光の速度が無限か有限かは、昔から科学者の謎でした。
それを、最初に実験で確かめようとしたのは、ガリレオ。まだ、時計のない時代です。
水をためた器からぽとぽとと落ちる水の量で時間をはかる水時計や、人間の脈拍を数えることでしか、短い時間を計れなかった頃に、科学者がどのように光速をはかろうとしたのでしょう。
その失敗と成功の歴史を、学んでいきましょう。
光速の測定は、ガリレオが最初。2つの丘の上で、弟子と図のような実験をしました。ランタンの前に置いた被いを取ることで光を放ち、それを遠くの丘にいる人が見て、自分のランタンの前の被いを取り、光を放ちます。その光を最初の人がとらえるまでの時間をはかることで、光の速度がはかれると考えたのです。
原理的には正しい実験だったのですが、これは大失敗。
はかるたびにまちまちの結果が出て、実験になりませんでした。
この理由は、ちょっと考えるとわかります。
それから100年たたないうちに、天文学での不思議な謎から、光速の測定が可能になりました。それについては、ちょっとした逸話もあります。
19世紀、いわゆる科学の時代には、ついに光速を地球上ではかることに成功します。
その代表格を2例、紹介しています。
フィゾーの実験とフーコーの実験は、実際に行うのはとても大変です。どちらも、鏡に当てた光がもとの位置に戻ってくる仕組みを利用していますが、これは、図で見るほど簡単な実験ではないからです。
フィゾーの実験では、8キロ離れた場所に鏡をセットして、そこから反射してくる光をまたもとの位置で受け止めるという、神業のような実験をしています。
教科書にはそれをどうやって実現したかという、実験の工夫は書かれていません。
本当は、そのあたりも書いてほしいところですね。
では、書き込みを見ながら、光速測定の歴史を振り返りながら、物理の実験はどのように企画されていくのかを見ていきましょう。
1.ガリレオの光速測定実験の失敗の理由を考えることは意味深いですね。
意外なことに、この原因はたいていの学生が思いつきます。
ざっくりいうと、「光が速すぎるから」ということ。
人間が光を見てから、ランタンの被いを取るまでの反応時間は、光が丘から丘までを進むのにかかる時間より長いのです。
ガリレオの方法では、光が丘を往復する時間を正確に測れませんから、光速の測定は不可能です。
これは、科学実験には技術の進歩が大きく関わることの、典型的な例でしょう。
もし、ガリレオの時代に現在の精密な時間をはかれる時計があれば、成功していたはずの実験です。
ガリレオが発見した「振り子の等時性」を応用した時計は、もっとあとにホイヘンスが作りましたが、その時計でもこの実験は無理です。
2.のレーマーの実験は、はじめて光速が有限であることを示したものです。
天文学の会議で、当時の天文学会のトップであった大先生カッシーニが、次の木星の衛星の衝(木星と衛星が重なるとき)の日時がいつになるかを発表していたときのこと。
「それはちがいます。これこれの日時になるはずです」と、大先生の予想をまっこうから否定し、自分の予想を発表した若者がいました。それが、レーマー。
彼は、木星の衛星の周期が少しずつずれる不思議な現象の謎を、光が進むのに時間がかかるせいだと見抜き、そこから地球で観測する木星の衝が、つぎにいつ起こるかを、割り出したのです。
若手科学者の反論は、もちろん相手にされませんでしたが、次の木星の衝は、カッシーニのいった日時ではなく、レーマーが予言した日時に起きました。
それでレーマーは一躍時代の寵児になった・・・ということではありません。
科学の世界でも、正しいことが常に評価されるわけではありません。権威のあるカッシーニの発言の方が、当時は正しいとされました。
しかし、今では、このレーマーのやり方が、光速が無限ではなく有限であることを初めて示した「実験」(というより、観測ですが)として、科学史に残っています。
3.のフィゾーの実験については、少し詳しく見ていきましょう。
「光は1秒で地球を7周半する」というのは、歌にもなっています。光の速度は秒速30万キロメートル。とんでもない速さですね。
フィゾーが実験を行ったときは、機械式の時計は作られていましたが、現代のように短い時間をはかる時計はありません。
光速の測定の歴史は、短い時間をどうやって測定するかの歴史でもあります。
フィゾーは、歯車を高速回転させることで、間接的に短い時間をはかる装置を工夫しました。
歯車のすきまに光を通し、それが8キロ先の鏡で反射して、再び歯車の隙間を通ってこちら側にもどってくる装置です。歯車の回転速度がおそいうちは、光は歯車に遮られることなくもどってくるので、歯車のこちら側から見ていると明るく見えます。
ところが、歯車の回転を速くしていくと、光がもどってくる頃に、回転した歯車の歯がすきまのあった場所をふさぐようになり、もどってきた光が遮られるようになり、観測している人の視野は暗くなります。光が往復する時間と、歯車がすきまの場所に一致する時間が等しくなると、視野はもっとも暗くなります。
さらに回転速度を上げると、今度はそのすきまを歯車が通り越してしまうので、また視野が明るくなります。歯車の歯がすきまを超えて隣の歯の位置までくるようになると、鏡で反射してきた光はぜんぶ通り抜けて、観測している人の視野はもっとも明るくなります。
フィゾーはより短い時間をはかるため、720枚もの歯のある歯車を使いました。
ここで、学生がよくやる間違いを紹介しておきます。
初めて視野が暗くなるときの時間tを歯車の周期Tと歯数kで表すとき、ついt=T/kとしてしまいがちです。
しかし、視野が暗くなるのは、歯車のすきまに歯がやってくることによって生じる現象です。この間に歯車の歯は、歯数kとすきまの数kを合わせた2kのブロックを1つ分進むので、t=T/2kとなります。
間違えないようにしましょう。
もちろん、問題が視野が再び明るくなるまでの時間をtとして設定されている場合なら、t=T/kとなります。問題文をよく読んで判断しましょう。
回転数nと周期Tの関係T=1/nは、振動数と周期の関係と同じですから、カンタンですね。
tがわかれば、距離/時間で光速が出せます。
4.フーコーの実験は、高速回転する鏡を用いて、より短い時間を測定できるように工夫されています。
この実験では、ついに実験室内での光速測定に成功しています。
光が鏡との間を往復する間に、モーターにつけた回転鏡がほんの少しだけ回転し、反射光が最初に入射した方向からわずかにずれることを利用しています。
鏡が往復時間の間に角θだけ回転すると、もどってきた光の入射角は当然、最初に回転鏡で反射したときにくらべてθだけ増えます。プリントの図では、一般的な場合だと難しいので、最初に回転鏡に当たって反射し、鏡Mに向かう光の入射角と反射角が、45度になる場合にしてあります。
回転鏡で最初に反射したときから鏡Mで反射して往復してもどってきたときの入射角は45度+θになります。反射角も同じ45度+θですから、回転鏡で反射した光は最初の光の筋から2θずれることになりますね。
ラジアンではかると、入射角はπ/4+θ、反射角はπ/4+θで、光のずれは2θになります。
フーコーはこのずれ2θを測定して回転鏡の回転角θを割り出し、回転鏡の周期Tと比較することで光の往復時間tを求めました。
プリントの書き込みにかいてある通りで、ラジアンで測定した場合、θ:2π=t:Tより、tを求められます。
このプリントでは割愛しましたが、他にもブラッドリーが遠くの星からくる光が地球の運動で相対的にずれることを利用して、相対速度の関係から光速を測定することに成功しています。
走る人から見ると、相対速度により、雨筋が斜めに傾くのを覚えていますか?
雨の速度と人の速度により斜めになった相対速度の傾き角を測定すれば、人の速度から雨の速度が割り出せます。それと同じ事を、ブラッドリーは行いました。
遠くの星からくる光が公転する地球から見てななめに傾くはずなのです。その傾き角をθとすると、地球から見た星の位置は、例えば春に測定したときと秋に測定したときで、地球の運動の向きが正反対になるので、星の方向が春と秋で2θずれます。
地球の速度はわかりますので、それによって光速も測定できる、というわけです。
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