第1日と第2日に喘息の診療に関するランチョンセミナーに参加し、3名の先生方の御講演を拝聴した(「気道正常化を目指す上での早期介入の意義」、「喘息診療におけるトリプル療法の現在地」)。いずれの先生も、Vドット50, MMF(maximum mid-expiratory flow rate)などを「末梢気道指標」として紹介されていたが、私がフロアから「それらの項目を末梢気道の指標とする科学的な根拠はない。大気道の呼気時の狭窄で説明できる。」とコメントしたところ、いずれの先生にも賛同していただいた。喘息の臨床に携わる方々の間では認識が変化していることを実感した。

 

しかし、「Legendから学ぶ呼吸器学の未来」の「末梢気道病変のみかた」を講演された桑平一郎先生は、残念ながら同じままだった。講演内容には山ほど突っ込みどころがあるのだが、末梢気道(=内径2㎜以下の気道)の分布とフローボリューム曲線の解釈について以下に述べる。

 

1.気道の分岐次数ごとの内径の分布

図1左はWeibelが1963年に出版したMorphometry of the human lung1)のデータで、鋳型標本の計測結果である。講演では2017年にHoggらが著した総説2)の図が供覧されている。本図はWeibelの元データをHoggらが編集したものである。この図では内径2㎜の枝の数は第8分岐で最も多いことが示されている。しかし、これをもって末梢気道は第7-9分岐に多いと解釈するのは間違いである。私は手元にある文献1で確認したのだが、この図で2㎜と表示されているのは、正しくは2㎜以上2.5㎜未満の枝であり、2㎜未満の気道の数は提示されていない。また、次数が1増えると枝の数は2倍になるはずだが、鋳型標本作成時に欠失した枝もある。肺胞管に移行した枝は気道としてカウントされない。これらの条件を加味して図1左を作成しなおすと、図1右のようになると想定される。赤い部分が2㎜未満の数である。想定図の赤い部分を見ると、末梢気道の中で6次気管支の占める割合は0、8次の枝でも小数点以下のパーセント値である。内径2㎜以下の8次枝をCT画像で計測し得たとしても、それを末梢気道の代表としてはならないことがわかる。

図1. 気道の次数ごとの内径の分布

(左)鋳型標本の実測データ(文献2より転載)、(右)2㎜未満の枝の想定数

 

2.最大努力呼気検査

 本講演では、最大努力呼気検査で得られるVドット50やMMFについての説明が約12分なされたが、残念ながら、それらがなぜ末梢気道病変の指標になるのかの説明は全くなかった。同じ最大努力呼気検査で計測される1秒率やピークフローは大気道の状態を反映するのに、下降脚の形状が末梢気道を反映するというのは魔訶不可思議である。呼吸生理学のLegenndから説明が全くなかったことに落胆した視聴者は少なくないと思われる。実は、表明はされないものの、Legend ご自身が科学的根拠のないことを認めておられるからだろうと、私は推察する。フローボリューム曲線のピークだけでなく下降脚も大気道の状態を反映するとみなすのが妥当な解釈である。詳細は本ブログの別記事をご覧いただきたい(COPDの呼吸機能検査:(1)スパイロメトリ | コペルニクスな呼吸器学 (ameblo.jp))。その記事では COPD について述べているが、喘息の発作時や難治例で肺が過膨張になると、同様のメカニズムでフローボリューム曲線の異常が現われると考えられる。

 

 

文献

1. Weibel ER. Morphometry of the human lung. New York: Academic, 1963.

2. Hogg JC. et al. The contribution of the small airway obstruction to the pathogenesis of chronic obstructive pulmonary disease. Physiol Rev 97: 529 –552, 2017.