浮いた磁石の重さははかりにどうかかるか? | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 このところ、オンライン授業の補助記事をあげるため、このブログサイト本来の記事がほとんど書けませんでした。

 今回は、ストレス解消(?)も兼ねて、近々オンライン講座で扱う予定の実験について、少し専門的な実験とその詳細を書きたいと思います。

 

 「箱の中で飛んでいる鳥の重さは、はかりにかかるか?」という、有名な問題があります。ぼくのやっている「質問リレー」では、以前はこの問題が定番で、半年以上にわたって議論してもなかなか結論がでない話題でした。「これ、物理?」の記事にも書きたいところですが、とんでもない大作(?)になりそうなので、躊躇しているところでありまする。

 

 さて、この問題のもっと簡単な例が、中学校や高校でよく扱う「浮かぶ磁石の重さははかりにかかるか?」というものです。

 

 こちらについての詳細は、物理ネコ教室017力のつりあいの式で扱っていますので、高校レベルの説明については、そちらをごらんください。

 

 でも、この実験、詳しくやってみると、一見不思議な結果になるんですね。

 

 実際の実験を、写真画像で見てみましょう。(ほんとうは動画をとるのがよいのですが、今回は手っ取り早く、写真で代用しました)

 

 

 実験につかった台ばかりは、ちょっと変わったタイプで、「袋引き」ができるはかりです。

 磁石が横に逃げて落ちないようにするためには、ドーナツ型の磁石に柱のようなものを通すのですが、この重さの分を、袋引きして、なしにできるのですね。

 このはかりでは、横に出ているダイアルを回すことで、0点をずらすことができます。

 

 この実験そのものは、随分前に提起されたものなので、ぼくはその起源を知りません。知っている限りでは「仮説実験授業で有名な板倉さんが、最初に紹介した実験」だったと思います。

 

 それはともかく、「空中に浮いた磁石の重さは、はかりにかかる」のでしょうか?

 

 この実験では「2つの磁石(実験の都合上、2個の磁石をまとめて「1つの磁石」として扱っています)の重さが、どのようにはかりにかかるか」という難問を、実験で確かめています。

 

 磁石をはかりに置いて量ってみると、磁石1つの重さが420gくらい。2つ重ねれば840gくらいのはずです。

 

 さて、ここで、問題。

 上の磁石を反対向きにして浮かせると、はかりにかかる重さはどうなるでしょう?

 

 答1:下の磁石の分しかかからないから、1つ分の重さがはかりにかかる。

 答2:はかりの上には2つの磁石があるので、2つ分の重さがはかりにかかる。

 

 あなたの答えは何ですか?

 

 

 答えは・・・「磁石二つ分の重さがかかる」・・・実験結果を見れば、明白ですね。

 

 この原理については、さきほど紹介した、物理ネコ教室017力のつりあいの式をご覧ください。

 

 でも、今回は、もう少し、詳しくこの実験結果を見ていくことにしましょう。

 じつは、ちょっと、困った事態が起きているんですね。

 

 最初の実験のはかりの読みをよく見てみると・・・

 

 

 850gです。(より物理学的に表現するなら、850gwですが)

 

 なんか、ちょっと大きいですね?

 

 では、上の磁石を浮かせた時は・・・

 

 

 なんと、830g。(正しくは830gw)

 逆に、軽くなっています!

 

 このずれの原因は何でしょうか?

 

 ・・・

 

 ・・・

 

 ・・・

 

 わかりましたか?

 

 ・・・

 

 ・・・

 

 ・・・

 

 このずれについて、興味を持って考えることのできる人は「自然科学に向いている人」だといえるでしょう。

 

 自然科学は未知の現象に挑む学問です。こうした小さな謎を放っておけない人は、自然科学の資質を持っている人だといえるでしょうね。

 

 この実験結果は、はかりを「重さを測る装置」として、中身について考えない「ブラックボックス」の発想で扱っているかぎり、理解できません。

 

 こういう単純なはかりは分解してみるとすぐにわかりますが、内部は鉄の部品の集合体です。

 

 当然、はかりのお皿の上に磁石を置くと、はかり内部の鉄が磁石と磁力で引き合います。そのため、はかりの示す値は、実際の重さより、引き合う磁力の分だけ、ほんの少し、重めに出るのです。

 

 2つの磁石がくっついているときは、2つの磁石ともはかりに近いので、磁石とはかりは強く引き合います。そのため、実際の重さより重めにはかられてしまいます。

 

 2回目の実験で、上の磁石を浮かすと、浮いた磁石とはかり本体との距離が遠くなるため、浮いた磁石とはかり内部の鉄部品とが引き合う力は弱くなります。

 

 つまり、皿の上に乗せた磁石とはかり本体との間に働く磁力のために、磁石を浮かせた場合と磁石をくっつけた場合で、はかりの読みが、浮いた磁石の方が小さくでるのです。

 

 さて、いま論じた磁力の影響を受けない実験はできるでしょうか?

 

 それは、意外に簡単な方法で解決できます。

 

 磁石が台ばかりの鉄製部品と引っ張り合うのをふせぐためには、何をしたらいいでしょうか?

 

 答えは意外に単純です。

 

 台ばかりの上にプラスチックカップを置いて、台ばかりと磁石とを遠く離すのです。

 これなら、磁力の影響がはかりの読みに出ることは、極力防げますね?

 

 実験結果をご覧ください。

 

 

 コップのため乗せたものが不安定になりますが、なんとか実験はできます。

 コップと磁石を並べるための木製の支持台の質量分は実験に関係ないので、針と連動しているダイアルを手動で回し、ゼロ点を合わせました。

 

 次に、このコップの上に、2個の磁石を置いてみましょう。

 

 

 まず、2つの磁石を重ねてはかりに置いた場合です。

 

 はかりの読みは830g。

 さきほどの実験の値より少ないのは、遠く離れたので、磁石と台ばかりが引き合う分がなくなったからですね。

 

 では、浮いた磁石の場合です。

 

 

 830g。磁石を浮かせなかった場合と同じ重さです。

 

 この方法なら、2つの実験の値が、ほぼ一致します。

 

 さて、少しオマケを。

 

 『いきいき物理わくわく実験』にも載っていた問題です。(これは、ぼくのオリジナル実験です)

 

 磁石が押し合うのではなく、引き合っている場合は、どうでしょう?

 

 

 通常の状態では、どちらも同じ、90gです。

 

 この装置をひっくり返すと・・・

 

 

 ・・・やはり、90gとなり、変わりません。

 

 磁石が反発し合っても、引き合っても、磁石が静止していれば、はかりの上にある磁石の重さは、ちゃんとはかりにかかるのですね。

 

 ちゃん、ちゃん。

 

 なお、この実験装置の作り方は、拙著『いきいき物理マンガで実験』もしくは、本ブログ記事浮かぶ磁石と宙づり磁石、重さはいくら?をご覧ください。

 

 

関連記事

 

浮かぶ磁石と宙づり磁石、重さはいくら?

 

物理ネコ教室017力のつりあいの式

 

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