技術士合格法(5.5 情報の体系化 )(R6.4.3更新) | 新見一郎

新見一郎

勉学を通じて成長をナビゲートする講師。
2008年に技術士合格後、「技術士を目指す人の会」を立ち上げ、多数の技術士を輩出。自身も勉学ノウハウを活かして行政書士、世界史検定2級、電験三種に合格。

5.5 情報の体系化

 

●考える作業と書く作業

これまで情報の分析について述べてきましたが、ここからは「情報の体系化」について話をしていきます。

情報の体系化の話をする前に、解答の作成という作業が「考える作業」と「書く作業」の2つで構成されていることを理解しておく必要があります。

技術士二次試験の勉強において、「考える作業」とは、出題者が何を質問しているのか理解して、その質問への答を見つけることです。「書く作業」とは、考えたことを文章にして、相手に伝えることです。

つまり、「考える作業」は自分が答を見つける作業で、「書く作業」は相手に伝える作業ですから、全く異なる作業なのです。

それにも関わらず、多くの人は、これら2つの作業を同時にやってしまいます。

考えながら書くわけです。

なる作業を同時にやることをマルチタスクと言いますが、これをできる優秀な方は存在します。

しかしながら、往々にして、自分が書きたいことや、自分が知っていることを書いてしまいます。

資格試験の場合、採点官に評価してもらう必要があります。

やはり、まずは考える作業により、正答を見つけた上で、書く作業に移行するべきです。

また、考えながら書くと、考えがまとまっていない状態で解答を作るため、重要な情報を欠落させしてしまうミスもしますし、良い文章を書くことも難しいです。

 

このため、まずは「考える作業」を終えて、その後で「書く作業」を行うべきです。

 

では「考える作業」とは何なのか?

実は、試験対策における「考える作業」とは、情報の体系化を行うことなのです。

 

●情報を体系化する方法

情報の体系化とは、情報を収集して、体系的に整理するものです。

情報の体系化により、情報の本質を理解できるようになります。

文章を作成するのが容易になりますし、情報の記憶も容易になります。

情報の体系化には、次の2つの方法があります。

「情報を集めてから共通点・相違点を探す出す方法」と、「予め用意した整理項目に沿って情報を集める方法」です。

まず、「情報を集めてから共通点・相違点を探す出す方法」についてです。

例えば、リンゴ、トマト、メロン、レタス、ピーマンという5つの青果物があるとします。

これらの共通点を探します。

「味」という視点では、リンゴ、メロンはフルーツで、トマト、レタス、ピーマンは野菜です。

また、「色」という視点では、リンゴ、トマトは赤で、メロン、レタス、ピーマンは緑です。

「硬さ」では、リンゴ、メロンは硬いですが、トマト、レタス、ピーマンは柔らかいです。

情報を集めれば、必ず共通点と相違点が存在します。

これを意識して、情報を整理すれば、見えてくるものがあります。

ただし、共通点や相違点をゼロから探すのは、大変な労力が必要になります。

このため、「予め用意した整理項目に沿って情報を集める方法」が重要になってくるわけです。

例えば、先程の話で考えると、「味」という整理項目を予め用意しておきます。

「味」に当てはめるのであれば、果物がリンゴ、メロンで、野菜がトマト、レタス、ピーマンです。

こうした整理項目が存在するのであれば、新たにイチゴという情報が出現したとしても、果物に配置すればいいですし、肉や魚についても、「味」という整理項目に基づいて分類すればいいわけです。

このように、整理項目が、最初から存在していれば、情報の整理は楽です。

試験勉強においても、「予め用意した整理項目に沿って情報を集める方法」の方が楽です。やるべきです。 

では、技術士の試験勉強をする上で予め用意するべき整理項目とは何なのでしょうか?

 

 

 

●現状・課題・対策という整理項目

●現状・問題・対策という整理項目

整理項目を設定するためには、事前にやっておくべきことがあります。

それは、情報を整理する目的を明確にしておくことです。

先程の青果物の話で考えると、整理する目的が、スーパーマーケットの陳列だったとします。「色」で分けて陳列すれば美術的には価値があるかもしれませんが、スーパーマーケットでメロンの横にピーマンが置いてあるというのもどうでしょうか。やはり、食材は「味」という整理項目で分類して、陳列するのがいいでしょう。

整理項目を設定するためには、情報を整理する目的を明確にしておく必要があるわけです。

話を技術士試験に戻します。

技術士試験において情報を整理する目的は何でしょうか?

試験に合格するためであり、技術士になるためです。

技術士はコンサルタントの資格です。コンサルタントは、所定の検討項目について、顧客の「現状」を調査し、そこに存在する「問題」を発見し、技術的な「対策」を提案することにより、これを解決する技術者です。技術士になるということは、こうした調査・検討を行うことができる専門家になることを意味します。当然ですが、技術士試験は、受験生が技術士になる資質があるか確認するために行うものです。

つまり、技術士試験において情報を整理する目的は、技術士として調査・検討を行うことができるようになることです。これを言い換えると、技術士試験における情報の整理項目は、以下のようになります。

 

現状・問題・対策

 

所定の検討項目について収集した情報を「現状・問題・対策」という整理項目に沿って当てはめていけば良いわけです。

この整理項目は、技術士に限らず、私たちが目にする様々な資料において頻繁に使われています。

「現状・問題・対策」を明確にすることで、そのテーマの本質について理解を深めることができます。

このため、複数のテーマについて「現状・問題・対策」を作成するべきです。

下図の「極めて重要なテーマ」と「得意なテーマ」については、「現状・問題・対策」を作成するべきです。

これらテーマについては、十分に時間をとって勉強するべきです。

また、「重要なテーマ」についても、できるだけ多くのテーマについて「現状・問題・対策」を作成するべきです。

 

本書では、主要テーマの「現状・問題・対策」を作成しています。以下のとおりです。

 


これをもとに、自分で調べた情報を追加して、「現状・問題・対策」を自分のものにすることが合格への近道になります。

 

●維持管理という視点

社会インフラ全体の老朽化が進み、維持管理を適切の実施することが、技術士の共通の課題になっています。

このことを踏まえると、上下水道の「維持管理」をクローズアップして、情報を整理しておくべきです。維持管理に関する整理項目として、「対象」と「取組」に着目すると良いです。

具体的には、下表のとおりです。

 

 

まず、維持管理の「対象」は、水道の場合、水道品質と水道施設に分類できます。

水道品質は、水道水の商品価値です。水質・水量・水圧に分類できます。

水道施設は、水道水を製造・供給するもので、管路・構築物・設備に分類できます。

また、水道施設は、工程という観点から、水源・取浄水・送配水・給水にも分類することができます。

次に、維持管理の「取組」についてです。「取組」は、ハードとソフトに分類できます。

また、維持管理は、運転管理、保守点検、補修、補強、更新等を行うことを意味します。

これらは、実施時期により、予防保全・事後保全に分類することができます。

また、維持管理に危機管理という概念を含めると、未然防止・バックアップ・応急対応という3つに分類することもできます。

このように、維持管理を様々な角度から分類し、何を聞かれても体系的に説明できるよう準備しておくことが重要です。

 

●マトリックスによる情報整理

次は、情報の整理に関する応用編です。

各種業務で、顧客が抱える課題やその対策について検討することをコンサルタントは求められます。

情報の整理を行う際、一つの整理項目ではうまく整理できない場合がありますが、こういう時に便利なのがマトリックスです。

下図に示すとおり、管路の維持管理に関するマトリックスについて説明します。

これは、「事前(トラブルが生じる前)」と「事後(トラブルが生じた後に)」という条件と、「平常時」と「非常時」という条件で作ったマトリックスです。

「事前・事後」×「平常時・非常時」というマトリックスによって、4つのフレームができます。

これら4つのフレーム、「点検監視」、「機能回復」、「予防措置」、「被害抑制」に言い換えることができます。

フレームを眺めていると、いろいろなことが見えてきます。

右上のフレーム「被害抑制」は、左上のフレーム「予防措置」を充実させることにより、取組の必要性が低くなります。

さらに、「予防措置」を適切に実施するためには、その下のフレーム「点検監視」の充実が不可欠となることも明確になります。

このように考えていくと、「被害抑制」、「予防措置」、「点検監視」が連動していることが理解できます。

 

●WHY思考という情報整理

課題を遂行できる方法が簡単に見つかるようなら、それは、既に解決できているはずです。

解決する方法がわからないからこそ課題になっているわけです。

このことから、課題を遂行するためには、これまでとは違った角度で物事を眺める必要があります。

これを実現できるのがWHY思考です。

課題遂行の検討にあたっては、どのようにしたらうまくいくのか、その方法(HOW)を考えるとうまくいきません。

課題を遂行するためには、課題が生じている原因(WHY)を見極める必要があります。

WHY思考は、徹底的に原因を追究するための思考ツールです。具体的なやり方は、とてもシンプルです。

以下のとおりです。 

 

「WHY」と「BECAUSE」を5回繰り返して、最後に「HOW」を考える

 

下図は、管路の耐震化対策について考えた場合です。「HOW」、どんな耐震化対策を講じるかではなく、「WHY」、なぜ耐震化対策が必要か自問します。

そして、「BECAUSE」、原因や理由を考える。

これを5回繰り返します。

図6.7のとおり、1回目の「WHY」は耐震不足がテーマになっていますが、5回目の「WHY」までいくと、財政不足がテーマとして浮上しています。

つまり、耐震化対策は、財政的な問題を解消しない限り、遂行できないことがわかるわけです。

これまでとは違った角度で課題を見つめることができたわけです。

この段階まで到達したら、最後にHOWを考えます。

収入増加と支出抑制の方法について考えます。

このように、WHY思考を行うことによって、これまでとは違った情報や考え方をクローズアップすることができます。


 

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