ボタンが壊れたヴァイオリンの修理も完了しました。

塗装もだいたい周囲と合ってることでしょう。

言われなければ修理してあることも気付かないでしょう。この部分は手が当たって汚れがついたりニスがはがれたりを繰り返すので使っていくうちに変化していきます。
削り直したので高いポジションに指が届きやすくなるはずです。

割れていたことが分からないくらいに接着できました。
接着の精度にはすごく差があって過去にまずい接着がなされた楽器を直すは壊れたての楽器を直すよりも大変です。

コントラバスの方はこんな感じです。特にここはひどく隙間から光が差し込んで見えます。普通は割れを接着して木片で補強するのですが、接着しただけではクランプを外すとまた開いてしまうので、接着と同時に木片を貼り付けました。

さらに薄い板を貼り付けました。
どういうわけかこの部分は他よりも1mmほど薄くなっていたので1mmの板を貼り付けました。

修理前はこのように0.5mmの板が貼ってありました。これは補強の意味をなさずひびが開いていました。0.5mmにもなるとペラペラの紙のようなもので
シールのように貼っただけだったと思われます。肝心なひびの付近がしっかり接着されていなかったようです。
ここに至っては木目の向きが割れと同じで

補強した板ごと割れています。
小さな帯状のもので1mmあればしっかり接着することができます。
小さなものをたくさん貼り付けるほうが接着が確実ですね。
ただこんなケースは初めてでこんな修理法は見たこともありません。
全部やり直すのが理想ですがそんなことをしたら修理が終わらないので傷が開いている所だけ直します。コスト面でもやりすぎですが、それでも私が仕事している間は二度と修理の必要が無いようにするのが目標です。
今回割れた横板の修理の方が簡単だったかもしれません。修理の費用は予測不能です。

ボタンが壊れた方のヴァイオリンですが、パリの作者のラベルが貼ってありますが、マルクノイキルヒェンの量産品だと思われます。
形はストラディバリモデルが崩れたものでしょう。ガエタノ・ガッダのような「個性」がありますね。音響的にも有利なものです。

木材はかなり上等なものです。普通の量産品よりも特殊なものだったのでしょう。他の工業製品ならカスタムメイドです。

スクロールの質は悪くはないですけどもフランスのレベルではありません。木材は年輪の幅(縦線)が広いのは木材として低級です。アンティーク塗装もわざとらしいですね。


フランスの楽器と間違うレベルではありません。

アーチは極端に高いものでした。それも変わっていて全体的に高いのではなく真ん中だけが高いのです。これはデルジェスに見られる特徴でもあります。
崩れたストラドモデルはミドルバウツの幅広くくびれが小さいもので立体構造としては面白いものです。
板も量産品にありがちな分厚いものではなく十分な薄さまで加工されていて持った感じも軽いです。
弦はそれまで貼られていたエヴァピラッチゴールド(シルバーG)のセットです。
調弦するためにはじいただけでも鳴りの良さは感じます。
弓で弾いてもやはり鳴りが良く豊かに響きます。それでいてひどく耳障りな音ではありません。音色の感じも渋く落ち着きがありますが、「ビオラのような」極端に低音が強いものではありません。
20年以上前にうちでバスバーを交換をしており、今回の修理でさらにネックの取り付けが完璧になりました。
この楽器の値段は空前の円安でも50~80万円位でしょうからコストパフォーマンスは凄いですね。我々職人、さらに東京で何百万円もする現代の巨匠でもこんなのと比べられたらたまりません。それらを売る人は難癖をつけて比較させないように仕向けることでしょう。そういう楽器の悪口を聞くと楽器を愛する心が痛みます。
直前にレンタル用の中国製のヴァイオリンの調整をしました。レンタルに出していると勝手に1/2・3/4用の弦を張られていました。そこで使用済みのエヴァピラッチゴールドがあったので張ってみました。
ギャーととんでもない音でG線がひっくり返りやすいものでした。
魂柱を調整するものの、どうにもなりませんが、多少はましになったでしょうか?バスバー交換すれば何とかなるかもしれませんがそういうわけにもいきません。
その楽器をずっと使っていれば弾き方のコツは身につくことでしょうが、強すぎる音を抑えて弾く練習になってしまいます。
ピラストロ最高級ナイロン弦のエヴァピラッチゴールドとの相性は最悪ですね。
小さいサイズの弦を張るとどうなるんでしょうね?長さは届いていました。裏ワザになるかもしれません。
そんなものに比べると今回の古い東ドイツの量産品はずっと心地の良い音がします。ザクセンのものは安物で嫌な音がするというイメージがありましたがすべてがそうというわけではありません。
ただし大半はガラクタで修理する値打ちもありません。
量産品でもいろいろあるという事で、今も昔もひどい安物がほとんどです。こういう量産品は量産品なのにレアなのです。
そのレンタルのヴァイオリンは一緒に貸している量産弓で弾いてみると意外にもマイルドな音になりました。腰が無い安い弓の方が相性が良いようです。そんなこともあるんだなという感じです。
続いてはこちらのヴァイオリン、いつも見ていただいている読者の方なら何かわかるかもしれません。

本当に古い楽器はアンティーク塗装とは全然違います。独特の雰囲気があります。

名器っぽさがすごいですね。

細長い独特のモデルは・・・

スクロールも個性があります。


最大の特徴が見えています。
そうです、ガブリエル・ダビッド・ブッフシュテッターです。
ストラディバリウスのもっとも初期のコピーとして知られています。たまたま実物があったのがロングパターンと言われる時期のもので、それでも全く一緒ではなく独自の癖があります。単に形が崩れたのではなく独特の丸みやカーブになっています。仕事自体は丁寧なもので同時代のドイツのオールド楽器の中でも上等なものです。クロッツやティア―のようにドイツやオーストリアのオールドでもシュタイナーに近い上等なものと安上がりに作られたものがあります。
ブッフシュテッターの独立した弟子のトゥーンハートが家族単位で安上がりの楽器を量産しておりクオリティのはるかに落ちるものがあります。それにもブッフシュテッターのラベルが貼られていることがあり、ブッフシュテッターとしてはニセモノで、ブッフシュテッター派と考えられます。
仕事は雑でモデルは似ていますがアーチがぷっくり膨らんでいます。
それはまだ歴史的に価値のあるものですが、全く関係ない楽器にブッフシュテッターのラベルが貼られていることがあります。
伝統的に貴族社会ではクオリティが名器と安物との差となっていました。
現代では音さえよければ何でも良いという風潮になってきています。一方投資では値段がすべてで物の質はまったく分かっていないようです。

ドイツのオールド楽器にしてはアーチが平らです。しかしクロッツ家でも1700年代後半にはそんな極端に高くはありません。

それでも近代のようなまっ平らという感じではありません。近代のように鏡面の様な感じではなく、周囲に溝があって膨らみがあるという感じです。

高低差は感じます。
未だにオールド楽器の特徴が残っており、モダン楽器にはまだなっていません。それは今となっては良いことだと思います。
職人の間で信じられている理屈上は近代の楽器の方が優れていることになっていますがこのようなものはとてもレアです。
このブッフシュテッターは私がまだ駆け出しのころに直したもので1766年製です。未熟ながらも丁寧に仕事をしていたので今でも状態は良いですね。表板の割れを接着しバスバーと上部ブロックを交換してあります。
久々に工房に戻ってきました。

指板はこんな状態になっていました。当時新しいものに交換したものが20年くらいの間でこんな様子です。指の位置がわかります。

こんなに削れるものなんですね。
魂柱も合っていなかったので交換しました。指板を削り直し、駒を新しくしてちょっとした横板の剥がれを接着し、ニスの補修をすると写真のようにピカピカになりました。磨く技術も上がっています。
弦はオブリガート(ゴールドE)のセットの新品に交換しました。
これもはじいてみるだけでも鳴りの良さを感じました。弾いてみると今までのブッフシュテッターの中でも特に良い感じです。オールド楽器らしい当たりの柔らかさと音色の深みがあります。私はオールド楽器に共通する音があると思います。その上でさらに個性や個体差があると思います。
この楽器は癖や欠点が感じられず素直だと思います。オールド楽器には個体差も大きいものです。
再びさっきの量産品を弾いてみると、硬く尖った感じがします。現代の楽器の中ではそれほど強い方ではなくてもやはりオールドに比べると硬いです。
現代の楽器を弾比べて、どれが良いかというわけですが、硬く尖ったものが他よりも抜きんでるように感じるかもしれません。そのような評価とは全く逆の音がオールド楽器からはするのですから、現代の作者の評価なんてなんなんでしょう。
逆に言うと新しい楽器でオールド楽器のような音は出せず、現代の楽器らしい長所を伸ばすと硬く尖った音という事になるのかもしれません。こうなると新しい楽器ほど優れていることになりますから、売る方としては入手しやすいし買い替え需要も起きますから良いですね。
現代の楽器とオールド楽器を比較する機会は少なく良さが分かっている人は少ないのではないかと思います。
このブッフシュテッターもこれだけ指板が減るほど使われていることが重要で、店に在庫としてあるものとは音が違います。
売っている段階では本当の楽器の実力は分からないので、わかって楽器を選べる機会は普通は無くて、たまたま手にした楽器の弾き方を身に着けて一生が決まるという感じですかね。
ブッフシュテッターの相場は3万5000ユーロとなっています。600万円位ですが、20世紀初めのイタリアの楽器ならもっと高いです。彼は生業として英米の業者に買い叩かれて安上がりな楽器をせっせと作っていただけで申し訳ありませんが、これより高いペッラカーニなんて量産楽器と音が変わりません。それに対してブッフシュテッターはあらゆる現代の楽器とは音が違います、それくらい希少なものです。

これは私が修理した何年か前にできたヴァイオリンです、地元で才能のある子供が弾いていました。数年ですっかり背が高くなりビックリします、日本人ではそこまで背が伸びません。

初めて手にする4/4のヴァイオリンがこれというのが渋いですが、マルクノイキルヒェンのオールド楽器です。とても個性のある姿をしていますが、仕事の質は丁寧で上級品であることがわかります。作者は分かりませんが、本で出ているハムという作者のものとそっくりです。

アーチは高くぷっくらしています。

才能のある子が弾きこんでいるだけに鳴りの良さは感じます。音ははっきりしますがやはりブッフシュテッターに比べるとこじんまりした感じがありいわゆる室内楽的といわれるものですが、イタリアのオールドでも同様のものはたくさんあります。
やはり共通するオールドの音を感じます、その上で個性があるように思います。
メンテナンスのあと受け取りに来た本人が弾くと、か細く音が小さいという事はなく現代の楽器に負けない音量があり滑らかで美しいものでした。1万ユーロもしない楽器でオールドの片鱗を感じされるものでした。それは言葉にしがたいものですが、離れて聞いた時には単に音色がどうというのではなく音が楽器に縛りつけられない感じがします。私だけが「幽体離脱」と呼んでいる現象です。
我々職人もこんなオールドの世界を教わることはないし、偉い製作家ほど井の中の蛙で古い楽器を知らないのではないかと思うほどです。裸の王様とも言います。
アーチは低いほど音量があるという法則性を教わります。今回の量産品ではアーチが高くてもよく鳴りました、全く見当違いで音量があります。それくらい職人の頭で考えていることと実際はかけ離れています。
イタリアのオールド楽器もドイツのオールド楽器も一本一本それぞれ個性があって私にはイタリアの音とかドイツの音というのはわかりません。オールド共通の音があって系統は重なっていると思います。しかし値段は桁違いです。
同じブッフシュテッターでも音はみな違います。弾かないで作者名でも音を予測することはできません。
派手な音の競い合いから降りて、このようなオールドの音を知っているだけでも楽器作りは面白いと思います。私の作る楽器も古くなるわけですから、それらとは目指すものを180度変えて素性の良いものを作っておけばオールド楽器に日ごとに近づいていくことでしょう。木工の高級品とは頑丈で分厚いものですから、弦楽器でも高級品を作ろうとすればそうなります。目指すべきものは全く逆なのです。
ストラディバリとドイツのオールド楽器を比べるとバランスが良く均整の取れたストラディバリと丁寧だけど不格好なドイツの楽器という事になります。しかしストラディバリ以外のイタリアの楽器も同様に不格好かもしれません。イタリアでも本当に美しい作者は数えるほどです。
現代のユーザーはそんなことはどうでも良くて音だけがすべてなようですし、音も強さばかりで今では若い先生も古い楽器の音を知らないというわけです。
投資家は値段にしか興味がなく、高価な楽器を買って演奏者に貸し出してもさほど音が良くないというのが現実です。
こういう全体像を知ることが具体的な名工とされている人の名前を知っているより重要なことだと思います。
ニセモノでなくても雑に作られた楽器が名工の作として売られていたり、よくあるような普通の音の楽器が高価な値段で売られています。それ以上にニセモノが多いわけですが、ホンモノだからと言って高いクオリティであるとか音が良いというわけではありません。ニセモノの方が美しかったり音が良かったりすることもあるわけです。
これは私の3者の専門家がいるという話です。
①演奏家
②商人
③職人
それぞれのプロが良し悪しを測る基準がバラバラなのでこのようなことが起きます。
①演奏家は音
②商人は知名度と値段
③職人は仕事のクオリティ
職人から見て雑に作られた駄作なのに値段が高いとか下手な職人なのに名工と言われていたり、音が悪いのに値段が高いとか、高品質で美しい楽器なのに音が悪いとか量産楽器の方が音が良かったりとか十分あり得ます。
音感に優れた人には音痴に聞こえる歌手が人気で大スターと崇められているのと同じことです。
総合的に物事は判断するのが良いと思います。




















































































































































