新聞や雑誌で取り上げられた水循環、水道、下水道に関する記事のうち、技術士試験で出題される可能性があるテーマ、継続研鑚の観点から勉強するべきテーマについて解説をしたいと思います。
今回は『水道産業新聞』の4月1日号からです。テーマは「最適な水道システム」です。
■最適な水道システムの実現へ/ビジョンと実施計画を公表/神奈川県内(企)
神奈川県内広域水道企業団は3月23日、「かながわ広域水道ビジョン」と「実施計画」を公表した。ビジョンは、概ね30年後における企業団の将来像とその実現に向けた取り組みの方向性を定めたもので、企業団と構成団体全体における最適な水道システムの実現へ、水道施設の再構築に向けた企業団浄水場の増強や管路の整備などを推進していくことを掲げている。実施計画は、ビジョンで示した取り組みの方向性に沿った令和3年度から7年度までの具体的な事業内容を定めている。
今週の紙面 | 水道産業新聞社 (suidou.co.jp)
●水道システムについて
水道水を供給するためには、取水、貯水、導水、浄水、送水、配水施設の全てが正常に機能する必要があります。
施設が「連結」しているわけですから、その全てが正常である必要があります。
さらに、水道施設は土木構造物、建築物、管路、機械、電気、計装で構成されています。
施設を構成する要素が「集合」して、全体の機能を担保するわけですから、構成要素すべてが機能を維持する必要があります。
つまり、水道システムとは、全体の水道施設を意味しているわけです。
水道システムの意味については、別のページで説明しています。詳細は こちら をどうぞ。
●最適について
「最適」とは、物事が一番ちょうどいい状態にあることを意味します。
最適なお風呂の温度なら、一番ちょうどいい湯加減になります。
では、「最適な水道システム」となるとどうでしょうか。
意味としては、一番ちょうどいい全体水道施設になります。
こうなると難しくなります。
水道システムについては先ほど説明しましたが、このフレーズを使うとき、部分の機能だけではなく、全体としての機能を注視する必要があることを意図しています。
このため、「災害が発生した時に備え、水道システムは強靭性を有する必要がある」という使い方や、「事故が発生しないよう、水道システム全体が機能を維持できるよう適切に管理する必要がある」という使い方をすることが多いです。
つまり、部分的に耐震化したり、更新したりするのではなく、全体としてあるべき姿を見極めて、適切な範囲で耐震化・更新を行う必要があるわけです。
このことを伝える上で、水道システムというフレーズはとても便利です。
ところが、最適な水道システムとなると、少し使い方に違いが生じます。
「最適な水道システム」というフレーズは、「無駄のある水道システム」が存在していることを意味しています。
最適な水道システムの実現ためには、無駄な部分を排除して、一番ちょうどいい状態の水道施設を構築する必要があります。
先ほどは、耐震化や更新に際して、水道システムというフレーズを使うのが便利だと説明しました。
最適な水道システムというフレーズは、耐震化や更新により施設の強靭性の強化や機能回復を図ることを意味するものではありません。
最適な水道システムというフレーズは、水道システムに存在する無駄を省くことを意味します。
それでは、水道システムの中に無駄はあるのでしょうか?
当然ですが、取水、貯水、導水、浄水、送水、配水施設という連結した施設のなかに、無駄なものはありません。
それでは、どんな場合に無駄が生じるのか?
人口増大にあわせて、段階的に配水施設を整備した場合、多数の施設が存在することがあります。
また、簡易水道事業の統合を行った事業体では、小規模な施設が多数存在するようなケースがあります。
この場合、施設の更新時期が到来した場合、自然な形で施設の統廃合することになるはずです。
また、隣接した市町や県で、それぞれが取水、導水、浄水施設を保有している場合、施設の共同化や事業統合することにより、統廃合する方法があります。
つまり、広域化です。
市町、県のという枠組みを外すことにより、施設の運転管理と維持管理の合理化を図るアイデアの幅が広がります。
さらに、統廃合の検討の際、標高の高い場所に施設を移設すれば、省エネルギーとCO2削減が可能になります。
このように、最適な水道システムの構築は、水道施設の統廃合により無駄をなくし、運転管理や維持管理に要する資源(人・物・エネルギー・金)を抑制することを意味します。
ただし、何も考えずに、施設の統廃合や広域化を進めればいいというわけではありません。
施設の統廃合をするにあたっては、リスク分散を考慮する必要があります。
例えば、浄水場がA、B、C、3か所あったとします。能力割合が、Aが30万m3、Bが40万m3、Cが30万m3だったとします。
Cの浄水場をBに統合すると、能力は、Aが30万m3、Bが70万m3になります。
Cの浄水場の運転管理と維持管理が不要になり、合理化を図ることができます。
しかし、Bで事故が発生したとします。
必要な水量が60万m3だったとしら、Aだけで給水しても、30万m3の不足が生じます。
統廃合する前の状態ならどうだったのか?
Bで事故が発生しても、AとCで60万m3供給できますから、必要な水量を賄うことできます。
このように施設の統廃合を極限まで進めればいいとうわけではなく、リスク分散を図る必要があります。
こうした安全確保を行った上で、合理的な判断に基づき、適切な施設数までに統廃合を進めることが重要になります。
それから、広域化についても、地域により環境、資源、住んでいる人の価値観が異なるため、何でも一つにすればいいというわけではなく、適切な範囲で統合することが大切になりますね。
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●下水道の基礎知識
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※アセットマネジメントとストックマネジメントの違いについては こちら をどうぞ。
※「持続と進化」については こちら をどうぞ。
※「資源の循環」については こちら をどうぞ。
※「水の循環」については こちら をどうぞ。
※「下水道による排除・処理」については こちら をどうぞ。
※「新下水道ビジョン加速戦略」については こちら をどうぞ。
●過去問と解答例
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