鏡の左右の謎4〜「鏡の国のひみつ」さりと12のひみつ | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 鏡の左右の謎、第4回です。マンガも4ページめに入ります。

 

 光学的にいえば、鏡の像は実物の姿がそのまま面対称で写っているだけで、「左右の逆転」は起きていません。これまでの記事で書いてきた通りです。

 

 しかし、前回の3ページめの7コマめでさりが「鏡の中の世界があったら、鏡の中のわたしにとってはこっち(右手)が左手ですよね」といったように「鏡で左右が逆になる」との感覚は、鏡の見る人が鏡の中の世界にいたとしたらこうではないか・・・という発想により生まれるものです。

 

 簡単な絵で、実物と像の関係を確認しておきましょう。

 

 

 これが、実物とそれを鏡Mで写した像をまとめて描いたものです。

 

 実物側では、右方にx軸、前方にy軸をとっています。

 

 鏡の像は、x軸がx’軸に、y軸がy’軸に射影されます。

 

 多くの人は、鏡に写った像が実物と「左右」が入れかわったと感じます。上の図でいえばx’がマイナスxに変化した感覚(錯覚)です。

 

 が、矢印をみていただければわかるように、鏡に写した像は、y軸は反対向きになりますが、x軸は同じ向きのままです。この絵には描いていませんが、xにもyにも垂直なz軸も、同じ向きのまま写されます。

 

 鏡に垂直な方向の軸だけが入れかわるのが、面対称なのです。

 

 y軸だけが入れかわっているのに、x軸方向つまり左右まで入れかわっているように感じるのはなぜなのでしょう。

 

 図のように、実物の右手を赤く塗ってみます。像は当然、同じ側の手が赤くなります。

 

 赤い手(右手)は赤いまま(右手のまま)なのです。

 

 この像の赤い手を「右手」ではなく、「左手」だと認識するのが、「鏡では左右が逆になる」と感じる原因になっています。

 

 それは、人間が鏡のむこうに「鏡の中の世界」を想像しているからです。

 

 その鏡の中の世界に自分が行ったとしたら・・・と考えてみましょうか。

 

 自分はそのまま「鏡の世界」に入りこみますから、鏡の像と実物の前後(この図ではy軸)を合わせるように自分の姿を鏡の中へ(想像の中で)送り込みます。

 

 

 この図のように、自分の姿を、「鏡の世界」の像の前後(y軸)と重なるように比べてしまいます。こちら側の実物が、180度回転して鏡の世界に入りこんだような錯覚ですね。数学的にいうとこの面に垂直の軸に関して軸対称な移動になりますので、鏡の像が面対称であるのとは、本来、ぴったり重なりません。

 

 こうして、脳内で自分の姿を軸対称に鏡の世界に移動させると、x軸が逆向きになります。

 

 この人にとっては、x軸の方向が「右」側なので、鏡の像の赤い手は「左手」と感じるのです。

 

 本来、軸対称で移動した実物と、鏡に写る面対称な像は、同じものにはなりません。

 

 それを同じだと誤解してしまうのは、人間の体が比較的よい左右対称形をしているからでしょう。

 

 左右が非対称な形の生物(左右のハサミの大きさの違うカニなど)を鏡に写してみて下さい。実物と像は重ならないことが、はっきりします。

 

 鏡の向こうの世界の人は、こちら側の実物とは同じ形をしていないのです。

 

 人間の姿では前後の違いは明確ですが、左右の違いはあいまいですので、違いが明確な前後を基準にして、他の部分を考えてしまいます。

 

 鏡の像に実物の自分を「前後を合わせて」むりやり重ねてしまうため、左右が入れかわったように錯覚してしまうのですね。

 

 もし「自分の右手が赤い」ということが明確に意識できているならば、鏡の中で赤くなっている手を「左手」だとは認識しないでしょう。「赤い方の手は右手だ」と認識するはずです。

 

 ためしに、鏡の前で横を向いて、自分の姿を写して下さい。

 

 正面を見て鏡に写したときと同様に「面対称」で自分の姿が写っているのですが、鏡の像を見て、「前後が入れかわっている」とは感じませんね。

 

 

 鏡での写り方(x→x’、y→y’)は面対称で、先ほどのケースと、何も変わっていません。

 

 でも、人間の感じ方はずいぶん変化します。

 

 

 

 それは、自分の体を鏡の世界に送り込むとき、前後(顔のある側と背中のある側)を基準にして送り込むからです。

 

 上の図では、像と実物の前後(ここではx軸)を合わせることになります。

 

 そうすると、今度は、軸対称ではなく、平行移動になります。

 

 像の写り方は数学的な面対称で、いかなる場合にも同じルールなのです。ところが、鏡を覗く人の脳内に写る鏡の向こう側の世界は、あるときは軸対称、あるときは平行移動と、人体の前後が合うように場当たり的に判断される世界になります。

 

 こういうテキトーなあいまいさが、混乱のもとになっているといえるでしょう。

 

 前回も書きましたが、鏡の左右逆転の謎を、国語辞典的な言葉の定義で解釈しようとすると失敗します。人間がどのようにして鏡の向こうの世界を見ているかという点を押さえないと、混乱が起きるのです。(「チコちゃん」はまさにその典型でしたね)

 

 では、鏡に写した像の左右が入れかわっているというのは人間の勝手な誤解で、まったく意味がないことなのでしょうか。

 

 じつは、そうではありません。

 

 物理学には、鏡の向こう側の世界を想定する理論分野があります。

 

 本当は、ここからがオモシロイので、「チコちゃん」でも、せっかく物理の研究者に質問に行くのなら、そこまで踏み込んで欲しかったのですが・・・

 

 光学的解釈以外の物理的な説明は、いっさい出てこなかったですね・・・

 

 おっと、前置きがずいぶん長くなってしまいましたが、マンガの4ページめは、そういう世界への入口を描きました。

 

 SF的な想定ですが、本当に鏡の向こう側の世界があったら、その世界の物理法則はどうなっているのか・・・

 

 それを考えてみようではないか、というのが、4ページ以降の内容です。

 

 鏡の中の景色は、すべて面対称、つまり「裏返し」の世界になります。

 

 景色だけではなく、字も裏返し、そして、分子構造も裏返し・・・

 

 そこから先のおはなしは、5ページ以降で、どうぞ。

 

 

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