一葉です。本日お届けのSSは、つい先日お届けした原作沿い両片想い蓮キョの続きの続きです。…だって思いついちゃったんだもん(笑)
前のお話はこちら↓
■ 24時間、策りましょう ■
季節は着実に移り変わっている。
それを実感しながら俺は、最近特に足しげくラブミー部室に顔を出していた。
もちろん目的は休憩ではなく最上さん。実はあの時からずっと俺は、あることを実行したいと思っていたのだ。
「 ……じゃ、いまポットにお水を入れてきますので少しだけお待ちくださいね。……あうちっ!! 」
「 キョーコちゃん?!どうした 」
「 あ、いえ…大したことないです。ただ…ただノブを触ったらバチッと来ただけなので… 」
「 最上さん、それってもしかして静電気じゃないかな?大丈夫? 」
「 はい。びっくりしちゃいましたけど平気です。じゃ、行ってきますね 」
「 キョーコちゃん、俺が行こうか? 」
「 やだ、大丈夫ですよ、社さん 」
社さんの提案を断り、抱き上げたポットと一緒にあの子がラブミー部室を出てゆく。
それを見て俺はとうとうこの日がやって来たのだ、と人知れず口元を緩めた。
最近ずっと持ち歩きっぱなしだったビニール袋をさりげなく用意し、いまこそこれをあの子に渡すときだと肩に力を入れる。
ポットに水を足して戻って来たあの子が、ノブに触った途端にまた発生したのだろう静電気で奇声を上げて、内側から俺が代わりにドアを開けると、最上さんは何とも言えない顔をして立っていた。
「 最上さん、大丈夫?またすごい声が聞こえたけど 」
「 あうぅぅぅ~~なんででしょう~?今日に限って静電気が酷いんです。今日って乾燥ひどくないですか? 」
「 いや、俺は平気。たぶん君だけだと思うよ。確認してみようか? 」
「 ?……確認ってどうやってですか? 」
「 とりあえず入って! 」
「 はい 」
「 ポットは社さんに渡せばいいから 」
「 へぇぇい? 」
「 最上さん。もしかしたら君、いま帯電していないか? 」
「 えぇ?してないですよ!!そんな、人を電気人間みたいに 」
「 でもノブに触ったらバチッと来たんだろ。たぶん知らない間にたまっているんだ。ためしにそのブラウス、脱いでみて? 」
「 いえぇえぇぇぇっ?!ここでですか?!敦賀さんと社さんの目の前でですか?! 」
「 そうだよ。大丈夫だよ、ドアの鍵はいま閉めたから。俺たち以外誰も見ない 」
「 それのどこが大丈夫なんですか!!ちっとも大丈夫じゃない!!ちっとも大丈夫じゃないですぅぅぅ!!! 」
「 …っっっ!!!! 」
あまりにあからさまな拒絶反応がちょっとだけかわいくて、つい最上さんの前で吹き出す。同時に社さんの右手パンチが俺の右わき腹に当たった。
「 蓮! 」
「 なに笑っているんですか、敦賀さん!! 」
「 いや、すごい必死だったからつい面白くなっちゃって。……ドラマの撮影なんかだと人前で着替えたりすることもあるだろう?その時も君はそういう反応? 」
「 しないですよ!だってスタイリストさんは女性じゃないですか! 」
「 男のスタイリストだっているよ。まぁ、いいや。じゃ、ブラウスの裾を自分でめくってみてごらん?たぶん凄い静電気が発生していると思うから 」
「 ……裾をめくるだけですよ? 」
「 どうぞ? 」
最上さんはたぶん半信半疑だったと思うけど、彼女がそっとブラウスの裾をめくった途端に服はパチパチと音を爆ぜた。
「 ……っ…なにこれ?! 」
「 あーほら、やっぱりそうだ。静電気の原因は君が自分で作っていたんだ 」
「 えええっ?!なんでですか?どうして? 」
「 着衣合わせの妙ってやつだよ。でも、ごめん。それ、俺にも原因があると思う 」
「 え?どういうことですか? 」
「 うん。実は俺が用意したウール100%のインナーシャツって、プラスの電気が発生しやすい素材なんだ 」
「 そうなんですか?だって自然素材なのに? 」
「 そういうのって自然だからとか化学繊維だからとかいうのは関係ないんだ。…でね、いま君が着ているブラウスはポリエステル製だと思うんだ 」
「 違いますよ、敦賀さん。このブラウスはフリース素材です! 」
「 うん。見れば分かるけど。最上さん、フリースっていうのは起毛させて柔らかくけばだたせたポリエステル製の織物の名称なんだ。確認のために品質表示タグを見てごらん? 」
実は静電気が発生しないようにするには近い素材の着衣合わせが基本で、しかも昨今は静電気が発生しやすい素材自体がウール、ナイロン、ポリエステルに限られていることが分かっている。
つまりこれらの素材でできた服を同時に着用しなければ静電気は発生しにくいのだ。
「 ええっ……うそ?!ポリエステルって書いてある!!知らなかった、フリースって素材名なのかと思っていました 」
「 ね、そうだっただろ。最上さん、ごめんな、俺のせいで静電気をまとう羽目になっちゃって。お詫びにこれ、君にあげるから着替えな? 」
「 はい? 」
「 いつかこんな日が来るかと思って用意しておいたんだ。もともとは俺がそのインナーシャツを薦めたのが原因な訳だし。だから遠慮しなくていいよ 」
「 はぁいっ?いいですよ、そんなことまで!!インナーシャツだってたくさん買っていただいたのに… 」
「 うん、だからだよ。だから責任をもって君の服も俺が用意したんだ 」
そう。俺は誰の目にも触れないインナーだけじゃ我慢できなかったのだ。
俺が見立てたこの子の服を彼女に着て欲しいと思った。だからずっとこのタイミングを俺は待っていたのだ。
それが、実行したかったこと。
すでに社さんは目を細めたまま、俺と最上さんのやり取りをただ見守っている。
その頭の中で、だったら先に言っておけば良かっただろうが…と思われていることなど俺にはどうでもいいこと。
「 ダメ、だめ、だめですよ、そんなの!! 」
「 何がダメ?もしかしたら俺が選んだ服なんてセンスなくって着られない?だったらいいよ。君が選んだものを何着でも俺が買ってあげる 」
「 何着でも?!いいです、そんなのっ!!あ、分かりました!静電気まみれなのはやっぱり嫌なのでお言葉に甘えてこれに着替えさせてもらってもいいですか?袋を開けますね?あ、ワンピースなんですね 」
「 うん、そう!それ、君に一番似合うと思ったんだ。良かった!ぜひ着て!! 」
「 ありがとうございます……って!!敦賀さん!!これってまさかのシルクですか???? 」
「 うん、そうだけど? 」
「 なんで、なんでこんな高そうなものっ!!! 」
「 高そう?いや、特に高いものじゃなかったと思うけど。静電気を発生させないための素材を選んだだけだし。……あ、もしそれが最上さんのお気に召さないのなら別のを買ってあげるし、何なら今日、俺の家に来てくれてもいいよ? 」
「 ……どうしてですか? 」
「 ん?君に買ってあげたインナーと同じ数だけの服をすでに用意してあるから♡ 」
「 なっ…なに無駄遣いしているんですかー!! 」
「 無駄?無駄って言うのは買ったものが使われない場合のことだろ?確かにこれは俺が勝手にしたことだけど、まさか君は俺の好意を無下にしたりしないだろ? 」
「 …っっっ!!そんないい笑顔… 」
最上さんは苦渋の表情で握りこぶしを作っていたけど、この日の夜、俺が用意した彼女の服を余すことなくすべて持ち帰ってくれた。
E N D
持ち帰ってくれたんじゃなくて持ち帰らせた、が正解。
あれ?タイトルに偽りありだった。お粗末!!
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