賞品でもらったのでも小さい方の七面鳥でもなくて、
大きい方のさ?

新潮文庫 ディケンズ『クリスマス・カロル』140ページ

私は元来、今日がクリスマス・イブだからといって、この作品
を採りあげるほどセンチメンタルな人間ではないのだが、この
数年自分の身の上に起こっていることを考え、案じ、悲観しつ
つ、この作品を採りあげざるを得なくなってしまった。今日は
極めて私的な、そして感傷的な記事になることをお許し願いたい。

なぜ私にとって、クリスマス・イブが年々切ないものになって
いくのだろうか。単に歳をとって、無邪気に喜べないからだろ
うか。違う。断じて違うのである。それは100%私が責めを負う
べき問題なのである。

あなたはささやかなよろこびを金の問題にかえた・・・
あなたはささやかな祝福を金の問題にかえた・・・


そうだ。その通りだ。私が憎むべき罪は「あなた」自身ではな
い。「あなた」に金の問題を意識させ、そうせざるを得なくさ
せたもの、つまり「貧」である。

私は貧者である。貧者であるのに、人に振る舞い、分不相応の
高い物を身に付け、分不相応の高い車に乗り、分不相応の高い
物を食べる。それゆえますます貧なのだ。「貧は罪ならず」そ
の通り。しかしそれがまわりの人を傷つけるとしたら、それは
罪ではないと言えるのか。

チャールズ・ディケンズはこの作品を通じて、私に問う。

「お前はスクルージではないのか?」
「お前自身がスクルージなのだ、お前はそれを笑いさえした」


お前には1500円のケーキがふさわしいのに、いや、それでも
なお十分すぎるくらいなのに、それを見ようともしない。あ
まつさえそれを嘲笑した。お前には今や1500円の100万分の
1の価値すらない。

1500円のケーキをうれしそうに買ってゆく人たちを見るがい
い。この世で祝福が得られるのはあの人たちであって、お前
ではない。プレゼントのないクリスマスが子どもたちにとっ
てどんな意味を持つのか、お前は考えたことがあるのか? 
自分はいったい何時までクリスマスを祝ってもらっていたの
だ、それを思い出すがいい。

お前は文字通りの貧者であると同時に「魂の貧者」でもある
のだ。それだから、クリスマス・イブが近づくと何となく苦
々しく思い、切なくなるのだ。それはお前自身の罪に対する
相応の罰なのだ。その罰を受けるがいい。お前にはもう二度
とささやかなクリスマス・イブはやってこないだろう。そし
て、クリスマスがやってくるたびにスクルージを思い出すが
よい。

「私たちの約束は古いものです。その時分、私たちはふたり
とも貧乏でそれに満足していました。辛抱して働きさえすれ
ば、世間並みの運はきっと向いて来ると思っていたじゃあり
ませんか。あなたは変わってしまったんです。約束をした時
分のあなたとはまるで別の人のようです」
(61ページ)


「変わって来た性質と変わってしまった心持、暮らし方が変
わり、目的とするものが変わったんです。私の愛なんかあな
たには何の値打ちもなくなってしまったのです。もし私たち
の間に約束がなかったとしたら」と娘はやさしく、しかし、
しっかりとスクルージを見つめて、「あなたは今の私を探し
出して愛を求めなさいますか? そうはなさいますまい。決
して!」
(62ページ)


「人間よ、もしお前の心が石でなく人間なら、余計とは何で
あるか、どこに余計なるものがあるのかはっきりわきまえる
までは、この悪い文句をさしひかえるがよい。どんな人間を
生かし、どんな人間を死なせるかお前に決められると言うの
か。神の眼には、この貧しい男の子供何百人よりお前のよう
な人間こそ生きていく値打ちもなければ、生かしておくのに
ふさわしくもないのだぞ。おお、神様! 草の葉の上の虫け
らが、塵の中で空腹にうごめく同胞たちの間に生命が多すぎ
るなどとよくも言えたものだ!」
(87ページ)


だからお前はこれ以上周りの人たちに迷惑をかけるようなら、
むしろ消えてなくなってしまった方がいいのだ。お前はもう
改心するのには遅すぎ、負った負債は多すぎ、失った良心も
また馬鹿にならないのだ。

お前には自分の墓が見えないのか。そこに何と書いてある?
お前がその時を迎えたときには、もう誰もお前に同情なんて
してくれるはずがない。お前はあまりに罪が重すぎる。お前
は何も残さなかった。何も与えなかった。それなのに、あま
りに多くを失ったのだ。

「お前、今日はクリスマスだよ」
「あなたとクリスマスに免じてあの人の健康を祝いましょう
よ。あの人のためではありませんよ。どうか長生きをなさる
ように! クリスマスおめでとう! 新年おめでとう! あ
の人もそれでさぞ楽しく幸福になるでしょうよ」
(88ページ)


クリスマス・カロル (新潮文庫)/ディケンズ

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