緊急事態宣言で、オンライン授業の高校も増えてきました。
物理ネコ教室2年の「光」の講座の公開が遅れていましたので、こうした状況を踏まえて、講座公開を再開することにしました。精力的に上げる予定です。
光と色といえば、やっぱり最初はニュートンです。
光をプリズムで分光して七色になるのを確かめた功績は大ですよね。
ニュートンは光を粒子と考えました。
それは、光が他の波と違って、唯一、真空中を伝わってくるからです。(太陽から地球の間は宇宙空間で、ほぼ真空ですから)
それに対し、ニュートンと同世代の物理学者ホイヘンスは、光を縦波だと考えました。気体である空気中や、液体である水中を伝わる波は、当時知られていた波の中では、音波のような縦波しか考えられなかったからです。
のち、研究が進んだことで、光は空間を伝わる横波であることがわかります。
これは、19世紀、ファラデーとマクスウェルによる電磁場の理論により、はっきりしました。高校では、理系3年で学習する内容です。
まず、光と色の関係について。プリントを見ていきましょう。
この№1のプリントは、特製です。
どういうわけか、日本の高校物理では、この内容はほとんどやらないからです。海外ではこの内容は高校物理の必須事項なのですが、日本では高校物理のカリキュラムから、みごとに削除されています。すごく大事なことなのに。
アメリカのヘーウィットさん(はじめてAAPTに行ったとき、知り合いました)が作った教科書『コンセプト物理』にも、この内容がしっかりと載っています。
1の光の三原色、2のプリズムによる光の分散、3の物体色は、実験が必要ですね。話だけでは、なにがなにやら、さっぱりわからないところですから。
4の絵の具の三原色は、「色の3原色」として知られているものです。こちらの方が「光の3原色」よりさきに見つかっています。
色の3原色は、1730年、ドイツの版画家ジャコブ・ル・ブロンが発見しています。赤(正しくはマゼンタ)、青(正しくはシアン)、黄の3色の顔料でどんな色も合成できることを見つけました。こちらは混ぜるほど色が暗くなるので、「明るさが減じる混合」という意味で「減色混合」と呼ばれています。ちょっと、わかりにくい訳語ですね。
光の3原色の研究は1801年のトマス・ヤングから始まります。
この問題に決着をつけたのは、ジェームズ・クラーク・マクスウェル。1855年、色ゴマの実験により、光の3原色が赤・青・緑であることを実証しました。
それまでの科学者はみな、色の3原色に引きずられ、なかなかこの3色を見つけられなかったのですね。基本色に黄色をいれたがる人が多かったのは、まさに色の3原色のイメージが強かったからでしょうね。
光を混ぜるほど明るくなるので「明るさが加算される混合」という意味で「加色混合」と呼ばれます。これまた、わかりにくい訳語ですが。
おなじく4の物体色の見え方は、重要。
物体が吸収しなかった光の色が物体色になる(むつかしくいうと、選択吸収の結果の色ということになります)というのは、日本の高校物理ではきちんと教えられません。世界標準で考えると、信じられないことです。
ところで、この図の例でもわかりるように「光の7色」を物理の講義でそのまま使うケースはまれです。さきのヘーウィットさんの『コンセプト物理』では、光の色を7色ではなく、藍色を除いた6色で表しています。
もともと、光の色は連続的に何万色にも変化しているので、7色というのは、最初にニュートンがそういったからに過ぎません。西洋では7という数が特別で、何かにつけて7ナントカと呼びます。世界7不思議とか。
ぼくのプリントでも、光と色の関係を示すのは、ヘーウィットさんにならって、6色でやっています。
5の補色は、時間があれば、実験を見せることもありますが、なかなかそこまでの用意はできませんね。
6は、光に関する一般的なまとめですが、さまざまな電磁波の名称をいちいち覚える必要はありません。重要な物だけ覚えておきましょう。
では、描きこみを見ながら、解説します。
1は、市販の懐中電灯を使って、実験します。
今は性能のいいLED懐中電灯(LEDが1個のものでないと、実験がうまくいきません)があるので、それにセロファンで赤・緑・青の色をつけ、スクリーンに投影することで、加色混合の実験ができます。(*1)
ついでに、3色の光による影が、いろいろな色になるのを見るのもいいですね。
(*1)この実験については、別記事「光の3原色を見る実験〜カンタンに」がありますので、そちらをご覧ください。関連記事にリンクを貼っておきます。
2の実験は、ぼくは古い光学式プロジェクターを使っています。
昔のポジフィルムスライドを投影するプロジェクターですね。今は、コンピューターと連動するタイプのものばかりですが、光源として使う分には、非常に役に立ちます。捨てないで、撮っておくといいですよ。
プロジェクターのスライドを乗せる部分に細いスリットをつけた厚紙をセットします。
そうすると、光が愛知県名物の「きしめん」のように平ぺったい光線になります。
それに三角プリズムを当てると、見事に7色に分かれます。学生に見える色を上げてもらうと、赤、橙、黄、緑、青、紫の6色には気がつきます。
ビーカーに水を入れてプリズム代わりに使い、OHP(オーバーヘッドプロジェクター)の上に置いて、光の分散を見せるやり方が、『いきいき物理わくわく実験3』に「教室いっぱい巨大レインボー」として紹介されています。(*2)
これはこれでおもしろいのですが、余分な解説をたくさんしなくてはいけないので、光の分散を初めて学ぶ導入に使うのはどうかな、と思っています。
(*2)こちらの実験は、別記事「錯視・錯覚の物理学1〜先進科学塾講座より」に紹介してありますので、そちらをご覧ください。関連記事にリンクを貼っておきます。
3の実験は、大型ナトリウム光源を使います。
ナトリウム光源からでる黄色の単色光で、色のついたものを見ると、ほとんどのものが真っ黒に見えます。
物質は光を選択的に吸収し、それ以外の色を反射します。この反射された色が「物体色」となります。
ですから、当てる光を黄色の単色光にしてしまうと、「白(どの光もほとんど吸収しない)」「黄(黄の近くの色を反射し、それ以外の光を吸収する)」は黄色く見えますが、「赤(赤近くの光を反射し、それ以外の光を吸収する)」や「青(青近くの光を反射し、それ以外の光を吸収する)」などは、真っ暗つまり真っ黒に見えます。
4の図にあるように、吸収する光、反射する光にはある程度の幅があります。そのため、絵の具を混ぜた場合は、共通して反射する光の色になるのですね。下の4の説明図をご覧ください。
たいていの小学生が不思議に思う「黄色と青の絵の具を混ぜると、なぜか緑になる」という現象を、この選択吸収のリクツで、きちんと説明することができます。
黄色の絵の具もシアンの絵の具も緑色の光を反射します。それ以外の光はどちらかの絵の具が吸収してしまいますが、緑色光は反射されるので、この2色の絵の具を混ぜると緑色になります。
反射される光の量は少なくなっているので、光度は下がり、暗い色になります。
絵の具を混ぜるとどんどん暗い色になっていくのは、このためです。
ですから、いろんな色の絵の具を混ぜていくと、全部の光が吸収され、真っ黒になります。絵の具を混ぜれば混ぜるほど黒くなっていくのは、小学生のとき誰もが経験しているでしょう。
5の補色は、スマホ画面に写真を出し、それを1分くらい注視して、目を閉じれば、補色の残像が見えます。補色でつくった画像を用いれば、目を閉じたとき、正しいカラー画像として残像が残ります。
6の電磁波の種類は、この段階では、波長によりいろいろな名前がついていることがわかればじゅうぶんです。
波長の長いものから順に、電波、赤外線、可視光、紫外線、X線、γ線、となります。
また、可視光では、赤と紫では波長が2倍ほど違うことも着目しておきましょう。
また、波長が短い物ほど大きなエネルギーになることも押さえておきたいところです。
本当は、理系3年で電磁場のことや光子のことを学ぶと、なぜ紫外線は化学作用が強いのか、などの理由もわかるようになるでしょう。
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