閉塞性肺疾患学術部会が主催するシンポジウム「健康日本21(第3次)におけるCOPDの生命予後改善に向けた提言」をオンデマンドで視聴した。健康日本21(第3次)で掲げられたCOPDの目標は死亡率減少であり、呼吸器学会のプロジェクトも「死亡率減少 Motarilty Reduction」であるのに、シンポジウムのタイトルに死亡率という語はない。死亡率の目標値の設定がいかに非科学的であるかということを昨年7月にエムスリーに掲載された拙記事(臨床ニュース | m3.com)で説明したので、その影響かもしれない。

 

講演第1席の横山先生(前呼吸器学学会理事長)が死亡率減少が目標となった経緯を説明された。厚労省の基本方針は「科学的な根拠にもとづく目標であること、目標値の設定に当たっては公的統計等をデータソースとする」であり、COPDに関する公的な統計データは死亡率しかないので死亡率減少が目標となった、ということだった。そして、目標値の設定にあたっては東北大学の杉浦教授から「2017年、18年、19年の3年間のCOPD総死亡数の直線回帰式から2032年の粗死亡数を予測する」という提案がなされた、とのことだった。中学生でもダメ出しするトンデモな提案である。横山先生は呼吸器学会にも疫学の専門家が必要だと強調しておられたが、疫学の専門家であれば、死亡率の目標値の設定は不可能であり健康日本21から離脱すべきだと直言したであろう。

 

横山先生は第2次の目標である「COPD認知度向上」の最終評価がC(不変)であったことの原因分析は全く述べられなかった。その代わりに、「メタボリックシンドロームの該当者および予備軍の減少」の評価がD(悪化)であるよりはマシだといわんばかりの口調だった。しかし、該当者の減少と認知度向上は、目標達成の難しさが全く異なる。現に、メタボリックシンドロームの認知度はカタカナにも関わらずすでに90%以上である。メタボリックシンドロームを担当する方々の冷ややかな視線を横山先生は感じなかっただろうか。

 

横山先生だけでなく、すべての講演者も座長も認知度向上が達成できなかったことに対する反省の弁はなかった。その代わりに、行政や国会議員の協力の必要性を口を揃えて強調されていた。東北大の黒澤一先生もフロアから政治家とのコネクションの重要性を力説しておられた(黒澤氏については、本ブログの別記事を参照していただきたい)。まるで、業界団体が国の予算を分捕ってくる方策を協議しているような雰囲気だった。COPDの疾患概念の破綻を承知していながら政治家とのコネクションでうやむやにしようとは、唖然茫然である。政治活動の前になすべきは、1秒率低下のメカニズムの明確化、早期診断法の研究開発、吸入薬剤の作用部位の解明、である。彼らが「気流閉塞」という意味不明の非科学的な隠語を使って真の病態を隠蔽している限りは、このプロジェクトに協力する行政担当者も国会議員も、おそらくほとんどいないだろう。

 

呼吸器学会のホームページによると、閉塞性肺疾患学術部会に登録している呼吸器学会員は4000人を越える。彼らがCOPD死亡率減少プロジェクトに誇りをもって参画するとは私には到底思えない。呼吸器学会の資金と労力が本プロジェクトに費やされることに憤慨する部会員の方がはるかに多いだろう。