このところ議員の視察について様々な議論が交わされている印象があります。視察に行って報告はしないのかというご意見もありました。視察報告は必ず出されています。
その現物を、お見せしたいと思います。
これは、ちょうど1か月前、会派政新クラブが行った取手市議会の視察報告です。
長いですが、ご参考ください。
以下↓
会派政新クラブ視察報告 滝沢一成
1. 視察先 取手市議会
視察日 2023年7月11日
2. 視察目的 取手市議会の議会改革の状況について
3. 視察項目
「取手市議会視察調査項目(質問項目)」
(1) 議会改革への基本的な考え方、取組の歩みを教えていただきたい。また議会のあるべき姿について考えをお聴きし、意見交換をさせていただきたい。
(2) 取手市議会は、全国に先駆けオンライン会議システムなど、ICT の活用を進めている。具体的にはオンライン会議、オンライン視察、オンライン意見交換会、デジタルマップ利用の災害対応訓練など。どのようなコンセプトで始め、現在どのように運営しているか。
(3) 現在国が認めていない「オンラインによる本会議開催」に関し、地方自治法改正を国に呼びかける考えはあるか。
(4) キーワードから検索する「議事録視覚化システム」について、説明してほしい
(5) 全方位カメラについて説明してほしい。
(6) 岩﨑弘宜さんのDNA はどう繋がる、どう広がる?
(7) プロパーの職員は存在しているのか?
(8) 取手市の議会改革は、「議会事務局と一丸となった取組」が特徴であるが、その職員をどうやってリクルートし、高レベルへと育てていくのか。
4. 視察結果及び所感
全国1700県市町村議会において、議会改革が最も進んでいるのはどこかという問いに、必ず名が挙がるのが、取手市議会だ。早稲田大学マニフェスト研究所が毎年行っている議会改革度ランキングでも近年二年連続No.1を獲得しており、全国で改革を推進している多くの議会からお手本のように見られている。
上越市議会はというと、5年ほど前まではその議会改革度ランキングでトップ10圏内に位置し、たくさんの視察を受け入れるほどであったが、残念ながら現在はトップ30からも漏れ、凋落の一途にある。かつての改革への積極的な姿勢、息吹はもはや無いに等しい。
いうまでもなくランキング上位となることが目的ではない。ランキングが自ずから上位になるくらい、絶え間なく改革し、真に市民の期待に応えらえる議会であることが目的なのである。
上越市議会を今一度議会改革の雄へ。今どういう方向を目指すことが上越市議会を再び改革の波に乗せることにつながるのか。個人的には、取手市議会への視察は、そのヒントを得るためのものであった。具体的には、現在取手市議会で進めているオンラインの利用について、その実践状況を確認させていただくことが主な項目である。
議会改革の流れを一度俯瞰しておきたい。
第1期は平成20年前後、北海道栗山町議会を皮切りに、議会基本条例が全国で次々と制定された時代である。上越市議会もいち早く条例を制定し、全国にその名を知られることとなった。
第2期は平成20年代半ば、市民との協働性、コミュニケーションが重視されるようになる。具体的には、議会報告会や市民や各種団体との意見交換会、幾年か下ったあとのFBやTwitterなどネットを利用した広報がそれにあたる。今ではどの議会でも当たり前に行われている議会報告会も当時は未だ「画期的な」議会改革であった。
そしてこの1期2期と同時並行的に進められたのが、議員定数削減であった。平成10年代全国で所謂平成の大合併が進められた結果、大勢の議員があぶれることとなり、早急に適正数にする必要があったのである。上越市は平成17年に14市町村が合併、200人超の議員が在籍したが、平成17年合併直後のイレギュラーな選挙の際に定員が48名となった。これもまた激変緩和のための暫定的な数字で、平成24年には定数が32名となり現在に至っている。
この議員定数削減を「議会改革」というべきかどうか、私的には大いに疑問がある。議員定数を適正化し、機能的な機関とする、そういうことなら改革と言えるが、削減することが改革だと思わない。しかし議会改革というと議員定数を削減することだとお考えの市民の方が多いのも事実である。
3期目は、平成20年代後半からの、政策形成力向上の波であった。名を馳せたのが会津若松市議会、取手市議会あたりか。上越市議会は、この政策形成で躓いたといってよい。ここ10年間で上越市議会が提出し成立させた条例はわずかに「地酒で乾杯条例」だけである。上越市議会にはほぼ政策を形成する力がない。あるいは必要と思っていない。
上越市議会には「課題調整会議」という政策形成の中心となるべき機関があるにはある。正副議長以下各委員会委員長で構成され、議会報告会・意見交換会などで市民から出された意見や、請願陳情、各議員から一般質問等で提案された政策などを精査し、新たな政策提案、条例提案等に結び付けることがその存在目的であるが、現状は、市民意見への回答を取りまとめるにとどまる。
議長はじめ議員の多くが課題調整会議の本来の権限・能力をよく理解できていないこと、定例会での一般質問が会期後半に設定されているため様々な提案があってもそれを議会全体で議論する機会を逸してしまうことなどが理由として挙げられる。
そうしたことから、私個人としては、遅ればせながらこの政策形成力をどうつけていくかが、上越市議会にとって最優先事項と考えてきたのであるが、ここに来て議会のDX化(デジタル・トランスフォーメーション)が始まった。
これは「議員が集まって会議をする」という当たり前のことが当たり前にできなくなったコロナ禍がもたらしたまったく新しいフェーズへの苦肉の策という面が否めないと私は思うのだが、この議会のDX化はあっという間に全国の地方議会を(少なくとも改革の意識のある議会を)席巻するに至る。これが、現在までのここ4年に該当する第4期であると位置づけたい。
先に登場した早稲田大学マニフェスト研究所のマニフェスト大賞(全国規模の政策コンテスト)で、近年高い評価を得ているのもこの議会のDX化を進めているところが多くなった。
政策形成力アップに力を注ぎたい私としては、正直なところ「流行りのように広がった」DX化は「まだ先のことで良いのでは」と感じてしまうのだが、北川正恭先生が取手市議会のDX化を引き合いに「今目指すのはDX化である」とおっしゃることもあり、大げさに言えば、「それでは、そのDX化なるものを見せてもらおうではないか」と乗り込んでいったということになる。
前段が長くなった。これから本題を書いていく。
結論からいえば、取手市議会が実行しているDX化は想像以上に進んでおり、充分「今必要な改革」と感じられた。またどれも上越市議会が導入するとして、ハードルは高くなく、要はやる気の問題だと思った。
具体的に見ていきたい。
視察調査項目を軸に所感を述べる。
(1)議会改革への基本的な考え方、取組の歩みを教えていただきたい。また議会のあるべき姿について考えをお聴きし、意見交換をさせていただきたい。
取手市議会といえば、全国の改革派市議会が注目する「最先端」の議会だが、この度の視察で明らかになった第一としてあげたいのが、議会事務局は議会議員の「裏方」ではなく政策形成や議会改革等のパートナー(チームメンバー)として積極的に関わっていることである。
それは取手市議会が打ち出している「チーム取手市議会」というスローガンに端的に示されている。
「いまやるべき」政策、「いま進めるべき」議会改革を、議会事務局サイドから、ごく当たり前に提案してきた。その直近の例が次に示す項目、「オンラインシステム」の活用である。
(2)取手市議会は、全国に先駆けオンライン会議システムなど、ICT の活用を進めている。具体的にはオンライン会議、オンライン視察、オンライン意見交換会、デジタルマップ利用の災害対応訓練など。どのようなコンセプトで始め、現在どのように運営しているか。
議会のDXの最先端をゆく取手市においても、積極的に取り組み始めたのはここ数年のことであるという。しかし上記のオンラインシステムはすべて実装されて、成果を上げている。
オンライン会議。
議員が一堂に会して会議を行うことが当然だった議会が、突然のコロナ禍の到来で、180度姿勢を変え、オンラインの活用を迫られた。上越市議会は、令和5年8月現在、ようやく検討委員会が導入の実装を打ち出した段階だ。
一方取手市議会はどうかといえば、きっかけはやはりコロナ禍であったが、実施までが早かった。ズームを利用した委員会、研修、議員懇談会、議案の検討会などはすでに実施している。
今回特に注目したのが、ハイブリッドオンライン視察である。
視察といえば、一つの委員会や会派がメンバー全員で現地に赴き行うのが定番だが、このハイブリッドオンライン視察は、例えばメンバーのうち2名が現地を訪れ、他は議会の部屋もしくは自宅からズームで参加するかたちとなる。
現地にいく、当地に残る、ツーウェイの参加方法が、ハイブリッドと称する所以である。
このハイブリッド型は、視察のほか、市民との意見交換会や議員勉強会にも応用が可能だろう。
視察は、大勢が泊まりがけで移動することが普通、費用がバカにならない。このハイブリッドオンライン視察を導入すれば、かなり節約できることもメリットとしてあげておく。
この際、このハイブリッドオンライン視察に限らず、「一堂に会する」「現地へいく」が当たり前だった議会の行動パターンを、「本当にそれが必要か」という視点で、総浚いすることも肝要かと思われる。
(3)現在国が認めていない「オンラインによる本会議開催」に関し、地方自治法改正を国に呼びかける考えはあるか。
地方自治法では「議会は議場で行われる」旨明記されている。これが総務省が本会議のオンライン利用は罷りならないとする根拠となっている。ただし委員会でのオンライン利用は良いとされている。
将来本会議でのオンライン利用はもはや必然と思われる。全国市議会議長会から国に対して、より緩やかな運用を要望しているとも聞く。が、実施設計に落としこむには、議決に伴う出席確認はじめいくつかの課題があり、とり立てて急ぐ必要はないとも考える。
取手市議会においても、委員会での運用において、質疑答弁と委員間討議などはオンラインで行っているが、採決はオンラインではやっていない。オンライン活用の普遍的ルールが見えるようになるまで(国が指針を示すまで)、様子を見るのも一計である。
そうこうしているうちに、コロナが5類に移行し、実空間での会議がまた当たり前になってきた。さて、どう展開していくのか。
(4)キーワードから検索する「議事録視覚化システム」について、説明してほしい。
ここでは、議事録視覚化システムとともに、議会中継での同時字幕システムについて書く。
まず議会中継での同時字幕システムに触れたい。
これは文字通り、議場や委員会等でのやりとりを、同時に画面上に字幕で示すシステムである。
昨今のICT(情報通信技術)の進化はまさにドッグイヤーを超えて、少し前まで夢のような技術が当たり前に使えるようになっている。この字幕システムもその一つで、話されている言葉が少しのディレイはあるがそのまま表示される。
議会のやりとりが目でも確かめられる、聴覚障害者が読めるなどのメリットがまずあげられるが、この字幕のデータは当然議事録にも活用することができる。
取手市議会によれば、内容の精査を経て、最短翌日には議事録として公開できるという。上越市議会では、音声を文字化するシステムは導入されているが、同時画面表示は実現していない。
確か文字化システムの原稿を元に、業者へ文字起こしを依頼、さらに事務局員が音声データと照らし合わせて、最終的に整えるというプロセスを経て公開される。正確ではないが、だいたい1ヶ月は時間がかかっていると推測される。
同時字幕システムは確かに文字の間違いなどがあるようだが、スピードや利便性を優先するか、正確さを優先するかを命題に、導入を検討する価値はあると思う。
予算はほとんどかからないとのことである。
つぎに議事録視覚化システムである。
上越市議会でも当然議事録があり、ネット上でも公開されている。検索も容易に行える。
では取手市議会が取り入れている議事録視覚化システムはどこが先進的か。それは、質疑答弁に頻出するキーワードがマトリックス表示され、ざっと見てその要点を理解できる点にある。またキーワードで他の議論と関連付け、図上で追いかけていくことも可能だという。
従来の単なる文字の羅列である議事録と比べ、はるかに楽に、また直感的に内容を理解できる。市民にとっても議員にとっても利用価値は高い。上越市議会でも導入を検討すべきと考える。
これもさほど予算はかからない。
(5)全方位カメラについて説明してほしい。
全方位、つまり360度を撮影するカメラである。首を振るのではなく、固定式で、視聴する側の操作で、どの方向へも画面を移動できるのである。
例えば質問する委員を見た後、答弁する理事者の方向へ、見ている側が角度を変え、その表情を見ることができる。
現在上越市議会の第一委員会室に中継カメラが設置されているが、委員側を捉える角度で固定されている。理事者は後頭部が見えるだけである。
これも導入は必然だと思う。早期の予算措置を望む。
(6)岩﨑弘宜さんのDNA はどう繋がる、どう広がる?
(7)プロパーの職員は存在しているのか?
取手市議会といえば岩崎、議会改革といえば岩崎と、全国区的に知られている岩崎弘宜さんという事務局次長がいらっしゃる。いや正確にはいらっしゃった。この4月に、ICT知識が買われ情報を扱う市長部局に移動された由。
取手市議会が全国最先端の改革を進められた原動力はまさに岩崎さんであったと言って過言ではない。
その岩崎さんが抜けた後の市議会事務局はどうなるのか、改革への意欲が減退するのか、スピードが落ちるのかと、いささか野次馬根性ではあるが注目していた。が、まったく問題がないことがわかった。
今回の視察で主にご説明いただいた係の方が、立板に水、とうとうと議会改革の今とこれからを語ってくださる姿を見たら、確かにブーちゃん(岩崎さんの愛称/全国区)のDNAは繋がっているのだなと確信した。
というより議会改革を強力に進めてきた岩崎さんの能力は突出したものがあったが、当人が抜けても大丈夫な「議会改革推進のシステム」が確立されていて、だれがそこにはまっても問題なく進められる状態にあるということかと思う。
地方自治の様々なフェーズで人々を強力に引っ張るリーダー待望論が聞こえてくる。中川市長も観光推進や住民自治のためのリーダー育成を幾度となく語っておられる。
カリスマ性のあるリーダーはたしかに必要である。しかし真に大切なのは、そのリーダーがいなくなっても支障なく事業が進んでいくシステムを構築することだ。
(8)取手市の議会改革は、「議会事務局と一丸となった取組」が特徴であるが、その職員をどうやってリクルートし、高レベルへと育てていくのか。
さきに述べたとおり、取手市議会事務局は議会議員の「裏方」ではなくパートナーとして、政策形成や議会改革等のチームメンバーとして、積極的に関わっている。そしてそれはすでにシステム化され、個人の能力で左右される段階ではない。
議会改革が当たり前のこととして、連綿と続いている、それが取手市議会である。
巷間ときたま言われるのが、議会事務局へ配属されるのは栄転ではない、公務員としては「上がり」みたいなもの、という言葉であるが、取手市議会ではまったく真逆で、優秀な職員が市議会配属をむしろ望んでいると聞いた。
私の考えをいうなら、上越市議会事務局は優秀な人材が集まっていると思うし、意欲も高い。
議会事務局は議会と行政のまさに要として活躍する場とならなくてはならない。
上越市議会事務局の更なる充実を求めたいと思う。