ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート -20ページ目

ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

クラシックの本場ヨーロッパで職人として働いている技術者の視点で弦楽器をこっそり解明していきます。
お問い合わせはPC版サイトのリンクかアメブロのメッセージから願いします。

こんにちはガリッポです。
2022年も始動しました、今年もどうぞよろしくお願いします。

いつも3者のプロの話を年に一回くらいと思ってやっています。
ヴァイオリンの良し悪しを語るプロには3つの立場あるという話です。

①演奏者
②楽器商
➂職人

いずれも楽器を扱って収入を得て生活してるならプロです。
これら3者のプロが同じ楽器を称賛するなら良いのですが、問題は楽器についての評価がそれぞれのプロで全く違うことです。
音大教授の話はこの前にしましたが、安価な量産楽器の音が良いと絶賛することもあります。ヴァイオリン教授でも見た目で量産楽器と高価な名器と見分けがつけられないのに対して、職人が見れば一目瞭然です。もし必ず量産楽器の音が悪く、高価な楽器の音が良いなら音だけで見分けがつけられるはずです。しかし実際はそうではありません。職人のほうが確実なのです。

でも安価な楽器の音が良いことの何が悪いのでしょうか?
悪いことはありません、むしろ安くて音が良いのですから素晴らしいヴァイオリンです。

量産楽器と高価な楽器を見分けられないと起きる問題は、支払う金額です。


ヴァイオリンの値段というのはたいてい10万~150万円位です。それ以下でもありますが、演奏しやすい状態になく手直しするだけで5万円以上かかることがありますのでそれくらいは見ておくべきです。

例えばヴァイオリンの一大生産地だったドイツのマルクノイキルヒェンのあるメーカーのヴァイオリンの相場は1000~1万2000ユーロくらいです。様々な品質グレードがあり値段も様々です。これはこのメーカーに限らず、この産地に限らずヴァイオリンというのはそれくらいの値段がするものです。

その中で10万円と150万円なら大きな違いです。この違いが何から来るかと言えば、楽器の品質のグレードです。品質が低ければ10万円に近づいていき、品質が高ければ150万円に近づいていきます。
この品質は目の良い職人には見分けることができます。

これが職人が言う楽器の良し悪しです。
間違っても音で値段を決めているわけではありません。そのため必ずしも音と一致しません。
高い品質の楽器を作るには手間暇がかかり、コストが高いので値段が高くなるのです。
もちろん高い品質で素早く作ることができればその職人の優れた能力によって収入が多くなるというものです。したがって、ヘタクソで何度もやり直して手間暇がかかっても値段を高くすることはできません。

職人の側からすると、楽器の品質で値段を付けているので、予算で買えるものの中から試奏して気に入ったものを選べば良いと考えています。
値段が音の良さを保証しているわけではありません。
逆に安い楽器は音が悪いので安い値段を付けてるわけじゃありません。仕事が粗く作りが雑で、ちゃんと作ってないので値段が安いのです。


つまり我々職人が見分けられるのは、安上がりにちゃんと作っていないものか、教育を受けていない素人が作ったものか、一人前の職人がきちんと作ったものかという違いです。


ある程度職人の間では共通の基準というものがあり、それでお互い評価しあっているわけですから、変わったものが出にくいです。職人もそれぞれ好みや考え方、流派の教えが違います。したがってある程度以上は「好みの問題」としか言えません。しかし粗雑品や量産品は分かります。量産品は同じようなものが大量に作られたので見ると雰囲気が似通っていて見分けられます。大量生産品ではコストを安くするために様々な工夫がされています。その特徴で量産品だと分かるのです。


それに対して150万円以上するような楽器があります。
これは作者の名前に値段がついていると考えればわかりやすいでしょう。
同じような商品でもそのブランドのロゴマークがついていると値段が高くなる「商業取引」と同じことです。

多くの人は品物の質が高いのでメーカーが有名になったと思っています。しかしメーカーが有名になるのはどんなきっかけかはわかりません。消費者は常に品質をチェックしているわけではなく、一度有名になるとイメージが広まっていくのです。

私がよく感じるのは「流行を詮索するのはタブー」という雰囲気です。何かが流行しだして持っている人に「それは何ですか?何がどうして良いのですか?」としつこく質問するのは嫌がられます。本人もよくわかっておらず不安だからです。でもなんとなく流行り出したので何か持っていると得しそうだと買ったわけです。
ブランドやメーカーもそうです。持ってる本人も実はよくわかっていないので不安でしょうがありません。

よくわからないけどもなんとなく有名だということを嗅ぎつけた人たちが群がってきます。それでオークションなどでは値段が上がります。しかし我々はそのタブーを冒すことができます。楽器を見れば品質が分かるからです。高価な値段がついていてもその楽器が平凡なものと変わらないことを見抜けます。

このため職人は高価な楽器について冷めた目を持っています。


あるイタリアの作者の楽器の値段が1000万円するとしましょう。職人は品質を見ると平凡なもので「50万円位だな」と見抜くことができます。この楽器が1000万円になるためにはその楽器が本当にその作者のものであるという証明が必要になります。これが無ければ品質から50万円と判断します。
したがって世界的に権威のある鑑定士の鑑定書が付くことで初めてその楽器が1000万円になるわけです。もし家族が鑑定書を捨ててしまったら、その楽器は50万円になってしまいます。つまり鑑定書に950万円の価値があるというわけです。

職人はその楽器がその作者のものであるということを証明できません。
それでも作品の特徴などは見分けられるので、本物かもしれないと思えば鑑定を依頼する価値があると言えます。もしこれが量産品に偽造ラベルが貼られたものなら、職人でも鑑定に出す価値もないとわかります。日常的に楽器が持ち込まれるとほとんどはこれです。


現在では弦楽器を演奏用としてではなく、投資のために購入する人も増えてきています。この時に絶対に大事なのは「確かにその作者のものである」ということです。投資のために購入したのに作者があやふやで証明されなければ資産価値が激減してしまうからです。
このような楽器の売買をする人にとっては鑑定士とのコネを持っていることが重要になります。それが商売の要です。もし本物だと思えるものなら鑑定に出す必要があります。何千万円もする楽器ならロンドンやパリに飛ぶ飛行機代なんてたかが知れています。鑑定を入手するのが彼らの仕事です。鑑定料はとても高いです。紙に字を書く数時間の仕事で何百万円も稼げるのが鑑定士です。時給にしたら数十万円~数百万円です。とんでもないですね。


一方で鑑定書がついている楽器は安く買うことができません。仕入れるだけでも資金がいりますし、売れなければ大赤字です。買う時は作者不明の安い楽器として買って、売るときは名器として売れば儲かるわけです。
50万円の楽器として購入して売るときは1000万円の楽器として売れば最高の仕事です。

このような商売は日本では古くからあったようで、名門のオーケストラや音大教授のところに出入りして楽器を売ってきました。名門オーケストラに楽器を売っている業者だから安心ということは無く、むしろそういう欲深い人たちが競い合って集まっていると考えた方が良いでしょう。
このような怪しげな楽器ばかりを輸入してくる仲買業者もあります。

そこでこの人たちが言うのは「説得力がある」ということです。
彼らはニセモノだと分かっています。本物なら安く買えないからです。
ニセモノの中でも相手をその気にさせられるような楽器が最高の楽器です。
何千万円もする楽器を売るのにロンドンまでの飛行機代をケチることがあるでしょうか?
ロンドンまで持って行かないのはニセモノだと分かっているからです。
昔の人なら英語が苦手で国内だけで売買をしている人もいるでしょうが、もう今の時代では商売を続けていくのは無理です。


うちの勤め先でも楽器は売っています。
高価な楽器の時は鑑定をどうするかが課題になります。現在ではそのようなことが厳しく考えられるようになりましたが、何十年か前は本当にいい加減で業者は自分が本物だと思ったら本物として売っていました。逆に高価なものを知らずに安い値段で売ったりもしていました。だいたい世の中は無知な人ほど自信満々ですから、自分が本物だと思ったらそのように売ってしまっていたのです。いつの時代でも悪知恵を考えることを生きがいにしている人がそれ以上にいます。

その点についてもまだまだ日本には古いタイプの業者が多いようです。古い店だから安心ということもありません。



私が「3者のプロ」の話をするのは、楽器の良し悪しを絶対的に評価することができないということを知ってもらうためです。




不確かなものを信じる人たち

私は音が良い楽器の見分け方を教えます。

それは弾いて良い音がするものです。


当たり前ですね。しかしそれ以外には音が良い楽器を見分ける方法はありません。それが20年職人をやってきて考えていることです。

我々職人は師匠に「正しい作り方」を教わります。正しい作り方で作ったものが音が良いと思い込みます。その理解で一生を終える職人のほうが普通でしょう。実際に師匠の教えに反する作り方でできた音の良い楽器があったときに素直に認めません。あんなのは本当の良い音ではないと理屈を考えます。本当は音が良い楽器の作り方を分かっていないのです。

人間は嘘か本当かよりも正しいことを知っていると思いたいものです。「分からない」という状態でいるのは気分が悪くて耐えられず、嘘でもいいから「知っている」という状態でいたいのです。

昔から人間は理解を超える現象についていろいろな説明をしてきました。神話や昔話、迷信がいくらでもありました。

今でもデマや陰謀論などがあります。社会の分析もあります。陰謀論などは当事者が認めて確かになることはありません。どれだけ詮索しても不確かな知識のままです。

分からないものは分からないとしか言いようがありません。
自分で考えたことは、自分で考えただけです。つまり仮説です。
それが正しいかどうかは実証しなければいけません。

しかし自分で考えたことを絶対の自信をもって信じ語る人がいます。聞くのは無駄です。


こういう人は骨董品や古物は買わない方が良いです。
その楽器の金銭的な価値は、その人がどう思うかによって決まるわけではありません。ある楽器があったとき「これは〇〇作の名器に違いない、1000万円はするものだ」とその人が考えても1000万円になるわけではありません。私が見て、作風の特徴から本物か偽物か考えることはできます。そして私が「これは本物だろう」と思っても、1000万円にはなりません。楽器を売っている人が「これは1000万円の楽器だ」と言っても1000万円の価値があるかわかりません。わからないのです。

世界的に権威のある鑑定の鑑定書があって初めて1000万円になります。それ以外の人が何を考えても意味が無いのです。

それに対して「鑑定士はおかしい」「俺の目ほうが確かだ」と思っても何も起きません。あなたの心の中だけです。


素人の仮説が絶対に間違っているというわけではありません。当たっているのかもしれません。しかし、確かではないのです。確かでない情報は情報として価値が無いのです。だから聞いてもしょうがないです。鑑定士も間違っているかもしれません、しかし金銭的な価値だけは信用の上に成り立っています。私も鑑定士がそう言ったからとそれが本当にその作者のものだとは完全に信じてはいません。しかし金銭的な価値は業界の慣習に従っています。


楽器店の営業マンは職人でも鑑定士でもありません。



1945年製のヴァイオリン


具体的に見ていきましょう。

これはドイツのエルバッハという所でヴォルター・マックス・ハイシェルによって1945年に作られたとラベルについているヴァイオリンです。エルバッハは現在はマルクノイキルヒェンの一部になっています。他にも弓職人などもいて、マルクノイキルヒェンの流派と考えて良いです。

加工も美しく、木材もユニークな木目の一枚板です。

ニスはラッカーのようなものではなく、とても柔らかいオイルニスでもありません。現在でもハンドメイドの楽器によくあるようなものです。
テールピースの下のところが濃く赤くなっています。テールピースの下は影になっていて光が当たりにくいです。他の部分は色が褪せてしまったと思います。今では明るい色になっています。

中を覗いてもアーチの立体的な造形もきれいに作れらているので、比較的丁寧に作られた楽器だとわかります。


スクロールもわりと丁寧に作られています。


雑ではありませんが完璧でもありません。
もしかしたら本人が作ったのではなく、渦巻きだけを専門に作る職人が作ったものかもしれません。渦巻だけを作っているので恐ろしい速さで美しいものが作れます。一方で渦巻職人は楽器には興味がありません。こだわりが無いのです。

エッジの溝は深く彫られています。ちょうどパフリングのところを深く彫っています。角は丸くなっています。このようなものはイタリアのモダン楽器にもよく見られます。この時代の流行でもあるでしょう。マルクノイキルヒェンのモダン楽器の製作法はフランスから伝わっているので、このようなエッジの加工はフランスの19世紀のスタイルではありません。しかし、1945年にもなると作者個人の好みや、国際的な流行などが取り入れられています。

アーチもまっ平らなものではなく、立体感があって手作り感があります。

幸いこの楽器にはラベルが貼られていて、マックス・ハイシェルの名前がついています。本で調べても作風が一致していますし、楽器の品質から見てもおそらく本物だと思います。値段は多少大量生産の影響があるので100万円くらいでしょう。

この楽器なら私でも鑑定ができます。
作者名が有名ではなく、楽器の品質が値段に直結するからです。もし作者名が間違っても値段は変わりません。

しかしこれにイタリアのモダンの作者の偽造ラベルが貼られてしまうともうわからなくなります。モダンイタリーの作者の本で似たものを探して偽造ラベルを張り付けるとそのように見えてきます。

こうなるとイタリアのモダン楽器に詳しい鑑定士の鑑定が必要になります。

板の厚みは19世紀のフランスのものに比べると厚く、中央が厚く周辺に向かって徐々に薄くする「グラーデーション理論」で作られています。グラデーション理論では全体的に厚めになります。

音は見た目同様明るく、強い音がします。
音質は鋭く、輝かしい音です。

もしイタリアの楽器について「明るくて輝かしい音」というイメージを持っているのなら偽造ラベルを貼るにはもってこいですね。
実際にはそのようなイメージは間違っていてドイツの楽器も明るい音のものはたくさんあります。

むしろこのような楽器は戦後では主流になります。20世紀後半の楽器の典型的なものです。明るくて輝かしい音のヴァイオリンはありふれたものというイメージです。わざわざ「巨匠」のものを買わなくても良いです。

この楽器は1945年製とその中ではもっとも古いのでよく鳴って音量では新作を超えると感じられるでしょう。このような音が好みなら値段は100万円くらいですから、それより高い現代的なヴァイオリンを買う意味がありません。

1945年にこのような楽器が作れらていたことは我々の師匠の師匠あたりが学んだころの知識です。我々も正しい知識として教わった楽器の作り方です。

正しく作られた楽器ですが、音については好みの問題です、この音が正しいとは言えません。

1911年製のヴァイオリン



今度はフランスのミルクールでレオン・ムジョエノーによって1911年に作られたヴァイオリンです。

ミルクール製と書いてありますが、品質がとても高く美しく作られているので量産品ではなくマスターメイドの楽器だと思います。
状態はとてもよく100年以上前のものとは思えないほどです。

スクロールは完璧に近い美しさがありフランス的です。ヴィヨーム以降のストラディバリモデルです。


前から見てもラインがびしっとしていかにもフランス的です。ナットと指板の幅が24.5mmと広めになっているのもフランスの特徴です。

後ろもピシッとしていますし、下端の丸い所もきれいにできています。先ほどのものよりもクオリティが高いです。

値段はこの作者ものなら最大で200万円くらいです。フランスの楽器はみな似ているのでフランスの楽器の専門家の鑑定が必要です。しかしこれくらいの値段の作者なら本物と思っても良いでしょう。
フランスのものであることは間違いありませんし別の作者でもそれくらいします。またミルクールでも量産品ではありません。それは品質で分かります。


アーチは平らでいかにもフランスというものです。板の厚みは19世紀のものよりは少し厚めになっていますが、さっきのドイツのものよりは薄いです。
この作者はロンドンのヒル商会で働いていて、ミルクールに戻って独立したそうです。そのせいか、19世紀の典型的なフランスの楽器とは違っています。角には少し丸みがあり、板の厚みもストラディバリにあるようなものです。

一方f字孔はヴィヨームのものに似ています。ヴィヨームはストラディバリのメシアを元していますからその感じです。


弾いてみるとボリューム豊かによく鳴ります。先ほどのように鋭い音で強く感じるというのではなく明らかに楽器が共鳴して響いています。低音だけが「ビオラのように」極端に強いのではなく4弦のバランスが取れています。高音も鋭くはなく弾く人によってどうにでもなるレベルでしょう。学生などが現代の演奏法を学ぶにはもってこいの楽器です。
オールド楽器のような柔らかさはないですが、音量は明らかにあります。優等生的なものが欲しいなら200万円より高い新作楽器を買う意味は感じません。

ほとんど使われていなかったような楽器ですが音量はあります。弾きこまれたからよく鳴るという理屈も当たりません。

フランスの作者だからみなこんな音がするかと言えばそうではありません。一つ一つみな音が違いますので試奏して選ばなくてはいけません。

見た目が美しくて音も良い楽器です。見た目だけを作った楽器では決してありません。
演奏者も職人も高く評価する楽器ですが、なぜか楽器商の評価は高くなく値段はそれほど高くありません。
「ミルクール」という地名でしょうか?
これがパリならもっと高いかもしえませんし、イタリアに移住していればもっと高いでしょう。

商業では品物そのものではなく「生産地名」を重視します。
これによって売れ行きが変わってきます。
商品の質が分からない消費者には産地名だけが区別できるからです。


楽器商だけが評価しないというのは、つまりお買い得ということです。

時代の変化

YouTube Musicを利用するようになったという話をしました。面白いのは同じ曲を異なる演奏家や楽団が弾いているのを聴き比べができることです。かつてCDを買っていた時代なら難しいです。パソコンならいくつもウィンドウやタブで一時停止にしたり再生したりして同じところを聞き比べることもできます。昔はカラヤンなどの「名盤」を買って終わりでしたが楽しみ方も変わってきました。

演奏も時代によってもかなり変わってきたことが分かります。バロック音楽では80年代と90年代でガラッと変化があります。
ヴァイオリンならスターソリストからマニアックな楽団までさまざまありますが、スターソリストは抜群の知名度はあるものの、あくまで「ゲスト演奏者」という立場でチームプレイでは不利です。そんなことも音楽の奥深さでしょうか。私が語るようなことではありませんが、誰の演奏が一番優れているかなんてとても決められません。楽器について私が感じることも同じです。

時代で見ると世の中全体が優雅で上品な上流階級の文化からダイナミックでダイレクトなものに変わっているようです。ジャズなどでも戦前のものと今では違います。



今回紹介したようなものはそれほど高価なものではありません。しかし実際にはマルクノイキルヒェンでもミルクールでも量産品のほうが圧倒的に多く、このようなものも珍しいです。

もうひとつ面白いのは我々が「正しいヴァイオリンの作り方」として学んだことのルーツが見られることです。ムジェノーは19世紀後半に修行し、ヒル商会で最新の流行を学んだはずです。現在でもお手本として通用する楽器です。

ハイシェルのほうはもっと現代の楽器に近くなります。我々職人が師匠から絶対に正しいと教わったことも、ある時代の流行だったことが分かります。

楽器の好みが変わってきていることは分かります。年配のお客さんと若い学生で弾き方も違うからです。売れる楽器も変わってきます。

楽器の「評価」などを定めることはできません。諸行無常で変化しているものなのです。
ましてや「個性」などを客観的に採点することはできません。

こんにちはガリッポです。

ただ今は休暇をいただいて家の整理をしています。
先週はブログも休みましたが、毎週更新と決めたわけでもありません。
コロナに感染したとかそういうわけではありませんのでご心配なく。

まずはCDラックから。
音楽鑑賞のデジタル化を進めてきましたが、アナログ側も忘れてはいけません。
CDは300枚くらいあるのでしょうか、日本にもあります。
音楽ファンとしてはそれほど多いわけではないでしょう。
それの何倍も入るCDラックを購入しました。40%くらい埋まったところでしょうか。

組み立て家具のようなものでかなり品質はひどいものです。
パーティクルボードで裏からMDFの薄い板を釘で打ち付けるというものです。
私は釘は仕事では使いません。楽器製作では釘は使わないのです。
釘なんて中学の技術家庭科以来ほとんど使ったことがありませんでした。

以前職場を改装したときに、木箱を作って釘で留めました。
今考えると釘の役割が全く違いました。板を正確に加工して接着剤でくっつけ、さらに釘を打ちました。
その時は釘なんて打たなくても大丈夫じゃないかと不思議に思いました。

今回は釘の意味が分かります。板をあてがって釘で留めてあるだけですから。
木工って普通はそういうものだったなと思いだしました。
たくさん釘を打てば一つ一つにかかる力が分散するのでトンカンとやたら打ち付けるだけです。


ともかくCDラックは悪くないですね。
CDを選ぶのはYouTube Musicよりも選びやすいです。(もちろん事前に買わないといけませんが)
音楽配信では何千万曲もあります。その中から聞きたいものを画面上で探すだけでも大変です。
一度聴いたら他のものはないかと気が移ってしまいます。ちらっと試し聞きしてはライブラリに記憶させて「キープ」とするわけです。その作業が永遠に終わらないのでいつになったら音楽を聴くときが来るのでしょうか?何年もかかりそうです。
それを自動的にするのも最新の音楽配信の技術なのですが、私は信用していません。
私の好みがピタッと分かるはずがないと思っています。

音楽配信では音質的に難しいオーケストラの曲はCDで聞く方が良いですね。
交響曲などは作曲家ごとに全集があってかなり安く手に入るのでいくつか持っていれば聞き飽きることはありません。ハイドンではCDが33枚組です。
全集物は演奏時間が長くなりすぎて音楽配信では扱いにくいのです。CDのほうが扱いやすいです。
マイナーな曲は全集にならないと入っていないのでそれだけ探すのが難しいです。
CDならパッケージや冊子が見やすいです。

他にはジャズとブルースとロックンロールの間くらいのものを調べています。
クラシックは同じ時代の作曲家はみな同じような方向性の曲を作っていますが、ポピュラー音楽はさまざまなジャンルのものが同時に存在し影響しあっています。その中で自分の好みのものを見つけないといけないようです。一般的にはジャズやオールディーズの巨匠みたいなところから入るのでしょうけども、そんなのは知らずにいきなりマイナーなところに入っていきます。
このようなものはCD化されていなかったり、ヨーロッパでは売っていなかったりするのでもっぱら音楽配信でしか聞けません。演奏者は亡くなっていて権利者が費用をかけずに収入を得る機会として音楽配信を盛んにやっているようです。
戦前の録音ともなると音質はひどいものです。ジュークボックスのような真空管の古いオーディオの方が良いかもしれません。
戦後になると新しい音楽が次々とブームになったせいかその後の録音が無いのです。ミュージシャン自体は後まで生きていてバーなどで演奏していたのでしょうけども。

むしろヨーロッパで昔のアメリカの音楽が見直されて現役のミュージシャンもいるようです。クラシックの演奏から始めてテクニックも見事で素晴らしいものです。若い才能のある人もいます、今度CDでも買ってみましょうか。でもなぜか戦前の演奏は何とも言えない味があります。おそらく時代の空気みたいなものがあるんでしょうか?

他にも引き出しやテーブル、棚など組み立て家具を買ったりいろいろ作っています。

一番の問題は、「ここを住みかとする!」と宣言できないことです。
いつまで住むかわからないアパートに1円も投資たくないくらいですから。それでもあまりにも生活がしにくいのは困っています。
日本と違って押し入れなどがついていないのが不便です。
物置やガレージ、地下室なども一般的にはありますが、私のアパートにはありません。

住みかを決めるのが夢ですね。
休んだおかげで夢に向かってやっていく気力がわいてきました。

ブログも本格的な再開は2月になってからです。
片づけは全く終わりそうにないです。
こんにちはガリッポです。

この前の木箱のヴァイオリンの話などはバカにしておしまいにしてしまう人が多いかもしれません。他にはひし形を組み合わせてデザインしたチェロがありました。ネックが外れるようになっていて輸送には便利です。
表板にはピカソの絵が描かれていておそらく「キュビズム」のようなイメージをチェロの設計に取り入れたのだと思います。

アンドレ・アマティも当時の美的な常識に基づいて作ったのかもしれません。昔の建物や家具、建具などを見ると植物の模様や渦巻がついていたり装飾的です。機能性一辺倒で物を考えることが無かったのでしょう。だから弦楽器も現代の人が考える「高性能」というようなものではなかったのかもしれません。凝ったものを作って長い間大事にするという発想も現代とは全く違います。私はそれが普通ですから普段暮らしていると驚くことが多いです。

そのチェロが残念なのは弦楽器の基本を理解していないことです。それがこの前の木箱のヴァイオリンでは一人前の職人が作ったものでしたので全く違います。現代芸術のようなデザインをチェロに応用しようという発想は分かりますが、まず弦楽器というものを理解しないといけません。私でも最近木箱のヴァイオリンを知ったことで、「そんなもんなんだ」ということが分かりました。

我々職人は師匠から教わって比較的最近の伝統に基づいて楽器を作っているだけで理解はしていません。
弦楽器について学ぼうとすれば「答え」から入ります。師匠に「こういうふうにしなさい」と指示されても「はい、わかりました」とできる仕事ではありません。うまくいっていないことも自分ではわからないので毎度毎度師匠に見せて確認が必要です。とりあえずやってみたものに師匠が「ここがこうなっていないとダメだ」と初めて具体的な説明になります。いつしか十分な水準なものができるようになると分かっているとみなすことができます。「最近の若者は常識が無い」と新人を嘆くことは無く、できないのが当たり前です。品質管理というのはそういうもので、未熟な者が自分で判断することができません。一方で粗探しのような面もあります。とかく欠点は指摘しやすいです。

一般の人が良いヴァイオリンを買おうと情報を集めるとまた「答え」から入るでしょう。値段が高いものが良いものだという先入観がありますから、値段の高い楽器の特徴を学ぶのです。「値段の高い楽器の特徴=音が良い理由」と考えるでしょう。とんでもない勘違いが起きて大金が無駄になります。

しかし99.99%のユーザーは弦楽器購入の予算を無限に用意できるわけではないので現実的なことを知らないといけません。そのような情報は全くありませんでした。我々の落ち度です。
何千万円の高級車の情報ばかりで、実際に多くの人が購入する軽自動車や大衆車はどれが良いかというのは無かったのです。


とはいえ我々も師匠からの教えではわかっていないことが多くありました。
というのは代々、「答え」だけを教わって来たのでなぜその答えになったのかが分かっていません。我々が教わったことと、演奏者が選ぶ楽器が全く違うということを経験してきました。

それでも頑固な職人は「答え」を学んだことで、わかっていると思い込み自説を曲げることは無く「世の中がおかしい」と自分を慰めるのかもしれません。そのような強い信念はお客さんから見ると確固たる「専門家」と見えるかもしれません。そのような役割も期待している人はいるでしょう。それでは、職人もお客さんも自分を騙していることになります。
多くの職人は器用に異なる価値観を使い分けています。高い楽器を見たら素晴らしいと言い、音が良い楽器があれば絶賛します。しかしいざ自分が楽器を作る時には全く違うものを作ります。矛盾に気付いていません。

でも騙し続けていても使い続ければ楽器は鳴るようになってくるのでそれで墓場まで行っても悪くはありません。そう考えると何でもありです。


私は「答え」を教えることはあまりしたくありません。
私自身が分かっていないからです。
私が分からないくらいですから、世の中の職人の大半もわかっていないでしょうし、すでに作られた楽器ではわからずに作られたものに当たると思った方が良いでしょう。
分かっていると思い込んでいる人は大勢いますよ。弦楽器業界の人に特有のタイプです。




宗教への信仰心は日本でも欧米でも年々薄れて行っています。それで人々が完全に科学的、論理的に考えるようになるかといえば、私はそうは思いません。様々な分野に細分化された小さな「信仰」が至る所に存在しているのではないでしょうか?

職人の教えも聞いていると工業技術ではなくて「宗教じゃないか」と思うようなこともあります。なぜかわからない数字の0.1mmが絶対とされていたりします。工房によってその数字が違うのでその工房内では絶対のものです。私はフラットなアーチの楽器と高いアーチの楽器でネックを入れる時のやり方を変えています。しかし多くの職人は決められた寸法をどの楽器にも応用しようとします。新作の作り方で数字が決まっているからです。そもそも新作ではフラットなアーチや高いアーチの楽器を作ることさえ許されません。
決まった数字を信じている職人ほど「自分は正しい知識を持っている」と思っていますから厄介です。
逆にケースバイケースでこの時はこうすると細かくやり方を変えている人でも「本当に意味があるの?」と怪しいことが少なくありません。

師匠に忠実な厳格な人でなくても、今度は自分の頭の中で考え工夫したことに対して甘い評価になりやすいです。
自分がこうやったら音が良くなるんじゃないかと工夫しただけでそれが音が良いと思い込んでしまいます。
これは楽器の音を厳密に評価するのが難しいのでそう思い込んだらそう聞こえちゃうのです。大事なのは自分に甘くしないことです。演奏者などに試してもらって判断すべきです。全部自分で弾いて判断していると耳元だけの変な音になっていきます。これも思い込みの激しいタイプで業界にはよくいます。
工夫しても弦楽器というのは全面的に音が良くなるというのは難しく、一長一短になります。前の音のほうが好きだったという人も出てきます。そういうものです。職人は細かいことを気にしすぎるので思い切ってやり方を変えたつもりになっていても実際にはほとんど変わらないことが多いでしょう。




楽器の購入はこちらでは、試奏して自分が気に入ったものを選ぶという当たり前の方法が主流です。
しかし日本の話を聞くと「宗教じゃないか」と思います。ウンチクの理屈をゴジャゴジャ言うのです。
弾いて音がどうかに集中するべきで、それ以外は要らない情報です。そのような知識を集めれば集めるほど理解から遠のいていきます。お店の人は要らない情報しか言わないのですからまいったものです。


読んでいただいている方々には自分で答えを見つけてほしいという視点で記事を書いています。
私が書いたことを鵜呑みにしないでほしいです。
私は薄い板の楽器を作ったり高く評価したりしますが、厚い板の楽器が気に入ったならそれでいいですよ。私とこちらのお客さんの好みというだけです。厚い板の楽器でも小さな部屋の中では音量があると感じられるものはたくさんあります。古いものなら音色が深いものもあります。ホールでどう鳴るかは上級者でも意識しない人も多いです。

私が言うのは厚い板の楽器を作るのは薄いものを作るよりも作業量が少なく安い楽器に多いので、「厚いものが本物だ」というようなウンチクは忘れてくれということです。20世紀になると厚めの板の楽器が増えてくるのである種の流行だと思います。我々の師匠の師匠の師匠くらいの時代に流行したとすれば、我々はそれを「正しい知識」と思い込みがちで、専門家として教えて来てしまいました。しかし、楽器を選ぶ時はそんなことは気にしなくて良いということです。実際に板が薄めの19世紀の楽器には音量が多いものがたくさんあり知識が間違っていることが分かってきました。オールド楽器もしかりです。それに対してよくわからない理屈で反論をする人がいます。そもそも理屈なんていりません、実際に音がどうかです。

理屈に矛盾する楽器があったとき、その理屈を正当化するための理屈が作られます。その理屈に矛盾する楽器があるとまた更に理屈を考え出します。日本ではこの手の話が多すぎます。嘘をついたためにさらに嘘をつかなくてはいけなくなってしまいます。嘘だったと認めたほうが楽です。

私が作っているやり方が他のものより優れているということはできません。
音の良し悪しを客観的に評価することなんてできないからです。ある音大卒のヴィオリン奏者の人は現代の作者に興味があっていろいろなものを弾いてきたそうです。私の楽器に驚いて「こんな新作楽器は珍しい、まるで古い楽器のようだ。ヴァイオリン製作コンクールに出したらどうだ?」と言います。コンクールには工作技術の評価以外に音の評価があるからです。
しかし私の作風では出すことすらできません。普段作っている楽器をついでにコンクールに出して音の評価の点数だけ見れれば良いのですが、作風を変えないといけないので無駄な楽器を作ることになります。
音もその人が気に入ってるだけで審査員が別のヴァイオリン奏者なら別の評価になるかもしれません。もっと派手な音の楽器がほかにたくさんあることでしょう。

音の優劣を客観的に評価することはできません。



自分で答えを見つけるためには考える元が必要です。
多くの場合職人や楽器に幻想があり先入観が実際とはかけ離れています。


その辺の感覚を養ってほしいものです。
当ブログでは、私の日ごろの体験を書いていますので、それを通じて現実を知ってもらいたいです。




宗教は面白いもので、教会での演奏会の様子もお伝えしました。
クラシック音楽の基礎に教会の音楽があることは間違いありません。特にバロック芸術ではカトリック教会が大きな役割を果たしました。教会のための芸術と言っても良いでしょう。
「芸術家の仕事」と考えると職人に近いです。当時は芸術のための純粋な芸術ではありません。
近所の人たちがお金を出し合って神社を直すように、信者がお金を出し合って自分たちの教会に絵を描いてもらったりしたわけです。絵の内容も目的に応じて「聖人」が選ばれました。音楽家の組合があるなら聖チェチェリアが音楽の守護聖人です。ボローニャの画家が描いた絵ではヴァイオリンがリアルに描かれています。ボローニャ楽派からは優れたヴァイオリン奏者を輩出しました、コレッリやロカテッリなどです。

何かを信じることが悪いことだとは言えません。何でもありだと思います、自分で考えてください。

























あけましておめでとうございます、ガリッポです。

コロナの方はまたヨーロッパで感染拡大の兆しが出ています。クリスマス休暇で集計作業も滞っているのではっきりした数字は1~2週間後にならないとわかりません。

私は去年も病気も何もなくいつものような日々です。
音楽史の勉強もどんどん脱線して行ってわけわからなくなっています。

私は何かの音楽家の熱狂的なファンになったことがありません。
クラシックの場合には作曲家が生きていないので新曲がもう出ません。残っている作品を全部聞いたら新しい体験はできません。
特に私が聞くような時代では楽譜が出版されることが少なかったので残念です。また後の時代になると作品が壮大になりすぎて作品数が多くありません。

いわゆる熱狂的なファンというのはおそらく音楽だけではなくて、ミュージシャンの人物そのものに惚れ込んでいるのでしょう。作品よりも人に興味が強いのだと思います。その点はクラシックでは人物を見ることもできません。一方で有名なクラシックの作曲家は偉人として人物像が語られてきました。それは本当なんでしょうか?
少なくとも貴族社会や上流階級での成功者です。ヨーロッパに住んでいると「社交界」というのをなんとなく感じることができます。

私は音楽であれが嫌いとかこれが嫌いとかいうのはあまりなくて、何でも聞いてみたいと思う方なんですが、あまりにもジャンルも多すぎて手を付けられないものが多いです。どんなジャンルでもファンの人たちがいて作り上げられてきたものはそれなりに魅力的だと思います。排他的にこれじゃないとダメとか、低俗だとかは思いません。

高校生の頃は図書館に通って毎週CDを2枚借りていました。いろいろなジャンルのものを聴いていました。最近もYouTube Musicを図書館のように利用しています。

それでも私があまり好きでないのは電子音です。これは私のこだわりが異常に強い所でアコースティックでないとダメです。この職業に就いた理由ですから。
だから楽器を作るにしても聞くにしてもアコースティックの楽器が持っている独特な音でないとダメです。これには趣味趣向があります。
そうなると最近の音楽の多くは難しくなります。音楽よりは音が苦手です。そうなると古い音楽しか聴けません。

貴族や上流階級の音楽も若い人には嫌われるのですが、芸術家として最高のものを作ろうと才能を発揮したのは間違いありません。ある種の心地よさがあると思います。
親や先生から強要されれば嫌でしょうが、そんなつまらない現代のことは忘れた方が良いと思います。


チェロは年末に最後のニスの層が塗り終わったところで、ひと月くらい乾かしてから演奏できるようにしましょう。またちょっと新しい試みもしてみました。どんな音になるか楽しみです。

今年はヴァイオリンも作っていきたいと思っています。
ビオラ製作の経験も生かして面白いものを作りたいと思います。


しばらく休暇をいただくので、ブログもお休みにするかもしれません。数日間休んでから考えていきます。

今年もよろしくお願いします。









こんにちはガリッポです。

まずはニスの続報から。
勤め先の初代の職人が作ったヴァイオリンは硬めのオイルニスが薄く塗ってあります。音は強くて50年くらい経っていることもあってよく鳴ります。90年代に別のニスに塗り直したものがありメンテナンスしました。それはとても柔らかいアルコールニスです。今でも同様のアルコールニスはストックがあって補修も同じようなニスでできます。
メンテナンスが終って弾いてみると強く鋭い音がしていました。初代の職人の他のものと同じような音です。
やはりニスでは楽器の音をまるっきり変えるほどの影響はないと思われます。音色はクリアーな感じがします。

ニスにはある種イコライザーのような働きがあるようです。ニスによって音が増強されることはないでしょう。むしろ特定の音が抑えられて、澄んだクリアーな音になったりすることがあり得ると思います。音響フィルターのような効果と言った方が正確でしょう。


さて、こんなヴァイオリンがありました。

これはたばこの箱で作られたヴァイオリンです。素人が作ったものではなく一流のモダンヴァイオリンの作者のものです。長年使われずにあったので弾けるようにしてみました。

ヘッド部には動物が彫られています。ジョークにしては手間がかかっています。売り物にならない珍品のヴァイオリンから移植したのかもしれません。

指板を削り直し、駒を新しくしてペグやテールピースは中古部品取り付けました。弦も中古のエヴァピラッチゴールドです。

正面から写真を撮れば当然のように真四角です。

木箱なのでアーチはありませんがプロの職人が作ったものなので演奏が可能な設計になっています。


裏板も当然真四角です。ブラジルのタバコのようです。

どんな音がする?

面白いものだと思いますが音はどうでしょうか?

弦を張って調弦するのも壊れそうで怖いのですが、音を出してみました。
意外にもヴァイオリンのような音がします。やや鋭さがあり、こもった様な感じもありますが、低音は豊かでビオラのような音がします。音量は十分にあり普通のヴァイオリンと変わりません。もっとギーギーとかすれたような音がするかと思いましたが意外と豊かな音が出ました。
カーボン製のヴァイオリンにも似た雰囲気です。

おそらく世界でもたった一回の試みでこれほどしっかりした音が出るとは驚きです。駒や弦などは「普通のヴァイオリン」にあわせて何百年も改良が加えられてきたのですから、この楽器には合わないかもしれません。エヴァピラッチよりもヴィオリーノの方が良いかもしれません。
この楽器に合わせて改良されればもっと良い音が得られるかもしれません。
寸法や板の材質、厚みなども研究を重ねれば十分に普通のヴァイオリンに対抗できるものができるかもしれません。むしろ音量では普通のヴァイオリン以上のものができる可能性を感じます。
この楽器には普通のヴァイオリンのようなバスバーがついていますが、ギターのような凝ったものも考えられます。

20年間やってきたことがバカバカしくなるような結果が得られました。

アマティが作り出したものとは?

もし500年前にこのようなものが作られて、数えきれないほどの職人が改良を加えたら今頃はオーケストラ楽器のメインになっていたかもしれません。作りが簡単なので少しずつ変えて試行錯誤がしやすいです。

アマティが作り出したものは一体何だったんでしょうか?

楽器の機能はこのようなもので果たせるのに、複雑で凝ったものを作ったのでした。少なくともアマティが作り出したのは「音の質」であって音量ではないということになります。単に音量を得るだけなら四角い箱で十分です。

アマティやストラディバリ、そして現在のヴァイオリンが優れているのは音量ではなく音質です。音量だけなら特別凝った作りは必要なく、才能も必要ありません。

そのような経験はたくさんの楽器を扱っていると感じるもので、何でもないような平凡な楽器や安物で音が大きく感じるものがあります。この箱のヴァイオリンもミルクールのとても安いものに音が似ている感じもします。プレスで作られたものです。
音量のあるヴァイオリンを作るには特別な才能も凝った作りも必要が無いことになります。

例えば音量があると評判なのはステファノ・スカランペッラです。この人は素人のヴァイオリン職人でプロの教育を受けていません。見るとすぐに素人が作ったものだとわかります。ニセモノが多い作者ですが、プロの職人が作ったものでは「良くできているのでニセモノ」だとすぐにわかります。
素人の職人が音量のある楽器を作れるというのは、この箱のヴァイオリンと同じことです。音量のある楽器には特別な秘密は無いということです。

これはとても納得のいくものです。


アマティは音量を犠牲にして美しい音を生み出すヴァイオリンを設計したと言えるでしょう。グァルネリ・デルジェスのように適当に作ったヴァイオリンに音量があるというのはあり得ることです。
音量がある楽器を作るのは才能ではなく「運」ではないかと思います。無造作に作ったものになぜか音量があるものがあるのです。

名工だの巨匠だの言うのは全く的外れです。
少なくとも高価な名器だから音量があるのではありません。音量は凡人の職人でも生み出すことができるのに対し、美しい音の方が珍しいのです。
これは日々経験することです。

音にこだわる人は少数派?


現在ではスマホやパソコンの音を聞くのにワイヤレスのBluetoothスピーカーが人気です。私からすればそんな音質で満足している人が多いことに驚きです。
しかし私のように音にこだわる人は少数でBluetoothスピーカーに対する否定的な意見が無いのに驚きます。

同じようなことはヴァイオリンでも言えます。Bluetoothスピーカーに満足するような多数派の人がヴァイオリンを選ぶと音質には無頓着です。こうなるとヴァイオリンは腕の良い職人が作ったものである必要はなく、何でも良いことになります。

幸いにも音にこだわりが無いなら、ヴァイオリンは高価なものでなくても十分です。予算の中で弾いてみて鳴るものを探せばいいだけです。
新品よりも50~100年経っているものの方が有利なので、大量に作られた中古品から選んだ方が良いでしょう。

これは人によって大きな違いがあります。
少なくとも多数の人に認められるには音質は二の次で音量があると感じられるものです。

アマチュアでヴァイオリン作りをしている人は、プロが作るようなものを目指すのではなく、木箱のようなものを作ったほうが超えられるかもしれません。冗談ではありません。素人の人が木箱のヴァイオリンを作って、高価なヴァイオリンを打ち負かすことができそうです。誰にも共通の評価基準が音量だからです。

音が良いとはどういうことか?

最近はモダン楽器の需要があり、ブログでも多く取り上げています。お客さんの反応を見ていると新品よりも音の大きなものが多いのでモダン楽器が人気なのです。作者名がはっきりしているものは高価なのですが、それでも日本で「クレモナの名工」と売れらている新品のものよりは安く音量でも勝っています。
作者不明となるともっと安くなりますが、音量は劣っているとは限りません。品質が荒くなるとさらに値段は安くなります、掘り出し物があるかもしれません。ラッカーのニスも音が小さくなるとは言えません。

このような現実をブログでは紹介してきました。


現代の人たちがどんな音を「良い音」と考えるか、感じるかということによって楽器の評価は全く変わってくることでしょう。
先日もヴァイオリンを探してお客さんが来ました。50~100万円くらいで予算です。普通なら、それくらいになれば作者名に関する「ストーリー」が無いだけで、作りに大きな問題が無いものがいくらでもあるので試奏して気に入ったものを選べばいいはずです。良く鳴る楽器もありそれ以上ヴァイオリンにお金を出す必要があるのかと思うこともあります。その価格帯はコストパフォーマンスが最も優れていて需要もあるので在庫もたくさん用意しています。うちの師匠が「良いヴァイオリン」と言うのはガラクタのようなものの中らまともなヴァイオリンを見つけることです。私はこだわりが強く究極の美しいヴァイオリンでないと平凡なものに思えてしまいますが、お客さんのニーズをよく理解している師匠です。

しかしその人は楽器選びに難航していました。
本人が持っていたのがオールドヴァイオリンだったからです。作者も流派もよくわからず、サイズや弦長が明かに小さい物でした。それでもオールドヴァイオリン特有の音があり、サイズの小ささもそれほど感じさせないものでした。

それよりももう少し良いオールドヴァイオリンが欲しいとなると値段が一気に上がってしまいます。南ドイツのものでも作者が分かっていれば300万円~500万円と一気に上がっていきます。イタリアのもので数千万円出したからと言って完璧ではありません。そうなると億単位です。
100万円以下で作者不明のドイツのオールド楽器があります。私も時々修理して売っていますが、すべて売り切れでした。少数派でも需要が確実にあります。

私が作っている楽器もそのような方向性です。アマティが考え出したようなヴァイオリンです。でも多くの人が「音が良い」と考えるかはわかりません。このため間違っても私が作っているヴァイオリンが優れているとは言いません。美しさは分かる人にだけ分かるものだからです。


何が珍しく何が平凡か?

腕が良くない作者の平凡なヴァイオリンにはなぜか音量があるものがあります。有名だろうと無名だろうと関係ありません。

たくさんの中古楽器の中から弾き比べればそのようなものが見つかるでしょう。我々も戦前に作られた楽器をたくさん修理していてそのような実感があります。

ただし、それらの中にうっとりとするような美しい音、思わず笑みが出るような心地の良い味わい深い音のものはめったにありません。オールド楽器にはそのようなものがあります。しかし使いにくかったり、窮屈で鳴らなかったりします。良いものは極めて少ないです。


それでも多くの人は弾いた時に音が強く感じられると「おおお、鳴るな!」と高く評価します。それが現代人の音の好みなのです。そのような音の好みなら意外と安い楽器でも得られるかもしれません。

高価な楽器を買うなら、音の美しさが無いと高いお金を払う意味が無いと思います。
耳元でやかましい音がするものを高価なものでは「さすが名工の作品」と評価し、安価なものでは「耳障りな音」と評価しているだけで同じような音かもしれません。


アマティの生きていた時代と現代では美意識が変わっています。
木箱のヴァイオリンで技術革新が起こせるかもしれません。


それから本人が感じるだけでなく聞いている人にどう聞こえるかも重要です、特にホールでは全く違う響き方になります。

少なくとも我々が、ヴァイオリンというのはこうでなくてはいけないというのはそれほど確固たるものではないかもしれません。我々の業界で「見事なヴァイオリン」と言われているものは音量は大したことが無いものなのかもしれません。

技術的に考える


箱というのはもともと音が響きやすいものです。叩けば音がします。

現代のもので似たものはスピーカーです。スピーカーは振動版が前後に動くことで音波を作り出します。このとき振動版の前後で逆の波を作り出します。これらが干渉すると音を打ち消しあってしまいます。そこで裏側から出た音が前に出ないようにする必要があります。壁や天井に穴をあけてスピーカーパーツを取り付けこともできますが、不便なので箱に取り付けます。

この時箱の強度が低いと箱が響いてしまい雑音となります。そういう意味では楽器とは全く逆でいかに響きを抑えるかということになります。
ただし木材が響いて出る音はそんなに嫌な音ではなく、特に昔は音源の音が悪くそれで音を作っていました。大型スピーカーになると強度が不足して、チェロやコントラバスのようにそれ自体が音を出すのです。

ネックが折れて壊れたコントラバスの胴体にスピーカーを取り付けてサブウーファーを作った人がいます。録音内容を忠実に再現するという現代のスピーカーとは原理が違いますがジャズなどのベース音にリアリティが出るでしょう。

そのようなことは今でも全くないこともなく木材で作られることが多いのです。
この時響きをコントロールするのに直方体ではなく曲面で作られているものがあります。平らな板よりも曲がっている方が響きを抑えられるからです。

同じことはヴァイオリンのアーチにも言えます。というよりも弦楽器から着想を得たのです。
このことを知っていればただの箱よりもヴァイオリンのほうが響きが少ないことは予想ができます。
アマティが凝ったアーチの楽器を作ることでただの板よりも音量が抑えられるはずです。

レベックのような古い擦弦楽器ではアーチが無いものがあります。それをわざわざなら鳴らないようにしたのがヴァイオリンなのかもしれません。またブレシア派のヴァイオリンが淘汰され、クレモナ派のヴィオリンが残ったのもその時代の人の趣味でしょう。現在なら逆かもしれません。

技術的に考えても、何も考えず簡単に作れば音量が出るものができ、工夫を加えることで音色をコントロールするということになります。絶対的な音量は決まっていて引き算の「音響フィルター」で個性的な音を作るのが職人が作り方によってできることというわけです。それを腕の良い演奏者が鳴らすと最高の音になるというものです。


自由経済の社会ですから、今は消費者が選ぶものが「良いもの」です。そうすると伝統的に高級とされたものが好まれないこともあり得ます。職人は芸術家ではないので消費者の求めるものを作らないといけません。
こんにちはガリッポです。

日本では12月は師走と言いますね。
こちらでも聞いてみると12月はクリスマスに向けてすることがたくさんあって忙しいそうです。「もういくつ寝るとお正月・・」みたいな感じで子供たちはクリスマスを心待ちにしているようです。
昔はクリスマスの前は質素な食事を心がけ、クリスマスにささやかなごちそうを食べる習慣があったそうです。現代はコロナが無ければ12月に入ったら連日パーティーだったりお菓子を持ち寄ったりしています。日本にはアメリカからクリスマスの風習が伝わったので商業色の強いものです。ヨーロッパでもバカにできなくなってきました。

弦楽器店はほとんどクリスマスは関係ありません。専門的すぎて演奏する本人じゃないとわからないし、音を自分で選ばないといけないので贈物には向いていません。

多くの人は休暇には練習もしません。
音楽好きの一家は行事があるごとに家庭で演奏会をします。そんな人たちは弦の交換やメンテナンスもあります。


チェロにニスを塗る作業をずっとしてきました。
塗るだけではなくて作業場の立ち上げからニスの製造まで含まれます。
オイルニスは塗れる環境を作らないといけません。チェロのニスを塗るのは大変な作業で誰もやりたがらないので私が一人でやらないといけません。ただでさえ大変なので環境が整っている方がはるかにましです。

ニスについての理解

ニスというのは基本的に西洋の木工技術で日本ではあまり伝統がありません。日本では漆が有名な塗料です。ニスは西洋から伝わったものでしょう。英語のバーニッシュが、ワニス、ニスとなったと聞いたことがあります。ともかく日本人にはよくわからないものです。現在でも日本の木工製品ではテカテカの光沢のあるニスが塗られているものは多くないでしょう。

それが余計な妄想を掻き立ててしまうわけです。
今回私が使っているのがオイルニスです。
オイルニスは古代エジプトの時代にはすでにあったと思われます。地中海沿岸の基本的な材料で作れるものだからです。ミイラを作るくらいですから科学ではないけども化学的な知見が相当あったはずです。

逆に言うと他のニスを作ることができませんでした。シンナーのような溶剤を使う場合にそれを精製するのが難しいです。アルコールも純度の高いものを作るのは難しかったようです。近代以降に可能になった技術です。

オイルニスは特別なものではなく、それしか作る技術が無かったのです。したがって工業の材料としてもっとも合理的なものだったはずです。当時オイルニスを作るのは合理性を求めていたはずです。作業がしやすく低コストで耐久性があり、見栄えがするということです。

音を良くするために秘密の調合を考えたとは私も職人になる前に抱いていたイメージです。


チェロにニスを塗るのはとても大変なのでいかに楽に塗れるかということが大事です。それが何百年も経って亀裂が入ったり汚れが付いたりはげ落ちたりしたのを今の人が見て「何と美しい!」と言っているのです。ニスなんてほとんど剥げていて100年以上前に塗り直しているかもしれません。それも汚れてはげ落ちています。修理するときは「古い楽器のイメージ」に合うようにアンティーク塗装で塗っているわけです。


私も初めは「ラッカーのような硬いニスは振動を妨げるので良くない」と教わりました。今でも職人の間では「正しい知識」として信じられているかもしれません。しかし多くの楽器の音を経験すると必ずしもそうは言えないということが分かります。それどころかラッカーが音が悪いのかどうなのかは全く分かりません。検証することができません。同じように作られた白木の楽器を何本も用意して異なるニスを塗ってみる必要があります。しかし私はラッカーは使ったことがありません。知らないのです。だから分からないです。

工具の柄などは楽器用のニスでは弱すぎるのでラッカーを使います。天然樹脂のニスは塗りたては光沢があっても触っていると指紋のような跡が無数について表面のツルツルした面が曇ってしまいます。ラッカーなら手で持っても光沢が失われません。ただし持った感触はプラスチックみたいです。


私が自分で作ったことが無いので本当のところは分かっていませんが、ラッカーというのは素材としてはセルロイドのようなものです。セルロイドは昔のプラスチックで卓球のボールなどもそうです。ニトロセルロースが成分なのですがそれ自体は綿を薬品で反応させて得られると本で読んだ記憶があります。そういう意味では天然素材ではあります。それで言うと石油から作られるプラスチックも石油自体は自然のものですけども。

それでも人工樹脂と言われます。
それに対して天然樹脂は植物の樹液の固形成分です。樹脂というくらいですから。ほとんどの天然樹脂は植物から取れます。琥珀(コハク)になるとはるか昔の植物の樹液が化石になったもので化石樹脂と言われます。

シェラックは昆虫が作るものです。カイガラムシは面白いものでメスは足もなく移動もせず、木の汁を吸って分泌したもので殻を作ってその中にいるんです。昆虫が作ってももともとの成分は植物由来というわけです。

他にはサッコーニがストラディバリのニスとしてプロポリスを挙げていました。これもミツバチが作るものでエサは植物の蜜です。でもプロポリスはアルコールニスに加えることはできてもオイルニスには適さないものです。サッコーニは自分とストラディバリを混同していたようです。プロポリスは樹脂と言えるかもわかりません。アルコールに溶かして冷却すると蜜蝋(みつろう)を取り除けます。アルコールニスに入れると柔軟性がでて甘い匂いがします。柔らかくなって乾くのが遅くべたつきやすくなります。色合いは落ち着いた茶色の風合いがあります。しかし蜂蜜と同じようにいろいろな色があります。集めた植物の蜜によって違うのかもしれません。


楽器用として代表的なものを言うと、天然樹脂のニスにはオイルニスとアルコールニスがあります。人工樹脂にはラッカーやアクリルのニスがあります。

音はどれが良いのかと言われると私は分かりません。
オールドやモダンの名器など高い楽器にはオイルニスが塗られて、近代の量産楽器にはラッカー、現代の量産楽器にはアクリルのニスが塗られてきました。アルコールニスの製法は現代の職人が習得しやすいもので個人の職人で使っている人は少なくないでしょう、修理では最も使います。

このため塗られている楽器の値段で言うと、オイルニス、アルコールニス、ラッカー、アクリルという順になります。

戦前の作りの粗い量産楽器にラッカーが塗られていて、耳障りな粗い音がすることが多いです。じゃあラッカーで塗ってあるから粗い音なのでしょうか?
それはラッカーのせいなのか作りの粗さのせいなのか、100年くらい経っているからなのかわかりません。

ラッカーが塗られていてやかましい音がする楽器はたくさんあります、このためラッカーは振動を止めてしまうというのはおかしいです。振動を止めてしまうなら静かな音になるはずです。

少なくとも鋭い音はするわけですが、このような音が良い音なのか悪い音なのかは主観の問題です。もしラッカーによって鋭い音がするのならそれを良い音だと感じる人もいます。なので絶対に悪い音だということは言えません。

特に100~200万円くらいの価格帯のチェロではラッカーが塗られた戦前の量産品を学生さんが使っていることがよくあります。私がオイルニスで塗ったチェロを試しても気に入らず、ラッカーで塗られたものを購入する人は珍しくありません。むしろ鋭い音を好んで選ばれているのです。

またラッカーで塗られている楽器でも音が鋭くないものがあります。一方柔らかいオイルニスが塗ってあるのに鋭い音のものがあります。
そうなると楽器本体の音の影響の方が大きいということになります。どんなニスを塗ってあるかで楽器を選ぶのではなく、弾いてみて音で選ぶべきなのです。


結局安い楽器にはラッカーが塗られていて、高い楽器にはオイルニスが塗られているという値段の話だけです。
音大教授ではラッカーが塗ってあることには気づかずその楽器を絶賛することもあります。

私はそんなものだと思います。
楽器を作る時にふつうは価格帯のランクで材料の質や加工の品質を分ける時に、ニスも使い分けられるということです。製造コストの問題です。

だからニスを見ると楽器の値段が分かるというわけです。

これを逆手にとって、安物の楽器に高級なニスを塗ると高い楽器に見えるわけです。だからニスだけで判断してはいけません。しかし見た目の印象に与える影響は大きいものです。我々がニスにうるさく言うのはこのためです。せっかく楽器を作っても、ニスが安っぽいと第一印象で「量産品じゃないの?」と思われてしまいます。職人としてはそう思われないようにしないと買いたたかれてしまいます。

本当にこっちの事情です。

こんなヴァイオリンも売ってほしいということで持ち込まれました。値段はいくらを付ければ良いでしょうか?アンティーク塗装が簡単で安価な楽器に印象が似ています。最高でも30万円くらいに見えます。

オレンジのニスに黒い汚れがついています。量産楽器によくあるようなアンティーク塗装に見えます。

裏板も新品のようなオレンジのニスに真っ黒な汚れがついていて違和感があります。もっと全体的に古くなっていくのが自然です。

ニスのせいでパッと見の印象で量産楽器っぽく見えますが、楽器自体は量産品よりはよくできています。形も整っていて手作り感があります。おそらくクレモナで修行したのではないでしょうか?


ヘッド部もオレンジのニスに黒い汚れが不自然ですが、形がいびつなところに手作り感があります。
もし手作りのヴァイオリンで30万円なら安すぎます。ニスのせいでそれくらいにしか見えません。
日本でもクレモナ製の同様のビオラを見たことがあります。

アンティーク塗装は個人の職人が安易にやると、量産工場の塗装の専門家よりもノウハウが無く安っぽく見えます。
ニスはオイルニスかもしれませんが色がオレンジすぎるので古く見えません。

オールド楽器と並べると色味が違い過ぎます。ドイツの楽器なので黒っぽいですが、アマティ派でもこのような色味のものはあります。
一番右のものはザクセンの量産品です。それでも黄金色になっています。

強いオレンジ色に黒い汚れを付けたものはハンガリーの量産品によくありました。現在では中国などでも作られています。クレモナで修行した職人がオイルニスで作っても量産楽器に似てしまいます。

私はアンティーク塗装が誰よりも嫌いです。完成度が低いものが許せないのです。


私が去年作ったものです。これでは手間がかかりすぎて産業にはなりません。

ニスの製造

楽器本体の製造に比べるとニスの製造法は明らかにされていません。楽器の製造法は多少の違いがあるものの世界のヴァイオリン製作学校でだいたい似たようなものです。世界中の新作楽器がそっくりなわけです。そこで教わったような作り方を本にしてアマチュアの制作か向けに出版されています。

それに対してニスの製法は現役の職人が先生をしていても、「学校のニス」を使うだけで自分のニスの製法は教えなかったり、弟子にも教えなかったりします。ニスの作り方がちゃんと書いてある本は私は知りません。ニスの製法について書いてある本は怪しいものばかりです。ヴァイオリン製作の入門者が誰しも教科書として読むべき本が無いのです。インターネットで見つかるでしょうか?
画材辞典からコピーして材料の説明を写してあるだけだったりします。画材辞典は絵画用のものですから、楽器用のニスを作る場合には的外れだったりします。
ニスに関係のある知識を語っているだけで、肝心の作り方が料理の本のように書いてないのです。

楽器の加工を学ぶと、従業員として使うことができます。そこまでは喜んで教えてもらえます。ところがニスの製法は教えてもらえないのです。噂などを同業者から聞くと本当に作ったことがあるのかとインチキ臭い物ばかりです。

私も料理のレシピのように完全なオイルニスの作り方は先輩や師匠も知っていなかったので教わることはできませんでした。そこで断片的な知識から、実験や失敗を繰り返してできるようになりました。
ニスを20回くらい作ったら十分に使えるようなものになって、さらに用途に合わせて異なるものを作れるようになってきました。アンティーク塗装ではまた違います。質が良くないとチェロのような大きなものは塗るのが難しいです。


私が作ったものでしか言うことができません。
ニスの硬さで言うとオイルニスのほうがアルコールニスよりも硬いものができます。アルコールニスはアルコールに樹脂を溶かして作るのですが、硬い樹脂はアルコールに溶けません。このため硬いアルコールニスが作れないのです。本には樹脂の種類で硬いとか柔らかいとか書いてありますが、それが抽象的です。言葉で物を考えて、「本に硬いと書いてあったから硬い」と考える人が多いです。そうするとその樹脂は硬いので単独で使ってはいけないと知識ではそうなります。でも実際に工具の柄などに塗ってみると全然強さが無くて使い物にならなかったりします。アルコールニスでどんなに硬い樹脂を使ってもそんなに硬くないと思います。瓶の口から垂れて固まったようなものをいじってみると硬いかどうかわかります。ぐにゃッとゴムみたいなものなら硬くないです。

ヴァイオリンなどは使っていると手が触れる部分のニスが剥げてきます。弓や肩当でこすれるエッジもそうです。そこだけは硬いニスで修理すれば良いわけです。面積が限られていて音には影響がないはずだからです。

それで硬いニスを作ろうとするのですが、できないです。相対的には硬いものができます。塗って時間がたつごとにアルコールが蒸発してだんだん硬くなっていきます。硬めのニスなら30分でも指で触ってもくっつかないくらいの硬さになります。それでも絶対にはげないようなニスではありません。

また硬い材質でニスを作るとガラスのようなものができます。衝撃やゆがみが加わるとパリンッと割れてしまうのです。このためゴムのような弾力がある方が丈夫なのです。アクリルのニスは合成ゴムやプラスチックのようなものなのでこの点で優れています。量産楽器では店頭で扱っているだけで傷が付いたら困りますので耐久性のあるニスが塗られています。それでも何年か使ったものは損傷を受けています。

ニスとして成立させるには柔軟性も必要でアルコールニスでは人工樹脂のような丈夫なものはできません。

オイルニスはアルコールニスよりも硬い樹脂を溶かすことができます。溶剤で溶かすのではなく、温度で溶かすからです。それでも油があることで粘りがあります。やはり硬い樹脂ではガラスのようになってしまいます。それでもアルコールニスよりは硬いものが作れます。

人工樹脂のニスはそれとは別次元に硬いものができます。このため天然樹脂のニスなら何でも音が悪くなるほど硬いものは無いというわけです。


私が作る楽器はそもそも音が柔らかく刺激的な音がしません。さらにアルコールニスを塗るとゴムでコーティングしたようにダンピングされるようです。オイルニスのほうが硬いので刺激的な音も出て明るい音になります。私の楽器にはオイルニスのほうが合っています。ラッカーの方がもっと良いかもしれません。人によってはそもそもの楽器が明るく刺激的な音がするならアルコールニスの方が良いかもしれません。

オイルニスもその他のニスも柔らかい成分を混ぜることで柔らかくすることができます。やったことはありませんがアクリルの量産品でも柔軟成分を入れれば柔らかくすることができるはずです。実際にニスが柔らかすぎてケースの跡がついてしまう量産楽器もあります。

つまりニスの柔らかさについてはどのニスでも柔らかくすることができます。アルコールニスでは硬くするのが難しいです。

オイルニスというのは油性のニスというだけで、作り方が広く知られていないくらいですから定義なんてありません。製法は全く違うものがあります。ベネチアテレピンのようなものを油と混ぜただけのようなものではぐにゃぐにゃです。1900年頃にはラッカーの楽器と差別化するためによく使われました。100年経った今でも固まっていません。しかし古代以来の伝統的な製法ではしっかりとした硬いものできます。
19世紀にはコパールなどの天然樹脂を使ったオイルニスが工業用として量産されたようです。近代的な生産方法で、最新の化学の知識用いて大量に生産され工業用に使われたはずです。アルコールニスは塗るのがとても難しいので生産性がよくありません。それがラッカーが作られるようになると無くなってしまいました。人工樹脂のほうが目的を実現したからです。


量産楽器のニスをはがして塗り直したり、白木の楽器を買ってきて自分でニスを塗って完成品と比較することができます。アルコールニスを塗ればアクリルのものよりも音が柔らかくなりました。量産楽器にはやかましい音のものが多いので、上品な音が良いという人には白木の楽器を買ってきて自家製のニスを塗ったものがコストパフォーマンスに優れています。とにかく刺激的な強い音を求めるなら、完成品そのままの方が良いというわけです。

私が作ったものではアルコールニスよりもオイルニスのほうが明るく刺激的な音が加わります。

他の人が作ったニスでも同じかどうかは分かりません。とにかくアルコールニスは柔らかい音だという経験があります。しかし他の職人が作った楽器でアルコールニスが塗られていても鋭い音のものがよくあります。

ニスを見分ける

ニスによって値段のランクが違うというわけです。見た目でどのニスかわかるのでしょうか?

私でも分かる場合もあるし分からない場合もあります。
戦前のザクセンの量産楽器なら同じようなものがたくさん作られたので一目見るとわかります。自動的にそれはラッカーということになります。ザクセンのラッカーは―独特の匂いがあり間違いなくザクセンのものだとわかります。
ラッカーの中では質が良く100年経っても風化しているものが少ないです。一般的にラッカーのニスは50年もすると溶剤が蒸発して乾ききり細かく割れて来たり、ぼろぼろと表面が欠けてきたりします。それに対してザクセンのものは今でも磨くと光沢が出ます。目の細かい研磨剤で磨くと光沢が出ます。これが表面がボロボロのものでは磨いても光りません。塗料の耐用年数は数十年から50年くらいですから、上質なラッカーです。ギターの世界ではザクセンからアメリカに移住して工場を作ったそうです。そのようなものは歴史のある高級なニスとされているようです。

風化してしまったラッカーのニスは修理のしようがないです。シンナーのような溶剤を上から塗れば溶けたものでひびは埋まりますがすぐにまた乾燥してひびが入ってしまいます。そうなったものはいかにも安物という感じがします。
ザクセンのものなら見た目では上等なものとわからない場合もあります。
まだ入社して間もない頃、先輩に「これはオイルニスだ」と教えてもらったヴァイオリンがありました。私も初めは分からなかったので「これがオイルニスなのか」と学びました。お店に数年あった後に買った人がさらに楽器を買い替えるため10年以上して下取りしました。再び売り出すために手入れをすると匂いや作業性でラッカーであることが分かりました。でも見た目も音もよく加工やニスの色合いなどもまったく安っぽくありません。作業の経験でそれがラッカーだと分かるようになりました。

弦楽器業界では先輩に教わるとそんなもんです。
だから一般の人は知識を学ぶよりも単に弾いて音に耳を傾けるべきなのです。

お店の人もその楽器がラッカーなのかオイルニスなのか分かっていないかもしれないと考えた方が良いです。

当時の人たちがどう考えていたかは人それぞれでしょう。ドイツでは安物にはラッカー、マイスターの高級品には特に柔らかいオイルニスが使われました。しかし生業として考えると自作の楽器にラッカーを塗った人もいるでしょう。手作りだとか天然素材などにこだわる人ばかりではありません。作業が大変なので少しでも仕事が楽になると喜ぶ人の方が多いです。皆さんの職業でもそうでしょう、わざわざ大変な作業法をするのは頭のおかしな人です。ニスで面倒なのは自分で作ることです。ラッカーのニスは売っていたので注文するだけで入手できます。色も人工染料が量産されているので安く買えて着色できます。困難なのはニスの製法を学ぶことですが、若い頃は天然のオイルニスなのに晩年は市販されたものを使っていた人もいます。歳とともに生活も忙しく「仕事」になっていきます。エアブラシやスプレーを使えば塗る作業も簡単になって試す人もいます。ニスを塗る作業は嫌になるほど難しいのです。19世紀のフランスの楽器はニスが似ているので市販されていたと考えると自然です。極限まで加工技術を高めてもニスは買ってきて使うのが常識だったのかもしれません。

これはまたまたマティアス・ハイニケのヴァイオリンです。この前のものは音が良くて驚きましたが、これはガルネリモデルで形が違います。同様のものを他に見たことがあるのでこれがハイニケのガルネリモデルなんでしょう。
アンティーク塗装で塗られています。

f字孔の縁に特徴があります。このようなものはボヘミアの楽器には見られることがあります。毎回決まっていたというよりはその時の気分でばらつきがあります。

このハイニケの特徴はニスがラッカーです。においや質感でラッカーであることが分かります。普通ハイニケはオイルニスを使っています、なぜでしょうか?

スクロールもきれいで安物には見えません。ハイニケは様々な経験を積んでいてアンティーク塗装では量産工場の技術を用いたのかもしれません。

板の厚みはかなり厚めです。この前のものとは違います。音は鋭く耳元で強い音がします。弾いた人は「力強い」と思うかもしれません。聞いている方では音が開放的に出てくる感じではなく重く鳴っていないように思います。明るい響きが抑えられて暗く感じます。板が厚くても暗い音になることがあります。しかし私のように感じる人は一部でしょう。
普通は鋭い音なら「力強い」と感じる人が多いでしょう。それはプラスに評価されることが多いです。

これがラッカーのせいなのか板厚のせいなのかもわかりませんが、ハイニケにはもっと上品な音のイメージがあったので最近の2本ではイメージが変わりました。結局作者の名前と音には統一性があるとは限りません。値段は名前で決まるので同じ値段でも音は様々ということになります。




ニスを塗る場合にはフルバーニッシュとアンティーク塗装の2種類があります。フルバーニッシュはすべて均一にニスを塗ることでとても難しいです。ニスは厚みがあるので厚みにむらができると色むらになって現れます。すべてを均一にするのは至難の業です。木工製品では銘木のように木材自体に色がついていれば無色透明のニスを塗るだけできれいになります。しかし楽器用に使われるのは軽い木材ということもあって白いものです。それにニスを塗るので難しいのです。
ヴァイオリン製作コンクールではこの技術が競われます。技術が高い職人は完璧に近く塗ることができます。表面は研磨して凹凸が無いように仕上げます。このように完ぺきに仕上げるとどのニスが使われているかはわかりません。オイルニスでも、アルコールニスでも分からないのです。
完璧に近づくほどスプレーで塗ったものに似てきます。一番高度な職人が塗ったものと一番安いスプレーで塗られたものが似ているというわけです。

何年も修行して腕が上がってきてついに高い水準に到達すると、安物の楽器とそっくりになってがっかりするのです。そこまで行く人はわずかな割合でしょう。アンティーク塗装に行くのはそれが一つの理由です。

ほとんどの場合はムラなくニスを塗るのが難しいので「アンティーク塗装に逃げる」のです。塗り方が汚くてもバレないだろうと安易にアンティーク塗装を始めるわけですが、当然全く古い楽器に見えません。

量産楽器のほとんどがアンティーク塗装

うちのお店でも量産楽器を仕入れて販売します。メーカーの営業マンが持ってきて師匠が私に「選べ」と言うのですが、私は下手なアンティーク塗装が誰よりも嫌いのなので、普通に塗ったものはないのかと思います。昔はスプレーで塗ったものがありましたが、今はほとんどアンティーク塗装で手塗りです。中国や東欧など賃金が安いからです。日本やかつての西ドイツならスプレーで塗ったものです。
全く古い楽器を見たことが無いような人達が塗っているのでそれだったら、フルバーニッシュの方が良いと思うのですが、スプレー以外では塗るのが難しいので無いのです。

うちで買っているチェロも多かれ少なかれみなアンティーク塗装です。そこで今回は手塗りのフルバーニッシュにしようと思います。その方がプレミア感があります。

完璧に塗るのは手間暇がかかりすぎます。そこでいかに効率よくチェロにニスが塗れるかです。たまにこれはスプレーでは無くて手塗りだとはっきりわかる楽器があります。塗り方が汚いからです。それではいけません。

そこでオイルニスなのです。アルコールニスでは刷毛で塗ったときに刷毛の通った跡の筋が線になって残るのです。何層も塗っていくと線だらけになっていきます。最後は小さな筆で線が分からなくなるように筆を入れていきます。チェロは面積が広いのでその作業が地獄になります。立体的にも筋ができます。筆の跡を消すために表面を耐水ペーパーや研磨剤で平らにしないといけません。表面が真っ平らになるとニスが薄く見えます。実際にアルコールニスは成分の大半がアルコールのなので蒸発すると厚みが薄くなります。何年もするとペッちゃんこになってしまいます。

オイルニスは刷毛の跡が残りません。完全に均一に塗れなくても刷毛の跡ではないのでそんなに見苦しくありません。むしろそのボヤボヤした雰囲気がオイルニスらしさなのです。これを完全にしてしまうとスプレーのようになってしまいますから、あえてボヤボヤを残すわけです。それがうまくできるようにニスを作って塗り方もテクニックがいるわけです。またオイルニスはそこまで研磨しなくてもいいのでぼってりとした厚みのあるような質感になります。

このため高級品として売れるのにオイルニスは量産する場合に作業性が良いのが利点です。ただし乾くのに時間がかかるのが難点でおよそ22時間以内に次の層が塗れないと一日に一回ニスを塗ることができません。それで設備が必要なのです。アルコールニスは置いておくだけで乾きます。しかし本当にアルコールが抜けきって乾くのには何年もかかります。

そんなことを研究していくと「楽器製作のプロ」ということになります。楽器を効率よく作るのがプロです。こだわって作るのは遊びです。
修理ばかりで「最後に自分で楽器を作ったのはいつだっけ?」という人のほうが多いでしょう。
私は、アンティーク塗装が多いのでフルバーニッシュの方は忘れています。それが問題です。

いきなり大失敗

というわけで今回の中級品のチェロは「きれいなチェロ」を目指します。

と思っていたところで表板の一層目で大失敗です。
覆水盆に返らずで修正は不能です。

20年やってても初めてのことでこんな失敗があるんだなと驚きです。残念ながらきれいなチェロではなくなってしまいました。アンティーク塗装ばかりやっていたので忘れてしまったのもありますが、同様の失敗は1000万円以上するイタリアのモダン楽器でもよくありますからチェロではよくあることですね。プレッセンダよりはましです。でも誰もプレッセンダには文句を言わないのでそれが違うところです。写真でも一般の人にもわからないようレベルですが、悔いが残ります。

楽器作りは「完全試合」とはいかず一つや二つは失敗があるものです。悔しい思いを持ったまま、あきらめないで完成に持って行かないといけません。慎重に慎重を重ねる必要がありました。やはり効率よくきれいなものは作れないですね。


ピカピカなニス

ウィーンフィルのニューイヤーコンサートを見ると弦楽器がピカピカになっています。おそらく直前に専属の職人たちが磨き直していると思います。
光沢があるのが良いのか悪いのかは好みの問題ではあります。しかし一応職人としてはピカピカに磨き上げると仕事が完了ということになります。しばらく使っていると汚れがついて光沢が失われて行くので、掃除して磨き上げると「きれいになった」と仕事をしている方も喜びがあります。受け取った持ち主も同様でしょう。

私はアンティーク塗装の新品の楽器ではピカピカすぎるので敢えて光沢を抑えます。古い楽器ではできるだけピカピカにします。
古いニスは光沢が出にくくなっています。修理でも新しく塗ったところだけ新品のような光沢では困ります。新しく塗ったところをつや消しにするか、全体をピカピカにするかどちらかです。

最も光沢が強いのはスプレーで分厚くクリアーのラッカーやアクリルのニスが吹き付けてあるものです。つまり一番安いものです。スプレーで吹き付けてそのままの「塗りたて」の状態が一番光沢があります。何年が使ったものでもこのようなものはコンパウンドを使うとピッカピカになります。しかし同じコンパウンドでも楽器によっては全く役に立たないことがあります。

アルコールニスはアルコールに溶けやすい性質なので布をアルコールで湿らせてこすってあげるとニスの表面が溶けて滑らかになり光沢が出ます。ユーザーが乾拭きをした時に細かいゴミなどでひっかき傷をつけてしまいます。アルコールニスなら傷を溶かして消すことができます。アルコールニスの便利なところです。しかし何か月か何年かすると光沢が無くなってしまいます。定期的にメンテナンスが必要です。補修ではアルコールニスを使うのでやりやすいものです。一方アルコールニスは表面を滑らかに研磨して仕上げるので、傷やへこみが目立ちやすくフルバーニッシュのものでそれを直すのは至難の業です。アンティーク塗装では傷がついたことはプラスになります。むき出しになった白木が目立つのでトーンを落としてやればOKです。

オイルニスはアルコールに溶けない成分が多いとアルコールで磨くことは難しいです。フランスの軟質系のものはどうやっても光沢が出ません。
フランスやイタリアのモダン楽器では多くの場合オイルニスの表面に何かが塗られています。おそらくアルコールニスでしょう。修理の時に上から塗ったのではないかと思います。油性のものやラッカーが塗られていることもあります。
ドイツの軟質系のオイルニスはアルコールで磨き放題です。軟質系の樹脂が使われているからでしょう。


楽器によって塗られているニスや古さが違うので毎回やり方が違います。厄介なのは水溶性のもので、掃除するときに水分を使うと剥げてしまいます。
磨き粉や溶剤、コーティング、フレンチポリッシュなど様々な方法があって楽器によって違います。全く違う時代やメーカーのものを修理するのですから塗料の性質が分かりません。




ニスには①樹脂②溶剤➂色素の三つの要素があります。
溶剤は徐々に蒸発し、ニスは弾力を失い厚みが薄くなります。何十年か経った楽器がよく鳴るようになる一つの要因かもしれません。色素があれば色がついて見えます。しかし樹脂が十分にないと厚みが無く透明感が出ません。一方色が少ないと良い色になりません。厚すぎるニスも音には良くないでしょう。

メンテナンスで厄介なのは色が強くて、厚みが薄いニスです。ちょっとこすると色が剥げてまだらになってしまいます。塗った直後は溶剤で厚みがあっても、蒸発すると厚みが無くなってしまいます。自分でメンテナンスをするならそんなニスは使うべきではありません。現代の有名な職人の楽器でもそんなニスが塗られていることもあります。

音以前に難しいことがたくさんあります。製品の品質を安定させることが先決です。













































(2021年現在の記事です)


こんにちはガリッポです。

音楽の聴き方が多様化している中、ネットを調べてもクラシック音楽ファンには見当はずれの記事ばかりなのでまとめてみましょう。新しい時代のツールが流行しても世間はクラシックファンのことなんて考えていませんから。

どんどん音楽を聴く選択肢が多くなっていくのに、過去の方法も無くなったわけではありません。私も調べていたらこのことだけで頭がいっぱいになり楽器のことも考える余裕もありません。

音楽鑑賞自体が楽しみでもありますし、音楽を勉強する人にとっては資料的な目的もあります。現在ではたくさんの音源が聞けるようになっていることに時流には疎い私も驚きました。


YouTube Musicについて

現在では音楽の入手法の一番ポピュラーなものがYouTubeだそうです。広告収入でやっているサービスなのでちょうど昔のラジオやテレビの代わりでしょう。知らない曲があったときとりあえず調べてみると参考になります。

YouTubeには姉妹サイト(?)に「YouTube Music」というのがあります。
YouTubeのページの右上に並んだアイコンのうち「YouTubeアプリ」という9つの点のマークの所から進めます。検索しても良いでしょう。
https://music.youtube.com/

これはYouTubeのうち音楽を専門に扱うもので余計なものが表示されず音楽に集中できます。著作権が公認されたジャケットが表示されて曲を選んで聞くことができます。クラシックの場合にはアルバムだけを検索すれば良いでしょう。
かつて発売された大半のCDが出ていると思います。クラシックはとても充実しています。逆に多すぎて検索結果が際限なく出てしまい困るほどです。たとえばMozartでは検索結果が多すぎるので曲名や演奏者名なども入れて検索しないといけません。聞ききれないほどの音源がありクラシックファンなら物足りないことはないでしょう。

選んだものをライブラリに記憶させることができます。またGoogleアカウントを持っていると「チャンネル」を作ることができるので、チャンネルごとにジャンルや作曲家を分けてライブラリを作ることもできます。最大で100チャンネル作れるそうなのでモーツァルトやハイドンなど作曲家ごとにチャンネルに分けてアルバムを集めることもできます。

同じアカウントを使えば画面の大きなパソコンで曲を探したりライブラリを編集したりできます。インターネットに接続するとスマホやタブレットでも反映されています。

YouTubeは基本無料ですが、広告が入ります。特にひどいのは楽章の間にCMが入ってしまうことです。CMを入れない方法はいくつかあります。パソコンやスマホで違うので調べてみてください。

ともかく普通のYouTubeにも音楽はアップロードされていますが、はるかに充実しているのがYouTube Musicです。

ハイレゾについて

「ハイレゾ」という言葉も耳にするかもしれません。これは簡単に言うのが難しいですが、CDが16ビット、サンプリング周波数が44.1kHz なのに対してそれ以上の24ビット192kHzなどそれより高精細なデジタル音声のことです。

よけいわかりにくいですが、テレビがハイビジョンになったり、ゲームがファミコンから進化したときに粗いガクガクした画素が細かくなって高画質になったように音質でもきめ細かい空気振動の波形になるということです。
よく言われるのは人間の可聴範囲よりも高い音が出るということですが、聞こえないのなら意味が無いと思うかもしれません。デジタル音声は波長の短く波が細かい高音ほど荒くなってしまうので、聞こえる範囲よりもはるかに高い音が出せるということは聞こえる範囲の音は自然の音に限りなく近くなるということでしょう。CDができてから何十年もするわけですから音質も向上すべきだと思います。

SACDという音楽ディスクがあります。SACDプレイヤーで再生するとハイレゾの音声を再生できます。SACDはCDと互換性があるのでCDプレイヤーで再生するとCDの音になります。クラシックファンならコレクションの中にSACDもあるかもしれません。

ネットの音楽ストリーミング配信でも「ハイレゾ」対応のものがあります。スマートフォンでもハイレゾに対応した機種があります。


音楽ファンならぜひハイレゾといいたいところですが、自分が聞きたい曲がハイレゾに対応しているか調べてみる必要があります。私の場合バロックの作曲家二コラ・ポルポラについてporpraで検索してみます。YouTube Musicではいくつも聞きたいCDアルバムが出てきましたが、ハイレゾ配信サービスでは一つのSACDから一曲ごとバラバラにして出ているだけです。私がよく聞くようなレコード会社はほとんど対応していません。
ハイレゾに対応していない音源が圧倒的に多いので音楽ファンなら忘れた方が良いと思います。YouTubeの音を聞くくらいなら対応する機器をそろえる必要はありません。

タブレットをBluetoothでオーディオに接続



パイオニア製の2012年に発売されたシステムオーディオ(ミニコンポ)で使用するためにタブレットを購入しました。SamsungのGlaxy A7 Liteという8インチのもので99ユーロになっていました。日本円にすれば1万2千円台です。驚くほど安いです。OSはAndorid11を搭載したものです。ちなみに日本では売っていません。
このタブレットはインターネットとの接続はWiFi(ワイヤレスLAN)専用です。SIMカードを入れて使えるバージョンもあります。

YouTube MusicではこのようにCDのジャケットと曲のリスト、現在再生中の曲名が表示されています。これはアレサンドロ・ロッラのヴァイオリン協奏曲が3曲入ったものです。ロッラなんてとても珍しい作曲家でパガニーニの師匠としても知られています。若いパガニーニに「教えることは何もない」と言ったエピソードが有名です。まあそれはヴァイオリン演奏に関してで作曲についてはもちろん教えるべきことがあったはずです。こんな珍しいCDが聞けるのですから驚きです。曲自体は古典派でモーツァルトみたいな感じです。珍しいビオラ協奏曲も何曲かあります。
スタンドは自作です。

タブレットのヘッドフォン端子からオーディオに接続するのもやってみましたが、あまりにも音が悪く音量も足りませんでしたので、他の方法が必要でした。

パイオニアのX-HM81は4万円台くらいのものでスピーカーもセットのものでした。インターネットに接続して使えるもので2012年に発売になったそんなに古いものではありませんが、もはや時代にはついて行けません。iPodをドッキングさせる端子が上部についているのも時代を感じます。Bluetoothはオプションでしか対応していません。後付けのBluetooth受信機は製造終了し入手は困難です。

しかし新しいものに買い替えるのはあまりにももったいないです。

そこで別のメーカーのBluetoothの受信機を買い足すことにしました。上に乗っているのがそれです。

Pro-Jectというオーストリアのオーディオメーカーの製品でアナログレコードプレーヤーで有名なメーカーのもので値段は1万円程度です。私は8000円程度で買いました。

背面にはRCAのライン出力がありBluetoothで受信したデジタル音声をアナログに変換してから出力されます。光デジタル出力もあります。

筐体のカバーはプラスチックですが底と後ろの面は金属でできていてしっかり感があります。

タブレットの方で機器が検出されるのでONにするだけで接続ができます。

アナログレコードプレーヤーのメーカーなのでデジタル音声でもアナログのような音になるように作っているのではないかと期待して購入しました。結果的には予想以上でした。パソコンからUSBで有線接続したDAコンバーターと比べても音質の差はほとんどありません。またX-HM81でCDを再生したときも音の差はわずかでした。CDとほぼ遜色がありません。

それよりも録音時の音の違いの方が大きく、YouTubeが音源だということを考えるとこのBluetooth受信機では無線による音質の劣化は無視できるレベルだと思います。

むしろ内蔵されているDAコンバーターはパイオニアのものよりも良いのかもしれません。


このような音響機器には大きく分けると3つあります。

①パソコン・スマホ周辺機器
②オーディオ製品
➂楽器用品

一般的に売られているのは①のパソコンやスマホの周辺機器として売られているもので値段は中国メーカーのもので3000円位です。先進国の企業名が付くと倍になります。それでも中身は中国メーカーのものと変わらないのではと疑念があります。

このPro-Jectのものはオーディオ製品です。見分け方は端子を見たときにパソコン周辺機器として作られているものは3.5mmジャックというヘッドフォン用のミニプラグが使えるようになっています。オーディオ機器に出力するのはRCAが正式なものです。オーディオメーカーならそれが常識です。1万円くらい出さないとはっきり違いが無いというわけです。一番安いモデルなので生産国はチェコ共和国です。ドイツ製品でも端子などが中国製品と同じなら中身は中国製かもしれません。

このPro-JectのBluetooth Box Eはハイレゾに対応しておらずCDとおなじ16ビット44.1kHzのフォーマットになっています。これで今回の使用では十分な音質が得られました。予想以上で驚きました。

この製品ではBluetoothのバージョンが2.1とカタログには書いてあります。最新のバージョンは5.0でタブレットもバージョン5.0です。Bluetoothのバージョンについて検索してみると何かをコピーしただけのようなブログがたくさんヒットしてどれにも3.0以前と4.0以降には互換性が無いと書かれています。
実際に2.1のこの製品が5.0のタブレットで使用可能でした。どこの世界でも同じですね。

本当に詳しいプロの人の情報が一軒だけあってそこにはちゃんと書かれています。CD並の音声出力の規格は2.0と最新のものでは変わっていません。2.1ではパスワードが不要になり接続が簡単になりました。

Bluetooth受信機でバージョン5.0でハイレゾ対応などとなると中国メーカー以外では2万円以上します。Peo-Jectでもハイレゾ対応の上級機種はそれくらいします。

しかしCD並のフォーマットで十分に満足のいく音が得られました。これはなぜかと言うとオーディオ製品は規格だけで音が決まるのではなくて、他にいろいろ音に影響する要素があるのです。当然デジタル音源をアナログに変換して出力するわけなのでその回路も重要です。オーディオメーカーは試作品を作っては音を測定器や担当者の耳で聞いて、設計を変更したりして音を作っていきます。この作業が音の違いを生むのです。

最新の中国製品ならバージョン5.0、24ビット192kHzと書かれています。でもだから音が良いとは限りません。普通はそれくらいの規格を採用するなら他の部分でも音が良くなるように練って設計されているはずです。しかし「24ビット192kHZ」と書くだけで音が良いと考えて売れるでしょう。商売に徹するなら試聴を繰り返して製品を作り上げていく必要がありません。これがオーディオ機器とパソコン・スマホ周辺機器の違いです。

よくできた製品というのは派手なスペックを誇るとは限らないのです。今回の目的ではベストな選択だったと思います。同じCDプレーヤーでも音を良くするために努力されてきました。フォーマットのスペックで音が決まるわけではありません。

日本で買えるものは?


残念ながら日本ではこの製品は売っていません。
日本でもスマホやパソコンと接続できるBluetooth受信機は中国メーカーの安いものばかりです。日本の大手メーカーで作っているところはないようです。これだけスマホやパソコンを持っている人がいるのに作っていないのは不思議です。どの有名メーカーも作っていて選び放題だと思っていました。

手持ちのステレオで音楽が聴けるチャンスを逃しています。

調べてみると日本メーカーのフォステクスにPC1-BTというものがあります。
https://www.fostex.jp/products/pc1bt/
実売価格は8000円位でCD並の16ビット44.1kHz対応です。
フォステクスは海外では業務用のオーディオ機器、つまり楽器店で販売する楽器用品として売られています。さっきの分類では➂の楽器用品です。日本ではスピーカーのパーツが有名でマニア向きのメーカーです。

この製品はボリュームがついています、Pro-Jectの方は余計なものは一切ついていません。音が出るだけです。コンピュータや家電製品では機能が多くついているほど上級機種だと考えられますが、オーディオ製品では機能が少ないほど贅沢になります。ヴァイオリンも楽器の演奏以外の機能はありません。メトロノームなどを内蔵させることもできるでしょうがその方が安物に思えます。

高級品というのは用途がそれしかないほど贅沢品なのです。

使ったことはありませんが、おそらくこのPC1-BTで私と同様のことができると思います。スマホにもWindowsにも対応しています。ロースペックでも音が良いと評判です。


パソコンから有線でUSB接続がしたい場合には別の製品があります。
https://www.fostex.jp/products/pc100usb-hr2/
これはハイレゾ対応のもので、ハイレゾ非対応の旧機種は廃盤になったようです。在庫はどこかにあるかもしれません。

ボリュームのほかにヘッドフォンの出力もあります。値段はハイレゾの分お高く12000円ほどでしょうか。


これらの製品はボリュームを利用して他の使い方もできます。

アクティブスピーカー

古いオーディオ機器を持っている人にはこの方法でスマホ・タブレット、パソコンから音声を出力することができます。この使用法なら有線でUSB接続しなくてもBluetoothで全く問題が無いと思います。
私が買ったようなものなら数十万円のオーディオセットでも使えるでしょう。スペックに溺れてもっと高いものを買う必要はないと思います。
それならSACDプレーヤーを買った方が良いと思います。


アンプやスピーカーなどを持っていないか古すぎてどうしようもないなら新しいものを買う必要があります。

この時コストパフォーマンスが良いのが「アクティブスピーカー」です。

スピーカーにはパッシブとアクティブの2種類があります。スピーカーは電磁石に電流を流すとそばにある永久磁石と引き寄せあったり反発しあったりすることで振動を生み出し音に変えます。スピーカーに電力を送るのが「アンプ」です。アンプがスピーカーの動力源とイメージしてください。

パッシブスピーカーはアンプとスピーカーを接続することで機能するものですが、アクティブスピーカーはスピーカーの箱にアンプが内蔵されていて別にアンプがいりません。

よく業務用と言われますが、楽器店で売っている音楽家が使うための「モニタースピーカー」ではアクティブ型が主流になっています。スピーカーの特性に合わせてアンプを設計することができるので小型でも低音が強力でビックリするものです。

これがコストパフォーマンスがとても良いようです。
ペアで2~3万円でも家電店で売っているようなBluetoothポータブルスピーカーとは次元が違うでしょう。
Bluetoothスピーカーは電池が内蔵されたり他の機能があり1万円以下くらいですからたかが知れています。特にポップミュージックにあわせて音が作ってありズンズンと高めの周波数の低音が強調されています。ドラムの低音とシンバルが強調されて俗に「ドンシャリ」と言われ「素人好みの音」の典型です。世界で若者に人気のディスコ音楽には良いでしょう。持ち運べるのでラジオ体操にも良いでしょう。

それに対してモニタースピーカーはできるだけ録音内容を正確に再現することが求められます。


そのモニタースピーカーはボリューム調整が裏面にあったり左右別々だったりして使いにくいものです。それで先ほどのフォステクスの製品を使えば接続してボリュームが使えるわけです。合計3~5万円くらいで買えるものでは音質のコストパフォーマンスが最も良いものでしょう。
https://clevergizmos.com/pages/connect-speakers-to-laptop-for-studio/
英語ですがノートパソコンに有線タイプの旧製品とモニタースピーカーを付けた例です。

モニタースピーカーは電気店やオーディオ店ではなく、楽器店で販売されているものです。楽器を演奏している皆さんにはむしろなじみがあるのではないでしょうか?

例えばヤマハのHS5なら二つで3万円くらいでしょうか?楽器をやっている人が自宅に持っているとプロっぽいですね。ヤマハの音は無味無臭で主張がありません。音楽に徹するには最適です。
https://jp.yamaha.com/products/proaudio/speakers/hs_series/index.html

個人的にお薦めなのはタンノイというメーカーです。イギリスの老舗中の老舗メーカーで特にクラシック音楽の分野では定評があります。オーディオ用の現代のシリーズではオーディオっぽい音ではなくコンサートホールの音を見事に表現し、音楽のニュアンスも感じやすいです。モニターはもっと純粋な音でしょうがReveal 402なら日本でもペアで2万円台で買えるのではないでしょうか?
日本では品薄のような感じもしますがヨーロッパでは今でも売っています。


このような楽器用品として売られているモニタースピーカーは使い勝手が家庭用とは違います。普通はオーディオインターフェイスというもので接続しますが余計な機能が付いていないフォステクスの上記の製品で使えると思います。ケーブルなどはスピーカーによって違い電気屋では売っておらず楽器店で売っているものが必要になるかもしれません。

電源のスイッチもスピーカーの背面にあったり使いにく所もあるので工夫が必要です。スイッチ付きのコンセントやワイヤレスのコンセントなど工夫ができます。

私が使っているわけではないので動作は保証できません。ヒントにしてください。

音楽の洪水


使うようになって驚くのは音楽への好奇心がどんどんわいてくることです。CDを買うのが理想ですが、買う時はリスクがあります。作曲家、曲、演奏家の3拍子が揃ったなじみのものだけを買うことになってしまいますが、このようなものでは今まで知らなかった音楽に興味がわいてきます。
聞けるアルバムは渋谷タワーレコードの在庫よりも多いでしょう。聞き尽くすということは無いと思います。

それでも世間はクラシックは念頭に置いていません。YouTube Musicの画面でも曲名が長すぎてクラシックの場合には全部表示しきれません。

肝心の最後が切れていると何楽章なのかわからなかったりします。Androidタブレットの場合には開発者向けオプションで画面の領域を調整して表示文字数を増やせます。


タブレットではYouTube Musicのアプリではなく、Braveというブラウザ(インターネット閲覧アプリ)を使っています。広告ブロック機能があり、実際一度もCMが流れたことはありません。パソコンではブラウザの拡張機能でできるのでもっと確実です。

YouTube無料版では長時間何も操作をしないと30分ほどで勝手に停止して「続きを視聴しますか?」と確認が出ます。途切れるのが気になるようなら月額料金を払って会員になっても良いでしょう。1180円ですからCDを買うよりもずっと安いです。

スマホ・タブレットやパソコンなどは新たに買う必要はありませんが、タブレットを合わせても2万円ほどの出費で聞ききれないほどの音楽が聴けるようになりました。他にもインターネットラジオなども使えます。
古いスマホなどを音楽再生専用機にするのも良いでしょう。

時代の変化が信じられません。

パソコンでもYouTube Musicなど同じように使えます。しかし移動がしにくく別のステレオにはもう一台パソコンが必要になるので、タブレットならもっと安いということで導入しました。




いずれにしても音源のほうがどんどん変化していきます。それに対してスピーカーやアンプのような基本的なものは変化のスピードがゆっくりです。あまり安いものを買うと入力端子もなく丸ごと買い替えるためにゴミになります。音楽体験もひどいものです。

私は弦楽器職人ですから、10年前の製品なんて新品と同じような感覚で、100年前のものでも新しい20世紀のヴァイオリンと考えます。オールド(古い)というのは200年は経ってるものですから。

アンプやスピーカーで良いものを買っておけば20~30年は使えます。デジタル部分だけを交換すれば良いのです。


またパソコン周辺機器とオーディオ製品では違いがあります。パソコン周辺機器では機能が動けば良いと考え理論で設計すれば終わりでしょう。メーカーは出来上がった基盤を買ってきて外側を作ってブランドのロゴを付ければ製品の完成です。中国の業者にロゴマークの印刷まで丸投げしているのかもしれません。

それに対して試聴や測定を繰り返してパーツを変更したり構造を変えたりしながら音を練り上げていくのがオーディオ製品です。オーディオ製品というのはメーカーが良いものを作ろうと最善を尽くしそれを分かるマニアだけが買うという珍しい業界です。値段も常識を超えますが耐久性がありすぎて何十年も使えてしまいます。さらに部品交換などの修理を受け付けていたりします。その結果衰退産業になっています。

楽器用品として作られているものはさらに耐久性も考慮されているはずです。家庭よりも過酷な使用環境に耐えるためです。想定される音量や専門的すぎる用途、使い方の不親切さなど家庭用のものとは違います。スピーカー1本の値段が1~2万円と考えると多くは期待できませんが、音を出すという機能だけにコストがかけられています。もう1サイズ大きなものでもそれほど高くはありません、コントラバスの音を出すなら少しでも大きい方が有利なのは確かです。



ヴァイオリン製作がどちらかと言うと、偉い師匠やヴァイオリン製作学校で教わった理論に従って作って終わりですからパソコン周辺機器と同じです。オーディオから学ばないと思いつかない発想があります。オーディオ製品のカタログを見るといろいろと説明やスペックが書かれています。しかし音を実際に聞いてみないと好みのものかはわかりません。

同様に私が「ヴァイオリンは弾いてみないとわからない」と言うのは弦楽器業界では画期的な考え方だと思いますが確実に事実です。専門家として楽器商や職人たちは作者が有名だとか加工が正確だとかそんな話ばかりしてきたのです。


(2021年現在の記事です)


こんにちはヴァイオリン職人のガリッポです。

私もいわば「音楽業界」で働いている業界人ですね。そんな意識はほとんど忘れていますが憧れの職業の部類に入るでしょう。うちのお店にも楽器メーカーの営業の人が来ます。営業の人でもスーツなんて着ている人はおらず、革ジャンなどを着ていたりします。弦楽器やクラシック専門の人ではなく、会社の中で弦楽器の部署に回されただけだったりもします。演奏家でも普段からタキシードを着ている人なんていません。ジーンズをはいている人が多いのでチェロの縁に色がついていることも多いです。
しかし、日本では営業マンはスーツを着るのが常識なようでそんな話を聞くと特殊な業界にいるのかと思います。しかし街でもほとんどスーツを着た人を見ることは無く銀行員くらいでしょう。うちに営業で来ていた保険会社の女性の方はチェックのネルシャツにジーンズとブーツで馬で来たんじゃないかと思うようなカウボーイスタイルでした。好きな格好をしています。

ヴァイオリン職人は珍しいようでこちらではお客さんや観光客に「美しい職業」だと言われます。中にいる人は美しいだけじゃないということを知っていますが、美しい職業だということは間違っていません。そうでなければ働いている意味もないでしょう。

私自身はそんな音楽業界の人間でありながら、現在の音楽事情には全く疎いというのですからひどいものです。30代の頃は楽器製作に夢中になっていて他のことに意識を向ける余裕もなかったものです。それがコロナの流行もあって趣味のようなことも考えるようになりました。お客さんには趣味で音楽を楽しんでいる方が多いのにこちらは堅物の仕事人間で趣味の一つもないというのでは価値観が合いません。

現代の産業は効率化が進んでいるのに、ヴァイオリン職人は昔のままの手作業の職業であるばかりか、お客さんを直接相手にしなくてはいけないので様々な業務があって何から何までやらないといけません。こんなに時間が足りないということを職人になる前は想像もつきませんでした。会社といっても人数は最低限で役割の分担もできません。量産工場なら自分の担当する作業だけをすればいいでしょうがそうもいきません。研究開発だけで食っていけるはずもなく自分の人生の目的として勤務以外の時間にすることになります。そんなことをしているのは私くらいで職人の中でもキチガイの部類です。

映画やサッカーの試合を見るなんてことも2時間もまとまった時間が無かったのでできないことでした。ネットで映画を配信するサービスが人気があるようでそんな時間があることがうらやましいほどです。それでも音楽くらいは聞けるようにしたいと思います。


去年から取り組んできましたが、CDを買って聞くというのが最良であるという結論に達していました。アマゾンなどで販売されるようになりCDの値段はとても安くて1枚1000円もしません。中古なら送料のほうが高いくらいです。MP3のダウンロード販売に比べてもわずかに高いだけでほぼ変わらず、自宅の郵便受けに即時送られてくるのでレコード屋に行くよりも早いかもしれません。私の住んでいるところは地方なのでレコード屋も限られています。しかし意外とクラシックの本場だからかもしれませんが、有名どころの新譜くらいは雑貨屋のマルチメディアコーナーで買うことができます。今でもCDを音源にしている人は根強くいるようです。

東京にいたころは友達と渋谷のタワーレコードに行ってお宝のCDを探したものです。今でも待ち合わせはタワーレコードの一番上、クラシックフロアだったりします。銀座の山野楽器や秋葉原の石丸電気のCD店に行っていたのもなつかしいです。


それに対してもっと日常的に音楽を流すような聞き方をする方法を考えていきます。わりとヨーロッパではモーツァルトの時代から音楽はパーティーのBGMで参加者はおしゃべりばかりして音楽は聞いていないというのが普通だったようです。これはこちらで生活しているとよくわかります。日本人とは集中力が全く違っておしゃべりばかりしています。
日本でなら怪物級と思われるくらい社交的でおしゃべりな人が次々とやってきます。数人集まるとどこでもパーティー会場です。コロナ感染が拡大している要因でもあるでしょう。
日本でクラシック音楽鑑賞と言えば神様のような作曲家の作品を有り難く聞かせていただくというものですから全く違います。ミュージシャンが日本公演で来日すると日本のファンが敬意をもって集中して聞いてくれることに喜んでいます。逆に言うと欧米の人たちはコンサートなどはお客さんが自分たちを主役で楽しむためのものだと考えています。

クラシックに限らず一日中音楽を鳴らして生活する人が多くいます。一つはテレビがつまらないということもあります。日本でもテレビがつまらないと考えている人がいるかもしれませんが、それがこちらではもっとひどいです。面白い番組が始まったと思っても5週間くらいするとまた一回目の再放送に戻ってしまいます。番組を放送期日に間に合うように制作していないのです。テレビは再放送ばかりで、ドラマや映画はアメリカのものばかりです。それも何十年も前から同じものばかり放送しているので世代間のギャップがありません。毎日新しい番組が放送されているなんて日本人がいかに働き者かというわけです。クリスマスの祝日になると朝から晩まで毎年同じクリスマスにちなんだ映画を垂れ流しにします。休みたいのでテレビ局で働いている人数を最小にするためでしょう。いつも以上の予算をかけて、大みそかから正月に特別番組を競い合う日本とは全く違います。

そんなこともあって、音楽やラジオを聴きながら食事や家族で会話したり、新聞や雑誌を読むなんて過ごし方が一般的だったでしょう。それがインターネットに変わって来ただけです。

このため昔からラジオが日本とは違います。日本のように「ラジオ番組」というよりはずっと音楽を流しています。世代や音楽ジャンルごとに専門のチャンネルに分かれていて公共放送でも最新の流行音楽の若者向けや懐かしのロックポップスなどに分かれています。その一つにクラシックがあり、皆さんも知っている「放送楽団」も属しています。一つの局にいくつもあるラジオチャンネルの一つがクラシックでそれのオーケストラということです。そんなオーケストラに入れれば受信料収入で裕福な安定生活です。
民放でも音楽ジャンルごとに数多くのチャンネルがあります。それがテレビのデジタル化と同様にラジオもデジタル化されました。日本ではラジオのデジタル化は行われずインターネットでの配信になりました。それだけラジオへの投資額が違うということです。

デジタルラジオだけでなくインターネットでも配信されるようになり「インターネットラジオ局」が世界中に山ほどあります。しかしずっと聞いているにはどれも難点があります。良い曲を流している局があるとそのうちうっとうしいCMが入るようになります。CMも無いとやっていけないわけですが、音楽よりも音が大きいとびっくりします。クラシックではCMのやかましさとギャップがひどいものです。
もう一つはほとんどがポップミュージックの手法を応用したもので一曲が5分くらいのものを流すものです。クラシックでは曲の一部だけを切り取って流すことになります。

その点公共放送局のネット配信なら長編で交響曲などを聞くことができます。ただし複数の人がいると音楽の好みが分かれてしまい、公共放送の性質上まんべんなく曲を選ぶ必要があり嫌いな人が出てきていしまいます。クラシックの中でジャンルが絞れないのです。

クラシックに限らずに「嫌いな人がいる曲を流さない」という条件で探すと今度は同じ曲ばかりを繰り返す局になってしまいます。3日も聞いていると一巡したのが分かります。曲数が限られているのです。

そんなことで優良なインターネットラジオ局は本当に少なくてそれに代わるものを求めているわけです。


音楽を聴く方法


何かいい方法が無いかというわけですが、私は全く疎い物でした。それで調べてみました。皆さんは知っていることでしょうけども私はこんなことも知らなかったという話です。間違っていることもあるでしょう。

ラジオの放送が始まって家庭に普及するとメディアの中心にあったことでしょう。その中では音楽は重要なコンテンツだったはずです。テレビ放送が始めると単に音楽だけでなくパフォーマンスや容姿などが重要になってきてアイドルの文化もできてきました。
いずれにしてもラジオやテレビから流れてくる曲を聞いて気に入った曲があればレコードやCDを買って繰り返して聞いたものです。シングルレコードは裏表があってA面B面に2曲入っていました。CDでもシングルCDは直径が8cmと小さく数曲が入っていました。最新のヒット曲だけを聞きたいというライトなユーザーの多くはこれらを買っていたようです。特定のミュージシャンのファンになると10曲くらい入ったアルバムを買います。

それに対してクラシックでドボルザークの新世界を聴こうと思ったらシングルでは到底入りません。「アルバム」なんて言い方をしなくてもクラシックではレコードやCDと言えばアルバムのことです。またいくつかの楽章が集まって一つの曲になっているので一曲だけを買ってもしょうがないです。オペラやオラトリオなどでは物語の順番も決まっています。ラジオの曲紹介で「ブラームスのニューアルバムから」なんて聞くとブラームスが生きているようで違和感があります。

若い人が最新の流行の音楽を聴くというのが世間の主流でラジオやテレビの番組ではベスト10形式などでヒットチャートが紹介されてきました。30代になると新しい音楽を受け入れられなくなるという研究もあります。それ以上の年代の人は懐かしのヒット曲を聴き続けるというわけです。

2000年を過ぎると音楽をCDで買うかわりにインターネットで配信されるようなりました。当初はアメリカでインターネットが早く普及してパソコンとともに使われていました。日本ではまだ家庭にパソコンが普及しておらず自分で買えない若い世代も多かったはずです。それに対して携帯電話の方が先に普及して独自の進化を遂げていました。私は日本を離れて知らない世界になりますが「着うた」というものがあって携帯電話に40秒間曲をダウンロードして保存できるというものです。主に着信音として使うためのものでした。携帯電話の着信音はシンプルなものから徐々に進化していきました。私はその10年くらい前に中学生の頃パソコンで音楽をプログラムして遊んでいましたから珍しくもなく全く興味がありませんでした。携帯電話は買った時のそのままです。
当時の通信技術や通信量では40秒が限界とみなされたようです。それが通信規格の進歩で一曲丸々ダウンロードできるようになり「着うたフル」というのが盛んだったそうです。それでもクラシックファンからすれば使い物になりません。流行曲や懐かしの曲を聞くことができたのが画期的だったのでしょう。最盛期でも若者の一か月あたりのダウンロード曲数は平均するとせいぜい2~3曲でお小遣いの範囲内でそんなものです。アジアではカラオケも人気がありますので誰もが知っている流行歌を自分が歌えるようになるほど聞き込むというニーズに合っています。


その後iPodの大流行が来ます。私は持っていませんでしたが音楽業界ということもあって周りはみな持っていました。これは記憶装置のハードディスクが内蔵された携帯音楽プレイヤーでした。パソコンでダウンロードして購入したり、CDから取りこんだりしてパソコンに音楽を保存するということと同時に流行しました。たくさんの曲をコレクションすることに熱中した人もいたでしょう。それを持ち出せるのがiPodというものです。独特な操作感とため込んだ音楽をシャッフルして聞くという聞き方がヒットしたようです。それまではマニアや専門職向けだったアップル社の製品が一般大衆に使われるようになった最初でもあります。

その後スマートフォンが出てくるとiPodを持つことが面倒になります。あれだけ人気を誇ったiPodが今では過去のものです。


今伸びているのがSpotify(スポッティファイ)などのストリーム配信です。広告の入る無料のバージョンや月額料金を払う有料のバージョンがあり、コンピュータやスマホに音楽を記憶させなくても、インターネットに接続してリアルタイムで聞くことができます。かぞえ切れないほど多くの曲をいくらでも聞くことができます。とくにSpotifyの特徴は自分で曲を選ぶこともできますが、自動的に好きな音楽が集まるということです。iPodではせっせと自分でやっていたことが自動的になるわけです。また人が集めたものを利用することもできるます。私は使っていないのでイメージだけで言っています。

これはスウェーデンの会社でヨーロッパから出てきたのは理由がありそうです。つまりはじめの話のように一日中音楽を流し続けるような聞き方に適したものです。専門ラジオチャンネルでは好みが絞り切れないのに対してより好みに近い「プレイリスト」が作れるのです。心理学的には音楽の「方向性」で自己が表現されるというようなことでしょう。
欧米では利用者も多く、懐かしの曲を集めるだけでなく最新の流行がSpotifyから生まれるような時代になっていくのかもしれません。シングルを買ったり着うたを聞いていた時からすると洪水のように音楽が溢れます。食べ放題の店に初めて行った時のような驚きです。


もう一つ画期的だったのはYoutubeです。
実は現在日本で音楽の入手先として最も多いのがYoutubeだそうです。他の国でも同様でしょう。Youtubeはもともと無料で動画を視聴できるものでしたが、広告で収益を得るシステムになりました。それでユーチューバーなんて人が出てきて話題になりました。
動画配信ですから音声も配信できます。これを利用して音楽を配信することも行われてきました。当初は権利者に無断で勝手に配信する違法配信が多くあったようです。
広告収入が得られるとなれば、視聴者の数が世界で圧倒的に多いYoutubeなら許可するという権利者も増えてきました。

皆さんもYoutubeで曲名を入れて検索して聞いた経験があるかもしれません。

ただし「こんなことができるんだ」と思っても音楽鑑賞まで発展させる人は限られています。パソコンやスマホに内蔵されているスピーカーが貧弱でとてもじゃないけどもクラシック音楽を聴けるレベルではないのです。曲を検索してもわけのわからない動画もたくさん出てきてしまって探すのも面倒です。

良い音でパソコンの音楽を聴く方法


パソコンやスマホの音がひどいということで外付けのスピーカーやヘッドフォンが使われるようになりました。

現在主流なのはBluetoothスピーカーやワイヤレスイヤホンというものです。
いずれもBluetooth(ブルートゥース)という無線規格で音声を送信するもので、音声以外にもキーボードやマウスなどの規格もあります。

仕組みとしてはパソコンやスマホの側でデジタル音声データを圧縮して容量を減らし電波で送り、受信側で復元してデジタル音声のデータとなるものです。

復元されたデジタル音声はDAコンバーターを通してアナログ音声に変換します。
アンプによって電流(音量)を増幅しスピーカーの振動版を振動させます。
空気の振動が音になって耳に届くわけです。

これがスピーカーならより大きな音、イヤホンなら耳に近いので小さな音でも良いということになります。

若い人たちはこのような方法でスマホで音楽を聴いているそうです。


新しい技術は優れていると思われるかもしれません。しかし「音の良さ」という意味では何十年も前のステレオやオーディオ機器にもかないません。なぜかといえば最終的に空気を振動させて音にしなくてはいけないからです。CDでもデジタル音声をアナログに変換する必要があり無線で通信する以外は新しいことは何もありません。無線も電線でつなぐことより音質が優れているはずもありません。

もともとそのような機器を持っている人はそれを使い続けるほうがコストパフォーマンスが良いです。

Blutoothスピーカーなどはパソコンやスマホの音が悪すぎるので音が良く感じるだけでしょう。確かに1万円くらいの値段ならポップミュージックに特化して分かりやすい音を作り出してビックリするようなものがあります。


iPhoneなどアップル社の製品にはBluetooth以外にAirPlayという方式があります。これはワイヤレスLANを使うもので別の規格です。WindowsやAndroidには無く、同様の規格はあっても普及していません。Bluetoothのほうが簡単だと思います。


パソコンの音を高音質でステレオに出力する方法は今年の初めに紹介しました。
https://ameblo.jp/idealtone/entry-12647683891.html?frm=theme

USBケーブルでパソコンから「DAコンバーター」という機械に接続します。USBからデジタル音声信号が出力されています。DAコンバーターでアナログ信号に変換した後アンプに接続するとスピーカーから音が出るわけです。80年代以降のライン入力端子がついているものなら何でも使えます。最近のプリメインアンプにはDAコンバーターが内蔵されていてUSBケーブルを差すだけで使えるものが多くあります。

メーカーがシステムオーディオと呼ぶミニコンポのようなものは年代ごとに対応する機能が刻一刻と変わっていきます。5年も経つと音楽の聴き方が変わっていて対応しないということもあります。しかし根本的な部分は同じなのでその都度買い替える必要はありません。ライン入力がついていれば5年前の「古い製品」でも80年代のステレオと同じように使えます。


もっと簡単なのはヘッドフォンの出力からオーディオのライン入力につなぐことです。パソコンやスマホにもDAコンバーターが内蔵されていてヘッドフォンの端子からアナログ音声が出力されるのです。私のWindowsのパソコンではそんなに音はひどくはありませんが、スマホやタブレットではかなり悲惨なものです。音量も十分ではなくアンプの音量を無理やり上げるのは恐ろしいです。音響機器として設計されているものに比べると粗末なDAコンバーターやアナログ音声回路がついているからです。
またコストパフォーマンスが一番よい他の方法も次回考えていきます。


実は現在音楽を聴くのに使われている機材のトップがパソコンだそうです。当ブログの閲覧者数はスマホのほうが多いので意外でした。音楽ストリーミング配信でも曲やアルバムを探したりするのは画面が大きい方がやりやすいのは確かです。

それでも若い世代ではスマホで聞く人が多いはずで増えていくでしょう。
スマホの場合にはオーディオシステムで使うのにUSBケーブルで接続できるDAコンバーターはほとんどありません。
接続はできてもソフトウエアが対応していないのでアプリを立ち上げるごとにリセットが必要になったりします。
据置型のDAコンバーターはスマホには対応していないと考えた方が良いです。

ヘッドフォン用には中継アダプタにDAコンバーターが内蔵されたものがあります。モバイル用途に特化したものがスマホ用と考えたほうがいでしょう。


このためスマホやタブレットなどの場合にオーディオシステムから音を出すにはBluetoothで接続する必要があります。これだけでもお腹いっぱいの内容です。詳しい話は次回ということになります。



さらに最近のものでは「スマートスピーカー」というものがあります。Spotifyとともに使えばBGMとして音楽を流し続けるのも容易でしょう。しかしクラシックファンの音楽鑑賞となると音はあまりにも貧弱すぎます。もちろん特別クラシックファンでない人が日常生活にクラシック音楽を流すのには最適でしょうけども。

選択肢が増えて簡単ではない


私のような技術者のタイプでも理解するのはとても難しいです。それを年配の人や技術に疎い人が理解するのはとても難しいでしょう。

パソコンやスマホは古いオーディオシステムでも音楽を再生することができます。この手の情報が不足しています。メーカーは新しい製品を売りたいので古い製品が今でも通用するという事実は知られて欲しくないでしょう。大手メーカーは中継機器を売っていません。

一方マニア向けのような情報はあります。
オーディオマニア向けの製品は値段もめちゃくちゃ高いですし、音楽を聴くよりも「音を聞く」という意味合いが強くなります。音楽ファンにはオーバースペックなのです。特に最近オーディオに興味を持ち始めた人たちはオーディオの神髄が分かっていません。まだスペックに気を取られている年頃です。
また老舗オーディオメーカーのネットワークオーディオは複雑すぎる上にスマホより自由度がありません。Youtubeの音をFMラジオよりましな音でオーディオから出せればいいだけです。


スマホのようなモバイル機器の場合には場所に制限されないので、昔のようにステレオの前に座ってリモコンのようにスマホを操作すれば音楽を聴くことができます。タブレットならもう少し大きくて見やすく操作もしやすいでしょう。
パソコンの場合には設置している場所とステレオの設置場所が離れていると操作がしにくくなります。部屋の模様替えなどを考えないといけません。しかし無線でも接続できるのでコードの長さなどは考えなくても良いです。

本格的に聞きたいならCDがベストだと思います。
次回はもう少し詳しく見ていきましょう。




















こんにちはガリッポです。

早いものでもう雪が降っています。
ヨーロッパではコロナの感染が再拡大していますので、帰国の目途は立ちません。

弦楽器職人の仕事をしてると時間がたつのが早いもので、夏の終わりごろに始めた改造チェロも年内ニスが塗り終わるかそれくらいの感じです。すでに出来上がったチェロを使ってもそんなに時間がかかっています。

というのは何年か前に勤め先の工房を改装して、ニスを塗るための設備が無くなってしまったので再びニスを塗れるようにしないといけません。できれば以前よりも仕事がしやすく製品の品質も向上すると良いでしょう。まだまだ未完成なLEDに照明技術は変わってきているので長く使うことも考えて、今のうちに古い蛍光灯を使ったしっかりしたものを作りましょう。ニスを塗っている期間しか使用せず日本製の蛍光灯なのでしばらくは切れないでしょう。蛍光管も倍くらいストックがあります。

このようなことは珍しいことではなく、NASAの最新の火星探査機でも90年代のコンピュータが使われているそうです。火星で故障が起きると修理に行けないので絶対に故障しないものが求められます。そうなると古いものが使われるのです。

こんな事を日常的にやっていると世の中の変化にはついて行けません。
考え方という点で理解できないことが多すぎます。


去年から始めた音楽鑑賞のデジタル化もさらに進めています。クリスマスの休みになったらそんな話もしましょう。私が教えるような話ではなく、むしろ時代に取り残されている方です。それが何とか理解して最新の5年遅れくらいまで追いつこうというわけです。
でも、最新のものを使っている人と全く音楽鑑賞から離れてしまっている人の両極端かもしれません。後者の人にならヒントになるでしょう。

新たニス室となる地下室の写真を撮ってきました。不動産屋じゃないのでカメラのレンズが適していません。楽器撮影用に選んだレンズでは部屋全体が撮れないのです。私はスマートフォンは使わずにミラーレスのカメラを使っているのでこんな時には対応できません。これも私の頭の仕組みが現代に適応していない例です。

見てわかるように謎の配管があって昔のアニメやゲームの「未来」のようです。でも未来でも何でもありません。壁も床もタイル張りで浴槽を置いたら銭湯みたいに使えそうです。この地下室を改造してバスルームにしたら仕事終わりに良いかもしれません。夏は地下なので涼しいかもしれません。

完全に地下というよりは天井付近は地面から出ています。道路との間には植え込みがあります。通行人の声などは聞こえます。柵もあるので防犯上は大丈夫でしょう。製作中の楽器なんて盗んでもしょうがないですが、いたずらされたらたまりません。外で日光に当てるのが良いですが難しいですよ。
無理に小さな窓から忍び込むと出れなくなってしまいます。



前回はこんな感じでした。不要物が残っているだけです。

それがこんな作業スペースになりました。押し入れでテレワークしているようですが、楽器を作るわけではないので本格的な作業設備は無くても良いです。でも改装前に使っていた古い作業台などはとってあるので、本格的に利用するようになればもっと工房らしいものになります。
椅子が手前にあって大きく見えますが、チェロのサイズから見ても結構広さがあります。工房よりも余裕があります。かつての工房ではチェロのニスを塗っている横を人が通って邪魔になったりしていましたから。
電気水道暖房もあります。トイレだけが無いので気を付けないといけません。工房からは5分程度で、地下室から数分のところに公共のトイレもあります。
他の作業が行われないことで埃は激減するはずです。湿気も埃を抑える効果があるようです。塗装には良い環境でしょう。


紫外線の蛍光灯をセットしてみました。

どうでしょう?
印象的な写真になりました。
肉眼とは全く蛍光管の色が違って写っていますが、なんか弦楽器職人には似つかわしくない不思議な写真です。

横から見ても不思議な画像です。見たことはありませんがUFOの中みたいです。

手前にある低いテーブルは捨ててあった椅子を改造して私が作ったものです。

難しいのはチェロにちゃんと光が当たるようになっていることです。影になっているところがあるとニスが固まりません。
位置を計算して図面上で設計しないといけません。
おもしろいのはモンタニアーナモデルでは幅が広くなりますが、1~2㎝のものですからこういう次元ではほとんど違いがありません。
しかし0.1mm単位で仕事をしている我々職人にとっては1~2㎝というのはものすごい大きな違いに感じられます。モンタニアーナモデルのチェロを作るかどうかは工房でも議論になり、師匠は認めませんでした。しかしこうやって違う縮尺で見るとほとんど違いは無いことに気づかされます。楽器の構造を理解するには大きな縮尺の視点が重要になると思います。特にチェロはそうです。0.1㎜単位で物を見るとチェロは全く理解できません。

音響面で楽器を選ぶ時はストラディバリモデルだのモンタニアーナモデルなどは考える必要もありません。音を出してみるしかありません。

難しかったのは実際にスタンドを作ったのは作業場のある工房で、設置する場所から離れていたことです。ちょっと予想とは合わない所もありましたが、それもまた現場で工夫して対処しました。自然光と違って光が当たらない所があるとニスが固まりません。光が当たらない箇所があればランプを増やせば良いのですが、いかに最小のライトでチェロ全体にまんべんなく光が当たるようにするかを考えました。やってみて乾いていない所があれば小さなものを追加する必要があります。



ニスを作る方も新しくなります。

工房の外で電気コンロを使ってニスを作りました。電気のプレートは引火の危険性が低いので良いです。しかしIHでは温度が低すぎるのでダメです。工房にある古い電気のもので今のものはすぐに壊れてしまいます。実験室用に温度が管理できるものなら良いですが、値段がべらぼうに高いです。

直火にかける場合は「湯せん」のお湯の代わりに砂を使ってかつてはやっていたようです。温度はデジタルの温度計で測っています。業務用なのでとても高価でした。日本製のものでしっかりしているので10年経っても全く問題がありません。現代のIT機器とは寿命の考え方が違います。これがスマホに接続して画面に表示させる方式ならもう使えなくなっているでしょう。

昔は鳥の羽を煮たてた油に触れさせて焦げ具合で温度を見たそうです。そういう意味ではオイルニス製造の難易度は格段に下がったことでしょう。

一週間ごとにどんどん気温が下がってきて、この時は2℃くらいでした。ニスの温度も外気温の低さで不安定ですし、通行人に危険が及ばないようにずっと監視していないといけません。霧雨が降って来たので屋根を付けました。晴天ならいりません。アドリブDIYです。温度計のスタンドも自作です。

今は雪が降ってますから先週が最後のチャンスだったでしょう。

2℃でも実用的な作業服のおかげで風邪もひきませんでした。カーハートという作業服メーカーがアメリカのデトロイト近郊にあります。冬ではマイナス20℃くらいにはなるそうですから従業員の自宅の雪かきなど実地でテストも行われていることでしょう。とはいえじっとしているので土木作業員よりも寒いかもしれません。

2℃でも外でニスを作るのは楽器製作の情熱のなせる業ですよ。
通行人には何をしてるかたまに聞かれます。ヴァイオリンのニスだと言うと分かったような気になっているようです。


こんな感じでオイルニスが使える環境を作ったので年内にはニスが塗り終わるでしょう。演奏できるのは来年の初めになると思います。

出来上がってみればいたって簡単なものに見えます。簡単な仕組みのもので機能するものが「美しい」と思います。
現代の技術はそれとは逆の方向に進んでいるようです。私には美しくないのです。欲しいと思わないのです。

簡単なものを考えるにもイマジネーションの創造力が必要です。複雑な仕組みから考えてもっと簡素化できる方法は無いかと考えていきました。
ストラディバリの時代に比べれば近代的なものですが、新しすぎない技術を使う必要もあります。
師匠や先代の師匠はお客さんが来たときにスマートフォンで操作できるLEDの照明設備を自慢して「最新の設備だ」と見せびらかせますが、それが凡人のすることでしょう。私は実用的に機能することが重要だと考えています。いまだにスマートフォンで操作するアプリが使えていません。売るときに宣伝文句ばかりで実際にどうやって使えるかはわからないのです。
お金を稼ぐには市場規模の大きな「凡人」にあわせる方が良いでしょう。しかし何か優れた事をしたいなら違う頭の思考回路が必要です。


こうやって考えていくと一見無理そうなことでも可能になっていくと思います。かつて先輩が作ったニス乾燥庫は無用の長物となりました。
機能性を理解せずに作ったからです。








こんにちはガリッポです

新しいラーセンの製品でイル・カノーネのチェロ弦があります。以前は「DIRECT&FOCUSED」(以下D&F)の方を紹介しました。「WARM&BROAD」(以下W&B)も試してみました。
2台の同じメーカーの量産チェロに張って弾き比べてみました。同じチェロではないのですべてが弦のせいということではありませんがW&Bの方はかなり柔らかい音でした。微妙に違うバージョンというよりも別の製品のようです。スチールのチェロ弦では最も柔らかい音のものかもしれません。ピラストロのエヴァピラッチゴールドともに金属的で嫌な音のするチェロには頼りになる存在です。一番柔らかくしたいならラーセンのこの製品が良いかもしれません。
ただし、もともと普通の音のチェロでは柔らかすぎると感じるかもしれません。
チェロでは手ごたえがあまりにもないと反応が鈍く感じられます。

もう一方のD&Fはそれに比べると尖った角のある音です。音色が明るいということもありません。どちらもヨーロッパの人が好むような音で、特にヨーロッパ外向けに自分たちの感覚とは違うものをあえて作ったという感じではありません。普通はD&Fの方で良いと思います。特別耳障りなチェロではW&Bを使うこともできます。

前作のマグナコアのほうがトマスティクのスピルコアのような昔のスチール弦のような金属的な鋭さのある音なので、D&Fのバージョンでも十分に柔らかさがあり嫌な鋭い音は皆無です。オリジナルのラーセンの進化版として新しい境地に達したと考えて良いでしょう。

ラーセンで問題なのは寿命の短さです。もともとそのような設計になっているので張ってすぐにコンサートに出られる柔らかさがある反面、特にA線は次第に金属的な嫌な音になってきます。プロの人では数十日で変える必要がありますし、アマチュアでも1年くらいすると嫌な音になっているかもしれません。
それでも耳障りなチェロならW&Bが切り札になるかもしれません。他に無ければ寿命など言ってられません。耳障りな音のチェロは買わないように気を付けた方が良いです。

選択肢が豊富になって来たのは良いことでもありますが、値段も高いのですべて試すのは難しいのが困ったものです。弦メーカーはオンラインショップのような大量に販売する業者に安く卸してきたので我々のような弦楽器店は価格で太刀打ちできません。

一方オンラインショップの商品説明を見てもカタログの文言が写されているだけで何を買っていいか分からないでしょう。新製品は不安なので今まで使ってるのと同じものをいかに安く買うかになってきます。
かつては弦楽器店には新製品サンプルを送ってきてくれてテストすることができましたが最近は送ってくれなくなりました。

この結果新製品の浸透は難しくなったと思います。
我々がテストして好結果ならお客さんにも薦めます。その結果や感想を他のお客さんにも役立てます。今はそれが機能しなくなってきました。
新製品が出るとマニアがネットでパパッと買ってそれで需要が一巡して終わりになってしまいます。

そんなこともあってかちょっとはメーカーが業務をグローバル化・システム化して大量販売をするのではなく、小規模な弦楽器店にも融通を聞かせてくれるようになって来たかなあというメーカーもあります。どうなんでしょうね。

日本の楽器店では新製品をやたら絶賛して売り上げのために買い替えを促そうとする印象が強いです。しかし演奏者や楽器と相性の良い弦を見つけることが本来するべきことです。

チェロ弦は製品の数が少なかったのでキャラクターを把握できますが、ヴァイオリンはあまりにも種類が多すぎる上に、どれもそんなに悪くなく微妙すぎて個人の感じ方の差の方が大きいので難しいです。チェロ弦に比べると値段も安く寿命も短いので試してみるしかありません。そのメーカーの中級品を使い比べて好きなメーカーを見つけてさらにそのメーカーの高級品も試してみるのも手です。


チェロのニスを塗る設備を構築



勤め先の会社では何年か前に工房内を改装しました。まだ完成していないのがニスを塗るスペースです。かつては小部屋をニス室にしていましたが業務が多くなって来ると工房内が次第に手狭になり改装ではニス室を無くしてしまいました。ニスの仕事の多くを担当している私としてはひどい話です。
また火災防止の法律のために高温で加熱して作るニスを製造するのも難しくなってきました。オイルニスはもうできないんじゃないかという状況になってきました。

師匠は興味もないようなので「オイルニスが無いなら、アルコールニスを塗れば?」となりそうです。私が一人で開発してオイルニスが使えるようなったのですが、オイルニスとの違いが分かっていない師匠は、オイルニスが使えなければ昔のアルコールニスに戻るだけです。アルコールニスでチェロを塗るのははっきり言って地獄です。生産コストもべらぼうに増えます。

自分の工房なのに考えもなくニスを塗る設備を無くした師匠は何もやってくれないので私がやるしかありません。

工房から徒歩5分くらいのところに地下室を格安で借りていて倉庫になっています。しかし地下室は湿度が高すぎて楽器や木材を保管するには向いていません。結局使われていないのでそこをニス室にすることにしました。毎日利用すれば換気もできますし、ニスを塗っている期間は小窓を開けっ放しにもできます。地下室でも窓のところは溝が彫ってあって光や空気が入ります。人が入れないほどの小窓は常時開けていられますし、一つだけのまともな窓も柵がついていて防犯上問題ないでしょう。セントラルヒーティングの暖房もちゃんとついていてただでさえ地面の中にあるので保温効果は抜群です。暖房を使えば空気が乾燥して湿気も減らせるはずです。

一般的にこちらでは地下室を作るのが普通で「日本では地下室は無い」と言うと、そんな家は想像もできないと言われました。ワインを保管するワインセラーが家にあるのが当たり前です。日本では温暖化以前から水害が多くて湿度も高いので床を地面より高く作るのが常識です。

これを作業場にするというのも欧米ではよくあることです。アメリカでは特に一般的なようです。私が東京で暮らしていたころ両親がアメリカに住んでいたことがあるので地下室があって洗濯機と乾燥機が置いてありました。

ガレージや地下室は作業場として使われることも多いでしょう。自宅にそのようなスペースがあることはうらやましいですね。今なら職人もテレワークができます。
IT企業の創業者などもガレージから始めたなんて逸話はよく聞きます。同じような起業家は東京からは出ないでしょう。
逆に言うと製品や技術者の質が悪く企業のサービスも悪いため、自分でいろいろなものを直さないと暮らしていけないのです。典型的な「お父さん」は家の設備を直すのも仕事です。お父さん同士で情報や道具を貸し借りするのも当たり前です。ホームセンターなども品ぞろえが日本とはだいぶ違います。労働時間が短い分だけ余暇の時間に作業をしないといけないのです。


オイルニスを乾かすには太陽光が必要でその点については地下室は最悪です。このため人工的な紫外線のライトを使います。しばらくの間、設備を作っていました。いつもの楽器製作とは全く違いDIYの世界です。市販されておらず以前に見たことが無いものを作るわけですから創造力が必要です。私の先輩が15年くらい前にUVライトを取り付けた戸棚を作ったのですが実際に使ってみると欠点も多く、地下室の入り口から入りません。そこで改良版を作るというわけです。

問題点の一つはUV-Cを発生するライトが取り付けられていました。
実際にやってみてもニスが全く乾きません。そこでUV-Aを発生するライトに交換しました。そうするとニスが完全に乾いたのです。
先輩は職人仲間から情報を仕入れてわざわざ入手が困難なUV-Cライトを購入し使えないものを作っていたのでした。職人の世界の典型的な例です。我々の間で共有されている知識はだれもやったことが無いものが多いのです。知識やウンチクにはくれぐれもお気を付けください。

よく考えてみれば当たり前で、太陽光で乾くのだから太陽光を再現すれば良いはずです。それが24時間季節や天候に関係なく照射できれば十分です。それをほとんど地表には届いていないUV-Cを照射しても太陽光の代わりにはなりません。

UV-Cは人体にとても危険なので光が漏れないようにするためにしっかりとした戸棚を作ったのです。UV-Aのライトに交換してもライトが熱を持つため密閉された庫内の温度が上昇してしまいます。この時湿度が下がり乾燥してしまうので板の割れなどの原因になります。オイルニスは乾くときに縮むので余計にひびが入りやすくなります。このため湿度が高めの地下室に目を付けたのです。UV-Aなら危険性も少なく光が漏れないように密閉しなくても良いはずで人気のない地下室なら一晩中つけていても誰も気づかないでしょう。埃もたちません。外したUV-Cライトを付ければウィルス完全殺菌のテレワーク室ができます。地下牢のような雰囲気ではありますが。

また旧システムではライトの設置個所が十分ではなく光が当たらない所がありました。そこだけ乾燥しません。追加でライトを増やす必要があります。これが自然光なら回り込むもので影になっている所でも乾くのです。やはり太陽光は偉大です。逆に言うと紫外線は思っているよりも広く部屋の中にも入っているということです。


新たに紫外線ライトのシステムを構築するわけですが、厄介なのは時代が蛍光灯からLEDに変わっているという点です。紫外線ライトは蛍光灯ととして作られていました。ヨーロッパのメーカーのものでも「Made in Japan」と書いてありおそらく日本のメーカーが作ったものをOEMとして売っていたのだと思います。今ではLEDを買おうとすればみな中国製です。LEDの照明には3年保証と書いてあっても1か月で切れたりします。安く買った中国製のものはどんどん切れていきます。ヨーロッパの大手メーカーのロゴがついていても中国製で同じです。
照明業者向けならべらぼうな値段でとりあえず切れないものが手に入るでしょう。しかし目的に合ったものとなるとマニアックで業者に頼めばいつできるかわかりません。全く職人とは違う「人種」のハイテクビジネスをやっている人に求めているものを説明するだけでも骨が折れるでしょう。

もう一つの問題はLEDの場合発生する光の波長の幅がものすごく狭いことです。これは性能としてはピンポイントで波長を設計できるので良いのでしょうが、私の場合には太陽光を再現するのが目的です。実験が必要でどの波長がニスに適しているのか分からないです。蛍光灯タイプは発生する光の波長が大雑把なのでよくわからないけども機能しています。
植物の人工栽培、植物工場で使うようなものがおそらく適しているのではないかと思います。これも実験が必要です。「オイルニス用」として作られているものが無いため研究が必要です。一般向けに市販されているものは波長の違う小さなLED発光体をいくつか組み合わせて取り付けてあるだけのようです。結局特定の波長の光しかないということです。それなら波長ごとに部品だけを入手して電子工作でライトを作ることもできるでしょう。ただしその手のものは中国製ですぐにつかなくなってしまいます。


そんな暇はないし紫外線の蛍光灯はすでにあるので蛍光灯を取り付けるソケットのついた器具を買うのが一番安く上がります。ホームセンターで一本10ユーロ(1300円)ですから4本買えば良いだけです。年々LEDタイプに押されて売り場が小さくなってきていますから今やらないと買えなくなってしまうでしょう。普通は天井に付けるものでコンセントがついていないので電源コードを自分て取り付けました。チェロにまんべんなく光が当たるために取り付けるスタンドを廃材で自作すれば良いだけです。業者に頼まなくてもDIYもできてヴァイオリン職人は便利です。


それからニスを加熱して作る場所も困ったところです。
油を加熱するので天ぷらを作るようなものですが、室内でやれば匂いもひどいし火事の時のような有毒な煙も出ます。換気扇も職場には無いし中庭も店舗からは遠くてやりにくいです。以前は店の前が歩道で場所が無かったのが広場に改装されたので外でやっても十分なスペースがあります。隣のレストランはそこに座席を設けて営業しています。これも初めての試みでした。

ヴァイオリンやビオラくらいなら工房内の空いたスペースでやれていましたが、チェロになると専用の設備が必要です。


おそらくチェコのボヘミアの職人などは地下室などを工房として自宅で、かなりの早さで楽器を作っていたのだと思います。したがって弦楽器店でもないし工場でも無いのです。お客さんとはやり取りはほとんど無く製造したものは卸すだけで名前もついていないものがたくさん作られました。これはドイツのブーベンロイトでも量産品とハンドメイドの間くらいのものがあります。工場ではなく一人かせいぜい数人でせっせと楽器を作っていたのです。一方大都市では店として営業する傍ら工房で職人が作業するという形だったでしょう。いろいろな形式があります。

地下室を改装しているとそんなイメージがわいてくるものです。
殺風景で牢獄のようでもあります。時計が無かったら何時かもわからず頭がおかしくなりそうでもあります。

実際にニスを塗ってみて、乾き方を検証して再調整が必要でしょう。ニスの作業をしている中で問題点を探していく必要があります。今のところは仮のバージョンを作っているだけです。
職人にはいろいろな能力が求められます。