乾燥日記 -4ページ目

電気が消えた日

それは、なんの前触れもなくやってきた。

古代、
人間たちは日の出と共に目を覚まし、
日の入りと共に就寝した。

もう、戻れないと思っていた原子生活は、
驚くほど簡単に僕らを襲った。
いや、正確にいうと、
僕を、襲った。

毎日、どれだけ電気に頼っているのか、
本当によく分かる。
服を洗うのも、携帯電話を充電するのも、夜に明るくすごせるのも、電気のお陰だ。

満島ひかりをテレビで見られるのも、
仲里依紗のコラムを枕元で読めるのも、
麻生久美子のDVDを再生するのも。

そんな生活があっけなく終わり、
この世界から電気は消えてしまった。

とにかく朝起きても暗い部屋の中、
ランプを頼りに髭を剃る。
電気はなくとも、社会人はつづけなければならない。


電気のない世界でも、仕事は仕事だ。


それも、もう飽きてきた。
仕方ないから、電気代、払うことにする。

1秒で寝る

今日は、い

会議は踊る

会議が2ステップ、
3ステップを踏んで、
ダンスを踊っている。

概念通しが手と手をとりあい、
BGMのリズムもトーンもテンポも決まらないまま、
ジャンルやマナーやドレスコードも把握できず、
ひたすらに踊る踊る。

そうして、
ようやく、
一つの主題について、ゆったりとした
踊り全体の流れが見えてくるが、
やはりまた、発散し、
具体的なステップや決めや着地点が見つからぬまま、
音楽は流れ続ける。

観客はいない。
退屈してあくびをする人もいなければ
立ち上がって拍手をする人もいない。

そんでもって、唐突に時間切れ。幕開け。
ダンスが終わり、皆の頭の中に一つの疑問点が残る。

「一体何が決まったんだっけ?」

ゴールデン街の悪魔

新宿には悪魔がいる。

その噂を確かめるために
ライターFはゴールデン街に潜入した。

地震が起きたら倒壊してしまいそうな飲み屋が立ち並び、お互いにもたれ合い支え合い、それぞれの境界線も責任も曖昧に溶け合っている。

まずは情報収集、と、一軒のバーに入る。
入り口から店の中まですべて赤い色のベロア生地で包まれたバーだった。

「いらっしゃい。」

年は30をすぎた頃だろうか、
人生の疲れが見え始める女マスターと
常連なのか、店員なのか、判別し難い、40手前の男。

ウォッカトニックを注文し、
世間話から切り出した。

「もう長いんですか?」
「私は雇われ店長で、まだ3年目だけど、
店自体は20年以上続いてるみたい。」

「へえ。」

「オーナーがオーストラリア人で、
IT会社の社長なんだけど、趣味でこの店をやってるの。」

「そうなんだ。」

Fは、早々に切り出した。

「ところで、悪魔の噂を聞いたんだが。」

二人とも表情一つ変えない。
にっこりして答えた。

「噂でしょ。見たことないけどね。」

Fは会計を申し出た。
そして、明細を見て、悪魔の存在を確信する。


「おっと、払わないっていうなら、そこの男が痛い目に遭わせるからね。」









カモンカモン

家紋が欲しいと常々思っていて、
だってそれがあれば、なんていうか
由緒正しい感、歴史、伝統の重み感、
トラディショナルな雰囲気が出るでしょ。
出るんですよ。
間違いなく。

でね、
家紋つくろうと思って。

まず、家紋買いにいくのがいいかなって思って
セブンいったんだけど売ってねえし
西友にもうってねえし、それにしても安いし。

で、銀座に行ったわけ。

家紋ってさ、銀座とか、ありそうじゃん?

歩行者天国だけど、誰も家紋は持ってなかったね。
いや持ってるのかもしれないけど、概念的に。
物理的に持ち歩いているやつはいなかったね。
そりゃもう。


んで、考えたんだけど
可視化して、ビジュアライゼーションしてさ、
家紋が常に見えるようにすればさ、
恒久的に永久的にパーマネンツにトラデショナルな感じでしょ?
そうでしょ?

しょうがないから、
古今和歌集とか読んでみたけど
いとあはれ、家紋ねえの。

もうアンダーグラウンドな俺の人脈使って
結局こうすることにしたわけ。

入れ墨。
家紋の。

ネットで家紋で検索してプリントアウトして彫師に見せて相談して議論して
最後は俺が決めて腕に彫ってもらって、これでかなり伝統感アップっしょ
まちがいないっしょ、つって、俺は江戸っ子だよ、とにかく、ははん、宵越しの金なんて
持ったことねえし、ささ、まずはひとっ風呂浴びてよ、そんで浅草でうまいもんでも喰おうじゃねえか、
皆の衆
つって、非常によいこころ持ちで、野郎ども引き連れて銭湯に入ろうとしたら断られました。ぶすん。

water business

「あーらやーだーいらっしゃーい。
 おひさしぶりーどうしたのー?
 さびしかったんだからー。
 さあさ、ここ座ってここ。
 はい!おビールね!おビール!
 今日はどのコ?どのコにするの?
 え?
 エビアン?
 オーケーオーケー!
 エビアーーーーン!」

「ハイ、ワタシエビアンデス」

「透き通ってるでしょー!
 そして固いでしょー!
 真面目なの?フランス人なのよ!!!え?もっとダイナマイツボディ?
 クリスタールガイザーーーーーーーー!!!!!!!!」


 

100万回異動した猫

猫はとにかくたくさん生きていました。

何度も何度も蘇る、そんな猫でした。

何しろ長く生きているため、
たくさんの仕事につきました。

その中で何度も何度も異動を繰り返しました。

営業
総務
経理
人事
販売
製造
管理
法務
経営
企画
販促
とにかく、ありとあらゆる異動を繰り返し、
猫は一つの結論を得ました。

働くのしんどいわ、寝てよ。

バカが風邪を引かない理由

バカは風邪をひかない

まことしやかに囁かれる都市伝説だが、
ついにその科学的実証がなされる日が来た。

英国の研究所の発表するレポートによると、

①バカとは、理解力、応用力、コミュニケーション力、創造力、プレゼンテーション力の全てが平均よりも著しく劣るものを指す。(詳細のスクリーニング実験は巻末参照)
②平均的に風邪を引く頻度を母数N=1000(10~60代男女につき、都市部と田舎への居住割合は人口比に応じてランダムに選出。)の中から算出する
③②の値と比較して、①の集団(B=20名)が風邪を引く頻度を計測。(※環境は②と同じくランダム)
④値K=②/③によって、平均と比較し、どれくらい風邪を引く頻度が少ないかを計数化

この手順によって実験が行われ、
国や時期を変えて5カ国で行われた。

その結果、驚愕すべきことに、Kの値は平均して10を超える値となった。
バカは常人の10倍、風邪をひきにくいのである。

しかし、その理由は未だに解き明かされていない。
ここから先は遺伝子学の領域となり、
今回は提言が正しいという統計学的な結果のみであった。


「焼きそば」で胸が大きくなるという論文に南米が揺れた

日本の会社、日新麺は南米への進出を考えていたが、
大きな問題があった。

麺類が売れないのだ。
袋ラーメンも、カップラーメンも、
主力製品のカップ焼きそばも、とにかく売れない。

南米では麺類を好んで食べる人はまれであった。

そこで、日新麺は大胆な手に出た。
「焼きそば」を食べると胸が大きくなるという研究結果を出させたのだ。
その実験方法が果たして正式なものなのか、はっきりとしたことは分からない。

ただ、その論文はニュースに取り上げられ、
情報番組に取り上げられ
経済新聞に取り上げられ
バラエティ番組でネタにされた。
そして満を持して「巨乳焼きそば」が売り出され、
巨乳アイドルを起用したCMが鬼のように流れた。

そして南米が揺れた。

南米では、女性の魅力は胸1点に絞られていた。
焼きそばがその魅力を増大させてくれる。
南米におけるトップシェアを獲得した日新麺はこの手法を日本に逆輸入することにした。

日本においては、唐揚げを用いることにした。
そして、巨乳タレントに色々な番組で
巨乳の秘密は唐揚げと話させる活動を行った。

そして、唐揚げ=巨乳の構図は、いつの間にか我々の無意識に侵入しているのだ。



最高の黙祷

1分間の黙祷を終えて、
僕らは先輩に注目した。

まだ目を開けない。

僕らが1分間の黙祷で自己満足し、
忙しい日常に戻っていくのに対し、
先輩は本当の意味で、自己を捧げ、長い、長い黙祷を続けているのだ。

その姿勢に我々は感動し、
しかしながら、このままずっと黙祷を続けるわけにもいかず
仕事に戻った。

結局先輩は今日一日ずっと黙祷していたようだ。
先輩の純粋さに、
僕らは涙した日だった。




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今日は朝からやたら眠たい。
全く仕事してないけど、
俺には世界を守る使命があるから
オンラインの仲間とともに毎日冒険に出てる。
技術の進歩はすさまじく
世界中の色々な国籍の仲間と旅に出られる。
だから、必然的に深夜にまでゲームが及ぶ。

今日はふらふらしながら一応現実の仲間のとこにも
顔を出した。

何やらお祈りをするとか。
ああ、地震からもう一年か。
あの日は本当にびびった。

よし、俺だって黙祷くらいならできる。



























ありゃ、寝ちゃってたよ。
なんで誰も起こしてくんねえんだよ、もう。