いつもありがとうございます。一葉です。
弊宅500記事を記念して、蒼々様からお与かり致しました原作沿い、記念リクエストをお届け致します。
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足並み揃えて【1 ・2 ・3 ・4 ・5 ・6 ・7 ・8 ・8おまけ ・9 ・10 ・11】
■ 足並み揃えて ◇12 ■
「 破廉恥か! 」
一瞬、目が点になりはしたけれど、冗談だと受け止め、人差し指で彼女の額をツンと小突いた。
こんなタイミングでこの子がそんな事を言うなんて、とは思ったけどもちろん本気にはしなかった。
「 何を考えているんだ、君は。露天風呂の時は冗談じゃないなんて言っていた癖に 」
「 だって、あの時とは状況が違うじゃないですか 」
「 …――――――― うん? 」
鼓動が弾んだのはこの一瞬。
この子がそれを本気で言っていたのだと俺が気付いたときだった。
「 雨の森は、子供のころ泣きながらコーンを探した事を思い出して辛くなるんです。いま敦賀さんがどっかに行っちゃったら私はまた一人になる。
……こんなところで一人はイヤ。だから、敦賀さん…… 」
「 …っっ……俺はどこにも行かないよ。こんなひどい降りの時に外になんか出たくもない。心配しなくていいから 」
「 いや!!お願いです、敦賀さん。すぐ着替えますから! 」
結局、この子に縋られたら拒否する術など自分には無く、致し方なく俺は部屋の隅にとどまった。
背中越しに聞こえる衣擦れが想像力を掻き立てる。
自分が選んだ服を着てくれるだけでも相当な威力だというのに、この時ばかりは勘弁してくれ…な心境だった。
「 ……お待たせしました。すみませんでした 」
「 うん。ごめん、ちょっと待ってて 」
「 はい? 」
「 雨戸があったことを思い出した。あっちの部屋も雨戸を閉めておけばいいな。この暗闇じゃ、割れた窓ガラスを片付けるのは無理だから 」
「 はい 」
結局、雨戸を閉めただけで俺達はすぐ階下に向かった。
俺の服の裾を固く握り、ヒヨコのようにあとをついて来る最上さんは抱きしめたくなるほど可愛かった。
「 ……泣きながらコーンを探したって、なんで? 」
着替えさせたものの、半袖のリゾートワンピースではやはりかなり寒そうで、ベッドから持ってきた毛布を彼女にまとわせる。
時間が進むにつれて夜が近づき暗さはさらに増していた。
その間にも何度か落雷音が轟き、そのたびこの子はビクビクしていた。
「 子供っぽい、いかにもな理由ですよ。私の世界はとても狭くて、母に拒否されたら自分がどうすればいいのか、どこに行けばいいのか分からなかった。だから、コーンに縋ろうとしたんです。ただそれだけのことです 」
俺を見つけることは決して叶わなかったそれを
思い出すたび、この子は心細さを味わって来たのだろうか。
雨量に比例するように愛しさが倍増してゆく。
長い間この子を一人にした罰を、俺はいま味わっているのかもしれないと思った。
「 敦賀さん 」
「 うん? 」
「 一緒の毛布に入って下さい 」
「 ……くす。どうした?やけに甘えて来るな、君は 」
「 敦賀さん。いま私たちは何でしたっけ? 」
「 ん……ラブ度高めの恋人同士 」
「 だからです 」
「 だからなのか?じゃあ、今は緊急事態だからそれは忘れようって言ったら君はどうする? 」
「 ……言うんですか? 」
俺を迎え入れようと毛布を持ち上げた腕は細く
言うのかと問いた瞳が心細げに縋り付く。
胸に去来する甘美に優しく微笑み、抱き上げた最上さんごとソファに腰を下ろした。
「 言わないよ。そんな勿体ないこと 」
「 もったいない? 」
二人で一緒の毛布にくるまり、ぬいぐるみを抱くように彼女が俺を抱きしめる。
その体の冷たさに、俺は正直ギョッとした。
「 やっぱり敦賀さん、あったかい 」
「 なっ…毛布だけじゃ寒かったのならそう言えばいいだろう!なんでこんな冷たく… 」
「 なんでって……。だって、今だって敦賀さんが私を抱きしめてくれるのって、ラブ度高めの恋人設定だからでしょう? 」
「 バカなのか、君は。いまは緊急事態だって言っただろう! 」
どうすべきかと悩んだ。
山小屋には寒さ対策の一環として、暖炉が設置されていた。
だが薪は納屋の中にあった。
たとえ取りに行ったとしても、この雨では濡れて使い物にならなくなる。
小屋の中に燃やせるものは何も無かった。いや、正確にはひとつだけあった。
「 弱火の炭でも無いよりマシだ。使おう!キョーコちゃん、ちょっと待ってて 」
「 ヤです!!どこに行くんですか!? 」
「 キッチンに行って戻って来るだけだよ。火消しツボを取りに行くだけだから 」
「 だったらすぐじゃないですか。一緒に行く! 」
「 ………っ… 」
彼女はやたら甘えていた。
寒かったからそうなったのか、恋人設定だからそうしているのかは俺には判らなかったけれど。
離れたくないと言うのならそれでいいと思った。
それを拒否する気持ちは微塵も無かった。
炭が起こったのを確認して、暖炉の前にソファを置いた。
「 バカだな、私 」
「 ん? 」
「 敦賀さんが暖炉に炭を入れてくれる前、何か燃やせるものは無いかなって考えていたんです。服を燃やせば…って思ったけど、でも全部濡れちゃっているし。
けどその前に、そもそも自分が着て来た服は一着だけで、あとはLMEから支給されたラブミーツナギと敦賀さんが買ってくれた服しかなかった事に気付いた。燃やせるものなんか何も無かった。私は何も持っていなかったって思った 」
「 君の物を燃やす必要はないよ 」
「 ……だから、いっそ自分の体がピノキオだったら良かったのにって思った。そしたら、足だって腕だって燃やしてくれって言えたのに 」
「 たとえ君の体がピノキオと同じ木でできたものだったとしても俺は君を燃やさない。そんなこと絶対できない。
それより、寒いのは変わらない?いっそ直に触れ合った方が温まるかも知れないな 」
「 え? 」
「 キョーコちゃん。ワンピース脱いで 」
「 え?え? 」
「 上半身だけでいい。肩からはだけさせればいいから。俺もシャツを脱ぐから 」
「 …っ……で、も…… 」
「 寒いんだろ?大丈夫。俺は平気だから遠慮しないでいいから 」
「 きゃっ?!やだ、敦賀さん。だって私……っ… 」
「 あ……そっか、ごめん!!下着、全滅だったんだ…っけ… 」
下着になってもそれはビキニ。そう言い聞かせて自分を騙そうとしたけれど、よく考えたらそうだった。
ワンピースの下は彼女の肌しかなかった。
「 ごめん、無理矢理こんなこと。やっぱり俺…… 」
「 やっ!どこに行くんですか?敦賀さん、行かないで!! 」
「 ……だって、嫌だろ。さすがに 」
「 嫌じゃない!嫌じゃないですから!!どっか行っちゃうぐらいならいま脱ぎますから 」
俺を頼る甘い視線。
俺を引き止める細い腕。
震えているのは寒いせい?それとも……
「 そうしてまで?……俺が、直接温めても平気?まだ寒い? 」
「 寒いです。だから、強く抱きしめて欲しい 」
「 ……ん。君がそう言うのなら。……これ、昨夜と逆だな 」
二人で眺めた満点の夜空は人生初の美しさ。
あんなにきれいな星空はきっと、君と一緒じゃなきゃ見られなかった。
「 そう言えばそうですね。でも、一応言っておきますけど、狙って言った訳じゃないですよ 」
「 そんなの、どっちでもいいよ、俺は。……ごめんね、もっとくっついてもいい? 」
「 はい、平気です。ごめんなさい。私、冷たいですよね 」
「 全然、構わないよ。俺は、どんな状況下であっても君が相手なら喜んで… 」
ごく自然に
最上さんの額に唇を乗せた。
何を思ってくれたのか、俺を見上げて薄く微笑んでくれたこの子のそれが嬉しくて、そのまま彼女の唇にも。
寒さで震える口内を温め、細い背中を更に近付け
頬を抱き上げ互いのまつ毛が微かに触れあい、互いの心音が重なり合う。
一枚の毛布に一緒にくるまり、小刻みに揺れる彼女の体に自分の体熱を分け与え、直に触れたこの子の素肌が生きている実感を俺に与えた。
「 こういう非日常があると生きてるって実感が強くなるよな 」
「 そうですね。生の有難みを感じます 」
雨はまだ降っていたのかもしれない。
けれど自分にはもう雨音など聞こえていなかった。
暖炉の中で控えめにパチパチはじける炭の音と、俺の腕にくるまったこの子の素肌を通して届く心音だけを感じていた。
不思議だね。
君を身近に感じるほど俺はこんなにも安心出来る。
言葉を交わすほど恋しくて
笑顔を見るたび愛しくて
触れ合う度に欲しくなる。
…君が好きだよ…
お互いを抱き締め合いながら
愛しさが更に増しゆくのを実感した夜だった。
⇒13話 に続く
イチャイチャさせていたら晩御飯を食べさせる機会を逃してしまった(笑)
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