どの子供でも幼い頃には誤飲の危険性があります。ところが、発達障害のある子供の場合、食べ物ではないものを無性に食べたくなる、または食べてしまう傾向が高いことがわかっています。
Pica(異食症)と言う病気で、目につくところに食べたいものがあれば衝動が抑えられません。
A君は小学校に通う自閉症の男児です。口に入るものはなんでも食べてしまうため、Picaという診断を受けました。環境変化などでストレスが溜まるとその行動がエスカレートしてしまうので、家庭でも学校でも注意が必要です。
Picaには氷、生のデンプン(生のジャガイモ、米など)などの比較的穏やかなものから、土、石、プラスチック、体毛、糞便など普通では絶対食べちゃいけないものまでを欲するタイプがあります。
発達障害がなくてもPicaが発症することがあります。それが、鉄、亜鉛、ビタミンB12、葉酸欠乏による貧血にともなうPicaです。有名な例では、鉄欠乏の妊婦さんが氷を欲しがることが知られています。
6407人のPicaの症状を持つ人と10,277人のそうでない一般人を比較したメタデータ解析によると、Picaだと貧血である確率が2.4倍でした。血液検査結果で見ると、ヘモグロビン値が−0.65 g/dL、ヘマトクリット値が、−1.15%、血中の亜鉛濃度が−34.3 μg/dL、一般人に比べて低いことがわかりました。
Picaは重金属の一種、鉛中毒でも起こります。
鉛は、塗料、電池、有鉛ガソリン、鉛合金、カーテンの重りなどに今も使われています。日本では1980年代末頃まで、水道管の給水管新規工事には鉛管も使われていました。1995年には水道給水管への鉛の使用は全面的に禁止されましたが、もしそのような水道管が今も使われていて、飲料水として利用されているなら、鉛が鉛イオンとして溶け出し、長期間飲むことで体内に鉛が蓄積され鉛中毒になる可能性があります。ある種の漢方薬が高濃度の鉛を含み、服用者が鉛中毒になった例もあります。
大人に比べて子供の鉛吸収率は高く、鉛中毒と自閉症の関係も示唆されています。
未就学児童にPicaがどのくらい起こっているかを調べたデータがあります。発達障害を持つ3−5歳の子供を、自閉症スペクトル障害(ASD、1426人)、ASDではないがASDの症状を持つ(1223人)、ASDの症状を持たない発達障害(571人)、の3つのグループに分けて、発達障害ではない同年代の子供1663人と比べた結果、Picaの発症率はそれぞれ23.2%、16.3%、4.5%、3.6%でした。これをもとに出したPicaを発症する確率は一般幼児に比べて、ASD児が8倍、ASDではないがASDの症状を持つ幼児が3.6倍、ASDの症状を持たない発達障害の幼児は1.2倍という結果になりました。
つまり、ASDとASDの症状を持つ発達障害児は、食べ物ではないものを食べてしまう確率が高いことが統計データで改めて示されたのです。
もしあなたのお子さんがこの範疇に入るなら、管理栄養士としては、鉛を含む重金属を家に置かない、とんがったもの、口に入る小さな部品、おもちゃを手の届くところに置かない、化粧品、医薬品は鍵のかかる場所で管理、など飲み込むと体に悪いものを排除する環境整備をお勧めします。
意外かもしれませんが、土だとか糞便を多少食べても、余程汚染された土や、感染症にかかった人の糞便でない限り大したことにはなりません(もちろん食べないほうが良いですが)。
もしあなた自身が発達障害ではないのにPicaの傾向があるなら貧血なのかもしれません。牛肉やレバーで鉄分、亜鉛、葉酸、ビタミンB12の補給をお勧めします。それでも良くならない場合は、かかりつけの医師にご相談くださいね。
私は、遺伝学・栄養学の専門家です。偏食、自閉症、問題行動のある方たちとの関わった経験をもとに、誰でもできる、ちょっと意外な「脳のバランスを整える」科学的な手法をまとめて、「発達障がい食環境支援士講座」という3時間の講座を作りました。
講座はオンライン、または全国のカルチャースクールで受講でき、「発達障がい食環境支援士」という資格が取得できます。
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