第2日は形態機能学術部会のYear Reviewと集会、部会主催のシンポジウム「肺の動きをみる」に参加した。

 

1.     Year ReviewにおけるX線動態撮影の紹介

 部会長の中野恭幸先生(滋賀医大呼吸器内科教授)が、2023年にAJRCCMに掲載された主要論文の紹介をされた。「気道評価」として3編、うち1編はX線動態撮影画像の1例報告1)だった(オンデマンドの23:50)。著者らによると、X線動態の側面撮影で大気道の呼気時の虚脱が可視化されたのはこれが初めてとのことである。私がフロアから撮影時の呼吸モードを尋ねたところ(オンデマンドの26:06)、「ゆっくりした呼気だと思う。論文にどう書いてあったかは覚えていない」との返事だった。ところが、後で当該論文を読んでみたら、明確にforced expirationと書いてある。やはり、中野先生にとって努力呼気での撮影は隠しておきたい不都合な真実なのだろう。詳しくは2022年2月にエムスリーに寄稿した拙著をお読みいただきたい(臨床ニュース | m3.com)。

 閉塞性換気障害において呼気時の気管狭窄がX線動態撮影で可視化されることは5年ほど前から滋賀医大放射線科2)や金沢大学呼吸器内科3)から発表されている。今さらYear Reviewで国外の1例報告をとりあげる必要はない。中野恭幸先生ご自身が滋賀医大の放射線科と共同で研究を進展させていれば、今頃は、閉塞性換気障害のパラダイムシフトを達成できたはずである。末梢気道閉塞仮説に蝕まれたご本人はもちろん、呼吸器に関わる医療人と患者さんにとっても実に大きな不幸だと私は思う。

 

2.形態機能学術部会集会

 集会ではいくつかの議題が部会長から提供された。主学術部会として登録している学会員の数が最下位に転落したとのことで登録者数を増やす案を求められた。私は、中野先生などが閉塞性換気障害の大気道の呼気時虚脱を公表すれば、多くの会員が関心を持ち登録者数が増加するだろうと提案した。

 また、流体力学に基づいた呼吸器疾患の病態理解について北岡の講演の機会を設けていただくよう、提案した。今年9月に小児呼吸器学会で「呼吸療法における流体力学理解の重要性」と題する特別講演を行なうことになっているが、呼吸器学会ではこれまでそのような機会がない。現状では呼吸器科医が小児科医から教わることになりかねない。

 

3. シンポジウム「肺の動きをみる」

 2時間のシンポジウムで演者が3名という、珍しい構成だった。座長に尋ねたところ、1名の演者予定者に断られ補充できなかったとのことである。X線動態撮影の金沢大学保健学科の田中利恵先生と4DCTの滋賀医大放射線科の永谷幸裕先生のお二人が、研究内容も従来学説に対する姿勢も、実に対照的だった。田中先生は閉塞性換気障害で呼気時に気管径が有意に減少することを滋賀医大の論文2)と自験例3)で示された。撮影時の呼吸モードは最大努力呼気ではなかったが、肺血流計測のために2秒間の呼吸停止をしたことで、胸腔内圧が陽転し、気管狭窄が顕著になったと考えられる。永谷先生は昨年も呼吸器学会で講演されたが(呼吸器学会2023参加報告(1)呼吸動態CT(4DCT)に関する講演について | コペルニクスな呼吸器学 (ameblo.jp))、本シンポジウムも昨年と同様、緩徐な呼吸モードでかつ気管をひた隠しにされていた。何ともお気の毒な姿だった。

 

 

文献:

1.     Fyles F. et al. AJRCCM 207, 485–6, 2023(Identification of Large Airway Collapse with Symptoms Using Dynamic Chest Radiography | American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine (atsjournals.org)).

2.     Watase S. et al. Eur J Rad 129: 109141, 2020(Evaluation of intrathoracic tracheal narrowing in patients with obstructive ventilatory impairment using dynamic chest radiography: A preliminary study - PubMed (nih.gov)).

3.     大倉徳幸、他.胸部X線動態解析を用いた新たな呼吸機能評価について.第14回呼吸機能イメージング研究会抄録集2023, p41.