[近江国野洲郡] 御上神社



■表記
天目一箇神(アメノマヒトツノカミ)

他に天之麻比止都禰命(アメノマヒトツネノミコト)、天久斯麻比止都命(アメノクシマヒトツノミコト)、天久之比命(アメノクシヒノミコト)、天戸間見命(アメノトマミノミコト)など

*天之御影命と同神とする(御上神社 社伝による)
*天津麻良(天津真浦・天津麻占)と同神とする説も
布刀玉命と同神とする説も(「古語拾遺」による)



■概要
天照大神の孫神であり、日本最初に製鉄・金工の表ぞうとして現れる神。父は五男三女神の一柱である天津彦根命

◎神名の「目一箇」とは「片目」のこと。鍛冶を行う際に炎や鉄の色でその温度を測るのに片目をつむり、また跳ねた火の粉で片目を傷失する職業病があったことからとされています。

◎紀の一書 第二に天目一箇神が登場します。
━━高皇産霊尊が大物主神に「娘の三穂津姫を妻とし、八百万神を率いて皇孫を奉り護るように」と勅し降臨させた。そして紀国の忌部の遠祖 手置帆負神(タオキホオイノカミ)を作笠者(かさぬい)に、彦狭知神を作盾者(たてぬい)に、天目一箇神を作金者(かなだくみ)に、天日鷲神を作木綿者(ゆうつくり)に、櫛明玉神を作玉者(たまつくり)に定めた。太玉命の弱々しい肩に太襷(たすき)を掛けて御手代とした。大物主神を祭る初めはこれである━━(大意)

◎「古語拾遺」には以下のように記されます。
━━天照大神が素戔嗚神に怒り天石窟に籠ってしまった。そこで思兼神は太玉神に和幣(にぎて)を作らせるなど多くの神々に各々の役割を分担させたが、天目一箇神には種々の刀・斧・鉄鐸(さなぎ)を作らせた━━(大意)

これより先に筑紫・伊勢の両国の忌部の祖
━━太玉命が率いる神名は、天日鷲命(阿波国の忌部等の祖)、手置帆負命(讃岐国の忌部の祖)、彦狭知命(紀伊国の忌部の祖)、櫛明玉命(出雲国の玉作の祖)、天目一箇命(筑紫・伊勢の両国の忌部の祖)━━

また別の箇所には後裔が記されます。
━━崇神天皇の御世、天照大神の神霊と同殿にあるのはその神威を畏れ、斎部(忌部)氏に石凝姥神の末裔と天目一箇神の末裔の二氏を率いさせて鏡を鋳造し剣を作った。そして倭笠縫邑に磯城の神籬を立て、鏡(天照大神)と剣(草薙剣)を遷した━━(大意)

◎「播磨国風土記」の託賀郡の条に以下のように記されます。
━━当地の女神 道主日女命が父の分からない子を産んだが、子に盟酒(うけひざけ)をつぐ相手を諸神から選ばせたところ、天目一命についだことから天目一命が子の父であると分かった━━(大意)

◎記には登場しないものの、天石屋(天岩戸)神話の段で以下のような記述が見られます。
━━まず常世長鳴鳥を集め鳴かせた。そして「天安之河上」の「天堅石」を取ってきて、「天金山」の鉄を取ってきて、鍛人(かぬち、=鍛冶職人)天津麻羅を探し求め、伊斯許理度賣命に鏡を作らせた…━━(大意)

この「天津麻羅」が天目一箇神と同神であろうと考えられます。この記述では伊斯許理度賣命と共同作業にて鏡を作ったとも捉えられますが、鏡の材料となる銅を伊斯許理度賣命に供給した、或いは天津麻羅は戈を作ったがそれが欠落しているという説も。

これとは別に「鍛人天津麻羅」と命などの尊称が無いために、神ではなく一般職人とする見方もあるようです。

この天津麻良について「先代旧事本紀 天神本紀」には、「五部人」の一人に物部造等祖 天津麻良と見えます。また同梶取等の中に船子倭鍛師等祖 天津真浦・笠縫等祖 天津真占が見えます。綏靖紀即位前紀十一月条に倭鍛部天津真浦が鏃を造ったとあります。

◎「御上神社沿革考」(明治三十二年)によると、「天之御影命」が正式名称、「天目一箇神」は別称としているようです。

◎「先代旧事本紀 国造本紀」には、神武東征後の論功行賞として天目一命を山代国造に任命したとあります。
ところが同書では別に阿多根命を国造に任命したとあり、おそらくは天目一命の後裔の阿多根命が任命されたということであろうと推されます。さらに末裔が天武天皇十四年に忌寸姓を授かっています(下記の「山背忌寸」)

多度大社を中心とした北伊勢、さらに尾張や美濃、飛騨にといった辺りに伝わる「一目連(いちもくれん)」という神と同神とされます。
これは近世において俗間でその霊力を信じられていた神。美濃では国じゅうを光り回るとされ、北伊勢では激しい風雨を起こし、転じて突風やつむじ風、建築物の倒壊等の現象を言うようになりました。

多度大社では「別宮」として、一目連神社が本宮と正対し鎮座しています。当社案内には以下の内容が示されています。
━━当地方一円では、天目一箇神が御稜威を発揚される際、時に臨んで御殿をお出ましになると言い伝えられ、古来御社殿には御扉を設け無い特殊な構造となっている━━

これはご祭神である天目一箇神が本来は片目の竜であり、竜と化した際にいち早く神威を示すために自由に出入りできるようにと配慮したというもの。

◎日本各地に「片目」の生物にまつわる民話が見られます。上記の北伊勢の「一目龍」以外にもら紀州の「一本だたら」、肥後の「一目八幡」、各地の「一つ目小僧」や「片目魚」、「片目蛇」など。天目一箇神と習合したものも多く見受けられます。


■系譜
父の天津彦根命以外に出自や肉親・近親者の記述は文献等には見られず不明。

◎上記の通り「古語拾遺」には筑紫国・伊勢国忌部氏が後裔であるとされます。

御上神社は天之御影命(天津彦根命)の嫡流である三上氏が奉斎する社。

◎「新撰姓氏録」に掲載される後裔氏族は以下の通り
*額田部湯坐連
左京 神別 天孫 天津彦根命子明立天御影命之後也
*三枝部連
左京 神別 天孫 額田部湯坐連同祖
*庵智造
左京 神別 天孫 額田部湯坐連同祖
*菅田首
山城国 神別 天神 天久斯麻比止都命之後也
*山背忌寸
山城国 神別 天孫 天都比古祢命子天麻比止都祢命之後也
*山直
摂津国 神別 天孫 天御影命十一世孫山代根子之後也
*葦田首
大和国 未定雑姓 天麻比止都乃命乃後也


■祀られる神社(参拝済み社のみ)
[伊勢国員弁郡] 多度大社 別宮 一目連神社
[丹後国加佐郡] 彌加宜神社(大森神社)

[近江国野洲郡] 御上神社
[近江国野洲郡] 御上神社 奥宮

[大和国添下郡] 菅田神社
[大和国城下郡] 鏡作麻気神社

[大和国十市郡] 天一神社(桜井市鹿路)


*配祀・合祀、境内社として祀られる神社
[伊賀国] 足見田神社(合祀)
[近江国蒲生郡] 鏡神社(蒲生郡竜王町)(配祀)
[大和国城下郡] 久須須美神社(村屋坐彌冨都比賣神社 境内社)


*関連する神社

[飛騨国] 剱緒神社

[伊勢国飯高郡] 天麻神社(天津麻良神を祀ると考えられる)

[伊勢国鈴鹿郡] 庄内神社(鈴鹿市東庄内町)(原始は天目一箇神を祀っていたか)

[丹後国加佐郡] 麻良多神社(天津麻良神を祀ると考えられる)
[大和国添下郡] 菅田比賣神社
[大和国吉野郡] 天一神社(東吉野村日裏)

[阿波国] 立岩神社(天津麻羅を祀る)




[丹後国加佐郡] 麻良多神社