北海道から九州まで10分で行くとか、砲丸投げ500メートルとか、自分の足で車より速く走るとか。はたまた過去に戻るとか。
私が、物理的に不可能=「できない」と思っていることである。
「どこでもドア」や「タイムマシン」、あるいはサイボーグ的な技術革新が進み、いずれ夢やSFでもなくなるのかもしれない。でも、今のところはまだ「できない」と思われる。
そういう、今のところ、世界の殆どの人ができないだろうことは別にして、個人差でできる人とできない人がいる分野はある。
私の場合、それは「人の名前を覚える」という分野。
そういうことに長けた方を、どれだけ尊敬し、羨んできたことか。私は若い頃から物覚えは悪く物忘れは得意。あんまりひどいので歳を取っても困らないと思っていたが、甘かった。そのレベルからでも見事にどんどん悪化するのである。
アーチスト、俳優、お笑いコンビ、アナウンサー。最近の新しい人ならともかく、昔からなじみの、ずっと好きだった俳優名まで出てこなかったときには愕然とした。
加えて普段仕事場でご一緒する方の名前まで。いや、直接は関わりがなくあまり話さなくても、社内で顔を合わせたり何かを取り次いだりもするわけで。お顔は存じていても名前が出てこないことが増えて、……ヤバすぎる、と震撼した。
が、最近はもう、愕然も震撼もしなくなった。笑顔と話術でごまかしたり、カンペを作って都度都度確認したりでやり過ごす。覚えられないんだから「できない」んだから仕方ない。ま、いっか、と。
けれど、こういう「できない」はウソである。最近気付いて更に慄然とした。
宝塚にハマって早10か月ほど。花月星雪宙の5組あってそれぞれに70~80人が在籍、他に10人ほどのベテランが組をまたいで出演する。そんな大人数の全員ではないが、少なくともそれぞれのトップ、二番手、三番手さん、他目立つ方なら大体わかるようになった。
で、そのお名前、元祖キラキラネームとでも言いましょうか、どの方も凝っている。どう読んでいいのかわからない漢字も多い。だから、一般的な佐藤とか鈴木とかよりとんと頭に入ってこない……と思っていたのに。
ええ、「好き」というのはめちゃくちゃ強い。覚えちゃいました、この凄まじく物覚えの悪い私が。更にこのキラキラネームは当然芸名で、ジェンヌさんには別にあだ名がある。
例えば、芹香斗亜さんならキキちゃん、月城かなとさんならレイコさん。望海風斗さんならだいもんさん、鳳月杏さんならちなつさん。本名にちなんだり等で芸名とは全く違うことが殆ど。それも……しっかり覚え込んだ。
すごいな、私。その気になればできるんじゃん……。
そういえば昔、「冬ソナ」ブームの頃、「ビデオとか機械全くダメ!」等と言っていた自称機械音痴主婦達が、ヨン様見たさにめっちゃ使いこなすようになった社会現象があったっけ。
「できない」も、うまく人参で釣ってみたら結構そうでもないのかも。
(了)