これまでのお話
実家をしまう ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ ⑪ ⑫ ⑬ ⑭
2階建ての納屋の掃除は長いこと続いた。
弟と夫は週末の都合の良い時しか来ないので、合計1ヵ月半くらいはかかったように思う。
父の荷物が、納屋の一番奥の収納部からたくさん出てきた。
主に本と写真だった。
本は世界名作全集とか百科事典みたいなものが多く、全40巻セットとか30巻セットとか、なかなかボリュームがあった。
もしかするとそれらは、メルカリで売れるんじゃないかと調べてみたけれど、他の出店者たちの例では、どれも送料のみの請求で、本の本体はタダ同然で売られている感じだった。
なので、私達はそれらをメルカリで売るのはあきらめた。
本は一部湿気でしおれているし、カバーが傷んでいるものもある。
なので、結局それら全ての大全集的な本たちは、紙のリサイクルの日に捨てた。
物凄い量だったと思う。
大全集的なものだけで、150冊とかあったも・・・。
父は私たち子供のためにこれらの本を買ったのかもしれない。
ただ父には申し訳なかったが、私たち子供は、それらに興味がなかったと思う。
父はそれらの本を購入しては、しばらく私達が興味を引くような目につく場所に並べて、様子を見ていたのかもしれない。
でも、何年たっても、誰も手に取らず・・・
やがて父の期待もそがれていき、ある年の3月、荷物を整理する日に、父はそれらの本を納屋の奥にしまったのだろう。
父はこれらのたくさんの本を、私達に喜んでもらいたかったのかもしれないが、今回、1ページも私たちにめくられることもなく、捨てられていく本が殆どだった。
これもまたこれで、虚しいな、と思った
私たち子供3人は、誰も父と母の成績や学歴を越えられなかった。
父や母は子供の私達から見たら学歴的に凄い人だったので、その二人から生まれた子供たちだから、父母の期待も相当大きかったことと思う。
子供たち3人とも父母からの期待に応えられず、まあ、愛されていたのかもしれないが、あんまり父母から褒められた記憶もなければ、こちら側が喜ばせた記憶もない。
実家をしまうのって、なんかモヤモヤする。
特にうちみたいに荒れ果てた実家は・・・。
今回父が、私達が本に興味をもつことを期待していたけれど、段々と諦めて本を納屋にしまい込む姿まで想像できてしまった。
父に見放されて納屋にしまい込まれる本たちが、ふと自分と重なった。
実家で大切にされていなかった物をみていると、実家にかつて存在していた自分も粗末に扱われていた様に思えて、悲しかった。
自分の子供たちにはこんな思いをさせないように、私自身は、今の自宅をきれいな実家にしていこうと、心から思った。
そして今回の実家じまいで、父から期待された形跡も消し去って、この歳になってやっと父からも解放されたように思った。
実家をしまうのって、気力も体力も、相当必要だな、と思った。
なんだか、とても切ない。
実家と共に消される運命の百合たち。