やして、富裕層のみを太らせようとする竹中パソナ会長、すさまじい人間としか言いようがありません。そういう意味では、残業代ゼロ=高度プロフェッショナル制度年収300万円台まで適用可能ですから、竹中パソナ会長は、税負担だけでなく中間層から残業代と命と健康も奪おうとしていることになり、この点でも中間層没落・貧困層拡大へ一貫して安倍政権を支えているわけです。

 そして、竹中パソナ会長の必殺技もこの本で炸裂しています。

 

 間もなく「平成」という時代が終わろうとしている。30年間の平成時代は、経済の面では「失われた25年」と呼ばれることが多い。その総括は、私は間違っていると思う。いいときも悪いときもあった「まだらな25年」という呼び方が正しいと考えている。とはいえ、最も反省すべきは、この間の構造改革のスピードがきわめて遅かったことだ。
竹中平蔵パソナ会長著『この制御不能な時代を生き抜く経済学』(講談社+α新書)


 今の日本経済が上手くいっているとはさすがの竹中パソナ会長も言えません。竹中パソナ会長が先頭になって推進してきた構造改革で良くなるはずの日本経済がなぜ未だダメなのか?と問われると、竹中パソナ会長が最近よく繰り返しているのが「構造改革のスピードが足らないから日本経済はダメなんだ」というものです。さんざん好きなように自ら進めた構造改革(労働法制改悪等)で「失われた25年」をもたらしておきながら(下の4つのグラフ参照)、反省すべきは構造改革のスピードがきわめて遅かったことにするって、もうとてもない詭弁でしかありません。もしもっと構造改革のスピードが速くなれば下のグラフで言えば、労働者の実質賃金はもっと急降下し、大企業の内部留保はさらに急角度で上昇し、ワーキングプアはもっと増加しアメリカと肩を並べる格差大国になるだけです。さすが、派遣労働者から強奪し「改革利権」「究極の天下り」「学商の独り勝ち」の竹中平蔵パソナ会長だし、辛い思いする人、痛みこうむる人がいる格差社会こそ経済にプラス、社会保障は集団的なたかり若者は「貧しさをエンジョイしたらいい」と豪語する竹中パソナ会長だけのことはあります。

 

 

 

 



 次に今年3月1日に発行された『経済学は役に立ちますか?』(東京書籍、2018年3月1日発行)です。

 

 長時間労働を一律に抑えるとかなり大変なことになって、ベンチャー企業が生まれなくなる恐れがあります。先日、ある女性ベンチャリストが、「私は24時間、死にものぐるいで働いてここまできたのよ。なぜ、それを縛るの」と言っていましたが、ベンチャー企業で8時間労働なんてあり得ない話です。
竹中平蔵パソナ会長著『経済学は役に立ちますか?』(東京書籍、2018年3月1日発行)

 

 わかります。長時間労働を一律に抑えたくない、8時間労働なんてあり得ない、だからこそ、休憩なしの24時間労働を48日間連続させても合法になる高度プロフェッショナル制度の旗振り役を竹中パソナ会長は果たされているのですね!

 

 私は奨学金を一律に給付型にすることは賛成できません。

 学生時代に受けた奨学金返済ができずに破産してしまうのは、収益率の高いはずの投資を回収できないということであり、その人が投資に失敗したことを意味します。それはあたかも企業が設備投資に失敗して破綻するようなもので、すべての奨学金を給付型にするということは、銀行は企業に無償で融資すべきだという議論に通じる。今現在でも奨学金を受けて勉強しない大学生はたくさんいるので、すべてを給付型奨学金にすれば大学生はますます勉強しなくなる。つまり、極端な言い方をすれば、ただでお金をもらうわけですから勉強する必要が低下するという逆のインセンティブを与えるような気がします。
竹中平蔵パソナ会長著『経済学は役に立ちますか?』(東京書籍、2018年3月1日発行)

 

 

 これも強烈です。「奨学金を給付型にするということは、銀行は企業に無償で融資すべきだという議論に通じる」とか、「給付型奨学金にすれば大学生はますます勉強しなくなる」って、北欧などにおいて、「教育への投資が将来の経済成長につながり、税収が拡大し、教育にかかるコストよりも教育で得られる利益の方が大きく、平等と経済の活力というものは相反するものではなく、教育機会の平等があってこそ、活力ある社会が生まれている」ことについて、竹中パソナ会長はきちんと勉強した方がいいと思います。しかし、新自由主義者の貧相な考え方がつくづく日本社会をダメにしていることがよくわかる言説でもあります。しかもこの竹中パソナ会長が安倍政権の「未来投資会議」の中心メンバーというのもすさまじい話です。下のグラフは先ほど紹介した政府の「科学技術白書」の中のものですが、資源のない日本は科学技術力こそ重要だと安倍政権自身も言っているのですが、竹中パソナ会長のような貧相な考え方によってますます日本をダメにしている一端がよくわかるグラフです。

 



 今年1月18日に発行された『最強の生産性革命 時代遅れのルールにしばられない38の教訓』(PHP研究所)からです。

 

 実際、派遣にはいろいろメリットがあります。人間関係に囚(とら)われなくていいし、転勤や残業もない。仕事より子育てを優先したい人などには最適でしょ。一人の人生の中でも、ライフステージによって今は残業をしたくないとか、当面は午前中だけの勤務にしたいとか、働き方のニーズはいろいろあると思うんです。そういう多様な働き方を認めるということは、自由な生き方を認めることとほとんど同義なんですよね。
竹中平蔵パソナ会長著『最強の生産性革命 時代遅れのルールにしばられない38の教訓』(PHP研究所、2018年1月18日発行)

 

 派遣労働者は「人間関係に囚(とら)われなくていい」などいろいろメリットがあるという竹中パソナ会長ですが、下記のように派遣労働者のリアルな生の声を900人近くから集めたことがありますので、ぜひ竹中パソナ会長にきちんと読んでもらいたいものです。

【派遣労働者の声1】部品扱い、餓死しかけた、父が亡くなっても忌引き休暇も香典もなし、3年ごとに蟻地獄へ突き落とす派遣法改悪は許せない
【派遣労働者の声2】「派遣法改悪で仕事・生活・命を奪わないでください」 ? 派遣労働者の声聞かず政治は「派遣切り」進めるのか
【派遣労働者の声3】将来への不安、閉ざされる未来、派遣法は本当に癌だ、早死にできるよう病院に行くのをやめた
【派遣労働者の声4】派遣法改悪は3年ごとに必ずクビ切る人権侵害法案、派遣途中での「派遣切り」が横行しているのに派遣期間満了で次の仕事が安定的にあるなど幻想にすぎない
【派遣労働者の声5】派遣法改悪は私たちに「生きるな」と言っているのと同じ、瞬く間に仕事失い、結婚や出産どころか使い捨てられ鬱病へと導く改悪に日本の未来はない
【派遣労働者の声6】ホテルにつきあえば正社員、断れば派遣、3年でクビ切る派遣法改悪で国は私たちに「自殺ほう助」を行うのですか?
【派遣労働者の声7】交通費も制服代も自腹、家族の葬式も墓参りも行けず、3年ごとに居場所まで奪う派遣法改悪でどんなに頑張っても派遣労働者は人として扱われない

 

 労働組合にとっては、非正規の待遇を向上させることで、自分たちの待遇が引き下げられるおそれがある。だから反対しているわけです。いわゆるマルクス主義の理論で言えば、資本主義は資本家が労働者を搾取するという構図でしたよね。でも今起きていることは違うんです。正規社員が非正規社員を搾取している。いわば「労労搾取」であり「労労対立」の構図です。

 生産性より高い給料をもらい、絶対にクビにならないという雇用で過剰に守られている正規社員と、その犠牲になっているその他の労働者という関係です。これはまさに「労労対立」ですよ。

 地方議会でやったらいいと思うのは「土日県議会」や「土日市議会」。そうするとPTAと同じです。ふつうに働いている人が、別の仕事をしながら自分たちが住む街のことを決めればいい。この変化は大きいでしょ。
竹中平蔵パソナ会長著『最強の生産性革命 時代遅れのルールにしばられない38の教訓』(PHP研究所、2018年1月18日発行)

 

 正規社員が非正規社員を搾取してとか、地方議会はPTAと同じように兼業で週末にやればいいとか、これが安倍政権の政策の舵取りをしている産業競争力会議、国家戦略特区諮問会議、未来投資会議で中心になって役割を果たしている竹中平蔵パソナ会長であることをみなさんよく認識された方がいいと思います。

 下記は昨年2月18日に発行された『第4次産業革命!日本経済をこう変える。』(PHPビジネス新書)からです。
 

 ホワイトカラーに残業代を支払わないのではなく、ホワイトカラーには、残業という概念自体がない

 

 同一労働同一賃金と言うと、待遇の悪い非正規の人たちの待遇改善に注目が集まるが、それはとりも直さず、守られすぎて給料が高すぎる正社員の給料を下げることでもある。この不都合な真実については、多くの人は語らないが…。
竹中平蔵パソナ会長著『第4次産業革命!日本経済をこう変える。』(PHPビジネス新書)

 

 デジタル大辞泉によると、「ホワイト‐カラー(white-collar)《白い襟のワイシャツを着ているところから》雇用従業員のうち、知的・技術的労働や事務・販売の仕事についている者。→ブルーカラー」ですが、「ホワイトカラーに残業代を支払わないのではなく、ホワイトカラーには、残業という概念自体がない」というのは、先の記事「竹中平蔵パソナ会長「残業代を出すのは一般論としておかしい」」と同じような次元にある竹中パソナ会長の妄想ですね。そもそも残業という概念自体もおかしいし、ましてや残業代を出すなんてことは一般論としておかしいから残業代ゼロ=高度プロフェッショナル制度は当然だと竹中パソナ会長の頭の中ではなるわけですね。残業概念もなくなり、残業代もゼロですから、定額働かせ放題・過労死促進法のできあがりです。そして竹中パソナ会長は派遣法と同様に高度プロフェッショナル制度を小さく産んで大きく育てる必要性を力説するわけですね。最後のところにある安倍政権の「働き方改革」の「同一労働同一賃金」がじつは正社員の賃下げに過ぎないというのはとても本質を突いたわかりやすい解説です。

 

 最後に、興味深い竹中パソナ会長の指摘を紹介します。

われわれが行っていた経済財政諮問会議は、総理を中心に10人ほどで構成され、そのうち4割が民間人だった。各省庁を代表する大臣は官僚の立場を代弁することもあるが、議論ではつねに民間人のほうが優勢だった。総理がそこで「そのとおりだ」といえば、それで決まる。これこそが、改革を実現するための方法なのである。(竹中平蔵)

文藝春秋編『アベノミクス大論争』(文藝春秋、2013年3月20日発行)

 竹中パソナ会長は、今の安倍政権でも産業競争力会議、国家戦略特区諮問会議、未来投資会議で中心的な役割を果たしています。上記の文章の「民間人」というのは竹中パソナ会長をはじめとする財界人ということです。竹中パソナ会長はじめ財界人のニーズに基づいて改革が実現しているのです。今回の残業代ゼロ=高度プロフェッショナル制度も、残業代を払いたくない、いや残業そのものの概念すら消し去って、24時間死にものぐるいで労働者を働かせる「世界で一番派遣会社パソナが活躍しやすい国」にしたいがための改革です。そして残業代ゼロ=高度プロフェッショナル制度が一端導入されてしまえば、以下のようにすべての労働者の残業代が失われていくことになってしまいます。労働者のニーズは残業代ゼロ=高度プロフェッショナル制度の廃案しかありません。

 



(井上伸)