オシロメトリ・シミュレーション論文へのAJRCCMのEditorialについて
前の記事で取り上げたFoyらのシミュレーション論文[1]に対して、AJRCCMの同じ号の巻頭に“Finally More Direct Evidence That Impulse Oscillometry Measures Small Airway Disease”と題するEditorial[2]が掲載されていた。天下のAJRCCMのEditorialなので、タイトルをそのまま信じ込む読者がいても不思議ではない。実際、Foy論文は多くの気管支喘息の臨床論文に引用されている。ただし、欧州のアレルギー臨床の著者による論文がほとんどで、呼吸メカニクスに関連した日米の論文は(私が調べた限り)なかった。日本呼吸器学会でも本論文に言及している発表は(私の知る限り)なかった。呼吸メカニクスの研究経験のある研究者は、電気回路モデルが間違いだったこととFoy論文のクズさ加減をよく承知しておられるからであろう。Editorialの著者van den BergeはFoy論文の共著者ではないが、Foy論文のターゲットであるATLANTIS論文[3]の共著者で、ATLANTIS studyの中心施設であるオランダ・フローニンゲン大学医学部の教授である。また、Foy論文の責任著者のSiddiqui教授はATLANTIS論文の共著者である。彼らとAJRCCMの担当編集委員の誰も、Foy論文の欠陥に気づかなかったとは到底考えられない。ATLANTIS studyのお仲間がアリバイ作りのためにComputer Scientistにシミュレーションを依頼して論文を作成し、手前味噌100%かつ騙す気満々のEditorialとともにAJRCCMに掲載させた、というのが内幕であろう。なにゆえ彼らは末梢気道閉塞仮説にかくも執着するのか? Editorialには9個の論文が引用されている。#1,#2,#9はATLANTIS試験に関するもので、#3は当該論文、#4はCT画像ベース気道モデル作成の論文(2004)、#5は電気回路モデルの論文(1997)、#6はオシロメトリの総説(2003)、#7と#8はHoggらによるマイクロCT画像による肺気腫の末梢気道の形態計測論文(2017, 2011)である。シミュレーションに関する引用文献はただ1編であるのに、気管支喘息ではなく肺気腫に関する論文が2編もある。これらの引用文献は、Editorialの著者がシミュレーションの素人であること、Hoggの末梢気道閉塞仮説の信奉者でその仮説を無批判に気管支喘息に適用しているに過ぎないこと、を示している。文献#8は2011年のNEJMの論文で、肺気腫では末梢気道の数が激減し、そのため末梢気道抵抗が増加するという趣旨の論文である[4]。私は論文に提示されたマイクロCT画像中に、極端に拡張した細気管支が可視化されているのを見出し、NEJMにLetterを送った(詳細は次の記事に記す)。共著者全員に転送されて検討された結果、掲載を拒否された経緯がある。翌年か翌々年、学会場で私はHoggから”You insulted me.”と突然言われた。Letterの件だろうと思い、“I did not insult you, but criticize your paper.”と答えた。Hoggとその周辺、文献#4,#5の著者らも、肺気腫の縦隔内気道が努力呼気時に虚脱することをよくよく承知しておいでである。非欧米人によるcriticismをinsultと受け止める彼らの心性が、末梢気道閉塞仮説に今なお執着する原因ではないか、と私は思う。文献1.Foy BH, Soares M, Bordas R, Richardson M, Bell A, Singapuri A, et al. Lung computational models and the role of the small airways in asthma. Am J Respir Crit Care Med 2019;200:982–991.2. van den Berge M, Kerstjens HAM.Finally More Direct Evidence That Impulse Oscillometry Measures Small Airway Disease.Am J Respir Crit Care Med 2019;200:951–952.3.Postma DS, Brightling C, Baldi S, Van den Berge M, Fabbri LM, Gagnatelli A, et al.; ATLANTIS study group. Exploring the relevance and extent of small airways dysfunction in asthma (ATLANTIS): baseline data from a prospective cohort study. Lancet Respir Med 2019;7:402–416.4. McDonough JE, Yuan R, Suzuki M, Seyednejad N, Elliott WM, Sanchez PG, et al.. Small-airway obstruction and emphysema in chronic obstructive pulmonary disease. N Eng J Med 365: 1567-75, 2011.