物理ネコ教室128回折格子 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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マンガ・イラスト&科学の世界へようこそ。

 

 こちらのトマス・ヤングはマンガ用にデフォルメしたものですが、この人の登場するマンガ、まだ描いてないなあ・・・

 

 ぼくの職場では、オンライン講座は、希望者は対面、他はオンラインといういわゆる「ハイブリッド」(?・・・たぶん、ハイブリッド車との連想でつけられた名称でしょうが、なんかピントはずれのような感じがします)形式で行われています。ぼくは運良くまだ「無観客試合」はありませんが、同僚の先生方からはちらほらとそういう話を聞きます。

 

 うーん、ぼくはやっぱり講座はライブでやりたいですね。

 学生との双方向を主にして、長年かけて講座内容を構築してきたので、ただひたすら内容を説明しまくる、というのは楽しくありません。自分の手を動かして考え、議論してともに考え・・・ということが、自然科学本来の姿だと思っていますから。

 

 とはいえ、パンデミック対策でのオンライン講座です。命の方がもちろん、優先。粛々と、進めていきましょう。

 

 ぼくのオンライン講座は、普段の講座となるべく似たやり方をするようにしているので、学生が自分の手で考える時間を確保しています。双方向でこまかいアドバイスができないのだけが、対面との違いですね。

 

 さて、いよいよ光の干渉の代表格、回折格子です。

 

 最初にやったヤングの干渉は、光の波動性を証明した、歴史的にも重要な実験です。

 しかし、ヤングの実験による回折像(干渉縞)は、暗室で行ってようやく見られるもの。

 じつは、職場で演示実験のため週1回使っている暗幕のある物理講義室は、Wi-Fiの電波強度が足りなくて、安定した配信ができず、オンライン講座での使用が不可。

 だから、普通教室でやれるような実験しか、できない状況です。

 

 でも回折格子の回折像は、強めのレーザー光を使えば、普通教室でも、黒板に映し出すことができます。

 それに、目をスクリーンにすれば(つまり、向こう側から回折格子を通した光をこちら側から目で覗けば)、非常に鮮明に見えます。これなら、オンライン講座でもやれる実験になりますね。(*)

 

(*)この場合は危険なので、レーザー光を使ってはいけません! 懐中電灯などの光を使います。

 

 こちらが、回折格子ごしにLEDライトの光を見た映像。

 

 

 見事に回折像(干渉模様)が見えていますね。

 

 ただし、この実験は白色光で行っているため、波長により強めあう場所がずれ、色が分かれています。(LEDなので、太陽光や電球の光のように七色にはなりませんが、赤・青・緑の3色だけ、ということではありませんね。いろいろ工夫して、自然光に近い色の光が出るようになっているみたいです)

 

 ライトに赤や青のセロファンをかぶせて実験すれば、単色のレーザーを使った実験と同様の干渉縞が得られます。この実験はオンライン講座でも見せる予定です。手元に写真がないので、今は掲載できません。写真を撮ったら、あとで追加しますね。

 

 では、プリントを見ていきましょう。

 

 ヤングの干渉との違いは、光源が2つではなく、無数にあることです。

 その結果、回折像にも明らかな違いが生じます。

 

 ヤングの干渉では、明るい部分と暗い部分が同じくらいの幅になり、ほぼ等間隔の縞模様になるのですが、回折格子では明るい場所は幅が非常に狭くてほとんど点のようになり、それ以外の場所は暗くなります。

 

 どうしてそうなるかは、プリントの後半で明らかになります。

 

 さて、干渉条件は、ヤングの干渉と同じように計算すれば求められます。(というより、ヤングの干渉の計算を、この回折格子の計算と同様なやり方で、紹介したのですが)

 

 ですから、途中までは、ヤングの干渉と回折格子は、ほとんど同じ計算方法でやっていけます。

 

 回折格子では明るい場所が点になっているため、自然光で実験すると色により明点の位置がきれいにわかれます。(ヤングの実験では明線に幅があるため、色が重なり合って、きれいに七色に分かれることはありません)

 そのため、光を七色のスペクトルに分ける分光器に使われます。

 

 では、書き込みを見ながら、ポイントを解説します。

 

 

 最後のdsinθ=mλまでは、ヤングの干渉とまったく同じ計算、同じ近似法を取っています。

 

 でもこの式のsinθをℓとxで表す式が、ヤングの干渉とは少し異なります。

 

 図から、sinθ=x/√(ℓ^2+x^2)となりますが、ヤングの干渉ではこの式の分母をℓに近似したのに対し、回折格子ではその近似をあまり行いません。

 理由は単純で、通常使われる回折格子では、θの値が大きく、xがそれほど小さくないので、ヤングの干渉のような近似ができないのです。

 

 通常のヤングの干渉では1メートルほど離れたところからスクリーンに映したときの明暗の間隔がせいぜい数ミリ〜1センチ程度と小さいので、xの値はℓに比べて十分小さいとみなせます。

 ところが、通常の回折格子の場合、同じ条件で実験すると、明点の間隔が10センチくらいになります。これでは、xの値がℓに比べて小さいとはいえませんね。

 

 したがって、回折格子では最後の枠の欄外に書いた数式が、最終的な式として使われます。

 

 

 2は、さきほど述べたように、明点の幅が非常に狭いことを利用して回折格子を分光器として使う場合の説明になっています。

 

 プリント前半の明点の干渉条件式dsinθ=mλからわかる通り、光の波長λが大きいと、明点に向かう光線の角度θも大きくなります。

 そのため、明点が七色に広がります。波長の長い方(赤)が七色の外側に、波長の短い方(紫)が内側に配置されます。この色順は、プリズムによる分光の光の並びとは逆ですので、気をつけてください。(プリズムの場合、波長の短い方(紫)がより大きく屈折して、外側に行きます)

 

 もちろん、m=0の強めあう点、つまりスクリーン中央では、すべての波長の光が強めあうので、明点の色は白色になります。

 

 3は、回折格子でもθが小さく、xが小さいと近似できる条件での実験の場合の、計算式です。

 この場合は、ヤングの干渉とまったく同じ近似計算になるので、明点の間隔Δxの値は、ヤングの干渉とまったく同じ結果になります。

 回折格子でも、ケースバイケースでこういう計算をさせる場合があるので、念のため入れておきました。くどいですが、通常の回折格子では、ここに書いてあるような近似計算はできません。

 

 「ヤングの干渉と回折格子は同じような計算をするのに、回折格子では干渉条件の式がθを使って表すところでやめていますが、どういう違いがあるんでしょう?」というような質問をよく受けます。

 ここまで解説を読んできた人は、もうわかりますね?

 

 5は、回折格子で、明点の条件以外の場所が全部暗い場所になることの説明です。

 ヤングの干渉と決定的に異なるのは、光源の数の違いです。

 ヤングの干渉では「dsinθ=mλなら強めあう、dsinθ=(m+1/2)λなら弱めあう。それ以外の場所は強めあいと弱めあいの中間になる」という解釈で良かったのです。

 ところが、回折格子では光源が無数にあるため、図に描いてあるように、ほんの少しずつ位相(ゆれるタイミング)がずれた光が無数に重なることで、例えばdsinθ=0.2λのような場合でも、光が打ち消し合って消えてしまうんですね。

 このため、回折格子では、明るくなる場所の条件だけが公式化されているのです。

 

 では、今回はこのへんで。

 

 

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