物理ネコ教室111反射と屈折・身の回りの現象 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 ホイヘンスの原理を応用すると、身の回りの反射・屈折現象がよくわかります。

 今回で、波動の基礎理論は一区切り。

 

 次からは、音波、光波それぞれについて、もっと詳しい内容を扱うことになりますが、それはまた、後のお楽しみ、ということにしておいてください。

 

 反射や屈折が関わる身の回りの現象はけっこうあります。その代表的な例をいくつか、問題演習として解いてみようという内容になっています。

 

 では、まず、前半から。

 

1.はホイヘンスの原理により、実際に波面の進行を図示するという問題です。

 特に屈折に関わる身の回りの現象を解き明かすのには、ホイヘンスの原理が有効なので、その問題に入る前に、ホイヘンスの原理の使い方をおさらいしておこうという演習問題。

 

 計算問題ばかり演習している人は、こういう問題が出るとパニックになります。でも、入試での出題率は決して低くありません。

 

2.は、経験のある人がほとんどでしょう。

 家の中だと小さな声でも相手の声がよく聞こえますが、家の外だと、同じ距離で話しても聞こえにくいですね。自然、外で話すときは大きめの声になってしまいます。

 その原因を考える問題です。

 「家の外はうるさいから」ではありません。

 わかりますか?

 

3.は屈折の法則の計算問題です。

 身の回りの現象の理解には、ここまでの計算問題は必要でなく、二つの媒質での波の速さの違いから、波の進行の曲がる方向が見抜ければじゅうぶんです。

 

 でも、せっかくだから、屈折の法則の数学的な扱いもやっておこう、ということで、ここに入れてあります。

 テーマに合わせて問題を身の回りの現象を解くようにしてもよかったのですが、一度は数学的な計算問題も解いておかないと、問題集の問題が解きにくいでしょう。

 

 ただし、計算問題といっても、屈折の法則を丸暗記して解いていては、問題の本質がどこにあるかわからなくなってしまいます。

 

 前に書いたように、屈折の物理的な要因を2つ、きちんと押さえていますか?

 何と何だったでしょう?

 

 前のプリントでやりましたよ。

 

4.と5.は、屈折の現象として有名な問題なのですが、参考書や問題集、場合によっては、教科書でも、ちょっと困った説明になっていることがあります。

 ここでは、もっともわかりやすい、ホイヘンスの原理を使って考えてみましょう。

 

 4.は音、5.は海の波ですが、蜃気楼や逃げ水のように、光の屈折現象でも、同じ説明ができます。

 

 では、前半の描き込みから、見ていきましょう。

 

 

1.ホイヘンスの原理による反射波、屈折波の波面・射線の描き方は、図にあるように、ざっくりいうと、4段階にわけて理解しておくとよいですね。

 

(1)まず、入射波の波面のB端が境界面に達するまでの距離を測る。(これは、B端から出る素元波の半径に当たる)

(2)反射の場合、(1)と同じ長さの半径の円(A端から出る反射波の素元波の波面)を描く。(もちろん、反射波の速さは入射波の速さと同じだからです)

 屈折の場合は、(1)の長さのv2/v1倍の長さの半径の円(A端から出る屈折波の素元波の波面)を描く。(屈折波の速さが入射波の速さのv2/v1倍になるからです)

(3)B’から(2)の円に接線を引き、波面とする。(これは、B’と(2)の素元波の間に、大きさが少しずつことなる素元波の波面が並ぶためです。前のプリントの屈折の説明図を参照してください)

(4)Aから、(3)の波面に垂直な線を引き、射線とする。(波面と射線は必ず垂直になりますから)

 

2.これは誰もが経験したことのあることです。部屋の中だと相手の声がよく聞こえますが、同じ距離で話していても、戸外では聞こえづらい。

 

 これは、耳に届く音波の総エネルギー量の問題です。

 部屋の中だと、あちこちの壁で反射した音も耳に届くので、耳が受け取る音の波のエネルギーが大きく、聞こえやすいのですね。

 

 反射に関わるトピック的な現象として有名なのは【ささやきの回廊】でしょうか。

 ロンドンの聖ポール寺院の円形の廊下で、壁に向かってささやいた声が、反対側の壁近くで聞こえるという現象です。

 こちらは、1904年にレイリー卿(のちに光のところで登場します。空がなぜ青いのかを解明した人です。この人は音についても研究していますし、ほかに、ちょっとした理由があって、心霊現象の研究もしています。が、これ以上、脱線するのはやめておきましょう)

 こういったトピック的な内容については、【物理ネコ教室】ではない、別の科学記事で紹介します。

 

 なお、この問題に関連して、受験に関わるおまけの話題を一つ。

 

 風が吹いているとき、風上と風下で声の聞こえやすさが違うのはなぜかという問題が、センター試験(共通試験)で出題されたことがあります。

 そのときのセンターが用意した答は、風下の方が同じ時間に受け取るエネルギー量が多いから、というものでした。

 これは、じつは間違っています。

 

 音速340m/sに対し、通常の風の風速は5m/sほど。風下では音速は345m/s、風上では335m/sとなります。その速さの差は10m/sです。

 音波の毎秒運ばれるエネルギーは波の速さに比例するので、音波のエネルギー量の比は、345/335倍です。これは、人間の耳で聞き分けられる違いではありません。

 

 遠くの音が風上で聞こえにくく、風下で聞こえやすくなるのは、風と空気の粘性のため、音速が高さによって異なるために生じる屈折による現象で、音の専門家の間では広く知られていることです。

 当時、物理サークルの有志が、センターの担当者に間違いではないかと質問状を送り、何度か書簡のやりとりをしています。ぼくも音響学の専門家の先生にメールのやりとりをしてご意見を伺ったのですが「センターの用意した答は間違っていて、風下で音が聞きやすくなるのは屈折のため」という返答をいただいています。

 

 センターの担当者からの返事を見ると、この現象のことを知らなかったという返事でした。

 

 結局、得点処理の変更はなされませんでした。

 

 一般の高校生にとっては、その間違いはあまり影響がなかったと思われますが、間違いは間違いなので、こういう態度は困ったものですね。

 

 この問題については、また別の機会に書くことにしまう。

 

3.は標準的な問題として入れたものですので、それほど難しくありません。

 

 問題をただ解くだけなら、与えられている値を屈折の法則に当てはめて未知の量を求めていけばよいのですが・・・こういう機械的な解き方をしていると、応用問題を解くのが困難になります。

 

 たとえば、二種類のひもをつないだもので定常波を作ったとき、つなぎ目のこちら側とあちら側で波長が違う理由が理解できません。これも、屈折現象だからです。

 

 屈折の法則が媒質の速度の比で決まること、振動数が媒質が変わっても変化しないこと、この2つの原因を踏まえた上で問題を考えるようにしましょう。

 

 内容的には難しい問題ではありませんので、描き込みの答を見てください。

 

 

4.遠くの音が昼間は聞こえにくく、夜は聞こえやすくなるのは、どうしてでしょう?

 

 学生さんに聞くと、たいてい「夜は静かだからよく聞こえる」という答が返ってきます。

 

 でも、その場で耳をすませてもらい、外の道路の音を聞いてもらうと、交通量の多い道路の自動車の音が、意外に聞こえにくいことに気がつきます。

 

 これは、音波の屈折による現象です。

 

 昼は太陽光が地面を暖めるため、地面に近いほど空気の温度が高く、夜は地面が冷えるため地面に近いほど空気の温度が低くなります。

 音速は温度が高いほど速くなるので、地面からの高度により、音速が異なることになります。

 

 この、高度による音速の違いのため屈折が起こり、音波の進行が曲がっていきます。

 

 さて、この屈折現象は、教科書や問題集、参考書などでは、下の図のように、音波の射線を引いて、その屈折で説明するというのが、一般的です。

 

 しかし、これはあまりよろしくありません。

 

 

 空気を温度がじょじょに変化する多層構造と考え、音波の射線が段階的に屈折していき、一番上の層の境界面で全反射する、という説明図です。

 多くの問題集では、この現象は【屈折と全反射による現象】と書かれています。

 

 これ、ホントに正しい?

 

 そもそも、実際に連続的な温度勾配になっているのを、不連続な多層構造と考えていいのでしょうか?

 

 全反射が本当に起こっているのでしょうか?

 

 じつは、これは、屈折だけで説明ができる現象です。全反射を考慮に入れる必要はありません。

 

 ただし、プリントに描き込んだように、射線ではなく、波面とホイヘンスの原理を用いて説明しないといけません。

 コメントを付け加えておきますので、描き込みの図と見比べながらお読みください。

 

 最初の波面abの各所から出た素元波の半径は、温度が高く速度が大きい場所ほど大きくなります。

 

 左の【昼間】の図では、高度の低い側の方が素元波の半径が大きく、【夜間】の図では、高度の高い側の方が素元波の半径が大きくなります。

 ホイヘンスの原理により、これらの素元波の共通接線が次の波面になります。

 したがって、次の波面は、それぞれの図のように、最初の波面に対し斜めになります。

 

 これらの図をつぎつぎに描いていくと、プリントに書きこんだ図のように、【昼間】では音波は上空へ向かって曲がり、【夜間】では音波が地面に向かって曲がります。

 

 当然、【昼間】は本来届くはずの音波も上空へ行ってしまいますから、遠くの音は聞きにくくなります。【夜間】は本来届かないはずの音波が遠くに届きます。

 

 【夜間】の一番上で、先ほどの射線による説明では【全反射】が起きていますが、プリントの説明では、その他の場所と同じく【屈折】が起きているだけです。

 

5.海の波の波面が、じょじょに海岸線に平行になっていくのも、4.と同様に、ホイヘンスの原理を用いて説明した方が単純です。

 くわしくは、プリントの描き込みをご覧ください。

 今度は水深の違いで波の速さが異なるため、屈折が起こっています。

 

 ただし、海でこの現象が起こるのは【遠浅の海】、つまり、海岸から離れるにつれ、じょじょに水深が深くなっていく場合だけです。

 

 崖の下の海では、水深の変化が遠浅になっていませんので、この現象は起こりません。

 

 崖の上に建てられたホテルの窓から海をのぞくと、崖を横切るように波面が進んでいくのが見えますね。

 

 ここまでで、波動の基礎理論は終わり、ここから先は音と光の現象に入っていくことになります。

 

 新型コロナによる休校も5月末でいったん終了する見込みですので、物理ネコ教室2年は、このへんでいったん小休止ということにさせていただきます。

 

 休校が続いている間に、物理ネコ教室1年(運動や力学)を少しでも掲載したいと思っています。

 

 もうしばらく、お待ちください。

 

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