休校がまだまだつづいています。この物理ネコ教室の講座公開は、作業的にけっこうたいへんですので(笑)、毎日更新というわけには行きませんが、できるだけがんばって更新していきます。今回から、いよいよ波です。2年生向けの内容ですね。
冒頭のイラストはニュートンと光の正体について論争したオランダの物理学者クリスティアーン・ホイヘンス。物理学では波動論の基礎をきずいた人ですが、この頃の科学者はなんでもやっています。土星の衛星タイタンや土星の輪を発見し、オリオン大星雲をはじめてスケッチしています。
フランスのアカデミーにまねかれて20年ほど研究生活。
世界初のゼンマイ式時計、つまり、実用的な時計を発明したのもこの時期です。もともとは数学の人ですが、手先も器用だったんでしょうね。
オランダにもどってまもなく、光の波動説を発表しています。
ホイヘンスさんの自画像はちょっと美化されすぎているんじゃないかと思われるふしがあります。いくつかの自画像を比較できればいいのですが、残された自画像で確認できたのは2点ほどでしたので、ある程度、美化を減らす方向で修正して(笑)描きました。
さて、ニュートンは光は粒子だと主張し、ホイヘンスは波だと主張。当時はニュートンの高名のため、粒子説が優勢になりました。しかしのちになり、波動だという証拠をトマス・ヤングが見つけ、19世紀までに、光は波だというのが科学界の常識になりました。(それがまた崩れるのが、20世紀初頭の話になります)
でも「波」の性質は一般の人にはほとんど知られていません。そのためか、高校物理でも、波動に入ると、とたんに物理がわからなくなる人が続出します。
それまで、数式で物理を理解していた人にとって、波動の世界は鬼門といえます。逆にいえば、物理が数学とはちがう学問であることが、はっきりわかるのが波動の分野だといえるでしょう。
じっさい、高校物理の範囲では、波動の分野で難しいのは「波の式」だけ。それ以外は数学的に難しい式はありません。さらにいうと、高校物理で「波の式」を学ぶ意味がそもそもないのです。
本来「波の式」は波動理論の基礎であり、うなりも定常波も干渉も、すべて波の式の合成により理解できます。しかし、高校物理のレベルでは、それらの波動現象を波の式により理解する必要がありません。本当は「波の式」つまり「波動方程式」は大学の物理教程で学べばよいのです。
日本の物理教育は、必要以上に数式に偏りすぎていて、世界標準の物理教程とはいえません。
では、いよいよ波動に入っていきましょう。
内容的には通常の教科書と比べ、特段変わったところはないと思いますが、羅列的に性質を並べないようにしてあります。( )に何を埋めたらいいか、わかるでしょうか?
水の表面波は教科書や問題集では横波として扱うことも多いのですが、これはもちろん、便宜上の扱い。水の波は縦波でも横波でもありません。数学的には縦波の振動と横波の振動を、振動のタイミングを4分の1周期ずらして合成した波になります。
プリントだけでは伝わりませんが、波動の講座にウェーブマシンは欠かせませんから、できるかぎり物理講義室のように実験のセッティングができる場所で講義するのが望ましい。
どうしても教室しか使えないときは、手作りウェーブマシンに頼ることになります。
こんな装置です。
これは岐阜の石川さんからいただいたもの。つくりがしっかりしています。
ここまできちんとしたものでなくても、わりばしとセロテープで作れます。次のイラストをみてください。(『いきいき物理わくわく実験1』より*1)
(*1)『いきいき物理わくわく実験1』日本評論社/愛知・岐阜物理サークルは、Amazonでも手に入ります。リンク先をご覧ください。
では、実験しがてら、波の性質を調べていきましょう。
1.は、波の基本的な性質をまとめたものです。(問)は、実際に実験をしてみないとわからないという人が多いですね。水面に浮かべたゴミが波とともに動いていかないのを見たことがある人にはカンタンな問題です。
水面で実験するのはたいへんなので、ぼくはいつもウェーブマシンに小さな紙片を置き、波を作って進行させたときに、紙片がウェーブマシンの波とともに移動しないことをしめしています。
波が移動するように見えるのは目の錯覚で、実際に振動する物体(媒質)は、波の移動とは別に、その場で揺れているだけです。そもそも、波と一緒に媒質が移動するとしたら、海の水は波と共に海岸にどんどんおしやられ、海岸近くの町は洪水になってしまいます。
アニメ「トムとジェリー」で、じゅうたんの上を走って逃げるねずみのジュリーを、トムさんがじゅうたんを波打たせるギャグシーンがあります。アニメではトムさんのつくった波にジェリーがのっかったまま移動していくのですが、この画面を見るとだれもが笑うのは、じつは波と共に物体が移動しないことを知っているからなんですね。常識で起こらないことだからこそ、ギャグとして笑っているわけです。
ちなみに、サーフィンをする波や津波では水が動きますが、こちらはまた別の話。
1.のまとめで、「波の進行方向に波形とエネルギーが進む」と書いてあります。
高校物理ではエネルギーの進行については、ほとんど触れられません。が、じっさいに波の現象を理解するときは重要なので、ここでまとめてあります。
2.は言葉の定義なので、書いてある通り。
3.は、縦波、横波の違いを、物質の構造との関係でとらえています。縦波のしくみで「体積変化をもどす力によって伝わる」とありますが、もっと単純に「原子分子の衝突によって伝わる」と書いた方がわかりやすいので、いつも口頭で補足しています。
具体的な波の例で、本来は横波の代表例といえる光波が「例外」としてあります。それは、光波だけが、物体ではなく、空間を媒質として伝わる波だからです。
これをきちんと理解するのには、のちに電磁気の分野で場の理論を学ばなければなりません。ここでは、「例外」であることを示しておくだけで、じゅうぶんでしょう。
そもそも、光は研究の初期段階では縦波だと考えられていたのです。
それは、光が空気中も伝わるからです。
横波は固体中しか伝わりませんから、空気中や水中、つまり気体中や液体中も伝わる光は縦波に違いない、と考えられたのです。
結局、横波であることがわかってくるのですが、ここでは深入りしないようにしています。
4.は、最初に書いたとおり、水の表面波が縦波でも横波でもないことをきちんとおさえておきました。ただし、高校で問題を解くときには、ほとんどの問題集で水波を「横波」として扱っていますので、その注意も必要でしょうね。
5.は、疎密波である縦波を、横波のように図示する方法です。
横波も縦波も、振動がじょじょに伝わっていく現象ということは同じで、違いは振動方向だけですから、方向についてカンタンなルールを決めれば、横波と縦波の翻訳ができます。
ルールはじつに単純。進行方向に垂直に振動しているのを、進行方向に平行に振動しているように書くだけです。
縦波の媒質の振動はプリントの図の上では左右の振動、横波の振動は上下の振動ですので、「右→上/左→下」というルールがあれば、媒質の点を描き直すことができます。
こちらは、くどくど文章で書くより、描き込みの図を見ていただいた方が早いでしょう。
なお、縦波が疎密波であることは、やはり実物を見た方がわかりやすいですね。ぜひ、100円ショップのおもちゃ売り場などで手に入る、プラスチック製のスリンキーで、疎密波を作って確かめて下さい。
実験室などに金属製の縦波用スリンキー(おもちゃではないので、スリンキーという名称では呼びませんが)があれば、なめらかな教卓の上でスリンキーに縦波を作り、疎密が移動していく様子を見てもらうのがよいでしょう。
最初のプリントは、まだ波の入口で、それほど難しいところはありません。
ただ、波動現象を表す専門用語は、これからもどんどん増えていくので、ひとつひとつの言葉と、その物理的な意味を理解することが、重要になっていきます。
では、今回はこのへんで。
関連記事
〜ミオくんと科探隊 サイトマップ〜
このサイト「ミオくんとなんでも科学探究隊」のサイトマップ一覧です。
ぼくの物理の講座とプリントを公開しています。
*** お知らせ ***
日本評論社のウェブサイトで連載した『さりと12のひみつ』電子本(Kindle版)
Amazonへのリンクは下のバナーで。
『いきいき物理マンガで冒険〜ミオくんとなんでも科学探究隊・理論編』紙本と電子本
Amazonへのリンクは下のバナーで。紙本は日本評論社のウェブサイトでも購入できます。
『いきいき物理マンガで冒険〜ミオくんとなんでも科学探究隊・実験編』紙本と電子本
Amazonへのリンクは下のバナーで。紙本は日本評論社のウェブサイトでも購入できます。