マルトリートメントと私12.死を覚悟した出来事 | ASD【自閉症スペクトラム】女係長 鹿島じゅんの日常生活はサバイバル!

ASD【自閉症スペクトラム】女係長 鹿島じゅんの日常生活はサバイバル!

25年以上1つの会社に健常者として勤務し、係長として人の上に立つようになった私が、
どのようにASD(自閉症スペクトラム)の特性と折り合いをつけて生活しているか、
その方法をお伝えしていきたいと思います。


※自分の記憶に基づいて書いているため、
事実と違っている可能性があります。
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父が私に対して「女の子なら要らない」と言ったのは、
おそらく一緒に遊んでもつまらないから、
というのが一番の理由のようでした。

父は自分がしたい遊びを一緒に出来る、
そんな子供が欲しかったのだと思います。

だから、父と兄が遊びに行こうとする時に、
母が私も連れて行くように父に頼んでくれないと、
私はよく置いていかれていたのですが、
家族総出で出かける時にはもちろん、
私も遊びにつれていってもらうことが出来ました。

ただ、この、

「遊びに連れていってもらえる」

と、

「遊んでもらえる」

ということは、
私の家では全く、別なものでした。

父は釣りが好きで、
仕事が休みの日は車に乗って、
家族全員で遠くの川に行き、
フナ釣りをすることが多かったのですが、
現地に着いたとしても、
釣りをするのは父と兄ばかりで、
私は何もすることがありませんでした。

母も何もせずに川辺に座っているだけでしたが、
大人だったからか、そんな状況でも平気なようだったのですが、
私は退屈でたまりませんでした。

そんな私を見かねて母が、

「じゅんにも釣りを教えてあげて」

と父に言うと、
父は投げた釣竿を私に持たせて、

「何か反応があったら自分(父)を呼べ」

と言って兄のところに行っていたので、
私にはただ、魚のあたりがある間、
黙ってじっと釣竿を持っているという任務が与えられただけだったため、
自由に動き回れない分、
かえって苦痛な時間を過ごすことになってしまいました。

私は釣りが好きではなかったのです。

けれど要らないと言われた子供である私だけでなく、
父のやりたいことに反対したり意見したりすると、
父の機嫌を損ねてしまい、
父が怒って暴れるという事態が発生していたため、
家族の中で誰一人、
父が家族を連れて行く遊びについて、
意見出来る人間はいませんでした。

そんな状況だったため、
週末に家族で遊びに行くことは、
子供のためではなく、父のためであり、
私は家に一人でいた方がよっぽど楽しい、
と思うようになりましたが、
そんな私の願いは、

「幼い私を置いて遊びに出かけることなど出来ない」

という、とても良識ある母の元、
叶うことはありませんでした。

だから私は、
釣りに連れていってもらっても、
一人で周囲を散策することが多くなっていました。

けれど、あまり自由に動き回ったら怒られるし、
知らない川の側は藪も多くて怖かったので、
決して親のいる場所から遠くに離れることはありませんでした。

その日も、そんなありふれた1日でした。

その日に釣りに訪れた場所は、
道路から下の川に降りる階段があって、
道路から離れるにつれて、
段々と川の深さが増していくような場所でした。
母は道路脇に止めた車の中で、
釣りをしている父と兄を待っていたのですが、
私はただ車で待っているのも退屈だったため、
階段を下って川まで降りていき、
母が待っている車が止めてある道路と、
父と兄が釣りをしている川の奥側の中洲の間にあった、
浅い川の流れの中に出来ていた、
小高い砂利の山のようなところに登って、
一人で遊んでいました。

その砂利の山はボロボロと崩れて登りにくくて、
ようやくてっぺんまでたどり着いたと思った時、
突然、まさに耳をつんざくといった大音量の警報が、
周囲に鳴り響きました。

今にして思えば、
あの警報はダムの放水の警告だったのだと思います。

けれどもちろん、小学校に上がる前の、
幼い私にそんなことが分かるはずもなく、
私が何の音か分からずに驚いて動けないでいると、
凄い音と共に、突然浅かったはずの川の水位が、
物凄い勢いで上がってきていました。

そのことに気づいた父は、
大急ぎで釣りをしていた中洲から、
車のある道路に登る階段のある場所まで、
兄と一緒に駆け戻って行きました。

私が登っていた砂利の山の横を通り過ぎる時に、

「お前も早く戻れ!」

と、私に言い残して。

私は遠ざかっていく父と兄の後姿と、
凄い勢いで増していく水位と、
突然早くなった川の流れの勢いに怖くなって、
何とか下に降りようとするのですが、
ボロボロに崩れて登りにくかった砂利の山は、
下る時にも崩れやすくて、なかなか下に降りることが出来ず、
私がそうやってモタモタしている間に、
川の流れは急流と呼べるほどの速さと深さになり、
私はこの流れの勢いでは、
自分が下に降りてもただ流されるだけだということが分かり、
下に降りることを諦めて、

「ここで私は死ぬのだ」

と感じて、怖くて泣き出してしまいました。

そんな私の様子に気づいたのでしょう、
道路の上で車の中で待っていた母が飛び出してきて、
階段下に兄と一緒にたどり着いた父に対して、
何か言っている様子が見えました。

それは私にとって、
自分とは関係のない世界で起きている、
どこか遠くの出来事のように感じました。

そんな自分とは、別世界の光景の中にいた父が、
激しい川の流れの中、一人私の方に引き返してきて、
砂利の上で怖くて泣いていた私に手を伸ばし、
私を抱き抱えて道路に登る階段までたどり着いた後、
階段を登って私を母の前に連れて行き、
おそらく私をとても心配した母が、
私の両腕を掴んで、
怒っているかのような剣幕で私に言葉をぶつけてきた時に、
ようやく私は光に包まれたぼんやりとした別世界の感覚から、
自分も父や母と同じ世界に、
現実に存在しているのだという感覚を、
取り戻したのでした。

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この出来事は大人になって、
自分の生きづらさを何とかしたいと思っていた私が、
あるセラピーを受けていた時に、
父に感謝する出来事として思い出したものだったのですが、
期せずしてこの出来事は、
父が普段から言っていた家族を助ける順番が、
父の本心だったことを裏付けたのでした。