2023年10月17日に厚労省が株式会社メディファーマのGCP違反に関するプレスリリースを行なった。GCPとは good clinical practiceの略で、治験を実施する際に遵守すべき基準のことである。厚労省の発表を受けて各種メディアも夕から夜にかけて一斉に報道した。メディファーマ(以下メ社)は医療機関の委託で治験を行う治験施設支援機関(SMO)の大手で、創業以来約10年、組織ぐるみで違反していたと厚労省はみている。不正な治験を経て承認された医薬品・医療機器は計25品目あるが、現時点では健康被害などの報告はないという。メ社は呼吸器疾患の薬などの治験に関わっており、呼吸機能検査の不適切な実施があったとしているが、治験薬品名は明らかにしていない。薬効評価に呼吸機能検査を必要とする呼吸器疾患治療薬は気管支拡張剤と抗線維化剤で、この10年間に多くの新薬が上市されている。

 

 日本最大の医療系ウエブサイトエムスリー(m3.com)には翌18日の午前10時に記事がアップされた。医療業界の信頼を揺るがす重大ニュースであるが、とても奇妙なことに、トップページはおろか「ニュース」のページにもラインナップされていない(18日18時現在)。日経メディカルのサイトでは、「ニュース」の最上段にこの記事が17日付けでアップされているのと大きな違いである。注意喚起のために「気管支拡張剤と抗線維化薬の薬効評価の方法には疑問がある。薬剤名と違反の詳細を明らかにしていただきたい。続報を待つ」旨のコメントを投稿したが、ラインアップされないままに後続の新着ニュースに埋もれてしまっている。エムスリーにはこれまで拙稿をたくさん掲載していただき(気管支拡張剤の記事など)感謝しているが、本件の報道姿勢は納得がいかない。なぜだろうか?

 

 メ社の代表取締役社長の三原酉木氏についてインターネットで検索したところ、株式会社ヒューマHDの代表でもあったが、 9月19日をもって代表を降り、メ社もヒューマグループから離脱している。そのヒューマ社は、2020年3月に、エムスリーの子会社であるQLifeに被験者リクルートメント事業を譲渡している。つまり、治験事業においてメ社とエムスリーは密接な関係にあると推定される。治験不正のニュースがエムスリーのサイトの表に出ないのは、ジャニーズの性加害事件に対して沈黙したマスコミと同じメカニズムが働いているのではないかと、憶測せざるを得ない。日本のメディアの中でメ社の内情に最も精通しているであろうエムスリーには、本件の実態を独自に調査報道し、日本の治験事業の適正化に貢献していただきたいと思う。