物理ネコ教室106波の要素 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 ステイ・ホームで、感染者数増加にはどめがかかりつつあります。(地域によりますが、愛知県は一定の効果があがりはじめているようですね)

 

 愛知県はもともとクルマで移動する人が多く、そもそも大都会にしては人口密度が少ないので、ステイ・ホームの効果が現れやすいのかもしれません。それに、日本で初期にクラスター感染が報告された県でもあるので、県民の関心も高いのが幸いしているかも。

 

 さて、冒頭のイラストはイギリスの物理学者トマス・ヤング。物理ネコ教室の続きです。

 

 トマス・ヤングは、物理の教科書では「ヤングの干渉」で有名。この干渉実験により、光が粒子ではなく波動だと証明し、ニュートンの粒子説とホイヘンスの波動説の論争に終止符を打ちました。ヤングは物理学だけでなく、考古学にも手を染め、とくにロゼッタストーンの解読で、大きな業績を残しています。それについては、別の記事でも少し触れましたが、また機会があるとき、くわしく書きたいと思っています。

 

 さて、現代の常識から考えると、なぜニュートンが光を粒子だと判断したのか、不思議に思う人も多いのではないでしょうか。

 

 しかし、光は他の波にはない際だった特徴があり、当時の常識で波動だとはいえなかったという事情もあります。

 そのへんの事情は、また、光の内容に入ってから、ということで。

 

 今回は、波の基本的な要素の関係を押さえておきましょう。

 

 内容はかんたんですが、波動現象の基本になりますので、注意が必要です。日常生活の中で、波動現象をそれと認識して体験することが少ないので、誤解が生じやすいところなのです。とおりいっぺんに覚えるだけではダメなところなんですね。

 

 では、まずプリントをご覧ください。

1.は、波の要素と基本的な用語の解説です。

2.は、周期、波長、振動数、波の速さの間の関係式。かんたんな式なので、丸暗記してしまえそうですが、それは愚作です。これまで数式(いわゆる「公式」)を覚えることで物理を勉強してきた人は、波動に入ると破綻します。

 

 というのは、こういう簡単な関係式が、波動ではわんさか登場するので、式の意味を理解していない人はついていけなくなるんですね。

 

 波に入ったとたん、物理がわからなくなる、できなくなる、という人は、このタイプの人です。

 

 波動は、そういう意味では、もっとも物理的な考え方が必要とされる分野ですね。

 

 数式をいくら覚えてもダメだという例として、2.の練習問題を出しておきます。

 

(問題)次の図は、1(m/s)で右向きに進む波の時刻t=0(s)の様子を描いたものである。t=12(s)の波の図を描け。

 

 

 さて、できるでしょうか?

 ためしに、書いてみて下さい。(図のP点は、この問題ではとくに意味はありませんので、無視して下さい)

 これを間違いなく答えられれば、物理現象を理解しているといえるでしょう。

 

 では、プリントの後半に入ります。

 

3.は、波の振動の特徴として、振動の速度がどうなっているのかを押さえています。波の振動は単振動とよばれる複雑な運動です。(「単」という言葉がついていますが、振動は「単純な運動」ではありません。等加速度運動では加速度が一定でしたが、振動では加速度もまた、刻一刻変化します)

 

 単振動を数学的に扱うことはできますが、それは波動現象全体を把握するのには必要ではありません。教科書では単振動を学んでから波動理論に入る構成になっているものが多いのですが、数学の苦手な人にとっては、無駄な混乱が増えるだけです。

 

 単振動を数学的に扱うのは、波動分野をひととおり学んでからで、じゅうぶんです。

 

 日本の学生は平均的にいえば、いまだに世界トップクラスの数学(計算)能力をもっています。とはいえ、その能力は、年々、下がる一方です。

 

 数式を必要以上にたくさん扱うことで、物理自体を難しく考え、「物理は難しい」「物理はつまらない」と感じるようになる学生がいっぱいいることを、物理を教える側は、よく理解しておかなければならないのです。

 

4.は、さきほど出した(問題)と同じで、数式だけに頼っている人には、ただしく解くことができない問題です。まず、やってみてください。はじめてやってみて、正解できる人はめったにいません。

 

5.は、このプリントに乗っている問題の中では、もっともたやすい問題です。それは、数式が使える問題だからですね。なんどもいっているように、波動分野の数式はカンタンですから、あっという間に解けます。練習しなくてもいいくらいですね。数式に頼ってきた人が、ひといきつける問題です。

 

 ・・・

 

 ・・・

 

 ・・・

 

 ここから先は、最初にだした(問題)と、4の問題を自分で答えてから、見てくださいね。

 

 前半の描き込みから。

 

 

1.の囲み「媒質が1回ゆれる間に波が(1個)分すすむ」は、波動現象の一番の基礎になることですので、よく理解しておきましょう。「こんなこと、当たり前だ」と安易に考えると、のち、ドップラー効果を学ぶときに、理解できなくなりますよ。

 

 波長、振幅、周期、波の速さ、振動数は、波の基本要素です。それぞれの言葉の意味を誤解なく覚えてください。

 

 「物理は公式を覚えればいい」と考えているあなた!

 

 「物理は言葉」です!

 

 物理現象と、それをしめす言葉が、対応していないと、物理を本当に理解することができません。それがもっとも顕著に表れるのが、波動の分野なのです。

 

 といっても、言葉を丸暗記しろ、ということではありません。専門用語をおろそかにしないことと、専門用語を丸暗記することは、違います。

 

 プリントには書いてありませんが、振動数の単位(回/s)の(回)というのは、物理量ではありません。そこで、正式な単位は(回)をはぶいて(1/s)と書きます。これを研究者の名前ヘルツから(Hz)と書きます。

 

2.の3つの数式は、できれば、自分で作ってしまえるといいですね。自分でつくれるなら、それは「コウシキ」ではなく「ジョウシキ」になります。「ジョウシキ」ならいつでも自分の手で再現できますから、コウシキがうろ覚えで問題を間違ってしまう、なんてことはなくなります。

 

 3つの数式をどう導くかは、描きこんだプリントに書いてありますので、そちらをご覧ください。(2つめのfとTの関係は、問題文の中にくわしいヒントがありますから、そこから作れるでしょう)

 

 では、ここで、さきほどの問題の答を。

 

 

 この図から12秒後、つまり、波が12(m)進んだ図を描くのでしたね。

 

 あなたの答は・・・

 

 

 これだったのではないでしょうか?

 

 じつは、波動を学びはじめたころは、こう答える人が大半なのです。

 

 でも、波がこんなふうにすすむのを見たことのある人は、一人もいないはずです。

 波の先頭をみると、山だった波が、どういうわけか、谷になってしまっていますね?

 

 波は、そのままの形でスライドするようにすすむので、先頭の山は、いつまですすんでも山のままです。

 

 正答は・・・

 

 

 これです。

 

 この発想がない人は、波の進行にかかわる問題はことごとく間違えます。

 

 波がどうすすむかは、水の波など、目に見える波の進行を見た体験があれば、非常に単純で簡単なことです。でも、間違える人がとても多いということは、そういう観察力のない人がいっぱいいるということですね。

 

 じつはこの図、自分でアニメーションを作ったことのある人なら、だれでも間違いなく書けます。

 

 アニメーションは撮影機やパソコンがなくても、本の片隅に落書きして、パラパラマンガを描けば、つくることができますので、やってみてください。

 

 波の動くアニメは、同じ形の波を、少しずつ進行方向にずらして描いて、ぱらぱらとページをめくると、完成します。

 

 

3.は単振動とよばれる波の媒質の基本的な動きを、イメージよくとらえておこうというものです。単振動を数学的に理解しなくても、実際の振り子の振動やばねにつるした重りの振動を見れば、振動の中心を通るときに最大の速さになり、振動の両端で一瞬止まるのがわかります。

 初めてならう現象は、数学ではなく、実験によって体験するべきですね。その方がとっつきやすいし、記憶の定着もよいのです。

 

4.は、やはり波の動きが体験的に理解できていない人にはむつかしい問題です。でも、さきほどの(問題)が理解できれば、間違えにくくなるでしょう。

 

 もっとも間違いが多いのは、(ア)の(2)(3)と、(イ)の(4)(5)です。やはり、波の進行についての基本的な誤解がある人は解けません。

 

 媒質の振動の速度が最大になるのが中心を通るときというのがわかっていても、図の時刻にA点とE点の媒質がどちら向きに動いているかわからない人には解けません。

 

 そのためには、答の図に描きこんだように、波の少し前の図と、少し後の図を見て、AとEのある場所を描きこむ必要があります。(ア)の図では、A点は少し前には少し下にあり、少し後には少し上にあります。つまり、A点はこの間に、少し下→真ん中→少し上と移動したので、図の時刻のA点は上に向かって移動している最中であることがわかります。

 

 波動分野の「難しさ」がよくわかる例題ですね。

 

 (イ)の(5)(6)は「変位」という言葉を忘れてしまっている人が間違えます。「変位」は「位置のずれ」です。波の振動の場合は、振動の中心からのずれを意味します。

 

5.については、描き込みを見ていただければいいでしょう。ここでコメントするほどの内容はありません。

 

 この波の要素については、演習問題をたくさん解いて誤解を解くことが必要です。(すみませんが、この講座公開では、使用している演習問題プリントまでは公開していませんので、手もとにある問題集などの問題で演習してください)

 

 では、このへんで。

 

 

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