ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

クラシックの本場ヨーロッパで職人として働いている技術者の視点で弦楽器をこっそり解明していきます。
お問い合わせはPC版サイトのリンクかアメブロのメッセージから願いします。

ヴァイオリン、ビオラ、チェロなど弦楽器の良し悪しを見分けるには、値段とメーカー名を伏せて試奏し、最も気に入ったものを選ぶのが最良の方法です。
しかしながら、よほどの自信家でもない限り不安になってしまいますよね?

そのため知識を集めるわけですが、我々弦楽器業界は数百年に渡って楽器を高く売りつけるため、怪しげなウンチクを広めてきてしまいました。

弦楽器の製作に人生をかけたものとして皆さんはもちろん、自分を騙すことにも納得がいきません。
そこで、クラシックの本場ヨーロッパで働いている技術者の視点で弦楽器を解明していきたいと思います。

とはいえ、あくまで一人の専門家、一人の製作者としての「哲学」ですから信じるかどうかは記事をよく読んでご自身で判断してください。


お問い合わせはこちらから
こんにちはガリッポです。

この前はフランスの19世紀のヴァイオリンの話でした。戦後のフランスのヴァイオリンを見ることがありました。残念ながら正面の写真を撮る時間がありませんでした。

作者はR&Mミランの60年代のものです。
ニスは軽いアンティーク塗装で作風は現代のクレモナの楽器のようでした。もはやフランスの19世紀の面影はありませんでした。

この楽器でもすでに表板のニスは磨くだけでは光沢が得られない状態になっていました。


ニスの剥がれた場所を記録したこんな写真しかありません。

ミラン兄弟はイギリスで働いていたこともあり、その時代の最先端の流行を知っていたことでしょう。イタリアの楽器が飛ぶように売れる姿も見ていたのかもしれません。
ガルネリモデルであってもデルジェスに忠実なコピーではありませんでした。ラベルを見なければフランスの楽器とは全く分からないものでした。

フランスの19世紀の楽器製作では量産品と一流の職人の間にはっきりとしたクオリティの差があります。それに対してイタリアの楽器製作は手作りで作ってあればなんでもOKという感じです。そんな感じなのでフランスのラベルがあってもミルクールの量産品かと思いました。

兄弟の息子と甥にあたるベルナルド・ミランの鑑定書があり確かに兄弟のものであるようです。兄弟のブランドになっているし従業員も含めて工房的な製品だろうと思います。クレモナの楽器を買って売っていたとしても驚きません。

戦後ではもはや19世紀のフランスの楽器は時代遅れと考えられていたのかもしれません。エッジやアーチの仕上げにフランスの楽器独特の雰囲が感じられません。こうやって優れた楽器製作の伝統は失われて行きます。

みな新しい流行が好きで、失われた価値に気付く変わった人は私だけでしょうか?

もっと言うと、19世紀は国力でもフランスの時代でした。代わってイギリスが台頭することとイギリスの弦楽器の考え方が世界を支配したことと一致します。現在ではさらにアメリカです。イギリスやアメリカの価値観が楽器の値段に強く反映されているように思います。つまり楽器の評価とは消費者であるイギリス人やアメリカ人が名前を知っているかという事です。


またまたオールド楽器です。

雰囲気がいかにもオールドですね。
f字孔の角は欠けています。

こんなのも修理で直すことはできますが。

近代のヴァイオリンに比べると幅が狭く小型のオールド楽器の感じがします。

アーチのふくらみもあります。いかにもオールド楽器です。
色も黄金色ですね。

ラベルはついておらず鑑定書もありません。

私はパッと見た瞬間に分かりますが、これはマルクノイキルヒェンのものです。丸みのあるもので比較的きれいなものです。

値段は状態が完璧であれば作者不明という事もあって1万ユーロを付けるのは難しいかなと思います。8000とかそれくらいでしょう、しかしこの楽器では修理に多額の費用が必要です。
この楽器は親から譲り受けたものだそうで、魂柱はあってないし駒も欠けていて古くなっています。ペグはローズウッドで過去に間違ったテーパーで削り直してあり最悪です。f字孔やコーナーに欠けがあります。
売るわけじゃないのでせめて実用上重要な部品くらいは交換してもらいたいものですが、今回は掃除するだけです。私のする掃除は単なる掃除のレベルではありませんが‥。

10万円かけても新しいヴァイオリンをその値段で買うよりもずっと格が上です。
アーチの作り方にはマルクノイキルヒェンやドイツの特徴があります。その中でも自然な丸みになっています。


状態は完ぺきとは言えませんが音を試してみるといかにもオールド楽器らしい音がします。独特の枯れた乾いた音で高音も嫌な音がしません。ツボにはまると楽器全体が共鳴して複雑な音色になります。
すごく暗い音ではなくオールドの中ではやや明るめです。いわゆるソリスト用ではないでしょうが、イタリアのアマティ型の多くのものも同様です。イタリアのものでももっと暗い音のものがあります。
日本でのわずかな品ぞろえの少ない経験からオールド楽器でイタリアのものは明るい音、ドイツのものは暗い音と印象を持った人もいたかもしれません。しかし結論付けるのは早急です。


もう一つオールドヴァイオリンです。

カール・フリードリヒ・プレッチナーのラベルが貼られています。しかし真贋はわかりません。いずれにしてもマルクノイキルヒェンのオールド楽器であることは間違いありません。ちなみにプレッチナー家のものでも最大で12,000ユーロですから新作楽器よりも安いです。別の作者のものでも値段は変わりません。
時代は古く1750年よりも前かもしれません。

裏板の木材は上等なものが使われています。珍しいですね。
アーチの癖はさっきのものよりもずっと強く平面の写真でも溝が彫られているのが分かるほどです。

形もシュタイナーに似せようという気は感じられません。イタリアの作者以上に個性があります。枠を使わない製法とも言われるので形は自由です。
イタリアの作者は個性があるから値段が高いという理屈は成立しません。

それでもこの前のクロッツラベルの近代の量産品とは違います。
同じ産地でもこちらは20世紀のものです。

スクロールは明らかにオリジナルではありません。渦巻き職人のものを取り付けたようです。

横板も一枚新しいものになっています。ニスの感じがヘッドと同じです。

アーチは溝が大きくはっきりした台地状になっています。

同じ作業手順で作ってもフリーハンドの要素が多いのでかなり個体差が生じます。
オールド楽器のアーチも近代のものも、作業手順があってその影響を受けてしまいます。古い時代ほど機械などは使われていませんから。
その時代に最も効率の良いと考えられていた方法でアーチは作られていて、作る人によってばらつきが生じます。

ストラディバリもデルジェスもアマティやピエトロ・グァルネリなどと共通の手順で作られていて、そこに癖が加わったくらいのことでしょう。初めからフラットな楽器を作るために最適化した近代の楽器とは手順が違います。
ブッフシュテッターやガイゼンホフのようなストラディバリの影響を受けたドイツ語圏の作者でも同様です。

その時代に効率が良いと考えられていた方法で作られた楽器が結果として今「オールドらしい音」になっているのではないかと考えています。それくらい作業には手間暇がかかるのが弦楽器の製造です。

音を良くするためにそうしたのではなく、それしか作り方を知らなかったのです。同様に現代の職人は現代の方法しか知りません。

アマティでも作業手順に縛られるため造形的にも自由にはなっていませんでした。これが現代の工業デザイナーとは違いますし、近代の造形センスに優れた職人の楽器とも違います。どうしてそうなったのか、何に縛られているか考えるのが私には面白いです。

このヴァイオリンの音を試してみると、弓と触れる感触は鋭敏で当たりの反応の良さと強さは感じます。しかし楽器が底から鳴る感じではなく表面的な音に思えます。さっきのものの方が好感触です。
オールドだから何でもかんでも音が良いのではなく、個体差も大きいものです。
後の方の楽器では抑え込まれすぎています。響かないために暗い音に聞こえます。同じ産地でも様々です。

こんな経験から最初の楽器のようなものを見た時には作者名や値段に関わらず「お!良さそう」と思います。当然私の楽器製作にも生かされています。

本人が思っているよりも良いヴァイオリンで小型のアマティ型の楽器に近いものです。

こんな掘り出し物も値段が安ければ誰にも気付かれないままです。


私は弦楽器業界では音について真剣に考えてこなかったのだと思います。商売人の論理と職人の論理がありますが、どちらも現実を真剣に捉えようという気はないようです。

専門家でもそうなので知識を学ぶのではなく、自分の耳で音を聞いてください。
こんにちはガリッポです。

楽器の高騰により時代が変わってきています。才能ある音楽家は楽器を自分で買うのではなく借りることが多くなってきました。
若いプロの音楽家の持ってきたチェロは汚れやエッジの痛みがひどい状態でした。自分の大事な商売道具なら常に手入れを欠かさないのがプロでしょう。しかしそのチェロは財団から借りていて修理の代金は財団が出すのか、就職したオーケストラが出すのか、それとも本人が出すのでしょうか?
財団にしてみれば、貸してあげているのだから使用で生じた費用くらいは自分で払えと考えるでしょう。オーケストラにしても、就職前に生じた費用です。最小限の少なすぎる見積りでも本人は自腹では高すぎると傷んだ楽器をそのまま使い続けています。

自分の楽器ではないという事で扱いも雑になっているようです。新たな問題です。財団はお金、音楽家は音にしか興味がないのでしょう。




さて以前出て来たJ.B.ヴィヨームの廉価版サンタチェチェリアです。廉価版でも1000万円以上にもなります。

汚れがひどいです。

持ち主が思っているよりも状態は深刻です。ちょうど自動車を洗車すれば良いと思っていたところ、塗装工場送りになるレベルです。

弦楽器以外の普通の塗装の耐用年数はせいぜい数十年でしょう。自動車でも表面のクリアー塗装の層が失われると磨いても光沢は出ません。これをやり直すには数十万円かかるそうです。

このヴァイオリンでは作られてから170年経っていますから、磨くだけで良いというわけにはいきません。
汚れたから掃除すれば良いというそんなレベルではありません。

もはやオリジナルのニスは磨いても滑らかな表面にすることはできません。フランスのニスはたいていそうですが、こうなると上からクリアーの塗装を施す必要があります。
この時汚れている上からクリアーニスを塗れば汚れを封じ込めることになります。

汚れを除去しなければいけませんがニスの方も風化しています。ゴシゴシ擦ればニスもボロボロと剥げ落ちてしまいます。

また演奏で手や体が触れる所はニスがはがれて皮脂などの汚れが付着します。過去にニスが失われて木の地肌まで汚れが染み込んでいるともう取り去ることはできません。

過去に補修で塗られたニスで汚れを封じ込められまばらに残っている状態です。

裏板は一件綺麗に見えます。どこが汚れと一体化したニスかわからないです。汚れを取ればニスも無くなります。

したがって汚れを取ってニスが剥げている所の補修をし表面に透明なニスを塗れば良いというわけです。

分厚く透明ニスを塗るメリットはオリジナルのニスがこれ以上剥離することを防ぎ、今後もメンテナンスを簡単にします。新品の楽器と同じように掃除して磨くだけで済みます。

デメリットはいかにもペンキ塗りたてみたいな感じになり作品に手を加えることになって音にも違いが生じます。
出来上がってみたら「何をしてくれたんだ!」と怒るかもしれません。大仕事となり費用も高くなります。

極薄くニスを塗れば見た目には光沢が生じますが、毎回同じ処置が必要になります。

この楽器でも過去に透明なニスが塗られていたようです。それが所々剥げ落ちていたり掃除することで失われたりしました。

つまり自動車を洗車すれば良いという持ち主は思っているのに対して、古い絵画の修復ほどの作業が必要なのです。

特にこの楽器で難しいのはオリジナルのニスが多く残っていることです。これがオールド楽器ならほとんどオリジナルのニスが残っておらず300年の汚れで真っ黒で過去に修理のニスが塗りたくってあります。分厚く塗っても変わりません。

一方現代の楽器でニスが健全な状態なら掃除して磨くだけで済みます。ですから歴史的な高価な楽器では全く違うメンテナンスが必要だという事は理解しなくてはいけません。


補修が終わりました。クリアー塗装は最小限です。

f字孔の辺りにははっきりと汚れがあります。もはやとることはできません。
駒の付近はニスの剥離があり細かい穴が無数にあったため、一つ一つの穴をフランスの楽器専用に作った赤いニスで埋めていきました。

きれいに見える楽器ですがそれでもかなり汚れがついています。新作楽器でニスが剥げたように塗るものとは全く違います。このような古さを人工的に再現するのはとても難しく成功例をを見たことはありません。
アンティーク塗装のほとんどは時代設定が滅茶苦茶です。

逆に言えばこの楽器も170年経ってこう見えるのであって新品の頃は現代の平凡な楽器のようだったと思われます。

どこまできれいに仕上げるかは問題ですが、ニスが剥げたところに新しくニスを塗るとピカピカになります、それ以外のところは光沢が少なくばらつきが出ます。それでも仕事はしたので代金を請求するのが職人としては標準的な仕事です。
全部ピカピカにしようとすると大変です。

ほとんどモーターショーに展示する車両のレベルです。
どこまでやるべきなのかが難しいですね。私のような人は常識が分からなくてどこまでもやってしまいます。商売としては全く成立しません。山奥にでもこもって「お金なんていくらかかってもいい」という顧客だけを相手にしなければやっていけません。

ヘッド部も以前はこうだったのが

赤く塗ったわけではないのでカメラの反応の仕方が変わったのです。
渦巻の中心を見てください、すべて手垢です。

特徴を見てみるといかにもフランスという感じです。その中でもストラディバリに忠実にというよりは丸みが綺麗になっています。リュポーなどの前の世代とも違います。
イタリアのモダン楽器でもストラディバリに忠実ではないので「個性がある」と呼ばれるならこれも個性があります。

縁が黒く塗ってあるのはもともとストラディバリがそうだったからです。

正面もフランスらしいカチッとした仕事です。こちらもストラディバリの特徴を追求したものではないですね。

いかにもフランスという感じです。

渦巻の彫り方には特別フランスの特徴は感じません。

アーチは当然ながら平らなものです。


平らなアーチでもちゃんと立体的に形が作られています。アーチの雰囲気もフランスの楽器を見分けるポイントですし、フランス以外の楽器でもどの程度フランスの影響を受けているかが分かります。

手が触れる部分はニスがはがれやすい所です。木まで汚れが染み込んでいます。

オールド楽器とは印象が異なり近代の楽器であることが明かです。

板の厚みは実物や資料に出ているヴィヨームのようにリュポーなど以来の典型的な板の厚みではなくやや厚めになっています。1849年の時点で厚めの板のものが作られていたというのが興味深いです。

オブリガートを張ってみると調弦のためにはじいても鈍い感じでパーンと鳴る感じではありません。
弓で弾いてみると板の厚みとも一致する明るめの音で柔らかさがあり刺激的な鋭い音はありません。高音も柔らかく別のヴィヨームとは正反対ですし、私のフランスの楽器のイメージとも違います。そもそもフランスの音なんて無いんでしょう。いわゆるビオラのような音という低音に寄ったものではありません。

翌日再び試すと元気よく強く感じられました。柔らかさは後退しましたが依然として上品な音です。パーンと飛び抜けて鳴る感じではありませんがうまい人が弾けば機能するだろうなという感じです。明るい音で20世紀のもののようですが底の深さがあるようです。新作楽器のような鳴らなさではもちろんなく、刺激的な音でないにもかかわらず音は出やすくなっています。

音に極端に偏ったバランスや個性は無くとても優等生的な楽器だと思います。以前出て来たフランツ・ガイゼンホフとは全然音が違います。ずっと色気と深みがありました。ガイゼンホフもストラディバリを模して作られた初期のモダン楽器とも言えるものですが、音ははるかにオールドっぽいです。こちらのヴィヨームは現代のものに近いです。
値段ではニコラス・ヴィヨーム作と同等と考えられます。ガイゼンホフよりもやや高いですがどちらも1000万円ちょっとといったところです。
近い値段の二つの楽器ですが音は全然違います。金額の数字で音は表せません。
ガイゼンホフには悪魔的なヴァイオリンの魅力が感じられます、ヴィヨームは整った普通の音です。
時代はガイゼンホフの方が40年くらい古いものですが、このヴィヨームが40年後にそんな音になるとは思えません。ガイゼンホフが40年前に現代的な音ではなかったことでしょう。

やはりオールドとモダンでは見た目にも作風に違いがあり、それは音にも表れて来るようです。40年は作風の変化の差でしょう。国よりも時代の変化の方が大きいと思います。

オーストリアとフランスのモダン楽器の開発競争ではフランスが勝ってその後のすべてのヴァイオリンの起源となりました。しかしこの2台を比べる限りでは勝敗は無く好みの問題でしかありません。途絶えた流派の方が珍しいのは言うまでもありません。

こんにちはガリッポです。


ラーセンの新しいチェロ弦の情報です。まだ詳しいことはよくわかりませんが、代理店からの宣伝で耐久性も改善しているようです。

お値段はこちらの定価が460ユーロでイルカノーネの432ユーロを超えます。

いろいろな楽器の仕事に取り掛かったところですがなにしろ音が出るのはいつも最後の段階です。

これ以上何も伝えることがありません。


音の不思議な話です。
演奏はおろか音楽をゆっくり聴く時間さえありません。作業しながら音楽をかけていても初めしか聞いていません。気が付くと終わっています。

音楽を聴くメディアの環境が様々に変化してきましたが、私はCDを買って聞くことをしています。CDは音源の種類が多く若い頃には入手できなかったものでもネットで購入ができます。
配信に比べるとデータの圧縮がありません。
配信で試聴し希望のCDを探して購入しディスクをプレイヤーにセットして聞くという一連の行為によって音楽を大事に思うことができます。昔はお小遣いで買ったCDを何度も何度も聞いたものです。

それでも不満点があって私のオーディオシステムから出る音がゴリゴリと硬質でカシャカシャと耳障りなところです。とても心が休まるものではありません。

様々な工夫によってだいぶましにはなってきました。CDによっては全く不満がありませんが、CDによってはひどく耳障りで不自然です。

これは録音の問題でもあります。録音する人や機材によって音が全然違うというわけです。録音スタジオのモニタースピーカーで調整した音を聞いて音を決めているのでしょうけども、こうもCDによってバラバラだと困ります。

基本的にオーディオ機器は録音された内容をより忠実に再生できることを高性能と言うでしょう。こうなると、変わった音で録音されたものはより変わった音に聞こえるのが優れたオーディオ製品という事になってしまいます。このため高級オーディオほど音に不満が生じ、チープなものの方が気にならなくて済むわけです。

クラシックなら同じ曲を多くの演奏家が録音しているのでいくつも買って好きな音のものを聞けば良く、自分にとっての「名盤」というわけです。
しかしマイナーな作品になるとそうも行きません。そのCDが世界で唯一の録音だったりします。

特にひどいのは古楽専門レーベルです。古楽器による録音は1990年頃から増えていきます。私は目の前でバロック楽器の音を聞くこともありますし、由緒ある古い教会や建物で聞いたこともあります。これがCDで聞くものと全く違うのです。
一つは古楽器は音が小さく、マイクで収録するのが難しいからというのが理由かもしれません。マイクから遠ざかると雑音が多くなるため、マイクを近づけると歴史的な建物の優雅な響きが記録されません。
チェンバロの音でも実際には軽やかに響くのに対して録音ではガチャガチャと金属的な音になっています。

ところが同じ古楽専門レーベルでモダン楽器の演奏を録音したCDでも同じような音になっています。
こうなると耳で聞いて敢えてそのような音にしていることになります。
録音エンジニアと私の耳では全く違うように聞こえているわけです。音とはこのようなものです。人によって聞こえ方が全然違うのです。


一つには「古楽器による演奏」を実感できるように通常のレーベルとは音を変えたという事も考えられます。普通なら古楽のCDは販売数もわずかですから、商業的にも功績をあげた(私の耳には変な音)の録音技術者が出世して、師弟関係のように尊敬されたのでしょうか。職人の世界がこのような感じですからそこから想像したまでで、実際は分かりません。

この時かつてのバロック音楽のイメージを一新し、ヴィヴァルディの四季ではかつてのイ・ムジチのような優雅で上品なものから、イル・ジャルディーノ・アルモニコのように激しくダイナミックなものに変わったのです。日本語ならビバルディと表記していたころとヴィヴァルディになった時代の違いです。

音も硬質でゴリゴリとした金属のような音ですが、実際にはそんな音ではありません。
確かに裸のガット弦は金属巻やナイロン弦に比べると刺激的な音が多く含まれています、しかし古い教会などの後ろの席で聞けばそんなことはありませんし、バロック楽器でも上等なものはモダン仕様の楽器とバランスが変わりません。

特に難しいのは楽器の数が多くなった時でオーケストラの合奏のケースです。ソロ演奏であれば一つの楽器に集中して楽器の持っている様々な音を豊かな情報量で記録できますがオーケストラとなると、一つ一つの楽器は細い線のような音になります。高音であれば耳に突き刺さります。

このような問題にオーディオ業界は無関心でしょう、人々が聞く音楽ジャンルは様々で、ポップミュージックが現在では主流になっているからです。
このようなジャンルではノリが良く躍動感が求められます。つまりオーディオ製品は躍動的なほど優れているという事になり、古楽の録音では「too much(過剰)」になってしまいます。

また他の製品と比べて相対的に高音質という概念も、よりくっきりはっきり聞こえるほうが優れていることになります。実際の音に近いのではなく、他の機器よりも優れた音というものです。

ヴァイオリンのオールドの名器であれば、ホール全体に音が響き渡り、音がどこから聞こえて来るかもわからなくなります。一方チープなものは細い音ではるかかなたのステージ上から聞こえます。
これがオーディオになるとチープな楽器のような音の方が高音質となってしまうのです。当然オーディオマニアがヴァイオリンの名器の音なんて知りませんから。

実際にホールで聞けばそれぞれの楽器の音はぐちゃぐちゃに混ざり溶けあって分厚いハーモニーとなります。それに対してオーディオ的には一つ一つ音が肉を失い骨だけになってバラバラに聞こえるのをS/N比が良いとか高解像度とか定位が良いと言って評価します。

そもそも多くのマニアは自分の理想とする音などは無く高いものを買ったり、理屈を信じて変化した音を「良い音」と評価するようです。

このためオーディオマニアの間で評判の機材やグッズ、音質改善の手法はあてにならないのです。
一方市場ではJBLやタンノイと言った名門ブランドの「名器」を音を聞かずに買う人が多くいます。ビンテージ市場も値上がりしていますが、粗大ごみのステレオのような音がするかもしれません。

このようなオーディオの用語は録音の世界でも使われます。今ではコンピュータを使って作曲者が自分で録音することもできます。どこの世界にもいる理解してないのに知識をひけらかす人に気をつけましょう。

ヴァイオリンなど弦楽器の方がオーディオ界よりも人口が少なく音についての記述や専門用語などの共通理解や情報が不足していますが、音というのがどういうものなのかいくらかわかったでしょうか?


ノイズという言葉があります。
ノイズとは日本語にすると騒音のことです。騒音ですから、やかましいとか不快に感じるものがノイズです。例えば小鳥のさえずりが心地良いと思う人にとってはノイズではありませんが不快に思う人にとってはノイズです。
電車の音も普通は騒音ですが、鉄道マニアが喜んで聞いていますし、昔はオーディオマニアが機関車の音を録音したものです。

ヴァイオリンなら不要と思う音がノイズになります。これだと人によって違いますね。音量がある安い楽器の音はノイズで、自分がひいきにしている楽器の音はノイズが少ないので優れいてると都合の良いように解釈できます。しかし楽器である以上音程とは関係ない音をノイズと考えるのが妥当でしょう。

録音であれば、音楽の音以外の音がノイズとなります。マイクの性能上余計な音がどうしても入ってしまうのです。それを減らすためにはマイクを楽器に接近させる必要があります、そうなるとホールや教会で聞く音とは違ってしまうのです。

FMラジオやカセットテープではあからさまにシーとかザーといった雑音が聞こえました。
それがデジタルになるとあからさまには聞こえなくなりました。それでノイズの問題は無くなったのでしょうか?

それに対して録音された音波の波形に乱れが起きればそれがノイズだというわけです。様々な要因によって未だにノイズたっぷりの音楽を聴いているのが現実です。


そのノイズは再生機器から生じるのではなくそもそもオーディオ機器に送られてくる電力に起因しているという考えがあります。家庭にもたらされる交流電流は50や60Hzの波でプラスとマイナスが入れ替わるものです。この波形に乱れが生じているとノイズが発生しているという事になります。
このようなノイズは精密機器や測定機器の誤作動や誤差を生み出すものと考えられています。

いよいよ普通の思考では理解できない世界になってきました。もし電気の専門教育を受けた人ならそんなことがオーディオの音に影響するわけがないと考えるかもしれません。こんなことはオカルトであるという意見もあります。

試しにやってみることができます。
オーディオで音楽を再生中に家じゅうの他の電気製品のコンセントを抜いてみることです。これによって音が良くなったと感じられたのならそれがノイズの発生源です。
私がやってみたところ最も効果が大きかったのはインターネットのモデムとw-lanルーターが一体になったもののコンセントを抜いた時です。意外にも冷蔵庫は違いが判りませんでした。

ルーターやパソコンを接続しているコンセントは、同じ部屋でもオーディオとは別の壁についているコンセントから取っています。同じコンセントから取ればさらに影響が強いでしょう。

したがってオーディオ以外の電気製品のコンセントを抜けば音が良くなるというわけです、しかしそれでは生活が不便です。

そこでこんな製品があります。

これはアメリカのGreen Waveというメーカーの電源ノイズフィルターというもので、空いたコンセントに刺すとノイズを除去できるというのです。
日本では正式には発売されていませんが個人輸入して使っている人がいます。これはヨーロッパ仕様で電圧が違います。

Youtubeでも市販の測定器を使ってこの製品の効果を試した動画があります。数値が激減しているのが分かります。何かしら効果があるようですが、疑いだすと測定器の方も疑わしくなってきます。

実際にパソコンやモデムルーターのつながっている壁のコンセントに差し込んでみました。

残響音の方に大きな影響を感じました。響きがクリアーになり、録音の内容をより忠実に再現しているように感じられました。音量がわずかに小さく感じ躍動感がややおとなしくなり古楽レーベルのひどく耳障りな金属音がマイルドにもなりました。

録音内容を忠実に再生するという事は高音質ではありますが、ヘンテコな録音ではよりヘンテコに聞こえます。
躍動感は私の機器の場合にはありすぎたので問題ありません。耳障りな音がマイルドになったのは私にとって素晴らしい成果です。
したがって抱えていた問題によっては音が悪くなったと感じる人もいるでしょう。

もしこれが電源ノイズ削減による効果だとしたら、人やCDによってはノイズがあった方が望ましく、無い方が望ましいことも起き得てしまいます。

しかしオーディオマニアという人たちはノイズを悪だと信じている宗教なので客観的に受け止めることは難しいでしょう。自分にとって都合の良いような解釈をしてしまいます。

ただし、私にとっては電源ノイズが耳障りな音の原因だという仮説を着想しました。これは面白い視点です。弦楽器でも何かのヒントです。つまり音波の波形の乱れがおきること、音楽とは関係の無い音が原因ではないかと考えられます。逆に言うとヴァイオリン職人はこんなこともわかっていませんから、自由自在に柔らかい音や鋭い音の楽器を作り分けることができないという事です。


ちなみにこの製品はオーディオ用に作られているわけではありません。他に家庭で必要性が生じることは無いでしょう。性能の優れた機器だとしても売る相手がいません。
そこで目をつけられたのが何か電磁波を嫌う思想の人たちです。頭にアルミホイルを巻くような人たちのことで、実際に電磁波を遮断する帽子などが販売されています。そのようなところでこの機器も販売されているようです。
これを使っていますが健康状態が良くなったことは確認できません。
そのようなオカルトめいた業者によって販売されているので怪しげな製品という印象を受けます。



さらに別のものも試してみました。
これも同じように空いたコンセントに刺すものですが、こちらはifiオーディオというイギリスのメーカーのiPurifier ACというもので現在ではサイレントパワーというブランドで販売されています。
もともとはDACやヘッドフォンアンプなど同社製品のアクセサリーグッズとして販売されていたものを広く一般に販売するためでしょう。
ヨーロッパでは電圧は同じでも国によってプラグの形が異なります。イギリスではヨーロッパ大陸のプラグにアダプターを付けて使用します。このためこれはメーカー本国向けの製品となります。

日本でも2017年に発売され評判になった後、異常な高温に発熱するとか、測定しても数値が減らないまたは悪化すると動画が拡散されました。
一方でメーカーは測定法の問題を指摘したり、より専門的な機関によっては効果が計測されたとの情報もあります。

どちらが正しいのかわかりません。

メーカー(代理店)側の説明については次のリンクを参照してください。
https://ifi-audio.jp/acc/ipurifier_ac.html
読んでも私はさっぱり意味がわかりません。もし言ってることが理にかなってるとしても、それが本当なのか嘘なのかもわかりません。全部信じていたら財産を失ってしまいます。

自作の電源ボックスに装着してみました。オーディオ機器は右から真空管プリアンプ、真空管パワーアンプ、CDプレーヤーの順でこちらの電源ケーブルも電線とプラグを買って作った自作です。電線はスープラというスウェーデンのメーカーです。
プラグや電源ボックスのコンセントは中国製のもので日本製品のコピー商品です。日本製品はこちらでは高すぎますし、日本製のキッチリカッチリした音よりもアバウトな音を期待して中国製にしました。それでも完成品のケーブルや電源タップを買うよりもプラグやコンセントのグレードが高くなります。市販品はアルミニウムの筐体になっていますが、自作ボックスはシナの無垢材を使っています。
緑色のランプが二つ付いています。一つはコンセントの向きが間違っているとオレンジに点灯します。その場合は半回転させてコンセントに差し込みます。もう一つはアースが接続されているかどうかです。ヨーロッパのコンセントはアースが来ていますので緑色です。電圧が220Ⅴ以上あるので標準装備です。緑のランプがついている時に正常に作動しているとのことです。

発熱はわずかに暖かくなっているくらいで、携帯電話の充電器以下です。

音についてはつけてすぐはゴリゴリと金属的な音がしました。翌日には感じなくなり2週間くらいすると劇的に音が柔らかくなったように感じました。
アコースティックの楽器やスピーカーでは使い込むことで音が良くなるという事は理解できますが、電気機器でも同様のことが起きるとされています。原因はわかりません。

効果を早めるために、音楽を聴かない時間は冷蔵庫の差し込まれているコンセントに取り付けていました。

今、付けたり外したりしてテストすると、外しても音がひどく悪いという事はありません。Green Waveが効いていることもあります。
しかしiPurifier ACを装着してよくよく聞き続けていると、余韻(残響)が長くそれでいてクリアーです。まさにコンサートホールのような音の響き方です。空気は暖かくリラックスしてウトウトと居眠りさえできます。私のスピーカーは躍動感がありすぎて実際にコンサートに行くと退屈な演奏にがっかりしたものでした。

金属的な音は豊かな響きの奥に隠れ一つの音の要素になっています。音のアタックと残響のタイミングがうまく合うようになりました。これも不思議です。

ゴリゴリした金属音は減少し古楽レーベルの録音でも音楽に専念できるようになりました。
古いスチール弦じゃないかと思うような古楽器によるタルティーニのヴァイオリンコンチェルトも音楽を楽しめるようになりました。大変美しい曲なので今度はコンチェルトの全曲を買おうかと思います。

この製品では本当にノイズが除去されているのかはわかりません。オーディオ用に作られているものの多くは同様でユーザーの測定結果には効果が表れずオカルトと考える人もいます。

一方で聴感で音をチューニングしてあると考えられます。センスの問題もありますが、私にとってはピッタリのものでした。
真逆の好みや悩みを抱えている人がいてもおかしくありません、人によって評価は正反対になるかもしれません。

それでも音声信号ではないのでサラウンドやエフェクターのように音を人工的に加工することはできるとは思えません。なぜかわからないけども「結果としての音」という事になるでしょう。

感性が合うメーカーはお気に入りとなります。評判で決まるわけではありません。
自作電源タップやケーブルとの組み合わせでより完成されたとも言えます。そのほか環境によって効果には差があると思われます。

ちなみに他のオーディオ機器のコンセントを刺す順番を変えると音が変わります。パワーアンプを一番右側にすると最もダイナミックで荒々しい音になります。一番左にすると穏やかになりますが完全に金属的な音が無くなるわけではないので真ん中にしています。

そもそもがDACやヘッドフォンアンプ用に作られているので大きな電力のアンプやスピーカーで聞くのは用途が違うかもしれません。

音楽ジャンルやCDによっては必要がないのでスイッチを付けようかと思っています。

このような効果はオーディオ機器だけでなく録音機器でも同様のようです、録音したときも電源由来のノイズも一緒に記録されてしまうそうです。
デジタルでもそうなの?ってなると理屈では理解できませんね。
録音機器やPAや楽器用の音響機器、電子楽器用など楽器業界でもノイズフィルター内臓の電源タップがあります。

音というのはこんなもので理屈なんてものははるかに超えています。初心者のマニアはマニュアルを経典のように信じ信仰を持ってしまいます。


弦楽器に関するグッズはこれらに比べるとはるかに市場規模が小さく投資額も少ないものです、研究設備すらなく「カーボン製は軽いから音が良い」くらいのレベルです。
高度になればなるほどケースバイケースとなることでしょう。


ちなみにこのようなオーディオのグッズは日本の方が盛んで音にこだわりが強くヨーロッパではそれほどではありません。ヨーロッパの人は見た目に高級感があると良いものを買ったと満足する人が多いようで、音について細かく分析するような人は少ないようです。気にすればするほど気になりますから。
同じようなことがヨーロッパの弦楽器職人やユーザーの考え方として理解してもらいたいものです。

こんなに難しい世界のなので「音響工学に通じている職人が作っているから音が良い」なんて考えるのは単純すぎます。肩書によるイメージだけの話です。音は実際に耳で聞いてみないとわかりません。



その後二つのノイズフィルターの併用是非を比較してみました。
iPurifier ACのみを付ける場合とつけない場合で試すとつけたほうが上記のように望ましい結果が得られます。
iPurifier ACとGreenwaveの両方つけるとiPurifier ACのみに比べると響きが少なく引き締まってタイトな音になりました。これがCDによって合う場合と合わない場合があります。
そこでスイッチを取り付けてCDによって切り替えられるようにしようと思います。

こうなるとノイズがあるかないかではなく、単になぜかわからないが音が変わりケースによって合う合わないということになります。

もはやノイズ云々の理屈は関係ありません。

録音の良いCDであればiPurifier ACのみの使用で最もコンサートホールのような豊かな響きが得られます。この場合測定機による結果の悪かったiPurifier ACが機能し、良い測定結果が得られたGreenwaveが劣ることになります。

これが音というものです。

こんにちはガリッポです。

1800年に近づくとストラディバリが理想のヴァイオリンであるという考えが広まりストラディバリモデルの製作法がマニュアル化していきました。
同じマニュアルに従って作っているので輪郭の形だけを変えたガルネリモデルでも音に違いがありません。

一方同じ寸法で作っても作者によってなぜかわからない音の違いがあります。このためどちらのモデルで作ってもその人の音になります。


19世紀以降他にはアマティやマジーニのモデルで作られました。これも寸法に差がなければ音の特徴は分からないでしょう。

さらにミルクールやマルクノイキルヒェンの量産品ではシュタイナーモデルも作られました。

マルクノイキルヒェンの戦前のカタログ上ではベルゴンツィ、ルジェリ、シュヴァイツァーなど様々な名前があります。現在でもそれらの偽造ラベルが貼られたものを見ることがあります。
これらになるともはや普通の量産品にラベルを貼っただけで形なども全く関係ありません。これらは工場ですでにラベルを貼って作られたものです。

他に多いのは、販売者が様々な意図で偽造ラベルを貼ったものです。

どのモデルでもオリジナルのものとはかけ離れており音の特徴などを期待することはできません。

唯一独特なのはシュタイナーモデルです。量産品のみ独特のシュタイナーモデルの製品が作られました。
ストラディバリやシュタイナーの名前の付いた古い楽器が倉庫から出てくるいつものパターンです。

イタリアの楽器よりはるかに割安だとしてもシュタイナーでももちろん高価です。一方でマイナーなドイツのオールド楽器には安いものがあることを紹介してきました。とはいえ新作楽器と同じくらいの値段です。

シュタイナーモデルの量産品で楽しむことはできないでしょうか?ギターであれば数十万円のものを何台も所有するコレクターはいます。

これはヨーゼフ・クロッツのラベルがついたヴァイオリンです。

シュタイナーモデルと同じように作られた量産品でラベルはクロッツの名前を貼ったものです。
姿かたちにはクロッツの特徴は感じられません。幅の狭い細いモデルです。

ニスはラッカーで人工的なアンティーク塗装があるのですぐにマルクノイキルヒェンの近代のものだと分かります。我々にはドイツのオールド楽器とは全く似ても似つかないものです。

ネック部分だけを専門に作る職人がいましたが、特にクロッツ用に作ったのではなくオールドの特徴のないただのスクロールです。

シュタイナー型の量産品の最大の特徴はアーチです。表板を見ると台地のように頂上が平らになっています。

指板がぶつかりそうです。

これはストラドモデルの量産品と共通の製法で作られています。このため本当のオールド楽器とは全く違うアーチになっています。

アーチの作り方を模式図で示すとマルクノイキルヒェンの量産品は上のようです。板を左右接ぎ合わせ輪郭を切り抜き、上を平らにしてアーチの高さを出します。次に周辺を薄くしてエッジの厚みを出します。間をつなぐと今回のようなアーチの出来上がりです。
一方ヴィドハルムのアーチではおそらく下のようになっていると思われます。まずこんもりと膨らみを作った後で周辺の厚みを出して溝を彫ります。

マルクノイキルヒェンの量産品では同じ方法でストラドモデルも作っているはずです。

点線のようにより多く削るだけの違いです。どれくらい削るかは感覚によるものでばらつきがあります。攻め切れてないものや行き過ぎているものがあります。これは立体造形感覚によるものなので、個人の職人でも才能が現れます。イタリアの有名な作者でも攻め切れていない(才能が無い)人がいます、チェロでは手抜きも見られます。見てわかるかどうかも才能に依存しますから、専門家でも違いに気付かない人が多いでしょう。才能があるのは少数派の意見なので値段などに反映されるわけがありません。

オールドの時代の作り方を研究しているわけもありませんし、モデルによって違う製法をするはずもありません。

一方逆に考えるとストラディバリはアマティなどと同じ作り方でアーチを作っていることでしょう。デルジェスもフィリウス・アンドレアなどと同じ作り方でしょう。ストラディバリは近代のストラディバリモデルの作り方をしていないというわけです。

ともかくこのように単に攻めていないアーチになっているだけでオールドのドイツのアーチとは全く別物です。

このヴァイオリンは物置から出て来たガラクタとして社長が購入しましたが、表板の魂柱の所に割れ傷があることに気付かず高すぎる値段で買ってしまったものです。修理代を差し引くと価値はほぼなしですから。
買ってしまったものはしょうがないので修理することに。

量産品なのでエッジ付近に削り残しがあります。中央も板が厚すぎます。魂柱パッチの修理をするならその前に板を削ってしまいます。


この部分が削り残しです。
本当のオールド楽器では外側の溝が深く彫られているのに対して、マルクノイキルヒェンの量産品では溝が浅いので余計に厚くなります。

一方ここは削りすぎています。
横板との接着面が無くなっています。
周辺に削り残しができるのはこうなることを恐れているからです。
厚みを出す作業の初めの段階ではザクザクと削っていき最後には精密な加工が必要となりますが手作業でコストを下げるためには急いで作る必要がありました。

センターの合わせ目がちゃんとついていないので補強しました。魂柱パッチを取り付けバスバーも新しくしました。割れもいくつかありました。外から見える割れ傷はダミーのイミテーションです。

指板も交換が必要だったので取り外すとついでに裏板も薄くしました。板の厚みはオールドのドイツのスタイルをイメージしました。

完璧に量産の欠陥か所を直しました。
ネックを仕上げ直し、ニスの補修、ペグ、駒、魂柱、テールピース、弦を交換し完璧な状態です。

これでドイツのオールド楽器のような音になるでしょうか?

出来上がって弾いてみると・・・
うーん、なんだかイメージと違います。
窮屈でスケールが小さく3/4のヴァイオリンのようです。音は好みの問題なので悪いとは言えません。音ははっきりして分かりやすいものなので好きな人がいるかもしれません。

二日後に再び弾いてみるとやはりスケールの小さいこじんまりした感じの鳴り方です。音自体は板を薄くした効果か低音に深みもありツボにはまればボワッと鳴り出します。高音は柔らかく量産品や現代の楽器では珍しいものです。

やはりオールドの名器とは違うようです、私としては最善を尽くしたと言えるでしょう。


こんにちはガリッポです。


私の所ではガソリンの値段がさらに上がっています。今では1Lが400円を軽く超えています(ハイオクに相当)。レギュラーに相当するものでも400円ほどです。ユーロ高で輸入価格は円安の日本より安いはずですが・・・。政府は何の対策もしないのです、いかに日本は国民や消費者の顔色を窺っているかという事です。ますますモノの値段がわけがわからなくなってきました。


さてプロのヴァイオリン奏者になるためにはどれくらいの値段の楽器を買うべきでしょうか?

先日プロのオーケストラ奏者の楽器のメンテナンスをしました。見た感じで100年くらい前のものでラベルにはアントニウス・ストラディバリウスと書かれていました。おそらくマルクノイキルヒェンの上級品でしょう。値段はブログを始めた当初なら日本よりずっと高い消費税を入れても60万円といったところでした。現在の為替とインフレの状況を考えると最大100万円程度と考えられます。誰が作ったかもわかりません。

上等な木材を使用し軽いアンティーク塗装が施されています。ニスも安価なラッカーではなく上等なものが使われていて、作りも20世紀の教科書通りの「ストラディバリモデル」です。したがって板は厚めです。

弾いてみると明るく反応が良く音が出やすい感じがします。高音にも鋭さはありません。

このようなごく普通の楽器をプロの演奏者が使い込むことで音が良くなるという事です。鋭い音がしないという事はもともとは大人しい地味な音の楽器だったろうと考えられます。100年経ったそれを弾きこんだというわけです。音の性格は個体差のようなもので、グレードが高いので刺激的な音が少ないというわけでもなく産地とも関係がありません。

これが弦楽器の真実です。
質問の答えとしては60~100万円で十分という事です。
プロと言っても業務は様々ですから、職種によって求められる音も違うかもしれません。しかし世界中から求職者が集まってくるのでそのオーケストラに入るのは簡単なことではありません。

同じ時代のイタリアのものなら値段はその10倍はするでしょう。しかし職人が見ると作りに違いはないし音にも違いがなくてもおかしくありません。マルクノイキルヒェンの100万円のものとイタリアの1000万円のもので私はモノとして同格だと考えていますが、私の考えは生ぬるく現実に楽器を目の前にするとイタリアの楽器の音がはるかにひどいことがよくあります。
楽器店の営業マンの語ることは工業技術としてのモノそのものとしてではなく商業上の「物語」です。

普通の楽器を手抜きなく作った時点で職人としてすべきことは十分に果たしています。後は趣味趣向の問題になるだけです。私がこだわっているようなこともプロの演奏者は全く気にしてないものです。

弦楽器はこのようなものなので楽器に夢中になるのはバカげているというわけです。

同じくらいのグレードのチェロだと2万ユーロはします。現在なら360万円にもなります。最近話に出て来た若いプロのチェロ奏者もそれくらいのものを使っています。ヴァイオリンに比べて割高なのは、作られた数がずっと少ない上にこの価格帯のものが初心者用以上を求める学生などにもっとも求められているからです。それで完全に満足しているという事でもないでしょうが少なくともプロになることはできるレベルです。チェロでは個体差で好きな音のものを選べるほど店頭にありません。


現実に目を覚ます価値のある話でした。これ以上の話は蛇足でしかありません。



これでおしまいというわけにもいかないので、再びピラストロ社の新製品エヴァ・ピラッツィ・ネオのヴァイオリン弦を試してみました。2010年に私が作ったヴァイオリンです。

同社のオブリガートに比べると一段階音量が増す感じがします。それでいて荒々しい音は無く音色も明るくなくニュートラルだと思います


無理やり音を作ろうという感じではなく大人っぽい真っ当なものに思えます。楽器との相性に特別難しい感じもしません。バランスよくきれいな音で音量もあるというそんな感じですかね。
裸のガット弦に金属を巻いて音量と音の滑らかさを増して高級ガット弦になりました。さらに音量と滑らかさを増して同じ方向性でさらに進化したというわけです。


最近の話はこんなところです。
イースターで連休でした。
毎日モクソンバイスを作る作業をしていました。

こんなものを作るのでもなかなか考えることが多く難しいものです。一般的には低学歴の人がつくことが多いですが職人もバカではできません。

肝となるメカニズムです。
通常モクソンバイスはネジのシャフトの先端が手前に突き出る形になって邪魔なので先端が奥に収納される形にしました。

これもナットの軸がずれていると、シャフトのネジが回らなくなってしまいます。取り付ける部分部分で正確な加工や基準面に対して垂直を出す必要があります。ヴァイオリン職人であればたやすいことですが・・・。

目論見通り厚みにテーパーのついた木材でもはさむことができます。

表側はこんな感じです。

ベンチドッグを入れる穴をあける位置を決めます。

これだけの穴をあけるのも結構大変な作業です。この木材がブナというとても硬い木材だからです。木ネジを打つにしても下穴が十分開いてないとネジが入っていきません。
まっすぐに穴をあけたつもりでも木に負けて斜めに穴が開いてしまうのです。
貫通するときに反対側が割れてしまうのでそれも対策が必要でした。
ドリルの長さも足りません。再び分解して穴の深さを増す必要もありました。

縦でも横でも使えるようになっています。ちょうど形を切り出す前のヴァイオリンやビオラの板の大きさになっているのがポイントです。
ポータブルワークベンチというものは市販されていますが、微妙に大きさが合わないのです。
それらには万力のハンドルが真ん中に一つだけついています。それだと同じ厚みや幅の板しかはさむことができません。ヴァイオリンに使うものは木の上の方が狭くなっていることが多いです。また、木目の線を縦にまっすぐに持って行くと上か下の幅が狭くなります。

ハンドルが真ん中に一つあるとそれのシャフトのネジで真ん中に縦に長い物を挟むことができません。それがモクソンバイスのそもそもの必要性です。

かなりのテーパーがつけられるのでネックや指板にも対応できます。

何より緊張するのは失敗すると取り返しがつかないことです。1点ものですからこれを試作品と割り切って失敗するわけにはいきません。

だいぶ形が出来上がってきましたがちょっとした問題も発生しました。
万力として使用するためにハンドルが必要です。アマゾンで発注していたら間違った部品が届きました。中国からの直送です。こんなところが中国クオリティです。品物がだいたい似ていればちょっとくらい違ってもいいだろうという感じです。しかし部品というのは適合しないものはゴミでしかありません。
中国の洗礼を受けました。

懲りずにハンドルの部品を注文したので半月後には結果が出ます。今度も間違った部品が届くかもしれません。

祝日にも仕事をしているのは頭がおかしいのですがこんなのは連休でもないとできません。

これが完成すれば楽器作りもより楽しくなることでしょう。
まだ細かい問題がありますし、細かい作業も残っています。
いずれにしてもハンドルが来ないことには完成できないので焦っても仕方がありません。

こんな事で一日があっという間にすぎてしまいました。
家で動画などを見て過ごすよりはずっと有意義だったと思います。

イースター恒例の餃子も作りました。イースターに餃子を食べる習慣は私くらいでしょうが、普段はなかなか時間がありません。
こんにちはガリッポです。

2024年の11月にA・ガリアーノのヴァイオリンの修理を終えた事を紹介しました。
https://ameblo.jp/idealtone/entry-12876219091.html
あれから一年と数か月が立ちました。

メンテナンスをすることになりました。
楽器には大きな損傷や異常はなくニスをクリーニングし簡単な補修を行いました。
自分で弾いてみてもかなり音は変わったように感じました。
ダイレクトで乾いた感じで振動がはっきり感じられ音になって跳ね返ってくる感じです。高いアーチらしく思います。
高音は相変わらず柔らかいです。
持ち主のコンサートマスターが弾いてもだいぶ音が変わっています。修理前は柔らかいふにゃふにゃの音だったのが元気よく乾いた音がします。修理直後はウェットな感じでした。
修理前の印象はとても柔らかい音の楽器であり、今は強さがあります。違う性格になりました。それにしても一年の弾きこみの効果がすごいです。

状態の悪いオールド楽器と比べればこれが明るい音と言えるでしょう。そのことと新品の楽器の明るさは同じことではありません。新品でも鳴らなければ明るい音にはなりません。

こうなると、店頭に眠っているものを試奏して自分の好みの楽器を選ぶというのとは違います。
縁があってその楽器を手に入れた後で、ビリつきが発生し国外での演奏活動などに不安があったため修理をしましたが、今では音もかなり変わってきました。
また試奏して楽器を選ぶ時には、今使っているものと近い楽器ほど弾きやすいのは当然です。したがって楽器を選ぶというのは運命のようなものなのかもしれません。

私が何か意図を持って楽器を作っても弾く人は全く違う観点で感じ取り、結果として出てくる音について傾向を語ることも難しいです。

弦楽器では全く同じ音を維持することも不可能です。
音は何かをすれば必ず変わりますが、それを良いか悪いかは主観の問題です。音が変わらない方が珍しいですが、良いとか悪いとか結論付けるのは難しいです。


Moxon Viseというものを作っています。

ブナの集成材を使います。手動のノコギリでも十分正確に切れます。

DIYの初心者ではこうはいかないでしょう。
モクソンバイスの部品は市販されています。例えば
https://www.leevalley.com/en-ca/shop/tools/workshop/workbenches/vises/70360-benchcrafted-moxon-vise-hardware
今なら日本円にしたら4万円にもなります。このようなメーカーのものは海外のハイエンド木工マニアという趣味の世界です。手動工具にこだわり電動工具を多用する普通の木工とは違います。原始生活のキャンプみたいな趣味です。このように作られたものを売って職業にするには相当裕福な顧客が必要です。ヴァイオリン職人と同じで修理の仕事の方が多いかもしれません。

主にはかつてイギリスのビクトリア時代などに植民地から銘木を運んできて豪華な家具や内装を作っていました。その時の木工技術がベースにあるように思います。

このような道具は日本では全く知られていませんが、西洋のヴァイオリン職人の間でも知られていません。普通ヴァイオリン職人はヴァイオリン職人の世界しか知らないからです。

このようなパーツはとても頑丈なものですが弦楽器では作るものが小さいので大きすぎます。

そこで

何かの部品を流用するわけです。
これは3DプリンターやCNC工作機械に使うものです。と言いながら私は何に使うものか何もわかっていません。
しかし今の時代にはこのようなものがネットで売っています。知らない分野の部品を探すのは難しいですが、かつてはホームセンターに売っているものでしか物を作れませんでした。
このような中国製の部品が手ごろな値段で市販されているので自作派にはうれしいわけです。ちゃんとしたものなら業者間でしか取引はありません。

それでも普通の規格のネジの倍はします。せっかく作るならカッコいい方が良いです。

スピンドルの直径は10mmです。
30万円のワークベンチに使われているものと比べると細いですが、ステンレススチールのネジの棒が10mmもあれば人力ではびくともしません。

このネジのスピンドルには回転でナットが動く速さが3種類あります。遅く動くものほど緻密で微妙な締め付け具合を調整できるのに対し、作業性は悪くなります。
ナットも専用のネジが切ってあるわけです。
一般のネジの規格とは違うため専用のものが必要になります。

モクソンバイスでは厚みが一定ではない木材を挟むことができます。
しかしあまりにも正確に作るとそのような動きをしません。
スピンドルに対して板の穴を大きくしておけば遊びができて融通が利くというわけです。
しかし機構として完成されてはいません。あくまで遊びで何とかなるというものです、昔のものですから。

そこでいろいろな方法を考えました。

このような真鍮の部品を作りました。パイプを切って万力で押しつぶしたものです。

実験用に余った木材で作ったものです。これを穴に埋め込みます。

これで左右に遊びができました。上下方向には遊びはありません。
今回はベンチドックを使いポータブルワークベンチにするためです。

ベンチドッグとはワークベンチとその万力に取り付けて板を固定するものです。かつては四角いもので先端がかぎ状に曲がっていました。犬の顔のようにも見えますが由来は分かりません。
30万円の重量級ワークベンチについてるのが左のもので今回使用するのは右のものです。

こんな仕組みを考えるのにああでもないこうでももないと部品を探したりスケッチを描いて何週間もかかりました。
一番いい解決法はシンプルなものです。
ベアリングを付けたらどうだとかそうなると横方向には弱いとかいろいろ問題が出てきます。

木材に直接ネジがふれていると摩耗して穴がどんどん大きくなってしまう事でしょう。金属同士でも摩耗はしますが木材よりはマシでしょう。グリースをたっぷり塗りましょう。

おおむねこんな感じですね。

ポータブルのための軽量化と強度の妥協点も難しい所です。作りもシンプルなほど優れた設計と言えるでしょう。

なんとかイースターの休日で形にしたいと思います。

ヴァイオリン製作は先生や師匠から一つ一つの工程を教わるのに対して、このようなものを作るのは全く手順が決まっていません。寸法も実際に作りながらこんなものかと決めていきます。

果たして本当にうまくいくのでしょうかね?
すごくおもしろがっているかと言うと実用的なものなのでそこまでではありませんが、こんな部品を見つけたときにアイデアを閃いて調べ始めたのに作らなかったらその時間がもったいないです。

嫌いだったらやらないことでしょう。
こんにちはガリッポです。

音についての考え方の話です。
チェロのエンドピンにはいくつかの素材があります。バロックの時代にはエンドピンの支柱は無く、近現代になってもかつては黒檀などの木材で作られていました(取り外し式)。
現在ではステンレスのスチールのものが主流です。
それに対してカーボンのものがあります。
カーボンの方が高価なのでカーボンに変えると音が良くなるのでしょうか?

ここでよく言われるのが軽いほど音が良いという理屈です。カーボンは軽い素材なので重いスチールよりも音が良いと考える人がいます。この説明は具体的にどんな音なのか何もないのです。

同じメーカーのもので直径も同じ8mmで棒だけ付け替えることができます。

実際にプロの演奏者がスチールとカーボンを付け替えて試奏しました。
すぐにスチールの方が良いと言いました。
おかしいですね、理屈では軽いカーボンの方が音が良いはずです。

私が離れて聞いているとスチールの後にカーボンに変えると、透明感があり柔らかい感じがしました。
それが弾いている本人には反応の鈍さに感じたようです。

物体は素材ごとに特徴的な音があります。値段が高い素材だから音が良いわけでもないし、軽いから音が良いというわけでもありません。
スチールのシャフトを持ってしならせてみるとほとんど微動だにしませんが気のせい程度にはしなる感じがします。カーボンの方ははっきりと弾力があるようです。

エンドピンの構造的な弱さは力の集中する根元にあります。スチールでもグラグラしますが、よりしっかりチェロを支えることができたために反応が良く感じられるという事もあり得ます。素材の持っている音の特徴も金属ですから反応よく感じられるのも想像できます。金属の棒は叩けばキーンと音がよく響きます。手すりなどでは遠くまで伝わります。重いから響かないという事はありません。反応が良く感じられたとしてもおかしくありません。

その後別の弓を使ってチェロを弾き始めました。今度は甲乙つけがたい感じになりどちらが良いか迷っているようでした。子供の時からの常連のお客さんなので両方持ち帰って試してもらうことにしました。

音というのはこのくらい紙一重のことです。現実は理屈のように簡単ではありません。

そんな感じで高価なグッズが出ると「軽いから音が良い」と説明する職人が多くいます。直ちに軽いから音が良いと言うのではなく検証が必要です。生産する工場は素材ごとに違いますから工場の人たちは言われた仕様の製品を作るだけです。カーボンの棒を頼まれたら棒を作るだけで、楽器のことなどは何も知りません。理屈で考える職人が多く「軽いほど音が良い」という理屈が広まっているため、カーボン製のエンドピンなら高く売れるだろうと考えた業者が発注し製品化したというわけです。

聞いていてスチールの方が明るい音だと思いましたが、日本で困ることは高いものは何でもかんでも「明るい音」と説明することです。

今回のケースでは簡単に比較ができる稀なケースです。
別のメーカーのエンドピンとなると取り付けるのに時間がかかります、チェロ側の穴の直径を変えないと取り付けができず、また再び前のものに戻すこともできません。
したがってチューンナップや楽器の製造法では検証が不可能かコストがかかりすぎることが多いです。

アクセサリーパーツや職人が言う音が良い製作方法などを聞くと具体的にどんな音なのか説明がありません。これではユーザーの希望に合わせることができません。現状の音とユーザーの好みによっては正反対になるかもしれません。ただ音が良いと言うだけでさっぱりわかりません。具体性がないので本当か嘘かもわかりません。

世の中の人の多くの人には私のような発想がないようです。
他人が自分とは違う感じ方をするという事が理解できないようですし、音について強いか弱いかしか考えられないようです。

希望する音が人によって違えば誰にでも共通する音の良さなんてものは無いはずです。楽器の音もバラバラですから、求められる変化は真逆になるかもしれません。


さらに多くの人は値段が高いか安いかに惑わされます。
自分の求める音などは無く、「値段の高い楽器から出る音が良い音」くらいに考える人が多くいます。一人の職人が作る楽器の本数は少ないので彼らの間で取引ではクレイジーな値段になります。

特に日本の場合には「明るい音」という謎のワードがあります。
私の所では明るい音や暗い音は単に音についての形容でどちらが優れているという事ではありません、あくまで好みで好きな音を選べばよいというだけです。しかし「明るい音と暗い音のどちらが良いですか?」と聞けば暗い音が良いと答える人が多いです。
暗い音では味わい、深み、コク、暖かみというそんな魅力がありますが、音が強くまたは軽く出ることが何より重要ならそのような要素はどうでもよく気にもしない人もいるでしょう。

日本で音が良いという事が明るい音だと誰にとっても当然のことだと決まっているのなら明るいか暗いかで楽器を評価すれば音の格付けができるでしょう。その基準で真剣に取り組んでいる職人が明るい音を生み出すために技術を進歩させるかもしれません。
しかしそれは日本国内だけのものにすぎず、私の所で話せば「極東の奇妙な趣味趣向」と一蹴されるだけで全く通用しません。日本でもそう思わない人がいるはずです。

さらに実際には音の明るさについてもあいまいです。
安価な楽器でも明るい音のものはいくらでもあります。むしろ高価なオールド楽器では暗い音がします。しかし現実に買いに来る客層が違いますから単に売りたい楽器の音を「ほら明るい音でしょ」とごり押ししているだけです。

つまり音の明るさについてもちゃんと評価していません。
もし「音の明るさ=音の良さ」で評価していたら安価な量産品が上位に来てしまいますからね。一つ嘘をつくことによって幾重にも嘘をつかなければならなくなり、率直に感想が言えない業界になってしまいました。「大人の事情」というやつです。

音の明るさは板の厚みによって説明ができます。明るい音の楽器を製造するために余計なコストや特殊なノウハウは必要なく安価な楽器で明るい音のものがあります。在庫費用が少ない新しい木材ほどそのような傾向になると思います。
新作で暗い音の楽器を作るのは難しいです。つまり安く大量に仕入れやすいものを「明るい音でしょ?」と言って売ってきたのです。



このように誰にとっても共通の明確な基準がないので音の良さを厳格に評価することはできません。


ちなみ安価なチェロにはチープなエンドピンがついていて、古くなるとビリつきが発生することがあります。製品の品質の問題で主に棒の方じゃなくてチェロに固定する部品の方です。
チェロ側の穴もだんだん摩耗してきます。穴を綺麗に開け直してもう一つ部品の軸の太いものに交換します。穴が大きくなりすぎると埋め直さないといけません。
鉛筆のように丸くなった先端を削って尖らせることも可能です。



ヴァイオリンではアジャスターの素材にスチール製とチタン製があります。チタン製のものはものすごく高価です。軽い方が音が良いという考えが広まっているために軽い金属であるチタンのものが作られています。

私の所ではチタン製で品質や機能性の良いものが流通していないのでお勧めできるものがありません。
スチールではウィットナーのものは常に弦のボールエンドがうまく収まります。

ウィットナー社は西ドイツの時代から高品質な製品を低価格で製造してきました。そのような会社は経営難に陥ってしまうのがその後の世界の変化です。近年は急激に値段が上がってGEWAが買収したとの話です。昔のカタログを見ると今の一つの小売り値段がかつての1ダースの仕入れ値です。昔はダース単位で仕入れていました。

私もチタン製のものを試したことがありますが音は確かに違いがあります。しかし良いか悪いかは各自の判断でしかありません。素材の音がそのままという感じです。
合金なので物によって違うでしょうがチタンはスチールに比べて強度がずっと低いです。チタンの方が響きが多く音が周囲に広がり繊細で柔らかい感じがします。それを聞くと良いように思うかもしれませんが軽金属の冷たさも感じます。
スチールの方がしっかりして引き締まり透明感があるように感じました。人それぞれどんな印象を受けるでしょうね?












こんにちはガリッポです。

ガソリンスタンドの表示を見ると1Lの値段が2ユーロを超えています、380円以上です。便乗値上げがえげつないですね。

モクソンバイスの製作も始まっていますが、設計に変更が生じました。
開発というのはそんなものですね、良いものを作るためにはそれもつきものです。

ブナの角材が4本ありました。数も数えられなくなったのではなく下の2本はくっつけてあります。

つなぎ目も見えないですね、これがヴァイオリン職人の技術です。接着には昔ながらのにかわを使っています。木工用ボンドだと粘性があってクランプで締め付けるとグニュッとずれるのです。隙間があっても人工樹脂で埋めるようになっていますが接着剤の厚みの分だけ間が空いて線になってしまいます。にかわは正確に加工しないと隙間を埋めてくれませんが、正確に加工すれば接着力は強力で継ぎ目もこの通りです。
ヴァイオリンの板はたった2~5ミリの厚みでくっつけていますから、これだけ接着面があれば絶対に剥がれません。

ブナはとても硬い木材で普通のDIYでは歯が立たずカンナでは削れないでしょう。
それでもヴァイオリンの木材よりは加工しやすいです。一方私の工具では節のある針葉樹は無理です。
4面が垂直になっていますから、ボール盤で穴をあけたときも真っ直ぐにあきます。


今回はこれで終わりです。
というわけにもいかないので、チェロの話題を。
前回はピラストロのパーペチュアルの話でしたが、セットの日本での定価が84,260円だそうです。
日本のそれでもまだ低いインフレ率を考えずにドイツ本国と同じように値上げしているのでしょう。未だに日本人はお金持ちだと思っているようです。

決して安くはありませんがラーセンのイル・カノーネは74,910円だそうです。代理店からパッケージを省略したラーセンの弦が少し安く入るようになりました。これから使うことが多くなるかもしれません。

ラーセンのチェロ弦と言えば柔らかい音が特徴です。それ以前のスチール弦は金属的で硬い音でした。それでも弾きこんでいくと若干柔らかくなっていきます、そうなると何年も使えました。
一方ラーセンの弦は張ってすぐ週末に本番を迎えられるようになっています。その反面特に高音ほど寿命が短くオリジナルやソロイスト版のA線などは数か月しか持たないものでした。
イル・カノーネではそのあたりも改良されていてそこまで寿命が短いという感じではありません。

柔らかい音で音量もあるのでチェロ自体の音を変えたいというのでなければDirect&Focused版をとりあえず張っておけば間違いないなと感じています。

寿命についてもデータが得られてくると思います。

ただしスピロコア(トマスティク))などを未だに使っているのが普通の地域では心もとなく感じるかもしれません。ラーセンで唯一荒っぽい音がするのがマグナコアでヨーロッパ外の人たちの好みのようです。



こちらはシルベストゥル&モーコテルのチェロです。1907年にパリで作られたものです。
いわゆる工房製のグレードです。

シルベストゥルの兄弟もモーコテルもとても美しい楽器を作った超一流の職人でその息子たちが設立した共同経営の会社だったようです。
父のシルベストゥルもヴィヨームの弟子でこの前のヴィヨーム工房のヴァイオリンと似ています。
他の国ならマスター作品以上のクオリティです。

着色の濃さもシルベストゥルのようです。

いかにもフランスの楽器ですね。フランスのチェロはストラディバリモデルばかりです。ストラディバリのチェロは細長いのが特徴です。
ドイツでも同様でモンタニアーナモデルは作られておらず、流行したのは20世紀の終わりころからで古そうに見えてもアンティーク塗装です、
イタリアではストラディバリモデルの型が入手できずに自己流のモデルのチェロがよくあります。

これぞフランスです。


ストラディバリの特徴を細部までよく研究しています。


アーチはこの前のヴィヨーム工房のヴァイオリンをそのまま拡大したようです。

私が考えているのは、オールドの時代にはこんもりとアーチを作り周辺にチャネリングという溝を彫りました。アマティ派でも同様です。ストラディバリもこの時ヴァイオリンに比べてチェロではそこまで幅の広い溝が彫られませんでした。チェロの方が相対的に狭い溝になっています。これは作業工程による形状の特徴です。
それに対してフランスのチェロではヴァイオリンの形をそのまま拡大したようになっているように思います。

つまりヴァイオリンではちょっとの削りすぎが大きな影響をもたらすので作業工程による癖が強くなります。

ちゃんと形を作りきっているという意味では優れた造形力を持っています。このようなセンスを教えるのは難しいことで息子だからと言って自動的にできるものではありません。間違いなく才能があります。
一方造形センスがなく攻め切れていないイタリアの楽器が倍の値段ですからね。
天才とか何の才能を言ってるのでしょうね。

才能に優れた職人の楽器が欲しいならフランスの無名な職人にもあります。
一方音や道具としての使い勝手なら才能が無い作者のものにも十分可能性があります。

音ですが、極端に個性的なものではなくとてもバランスが整っていると思います。強烈な音ではなく落ち着いています。うまく弾きこなせば良いかもしれません。楽器が勝手に鳴る感じではないです。このため音大生などが求めるものとはちょっと違うかもしれません。

お値段は相場がデータにありません。
しかし同じくらいのヴァイオリンなら3万ドルはすることでしょう。チェロでは最低その倍~2.5倍くらいは覚悟が必要です。そうなると軽く1000万円越えですね。
私がこの仕事を始めたころはその値段で19世紀の一流のフランスの作者のマスター作品が買えました。高くなったものです。

それでもクオリティはミルクールの量産品とは全く違いますしガン&ベルナルデル以上でしょう。同じ時期には既に廃業しカレッサ&フランセが相続しています。それに比べるとまだフランスらしさが残っています。

売りに出すのでほしい人は買いに来てください。

私はいませんでしたが若いプロのチェロ奏者が弾いたそうです。音は大変良かったそうです。

板の厚みを測ってみると表板はどこも同じ厚さで4.5mmほどでした。裏板もコーナーから上と下(アッパーバウツとロワーバウツ)が4.5mmほどで真ん中が急に厚くなる感じです。三色旗のように三つのゾーンに分かれているような感じです。


私は板の厚みはなだらかに厚みが変わっていくようにと教わりました。それを理論化したのはグラデーション理論というものです。

グラデーションになっていると音が良いという理屈ですが完全に嘘ですね。

そもそも音が良いとか悪いではなく、どのように音が違うのか説明しないといけません。このような製作理論はほかの方法を試すことなく頭で考えただけのもので、科学とは正反対のものです。




われわれ専門家の学ぶ知識でさえこの程度ですから必ず音を自分の耳で確かめることが重要です。
こんにちはガリッポです。

まずはチェロの弦のプチ情報から

ピラストロ社のパーペチュアルという高級チェロ弦があります。ガット弦のような柔らかい音ではなく角の尖ったスチールらしいしっかりした音がします。それでもスピルコア(トマスティク)のようなものに比べると耳障りな嫌な音は軽減されています。バージョンがすごく多くわかりにくいのが問題です。調べてみるとSoloist版のA線にWeich, Mittel, Starkがあります。チャートによるとSoloist版は低音の2弦が力強く高音の2弦が柔らかい設定となっています。均等なのがEditionというバージョンです。さらにSoloistのA線にゲージ違いがあります。これは重さが違うために同じ音程に調弦するための張力が変わるという事です。mittelが標準でweichなら張力が低くなります、パーペチュアルを使ってみたらA線が鋭かったという場合には良いかもしれません、注目しています。それでもだめなら同社のパッシオーネやエヴァピラッチゴールドのA線も考えられます。パッシオーネのA線は価格が安いこともあって学生の間で広まってきていますが、エヴァピラッチゴールドの方が柔らかかったです。私の経験では最新のフレクソコア・デラックスのA線が最も柔らかかったです。



本題に入ります、ヴァイオリン奏者は楽器独自の演奏技能や知識を必要とするだけでなく音楽家として共通する基本の部分があります。作曲や指揮、オペラの演出などの活動もあります、演奏技術ばかりに意識が集中すると幅広い音楽ファンの心をつかめないでしょう。
同じようにヴァイオリン職人も木工家です。

音楽と同じく木工も長い歴史があるとともに時代や地域によって違いがあります。
現在では木工と言えばあらかじめ工場で板や角材に加工された木材を電動工具で加工するのです。クラシックではなくポピュラー音楽です。大工でも工場で加工された木材を組み立てるだけです。

ヴァイオリン職人は木材の塊から板を作る所から始めますが、日本には日本の伝統があります。むしろ木工大国と言えるほど高度に発展したのでした。江戸時代にやって来た西洋の人たちの船が壊れて帰れなくなったときに、日本の船大工は完璧な西洋式の帆船を作ることができました。

ヴァイオリン製作も同じようなもので正解を教えれば完璧に作ってしまうのです、むしろ日本人の方が完璧で持っている工具には西洋の人が憧れるくらいです。日本人の職人が学ぶべきなのは、西洋のヴァイオリン職人がもっとアバウトでいい加減なものだという事です。日本人が想像する名工などという概念と実際は全く違います。とはいえ優秀すぎる職人の場合であって、日本人でも西洋人に負けないほどいい加減でアバウトな職人はいくらでもいますのでほとんどの人はわざわざ学びに行く必要もありません。

これが現在アフリカの人に弦楽器のメンテナンスを教えるとなると全く違います。まず木工や工業の基本が無いために何もないのです。


ともかく西洋には西洋なりの考え方があります。
日本の職人は床や地面にあぐらをかいて座って仕事をすることが多いです。時には足で材料を抑えたりします。ですから、座り方ができてないと未熟だと分かるわけです。
それに対して西洋ではワークベンチという作業台に材料を固定します。頑丈でしっかりしたプロ用のものなら20万円以上します。材料をワークベンチにしっかり固定するので全身の体重をかけて力強く仕事をすることができます。繊細というよりは荒々しい仕事ぶりですね。
日本の琴の演奏などを見ると、楽器でも同じですね、生活様式の問題でもあります。

ワークベンチというのが一般的ですが、これが不便な点が多くあります。一般的な木工に比べるとヴァイオリン職人が作るものは細かく小さなものが多いです。一般的な木工用の工具や設備などは大きすぎて精度が粗すぎるのです。

私は仕事以外に趣味がないものですからDIY木工を趣味にしようかと思っていました。ちょうど違う楽器や違うジャンルの音楽をやるようなものです。しかしヴァイオリン職人とDIYではあまりにも考え方が違い過ぎて諦めていました。

30万円する高価なワークベンチもうちの会社ではもの置き場になっています。このような重量級ワークベンチは日本では普及しておらず輸入すれば送料がとんでもないことになるでしょう。日本のヴァイオリン職人にとっては憧れのワークベンチですが・・・。

強い力で材料を固定できるようになっています。思いっきり締め付けたらヴァイオリンの胴体は粉砕されることでしょう。
この手の万力(まんりき)の問題は巨大なハンドルが邪魔で作業がしにくいこと、板の厚みが一定でないと固定できないことです。


日頃の不満を解消するために、Moxon Vise (モクソンバイス)というものを作ってみたいと思います。聞きなれない言葉でしょう。それもそのはずでアメリカの木工家が2010年に古い資料を基に復元し名付けたもので10年位前に海外の木工マニアの間で話題になりました。

参考リンクhttps://www.toolcraft.co.za/blogs/tools-techniques/moxon-vises-whats-the-fuss-all-about?srsltid=AfmBOorN_hP9YZ5htIsMQtCh2pJAmHJBun1pH83cPlZi8JAep_7tLc10
二つスクリューハンドルがついた万力という事です。

バイスというのは日本語では万力と言います。材料などをネジ式で固定するものでローマ時代からあり日本では明治以降普及したようです。

木工に使う手動の道具は古代ローマ時代にはほとんどあります。
その後西洋ではギルドという組織ができるので作業の仕方や道具は標準化され形やサイズが規格化されて行きます、資格制度も取り仕切ります。
ギルドは現在の労働組合の元です、西洋でストライキなどが多いのはそのためです。賃上げは自分たちで交渉しないと政府の指示ではできるはずがありません。バスや鉄道運賃の値上げがすごいです、日本に帰ると値段がほとんど変わっていないのに驚きます。まるで交通機関の従業員は利用客を減らして仕事を楽にするために自家用車を使わせようと努力しているようです。日本では考えられないことです。楽器職人もアピールばかりがうまくて実際にはたいしたことない人が有名になったりしますのでお気を付けください。

このように工具の世界ではどのメーカーのものでもそっくりというのが普通です。ひとたび優れた道具が作られればそれと同じものが作られるようになります。規格化されれば数多く職人を育成し従事させることにも役立ちます。次第に工具メーカーはコスト削減をもとめられ安価な粗悪品が大量に出回ります。音楽の道具である楽器も同じことです、それなので天才とか巨匠とか個性とかそんなものではないのです。職人ごとに独自のバラバラで規格化されていなければ使いにくくてしょうがないですし、使い方も共有できませんしオーケストラ編成も作曲もできません。巨匠だの名工だの言う商売人の口八丁手八丁で粗悪品をつかまされ使い物にならないことを心配するべきです。

それに対して忘れられていたモクソンバイスはまだ量産されていないので、自分で作らないといけません。木工家は金属の加工はできないので、その後金属の部品が市販されるようになってマニアの木工家の間で流行したというわけです。日本ではほとんど知られていないでしょう。「西洋の木工」というジャンルは日本ではほとんど知られていません。ヴァイオリン職人以外で学んでいる人がいないのではないかと思うほどです。それほど日本の木工に伝統と誇りがあるからです。しかしどちらも国際企業の最新の電動工具によって絶滅危惧種となっていくことでしょう。

そんなモクソンバイスですが長年にわたって使い勝手に改良が加えられていないので原始的で完成度が低いものとなっています。まず突き出たねじのシャフトが邪魔などころか危険ですらあります。頑丈で立派なのは良いですが大きすぎて重すぎます。ヴァイオリンやビオラを作るためなら締め付けるバカみたいな力は要りません。一方で適切なサイズがあります。ある程度汎用性がないと、一つの工程専用では場所を取ってしょうがないです。ヴァイオリンとビオラは共用したいものですが、あまり機能を欲張ると帯に短したすきに長しです。

そこでああしたらどうか、こうしたらどうかと考えるわけですが、先輩や師匠も知らないものですから、実物を見たことも使ったことも無いので実際のところが分かりません。とりあえず作ってみてから考えないといけません。

マニアたちは思い思いに作ってSNSなどで披露しています。
モノづくりでは一番面白い時期ではあります。

とはいえ、SNSで自慢するために作るわけではなくあくまで作業をしやすくするためのことです。ただでさえ足りない楽器を作る時間を無駄にしてでも長期的な投資というわけです。便利グッズがこんなに簡単に作れますよとSNS動画で披露する使い捨ての「ネタ」ではありません。

しばらくはそんなことで頭が一杯になります。
興味は無いかもしれませんが音楽家と木工家がどんなに違うかという事を知ってください。


ポピュラー音楽の世界では西洋音楽の基礎を学ばずに世界の流行音楽を取り入れてやってきました。違いが分かる人と分からない人がいるかもしれません、そんなこととも共通するかもしれません。
こんにちはガリッポです。


またいつものヴィオリン教授が来ました。
この方が来ると私の説明が大混乱になるのは何を弾いても良い音がしてしまうからです。
かねてから、弦楽器の音は「弾く人が9割以上、楽器が1割以下」と言っています、これが大前提です。


これは以前出て来たマルクノイキルヒェンの戦前のヴァイオリンです。
きちっと教科書通り作られていて私は上品な音だと感じていました。

これを教授が弾くと低音はカラッと乾いた音で力強く高音は滑らかで美しいものでした。普通の人にとっては特別鳴るわけでもなく華やかな音がするわけでもない特に目立たない地味な音の楽器だと思いますが、上手く弾けば見事な音が出ます。これで良い音が出なければ腕の問題という事になります。こんなんでヴァイオリンは十分だと考えることができますが、一般の人は多くの楽器の中にあっても気付かないでしょう。安価な無名な作者のものでも十分良いものがあるのに気づかないことでしょう。

つぎはこちら。
マルクノイキルヒェンのオールドヴァイオリンです。これもマルクノイキルヒェンの流派にいくつかあるタイプの一つです。このf字孔もよく見ますし、左右の間隔が離れているのも特徴です。これがアマティのように左右の上の丸が近いとバスバーの位置がうまくいきません。

後の時代に上からニスを塗ってあるようです。ラッカーのようですね。

ヘッド部分は独特です、イタリアのもの以上に個性的ですね。個性に善悪など言えるはずが無いのに安い楽器であると悪い個性と言われてしまいますね。


アーチはオールドらしいものですがそんなに癖が強くもありません。


やはり近代の楽器とは立体造形が全く違います。当時の考え方としてはこんもりと丘のように膨らみを作った後周辺に溝を彫ってエッジの厚みを出したという感じです。近代の場合には面が綺麗に仕上がっているものを高級品とします。

教授が弾くと暗く柔らかい音がしました。ここまで柔らかい音がするのはやはりオールド楽器ならではでしょう。それが良いことなのかどうなのかは別の問題でもはや趣味の問題です。珍しさで言えばこのようなものは希少で柔らかい音を望んでいる人には貴重なものですが、さきほどの近代のものでちゃんと見事な演奏ができるのでした。

ちなみにラッカーの塗られた量産品では耳障りな音の楽器が多くあります。しかしこの楽器では柔らかい音がするのでニスで音が決まるわけではないようです。これも常識を覆す重要なことで実験で証明すればヴァイオリンのノーベル賞級の発見です。

ちなみにその教授の10代の息子が使っているのは、レオポルト・ヴィドハルムです。極端にアーチの高い楽器です。
自分の息子に使わせているという事は本気のチョイスでしょうね。

以前出てきたこれです。

何を弾いても音が良いとおっしゃる教授ですが、修理を終えたブッフシュテッターとガイゼンホフを試してもらいました。

リアクションはおいしい料理を食べたときのようなしぐさをしてすべてを表していました。演奏を聴くとブッフシュテッターの方がダイレクトでガイゼンホフの方が柔らかい感じでした。
道具のとしての機能性なら、マルクノイキルヒェンの教科書通りのもので果たされます。一方オールド楽器はコクのある料理のように味を楽しむものでしょう。性能が優れているかどうかではなく別格の存在でラブリーな愛すべきものだとそんな感じですね。

近代の楽器の代表も見てみましょう。


こちらはヴィヨームです。ヴィヨームの工房では比較的安価なサンタチェチリアというグレードがあります。
この楽器がそうで1849年製です。これで廉価グレードであるというのが驚きのクオリティです。工房製というものですが他の国のマスター作のものでもこれほどのものはめったにありません。

はっきり特徴があります。

やはりオールド楽器とは全く違います。


一枚板の裏板でかなり歪みが出ています。しかしアーチの表面の仕上げ方がオールドとは全く違います。
ヴィヨームなどはオールド楽器の複製の名人として知られていますが、これを見るとオールド楽器とは全く違います。知識は言葉ではなく五感で学ばないといけません。
サンタチェチリアは最大で75,000ドルほどだそうです。クオリティからするともっと高くても良いような気がしますが、正真正銘のヴィヨームやイタリアの作者が高すぎるのです。
ヴィヨーム工房でも弟のニコラスが担当し、下請けの職人たちとともに作っていたのでしょう。無名なフランスの作者たちの腕がいかに良かったかという事です。
もともとアンティーク塗装ではないものの多少色ののグラデーションがつけられていたようです。裏板であれば中央付近が薄くなり溝の付近が濃くなっていたようです。

という事はやはりアンティーク塗装でオールド楽器風に作る方が手間がかかり当時から高価であり、現在でもヴィヨームの楽器としては桁違いに値段が変わってきます。


今回は魂柱の話です。
魂柱の交換が必要になることがあります。
魂柱の木材が劣化して音が死んでしまうという説明もあります。しかし現実には魂柱が全く合っていないというケースが多いです。魂柱は裏板と表板の間に立ててある棒ですが、接着などはされていません。
f字孔から専用の道具で入れますが、面が表板と裏板にピッタリ合うように加工します。あっていない魂柱を使い続けると角で表板や裏板にヘコミを付けてしまいます。凹みがつくとこの後魂柱をピッタリ合わせることが困難になります。

そんな魂柱の楽器を見かけたら交換することをお勧めします。

新品の楽器を買って間もないからまだ交換する必要はないと思うかもしれません。むしろその逆です。
新しい楽器というのは木材が加工されて楽器の形ができた後で、弦の力を受けて楽器が変形していきます。楽器が変形するのは当たり前です。左右対称に完ぺきに作る腕自慢の職人では、変形を嫌ってやたら頑丈に作るかもしれません。そのような楽器はいわゆる見た目はきれいだけども音はいまいちの楽器になってしまいます。

魂柱はその長さによってきつさと関わっています。楽器が変形してくると魂柱が緩くなります。緩いという事は長さが足りなくなっているのです。これはヴァイオリンではほんの0.1~0.5mmくらいの話です。

自分の楽器の魂柱が緩いのかきついのか見分ける方法があります。

きつい魂柱が入っているとf字孔の上端に段差ができます。写真のように0.3mmくらい高くなっています。指で触ってみてもわかります。
これが逆にf字孔の内側の方が低くなっていると魂柱が短すぎます。短すぎると表板が陥没してきます。

長年経過するとそのままの形で固まってしまい魂柱を外してもそのままです。もし出っ張っているようなら緩めの魂柱を入れて、へっこんでいるようならきつめの魂柱を入れます。それでも多少ましになる程度で元には戻りません。

ここまで音の話はしてません。
魂柱は音に大きな影響があるので魂柱と呼ばれています。魂柱と音の規則性は職人でもそれぞれ自論があることでしょう。しかし規則性を研究するのは難しいです。楽器によってもケースバイケースであり、また一つの要素以外全く同じ条件で比較することも難しいです。科学のように研究するなら魂柱だけを専門分野とした研究者が何十年とそれだけを研究する必要があるでしょう。
しかしその仕事だけに給料を払う人がいません、弦楽器工房にそれだけの人を雇う余裕がありません、魂柱以外にも様々な分野の研究者が必要です。また一生魂柱だけを研究するものも私は面白くありません。
規則性以前にほんのわずかに位置を動かしただけで目まぐるしく音が変化すると感じられる人もいます。ある程度以上やると沼にはまってしまいます。

一般論としては駒に近づけると明るくダイレクトな音となり駒から離せばクッション性が生まれ落ち着いた音になると思います。このレベルであれば論理的に納得がいく調整はできます。
このような現実は音楽家の求めるレベルに比べると大雑把すぎますね。どの線のどの音ががどうのこうのと言われてもピンポイントでどうにかすることは無理です。一方規則性ではなく魂柱のわずかなはまり具合でもめまぐるしく音は変わりますので、何回かやっていれば妥協点は見つかることでしょう。

魂柱はつっかえ棒であるため、緩い方が板が自由に振動し音が良いという考えの人がいるでしょう。しかし、短い魂柱に楽器が馴染んでしまいそのうち効果が無くなってしまうかもしれません。さらに短い魂柱にするとまた音はよくなるかもしれませんが、表板がどんどん陥没していきます。
したがって、今後の変形を考えるとほんのわずかにf字孔の内側が高くなっているくらいが理想でしょう。

特に新作楽器ではこの変化が起きやすいです。また、大きな楽器ほど変化も大きくなります。新作ヴァイオリンなら1年くらいで魂柱を交換した方が良いと思います。ビオラなら数か月で魂柱が緩くなってしまいます。チェロなら数週間です。

ここ何年かで私が作った楽器では楽器を作ってから、お客さんに引き渡すまでに一度魂柱を交換していました。つまり新品でも2本目の魂柱がきつく入っている状態で引き渡していました。
コロナの時に作ったヴィオラでは作ってから数か月後に魂柱を交換してそれから日本に送りました。それをこの前の休暇で帰国したときに見るとf字孔の方が下がってたので交換しました。
また2年前に作ったヴァイオリンでも同様で魂柱交換しました。
これで陥没の心配も無いでしょう。
それと同時にどちらも音がはっきりとして交換した効果もあったようです。

つまり魂柱が長期的に緩んでくると音が弱くなってくるということがあります。魂柱を交換することで本来の音を取り戻すわけです。新作楽器であれば、作られた状態に戻るだけでなく使い込みによって作られた当初よりもレベルアップしているわけです。

一方買った楽器が必ずしも好みのものでなかった場合に、魂柱が緩んできたことで音が和らいでくることがあります。それで魂柱を交換すると再びその楽器の嫌な音が復活するかもしれません。魂柱を交換した後でその楽器に見切りをつけた人もいます。

音だけで言うと何が理想かはケースバイケースになることでしょう。もし良い楽器ならきっちりはまっている魂柱で最大の力が発揮されることでしょう。しかし結果としては多少緩んだくらいの方が音が和らいでちょうど良いというケースはよくあります。職人としては完璧に魂柱が合うように苦労するのですが、それをグラつかせたほうが結果として音が良いというわけです。このため下手な職人の魂柱の方が音が良いかもしれません。それでも表板や裏板にヘコミができるのでその場しのぎですね。

裏板が厚すぎるような楽器では魂柱がしっかりあっていない方がクッション性が生まれて表板に伝わる裏板の硬さが緩和されるかもしれません。

職人の腕と音はおよそそんな関係です。
音が良くなったからと言ってその職人を信用するのは恐ろしいです。

魂柱の材質も違いがあります。左のものでは木目の細かいもので、右は荒いものです。極端に木目が粗いのは安価なものに使われています。魂柱は楽器用の木材業者や商社が機械で加工されたものを市販しています。もちろん私が自分で作ることもできます。柔らかい軽い木であれば音もそんな感じでしょう、見た目以上に削ったときの感触で分かります。
太さも微妙に違いがあります。0.1~0.2mmでも見た目にはかなり違って見えます。私は安価な楽器ほど太い魂柱を入れます、転倒などのトラブルを防ぐためです。
これも傾向で年々太い魂柱が好まれるようになってきました。アマティやストラディバリのf字孔の幅では現代の魂柱が入りません。

もし何もしてないのに魂柱が倒れたなら魂柱は確実に短すぎます、立てるだけではなく交換が必要です。よく弦を張り変える時に魂柱が倒れることがあります。これも同様です。普通は弦を全部外しても魂柱は倒れません。しかし駒の位置が分からないなら交換するときはすべての弦を外さないようにするべきです。

専用の道具があります。これを使ってもf字孔に魂柱を入れるのは至難の業です。私も20年くらいやって来てようやくうまくはまることが多くなってきました。数か月やったくらいではゆるゆるの魂柱しかできません。
新しい魂柱を入れるのに普通は30分もあれば十分ですが、時には何時間かけてもうまくいかないことがあります。

このようにとりあえず予測でこんなもんだろうと長さを決めて入れてみます。
この場合には裏板の面とあっていないのが分かると思います。表板の側もありますし、こちらから見えない向こう側は歯医者さんの使うような鏡で見ます。

多くの楽器は雑な職人の仕事や経年変化、調整のし過ぎでこのような不完全な状態になっています。

当たっている所を削ります、これで良くなりました。その分魂柱は短くなります。短くなるとすぐに倒れてしまいますが、右側に行くほど表板と裏板の間隔が狭くなっていきますので、初めはセンター寄りの所に魂柱を入れてみて、少しずつ削りながら合わせていきます。徐々に外側に移動してきます。最終的に駒との位置関係が重要となります。適度なきつさで入れたときに駒の脚よりも外側に出てしまったら魂柱が短すぎます。

こちらはちょっと表板にヘコミがあるようです。このように凹みができるとピッタリ魂柱が合わなくなります。

多くの楽器では最初の写真のように中を覗いてみると魂柱があっていません。魂柱を動かす調整をした後で覗いてみても合わなくなっています。厳密に考えると魂柱を動かした後で弦を降ろしてエンドピンを抜き、穴から中を覗いて魂柱をさらに合わせる必要があります。
でもそのあと再び弦を張ったら先ほどとは違う音になるかもしれません。

音の調整にやたらこだわる職人はなぜかこのことを気にしません。私は神経質すぎるかもしれません。音のためには目をつぶらないといけないのかもしれませんね。
しょっちゅう魂柱調整をしていると表板や裏板にヘコミが無数にでき魂柱は不安定で音もめまぐるしく変化することでしょう。これをちょっとのことで音を激変させられる優れた職人と思い良かれと思ってやってるわけです。