イースターの連休は木工作業 | ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

ヴァイオリン技術者の弦楽器研究ノート

クラシックの本場ヨーロッパで職人として働いている技術者の視点で弦楽器をこっそり解明していきます。
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こんにちはガリッポです。


私の所ではガソリンの値段がさらに上がっています。今では1Lが400円を軽く超えています(ハイオクに相当)。レギュラーに相当するものでも400円ほどです。ユーロ高で輸入価格は円安の日本より安いはずですが・・・。政府は何の対策もしないのです、いかに日本は国民や消費者の顔色を窺っているかという事です。ますますモノの値段がわけがわからなくなってきました。


さてプロのヴァイオリン奏者になるためにはどれくらいの値段の楽器を買うべきでしょうか?

先日プロのオーケストラ奏者の楽器のメンテナンスをしました。見た感じで100年くらい前のものでラベルにはアントニウス・ストラディバリウスと書かれていました。おそらくマルクノイキルヒェンの上級品でしょう。値段はブログを始めた当初なら日本よりずっと高い消費税を入れても60万円といったところでした。現在の為替とインフレの状況を考えると最大100万円程度と考えられます。誰が作ったかもわかりません。

上等な木材を使用し軽いアンティーク塗装が施されています。ニスも安価なラッカーではなく上等なものが使われていて、作りも20世紀の教科書通りの「ストラディバリモデル」です。したがって板は厚めです。

弾いてみると明るく反応が良く音が出やすい感じがします。高音にも鋭さはありません。

このようなごく普通の楽器をプロの演奏者が使い込むことで音が良くなるという事です。鋭い音がしないという事はもともとは大人しい地味な音の楽器だったろうと考えられます。100年経ったそれを弾きこんだというわけです。音の性格は個体差のようなもので、グレードが高いので刺激的な音が少ないというわけでもなく産地とも関係がありません。

これが弦楽器の真実です。
質問の答えとしては60~100万円で十分という事です。
プロと言っても業務は様々ですから、職種によって求められる音も違うかもしれません。しかし世界中から求職者が集まってくるのでそのオーケストラに入るのは簡単なことではありません。

同じ時代のイタリアのものなら値段はその10倍はするでしょう。しかし職人が見ると作りに違いはないし音にも違いがなくてもおかしくありません。マルクノイキルヒェンの100万円のものとイタリアの1000万円のもので私はモノとして同格だと考えていますが、私の考えは生ぬるく現実に楽器を目の前にするとイタリアの楽器の音がはるかにひどいことがよくあります。
楽器店の営業マンの語ることは工業技術としてのモノそのものとしてではなく商業上の「物語」です。

普通の楽器を手抜きなく作った時点で職人としてすべきことは十分に果たしています。後は趣味趣向の問題になるだけです。私がこだわっているようなこともプロの演奏者は全く気にしてないものです。

弦楽器はこのようなものなので楽器に夢中になるのはバカげているというわけです。

同じくらいのグレードのチェロだと2万ユーロはします。現在なら360万円にもなります。最近話に出て来た若いプロのチェロ奏者もそれくらいのものを使っています。ヴァイオリンに比べて割高なのは、作られた数がずっと少ない上にこの価格帯のものが初心者用以上を求める学生などにもっとも求められているからです。それで完全に満足しているという事でもないでしょうが少なくともプロになることはできるレベルです。チェロでは個体差で好きな音のものを選べるほど店頭にありません。


現実に目を覚ます価値のある話でした。これ以上の話は蛇足でしかありません。



これでおしまいというわけにもいかないので、再びピラストロ社の新製品エヴァ・ピラッツィ・ネオのヴァイオリン弦を試してみました。2010年に私が作ったヴァイオリンです。

同社のオブリガートに比べると一段階音量が増す感じがします。それでいて荒々しい音は無く音色も明るくなくニュートラルだと思います


無理やり音を作ろうという感じではなく大人っぽい真っ当なものに思えます。楽器との相性に特別難しい感じもしません。バランスよくきれいな音で音量もあるというそんな感じですかね。
裸のガット弦に金属を巻いて音量と音の滑らかさを増して高級ガット弦になりました。さらに音量と滑らかさを増して同じ方向性でさらに進化したというわけです。


最近の話はこんなところです。
イースターで連休でした。
毎日モクソンバイスを作る作業をしていました。

こんなものを作るのでもなかなか考えることが多く難しいものです。一般的には低学歴の人がつくことが多いですが職人もバカではできません。

肝となるメカニズムです。
通常モクソンバイスはネジのシャフトの先端が手前に突き出る形になって邪魔なので先端が奥に収納される形にしました。

これもナットの軸がずれていると、シャフトのネジが回らなくなってしまいます。取り付ける部分部分で正確な加工や基準面に対して垂直を出す必要があります。ヴァイオリン職人であればたやすいことですが・・・。

目論見通り厚みにテーパーのついた木材でもはさむことができます。

表側はこんな感じです。

ベンチドッグを入れる穴をあける位置を決めます。

これだけの穴をあけるのも結構大変な作業です。この木材がブナというとても硬い木材だからです。木ネジを打つにしても下穴が十分開いてないとネジが入っていきません。
まっすぐに穴をあけたつもりでも木に負けて斜めに穴が開いてしまうのです。
貫通するときに反対側が割れてしまうのでそれも対策が必要でした。
ドリルの長さも足りません。再び分解して穴の深さを増す必要もありました。

縦でも横でも使えるようになっています。ちょうど形を切り出す前のヴァイオリンやビオラの板の大きさになっているのがポイントです。
ポータブルワークベンチというものは市販されていますが、微妙に大きさが合わないのです。
それらには万力のハンドルが真ん中に一つだけついています。それだと同じ厚みや幅の板しかはさむことができません。ヴァイオリンに使うものは木の上の方が狭くなっていることが多いです。また、木目の線を縦にまっすぐに持って行くと上か下の幅が狭くなります。

ハンドルが真ん中に一つあるとそれのシャフトのネジで真ん中に縦に長い物を挟むことができません。それがモクソンバイスのそもそもの必要性です。

かなりのテーパーがつけられるのでネックや指板にも対応できます。

何より緊張するのは失敗すると取り返しがつかないことです。1点ものですからこれを試作品と割り切って失敗するわけにはいきません。

だいぶ形が出来上がってきましたがちょっとした問題も発生しました。
万力として使用するためにハンドルが必要です。アマゾンで発注していたら間違った部品が届きました。中国からの直送です。こんなところが中国クオリティです。品物がだいたい似ていればちょっとくらい違ってもいいだろうという感じです。しかし部品というのは適合しないものはゴミでしかありません。
中国の洗礼を受けました。

懲りずにハンドルの部品を注文したので半月後には結果が出ます。今度も間違った部品が届くかもしれません。

祝日にも仕事をしているのは頭がおかしいのですがこんなのは連休でもないとできません。

これが完成すれば楽器作りもより楽しくなることでしょう。
まだ細かい問題がありますし、細かい作業も残っています。
いずれにしてもハンドルが来ないことには完成できないので焦っても仕方がありません。

こんな事で一日があっという間にすぎてしまいました。
家で動画などを見て過ごすよりはずっと有意義だったと思います。

イースター恒例の餃子も作りました。イースターに餃子を食べる習慣は私くらいでしょうが、普段はなかなか時間がありません。