SS つみこいびと ◇1 | 有限実践組-skipbeat-

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こちらは蓮キョ中心、スキビの二次創作ブログです。


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 お仕事をしているとなぜか思いつく現代パラレル短編。

 でも実はまだ下書きがラストまで終わっていません!!なんという見切り発車。


 見通しでは4話で終わる予定です。

 お楽しみいただけたら嬉しいです。


■ つみこいびと ◇1 ■





 俺、敦賀蓮が勤めているLMEエレベーター修理部にその依頼が舞い込んだのは昼少し前だった。



「 はい、はい!すぐ修理ですね。大至急、担当の者を伺わせます 」



 応対した松島主任がペンを走らせ電話を切る。

 上司と目が合った瞬間、嫌な予感が走った。



「 蓮!! 」


「 イヤです、無理です! 」


「 そんなこと言うなよ~。タイミングよくお前が戻って来たのも何かの縁だろぉ 」


「 俺は戻って来たんじゃなくて休憩に立ち寄っただけです。第一それ、俺の担当区域からの依頼なんですか?! 」


「 いや、違うけど 」


「 やっぱり!嫌ですよ。面倒くさがらずに担当者に行かせてくださいよ 」


「 いやいや、それが無理なんだ。なにしろいまインフルで寝込んでいる社が担当している地域だから 」


「 ……チッ。よりにもよって… 」


「 な?お前の担当区域の隣だし、いいだろ?頼む、行ってくれ!! 」



 実はいま、俺の勤務先であるLMEエレベーター修理部門は慢性的な人手不足に陥っている。

 そもそもの原因は業績悪化というやつで、以前から雇用がセーブされているのだ。


 それでも最初はその影響を感じていなかった。それなりに人がいたからだ。

 けれど定年を迎えた人が去り、個人的な事情で退職する人が現れても修理部門に補充はなく。



 にもかかわらず都内の開発はすさまじい勢いを維持していた。新たなビルが立ち並ぶたびに自社設置基が増えていく。


 結果、修理部一人一人の仕事量は増し、気付けば朝早くから夜遅くまで毎日奔走する羽目になっていた。



 そう。この日も俺はぎゅうぎゅう詰めになっていた午前中のスケジュールをなんとかこなし終えた所で、もちろん午後もぎゅうぎゅう詰め。


 そんな状況だというのになぜ俺が昼食時間にわざわざ戻って来たのかというと、久しぶりに足を伸ばして昼にありつきたくなったからだった。



 昼食はいつも車内で済ませていた。しかも良くてコンビニおにぎりかサンドイッチ。そんな俺がたまたま事務所の近くを通りかかり、ささやかな贅沢にありつきたいと希望を抱いても罪はあるまい。


 けれどそれが運の尽きだったのかも。


 足を伸ばして昼食どころか、俺はいま新たな仕事を押し付けられようとしている。抵抗したところで無駄なことだと分かっていたけど、それでも抵抗せずにはいられなかった。



「 いい訳ないです。松島主任が受けたんですから自分で行ってくださいよ 」


「 俺はもう、自分の受け持ちと一緒に社のところも回っているからいっぱい、いっぱいなんだよ~ 」


「 俺だっていっぱい、いっぱいです! 」


「 そんなこと言わずに蓮、頼むからここだけ行ってくれ!!この通りだ!2基しかないエレベーターのひとつが使えなくなっているらしいんだ。さすがに放っておくわけにはいかないだろ? 」


「 …っ…あーもーなんで俺が…。…ったく、分かりましたよ!行けばいいんでしょ、行けば!! 」


「 蓮!本当に助かる!人員不足の件は本社に何度も申請しているからそのうち補充が入ると思うから!それまで辛抱してくれ~ 」


「 はい、はい。期待しないで待っています 」



 やっと足を伸ばせたばかりだというのに買ってきたコンビニおにぎりには手を付けることも出来ず、重く腰を上げた俺は深いため息を事務所に置きざりにして、先ほど降りたばかりの車に乗り込んだ。



「 あー、くそ!! 」


 修理部門の責任者である松島主任から託された修理先は確かに同僚の社さんが担当している区域だった。

 場所は事務所からそう遠くなく、依頼主であるラブミービルには5分ほどで到着。工具箱を片手に俺はとっとと車を降りた。



 昼過ぎのせいかビル内に人の気配は薄く、まさか人を呼びつけておいてこれかと腹の底でひそかに怒りをたぎらせる。


 明かりの消えた事務所の窓を無断で開け、そこに頭を突っ込み、誰もいなかったら問答無用で帰ってやる…と荒んだ気分で声を張り上げると奥から女性が一人、大慌てで出てきた。



「 すいません!!先ほどご連絡をいただいたエレベーターメンテナンスです。どなたもいらっしゃらないのならこのまま帰らせていただきます 」


「 …っ!やだ、ダメです。いますよ、ここに!良かった、お待ちしていたんです、すみません、奥にいたんです。まさかこんなに早く来てくださるとは思っていなくて… 」


「 君が依頼者? 」



 出てきた女性はいかにも事務員らしい制服姿で、ふんわりとした雰囲気を醸していた。



「 いえ、依頼をしたのは別の者なんです。お昼時間になってしまったので先輩の代わりに私が残った次第でして… 」


「 そうですか。故障基はどちらにありますか? 」


「 はい、こちらになります。すみません。7階に移動していただくことになるんですけど… 」


「 ええ、かまいませんよ 」



 彼女の胸元には最上の名札がついていた。その彼女とすぐエレベーターに乗り込んだ。

 黙っているのが気まずかったのか、俺が口を開く前に彼女が先に口を開いた。



「 急いで来てくださって助かります。実は午後一番にお客様がいらっしゃることになっていて、エレベーターがひとつしか使えないとお客様を優先せざるを得なくなってしまいますから、それで何とかしろと社内のあちこちからクレームが入ってきて困っていた所だったんです 」


「 その使えないっていうのは具体的にはどんな症状だか分かりますか? 」


「 もちろんです。実はドアが閉じなくなってしまっていて…。来ていただけて本当に助かります。お客様にもご迷惑をかけずにすみますからほんとに… 」


「 ドアね…。申し訳ありませんが故障基がすぐ直るかどうかは見てみないと何とも言えないので過度の期待はしないでください。故障状況によっては部品を取り寄せないと…ってこともありますから 」


「 あっ!そっか、そうですよね。修理の人が来てくれたら安心って勝手に思っていました。ごめんなさい、私ったら余計なことを… 」


「 いえ、別に余計なことでは… 」



 目的階に到着し、二人で一緒に7階に降り立った。

 ドアが閉じないと聞いたけれども、正確には、隣接基のドアはまるで壊れたおもちゃのように頻繁に開閉を繰り返していた。



「 これなんです。なぜかドアが閉まり切る前に開いてしまうのでエレベーターが使えなくて… 」


「 本当ですね。少し下がってもらえますか 」


「 はい 」



 俺はすぐ故障基の修理に取り掛かった。



 さて、これはどのエレベーターにも言えることだが、エレベーターのドアというのは、カゴ部分にある内扉と、昇降路開口部の乗り場側の扉が連動して動くことで安全に乗り降りできる構造となっている。


 ドアの先端にはセーフティシューという安全装置が装備されていて、これはドアが閉まろうとしたとき何かに当たると自動で扉が開く仕組みになっているのだ。


 開閉を繰り返しているドアの動きはこの安全装置が働いているように見えた。



 閉まり切らない扉の動きに注意しながら、センサーが何を感知しているのかその原因を探した。

 上方を目視し、下方を目視すると閉じなかった理由はすぐに見つかって、溝に挟まっていた障害物を取り除くとドアは問題なくパタリと閉じた。



「 よし! 」


 思わず口角が上がった。


 その他の要所を手早く点検してから作業記録紙を取り出し、サインをもらうために彼女へと向き直る。すると少し離れたところで俺の作業を見守っていた彼女がキラキラした目で俺を見ていたことに気づいた。



「 すごいっ!!まさかこんなすぐに直るなんて…。え?直ったんですよね!? 」


「 ええ、直りました。扉が閉まらなかったのは安全装置が働いていたからで、その原因はこれが溝にあったからでした 」


「 …缶バッチ? 」


「 そうですね。この階に持ち主がいらっしゃると思いますからあなたにお渡ししておきます。これで修理は完了です。お手数ですがこちらにサインをいただけますか? 」


「 はい。……これでいいですか? 」


「 はい、ありがとうございます。それ以外では特に問題点は見つからなかったので大丈夫だと思いますが、もし何か異常があったらここに連絡をください 」



 複写紙にもらった最上という名のサインを確認して一番下の紙をはがした。

 それを彼女に渡してから用紙の下に印刷されている電話番号の箇所を指す。


 作業員の名前欄には自分のフルネームのハンコが押されていて、だから彼女が俺の名を口にしても驚きはなかった。



「 敦賀さん…に連絡をすればいいんですか? 」


「 いえ、今日担当させていただいたのは俺、敦賀なんですが、次に何かあったときは地域の担当者がちゃんと対応させていただく事になると思います 」


「 え?敦賀さんは担当者じゃないんですか? 」


「 ええ。実はこの地域を担当している者が今インフルエンザで寝込んでいまして…。それで代わりに俺が急遽対応させてもらっただけなんです 」


「 そう…なんですか。…え?担当者さんはいつインフルエンザに? 」


「 昨日、医者にそう言われたみたいです。なので来週には復帰していると思いますよ 」


「 …ってことは、その方が治るまでは敦賀さんが担当者ってことでいいのでしょうか? 」


「 ……いや、どうでしょうね。ああ、でもまた何かあったときはそういう事になるかもしれないですね 」


「 なるほど… 」


「 ? 」



 何がなるほどなんだろう…とは口にはせず。

 手早く工具箱をまとめてこれで失礼しますと俺が頭を下げると、彼女も慌てて頭を下げた。



「 あっ、お疲れ様でした。本当に助かりました、ありがとうございました! 」


「 いえ、すぐ直って良かったですね。お互いに 」


「 このままエレベーターで一階に降りられますよね?私も一緒に行ってもいいですか? 」


「 もちろん、どうぞ? 」


「 ありがとうございます。ちなみにお昼は召し上がられたんですか? 」


「 俺?…いや、実はまだで、車に乗せっぱなし 」


「 すみません!!それってうちが急遽修理をお願いしたからですよね?!本当にごめんなさい! 」


「 いえ、急いでいると聞いていたのでそうしただけだし、そもそもそれが仕事だから… 」


「 あっ、一階に着きました。お出口はこちらです、どうぞ 」


「 いや、知っているけど…… 」


「 車はどちらにあるんですか?そこまでお見送りしてもいいですか? 」


「 …え……うん、いいけど、すぐそこだよ? 」



 彼女はご丁寧に俺が車に乗り込むまで見送ってくれて、助手席に置かれていたコンビニの袋を見て申し訳なさそうに眉をひそめた。



「 あの…敦賀さん? 」


「 え? 」



 さすがにこの時はドキッとした。

 まさかこのタイミングで名前を呼ばれるとは思っていなかったから。



「 もう少し先に行くと小さな公園があるんです。まだ花は咲いていませんけど桜が咲くんですよ。お昼を召し上がるならそこがおすすめです 」


「 ……ありがとう 」


「 どうぞお気をつけて。午後のお仕事も頑張ってくださいね 」



 そう言ってペコリと頭を下げた彼女のそれに思わず頬が緩んだ。まさかそういう風に言われるとは夢にも思っていなかった。



「 重ね重ねありがとう。君も午後の仕事がんばって 」


「 はい!!ありがとうございます。お気をつけて! 」


「 ありがとう 」



 気持ちが高揚するのを感じた。

 ハンドルを操りながら俺は自然と笑みを浮かべていた。






 ⇒つみこいびと◇2 に続く


一話目はいつも出会いからスタート♡(〃∇〃)うふっ



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