ゴールデン街の悪魔 | 乾燥日記

ゴールデン街の悪魔

新宿には悪魔がいる。

その噂を確かめるために
ライターFはゴールデン街に潜入した。

地震が起きたら倒壊してしまいそうな飲み屋が立ち並び、お互いにもたれ合い支え合い、それぞれの境界線も責任も曖昧に溶け合っている。

まずは情報収集、と、一軒のバーに入る。
入り口から店の中まですべて赤い色のベロア生地で包まれたバーだった。

「いらっしゃい。」

年は30をすぎた頃だろうか、
人生の疲れが見え始める女マスターと
常連なのか、店員なのか、判別し難い、40手前の男。

ウォッカトニックを注文し、
世間話から切り出した。

「もう長いんですか?」
「私は雇われ店長で、まだ3年目だけど、
店自体は20年以上続いてるみたい。」

「へえ。」

「オーナーがオーストラリア人で、
IT会社の社長なんだけど、趣味でこの店をやってるの。」

「そうなんだ。」

Fは、早々に切り出した。

「ところで、悪魔の噂を聞いたんだが。」

二人とも表情一つ変えない。
にっこりして答えた。

「噂でしょ。見たことないけどね。」

Fは会計を申し出た。
そして、明細を見て、悪魔の存在を確信する。


「おっと、払わないっていうなら、そこの男が痛い目に遭わせるからね。」