お付き合い頂きまして有難うございます。
一応、これでも原作沿い…の、シリーズ最終話をお届けいたします。
お楽しみいただけたら幸いです。
前のお話こちら↓
①ニヤリはっと …キョside
②相宿秒読み …社さんside
③親密な夜長 …蓮くんside
⑤真夜中の揺籃 …キョside
⑥尊敬人 …蓮くんside
⑦暗中飛躍 …キョside
⑧寄り添いめぐり<前編 ・中編 ・後編> …前・キョside/中後・蓮side
⑨よたびの朝 …キョside
⑩各自の思惑 …社さんside
⑪そのための試練 …蓮くんside
⑫ニヤリはっとな夜だから<前編> …キョside
■ ニヤリはっとな夜だから ◇後編 ■
人によって答えは様々かもしれないけど
好きな人ともし何かを共有できるとしたら
私は秘密を共有したい。
いつの間にか私はそんな欲望を抱いていた。
「 さて、最上さん。美味しい晩御飯もいただいたし、シャワーもお互い浴びて来ちゃったし 」
「 そうですね。いつもありがとうございます 」
「 どういたしまして。それで…どうする、このあと。今日はホラーDVDの用意とかないし、特にこれといったハプニングも無いし 」
「 ぷっ。ハプニング(笑) 」
「 でも寝るにはまだ早いだろ。だから、君が出演していたドラマでも一緒に観る? 」
「 は?まさか録ってあるんですか? 」
「 まぁね。美緒とも違う、セツカとも違う。俺からウォーキングを学んで作り上げたという、いじめ役のナツを君がどんな風に演じるのかとても興味があったからね 」
「 セツカはいじめ役じゃないですよ! 」
「 あれ?そうだったっけ。ごめん、ごめん。その割にはグアムでヒロイン役を放り投げて転ばせたりしていたから、俺はてっきり… 」
「 あれは、愛華さんが勝手に(敦賀さんに)触って来たからしたまでのことで…っ!!! 」
だってあのとき敦賀さんは
私だけの兄さんだったのだもの!
――――――― ひみつ
カイン・ヒールの正体が敦賀蓮であることは秘密事項だったけれど、その事実を知っている人は私以外にもあの撮影現場に存在していた。
だからあれは私の中でトップシークレットとは言い難い。
そんな中、つい先日。
理髪店のおじちゃんが私にしてくれた話はとても興味深いものだった。
「 あのな、敦賀蓮の髪の毛、やたら細い気がしたんだわ。例えるなら欧米人風って感じに。キョーコちゃん、敦賀蓮って、もしかしたら日本人じゃねぇとか? 」
「 え?いえ、日本人だと思いますよ。確かに敦賀さんの髪の毛はさらさらしていて可愛い触り心地だと思った事はありますけど。…というより、そもそも髪の毛に欧米人風ってあるんですか? 」
「 あるさ! 」
理髪店のおじちゃんは、若い頃にはコンテストで優勝したこともあるほどの腕前で、今でも専門学校で臨時の講師を務めたりすることがあるらしい。
そんなおじちゃんが若かりし頃は、いわゆる団塊の世代と呼ばれる人たちがわんさかいて、お店では毎日のようにブリーチはもちろん、かなりやんちゃなカラーもたくさん、たくさんしたという。
「 いいか?髪の毛って言うのはな、日本人が平均0.08ミリなのに対し、欧米人は0.05ミリしかないんだ 」
「 えええっ?なんですか、それ。たった0.03ミリの違い?触って判るレベルですか、それ?! 」
「 分かるんだよ!こいういうのはな、どんな道でもプロになれば同じだ。弁当屋の女将が秤を使わずに同じ飯の量を弁当箱に詰めることが出来るように、来る日も来る日も人の髪に触ってりゃ、その違いにも簡単に気づけるようになるもんだ 」
「 職人技… 」
「 さっき大将にも説明したんだがな、髪の毛の構造は巻き寿司に似てんだ。海苔はキューティクル、ご飯はコルテックス、具はメデュラだ 」
「 コルテックス?メデュラ? 」
「 コルテックスってーのは髪の太さを決める要素だ。これは硬いたんぱく質で出来ていて、これが多いほど髪の毛は太くなる。メデュラは髪の毛の芯だと思えばいい 」
「 はい 」
「 ちなみに髪色っていうのはコルテックスに含まれるメラニン色素の含有量に依存していて、人の髪は色が薄くなるほど細くなるという特徴がある。
つまり、黒色を多く所有している日本人の髪の毛はその分、太いということになるんだ 」
「 へえ。その場合、例えば金髪って… 」
「 金髪はこの世で最も細い毛髪だと言われている。ゆえにキューティクルの枚数が少ないせいで広がりやすく、柔らかでフワフワの髪ってのが多い 」
「 そうなんだ!納得!! 」
コーンは見事な金髪だった。
ダイヤの粒子を含んだみたいにキラキラしている金髪が、シルクの様に滑らかで柔らかそうだという事は触れなくても見ただけでそれが分かるほどに。
もっとも、妖精の髪を人間の髪と同じに考えていいのかは判らないけど。
「 でな、キョーコちゃん。その海苔巻きを髪の毛に例えると、髪染めっていうのはご飯に食紅をつけていろんな色にしている訳だ 」
「 なるほど 」
「 でな、敦賀蓮のあれはあの髪色に染めているはずだ。なぜならあの細さであんな真っ黒な訳が無いからな!! 」
「 …っっっ??! 」
それは本当に意表を突いた話だった。
おじちゃんは自信満々に断言していたけれど、まさかそんなことがあるはずない、と通常なら笑っちゃえるほどのレベル。
でも私は先日それに気づいていた。
敦賀さんと二度目のベッドインをした時。 ←キョーコちゃん、言い方!
本当に微かではあったけれど、敦賀さんの頭髪から髪を染めるときに使う特殊な液体の匂いがした気がした。
あれ、やっぱり気のせいじゃなかったのだ。
「 ………つまり、おじちゃんは敦賀さんが日本人じゃないって言いたいの? 」
「 そんなことはどうでもいいわ!キョーコちゃん。髪の毛は1日で0.3~0.4ミリ伸びて来る。平均で考えると1週間で約2.5ミリだ。敦賀蓮があの髪色に染めているのなら一週間に1回ないし、最低でも2週間に1回は根元を染め直す必要があるはずだ。でもな、そんな頻繁に染めていたら頭皮に悪影響が出てしまう。
敦賀蓮ってまだ20代だろうが。年取ってから後悔しないよう、髪染めはほどほどにしとけって言っておけ! 」
「 え……ほどほどに、しろって? 」
「 うむ。伝えてくれ 」
「 えー? 」
どうやらおじちゃんは理容師として、敦賀さんの頭髪がとっても気になったご様子。
テーブルに懐いていた敦賀さんの頭を鷲掴みにしたのも、きっと髪の毛の状態をチェックする意味合いがあったのかな、と想像した。
もちろん、そのときは掴んだ相手が敦賀さんだって気づいていなかったのでしょうけど。
―――――――― 共有するなら秘密がいい。
誰も知らないこの人の秘密を、私だけが知っている…という特別感。
坊の時に偶然知った、敦賀さんの秘密その1。
『 俺のこの歳で恋をした事がないというのは不自然か… 』
そして、セツカの時に偶然気づいた敦賀さんの秘密その2。
『 掻い摘んだ言い方をすると、アイツは今恐らく自分自身と闘っている 』
私は、自分の恋を成就させたいなんて、分不相応な夢は抱かない。
でも、好きな人とならどんなに小さな秘密であっても共有出来たら嬉しいと思う。
今日、私はその3つ目の秘密を手に入れたいと思っていた。
「 敦賀さん 」
「 うん? 」
「 ハプニング、起こしましょうか? 」
「 え? 」
「 敦賀さんって、日本人じゃなかったりします? 」
「 ……なに、急に 」
「 この前、敦賀さんの頭を鷲掴みにした理髪店のおじちゃんがそう言っていたんです。敦賀さんの髪の毛は、まるで欧米人並みに細いって 」
「 ……っっ!! 」
一瞬、敦賀さんの神経が鋭く尖ったのが見えた。
お互いに目を反らすことなく見つめ合う。
私は敦賀さんからの言葉を待った。
「 ……髪の毛…ね。へぇ、そうなんだ。それで?俺の正体を突き止めて来い、とでも言われた?大将と、その理髪店のおじさんに? 」
「 いいえ。お二人ともそんな事は言わなかったですよ。大将なんて、事情を抱えているお客さんなんて山ほどいる。その人にどんな過去があっても自分がすべきことは料理を提供するだけだっていつも言っていますし、おじちゃんも同じでした。理容師として、敦賀さんの頭髪の行く末がとっても気になるから注意してこいって 」
「 注意? 」
「 年取ってから後悔しないよう、毛染めはほどほどにしておけって。していますよね?敦賀さん、毛染め。私、この前気づいちゃったんです。あまりにも近くにいたから 」
「 …なんでそんな事聞くの? 」
「 知りたいから、です。私、敦賀さんのことが知りたいの。代マネをしたとき、敦賀さんの人となりを知ってこの人をもっと知りたいと思った。
ダークムーンで悩んでいた敦賀さんを見たとき、少しでも私が力になれれば…って思った。
軽井沢で敦賀蓮という名が芸名だって知ったとき、本名を知りたいって思いました。セツカとしてそばにいた時、敦賀さんを助けたいと思った。私、敦賀さんのことが知りたいんです。どんな些細なことでもいいから 」
「 それは…俺がどう思うか、とかは考えなかった? 」
「 考えました。迷惑かもしれないって。でも私… 」
あなたの秘密を共有したい。
私がそれを守ってあげたい。
それを口にするのは憚られて、どう伝えれば届くだろう…と、今更ながらに考えた。
「 ……敦賀さんだって、私の秘密を知ったじゃないですか。だからおあいこです! 」
「 ん? 」
「 男性に自分の生理を知られるなんて、女としてこれ以上恥ずかしいことなんて無いんですからね!! 」
「 それ、俺が求めた訳じゃないけど… 」
「 そっ、そうですけど、でも… 」
「 でも、そうだね。君がそう言うのなら、寝物語ならしてあげてもいいかな 」
「 寝、物語…? 」
「 そう。とても興味深い、ある男の話を君にしてあげるよ。俺の寝室でならね 」
「 それは…… 」
つまり、今日も一緒のベッドで寝ようかっていう…?
「 たぶん、千夜ぐらい語ることになると思うけど。どうする? 」
言われて私の口元がニヤリと緩んでしまいそうになった。
どうしよう。
私ってば今日こそは気を引き締め、別々のベッドで寝るつもりで来たというのに。
でも、敦賀さんがしてくれると言った寝物語の主人公が、もし敦賀さんのことだとしたら、私はこれ以上ない秘密を共有することになるに違いない。
その誘いを断るなんて、もったいない。
「 敦賀さん。一週間に一泊だと、19年もかかっちゃうことになりますね 」
「 ご不満なら毎日ここに来れば?それなら3年で済む 」
「 これから毎日ですか?春も夏も秋も冬も? 」
「 そ。病めるときも、健やかなるときも 」
「 それ、違うと思います 」
「 最上さん、寝物語のお伴にホットミルクはいかがですか。特別に俺がいれてあげる 」
「 ありがとうござます。2杯お願いしたいと思います。敦賀さんと私の分 」
「 かしこまりました 」
4度目の敦賀さん宅お泊りの夜
私は5度目の破廉恥を経験した。
E N D
大将との対決ならず。
このお話はこれで完結と致します!!脱兎。
※髪染めについてはプロフェッショナルの方に助言を求めた内容を採用させていただきました。ありがとうございました!
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