お付き合い頂きまして有難うございます!
一応、これでも原作沿い…の、シリーズの続きを、完結目指してお届け致します。
ちなみにこのシリーズ、原作で言うところの38巻あたりの設定でお話を進めております。
お楽しみいただけたら嬉しいです♡
前のお話こちら↓
①ニヤリはっと …キョーコちゃんside
②相宿秒読み …社さんside
③親密な夜長 …蓮くんside
⑤真夜中の揺籃 …キョーコちゃんside
⑥尊敬人 …蓮くんside
⑦暗中飛躍 …キョーコちゃんside
⑧寄り添いめぐり<前編 ・中編 ・後編> …前・キョside/中後・蓮side
⑨よたびの朝 …キョーコちゃんside
⑩各自の思惑 …社さんside
■ そのための試練 ■
週に一度、最上さんが俺の家に泊まりに来るようになって3回目が終わった。
ちなみに先日彼女が風邪で寝込んで俺の家に泊まったそれはカウント対象外である。
それから数日後の某月某日25時19分。
俺は風雲の志でだるまやの暖簾をくぐった。
「 こんばんは 」
「 敦賀さん、いらっしゃいませ!お待ちしておりました 」
「 いらっしゃい 」
「 時間外にすみません。お願いをきいてくださってありがとうございます 」
「 いいんだよ。ウチのご飯を食べたいって思ってもらえただけで十分嬉しいんだから。それよりどうぞ!中ほどまで 」
「 はい、失礼します。大将、夜分にすみません。ごちそうになります 」
「 …おぅ 」
もちろんこの時間のだるまやは既に閉店時間である。そのため店内には一人も客がいなかった。
厨房にいる大将の隣で下げられた食器を洗っていたのだろうおかみさんは笑顔で俺を招いてくれて、最上さんに導かれて案内されたテーブルに着いて間もなく、注文せずともメニューは次々とやって来た。
「 わ!大将、早っ 」
「 来るって分かっていたんだ。当然だろう 」
ごはん、みそ汁、香の物、それから根菜の煮物がやってきて、最後に鎮座した焼き魚と睨み合う。
最上さんがいつも俺の前でするように両手の平を合わせた俺は、心の中で気合を入れた。
「 いただきます! 」
「 お茶はここに置きますね、敦賀さん 」
「 ありがとう 」
さて、端的に説明しよう。
なぜ俺が今日、深夜のこの時刻にわざわざだるまやで食事をするのかについてだが、それは先日俺が抱いたある野望に関係している。
その野望とは、俺の特大ポスターを最上さんの部屋に貼る…というものである。
3回目のお泊り予定だったその日、奇しくも俺たちは東京に戻ることが出来ずにホテルで一晩を明かした。
それは大雨で停電が発生し、そのためドアの鍵が施錠されたままとなって部屋に閉じ込められたのが原因なのだが、雨に濡れたのに着替えしか出来ず、体を温められなかったせいなのか。それとも同じベッドで寝ていた俺の抱きしめ方が足りなかったのか、とにかく最上さんだけが翌日風邪をひいて寝込んでしまったのだ。
その一報をもらった俺はその日のうちに最上さんを見舞ったのだが、そのとき見てしまったのだ。アイツと俺のポスターが最上さんの部屋に飾られていたのを…。
それが俺のだけだったらどんなに小さなサイズでも嬉しかったに違いない。だが現実はそうじゃなかった。
よりにもよってアイツのポスターの方が俺のそれより断然大きく、正直に言えばとてつもなく面白くなかったのだ。
一体どんな理由でコレ?!
もちろん問い質したい気持ちはあった。けれど熱に浮かされたあの子にそれを聞くのは大人げないと思ったし、なによりそんな体調の最上さんが俺に甘えてくれたのが嬉しかった。
――――――― また添い寝をしてください……
いいか、ポスターのことは。それは不問にしてあげる。
そんな気分が容易に勝った。
しかしだからと言ってあのポスターがそのままなのはやっぱり嫌で、つまり俺は先日マネージャーの社さんにお願いして用意してもらった俺の特大ポスターを、自らの手で最上さんの部屋に貼りに行こうと決めたのだ。
もちろんアイツの顔を隠すために。
しかしコトはそう簡単には済まない。
まず俺の仕事の関係上、俺が最上さんと一緒の時間を得ようとすれば、それは必然的に夜遅い時刻となってしまうし、次いで俺がこの目的を遂行するためにはその深夜時間帯に最上さんの部屋に上がり込むことが必須となる。
しかし最上さんは現在下宿。
その部屋に、よもや深夜時刻、男の俺が大将やおかみさんの了解なく気軽に足を踏み入れられる訳がない。
そこで俺はこれを好機と捉えて腹をくくり、かねてより機会を窺っていただるまやの焼き魚試験をクリアしようと考えた。
最上さんの一番近くにいる大人…つまり大将に俺という人間を認めてもらうために。
『 …どうしたんです?社さん 』
『 ああ、何となくお前の食べ方を見てた。ずいぶんきれいに食べるなと思ってさ 』
『 ふふっ。敦賀さん、すごくきれいに召し上がるのでちょっと見とれちゃいました。敦賀さん、きっと一発合格しちゃいますよ。それを想像するだけで笑いがこみ上げちゃいます 』
最も信頼のおける二人から過去にもらった賛辞を胸に、俺は箸を動かした。
焼き魚をきれいに食べるコツは、頭や骨をはずしたらお皿の左上にまとめて置くこと。
きれいに食べる人というのは、食べ終わったあとお皿の片隅に頭と骨しか残っていないものなのだ。
どんな種類の魚にもその身の中心には体を支える骨がある。
その骨を主軸に4つの部位に分けて食べ進めるのが基本で、順番としては背側の左から右へ、そして腹側の左から右へ…と食べてゆくのが基本となる。
通常、内臓は取り除かれていることが多いが、もし内臓付きの魚でそれを食べない場合はやはり皿の左上に移動させる。そして皿の上面の身を食べ切ったところで尾から頭までの骨を一気に取り外すのだ。
もちろん尾頭付きの骨は皿の左上に置き、あとは残っている半身をやはり背側の左から右へと食べ進め、最後に腹側の左から右へ食べてフィニッシュ。それが焼き魚のきれいで上手な食べ方である。
ごはん、みそ汁、焼き魚と煮物、香の物。出されたそれらをきれいに平らげ、皿の上に残った骨を見つめた俺は、人知れず達成感に打ちひしがれた。
やった!!今までで一番きれいに食べ切った気がする!!
満足感と満腹感に満たされ、両手を合わせて軽く前かがみになる。
ごちそうさまでした…と言った俺の声が聞こえたのだろう、大将もおかみさんも手を止めてこちらに視線を手向けてくれた。
二人と目が合い、やんわりとほほ笑む。
「 どうもごちそうさまでした。とても美味しくいただきました 」
「 ふふっ。さすが敦賀さんです!ね、おかみさん、見てください! 」
「 ああ、ほんと。聞いていた通り、さすがにきれいな食べっぷりだねぇ。ほら、あんたも見てみなよ 」
「 ……・ん… 」
褒められて悪い気はしなかった。
何より皿を覗き込んだ大将がその口元を小さくほころばせたように見えたのが嬉しかった。
よし、よくやった俺!
このあとは最上さんの部屋に束の間上がり込めばいいだけだ!…と思った矢先に予想外の事態が起こった。
「 敦賀さん、お茶のおかわりはいかがですか? 」
「 ありがとう。でも平気だよ。それより最上さん… 」
「 それだけじゃ足りんだろ。この煮物も食うか? 」
「 え? 」
いつの間に近づいてきていたのか、大将が新たなメニューをテーブルに置いた。
「 和え物もある。白和えと胡麻和え、どっちが好きだ? 」
「 え?いえ、俺はもう… 」
「 大将。敦賀さんは… 」
「 そうだ。あれ、あるだろ。あれも出してやろう。おいっ 」
「 ああ、ショーくんがおいしいって言っていたタケノコごはんかい?あいよっ 」
おかみさんのセリフで最上さんの顔面が固まった。ロボットのようなぎこちなさで首を動かし、両目がみるみる怯えてゆく。
俺の口が真一文字に結ばれた。
まさか、アイツ
俺より先に試験をクリアしていたのか?生意気な。
あの部屋のポスター、まさか
だからアイツの方がデカイとか、そういうんじゃないだろうな?!
「 最上さん。もしかしたらアイツも食べに来たことがあるとか?しかも俺より先に? 」
「 ……は、そのようで。ワタクシの知らぬ間に… 」
試験をクリアしたはずの俺の前にさらなる試練が立ちはだかる。
目前のテーブルに次々と追加されていく料理を見下ろしながら、負けるわけにはいかないと俺は闘志を燃やした。
なによりアイツにだけは絶対に!!!!
箸を持て、敦賀蓮!!
お前のこの子に対する想いはこんな事で打ち砕かれるものではないだろう!!
「 ほら、これも食ってけ 」
「 ……はい、ご厚意に感謝します。どれも美味しそうですね。お言葉に甘えていただきます 」
「 え?嘘ですよね、敦賀さん 」
「 なんで?ありがたくいただくよ? 」
満腹感を置き去りに、俺は新たな試練に立ち向かった。
E N D
ぶふっ。頑張れ、蓮くん!
実はこのシリーズ、藤道奨物語シリーズとほぼ同時にスタートしました。
藤道さんシリーズではクーvs藤道さんを意識した義理父対決にしましたので、こっちは「義理父」にこそなれないけれど、キョーコの保護者として遜色のない大将を据えたお話にしようと決めていました。
ところが、いくらお世話になっているとはいえ下宿先のご主人が、まるでキョーコちゃんの親のようにふるまうのはどうだろう…と色々悩んでもいたのです。
そもそも私はキョーコちゃんと同じ片親で育ち、今日に至るまで父親の存在を実感したことがありません。その私でさえそれを想像した瞬間に、あり得ない!…と拒絶反応が出たのです。
…ということで、蓮くんvs大将は、極めて消極的な対決になると思いますよ…ってことを先にご承知おきください。
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※シリーズラストはこちらです⇒「ニヤリはっとな夜だから・前編」
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