議会運営委員会
流山市視察 レポート
市民ネット改革 滝沢いっせい
■視察先;千葉県流山市
※流山市は、千葉県の北西部に位置し、東は柏市、西は江戸川を隔てて埼玉県三郷市と吉川市、南は松戸市、北は野田市に接している。首都圏北東部にあたり、都心から25km圏となる。
昭和28年に常磐線南柏駅、そして昭和33年に東武野田線江戸川台駅の開設に合わせて2つの団地が完成し人口増加の引金となった。平成17年8月24日には、東京都心までの直結鉄道つくばエクスプレスが開業し、東京秋葉原と約25分で結ばれている。
人口は158,426人(平成21年4月時点)、面積は35.28k㎡。
■視察内容;流山市議会基本条例の制定について
1.はじめに
議会基本条例は、2006年5月北海道栗山町が全国に先駆けて制定した。
地方分権の進展はもはや必然であり、議会の責任はますます大きくなる。首長が条例や施策・事案を説明し、議員は質問するだけというこれまでの地方議会のあり方を見直し、議員間の自由討議や市長等からの反問権を認め、活発な論議を促すことが、もはや当たり前となってきているのである。
06年12月に三重県議会、07年に三重県伊賀市議会、島根県出雲市議会などでも同様の条例が制定され、平成21年10月現在、73の議会が制定済み、わが上越市でも来年度早々には、制定される予定である。
そうしたなか、視察先の流山市では、平成21年3月24日制定、同年4月1日施行された。議会基本条例と同時に、自治基本条例が可決されている。これは、全国で4例目であり、特徴と言えば言える。
流山市の議会改革は、しばしば先進事例としてあげられている。議会基本条例の制定は、他市に先んずるものではないが、その策定プロセスには参考とすべき点が散在する。その姿をひとつのメルクマールとして、わがまちの議会基本条例のあり方、ひいては議会改革の行方を考察することには大いに意義があると考えられる。
2.流山市議会基本条例の概要
以下ご担当者の説明要旨を提示する。
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ご担当者 乾 紳一郎市議 (基本条例策定特別委員会委員)
関口和恵 市議 ( 同 )
①議会基本条例の意義
議員自らが、十分な議論を尽くして制定したことに意義がある。
「議会運営の理念」「理念を具現化する制度」「その制度を連動させる原理」とことん議論した。
②制定の背景とプロセス
●社会動向=地方主権の拡大
国と地方の対等・協力関係の始まり(平成12年地方分権一括法施行)
首長権限と同時に議会権限と責任も必然的に拡大
●プロセス
平成13年 「地方分権検討協議会」発足、その後「地方分権特別委員会」へ発展
平成18年 議論開始
平成19年 骨子案の一部を作成。議員改選後も引き続き改革項目の議論を重ね、この条例制定を、議会改革の最優先項目として意志決定した
平成20年 第1回定例会において、基本条例策定特別委員会の設置議案を全会一致で可決
平成20年3月18日 同委員会設置
平成20年4月3日から21年3月13日まで計21回の基本条例策定特別委員会を開催した
平成20年10月4日 早稲田大学大学院教授、前三重県知事、北川正恭氏をパネリストに迎え議会基本条例シンポジウムを開催
平成20年10月25日 議会基本条例報告会を開催(31名の来場)
平成20年11月15日 議会基本条例報告会を開催(26名の来場)
平成21年3月24日 制定
平成21年4月1日 施行
③条例の3本柱
1.市民に開かれた議会
2.議員同士が討論する議会
3.自らが行動し、執行機関と切磋琢磨する議会
④流山市議会基本条例の策定過程の特徴
1.議会基本条例の前文から、一言一句全ての文案を議員自身が考えた
2.シンポジウムや報告会を開催し、市民の方々の意見も取り入れた
3.党派・会派を超えて自由討議を重ねた
4.早稲田大学マニフェスト研究所と調査連携した
5.全21回に及んだ「議会基本条例策定特別委員会」を全面公開した
6.議事録は、HPなどで全面公開した
⑤条文の特徴
1.前文・目的は、憲法を下敷きにした
2.会派・代表者会議・全員協議会・議長の権限と役割の職務分掌を明確に
規定した
3.議会報告会実施を義務規定した
4.市長等からの反問権を明記した
5.議会自らが議会の活動計画を議論し、議会予算要望書を作成することを規定した
6.専門的知見(自治法100条の2根拠)の積極活用を規定した
7.最終章において、条例の見直し手続き、その結果公表について規定した
⑥制定後の課題(自己総括)
1.制定は改革の終点でなく始まりである
2.施行を機に、議会運営を総点検していく
3.条例に規定した内容を、具体的に実践する仕組みづくりを進める
4.条例制定プロセスでの議員間の自由闊達な議論は、これからの議会改革の推進と活性化に大いに役立つものと考える
3.質疑応答
以下、当日の上越市議会運営委員会委員からの質疑とそれへの応答の主なものを掲載する。
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Q.専門的知見の果たした役割は?
A.ほぼオブザーバー的存在であった。「最高規範」という文言を入れてもよいか比較対象事例を出してもらった。また北海道福島町等先進地への文書による質問や、他事例の分析等を行ってもらった。
Q.上越市では一部の委員会で議員間討議を既に行っているが、流山市ではいかがか?
A.条例策定時には自由闊達な議論がなされたが、議会や委員会の場ではまだ途上である。
Q.3条の3に「市民の多様な意見を的確に把握することに努め、市政に反映させるための議会運営を目指すこと」、9条の2に「議会は、市民との意見交換の場を多様に設け、議員の政策立案能力を強化するとともに、政策提案の拡大に努めるものとする」とあるが、具体的に市民との協働はどうするのか?
A.これらはいまのところ、あくまで理念的文章だ。が、ちゃんと条文として示せた事は良かった。また議会報告会は規定しており、その他のチャネルも考えている。
Q.上越市は、こうした場合パブリックコメントをしないと叱られる雰囲気がある。流山市は、この条例策定にあたってパブコメをしたか?
A.日程的に難しく、していない。
Q.議会報告会の運営形式について訊きたい。
A.1テーマで意見交換をしている。今後報告会のあり方を市民に問う予定だ。
Q.制定後、政策形成力を高めるために何かしているか?
A.去る9月議会で「議会活性化特別委員会」を作った。
Q.この条例への市民の反応は?
A.成立後チェックしていない。働きかけもしていない。従って市民の声が届いていない。市民は、議会が第二歩目で何をするか様子見なのではないか。
4.考 察
議会改革の先進市と言われている流山市だが、たしかに市民本位の議会改革を本気で進めているように感じられた。
議会基本条例制定まで、議員同士の討議が自由闊達に行われたこと、前文から最終条項まで全ての文案を議員自身が考えたこと、専門的知見を利用したこと、シンポジウムや報告会を開催し市民の意見を積極的に取り入れたことなどが大きな特徴といえる。
前文と第一章は、日本の国の最高規範である日本国憲法の前文を下敷きにし、「この条例は、主権在民を基調とする民主主義の原理に基づいている」と明記。市民の身近な地方議会に近づけていくための理念と条例の制定趣旨を規定している。
これについては、様々な意見があるかもしれない。議会基本条例に憲法のニュアンスが必要かどうか、議論の余地はあろう。
私たちの上越市議会でも、いろいろな形で議会改革が進められ、また今まさに議会基本条例の策定作業が進められている。流山市はじめ先進事例と比べても、決して遅れているとはいえないくらい改革は着実に行われていると考えるが、大事なことは策定よりも実践である。策定イコール「改革」ではなく、「実践的な改革」をいっそう確かなものにし、その顕現としての条例を作り上げていくことが重要と思われる。
栗山町議会基本条例は、様々な議会改革・議会活性化を長年蓄積し、そのひとつの到達点として条例をまとめた、そういう作り方をしている。一方流山市の議会基本条例は、蓄積の結果というより、議会のあるべき姿、理想の姿を示し、その姿に一歩でも近づこうという決意を条例化したと言える。
いずれのアプローチが正しいと言い切る事は出来ないが、どちらかといえば、栗山型のあり方が、次の実践・進化につながりやすいと言えるだろう。
質疑応答などを見ると、理想の姿の、あるいは崇高な精神の条例を策定した事は高く評価できるが、その実践については、まだまだ途上の感があった。むしろ上越市が重ねてきた改革の方が半歩進んでいる気がする、と言っては言い過ぎか。
上越は、諸諸遅れた点があるとはいえ、この2年間議長の指導のもと議員の努力もあり、いくつかの改革がすでに行われてきた。そのことを事を考えると、栗山町に近い進化をしていけるのではないかと思っている。