R4 技術士試験の解答例 [必須Ⅰ-1 DX] (R4.8.5更新) | 技術士を目指す人の会

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2008年に技術士合格後、「技術士を目指す人の会」を立ち上げ、多数の技術士を輩出。自身も勉学ノウハウを活かして行政書士、世界史検定2級、電験三種に合格。

【問題】必須Ⅰ-1

 近年、デジタル化が進み、国では2021年9月1日にデジタル庁が発足するなど、デジタルトランスフォーメーション(以下「DX」という。)社会の構築として、あらゆる分野で検討が開始されている。インフラを支える上下水道事業においても、人口減少による料金、使用料収入の減少、技術者の不足や老朽化施設の増加など様々な課題を抱える中で安定的に事業を継続させるため、今後、DXの活用について検討が求められる。

このような状況を踏まえ、下記の問いに答えよ。

(1)上下水道事業に共通するDXに関する状況を踏まえ、技術者としての立場で多面的な観点から3つの課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、その課題の内容を示せ。

(2)前問(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対してDXを活用した複数の具体的な対策を示せ。 

(3)前問(2)の対策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。

(4)上記事項を業務として遂行するに当たり、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から必要となる要件、留意点を述べよ。

 

 

【解答例】

1 上下水道事業におけるDXに関する課題

(1)料金及び使用料収入の減少への対応

人口減少、水需要減少により上下水道の料金及び使用料の収入が減少している。財源の不足は、施設の維持管理等に甚大な影響を及ぼすことになる。このため、料金や使用料の適正化を図るとともに、DXを活用することにより、業務の合理化を図り支出を抑制することが課題になっている。

(2)技術者不足への対応

人口減少により技術者を確保することが困難になっている。また、新たな技術者を確保できた場合でも、技術の継承に相応の時間を要する。このため、DXを活用することにより、上下水道施設の運転管理の効率化や設計・施工・維持管理に関する技術支援の向上が課題になっている。

(3)老朽化施設の増加への対応

高度成長期に建設した上下水道施設の老朽化が進んでおり、厳しい財政状況のなか施設の長寿命化、更新を適切に実施する必要がある。このため、DXを活用することにより、劣化予測に基づく更新計画を策定し、これを確実に実行することが課題になっている。

 

2 最重要課題に関する解決策

前述の課題のうち、技術者不足への対応は、喫緊の課題であり、DXの活用により高い効果が得られることから、最重要と位置付けて以下に解決策を示す。

(1)監視制御装置による施設の広域的な管理

 上下水道施設に監視制御装置を設置することにより、通信ネットワークを構築した上で、主要な浄水場や下水処理場の中央監視制御システムにおいて、複数の施設の運転管理を集中的に実施できる環境を整える。

監視制御装置は、施設毎に仕様、データ形式が異なる場合、情報のやり取りが困難になる。このため、システムの互換性を確保できるよう、共通のアプリケーション、標準的なプラットフォームを介してデータ通信を行う。さらに、システムを構成するハードウェアは、標準化された仕様の製品を採用し、開発コストの抑制を図るべきである。

(2)施設の運転管理や現場作業の自動化・遠隔化

 浄水場では、水源水質に応じた薬品注入量の調整や水需要に応じたポンプ運転等を行い、下水処理場では、流入水の水質、水量に応じた風量等の調整を行っている。これら施設の中央監視制御システムにAIを導入し、水処理の強化と運転管理の自動化を実現する。

水道の配水池、隧道、水管橋、下水道の暗渠等の点検は、水中、水上、高所で行う必要がある。遠隔操作により画像確認できるドローンやロボット等を導入し、維持管理の強化と省力化を図る。

 工事現場では、広い範囲で掘削作業を行う場合があり、遠隔操作や自動運転のできる建設機械を導入し、施工の生産性向上と省力化を図る。

(3)情報の高度化と活用

関係者間において正確かつ臨場感のある情報伝達を行うため、3次元データによるコミュニケーションを促進する。具体的には、BIM/CIM、VR・AR・MR等を利用し、設計・施工・維持管理に係る業務の効率化を図るとともに、指導・研修体制を強化して職員の技術力を効果的に高める。

 

3 解決策によって生じるリスクとその対策

DXの推進に際して、クラウドを利用することに伴い、コンピューターウイルス感染によるデータ消失や情報漏洩、ハッキングによるテロ行為等への対応が必要になる。このため、ファイヤーウォール機能の強化、相互認証の採用、データの暗号化等の対策を講じた上で、情報セキュリティ対策の責任者を配置し、円滑にリスク対応を実施できる体制を整える。

また、デジタル技術の進歩は目覚しく、現行の解決策は陳腐化する可能性がある。このため、解決策やリスク対応は、PDCAサイクルにより継続的に改善していく必要がある。

 

4 業務遂行において必要な要件・留意点

業務遂行にあたって、公衆の安全、健康及び福利を最優先にするとともに、関係法令を遵守する必要がある。さらに、社会、文化及び環境に対する影響を予見し、こうした影響を最小化することにより、社会の持続可能性の確保に努める。

 

【出題された背景や狙い・解答に繋がるポイント】

問題文にも示さている通り、令和3年9月、デジタル庁が発足しました。デジタル庁は、デジタル社会形成の司令塔として未来志向のDXを推進し、令和3~7年度までの5か年でデジタル時代のインフラを作り上げることを目指しています。

また、国土交通省は、DXの取組みを横断的に推進するため、令和2年7月、「国土交通省インフラ分野のDX推進本部」を設置した後、令和4年3月には「インフラ分野のDXアクションプラン」を公表しています。このプランは、令和3~7年度の5か年を計画期間とし、各インフラで導入するべきデジタル技術を示したものです。

このように近年、国がDX関連の取組みを強化しており、このことが当該テーマについて出題された背景になっています。

DXは、平成16年にスウェーデンのエリック・ストルターマン教授が提唱した概念で、その定義は、「ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」となっています。また、平成30年12月に経済産業省が公表した「DX推進ガイドライン」によると、DXの定義は、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」となっています。このようにDXの定義は、時代、地域、使う人によって変わってきますが、DXはDigital Transformationの略語であることから、シンプルに「デジタル技術による変革」という意味と思って良いでしょう。

この必須科目Ⅰ-1は、問題文の中でデジタル庁の発足について触れています。前述した通り、デジタル庁は5か年で環境整備を行うことを目標にしています。このため、将来的に社会変革をもたらすようなデジタル技術ではなく、国が公表した「インフラ分野のDXアクションプラン」等で提示された技術のうち上下水道に関連するものを書き示すことが、解答を作成する際のポイントになります。

 

【当該テーマについて上記以外で勉強するべき事柄】

DXについては、これまでに必須科目では出題されたことがありません。ただし、令和4年度の上水道及び工業用水道の選択科目Ⅲ-1、同年度の下水道の選択科目Ⅲ-2で、監視制御装置について出題されています。注目度の高いテーマであることから、今後も引き続き勉強しておくべきです。

市町村合併が行われた地域では、複数の上下水道施設が点在し、それぞれの施設に設置された運転監視装置の構成や仕様が異なるケースがあります。こうした施設では、運転管理や維持保全が複雑になります。このため、広域連携を推進するにあたっては、DXについても検討を行っていく必要があります。このようにDXと広域連携は、密接に関連したテーマであり、上下水道事業の基盤強化を図るための有効な手段であることから、今後の試験対策として、広域連携を含め事業の基盤強化に関する取組みについて勉強することをお勧めします。

 

 

 

 

 

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