トマス・ヤングは、物理の世界では、光について「ヤングの干渉」と呼ばれる実験で、光が粒子か波かという、ニュートンとホイヘンスから始まった論争に、終止符を打った人として知られています。ヤングが光の波動説を証明したのは1801年のこと。19世紀に入ってすぐの出来事です。
干渉現象は波でしか起きない現象ですが、ヤングの実験結果が受け入れられるまで、少し時間がかかったそうです。なんといっても、偉大なニュートン先生が粒子だといっているのに、それを否定するような実験なんですから。
ヤングの実験によって、光が波であることは確定したのですが、ヤング自身は光を「縦波」だと思っていました。
今までの話でわかってきたように、横波が固体中しか伝わらないのに対し、縦波は液体や気体の中も伝わります。空気中や水中をすすむ光は、当然「縦波だろう」と考えるのが、妥当でした。
のち、光が横波であることが実験によって明らかにされたことで、今度は「光が太陽から地球に届くのだから、真空だと思われていた宇宙空間には固体の媒質があるはずだ」という騒ぎが勃発しました。
宇宙空間にある個体の媒質は「個体だけれど、地球などの星の運行を妨げないのだから、非常に希薄な個体だ」ということになります。矛盾した話ですね。
この特別な宇宙空間の個体媒質は、ギリシャ時代のアリストテレスが名づけた「天の物質エーテル」という名前で呼ばれました。
ナゾの物体「エーテル」捜しの実験は、19世紀末まで続けられ、最後に、マイケルソンとモーレーが非常に緻密な実験を行いましたが、それでもエーテルは検出できなかったのです。
エーテルの謎が解けるのは、20世紀、アインシュタインの登場を待たなくてはなりません。
それは、また別のお話し、ということにしておいてください。
さて、ヤングはシャンポリオンに先駆けて、ナポレオンのエジプト遠征で見つかったロゼッタストーンのヒエログリフ(神聖文字)の解読に挑んだ人でもあります。
世界史の教科書にはシャンポリオンしか登場しないんじゃないかと思います(ぼくが学生のときはそうでした。今もそうなのかどうかは知らないので、間違っていたらごめんなさい)。
ヤングとシャンポリオンの間で手紙などのやりとりもあったようですから、シャンポリオンがたった一人でヒエログリフを解読した、というのは、無理があるのではないでしょうか。
今回は、前振りが少し長かったですね。
では、光の波動説の決め手となった「干渉」とはいったい何なのか?
今回は干渉現象がテーマです。
今回は、通常とはちょっと異なるやり方の講座になりますので、その分、説明に時間がかかります。そこで、前後編にわけて説明しますね。
では、まずプリントの左ページから。
こちらは、右ページに比べれば、それほど変わった教え方にはなっていません。
干渉(interference)は、重ね合わせの原理の結果として表れる、波独特の現象です。
1.の写真(学生が自分の教科書と比べられるように、教科書の写真をわざわざ使ったのですが、その後何度も教科書が変わっているうち、どの教科書から取った写真かわからなくなってしまいました笑)では、ウェーブマシンで山と山とがぶつかる場所は振幅が2倍の大きな山の波になることと、山と谷とがぶつかる場所はずっとゆれないことを示しています。
実験室を使える条件があれば、ウェーブマシンで実際に実験して見せた方がよくわかります。
プリントに分解写真を載せておいたのは、実験室が使えない状況でも講座ができるようにするため。つまり、あくまでも補助的な意味合いです。
かならず実験ができるという保証があるのなら、プリントにこんな写真を載せる必要はありません。
2.の写真も、上と同じで、もはやどの教科書の写真か、覚えていません。あしからず。
二つの波源から同心円状にすすむ二つの波がありますが、うっすらと、ホウキのような形の模様が見えていますね。これは、水波投影機と呼ばれる水の波に光を当ててスクリーンに映したもので、実験室が使えるときは、実際に実験して見せた方がよいです。動いていればいいので、実験でなくても、実験を記録した動画でも構いません。
ものすごく昔にカナダの映画会社が作った水波投影実験のループフィルム映画があり、それにすぐれた実験映像が収められています。
でも、ループフィルムも、それを映写する特別な映写機も、今では手に入りません。
ループフィルムがまだ見られるときに、それをスクリーンに映写して、それをビデオカメラで録画するというチョーアナログな方法で、その写しを作りました。そのビデオをHDDにダビングして、見せています。
今でいうと、テレビ画面をスマホで撮って、SNSなどで発信するのに当たるのかなあ。
スクリーンには、そこらへんにあった白い布を使ったので、ときどき吹く風でゆらゆらとスクリーンがゆれます(笑)・・・が、それでも、内容が他の映像よりいいので、実験ができないときには、愛用しています。
2.の写真も、実験や動画を見られる条件があるのなら、1.の写真と同様、プリントに載せる必要のないものです。でも、教室でしか講義ができないこともありますから、やむを得ないですかねえ。
実験や動画の方が写真よりいいというのは、波がじっさいに動いている状態で見た方が、ホウキの形の模様のところで何が起こっているのか、よくわかるからです。
ホウキ模様のところは、水がほとんど動いていないんですね。
つまり、二つの波が来ているはずなのに、いっさいゆれない場所が、水面のあちらこちらに、ほうきのような模様状にできている、ということです。
これは、この場所で、二つの波が打ち消し合っているために起こる現象です。
また、これらの模様の場所の中間地点は、水面が大きくゆれています。前回の定常波のところで、腹に当たる場所と同じようなことが起きているんですね。ただし、定常波ができているわけではないので、「腹」と呼ぶわけではありません。
これらの、波が打ち消し合ったり、強め合ったりする現象が、「干渉」です。
この干渉模様は、一度は自分の手で確認しながら描いておかないと、理解ができなくなります。
プリントの右下の図は、2つの波源から出た波の山と谷の波面を描いたものです。(コンピューターではなく、ぼくが昔、手描きで描いたものです)
これに、写真のような干渉模様を描くのですが、どうやったらいいと思いますか?
最初はノーヒントで考えてみてください。
・・・
・・・
・・・
思いつきました?
思いつかなかった人は、1.でやった実験のルールを思いだしてください。
山と山とが出会う場所は強め合う、山と谷とが出会う場所は弱め合う。
これを応用しましょう。
ピンと来た人は、描いてみてください。
ピンと来ない人には・・・ヒント。
図で、山は実線、谷は点線で表してあるのですから、山と山とが出会う場所は、実線と実線が重なる場所ですね? 山と谷とが出会う場所は、実線と点線が出会う場所です。
その場所を赤ペン、青ペンで点を打っていってください。
あとは、それをうまくつなぐだけです・・・
が、よく間違う人がいますので、念のため、鉛筆で描いておいたらいいんじゃないかなあ・・・
では、描き込みを見てみましょう。
ありゃ、スキャンするとき、ちょっと傾いてしまったかな?
まあ、中身は変わらないので、このまま行きます。
1.の書きこみは実験を見たまま書くだけですから、カンタンですね。でも、この書きこんだことが、今後の「干渉現象」の基礎になりますので、しっかり確認してください。
2.は、さきほどのヒント通り、山(実線)と山(実線)とが重なっているところに赤い点を打ち、山(実線)と谷(点線)とが重なっているところに青い点を打ちましたか?
そのあと、点をつないで線にするのですが、これ、とんでもない線を引く人がいるので、注意して下さいね。
実験もしくは実験の動画を見ていれば、線を引き間違えることはなくなります。
「ホウキみたいな形の模様だったなあ・・・」という記憶だけで、間違えにくくなります。
波動の分野では、体験って、すごく大事ですね。
このホウキの形、数学の図形の知識があれば、双曲線であることがすぐにわかるのですが・・・
残念ながら、数学の進度と物理の進度は、ほとんどの学校でうまくシンクロしていません。
ベクトルも三角関数も、双曲線も、物理で習う方が数学で習うより前なんです。(とくに、科目選択の関係で、1年生で物理基礎を習う学校では、数学的な準備がほとんど出来ない状態で、物理の授業が始まってしまいます。たいへんですね)
双曲線については【2点からの距離の差が一定の点の軌跡は双曲線を描く】という数学のルールがあるのですが、当然、物理を習う学生は知りません。双曲線などを数学で扱うのは、現行の教程では、かなり後のことになるからです。
ですから、これは物理で天下り的に教えるしかありません。
「あとで習うけど、2点からの距離の差が一定の点の軌跡は双曲線を描く2点からの距離の差が一定の点の軌跡は双曲線を描くんだよね〜」
てな感じですかね。
もちろん、双曲線を習っていないので、だいたい双曲線っぽく描ければいいよということにします。
ぼくは、双曲線は2本の直線で×を描いて、それに向かい合う曲線を描いて見せます。遠くにいくほど、曲線が×の直線に近づくように描くといいよ〜などと教えています。
さて、ホウキの形を思い出せれば、干渉模様はうまく描けるといいましたが・・・
じつは、それでも、まちがえてしまう箇所があるんですね。
それは、2つの波源の両側にできる半直線です。
これを指摘すると、ほとんどの学生は「なんだそれ〜!」と文句をいいます。「双曲線になるっていったのに、違うじゃん!」
その通りです。
他の曲線は、どれも双曲線ですが、別格の干渉模様が、中央の直線と、両側の半直線と、あるのです。
でも、中央の直線は、二つの双曲線が近づいて、くっついたものです。
また、両側の半直線はそれぞれの双曲線がつぶれて一本になったものです。
だから、これらの直線、半直線は、【究極の双曲線】なんですね。
ところで、中央の直線を忘れる人はいませんが、両側の半直線を書き忘れる人はいっぱいいます。
それは当たり前。
そもそも、通常の実験で、この半直線の模様が現れるケースはマレだからです。
プリントの写真でも、実験でも、実験の動画でも、この半直線は見えません。
それもそのはず、この半直線が現れるのは、二つの波源の間の距離が、波長の整数倍か、波長の(整数+0.5)倍という、非常に特別なときだけなのです。
しかし、困ったことに・・・
受験問題を作る人の中には、めったにないこういうケースを「わざと出す」人がいるんですね。
用心しておきましょう。
過去のセンター試験(共通試験)でも、何度か出題されています。
では、今日はここまで。
次回は、オリジナル要素の強い、右ページです。いよいよ、干渉条件を見つけますよ。
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