こんにちはガリッポです。
体力の限界を超えて風邪気味です。
私がするメインの仕事は楽器の製作、修理と価格の査定です。
製作したり修理したりする場合は木材を加工、接着、塗装を施すのが実際の作業です。
専門技能は木材加工と塗装です。
ただ単に加工するのではなくて、正しく加工しなければいけませんので、仕上がりがそれで良いのか何度もチェックする必要があります。接着が完全であり、ニスもきれいに塗らないといけません。このため
目が養われて行って楽器のクオリティが分かるようになります 。失敗をしたことで学ぶと言っても良いでしょう。一通りすべての失敗をすることで「適切」を知ることができるのです。始めは何が良くて何が悪いなどは全く分からず師匠に指摘されてはじめて気付くので独学では不可能です。またどの職人の世界でもヨーロッパでは同じような「クオリティ」の概念があり欠点ばかりを気にして重箱の隅をつつく日本とは多少違います。
価格を査定するのは、修理をする場合に楽器の価値に応じた修理が必要だからです。簡単に言えば高額な修理をする価値があるかどうかを判断することです。また中古楽器の買取や保険の査定、新品の楽器の仕入れもあります。
値段を決める場合には二つの基準があります。
①品質
②知名度
日本人が大事にしているのは⓶の知名度なのに対して、私の所では①の品質が重んじられます。職人が楽器を見た場合に重視するのは①なのに対して、商人が重視するのは②です。
つまり、
私の所では商人よりも職人の権限が強く、日本ではその逆 ということです。
どちらが正しいかということはありません、お好きな価値観を選んでください。
ただし選ぼうにも日本では職人側からの情報は不足していることでしょう、あまり職人はべらべらしゃべらないものです。営業マンは喋るのが専門技能です。
他に職人発信の情報がたくさんあれば私は趣味に徹したいと思いますが・・・。
職人の側の意見がすべて正しいというのではなくて反省も必要でそのことも取り上げています。
職人側からの情報を伝えるのが当ブログの特色 です。
職人の意見と商人の意見、私の所の考え方と日本の考え方では全く異なることでしょう。私のブログを参考にしたければ参考にすればいいし、考えが納得できないなら読まなくて結構です。
読者の方にお会いして、高価な楽器を持っている人にもお会いしましたがニセモノを買ってしまった人が少なくありませんでした。何を信じるかは自由です。
コメントについてはさんざん労力の限界を言ってきましたが、「コメントを受け付けない」という設定にさせていただきました。
大変申し訳ありませんが、
静かに職人の人生に精進するため です。預かっている楽器、頼まれた注文に体力を使いたいです。
楽器の査定について話を戻すと作られた99%の弦楽器は特に知名度もない無名なものです。鑑定が定かではないもの、鑑定士でも分からないものが無数にあります。それくらい歴代のメーカーの数が多いのです。
この99%はすべて取るに足らないゴミというわけではなく、品質には差があります。
安く楽器を作るために酷い手抜きで作られたものもあれば、しっかり作られたものもあります。
かりに「完璧」に作られたものを100点として採点するとしましょう。
80点もあれば一人前の職人がまじめに作ったものです。
90点なら一流の腕前の職人で職人を志した人のうち5%にも満たないでしょう、それでも無名な人がほとんどです。100点は私の空想の産物で実在しないでしょう。95点は19世紀のフランスの作者くらいです。これも知名度とは直結せずフランスの中ではマイナーな人かもしれません。
60点くらいなら量産品の上級品やハンドメイドの未熟な職人のものです。
この前のべニア板のチェロなどは10点が限界でしょう、10点でも音が悪くないという話でした。スペックでは上の「無垢材」で20点のものよりは音はましです。
商人は「量産品」と「ハンドメイド」の違いについて重要視するかもしれませんが、我々からすれば量産品であろうとハンドメイドであろうと60点の楽器は60点です。そこを区別する必要はありません。商人ならハンドメイドというだけで高い値段を付けるかもしれませんが
職人が値段をつけるとハンドメイドの楽器は量産品より品質が高い場合に限って量産品よりも高価になる というわけです。もし量産品で80点くらいの出来のものがあれば値段もハンドメイドの楽器以上でもおかしくありませんがまず無いです。量産品とは安く作ることで買いやすくするというビジネスモデルだからです。量産メーカーの最上級品はカタログ上は存在しますが買う人がほとんどいません。
99%の楽器はこのようにクオリティで価値を判断すれば良いです。ほとんど世に存在する楽器は品質で値段を査定すればそれで良いです。
この99%の楽器を知ることが弦楽器を知ることと言ってもいいほど です、しかし手抜きで作られたひどい粗悪品について解説している本などはありません。知るべき99%について情報が無いのです。本などに掲載されるのは高価な名器、つまり残りの1%だけで
それを知っただけではなにが普通かさえわからない のです。普通を知らなければ普通の楽器を作った人を天才と勘違いしてしまいます。
ブログでは読者の気を引かないようなつまらない日常的な出来事を紹介しますので、弦楽器の本質について感覚を養ってほしいと思います。つまらない努力に付いて来れる人だけを対象にします。
品質というのはあくまで木材を加工し接着して塗装を施すクオリティ、近代以降であればストラドモデルのモダン楽器としてのお手本があり、専門教育を受けているかどうかも基準となります。量産工場に勤めて一つの作業分野だけを担当している人は、全体としての専門知識がありません。
ニスも結構重要で木工が90点でもニスが60点だと60点の楽器に見えてしまうほどです。
職人の仕事は、それぞれの工程で失敗しやすいことは決まりきっています。始めて作業を行った時に誰でも同じような失敗をします。例えば蕎麦の麺を打つ時、専用の包丁で切っていきますが、初心者がやると太さがまちまちできしめんのように太くなってしまうものです。それで良しとしてそのまま売っているのが品質の悪い楽器であり、ちゃんとできているのが高い品質の楽器です。
失敗しやすいことは決まっていて素人が作ったものはどれも雰囲気が似てくるので個性とは言えません。訓練によってそれを乗り越えるか、そのまま自分を天才と思って売ってしまうかです。
住宅で言えば施工不良の欠陥住宅、電気製品のはんだ付けならはんだ不良のようなことを言っています。
おしゃれな外観や住みやすさや使い勝手に消費者は興味がありますが、私が言ってるのはそのレベルではありません。私が欠陥や製造不良が無いと選んだものの中ら使い勝手は試奏して自分で確かめれば良いとそれくらいのレベルの話です。
普通はクオリティが低い変な形状のネックは持ちにくいでしょうし、ガクガクしてペグはうまく機能しません。ビリついて異音が発生したりします。弓がほかの弦を触ってしまいまったり、弦を抑えにくかったりします。そのほか様々な不具合が発生するリスクがあります。
しかし高い品質の楽器でもなぜかわからないけどこの楽器は弾きにくいとか弾きやすいとかもありますし、音も品質に比例しません。使い手との相性ですので購入した後でカスタマイズが可能です。
高価な服を買ったのにミシンの縫い目がまっすぐでなく千鳥足のようにふらふらしていたらどうでしょうか?洗濯したらクシャクシャです。水道管のつなぎ目に隙間があると水が漏れてしまいます。
どこの蕎麦屋が旨いとかそういうレベルじゃなくて、私がしているのはプロとして提示されている値段のお金を取れるかどうかのレベルです。味は好みの問題ですから、太さがまちまちでもおいしいと感じるかもしれません。音も同じです。
失敗をしてはいけないとなると慎重になり作業は時間がかかります。どうでもいいなら安く作れます。このためコストが高くなるので値段も高くなります。
つまり専門教育を受けた人が失敗しないようにまじめに作ってあれば立派な楽器であり、値段は90点以上なら1万ユーロ(174万円)くらいするということです。しかしこれに音は考慮されていません。
形やニスの色などは職人ごとに考えがあるので、客観的に価値を評価することはできません。音も同様です。
これが商人の発想ならこういう色のニスがよく売れるとか、お金になるかどうかという基準で評価します。職人の発想ではすごく変わった色の楽器があっても、評価額はクオリティで決めます、その変わった色の楽器を欲しいという人が現れるかどうかは分かりません。1万ユーロの価値があると言いますが、買う人がいないとお金に変えることはできません。一方商人はこういう色のニスが最近流行っているとかそのような評価になります。一人の人の中でも根っからの職人タイプと商人の要素が強い人がいます。また保険会社に申請する書類を作る場合には品質で価値を査定すれば良いですが、自分が買い取って売る場合には、うちにくるお客さんが欲しがるかどうかを考える必要があります。
こういうわけなので1万ユーロの予算があるなら、品質に応じて値段を付けているのでその中で試奏して好きなものを選んでくださいというわけです。
99%の人にとってはこれで終わりです。私の仕事の99%もこれです。
ところが高価な楽器の場合には②の知名度によって値段がそれ以上になります。
メジャーな流派であれば60点の出来でも1000万円するかもしれません
。職人の目から見ると1000万円の相場の楽器でも60点の楽器は60点 です、楽器の出来栄えは量産品と変わりません。音が量産品に似ていても不思議ではありません。
作者名を伏せて見せられたら60点の楽器として80万円くらいと言うでしょう。しかし鑑定書があって作者名が分かると、データベースで相場を調べて1000万円になります。ですから楽器そのものは80万円、鑑定書が920万円で合わせて1000万円です。鑑定はそれくらい重要なものです。
店主やユーザーが自分でどう思うかなんてのは意味がありません 。
つまり
品質の高さに比例して値段がついているわけではない ということです。
目利きなんてのは忘れれてください 。「自分はセンスがあるから本物を見分けられる」なんてうぬぼれは絶対に捨ててください。もし楽器のクオリティが値段を表しているなら私でもだいぶわかります、しかしそうではありません。60点の楽器でも知名度が高ければ1000万円になることはあります。私にはその判断はできません。その作者に詳しい人でないと分かりません。
その鑑定書も捏造や偽造、鑑定士として通用するものかどうか疑念がありますから。
だまそうと思うなら膨大な労力と一流の腕前で本物そっくりのニセモノを作る必要はなく、安く手に入る中古品に似た楽器の鑑定書を偽造すればはるかに少ない労力で済みます、本物の鑑定書を知ってる消費者はいないからです。
ちなみに日本では鑑定できる所が無いです。
ただし、日本人の作者本人に鑑定してもらうことはできるし、作者の弟子の意見なら信ぴょう性が高いでしょう。
この1000万円の例では、ニセモノは多くの場合500万円など相場よりも割安な値段で売られます。しかし80万円の楽器に500万円を払うのは高すぎます。正規ルートで買った楽器を500万円で売ったら儲かりません。品質だけで判断すると80万円、鑑定が確かなら1000万円でどちらかしかないのです。
本物だった場合でも、そのような60点の楽器を修理に職人のところに持って行くと「こんなのを1000万円で買うなんてバカじゃないの?」と思われるのです。相手を傷つけたりケンカになったりするので口にはしなくても、まともな教育訓練を受けた職人なら誰でもそう思います。
楽器店の営業マンは名工だの天才だの言いますし、職人から見ると粗い仕事なのに繊細な仕事だとかデタラメを言います。自分では見る訓練ができていないので、そんなのは常識として知れ渡っているという言い方をするでしょう。名工とかそういう言い方をする時点でデタラメを言っていると考えて良いでしょう。
そのような職人からの情報を一般の消費者は現実世界で聞くことができません。
職人とケンカして分かりあって初めて聞ける話 です。
それをうちのブログでは語っていますから、怒る人もいるでしょう。しかし、相手がどんな理解を持っていて質問しているかは分からず、それを推測して分かるように返答するのも不可能ですのでコメントに返事はしません。
そもそも「なぜおまえはそんな上から目線で楽器を評価できるのか」と思う人もいるかもしれません。偉い人が言うことが正しくて、偉くない人の言うことは間違っているというのは極めて日本的な考え方です。そんな話が聞きたいなら私では期待に沿えません、見るのはやめてください。
私は楽器の品質を評価することはしても、天才だの傑作だのそんなことは言いません。クオリティがどれくらいか言うだけで、素晴らしいかどうかは好みの問題です、音もそうです。
モダン楽器とオールド楽器では考え方がガラッと変わります。
このため職人が正しい教育を受けて訓練し品質を見分ける目を見につけても通用しないのです。ここでは職人はある種の謙虚さが必要です。現代の考え方を絶対的に信じてオールドよりも現代の楽器の方が優れていると考える人もいます。
私はそうではなく、我々には理解できない良さを知るべく取り組んでいます。古い楽器と同じものを作ろうという行為はそれ以上無い訓練です。作ってみて比べて答え合わせをするのです、それが見るということで、ただ手に取って見ただけでは見た内には入りません、視界に入っているだけです。
それでもオールドの時代にも品質の差はあり当時として、価格に差があったようです。アマティ、ストラディバリ、シュタイナーを100点として採点することになるでしょう。オールドの80点はモダンの基準の60点くらいかもしれません。しかし点数には表れない時代による作風の違いがあるのですが、それが分かるのはクオリティの差よりも難しいです。
仕事のクオリティが近ければ雰囲気は似て来るのでクオリティが低く手作り感がある近代の楽器、つまり近代の低級品に偽造ラベルが貼られて流通します。
この業界ではラベルは信用できません。同じ古いクレモナの楽器でさえ格上の作者のラベルのに張り替えるのが商慣習でした。
多くの場合には本物の作者よりも偽造ラベルが貼られたニセモノの方がクオリティが低いです。
このため
クオリティが分かると、ニセモノを見分けるのに役立つ ことが多いです。
ただし中には本物の方がニセモノよりもクオリティが低いものがあります。
そのような腕の悪い、または安い楽器を作っていた作者もニセモノが多く出回っています。
腕の悪い作者の場合でもそれよりも低いクオリティの楽器に偽造ラベルが貼られることが多いです。ですからクオリティが分かることはすべての基礎で分かるためには訓練が必要です。
これが職人としてのベーシックな部分です。
音楽の専門教育を受けた人なら音程やリズムなどを一般の人よりもつかめることでしょう、人気のある歌手でも音痴であればすぐにわかるでしょう。しかし紅白歌合戦の観客に説教することはできません。また正確な演奏が必ずしも感銘を与えるものではないということも知っているでしょう。
それと同じで人気があって高価なが楽器でも、基礎が分かっているとそれほどでもないということがわかります。そのため
職業訓練を受けていれば、特別偉い人ではない私でもクオリティを言うことができます 。
クオリティがどれくらいか言うだけで、傑作だとか天才だとかそんな評価はしません 。姿かたちは好みの問題です。音も同じです。
職業訓練を受けることが実際にはかなり難しいです。
弦楽器の製作方法を学ぶにも何年もかかります。教えてくれる人がそんなにいるわけではありませんし、学校などで学んだとしても就職するのは簡単じゃないです。日本でもヨーロッパでも就職は引く手あまたではなく難しいです。
就職したとしても、社長や親方がどんな人かによっても学ぶことが違います。お金儲けだけを考える人なら仕事は「お客さんにバレなきゃいい」とできるだけ手抜きをすることでしょう。そうしなければ怒られてしまいます。
学校を卒業せずにずっと留年することもできるかもしれませんが、生活費を稼ぐことができませんし、学校ではプロの実務を経験することができません。
一方楽器店に就職すると自分で楽器を作ることはありません。生きていくために就職するとその時点で楽器作りは終わりになります、そういう人が多いです。
ヴァイオリン職人と言ってもほとんどは「ヴァイオリン作りを習ったことがある職人」です。
このため研鑚を続け90点の楽器を作れる職人はその時点で凄いんですが、消費者はそんな苦労は知りませんから有名じゃないと馬鹿にして見向きもしません。中古品になるとワゴンセールのように売られます。
なので当ブログでは愛を持ってマイナーな作者の楽器の価値を伝えています。
それでも音は好みの問題ですから、やはり音が気に入らなければ買う必要はありません。職人はそれを真摯に受け止めるべきだと思います。
50点や60点の出来でも音が良い楽器はあります。
実用的に楽器を選ぶならそんなものも候補になります。
しかし音が良く何千万円もしたからと言ってもクオリティは50点や60点であることには変わりません。50点や60点でも音が良いものがあり得るというだけで職人は下手か当時は安上がりに作られたものであるというのが事実です。巨匠だの天才だの言うとそれは違うと思いますが、音が気に入っていて愛用品というのなら文句はありません。凡人にも音が良い楽器ができることがあるということです。
その場合腕の良い職人が修理したことで楽器として使用が可能になっているかもしれません。
音は良いけどネックの長さがおかしく音程がとりづらい場合には継ネックして修理しないといけません。たとえ何千万円もする楽器でも修理した無名な職人の方が腕が良いなんてことはざらにあります。オールド楽器なら分解して組み立て直されていますから無名な職人の技量はとても大事です。
そのようにちゃんと訓練を受けて専門知識と技能を身につけた職人になら楽器を任せても良いでしょう。そういう職人が身近にいることはとても大事なことです。
と言ってきましたが、それでもクオリティを見分けるのも簡単ではありません。よく分からない楽器がよくあります。30点なのか40点なのかなんてその時の気分ですよ。視覚は相対的なものなので、それ以前に見ていたものに引きずられてしまいます。90点の楽器を見ていれば60点でもガラクタに見えるし、世の中には20点くらいの楽器ばかりが溢れているので、40点でも「立派な楽器」に見えてしまいます。近頃は機械で作っているので中国製で10万円位のものでも意外とそんなに悪くなかったりします。
外見はきれいだけど中はひどいとか板が厚すぎるという「ひっかけ」があります。
職人同士でも意見が分かれることがあります。
もっと極端な例はビオラを扱っていると、ヴァイオリンを見たときに3/4なのか4/4なのか測らないと分からなくなります。
世の中から求められているので勤め先の会社としては価値の査定をやっていますが、100%の自信がないので私個人としてはやりたくはないです。自分の仕事を精いっぱいするだけです。
社会的な要請から価値を評価するということは、好き嫌いの要素を入れてはいけません。自分の趣味趣向とは切り離して考える必要があります。
保険でもはるか高額な評価額を設定して、故意に補償を受け取ることは詐欺になります。ラジオでも報じられましたが、うちの方でもJ.B.ヴィヨームのヴァイオリンなどを含む盗難事件がありました。楽器専門の保険会社ではなかったため適切な書類が無く補償を受け取るのは難しいと思われます。
日本でも、このような考え方が統一されていなければいざトラブルが起きてから保険会社と争うことになります。
ペグです。
継ネックをしたチェロですが、ペグの穴は埋めて開け直すため細いペグを使うことができます。もともとついていたペグは上等なものであり、新しいものに交換するよりもこれを再利用した方が良いでしょう。
ペグは専門のメーカーが作りますが、これが上等なペグがどうかを見分けるのもクオリティです。昔はうちの修理では量産楽器にこんな上等なペグを付けていたのですから今では考えられません。
ペグの軸は鉛筆削りのような専用の工具を使って削ります。簡単そうに見えるかもしれませんが3つ重要な要素があります。断面が綺麗な円になっている事、テーパーが正しい角度になっていること、正しい太さになっている事です。実はこれはとても失敗しやすいもので難しいです。黒檀は硬く脆い木材で加工が難しく、繊維の向きがあるため、回転する場所によって削れやすさに違いがあります。削れ方にむらがあると真円ではなくなってしまいます。新品の楽器や穴埋めしたものは細いペグを取り付けます。太すぎるとすぐに穴を埋め直さなければいけなくなりますし、細すぎれば強度も落ちますし、工具にあわず上手く加工できません。長年使われている楽器でペグを交換する場合は、穴の大きさに合うように太さを加工します。
ペグを取り付ける時には摩擦が大きいので石鹸を付けて試してみます。ペグが正しく加工されていると、ペグボックスと接している所の石鹸が擦られて光沢が出ます。真円でないと光沢の部分が途切れます。またテーパーがあっていないとどちらか片方の壁しか当たっていません。この写真のようにできれば一安心です。
弦の交換などで外す時があれば自分の楽器のペグを見てみてください。安価な楽器では表面が割れていたり、穴をあけてあるところが欠けていたりします。これも失敗しやすい所です。
逆に言えば量産楽器で工場で取り付けられたものはほぼ100%そのような失敗をしています。これは個性ではありません。
これがまずいと滑らかにペグが動かず、またブレーキが効きにくく弦が緩んでしまいます。うちの店では量産楽器はペグが取り付けられていない状態で仕入れ、うちで取り付けます。これが総合楽器店で職人がいない店ではできません。
理想的なのはギュウギュウと押し込まなくても弦が止まっている状態です。正しく加工されていれば動かしやすくてブレーキも効くのです。
これも摩耗したり、軸が変形して来たりするので時々削り直すメンテナンスが必要になります。削って軸が細くなると中に入っていくのでペグは短くなります。このため削る量は最小限にとどめないといけません。うっかり削りすぎるとペグの終わりまで入ってしまうので交換が必要になります。失敗しやすいことは決まっています。
私は天才だの傑作だのそんなことに興味を持つのではなく、粗悪品なのかまともな品物なのかそのレベルで楽器を見ることを言っています。ヴァイオリンは作るのが大変な作業なのでまじめに作ってあることが少ないです。この時
音は関係ありません 。料理で調味料の配合を変えて味を変えるように音を自由自在に作ることはできず、ヴァイオリン製作学校で習うことではありません。ヴァイオリン製作学校では与えられた寸法に正確に加工することを教わります。現代ではヴァイオリン製作の方法がセオリー化されていてそれも学びます。
セオリー通りに加工できなければ粗悪品でセオリー通り正確に作られていれば腕が良い職人ということになりますが、オールド楽器を見るとこのセオリーからは逸脱したものにも音が良いものがあります。
このため私はセオリーが絶対ではないと疑うようになっています。
一般の人がヴァイオリンについて勉強するとこのようなセオリー(理論)を知ることがあるかもしれませんが音については怪しいので理屈ではなく楽器は実際に試奏してみてください。中途半端なことは知らない方が良いというわけです。
楽器の品質というのは職人の腕の良さや楽器のグレードを表しています。
しかし必ずしもグレードの高い楽器が好きな楽器とは限りません。
それでも品質とかけ離れた値段の楽器を見た時に職人は騙されません。
いくら高価でもただの普通の楽器でしかないのです。
日本人が江戸~明治時代にオランダ人などの持っていたヴァイオリンを見よう見まねで作ったのなら、才能が大きな役割を果たすでしょう。しかし西洋では歴史のある普通の工業製品です。仙人のような人の作るものではありません。工業製品だからこそ魅力があると思います。